もふらの道しるべ
マスター名:姫野里美
シナリオ形態: ショート
無料
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/07/12 13:19



■オープニング本文

 もふらさま。

 この天儀において、神の使いと言われる生き物である。

 いや、生き物と言うにはちと語弊があるかもしれない。何しろもふらさまは清浄なる場所に現れると言われているのだから。

 特徴は気まぐれで怠け者。白くてふわふわもふもふ。そして力持ち。好き嫌い無し。何でも食べる。だから、村や地域によっては、牛さんや馬さんよりも、よく飼われている。

 そんなわけで、その白くてふわふわした塊は、村に大切にされていた。他のもふらさま同様、気が向いたときにしか働いてくれないが、村人が心を込めて世話をすれば、その分は恩返しをしてくれる。荷車引きや農作業も然り、だ。

 そんなある日の事だった。事件は、とある村で起きた。海に面したその村は、沖合いの天空を、飛空船が通り過ぎていく。普段、見慣れているはずの光景だったが、その日だけは違っていた。
「もふ、もふもふ」
 一定方向へ向かう船を見るたびに、もふらさまが慌てふためいた声をあげる。世話をしている少年が、怪訝に思いながらも、その腹をなでていた。
「どうした? もふたろ」
「もふもふ、ももふもふっ!」
 一生懸命、繋いでいた縄を引っ張り、少年を船と反対側へ連れ出そうとしている。どうやら、何かを伝えたいと思っているようだ。
「うーん、保護して日が浅いから、落ち着いていないのかなぁ」
「もふもふっ」
 早くしろ! といわんばかりのもふたろくん。ぐいっと相当な力で引っ張られ、少年は思わずつんのめってしまう。
「あ、ちょっと待ってってば! 逃げないでー」
「も、もふっ? も、もふもふぅ‥‥」
 すっ転んだのに気付き、すぐさま止まるもふらさま。申し訳なさそうに膝を舐めてくれるもふたろを、よしよしと撫でながら、少年はこう呟いていた。
「困ったなぁ。この先は、瘴気が噴出してる森があるから、入っちゃ駄目だって言われてるし‥‥」
 もふらさまがつれていこうとした場所。それは、禁断の森と呼ばれ、注連縄が張ってあり、近所の村からは、長老や村長の名において、出入りが禁じられている。最近では、瘴気が確認された事もあって、いつ襲われても文句言えない場所と認識されていた。
「もふもふっ」
 それでも、もふらさまは、なんとか森に行こうとする。さすがに、少年をひきずってまで‥‥と言う気はなさそうなので、「だからぁ、いっちゃだめだってばぁ」となだめられては止まる‥‥と言った所だ。
 困った少年は、父親に相談した。そして、寄り合いを経て決定されたのは、神楽の都にいる開拓者達に、調べてきて貰う事だった。
「というわけなんだ。もふらさま、何か伝えたい事があるみたいで‥‥。一緒に行って、調べてくれないかなぁ」
 村に1つしかない風神機を使い、ギルドの受付の人に、事の次第を説明する少年。ふむふむと、一通りの話を聞き終えた受付の人は、「何か、他に伝説とか気付いた事とかはありませんか?」と聞いてきた。うーんと思い出して見た少年。あ、と口を開ける。
「数日前から、変な声が聞こえてくる気はする。あと、じいちゃんが俺くらいン時に、生贄騒動があったとか、父ちゃんの代に、行方不明になった奴とかの話は聞いた。俺が聞かされてるのは、危ないから近づいちゃ駄目だって事くらいだ」
「もふもふもふ」
 と、側にいたもふらさまも『お願いします』と言いたげに、そう鳴いている。
「でも、もふたろがこんな様子なんで‥‥。頼むよ、開拓者さん!」
 そんなわけで、ギルドにこんな張り紙が出された。

『もふたろと一緒に、森の奥の正体不明を探ってきてください』

 なお、もふたろは人の言うことを聞くように、言い含められているらしい。


■参加者一覧
柄土 仁一郎(ia0058
21歳・男・志
華御院 鬨(ia0351
22歳・男・志
柄土 神威(ia0633
24歳・女・泰
秋霜夜(ia0979
14歳・女・泰
煉夜(ia1130
10歳・男・巫
八十神 蔵人(ia1422
24歳・男・サ
本堂 翠(ia1638
17歳・女・巫
水津(ia2177
17歳・女・ジ


■リプレイ本文

「都人のうちには、あまりそぐわない場所どすなぁ‥‥」
 神楽の都で手に入れたらしい色とりどりの着物を身に着けた華御院 鬨(ia0351)が、周囲を見回してそう呟く。本心かどうか定かではないが、周囲ののどかな風景とは、対照的だった。
「朝早いけどな」
 本堂 翠(ia1638)が、周囲を見回してそう言った。夜が明けて、まだ1時間立つか立たないかと言う頃合である。人によっては、まだ眠りの中らしく、雨戸すら開いていない。
「もふたろさんが案内したがる時間を確かめられれば良いのですが‥‥」
「ふぅむ。では、人を集めんといけませんなぁ」
 人通りのまばらな中で、話を聞くのは骨が折れる。困った表情を見せる巫 神威(ia0633)に、華御院は、そう言うことなら‥‥と、ぱんぱんっと手を叩き、漆黒の髪紐で結いなおす。扇子も面も持ってきてはいないが、その身につけた神楽の衣装で、人目を引く事は出来るだろう。役者らしく舞っていると、都から来た舞師が踊っていると言うのを聞きつけてか、何人か早起きの面々が集まっていた。
「‥‥と言うわけで、森に関する伝承やなんかがあれば、聞かせて欲しいんだけど」
 一通り踊り終えた華御院が、そう尋ねている。だが、村の人は困ったような顔をして、首を横に振った。それによると、森のアヤカシは、いわゆる『悪い事をすると、森からアヤカシが出てくるぞー』と言った類の、子供の脅し文句代わりになっていたそうである。それをまともに信じる子供時代かどうかはわからなかったが、村の掟で決まった事なので、特に用がない限りは、近づかなかったそうだ。
「それにしても、生贄とか、えらい物騒やなぁ」
 八十神 蔵人(ia1422)のセリフに、首をかしげる村人さん。時折、村へやってくる商人の話では、遠い国の土産話として、若い娘を竜の生贄に捧げるーなんて話が混ざっているらしい。
「そうなん? まぁ爺さん達も穿り返されたくない過去やろうし、さ」
 そんな村人に酒を注ぎながら、詳しい話を聞こうとする蔵人。結構な数がいるので、半分は翠が受け持っている。
「これでも飲んで、仲良くやろや。記録にはのこさへんし。あ、ねーちゃん! つまみはこのやまじの醤油で焼いてくれや〜♪」
 村に1件しかない食堂兼飲み屋‥‥と言った風情の女主人が、山菜を軽く湯がいてくれる。それに、小原久吉商店の老舗の味、やまじ湯浅醤油をかければ、立派な酒の肴。
 その結果、生贄がどうのと言うのは、かなり昔に、実際に起こった事らしい。現場を見ていないので、何ともいえないのだが、この辺りでは珍しい馬に引かれた車に乗せられ、様々に飾り付けられた後姿を覚えているそうだ。
「そんな事が‥‥」
 一方、翠もまた、森に関わる昔話を尋ねていた。それによると、行方不明がどうのと言うのは、生贄事件からずっと後に起こったらしい。一応、村人は禁忌の森である事を伝え、引きとめはしたそうだが。
「子供の頃に、イタズラでこっそり入り込んだりとか、そんな人はいないの?」
 怖い者見た差と言う奴で、入り口まで行って来た子供はいるらしい。だが、ちょっとした物音で引き返してしまい、奥の方まで進んだ事はないそうだ。水津(ia2177)も、読んできた文献と、村人の話を照らし合わせている。それによると、アヤカシの中には、生贄をもらって姿を消すと言った現象も起こりうるらしい。餌を貰って満足したからどこかに行った‥‥と言う具合に。
「もふたろの泣き出した時期と、森から変な声が聞こえて来た時期、一致してますね。森の瘴気がみえはじめたのも、同じ時期なでしょうか?」
 その間、煉夜(ia1130)は、もふたろの行動と森の異変の関連性を、村人達に聞いていた。それによると、森の瘴気が見え始めたのは、それよりも後だ。もふらさまが気にしているだけなら、依頼にはならなかったのだが、瘴気が立ち上ったので、これは何かあると、依頼をしてきたそうだ。
「その鳴き声って、ひょっとして人だったりしますか?」
 それとも、もふらさまの鳴き声だろうか。続けて聞いてくる煉夜。なんでも、うなるような、悲しんでいるような。そんな負の感情を思い起こさせるような低い音が、時たま聞こえ始めるようだ。
「‥‥と言う事です、華御院様」
「ふむ。確かに瘴気がなければ、ただ怖がっているもふらどすなぁ‥‥」
 それを華御院に伝えると、彼もそう言って納得していた。その手元には、神楽の都であらかじめ移してきた、各国の定期船の絵と、この辺りを回って荷を卸している万商店の船を記してある。それらは、決められた航路を通り、それぞれの目的地に向かうのだが。
「なるほど。この航路図によると、こちらに向かう船は、あまりないようどすなぁ‥‥」
 全ての村によるわけではない商船。華御院が地図を参考に確かめたところ、この村は、沖合いの空を船が通るものの、直接寄ったりはしないそうだ。
「森の入り口に、行っておいたほうがいいんじゃないかなぁ」
 翠がそう言い出した。船は、森からも時々見える。そう思った彼女は、もふたろの様子を見に行っているいる面々を迎えに行った。
「ふむふむ。では、森の出口で、迷子になっていたんですね」
 その時、秋霜夜(ia0979)はもふたろの世話係の少年に、保護した時の状況を確かめていた。それによると、もふたろは、森の入り口にある祠で、うろうろしているのを見つけたらしい。村長に確かめると、もふらさまは人や獣のように、子を産むわけではない。そこで、危ないので連れ帰って世話をする事になったらしい。
「その時、飛空船は飛んでいませんでしたか? 怪我とか、他のもふら様と何か違っていたとか」
 彼女は、続けてそう訪ねた。結びつく手がかりになれば‥‥と思ったようだ。
 それによると、船は飛んでいたそうだ。それと、保護されたばかりの時は、右足に血がにじんでいたそうである。かすり傷程度だったので、3日もすれば治ってしまったのだが、その時はもふらさまになんて真似を‥‥と思ったとのこと。
「どこからか逃げてきたと言った風情だな‥‥。この中に、見た覚えのある船はあるか?」
 柄土 仁一郎(ia0058)が、その話を聞いて、船の絵を取り出す。種類はさほど多くない。それを、航路と時間帯に合わせて種類わけし、もふたろに見せてみる。だが、もふたろはそのいずれにも反応しない。この界隈では、他に個人所有の船も多いので、おそらくそう言った類のものだろう。
「この近辺での事故はなかったようですけど、航路についていない船は多いそうですよ」
 神威によると、この辺りは、正規の航路についていない船が行き来し、時折トラブルになっているそうだ。そんな話を村人から聞きだした仁一郎に、神威が大きな紙を差し出した。
「森の大まかな地図は、これしかないですわね」
 よく見れば、紙ではなく布である。元々、村に誰が住んでいるかを確かめるシロモノだったらしく、林立する家々の名前と場所は記されているが、森は端っこにそうとだけ書かれており、入り口しかわからなかった。それを見て、もふたろがやはりもふと鳴く。
「やはりこっちか‥‥。さて‥‥神威、どう思う?」
「一度、その森の反対側の岸壁へ向かう事が必要だと思いますわ」
 仁一郎が訪ねると、彼女はにっこりと笑顔でそう答えるのだった。

「もふたろさま、よろしくお願いします。強く引かないでね」
 霜夜がそう言いながら、漆黒の髪紐をもふたろの首にくくりつけている。もふたろ、少し気になるようで、前足を一生懸命首の辺りにのばしている。が、以外と短い足なせいか、結び目にはぜんぜん届かなかった。
「ほれ、もふたろには酒の代わりにこれをやるで〜」
 あんまり機嫌のよろしくなさそうなもふたろに、蔵人がそう言って、ふところからとれたてみったんジュースを取り出し、専用のお皿に注いでみる。もふたろ、尻尾をふりふりしながら、あっという間に飲み干し、じぃぃぃっと何かを訴えるように、蔵人を見つめている。やっぱりみったんジュースは美味しかったらしい。
「それじゃ、水津さんお願いしますね」
 もふたろの機嫌が直ったところで、霜夜がそう言った。と、水津が何やら地面に盛っている。
「は、はい‥‥。お清めの‥‥塩を撒きます‥‥。行方不明になった人と、生贄になった人の分も‥‥」
 つっかえつつ、丁小山が二つ。入り口の祠に積み上げられている。御霊を鎮めようと、祝詞が上げられていた。
「もふたろが一番反応したのは、この船どすぇ」
 その祝詞が終わると、華御院が、仁一郎が持ってきた船のリストから、一番反応の多かったものの写しを、皆にも配っている。個人所有でも手が出る価格の船だった。
「瘴気を吸い込むと、悪影響があるかもしれないですから。これを」
 その間に、霜夜が、皆に口を覆う布を配っている。さらしと包帯を重ねて作ったもので、何かの薬草がしみこませてあるのか、ほんのりと花の匂いがした。仁一郎も作って来たのだが、神威に渡したものだけ、綺麗な太陽色の小花柄だ。
「もふ?」
 好奇心を引かれたのか、もふたろがじぃぃっと覗き込んでくる。これなぁに? といった調子で、ふんふんと鼻を鳴らしているのを見て、霜夜はひときわ大きな覆いを取り出す。
「もちろん、もふたろさんの分もありますよ」
 そう言って、もふたろの口の部分に取り付ける彼女。花の匂いが気に入ったのか、嬉しそうだ。
「もふたろさん、慌てずに道案内よろしくお願いしますね?」
 そんなもふたろを、穏やかな口調で、神威がそう言いながら、首の辺りをなでている。が、もふたろは不思議そうに首をかしげているだけだ。
「もし何かあった場合は、皆で守りますから、慌てず騒がず落ち着いて行動して下さいね。煉夜とお約束です♪」
 そんなもふたろを、ぎゅっと抱きしめる煉夜。指きりげんまんの代わりに、ふかふかの毛をぽふぽふとなでてやると、もふたろは煉夜の顔をぺろんっと舐めた。どうやら、大丈夫なようだ。
 こうして、一向はもふたろと共に、森の中へと足を踏み入れていた。そのもふたろの引き紐を握る煉夜と霜夜を中心に、数人ずつ挟み込むような形になっている。
「神威、足元が滑りやすいようだ。気をつけて」
「ありがとう。大丈夫よ」
 前のほうを歩いていた仁一郎が、神威の手を引き、折り重なった倒木からそっと抱え降ろしている。そして、そのまま手を繋いで、並んで歩いている2人。
「さすがに、森の中やと、視界が悪いのぅ」
 長い間手入れされていない森は、遠くまで見通せない。もふたろの鼻のひくつき具合から察するに、その奥に何かあるようだが、少なくとも、金銀宝玉ではないだろう。その時、黙って最後尾についていた翠がこう言った。
「ちょっと待て、何かおかしいぞ。さっき、あの枝折れていなかった‥‥」
 そう指摘する翠。木々が風に揺れる音が、結構な重さを持った音に。土を踏みしめる音が、自分達だけではない物が混ざり、そして木漏れ日はますますその光を弱め、松明だけが変わりなく揺らぐ。もふたろの様子を見ると、何か怯えるように煉夜の後ろへ隠れてしまった。
「も‥‥もふたろ君‥‥どうしたんですか‥‥?」
 そのすぐ後ろにいた水津が、不安そうに尋ねると、もふたろは前足でたしたしと地面をかいている。勢い余って引っ張られてしまい、もふたろ、慌てて足を動かすのを止めた。そして、謝るように煉夜のほっぺをぺろりと舐める。どうやら、約束は守ってくれたようだ。
「この近くに、何かあるんやね。ちょっと見てみよか」
「うちも見てみよ」
 華御院と蔵人が、じっと目を凝らし、翠が指摘した辺りの光景を観察する。と、その奥で白い物が何か見えた。心眼の力を使うと、そこにいたのは、もふたろより一回り小さなもふらさま。しかも、その周囲には人がおり‥‥そして、その後にカラスのアヤカシがいた。
「ちょ、襲われてますよ!」
 もふたろを煉夜に預け、飛び出して行く霜夜。一方、相手は確かめている間に、こちらへと向かってくる。後ろのアヤカシごと。
「神威、みんな、来るようだ。軽く行こう」
 華御院が身構える中、仁一郎が周囲に伏兵がいないかを確かめる。と、こちらへやってくる一団の向こうに、船があることに気付く。
「やはり出ましたか。‥‥邪魔するなら容赦はしません」
 この状況で、こちらのもふたろに気付くとは思えないが、まるでタカラモノを守るように、もふら様の周囲へ集まる神威。
「大丈夫‥‥です。もふたろさんには‥‥。私がついて‥‥ますっ」
 それは、水津も同じだ。表立って戦う事には自信はないが、その手には弓。これなら、離れた場所からでも放つ事が出来る。そしてそれは、蔵人も同じだった。
「ここじゃ狭い。なんとか広い場所に出ませんと‥‥」
 一方、華御院が周囲を見回す。何しろ、障害物の多い森。慣れている相手のほうが格段に有利だ。
「もふたろさん、あの台がいいんじゃって言ってます」
 もふたろの前足が、船のある方へ指し示された。仁一郎が良く見ると、そこは崖になっており、ちょっとした広場のようになっていた。
「よし、そこまで移動しましょ。出来る?」
「や、やってみます」
 華御院がそう言うと、煉夜はむむむーっと何やら気合を入れながら、力の歪みを放つ。
「援護する」
 あらかじめ矢を番えていた翠が、その矢をアヤカシに向けた。が、狙いは外れてしまう。それでも、アヤカシ達はこちらに気付いたようだ。神威や霜夜も協力して、広場の方へと移動して行く。足元が、踏み固められた大地なのを確かめると、霜夜が大きく頷いた。
「よし、ここならやれる!」
「あまり手間取りたくもないな。さっさと片付けよう」
 神威の前に立ち、刀を抜く。幸い、そのカラス達は、あまり強い方ではなかった。相手からの攻撃を割け、仁一郎が受け止めたのを確信すると、返す刀‥‥いや、拳で力いっぱいぶん殴る。こうして、アヤカシ達を退ける事には成功したのだった。

 そして。
「やっと追い払ったか‥‥」
 胸をなでおろす翠。その見下ろした足元では、もふたろと、小さいもふらさまが、顔をすりよせあっている。そこには、木製の朽ちかけた碑があり、泉がわき出ていた。周囲が爽やかな空気で包まれている所を見ると、もふたろは、そこから逃げ出してきた子らしい。しかし、一緒にいた弟とも言える子が心配だったのだろう。船の御仁達は、もふたろが弟もふらさまと再会を果たしている間に、離陸してしまったが、係わり合いはありそうだ。
「こりゃあ、後でもう少し捜索が必要やなー」
 森も、結局生贄となった者のなきがらすら見つけられていない。やはり、何度か来る必要を感じる蔵人。
「もふたろ、幸せに暮らしてくださいね」
 そんな中、増えたもふらさまを、幸せそうに抱きしめ、もふもふとその感触を確かめながら、そう願う煉夜だった。