|
■オープニング本文 ●多方面作戦 とうとう動いたか――前線からの報告に、大伴定家は深いため息を付いた。 敵は、こちらの事情に合わせて動いてはくれない。 「ただちに各地のギルドへ通達を出すのだ」 以前、遭都における戦では、弓弦童子は各地で他のアヤカシを暴れさせ、天儀側を大いに引っ掻き回した。今回もおそらく何らかの手は打ってくるであろうし、既にギルドや自身も攻撃を受けている。 冥越八禍衆の影も見え隠れする今、ギルドは臨戦態勢に入ったのだ。 「これ以上、弓弦童子の好きにさせてはならぬ」 大伴の言葉に、ギルド員は緊張した面持ちで頷いた。 北面に漂う戦の香。その香に惹かれたのは、何もアヤカシばかりではなかった。 北面の中央部に程近い街道。しかし、その片側は今や魔の森が迫り、半ばアヤカシと化した木々が、人の子を脅かす。だが、そんな森に、たたずむ存在があった。 「ふむ。やはりこの界隈の瘴気は、我が姫にも相応しいやもしれんな」 彼だけならまだしも、符を掲げるその手元には、しなだれたまま微笑む人妖の姿がある。と、そんな彼に、魔の森から進み出る影みっつ。 「吟味はよろしいですが、軍師殿?」 くぐもった‥‥濁りのある声。師と呼ばれた彼に、手にした絵図を渡すと、それを広げ‥‥何やら思案顔。だが、ややあって人妖を肩に乗せなおし、その色艶を確かめる。 「ああ。問題はない。全ては差配通りに」 「心得ましてございます」 黒い着物の影が頭を垂れた。常人の身ならば、通るのもままならぬ場所の筈だが、彼らはすいすいと飛ぶようにその森を駆け抜けて行く。 「さて、行こうか姫。君をもっと輝かせるためにね」 一方、残された御仁は、香ゲトは反対方向へと向かうのだった。 そこには遠くに『館』と呼ばれる街道沿いの防衛拠点が垣間見えていた。 魔の森から北面を防御する為の砦は、街道沿いにいくつも設営されている。 特に、川の南岸の地域では、アヤカシの猛攻に備え、軍備が強化されていた。 そんな、街道砦の1つ。まっすぐ南下すれば、東房との国境にたどりつく。山脈の入り口付近にある街道で、周囲には朝日の名を持つ山城等がある。主な任務は、街道の見張りと防衛、避難民の収容だったが、ここにはもう1つ隠された任務があった。 「まさか、ここが襲撃されるとは・・・・。宝珠を安置していたのをかぎつけられたと言うことか‥‥」 砦を預かる責任者が、窓から見えるアヤカシ達に、顔を引きつらせている。その背後には、大仰な厨子が鎮座していた。色は玉虫の羽根が並べられたような色をしており、職人の技術の高さが伺われる。その中心に、煌々と輝く宝珠が納まっていた。 「いや、ここは人が多い。恐らく動きを見張っていたのだろう」 アヤカシ達が、その宝珠を狙っているのならば、既にその部屋めがけて押し寄せている筈である。だが、そのような動きは見られず、むしろ避難している下の方を取り囲んでいた。さらには、その殆どは鬼と言って良い体躯の持ち主だが、角がやたらと多い。さらに言うと、その角が、まるで牛や羊の様に巨大な螺旋を描く鬼さえいる。 「どうする? このままでは、全滅してしまうぞ」 「宝珠をひそかに運び出すだけの余力はあるが・・・・。だがしかし、それでは防衛力が落ちる・・・・」 ぼそぼそと相談する兵達。ここには、守らねばならぬ民もいる。が、本気で攻めてきたアヤカシから、守りながら宝珠を運ぶとなると、兵が足りないようだ。 「取り囲んでいるアヤカシの数は?」 「凡そ200だな」 ため息ばかりが漏れる。下級とはいえ、その力は10の兵を超える。こんな‥‥戦略的にはあまり意味のないはずの避難所に、何故アヤカシが攻めてきたのか。それさえ分からぬまま、小隊長たちは頭を抱えていた。 「難しいか・・・・」 が、結論はどうやっても現在の兵力では、民を守りながらでは宝珠を守りきれないと言ったものだった。多身を守れば宝珠が奪われ、宝珠を守れば、民の守りにほころびが出る。 「しかし、あの宝珠は力を増幅させるもの・・・・。アヤカシに渡れば危険・・・・」 「かと言って、避難民の恐怖もまた、力を増幅させるもの・・・・」 結論が出ないまま、砦の責任者が出した指示は、ギルドへの連絡だった。風神器は、お供れする可能性もあるが、どっちみち殺る気満々のアヤカシには、関係がないと判断して。 同じ頃、周囲のアヤカシの中で。 「この奥に宝珠があるのじゃな」 くぐもった声が響く。その殺意が捉えているのは、避難所の中央にそびえる『館』だった。 「殿様に届ければ、我等の株も上がろうと言うもの」 「だが気をつけろ。奴らが出てくると軍師殿の仰せだ」 「志体持ちが何のことぞ」 「くろうてしまえばいいのじゃ。くくく・・・・」 不穏当なせりふばかりが続く。だが、そのセリフはふよふよと浮かぶ人魂によって吸い込まれていった。 「やれやれ。学のない駒は苦労するねぇ。姫」 人妖に語りかける軍師殿。くす、と彼女が嘲笑したように思えた。 『宝珠を収めた我が砦が、アヤカシの襲撃を受けている。このままでは全滅も考えられるゆえ、援軍をお願いしたい』 戦は、瘴気を産む・・・・。 |
■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
霧崎 灯華(ia1054)
18歳・女・陰
秋桜(ia2482)
17歳・女・シ
オラース・カノーヴァ(ib0141)
29歳・男・魔
フレイア(ib0257)
28歳・女・魔 |
■リプレイ本文 精霊門から出てしばし。防衛用の武装を取り付けた砦が見えてきた。周囲には、息を潜めるように小屋が立ち上り、それら小屋の外側をぐるりと木製の壁が取り囲む。そんな砦に、今や瘴気の漂う空間と化した森が迫る。闇の目が瞬きするようなその場所から少し離れた場所に、開拓者達は降り立っていた。 「避難民が居なきゃ篭城して徹底抗戦なんだけどね〜」 葛切 カズラ(ia0725)が周囲を見回しながらそう言った。アヤカシは姿を隠そうともしていない。見えているのは雑魚ばかりだが、すぐ側に敵がいると言うのは、一般人においては充分の恐怖となる。そこから無事に離脱させ、砦を襲撃するアヤカシを撃退するのが、今回のお仕事だ。 「此度の戦、民を狙うとか。油断なりませんわね。とは言え、宝珠が奪われれば、後ろの奴らが強化されるとか‥‥。放っておけない事態ではありますわ」 フレイア(ib0257)が古風な言い方で、周囲を見回しながらそう言う。秋桜(ia2482)も、首を横に振った。 「どちらかを取るのは、出来なくもない事。ですが、私は、どちらも諦めたくはありません」 力を増幅させる宝珠。アヤカシの手に渡る事だけは避けたい。例えそれが、不幸な結果を招くとしても。 「厄介な状況だけど、要は敵をぶっ飛ばせばいいのよね? 朋友とかあまり使う気はないんだけど、今回は手が足りないから、使えるものは使わないとねー」 「きしゃあ!」 そう言った霧崎 灯華(ia1054)のセリフに、駿龍は『もうちょっと構え』と言わんばかりに、広義の声を上げている。 「そんな事言うと、相棒さんが怒りますわよ。大事にして差し上げなさいな」 「たとえ機械でも、愛情をかければ応えてくれますから」 秋桜が鈴蘭の首元を撫で、フレイアは『スワンチカ』と銘の入ったケースを用意している。 「はいはい。それじゃ、ちょっとお空散歩と行くわよん」 別に疎んじていると言うわけではない。ので、灯華は龍に跨り、上空へと舞い上がる。光景が見る見るうちに鳥の視界になり、周囲の状況を教えてくれた。それによると、アヤカシは魔の森から直接攻め込んでおり、砦をぐるりと取り囲んでいる。 「まずは状況を確認しませんと。鈴蘭、おいでなさい」 迅鷹の鈴蘭を空に上げ、それを確かめる秋桜。陣形は鶴のような形をしている。その傍らで、灯華もまた、砦の状況を確かめる。 「中央に城、外側に堀。小屋は避難民のいる所っと。まぁ3方から攻め込まれてるわねぇ。残りの道は1つしかないけど‥‥。あーあ、わかり易い包囲網だこと」 「あの包囲網を突破するのは、結構面倒そうですわぁ。敵の陣形はどう見ます?」 ジルベリアのフォークの様に突き刺す陣形。敵の種類は概ね鬼が多く、種類は3か4と行った所で、数は100〜150と言った所だろう。 「背後に回ってと思ったけど、ちょーっと難しそうねぇ」 その後ろは、魔の森になっている。龍で攻め込むには、瘴気感染の可能性を考慮しなければならない。そして残念ながら、瘴気回収の符は持ってきていない灯華。 「何とか綻びをつきたいのですが‥‥。防御の薄そうな場所、ありますか?」 「分かれる所を狙えば‥‥何とかなりそうよ」 アヤカシの群れは、砦にさしかかる直前で3方向に分裂する。その一瞬だけは、細くなり、防御が薄くなる。それを見て取った灯華が秋桜に答えると、彼女はおもむろにその包囲網へ足を向ける。 「かしこまりました。それなら、私が囮になりますわ」 目指すは、包囲網の別れる直前。結構な数の小鬼が群れるそこに、秋桜は風陣で吹き飛ばす。常に足を止めることなく、早駆で駆け抜けていた。 「お願いします。うちの子なら、ここを突破できますし!」 そこへ、スワンチカを起動させたフレイアがその向こう側へと突き抜けて行く。しかし、逆に取り囲まれてしまう秋桜。 「そのトリさんだけじゃ間に合わないわよ。外から掻きまわしてやるわ」 駆けつける灯華。そして、龍に暴れるよう指示すると、斬撃符とナイフがその周囲に舞う。たかが小娘1人と侮るなかれ。襲ってきたところを、悲恋姫が一掃する。 「お願いします! 鈴蘭、真上に行って!」 秋桜は鈴蘭にその死角を補うよう指示し、自分は風神を使う。同化の技を使うのはまだ先だ。 「さて、楽しい殲滅を始めるには、まず雑魚を集めないとね」 「さすがですわ。では、私どもも参りますわよ」 大丈夫だと確信したフレイアは、そのままとりでの方へと向かう。抜けてたどり着いてしまえば、その先に退路が見えた。その先は、甲斐どうに繋がっている。 ところが。 「そろそろ囲まれてぶっ飛ばすのもワンパターンで飽きてきたわねー」 「ダメです、灯華様!」 いつでも悲恋姫をぶっ放せるよう、上空へ龍を待機させた直後、鋭い刃が四方から飛んでくる。 「‥‥っ! なんですって!?」 囲まれても吹っ飛ばされる事に気付いたのだろう。遠距離から狙撃と言うなの攻撃を仕掛けてくる方法に切り替えたようだ。銀色の矢がその身を貫こうと風を切った直後。 「炎よ!」 その1つ外側に、盛大な炎が撒き散らされる。中心部にいたのは、全身を炎に包まれた長身の男。 「ひ、火の玉ぁ!?」 「‥‥っ」 敵の攻撃で火でもついたのだろうか。ばさぁっとマントを翻してそれを叩き消したところに姿を見せたのは、パイプ姿も優雅なオラース・カノーヴァ(ib0141)だ。 「ちょ、一体どういう‥‥」 「ふふん。我が名はオラース・カノーヴァ。傭兵だ」 こげてボロボロになった装いを新たに、そう言って自己紹介するオラース。 「オーラス?」 「オラース!」 名前を言い間違えられる所までが自己紹介です。 「傭兵って魔道師でもいいのかしら」 「と言うかメテオストライクって、自分が炎になる技じゃないんじゃ‥‥」 ぼそぼそとその登場シーンに眉をひそめる灯華と秋桜に、「聞こえてるぞ」とツッコミを入れるオラース。と、そこへ1陣目を焼かれた鬼達が、地じりじりと包囲網を詰めていた。 「漫才はそのくらいにして、突破してくださいな!」 フレイアが注意するように叫ぶ。我に帰った3人は、彼女の待つ砦へ向けて、攻撃を再開する。包囲の薄い部分は、彼女が望遠鏡で教えてくれた。 「あー、わかってるわ。ほらそこっ」 「雷よ!」 オラースがアークブラストを放ち、呪縛符で動きを止める灯華。 「これでバレてないと思った? 甘いわよ。アヤカシ達」 ざしゅざしゅざしゅっと斬撃符がつきささる。何かしていたような気もするが、あまり気にせず彼女は符の餌食にしていた。 「こっちだ、皆の者」 そんな彼女達を、オラースは砦の中まで案内してくれる。その直後、残っていた砦の兵達から、なけなしの援護射撃が降り注いでいた。 「まずは合流してから考えましょう」 「そうね。話はそれからだわ」 その攻撃に相手を任せ、灯華と秋桜はフレイア達の待つ砦へと入って行くのだった。 合流した彼女達を出迎えたのは、砦の中にいた朝比奈 空(ia0086)だった。部屋の中央には、小さな行李が安置されている。周囲を注連縄に囲まれている所を見ると、それが例の宝珠なのだろう。 「オラースさん、案内ありがとうございます」 「礼は良い。これが3人の持ってきてくれた外の状況だ」 ばっと文机の上に、外の地図を広げるオラース。避難経路とアヤカシの指揮系統の記されたそれを確かめたフレイアは、少し傷ついたスワンチカに苦笑する。 「まさか包囲網突破するのがこんなに大変だったなんて、思いませんでしたわ」 「それだけ、この宝珠が欲しいと言うことでしょう。でも、決断をする前に、やれる事はやりませんと」 空がそう答える中、やはり砦に入り込み、宝珠を眺めていたカズラはこう言った。 「この宝珠って‥‥壊せるのかしら」 「「え」」 その場が凍りつく。ぱかりと宝珠のケースを開けちゃったカズラさんは、中に転がるつるんとしたそれを見て、砦の管理責任者に尋ねてくる。 「どの程度のものなのかなーって。取り合えず過去に件の宝珠の破壊を試みた人が居るのか居ないの?」 彼女の問いに、責任者が答えたところによると、相当のダメージを与えないと壊れないし、即座に破壊で切るようなものでもないようだ。だが、宝珠を使用した時には、1瞬で彼女が持つ錬力の倍くらいは持っていかれてしまうらしい、 「壊すのは最後の手段にしましょ。奪われそうならって事で」 「そうね。地図見せて。取り合えず身を寄せられる様な避難先でも良いから出しといてから、そっちへの避難ルートに近づかせない様に迎撃に出るから」 灯華に、そう答えるカズラ。ひょいと宝珠を取り出し、その豊満な懐に収めてしまう。わざとアヤカシから見えるようにチラ見させつつ、である。 「わかりました。お任せします。私はこの子と共に参りますから」 「私もそっち側ね。まずは、民を逃がさないと」 グリフォンの黒煉をひきつける空。灯華も龍と共に空へと舞い上がる。その俯瞰域から見下ろした先には、1つの生き物の様に動くアヤカシの姿。 「既にこの場所に避難しているのに、次はどこへ逃げるのか‥‥。いいえ、それは考えない様にいたしましょう」 確か、まだ追いつかれていない街道があったはずだ。そこから、東房へ逃げると言う手段を、確か砦の面々が話していたはずである。それを信じて、彼女は危険の萌芽を探した。 「そこです」 トルネードキリクが、空の上から炸裂する。それを見て、カズラは連れていた自分の相棒に声をかける。 「人はダメだけど、初雪ならいけるんじゃないかな。お願い」 「んーーー。ん?」 ひょいっと肩に乗った人妖の初雪が、宝珠にふれて見る。が、すぐにおててを引っ込めてしまった。どうやら、気に入らないようだ。 「ダメかぁ‥‥。それじゃ、迎撃に行くとしましょうかねぇ」 砦の外へ出て行くカズラ。向かうのは砦の東側。そこから、北のほうへ向かえば、避難ルートからは離れられる。その為、彼女は符をばら撒きながら、戦闘域を遅くさせて行く。 「左右に分けて下さい。そこが、弱点ですわ」 フレイアがブリザードストームで、アヤカシを左右に分断し、小集団へとわけていた。そこへ、空がメテオストライクを放り込む。リンブドルムを駆ったオラースが、必中のアークブラストやトルネードキリクを発動させていた。アヤカシ達は無駄に相手をする事はないと思ったのか、カズラの方へ向かう。 「宝珠の方に行きましたわ。黒錬、がんばって!」 空が、黒煉の飛翔翼で回り込む。そこへ、ふた周りほど大きな鬼が、部下を率いて立ちはだかった。灯華が手にしたアヤカシを盾代わりにしている。ララドを使うのは、まだ距離がありすぎる、その為、彼女は黒煉の真空刃を使わせていた。 「あまり止まらないで頂戴。ハッちゃん、爪よろしく」 カズラの傍らにいた初雪が、爪から衝撃波を放っていた。オラースがメテオストライクを放ち、アヤカシの数を少しずつ減らして行く。 「この宝珠、同化しても無理かしら‥‥」 「この子では無理だったわ」 胸元の宝珠をチラ見しつつ、そう尋ねてくる秋桜。しかし、カズラと初雪がそろって首を横に振ったのを見て、ごくりとつばを飲み込む。 「同化してしまえば‥‥。鈴蘭、お願い」 「きぇぇ」 すうっとその姿が重なるように、秋桜の背に鷹の翼が生えた。カズラの胸元に手を伸ばした彼女だったが、機動の意思を持って触れた瞬間、宝珠はどす黒く輝く。 「蝕まれる?」 「どいて!」 はっと秋桜が顔を上げた刹那、カズラがそれを斬撃符で斬り飛ばした。悲鳴と共に転がる秋桜と、反対側に宝珠。しゅうしゅうと白煙を上げるそれに、アヤカシ達が手を伸ばそうとする。そこへ、蹴散らそうとメテオストライクを放り込んむ空。その間にカズラが宝珠を拾い上げていた。 「これ、壊しちゃった方が良いんじゃない?」 「文句を言われる可能性もありますが‥‥やむを得ませんか」 まだ、黄泉の符は残してある。頷いた空が唱えたのは、ララド=メ・デリタ。全てを灰塵に帰する魔法。 「アヤカシの手に渡るくらいなら、壊してしまった方が良い!」 「心得ました。お手伝いいたします」 フレイアもそう言い出し、同じ魔法を唱えた。重ねる様にうなづいたカズラが、黄泉より這い出る者の符と共に火炎獣を取り出し、宝珠に群がるアヤカシへとぶつける。 「「滅!」」 ララドの一撃が重なり、宝珠はアヤカシ達の真上で、粉々に砕け散る。その刹那、粉を浴びた広範囲で、アヤカシ達が肥大していく。それは広範囲にわたり、ボスの数が増えたように思えた。 「これで、少しは時間が稼げるわよ」 「少なくとも、アヤカシの力が倍増しになる事はまぬがれたかと」 ボスがパワーアップする事はなくなった。確かに、小隊長クラスは増えたが、それは自分達の力でもどうにかなると言うもの。 「この上は、皆様を東房までご案内するのが吉かと。衆生を救済せねば東房とて教えの道に背くというものでしょう」 フレイアが、アーマーで民の列の殿軍につく。重傷者は自信の魔法で癒したが、まだ東房までは遠い。 「ええ。せめてもの罪滅ぼしですしね」 せめて、犠牲者を出さないように。最後を看取る事のないようにと祈る秋桜だった。 |