【武炎】紅青石の猛攻!
マスター名:姫野里美
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: やや難
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/08/31 05:12



■オープニング本文

●蟲の置き土産
 守将鍋島何某は、やれやれといった様子で床机に腰を下した。
「ふむ。まず第一波は撃退、といったところかな」
 部下が桶に水を汲んで現れ、差し出す。
「しかし、平野部での激突もはじまったとお聞きしました」
「うむ‥‥そちら次第だ、まだ警戒を緩めるなよ」
 柄杓で水を煽り、守将は口元を拭った。
「南郷砦が陥落したとの報もあった。アヤカシどもめ、本腰を入れて攻勢に出ているのかもしれん」
 やがて、彼は櫓に登って連なる山々を見回した。
 偵察も必要だが、何より――余裕のあるうちに、はぐれアヤカシだけでも始末しておくべきかもしれない。頭の中で頷き、彼は新たな指示を飛ばした。


 森の中、アヤカシが草木を揺らす。
 木々の付け根には、白く丸い物体が多勢並んでいたり、繭に覆われた物体が張り付いていたりする。じわりと空気が重くなった。周囲に暗き気配が漂いはじめる。
 やがて、その一角を食い破って現れた蟲は、がちがちと歯を噛み鳴らして鳴いた。
 アヤカシの卵――瘴気から生ずる筈のアヤカシの卵。面妖である。何故かは解らない。どのような妖術を用いたのかも。しかし眼前に突きつけられた事実は覆しようも無い。
 ひときわ大きなどす黒い卵が、どんと脈動した。

●卵を撒くもの
 花ノ山城。
 その麓では、既に物々しい警備が敷かれている。
 だが、戦場は同時に血を呼び、負の感情を呼び起こす。
 その感情を生きながら食らう事を至上とするアヤカシにとって、戦場とはいつ魔の森へと変貌してもおかしくない場所なのだ。
 その戦場を監視する山城の麓では、ひとつの不気味な団体が、誰はばかることなく進んでいた‥‥。
「ふふ。人間どもには感謝しなくてはねぇ。こんなすばらしい方策を差付けてくれたのだから」
 麓に続く森の中を、背中に砲台をくくり付けた巨鎧虫が、多数の化け甲虫を伴って、花ノ山城へと向かっていた。その先頭にいるのは、ルビーの角をつけた少年‥‥と言った趣の体を取り付けた巨鎧虫である。
「だが、これは目立つ。どうにかならなかったのか?」
「構わない。どのみち、この先は我らの領域。瘴気に満ちた森で、卵達はすぐに大きくなる。そうなれば、あんな砦など造作もないさ」
 もう1人、こちらはサファイアの角。ルビーが答えるその隣には、今にも孵化しそうな大きな卵が、いくつも装填されていた。
「そう上手く行くと良いがな」
 それが、森の奥まで連なっている。目的は、火を見るより明らかだった。

 その頃、花ノ山城では。
「なんだ?あれ」
 監視を続けている兵が、森の奥からぞろぞろと現れる巨鎧虫を見て、顔色を変える。
「やばい。巨鎧虫の団体さんだ!」
「な、なんだってー! しかも、背中に付いたアレは・・・・砲台?」
「ちょ、上に報告してくる!」
 その背中には、いずれも巨大な砲塔が備わっていた。武天のそれよりも数段大きいその照準は、明らかに城へ狙いを定めている。
「巨鎧虫の部隊が、麓まで来ているとか‥‥」
「はい。報告では、ルビーとサファイアの角を生やした男性体の巨鎧蟲を筆頭に、色の付いた宝玉の巨鎧虫と、化け甲虫が。それと、その周囲に卵が通常より多く見つかっています」
 シノビらしき御仁が、サムライらしき御仁に伝えている。ふむ、と考え込むサムライ。
「砦の伝令が報告してきた通りだな。よし、ギルドに連絡を。この辺りにいる卵を、強制的に孵化させようと言う魂胆だろうが、そうはいかないとな」
「御意」
 シノビが頭を垂れ、ギルドには『緊急』と銘打たれた、次のような依頼が張り出されるのだった。

『麓に砲台付巨鎧虫の群れが迫って居ます。卵を多数所持しているので、戦力の増強に来た事は間違いありません。至急、防衛措置をお願いします!』

 ようするに、全部ぶっ潰せば良い話である。


■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371
25歳・男・砂
カンタータ(ia0489
16歳・女・陰
鴇ノ宮 風葉(ia0799
18歳・女・魔
各務原 義視(ia4917
19歳・男・陰
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
瀧鷲 漸(ia8176
25歳・女・サ
雪切・透夜(ib0135
16歳・男・騎
ネプ・ヴィンダールヴ(ib4918
15歳・男・騎
エラト(ib5623
17歳・女・吟
セシリア=L=モルゲン(ib5665
24歳・女・ジ


■リプレイ本文

●武運を祈る歌
 眼下を埋め尽くす化け甲虫の群れ。
 と言うのは少し言いすぎだが、見張りの報告は十数回に及び、中の兵士達を嫌でも緊張させていた。
 だが、それは志体を持たぬ者達だけの話。志体を持つ開拓者達は、以前の報告書と、伝令の報告を参照に、砲台の特徴を把握しようとしていた。
「背中に砲台ったァ‥‥ホント何でもありだなこりゃ」
 呆れた表情の鷲尾天斗(ia0371)。今までも、様々なアヤカシを見てきたが、まさかかぶとむしの背中に大筒が設置されているなど、誰が考えたであろうか。
「卵、卵、たまご、ねぇ‥‥なーんか、引っかかるんだけど」
 鴇ノ宮 風葉(ia0799)が眉根を潜ませている。数えても仕方がないほどの卵が詰まっている。それが、彼女は引っかかるようだ。
「あの卵‥‥どう言うモノなのでしょう?」
 興味が尽きないのは、鈴木 透子(ia5664)も同じ事。しかし、彼女の場合、式を扱う者としての興味らしい。それに答えたのは、カンタータ(ia0489)だった。
「おそらく、マスケット銃の大きい奴だと思うけどね」
「なんだそれは」
 首をかしげる天斗。
「あの大砲、砲術師の皆さんが使っているのによく似ているんだよね。ここまで飛んでくるかどうかは分からないけど、アヤカシの大砲だから、よく飛ぶように作られているんだと思うよ」
「よくわかんねーが、強力だって事はわかった」
 志士の天斗には、あまり理解が出来なかったようだが、それでもその卵をこちらへの攻撃に使う気ではあるのだろう。と、カンタータは判断する。
「だとすれば、先に卵を潰せば、抵抗して隊列を乱すはずだよね」
 弾切れを起こすかどうかは分からないが、重要そうな者を潰すと言うのは、策のひとつだ。と、それに従い、透子が砦の皆にこう説明している。
「合図はわたしの腕を見て下さいね」
 1回は砲撃が来る。2回まわしたら連続。何度も回したらしばらく続く。それによって、身の守り方を変えるよう指示していると、その集まった人々へ、エラト(ib5623)がリュート『激情の炎』をかき鳴らし、天鵞絨の逢引を奏でていた。アヤカシへの抵抗を上げるその歌は、皆に武運を願うものだ。
「よし、これで何とか出来るかもね。ちょっと見晴らしの良い所に逝って来る」
「では、私は上から」
「蝉丸、お願いしますよ」
 風葉が砦の一番上に昇っていく中、透子が駿龍の蝉丸と共に空中へ舞い、そこから少し送れて、各務原はグライダーで向かう。そのすぐ下に、砦の見張り台で、管狐のつねきちを呼び出す風葉の姿があるのだった。

●卵と瘴気と発射砲
「いたいた。あれですね」
 そこから程なくして、巨大な昆虫達が姿を見せる。しかし、上空に現れた開拓者達を気にする様子はない。
「あくまでも無視ってかい。どうする?」
「無理やりでも、こちらに向けさせないと‥‥」
 このままでは、正面から砲弾を打ち込まれてしまう。卵とセットになれば、それは直接砦の中にアヤカシを放り込むに等しい。砦でも、警戒を増やすよう伝令が来ていた。
「攻撃は最大の防御‥‥ともいうからな。一気にせめて出鼻を挫くぞ」
 その報告を受けた瀧鷲 漸(ia8176)が、グリフォンのゲヘナへと飛び乗り、空中から砲台のある場所へとまっしぐらだ。
「数が多いのがやっかいですがね」
 雪切・透夜(ib0135)が甲龍の鶫で共に向かう。流石に懐に飛び込まれては、戦う意思を見せないわけではないようで、その瞬間砲台がお供なく発射される。
「来ました!」
 ぐるぐると透子が腕を回した。見れば、ルビーとサファイアを中心にした巨鎧蟲から次々と砲弾が発射される。黒い‥‥蟲型の。
「合図来たよっ! フーガ、ここは頼んだからね」
 カンタータが頭を撫でると、嬉しそうに鳴いて答える忍犬のフーガ。
「どっちに来るか分からないけど、防備を固める意味はある‥‥。どいて、みんなっ」
 ばっと天空にカンタータの符が舞った。それは黒い結果呪符へと代わり、どこどことモノリスが砦の壁となる。1間起きに並べられた黒い壁は、進路と射線を遮られるよう、縦横交互に並べられていた。そこへ、砲弾が突き刺さり、モノリスの1枚が消滅する。
「やっぱり僕の腕じゃやりなおしか‥‥」
 耐久性がそれほどあるわけではないので、その度に符を使う羽目になるが、まぁ仕方がない。
「始まったわね。いくよ、軍師!」
「ネプはどうするんですか?」
 戦いの幕が開いた事を受け、風葉は巨鎧蟲のいる方へと進む。砦の方を振り返らない彼女に、各務原 義視(ia4917)が問うて来た。が、それには本人が首を横に振る。
「僕はここで防衛に守りますよ。止めたって、聞く人じゃないでしょう?」
「確かに‥‥そうですよね」
 納得する各務原。当のネプ・ヴィンダールヴ(ib4918)は「何か言った?」と、怪訝そうな顔だ。
「何れにしろ、僕はここに残るよ。彼女の事は任せたよ、軍師殿」
 自分には、自分の役目があるとばかりに、アーマー『ロギ』を起動させる彼。それは、彼女の帰る場所を守る証。このまま出撃する事に問題はないが、留守の間に奇襲でもされたら、防衛部隊が壊滅にもなりかねない。城から離れすぎて、カバーに回れなくなるなんて事のないように。
「さぁて、つねきち。あんたの出番よ」
「なんじゃ。また昼寝の邪魔かいの」
 一方の風葉は、再びつねきちを召喚していた。ぶつぶつと文句を言う管狐に、彼女は砲塔をこちらに向けた巨鎧蟲を指し示す。
「あれに食われたら、昼寝もへったくれもないでしょ。うるさいのを聞いておいで」
「やれやれ、狐使いの荒い嬢じゃ。どれどれ」
 狐の早耳をそばだてるつねきち。見えている部分だけでなく、森の中にもいるらしい事がわかる。と、風葉はそんなつねきちに再び問うた。
「んなこたぁ分かってんのよ。どっからどれくらいいるかっての?」
「何しろあれがうるそうてなぁ」
 ぶんぶんと耳障りな音を立てるのは、バッタ型の化け甲虫だった。天儀でも集団で飛ぶ事もあるバッタは、盛大な羽音を立てて、様子を見に来た開拓者達を餌食にしようとする。
「くっ。来たわね。つねきち、雷撃を!」
 ばしゅっと盛大に稲光がとんだ。何匹かは残ったものの、その殆どが瘴気と化した。
 ‥‥卵の上で。
「うわっ。瘴気がっ。か、回収回収ッ」
 慌てて、瘴気回収を使う風葉。それでも、何匹かは孵化してしまった。予想以上に成長の速度は早く、弾丸まで手が回らない。卵に降り注ぐ瘴気は1つではないのだ。
「どうです? 様子は」
「当てたら速攻瘴気になるわね。その前に回収しちゃわないと、卵が孵化するはめになるわ」
 上空にいた各務原が、対応策を危機に来る。全体攻撃で一気に殲滅と言う手段は使えなさそうだ。と、それを聞いた各務原は周囲を見回し、その対応できそうな範囲を確かめる。
「でしょうねぇ。結構範囲が広いですし‥‥」
 見渡す限り、とはいわないが少なくとも自分の斬撃符が届かない範囲にも、砲弾はぶっ飛んでくる。
「あんなの、全部見て全部おとしゃいいのに‥‥」
 悔しそうに拳を握り締める風葉。考えていた作戦が通用しないので、苛立っているようだ。全てを視認しようと言うのも、無理な話ではある。
「卵に瘴気の雨を降らせる事になりますよ。いいんですか?」
「纏めて吹き飛ばせば良いでしょっ」
 それでも、彼女はそう言って深遠の知恵をめぐらせると、ブリザーストームを放った。アヤカシもアヤカシ弾も纏めて吹き飛ばすそれは、瘴気の雨となって降り注ぐ‥‥かと思いきや。
「焦りは禁物ですよ。風葉さん」
 その下の卵が、既に透子によって割られていた。確かに、生身の風葉よりは、駿龍の蝉丸が早いのは当然の理。それを利用して、先に周囲の卵を割ってくれたらしい。やはり全てはまかない切れなかったが、取りこぼして化け甲虫になってしまったものは各務原が。届いたものに関してはネプがしっかりと退治していた。
「まずは指示を出している巨鎧虫を攻撃して下さい!」
「心得ました。確かに、兵法にも首領を落とすのが得策とありますしね」
 敵の指揮系統を混乱させるのは、昔から兵法書に書いてある事。どれが出典なのかは覚えていないが、ともかくもボスだろう赤と青の巨鎧蟲に、上空から急降下して行く。ぐんっと加速するグライダー。
「回りのアヤカシ達は私が何とかします」
 相手のルビーが、迎撃をしようと、砲を向けた。うぞうぞと余り見た目の良いものではない虫たちが、弾幕代わりに飛び立つが、エラトはそこに眠りの歌を奏でて行く。後方からの支援はあまり期待していなかったものの、弾丸も化け甲虫も、その半数以上が眠りこけている。
「いた! 眠らないアレがボスでしょう」
 そこへ、各務原は血の契約を持って黄泉よりはい出る者を使う。あれほどの巨体だ。その程度で落ちるとは思えなかった為、打ち込んだ直後は急反転をかける。
 が、間に合わない。相手もただやられているわけではないのだ。卵は順次透子が壊してくれているが、それでも孵化してしまうものはある。
「すれ違い様に壊して行きますよっ。エラトさん、そっちはお願いします」
「かしこまりました。子供は眠るが仕事。さぁ、永遠に目覚めぬ子守唄をお聞きなさい」
 零した卵を、鶫に乗った透夜が、すれ違い様にハーフムーンを使う。幾つかの卵が同時に割れたが、そこへ大砲から砲撃が降って来た。
「んふっ」
 自慢のないす過ぎるバディを揺らしつつ、その弾へセシリア=L=モルゲン(ib5665)が蛇神を食らわす。どう見ても捕食しているようにしか見えないが、それでも抜けたモノは要るようで、彼女の豊かな胸めがけて着弾する。
「あぁら。そんなに私に食べられたいのぉ」
 そう言って、瘴気回収を使う彼女。回収された瘴気が、心なしかセシリアのお肌をぷるぷるにしたような気もしたが、ただの汗だろう。
「良い囮だ。さて、本命に向かうとするか」
 化け甲虫の半数以上は、エラトの歌で眠らされている。孵化までは阻止で着ないようだが。吹かしてしまった後は、その歌に引っかかっていた。以後はずっと上空で、歌を奏で続けている。それは時に、眠りの歌ではなく、開拓者達の心を豊かにする歌。間接的な攻撃は、詩人の得意とするところだ。
「腹の立つ動きで通じないなら、地道に壊して行くしかないですよね」
 卵をソニックブームで壊しつつ、そう言う透子。駿龍の翼は、遺憾なくその速さを上げてくれたが、腹を立てると言う感情そのものが、虫達にはないようだ。
「今のうちに、砲台を除去りに行きましょうか。お願いしますよ」
 卵が大丈夫そうになったので、透夜は手持ちの斧で、鶫でルビーとサファイアへと向かうのだった。

●裸石を壊して
 さて、時はやや遡る。卵と砲弾にかかろうと言う頃、砲台に向かった瀧鷲は、遅ればせながらの歓迎を受けていた。
「ちょい除けというわけにはいかんか。そぉい!」
 あまり大きく移動せず、ちょい避けを心がけてはいたのだが、弾丸の速度は結構早く、普通のちょい避けでは中々難しい所だ。
「ゲヘナ。本命はそこじゃないだろう」
 おまけに、手に入れたばかりのグリフォンのゲヘナは、中々思い通りに飛んでくれない。
「相変わらず舐められてるみたいねぇ」
「どっちが主か教えてやらねばならんだろうな」
 同じくグリフォンに乗るセシリアに、そう言われてしまった。確かに、主導権を争う間柄ではあるのだが、彼女にとってはあくまでも主人は自分だ。
「じゃ、ちょっとくらい当たっても平気かしら」
「構わん。主はその程度で落ちる魔神ではないからな」
 自信たっぷりにそう言う瀧鷲。名の由来通りの胸を弾ませながら、同じ色を持つルビーへ向かった。
「そぉう。じゃ、遠慮なく援護させて貰うわよぉん。可愛い小隊員に怪我させるわけにも行かないからねぇ」
 蛇神を惜しみなく使用してくるセシリア。その援護を受けつつ、1間程離れた場所で、オーラを立ち上らせる。俗に言う泰練気法・壱と、破軍と言う奴だ。
「隊列は乱れない‥‥。挑発や精神攻撃は無駄と言うことかな‥‥」
「上手く頭に血が昇ってくれると思ったんだけど、怒りも感情だっけ‥‥」
 しかし、その赤と黒の中間と言ったオーラが巻き起こっても、巨鎧虫は動じない。カンタータがその様子に臍を噛む。焦る、と言うのは人の子が持つ感情らしく、目的を達成するまでは、その隊列を乱したりはしないようだ。
「なら、力押しにするしかあるまいよ」
 狙いは、ルビーとサファイア。既に、戦闘モードに入っているのだろう。人の言葉を離す様子はなく。目が複眼のように赤く染まっている。きちきちと虫特有の羽音を鳴らし、きしゃあと伸びた牙と腕は、蟷螂のものだ。
「それもそうだ。上半身がガキっツーのが気にくわねぇが、やるしかねぇか!」
 その姿を見て。狂眼と笑みを浮かべる天斗。火之迦具土の上で槍を構え、サファイアの方へと龍の方向を変える。
「その割には楽しそうだな」
「そっちこそ」
 瀧龍もまた、同じよう苗身を浮かべていた。強敵とやりあうのを望む輩は、開拓者達にも少なくない。どうやらボスはその2人が相手をするようだ。
「ではお任せして、砲台を相手にしますよ」
 なので透夜は、その2匹の攻撃命令が、他の化け甲虫に届かないよう、斧を振るう。
「うっしゃあ。Got it! お待ちかねのpartyだぜェ!」
 紅焔桜を発動した彼は、炎龍突撃でサファイアへと突進する。その強烈な炎の色に、皆が下がるのを見計らい、透子が焙烙玉を投げた。化け甲虫の一団が瘴気となり、サファイアの前へ道が出来る。
「大将首!なァ、置いていけェ!」
 そこを急降下していく天斗。白梅花は間に合わないが、透子が結界呪符を貼り、瘴気回収で横取りして行った。
「我が魔神の血よ。我に気力を授けたまえ!」
 一方それと並ぶようにして、瀧龍のオーラがカミエイテッドチャージをするだけの力を与えてくれる。一気に距離を詰め、必殺の効果を狙う。狙いは直撃。
「派手な格好してんだ、狙われても文句はねェよなァ!」
 この二匹をやれば、命令を出す虫はいない。そう判断し、彼は2匹へ攻撃を集中させる。しかし、巨鎧虫はそれでも隊列を崩さなかった。感情がある様には見えない笑みを貼り付けたまま、ルビーは動じない。
「体が付いていても、虫は虫と言うこと?」
「セシリア! 頼んだ!」
 ばら撒かれた瘴気をセシリアが「わかってるわよぉん」と回収する。その上で、エラトは竪琴をかきならし、その援護をしていく。
「こちらでも助力いたします。響け、重力の爆音よ!」
 それでも、卵は次々と孵化し、砦へ迫ろうとしていた。いつになったら減るのか分からないが、戦列の後方は、エラトが眠らせている為、ほぼ無力化されていると判断して良いだろう。その為か、砲台は徐々に先端へと集まって行く。ついに、その射程が砦へ届く。
「ヌリカベ! 3枚、いや、もう1枚おまけだよっ」
 その砲弾は、結界呪符を貫く。それを見越して、枚数を追加するカンタータ。砲弾は4枚目でようやく止まるものの、配置スピードが追いつかない。フーガが化け甲虫を牽制してくれているのが、せめてもの救いだ。
「砦は僕が守るんだっ。ロギ、どうか耐えて!」
 砦の防衛に当たる面々が、大きな盾を積み重ね、バリケードを作ってくれている。それを支えに、ネプはロギで耐える。半月薙ぎで化け甲虫の群れを放り出す。
「このぉぉぉぉ!!」
 練力の消耗は避けたい。だが、巨鎧虫には力の限りその武器を振り下ろす。スマッシュの効果を持ったそれが、がっちりと鎧を捉えた刹那。
「ブリザァァァァドストォォォォムッッッ!!」
 凍てつく嵐が、上から降ってくる。見上げれば、そこには風葉の姿、
「鴇ちゃん‥‥!」
「残念でした。あたしは最強の盾でありながら、最強の矛なのよ?」
 にやりと笑う彼女。気付けば、戻ってきたエラトが上空でアギオンに乗り、天鵞絨の逢引を奏でている。それは、砦を守る姫君と、その危機に駆けつけた王子様のようで、彼らに力を与えていた。
「ネプくんには近付かせないわよ。ほぉら、黄泉の国へお帰りっ」
「さァさァ、オレはまだまだは終わらねェ! ド派手に楽しもうかァ!」
 風葉が黄泉より這い出る者を使う中。天斗は火之迦具土の上で、雷鳴剣を振り下ろした。雷が照らす中、各務原が告げる。
「角を狙えば、いけるかもしれないです!」
「わかりました。試してみます。あそこなら、柔らかそうですし!」
 透夜が、上半身の部位を狙って、ポイントアタックを叩き込んだ。びしりとひびの入る角。既に、少年は人の形をした何かでしかなくなっており、人の言葉さえ話していない。
「これでだいぶ寝てるな。さぁて、丸裸に鳴った所で、お待ちかねの寿命ラストオーダーの時間だァ!お互いの命を賭けて勝負と行こうかァ!」
 そんなサファイアへ、炎龍突撃と、紅焔炎を炸裂させる天斗。定めた狙いは、サファイアのクビだった。
「一撃必殺。我の神チャージを受けるが良い!!」
 直後、瀧鷲のカミエイテッドチャージが炸裂する。ぐしゃあっとスイカの割れる音がして、ぽちゃりと何かが落ちるのだった。

●眠りし卵の行方
 ルビーとサファイアが落ちた直後、虫達はそれが合図と言わんばかりに、次々と踵を返していた。
「損害率5割をきったら引くように指示されていたようですね。慎重な事です」
 その整然とした引き上げ方に、戦慄を覚える各務原。そこへ、エラトが岩清水を差し出している。
「皆さん、怪我はありませんか? よければこちらを」
「ありがと」
 今回、陰陽師が6割を占めた。練力の補充に冷たい水が喉を潤す。
「何とか退けたけど、これで終わりとは思えないよねー‥‥」
 カンタータがそう言った。回りには、幾つもの卵が残っていた。これをそのままにしておくわけには行かない。いや、終わらせてくれないだろう。
 卵の廃棄依頼が出ていた事を知ったのは、ギルドに戻った頃の事である。