捕まってはいけない緑山
マスター名:姫野里美
シナリオ形態: イベント
危険
難易度: 普通
参加人数: 14人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/02/07 00:41



■オープニング本文

 天儀には様々な寺がある。
 寺と言っても、本島では主に精霊を奉っている。山沿いのこの寺には、中腹に赤い鳥居が設置され、結構な広さを誇っていた。
 だがそれゆえに、一度問題が起きれば、手が足りなくなるのは明白だ。山自体は大きいが、寺の規模はそれほど大きくない。常駐の坊主が3名。後は、季節に応じて、麓の村から、手伝いの村人が時々やってくる。その為、寺の重大事項を決める時には、村からもご意見を徴集する事が慣わしとなっていた。
「と言うわけで、昨今の情勢を見ると、寺の宝物である反物は、どこかに移した方が良いと思うのですよ」
「しかし、下手な護衛に預けて、そのままパクられるのもどうかと思うんだよなー」
 本堂にて寄り合っている村の衆と坊主達。その中心部には、山を中心にしたこの辺りの地図がある。黒く塗りつぶされているのは、瘴気に侵され、避難せざるを得なくなった地域だ。まだだいぶ余裕はあるものの、日を追うごとにこちらへ向かってきて居る模様。
「だいたい、持って逃げた方が早いんじゃないのか?」
「それはそうですが、何しろ逃げてる間にこっちがやられては、元も子もない」
 ごもっともなご意見が交わされる中、寺の代表である住職が、やや甲高い声でこう言った。
「んでは、仕事を依頼した開拓者が、信用に足る実力の持ち主か、試練をかけてみれば良いんじゃないのかのー」
 開拓者ギルドでは、それ相応の身分証明をしてはくれる。だが、世の中に葉それを逆手に取って、ギルドの開拓者を落としいれようと考えている者もいる。その区別を付けられない寺は、実際に試練を課す事により、信頼できるかどうか見てみようと言う事になったようだ。
「実際の反物は、渡すわけには行かないでしょうに」
「うむ。なので、同じ大きさの偽物を用意すれば良いんじゃないかと思う」
 目印になれば良いので、材質は何でもいい。幸い、寺の周囲には、その材料となるべきモノがたくさんあった。もちろん、試練環境としての材料も。
「では、その方向で」
「うむ。準備を始めねばなるまいな」
 話がまとまった所で、村人と坊主達は、それぞれの仕度に取り掛かる。用意されたのは、黒尽くめの服と、何やら色んな項目が書かれた襷。それと‥‥どういうわけか緑と白に色分けされたぶっとい竹刀‥‥のようなものだ。それらは、神楽の都にも送られ、風信器を通じ、ギルドへ依頼の申し込みが行われる。
【村の宝物を預ける為のテストを行いたいので、ご協力ください。大事なものなので、多少ぶっとんだルールで行わせていただきますが、開拓者の皆様は丈夫そうなので、これくらいは平気ですよね?】

 もはや依頼でも何でもなさそうな気配だ。しかし、それをじーっと見ていたのは、船長が他所で資金を稼いでいる間、お勉強を余儀なくされている雪姫だった。
「ねぇぷらぁと。これ、なんだか面白そうだにゃ?」
「もふ!?」
 元々、芸人一座にいたせいか、こう言うお祭仕様は大好きな様である。そこには、こう記されていた。

【捕まってはいけない緑山寺】

 細かい事を考える前に、寺の住職によって、ルールの説明が行われている。
「うむ。ここに9本の反物を模した木の棒がある!」
 手ごろな大きさの木を切り、皮を剥いて、棘が刺さらないように加工されたそれは、全部で9本。それぞれに『仁』『義』『礼』『智』『信』『忍』『孝』『悌』『忠』の文字が墨で書かれていた。
「これを各1本づつもって、寺の敷地中を逃げ回る。経典担当以外は、それを追いかけ、経典を確保する為、様々な「おしおき」を準備するのじゃ」
 ぷらぁとの目が点になった。
「むろんじゃが、怪我させるなんぞは厳禁である。もし、怪我をさせたら、問答無用で失格だ。どこかに隠れてもいいが、見つかると即失格になる」
 要するに、山を丸々使った大人のかくれんぼと鬼ごっこのようなものなのだろう。
「経典側は1本でも残ればOKだが。追いかけ側は、9本を奪取する事が勝利条件だ。だが、時間をかけすぎるのもよろしくないので、ある程度時間をかけると、こちらのほうで追っ手を追加する事になる」
 相手は村人ではあるが、山に慣れている。いわば庭先を逃げるようなものだ。
「ただ‥‥試練なので、勝っても規定の金子以外は‥‥ご馳走くらいは出来るかのう‥‥。うむ、そうじゃな。我が寺に伝わる秘密の修行を体験して貰う事にしよう。拙僧も実際に見るのは40年ぶりくらいだが、若い僧侶にはちょうど良かろうて」
 何故か、ちょっと不気味な笑みを浮かべる住職さん。

「これも修行のうち‥‥と開拓者さん達も考えてくれるとよろしいが。では、挑戦者、もとむ! じゃ」

 男性諸氏のケツに、なんかむずがゆいモノが走ったのは、気のせいじゃないかもしれない。


■参加者一覧
/ 柚乃(ia0638) / 天河 ふしぎ(ia1037) / 礼野 真夢紀(ia1144) / ペケ(ia5365) / 和奏(ia8807) / エルディン・バウアー(ib0066) / ラシュディア(ib0112) / 玄間 北斗(ib0342) / 岩宿 太郎(ib0852) / プレシア・ベルティーニ(ib3541) / 八十島・千景(ib5000) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / ライラ・コルセット(ib5401) / Kyrie(ib5916


■リプレイ本文

【捕まってはいけない緑山】
●準備中
 前の日、礼野 真夢紀(ia1144)ちゃんち。
「お仕置きお仕置き‥‥。えぇと、怪我させなきゃいいんですよね? えーと、夏に遊んだのが、確かこの辺に‥‥あ、あったあった」
 まゆちゃんががさごそと押し入れの夏物玩具セットから取り出したのは、竹製の水鉄砲だ。軒先の水桶に持って行って、壊れていないのを確かめると、持って行くものセットの中に入れる。
「あとは、手ぬぐいと毛布をたくさん用意して‥‥っと。結構たくさんの荷物になっちゃいましたね」
 積み上げられた布を見上げ、うーんと首をかしげるまゆちゃん。まずは手ぬぐいの束と水鉄砲を片手に、1日早く緑山村へ向う事にした。
「こんにちはぁ。明日のイベントに参加する者ですけど〜」
「ああ、こんちはだな。ずいぶん気が早いなー」
 入り口で農作業をしていた村人に声をかけるまゆちゃん。鍬をぶん回す体躯は、彼女に比べて倍ぐらいの見掛けだが、にこやかに返事をしてくれる。
「えへ。だってこれ使うんですもの。それで、山の中にある水場を教えてもらおうと思って」
「ああ、それならこっちだ」
 見た目はごついが、いい人らしく、村人は農作業の手を休め、自ら先に立って案内してくれた。軽く整えられた境内には、歩き易いよう砂が敷き詰められ、山のあちこちにある井戸まで、問題なく進む事が出来た。他に小川もあるらしく、水場には困らないようだ。
 と。
「あれ? 今のは‥‥」
 川の場所や、降りる時に気をつけなきゃいけない場所が、親切にもレクチャーされている中、玄間 北斗(ib0342)の姿が見えた。どうやら、山中を下見しているようだ。
「ふむ。この辺が良いかなぁ」
 木々の生い茂った辺りに居たと思ったら、すぐに見えなくなってしまう彼。そこでは、ペケ(ia5365)が寺の敷地をぐるりと巡っている。
「砂で舗装されてる部分は、見通しが良くなって居るようです。川のところには、策がありますが、私達にはすぐ越えられそうです」
 彼女もまた、開始前にお寺の敷地を見て回っているようだ。巫女のまゆちゃんには追いかける術はなかったが、水鉄砲をかける相手には事欠かないようである。
 こうして、それぞれ準備を整えた開拓者達は、当日、緑山寺の本堂に集まっていた。
「開拓者が信用に足るかどうかの試験、というわけですね。早駆けは得意ではありませんが、頑張るとしましょう」
 黒のロングコートに、ジルベリアの古風なメイク‥‥いわゆるゴシック系と言ういでたちで、そう挨拶するKyrie(ib5916)。何故か、やたらと荷物が多い。そんな黒っぽい闇に溶け込みそうな格好を、ガン見しているのは、リィムナ・ピサレット(ib5201)だ。
「なるほど、こんな衣装なんだ‥‥」
 どうやら、偽巻物を受け取っているターゲットを見て、その姿を頭のメモに記して居る様子。順番に、巻物担当の衣装を記憶していくリィムナ。中にはふしぎ達のように、チームで参加している者達もいるようで、結構な賑やかさ加減を見せていた。
「まるで鬼ごっこですよね。何かの儀式みたいですけど‥‥。それにしても、秘密の修行とはいったいなんなんでしょう?」
 楽しそうに首をかしげる和奏(ia8807)。実家では猫可愛がりされた為か、大人数で遊んだ経験がない。礼の巻物を預かった彼は、横の天河 ふしぎ(ia1037)に「後でみんなで体験してみようねっ」と声をかけられ、ええと頷いている。だが、巻物を渡していた住職曰く。
「ううむ。しかし、そう言う可愛い子は、あの修行は向かんかもしれないのう」
「そ、そうなのかっ?」
 いったいどんな『修行』なのだろう。なんだか不気味に思ってしまえる程、住職の笑みが怪しい。
「何しろ‥‥のう?」
「ああ、秘密の修行ってアレか‥‥。確かに坊主には無理かもなぁ。ケツの力かなり居るし‥‥」
 同じくお寺に詰めている坊様達も、修行の経験はあるらしく、そう言って顔を見合わせている。若干頬が染まっているのは、気のせいだろうか。
「い、いったい何が起きるんだろう‥‥」
「坊が実は相当な‥‥どえむ‥‥とやらなら、止めはせぬが・・・・」
 住職の口調を見ると、相当に厳しい修行のようだ。ちらりと視線を泳がせられて、ふしぎはぷいっと横を向く。
「い、いや別に、たまには追いかけられてみたかったから、そう言うわけじゃないんだからなっ」
「そうかそうか。では、早速はじめるとしようかの」
 住職の合図に、開拓者達はそれぞれの陣営にわかれ、山中へと散って行くのだった。

●逃げろやほいさっさ
 まず、巻物担当が山へと向かい、その数刻後に、追っ手となる開拓者他が、山へ向う算段になった。
「ようし、さっそく昨日下見していた所をいかすのだぁ」
 開始早々、 忍の巻物を担当するたれたぬ忍者の玄ちゃんが、早駆けで加速していく。山の中腹とは90度程逆の方向へと向ったたぬきが見たのは、周辺の状況だった。
「巫女のまゆちゃんは水辺、ゴシックメイドはあのあたり、天河伝説はこのへんっと」
 手にしているのは、ペケから渡された山の地図である。お手製と思われるそれに、次々とそれぞれの初期位置が記憶されていく。その地図を確かめたたれたぬ忍者さんは、くるりと回れ右をして、予定の場所へと向っていた。
 彼が決めた潜伏先は。追っ手の追いかけづらいであろう、細い木々の生い茂った足場の悪そうな崖だ。結構な傾斜のそこは、斜めに生えた木々が、その葉を降り積もらせており、今にも崩れて落ちてきそうだが、たぬきには全く気にならないようで、ひょいひょいと昇って行く。
「この辺りで良いかな」
 木の樹皮に似せた外套を纏い。顔は顔料で迷彩メイクを施したたぬきさん、少し太めの木によじ登り、息を潜めている事にする。張り巡らせた超越感覚の視界で、キリーがやはり全力疾走していた。
「このあたりか‥‥」
 黒のロングコートをばさりと脱ぎ捨て、人気のないのを確かめ、メイクを落とす。そして、代わりに泥で汚れた感じのメイクを施し、持って来た着流しを取り出していた。
「これで、よし‥‥と」
 そして鬘を被り、鼻歌混じりに川のほうへと向う。そこには、水鉄砲に補給をしているまゆちゃんの姿があった。
「あ、こんにちは。どちらさまですか?」
 ぺこりと、ご挨拶するまゆちゃん。明らかに巫女であろう彼女に、キリーは予め用意していた理由を口にする。
「と、通りすがりの流浪民です」
「そうですか。今ここはお祭みたいな事をやっていて、危ないですから、麓の村にいた方が良いですよ〜」
 鬘がずれていないか冷や冷やものだったが、いつもの通り、口素に笑みを浮かべると、まゆちゃんはにっこりと笑顔でお応えしてくれる。そして、すっかり信じ込んだのか、村の方を指し示していた。
「ああそうですか。ではこの辺で」
 鬘が落ちないよう、ゆっくりと礼をすると、心なしか優雅に見えた。その後、調子を外したクールな月の歌を口ずさみながら、キリーはその場を後にしていく。
「うーん。どこかでみた顔の気がするんだけど、誰だったかなぁ」
 まゆちゃん、どうやら最後まで気付かなかった模様。怪訝そうな顔をしながらも、水鉄砲に水を汲み入れ、別の場所を探す事にするのだった。
 そんな彼女に、追いかけられる役の巻物係。その1人であるライラの所から、ターゲットの様子は記される。
「やるからには、勝つぞぉー」
 えいえいおーと、気合いを入れながら、準備運動に余念がないライラ・コルセット(ib5401)。
「良くわかんないけど。逃げれば良いんでしょ?」
 足を釣ったり挫いたりは嫌なので、念入りに体をほぐしている。その彼女がもって居る巻物には「孝」と書いてあった。
「ねぇ、これってどういう意味だっけ?」
「確か‥‥親孝行って字だよね」
 ふしぎに解説されていると、住職がとてとてやってきて、巻物の説明をしてくれる。
「それはこうとゆーてな、人は考えて動けと言う意味じゃ」
「へー。まぁいいや。逃げる道とかは任せるわ」
 もっとも、ライラさん全く気にせず、ふしぎに逃走ルートを探すように告げている。考える巻物を預かっているとは思えないセリフだが、ライラさんは首を横に振った。
「あ、決して道が分からないわけではないわよ。捕まるのと、お仕置きが嫌なだけなんだからね」
「僕だって、簡単には捕まらないんだからなっ」
 2人とも、どう見ても、お仕置きを嫌がっているようにしか見えない。
「依頼は依頼。まるで鬼ごっこのようですが、全力を尽くしましょう」
「じゃあ勝負だ、千影。捕まったら、1つ言う事を聞くで良いんだよな」
 八十島・千景(ib5000)のセリフに、びしっと指先を突きつけるふしぎ。だが、千影はそんな彼の態度に、含みがあるようで、静かに答えていた。
「ええ。勝った方の言う事を聞くんですよ」
「絶対そんなことさせないんだからなーーっ」
 そのまま、走り去って行くふしぎ。千影の、くくく‥‥と言う邪悪そうな表情には全く気付かない。
「で、どこに潜むんだい?」
「うん、この辺で良いと思うよ。少しじっとして、この辺でやり過ごそう」
 ライラの問いに、ふしぎはそう言うと、カモフラ用の布を広げた。どう見ても、お外でご飯を食べる敷き布にしか見えない。それでもライラは「わかったわ」と頷いて。その後に従ってくれた。と、ふしぎはまるで野営の時のように、布を広げ、その後ろ側に、ライラと共に潜んでいた。
「それじゃあ八曜丸、ぷらぁとと一緒にここにいてね」
「わかったもふ。気をつけるもふ」
 その頃、仁の巻物をもった柚乃(ia0638)は、髪を後ろで緩めに束ね、動き易い男装で、山に分け入っていた。もふら面にもふら帽子、それにもふらぬいぐるみを携えた彼女は、危ないからと八曜丸には、ぷらぁとと共に村にいて貰う事にする。ぷらぁと一緒にいた雪姫が「もふ〜」と側に寄り添っていた。
「‥‥柚乃がいちばん最初に捕まりそう‥‥。もふら様修羅様、どうか柚乃にご加護を‥‥もふっ」
 緊張の為か、へっくちとくしゃみがもふらっぽくなってしまう。結構な音に、柚乃は慌てて周囲を見回していた。
「だ、誰も見ていないかな?」
 幸いな事に、周りにはまだ誰も居ない。鼓動を早める胸に、柚乃は手を当てて深呼吸。
「鬼ごっこで追われるなんて、何だかドキドキするね。ひょっとして、酒天もこんな感じだったのかな‥‥」
 程なくして、ドキドキは納まってた。最後にもう一度だけ深呼吸をすると、よしっと気を入れて、もふらぬいを抱え、山の中へと入って行く。
「あれ?」
 きょろきょろと逃げ、隠れようとすると、同じ様に挙動不審の白い塊がいた。
「も、もふら‥‥さま?」
「って、追っ手!? あ、違うもふ〜」
 振り返ったのは、もふらの着ぐるみを着たペケだった。お腹の袋に、信の巻物が覗いている。それをすっかりもふらさまと勘違いした柚乃は、もふらぬいを片手に、にこにこと笑顔で近付く。
「もふらさま〜。ここは今危ないんですよ〜」
「ペケは違うもふ〜」
 そう主張するが、柚乃はすっかり騙されているようだ。相手が巻物係なので、シノビの技を駆使して逃げ回るかどうかを考えあぐねていた時である。
「みぃぃぃつけた☆」
 見つかった。
「わぁ、見つかったもふ〜!」
「逃げるもふよっ」
 期せずして、語尾のハモる柚乃のペケ。だが、その様子にもふらさま目当ての千影さんは、付かず離れずついてくる。
「待ちなさぁい。うふふ、この子を捕まえれば、きっとふしぎちゃんは自分から出てきてくれるわっ」
「ええええ、もふ達は餌!?」
 早駆けを使ってまにょまにょもふもふ逃げようとした刹那、そう言われちゃったペケが、驚いて足元の草に足を引っ掛けて転んでしまう。
「しっかりして〜。諦めちゃダメだよ〜」
「はっ、そう言えば、足は早いんだったもふ〜」
 柚乃に応援され、 慌てて奔刃術で敏捷を上げ、捕まる前に避けるペケ。そのまま、柚乃と共に、逃走開始。
「ん? あんな所で鎧が走ってる! これは、ここから先は通さないんだからね〜」
 立ち塞がったのは、髪を結い上げて、いわゆるポニーテールにしたプレシア・ベルティーニ(ib3541)だ。巻物担当ではないはずなのだが、きゃっきゃと楽しそうに、札を取り出す。
「だって僕はポニテ少女役だもん〜。舞え、蛇神さん達〜」
「わぁぁっ」
 逃げる柚乃とペケの援護をするように、蛇神の式が召喚される。その蛇が追っ手の前に立ち塞がっていた。巻き巻きととぐろを巻いている式の向こうで、巻物を握り締めたまま、悩みはじめてしまうのは、仲間であるはずのふしぎだ。隠れ布の裏側で、頭を抱えている。
「くうう。世間は僕に戦えって言うのかっ。でも、怪我させちゃダメだしなぁ」
「フェイントかけて逃げれば良いんですよっ」
 悩める乙男へアドバイスしたのは、同じ属性な和奏だった。心眼を使い、人の少ない場所を選んでいた彼。薄いその辺りに注意をそらす様にフェイントをかけ、突破を狙う。
「それもそうかっ。ライラ、逃げようっ」
「あらほらさっさーってね☆」
 それに従うふしぎとライラ。カモフラ用の目隠し布と月隠の術でもって。何とかしてやり過ごそうとする。
「とにかく、どっかに隠れながら逃げないと〜」
「あっ。あんな所にアヤカシがっ」
 と、そこへライラが反対方向を指し示した。思わず振り返る追っ手達。
「えっ!? あ、あんな所に鬼がいる」
「ほら、あそこの山の上!」
 そこにいたのは、まがまがしい面を被り、木の皮で出来たような服に、草で出来たような腰みのをつけている。が、こっちに向う様子はない。
「って、アレ違うよ。岩宿さんじゃないか」
 ふしぎがよく見ると、それは修行にきた岩宿 太郎(ib0852)だったりする。
「知ってる。今のうちに逃げましょっ」
「え、え? わ、わかったよっ」
 が、ライラに腕を引っ張られ、逃走を再開せざるを得ないふしぎだった。

●もってけ大自然
 その頃、岩宿太郎は、自らの心身を鍛える為、山に篭っていた。
「山だ!修行だ!大自然だ! う〜む、俺の原始魂がガリガリ刺激されるな!」
 自然と一体となり、周囲の環境と同化し、己の気配を消す修行! 精霊剣とかそんな感じ! すなわち野生に還るっ! と、独自の理論を展開している彼がかき集めてきたのは、周囲の木々と見まごうような野生グッズだった。
「えーと、石斧に、皮と草の服っと。この際だ! ふんどしもそうしてしまおう!」
 なんか1人で盛り上がる太郎。そのおててには、木のお面が握られている。
「よし、あとはこれを仕上げればOKだな。ちぇすとぉぉ!」
 そのお面に、切れ込みを入れる彼。どうやら、野生面を作っていたようだが、スキルが圧倒的に足らない為、人の顔には見えない。
「何かケモノとかアヤカシっぽいけど、まぁいいや。さぁて、行くか!」
 それでも太郎さん、びしっとそれを被り、ドヤ顔を池に写していた。中々に野生っぽいように、彼の目には映っている。
「自然よ! 俺に原始の力を! 山の精霊とかその他もろもろよ、何かを! うっきー!」
 さんさんと降り注ぐ太陽に、本能を呼び覚まされつつ、天空に向かって吼える太郎。と、そこにいたのは。
「わぁん、アヤカシですうっ」
 思いっきり勘違いした柚乃だった。ライラが指し示した太郎を、アヤカシと見間違えたらしい。
「ちょ、ちょっとまて。俺は原始に魂を返した奴でなぁ。おうわぁぁっ!?」
「皆さん、早く避難を!」
 しかも、リィムナが放ったホーリーアローが、力いっぱい命中している。追っ手となって参加していた村人を、何とか誘導しようとしているのを見て、太郎が抗議の声を上げた。
「って、ちょっと待てーー!」
「エルディンさぁん! あっちにアヤカシが!」
「祭事にアヤカシとは、粋じゃありませんね。ホーリーアロー!」
 しかも、友人であるはずのエルディン・バウアー(ib0066)まで、姿を見てアヤカシと勘違いしている。
「って、おわぁぁぁ。エルディンさんウッキー…!? ちょ、痺れる!あれ、何か普通に痛くね!?気のせい!?」
 普通、ホーリーアローはアヤカシにしか効かないと、ギルドでは教えられているのだが、何故か痛がる太郎さん。見れば、ケツに見慣れた緑色と白の物体が刺さっている。
「って、あんまり効いてない? きゃあああ。助けてください、ラシュディア殿ー!」
 元気に不思議な踊りを踊っているアヤカシもどきに、パニックを起こしたのか、エルディンさんはくるりと回れ右して、一緒に逃げて要るはずの友人の名前を連呼していた‥‥アムルリープと共に。
「って、アムルリープがだだ漏れしてますって! こっちきちゃダメですよ! あうあうー!」
「こーなーいーでー!」
 手当たり次第にアムルリープを発動しまくった結果、その辺に爆睡する村人の山が出来た。それでも、人数は多いようで、比較的屈強な感じの村人が、残ったラシュディア(ib0112)を捕まえようとしている。
「くっ。あの村人達に捕まったら、どんな目に会うかわからない‥‥。エルには悪いですけど、ここは対狩人の心意気で逃げさせて貰いますっ」
 ばたばたと倒れる中、呼ばれた当のラシュディアはと言うと、友人を見捨ててくるりと回れ右。
「裏切り者ぉ!」
「尊い犠牲ですっ。シノビの意地にかけて、捕まるわけには行かないんです!」
 そう言うと、木の上へと上るラシュ。そこから違う木へ移り、自分の足跡を正確に踏んで戻り、逆の方向へと逃げてゆく。
「だから俺は野生のシノビで、アヤカシじゃないんだってば!」
「喋った!? まさか、上級!?」
「ちがぁうう! 俺は人間だー!」
 ちょうど、岩宿が良い囮になった。何とか自分を人間と認めてもらおうとする彼だったが、お面をかぶったままだと、逆に上級アヤカシに勘違いされてしまったようだ。
「く、あれを避ければ良いのだな。よし見える! 俺にも追っ手の動きが見えるぞ‥‥!」
 そりゃあシノビなので、見えなきゃ困るとゆーもんである。
「これは、このまま潜んでいた方が良さそうだねぇ」
 たれたぬ忍者さん、超越聴覚でその様子を聞いていたが、樹木の上に潜んで、そのまま外套をまとう。顔まで隠すと、全く気付かれていない。追っ手は彼らが引きつけているようなので、このまま潜んでいれば大丈夫だろう。
「やれやれ。何だったんだろう今のは‥‥」
「ところがぎっちょんだよ!」
 が、駆け回ったそこに、魔法がぶっ飛んできた。その光からすると、ホーリーアローのようだ。顔を上げてみれば、それを放ったリィムナが仁王立ち。
「って、何故そこに!?」
「ふふーん。待ち伏せしてたんだ。えい」
 中々倒れない玄ちゃんに、アムルリープが放たれる。直撃を受けた彼、それこそ寝こけるたぬきのようにたれたぬ状態へまっしぐらだ。
「ふしぎちゃん、ここは任せて! 今のうちに!」
 それを見たライラが、何とかふしぎを逃がそうとしてくれる。だが、ふしぎは布の裏側へと引き込み、生贄にはさせない。
「そんな事出来ないよ! ライラこそ逃げて!」
「蛇さんやっちゃえ」
 もたもたしている間に、ポニテのプレシアが、蛇神の式を使う。うねうねとまとわりつく蛇。
「やっと追いつきました〜。撃つべし撃つべし撃つべしです〜」
 そこへ、ようやく皆の前に来たまゆちゃんが、水をたっぷりと含ませた竹の水鉄砲を、思いっきり噴出していた。元々、それほど狙いを付けられる能力はない。代わりに、そこいら中にお水をばら撒いていた。水場で組み立ての冷たい水が、その場に居た全員に降り注ぐ。
「み、水で抵抗力が‥‥ぐう」
 寒くなって、抵抗力が落ちたのか、次々とアムルリープに引っかかる参加者達。それは、さっきまで逃げ回っていたラシュディアも同じだ。
「や、やっとみつけ‥‥」
 一緒に逃げていたはずのエルディンが、ようやく錬力が尽きたらしく、濡れた状態でへたりこんでいた。
「あ、あれ? ラシュディア殿、いったい?」
「えい」
 そこへ、アムルリープに引っかかったラシュディアがもたれかかってくる。
「寒い‥‥」
「は、はい? あの、抱きつかないで〜!!?」
 寝ぼけた友人に暖を求められ、どうしていいのかわからないエルディンさんは、ただただ言いなりになるしかないのだった。

●修行ってなんだっけ
 そんなカオスがあって数時間後。
「時間切れですね‥‥。私の負けです。確か、負けた相手の言う事を聞く‥‥でしたか」
 降参したように、千影が頭を垂れている。安心したのか、ふしぎは顔を上げて‥‥と言わんばかりに近寄ってきた。
「うん、まだ思いついてないけど‥‥」
 が、その瞬間。
「隙あり」
 にゅにゅっと千影のおててが伸びてきた。そして、その手がふしぎの体をぐらりと倒す。そこに土はなかった。
「うわぁ。た、謀ったな千影」
 ばしゃーーんっと盛大に水柱が上がり、そのまま川を流されるふしぎ。
「ふふ、それは褒め言葉。これも戦略ですよ。恨まないでくださいね」
 それを見下ろす千影の手には、『忠』の巻物がしっかり握られている。その間に奪い取ったらしい。
「いやぁ、やはり開拓者と言うのは、頼りになるもんなんじゃのう」
 その姿に、住職がのほほんと感想を漏らしている。足元には、ちょっとボロボロになった岩宿さんが、まゆちゃんの手当てを受けていた。
「だから、違うって言ったのにー‥‥」
「ごめんなさいですー」
 平謝りしながら手当てされた為、怪我は跡形も残ってはいない。
「ところで、その秘伝の修行と言うのは、勝った人の特典なのです? 体験出来るのなら、してみたいのですが‥‥」
 と、そこへ、結局最後まで巻き物を奪われなかった和奏がそう尋ねてきた。キリーも、非三つの修行とやらに興味があるようで、「私も是非それを受けさせてもらいましょう」と申し出ている。逆に、まだもふらのぬいぐるみを持ったままの柚乃は、後ずさりしながら、「えーと、そのー‥‥遠慮しておきますもふ」と、まだもふらさまが抜け切れていない。おかげで、八曜丸とぷらぁと、それに同じく着ぐるみ着用のペケと合わせて、もふら山の男装ガールを形成していた。
「まぁ、この修行は大の男でも厳しいからのう。嬢にはちと早いかもしれないな」
「ほにゅ? いったい、何をさせらるのでしょうね」
 和奏、怪訝そうに首をかしげている。だが、エルディンは全く気にせず、きらきらと必殺の神父様スマイルでこう言った。
「さぁ。でも、宗教は違えど、天儀に古く伝わる行事ならば学びましょう」
「それもそうですね」
 ひと欠片も疑いを抱かず、それに従う和奏。エルディンが「それで、何をすれば良いのでしょうか?」と尋ねると、住職はニヨニヨしながら、奥の間を指し示した。
「まずはカラダを清めてきてくだされ。その間に、僧衣を用意させますでな」
「何か、嫌な予感がする・・・・」
 リィムナが、その笑顔の裏に潜む悪意に、顔を引きつらせている。だが、そんな事には全く気付かず、一行はぞろぞろと奥の間へと向かって行った。そこで一度お風呂に入って、修行に参加するらしい。
 だが。
「あおぉぉぉーー!!?」
 境内にキリーの悲鳴が轟く。
「瘴気が迫って居るなんてシリアスな状況なのに、平和だなー‥‥」
 逃げ切ったラシュディアが、お茶を飲みながら、縁側でそう呟いていた‥‥。