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■オープニング本文 ●儀式 どことも知れぬ闇の中。 「白婆は失敗したか‥‥」 「だが、布石は敷かれたままです。話はここからですよ」 「そのような事、なさらずとも蹂躙すればよろしかろう」 「それでは良いモノは出来ません。極上の美酒には手間隙がかかるのと同様、極上の姫には金子がかかるのですよ その闇の元には、白い雪で覆われたとある天儀の港町が描かれていた。そこここに白い雪だまりが残るその街には、ノイリー船長の船が泊まり、廓が幾つか立ち並ぶ。 そう、彼らが口にしているのは、凍りついた女将の首騒動に巻き込まれたあの町だった‥‥。 ●火種の宝玉 宝珠には、様々なものがある。いわゆる町の宝物扱いになっている宝珠だって、中には存在するのだ。 「展示、ですか?」 「はい。この間の雪騒動で、ここもだいぶ人が減りました。ここは1つ、展示会を餌に、お金を落としてもらおうかと」 大雪そのものは、開拓者の尽力によりやんだ者の、気温の低い今、積もった雪は中々解けない。その上、冬場である以上、一番寒い時期の朝には小雪がちらつく程度の事はあり、街はさながら冷蔵庫だ。そんな場所に、わざわざ出かけようと言う観光客はあまりおらず、結局人の足が遠のいている。 「しかし、上手く行きますかねぇ」 「話題にはなるかもしれんよ。もしダメそうだったら、常設にしてしまおう」 「それでは、警備が激しくなりますが‥‥」 「彼らにもここで遊んでもらえばいいじゃないか」 そうして‥‥各楼主による話し合いが行われた結果、歓楽街を擁するその港は、入場料と共に、コマと呼ばれる木札を3枚渡して、展示会と共に、主要産業である博打も楽しんでもらおうと言う事になった。 だが、人々がいわば町おこしの準備をしていたところ。 「火事だーーーーー!!」 半鐘の音が鳴り響く。見れば、展示会場から離れた場所で、薄く立ち上る煙。色が黒と言うよりは、異臭のする黄色な所を見ると、燃やすとまずいものまで一緒くたに燃えてしまっているのだろう。 事実、家が一件灰になった。幸い怪我人はなかったものの、何もかも燃えてしまっている。 「やれやれ、ここのところ多いな。空気が乾燥しているせいだとは思うが、これで何件目だよ‥‥」 「ここ一ヶ月で6件か7件だったと思うが‥‥」 後片付けをしていた町の衆が嘆く。ここの所火事が多く、全ては火の不始末と言う事で片付けられていた。実際、話を聞いて見ると火鉢や囲炉裏の火が、突然燃え上がったとか言う話である。しかし、その原因は未だに特定出来ていない。 「この燃え方だと、いずれひどいことになるかもな‥‥」 おまけに、何か薬品でも欠けたんじゃないかと言う燃え方だった。火もとの火鉢は言うに及ばず、周囲の壁すらも炭を通り越して灰になっている。 「物騒なこと言わないでくださいよ。うぉっ」 その最中、燃えカスがいきなり燃え上がった。火事場ではよくある事ではあるが、その燃え方は激しく、中々近づけない。そうこうしているうちに、火はわずかに残っていた炭まで燃え尽きていた。 「なんだこれ‥‥」 「わからん。だが、話を聞くとよくあるそうだが‥‥」 以前にも現場に行っていた同僚に尋ねると、同じ様な事件があったらしい。だが、調べ様にも人が足りなかった。何故なら。 「あーあ、これじゃ展示会に警備足りないぞ。どうする?」 「どっちかをギルドに依頼するしかあるまい。まぁ、これだけ酷い状況だと、どこかにアヤカシが絡んでるかもしれないし。となると、町の見回りだろうがな」 どうやら、警備の穴埋めをさせられるらしい。 そんな中、ついに犠牲者が出てしまった。 「こいつは‥‥」 「やはり、アヤカシが絡んでいるのだろうか‥‥」 ただの逃げ後れなら、そこまで問題になる事もなかっただろう。だがそこには、しっかりはっきりと『食べた跡』が残っていたのである‥‥。 【最近物騒です。展示会の最中、町の見回りを行ってくれる方を募集して居ます。最近火事が頻発しているので、できれば起きないようにしていただければ幸いです】 ただし、本当にアヤカシの仕業かどうかは定かではない。 |
■参加者一覧
ペケ(ia5365)
18歳・女・シ
白南風 レイ(ib5308)
18歳・女・魔
華角 牡丹(ib8144)
19歳・女・ジ
クレア・レインフィード(ib8703)
16歳・女・ジ |
■リプレイ本文 夜の帳が落ちるのを待たずして、廓には明かりが灯る。ほのかな灯火が、おしろい姿の芸姑達を妖しく移し、つかの間の夢へと誘って行く。そんな中、開拓者達はその夢が壊されぬよう、見回りを開始していた。 「あうあう、がんばりますー」 ただ、ペケ(ia5365)は相変わらず寒い町で、すっかり冷え込んでしまっている。そんな乾いた空気が流れる中、白南風 レイ(ib5308)は担当にしゅたっとおててを上げた。 「綺麗な宝珠が見れると聞いてきましたっ」 すでに、会場へ運ばれていると聞く。おめめをキラキラさせる彼女に、担当さんが「なんだ。見たいのか?」と問うと、クレア・レインフィード(ib8703)まで混ざって「「是非!!」」と即答している。 「これがそうだよ」 「わー、きれー」 ブラッドの名が示す通りの赤い宝玉。彩るは金糸の細工。その細やかな仕事にクレアは気になったことを言う。「あ、そう言えば‥‥。この宝珠、幾らくらいなの?」 「小さな村なら、1年養えるくらいかな」 計算してぎょっとなる彼女。 「へぇ、結構凄いお宝なんだねぇ」 確かに綺麗な宝珠だが、世の中はそんな金子をご用意する御仁がいるんだろうかと、つい思ってしまう。 「冗談。実は俺達も分からないんだ。ただ言っておかないと、客寄せにならないだろ?」 多分に商売っ気が含まれているらしい。確かに、普通の宝珠じゃ興味はわかない。 「ふーん。ところで、これ、どういう守備体制にするんです?」 「まぁ、三交代制だわな。今の所」 対応を聞いて見るが、対応としては普通のようだ。公開時間外は重い扉の箱に入れられ、昼夜の見張りが立つそうだ。 「展示されるくらいなのに、大丈夫かな?」 「それ以外だと、ちょっと思いつかなくてなぁ。それで、おまいさん達にも頼んだんだ」 レイの心配にそう答える係の人。普通の考えでは、それほど盛大な考えは持ってい模様。 「なるほどー。しかし、冬場の火災ねぇ‥‥」 「これが、起きた火事のリストだ。再び起きる可能性がないとも限らん。参考にして欲しい」 クレアが首をかしげると、担当の人が舵の場所リストをくれた。場所はばらばら。法則性があるわけではなさそうだ。 「ふむ。しかも奇天烈で変な火事、か。‥‥さてさて、何か面白いモン、見れるかね」 「こう言う所は、人の手によって火をつける事も多々ありんすしねぇ」 その地図と‥‥周囲を見回して答えるは華角 牡丹(ib8144)。その衣装は、廓の街に相応しい豪奢なものである。見た事はないものの、同業だと思ったらしい担当が、目を丸くする。 「姐さん、仕事は良いんですかい?」 「わっちはさすらいの芸姑でありんすよ」 くすり、と営業用の妖しげな微笑みを浮かべながら、そう答える牡丹さん。 「な、なるほど‥‥。しかし、姐さんほどの器量をそのままにしておくのはもったいない。気が向いたら遊びに来ておくんなせぇ」 「考えておくでありんすよ」 この街にとって、芸姑は商品なのだろう。特有の仕立て具合を見て取った彼女は、さらりと受け流していた。両者の間に、少し冷えた空気が流れるのを感じ取ったクレアが、周囲の光景に考え込む仕草を見せる。 「見る限り、火事が起きそうにはないんだけどねぇ。それでも、火事が起こらないようにしてくれってねぇ‥‥。また、とんちの利いた事を」 「見回りながら調べていくとしんしょう」 苦笑する彼女に、牡丹はそう言って道の先を指し示す。ちょうど、3方向に分かれた先は、被害の会ったエリアへと繋がっているそうだ。 「それなりに広そうですし、私は別れてうろうろしますね。地図とかお借りできます か?」 「ならばこれを。案内図を兼ねているものだから、正確なって言われても困るが」 レイの申し出に渡されたのは、いわゆるガイドブックだ。可愛らしい絵の書かれたそれは、決して縮尺のあって要るものではないが、それなりに目印やらお勧め店等があって、見るだけでも楽しい気分になれる。 「大体の場所がわかれば結構ですよ。あ、できれば人数分を」 「たくさんあるから持ってきな」 ガイドなので、それなりにあるようだ。全員が同じ者を渡される。 「ありがとうございます」 「では、参るとしんしょう」 軽く礼を言った一行は、それぞれの調査先へ赴くのだった。 調査はまずクレアからスタートだった。 「いくつか、気になる事があるのよねぇ。まずは、そこから調べてみようかな」 火の不始末とされちゃあいるが、燃え方が一等おかしいし、時折唐突に燃えだす火種達。探るならそのあたりだろうと、地図に記載された火事の状況を、当時の担当に聞き出す事にした。 「火の燃え方がおかしくなるんだって?」 「ああ。突然燃えたりするぜ」 実際に目撃していた人も折り、そう話が聞こえる。「変な話もあったもんだねぇ」 そう感想を述べつつ、彼女はさらに事情を探ろうとした。 「まずは、火事そのものについて、さね。話を聞かせて欲しいんだけどな」 「何だい?」 地図を広げ、燃えた場所を指し示す。立ち話もなんだからと言う事で、お茶を入れてくれる火消しのおかみさんに礼を言いつつ、彼女は話を進めていた。 「火事はいつから増え始めたの? 日付とか教えてくれるといいな」 「2週間前かなぁ。最初の頃は、よくある火事だと思ってたから、はっきりしないけど」 最初は、冬場によくある家事だと思ったそうだ。季節柄、増えてくるのも当然なので、気にしていなかったらしい。ただ、職業上出動した日は覚えていたので、暦に印はついていた。 「なるほど、これは‥‥気になる、さね」 火の勢いは変わらず、時間もバラバラ。ただ、彼女には1つ心当たりが出来ていた。 「この宝珠、以前はどうしてたの?」 火事の位置は、宝珠を中心としていた。それが気になった彼女は、その経緯を問うて見る。それによると、以前とある町にあったものらしい。 「あー。なるほどねぇ。これ、もう少し詳しく調べられない?」 「お屋敷に行けば記録が残ってると思う」 管理している場所に向かえば、その経緯が残っている可能性は高いそうだ。 「お屋敷かぁ。やっぱり、宝珠が関係してそうだねぇ」 だが結局、宝珠がここにやってきた時期とは合致していなかった。それもその筈。それまでは、街に宝珠がある事すら、知られていなかったのだから。 その頃、レイは火事が起きた場所へと赴いていた。 「このあたりなんだっけ。こんにちはー」 「はい、どちらさんで?」 怪訝そうな顔で応対に出た町の人に、彼女はにっこり笑顔で話しかける。 「えーと、火事の事を調べてくる様に雇われた開拓者です! お邪魔しますねー」 「って、もしもし?」 戸惑う住民に「あ、お構いなくー」と言い置いて、彼女は火の手の上がった場所を捜索し始めていた。住人が、彼女が開拓者だと知ったのは、その後の事だ。 「火の手は、急に燃えがったりするようですけど、火はどれくらい使ってます?」 もし火の手が強くなった時、火事になりそうな家をチェックしておけば、対応も出来るのではないかと。 「普通に‥‥。でも、最近は寒かったから、少し火鉢の火が強めだったかな」 「そうそう。それで揉めちゃってねー」 「で、喧嘩してたらいきなり火鉢が燃え上がってあっという間に火事になっちゃったよ」 井戸端のおかみさんたちがそう教えてくれた。火事の現場を巡って見た所、他の場所でも同じ会話が聞かされる。その話も、『揉めていたら火種が大きくなって火事になった』と言うのだけは、共通していた。 「ふむふむ。それって、以前の事件の頃からです?」 「あー、そうかも」 しかも、発生実時期は2週間前くらいから。ちょうど事件の直後だ。 「本当に?」 「うーん。なんとなくそんな気がしてきただけかも。あの頃は、雪かきで手一杯だったし」 だが、おかみさんもその辺は記憶にないらしい。またしても、開始時期のあいまいさが目立つ。 「やっぱり、以前の事件が関係してるのかな。あれ?」 宝珠の所に戻ろうとした所、廓の立ち並ぶ通りに、牡丹の姿が見えた。しかも、店の軒先には、高貴な夫人でも迎えるかのように、ずらりと従業員が並んでいる。 「姐さん、やっぱり来てくれたんすね」 「わっちも聞きたい事がありんすぇ。それだけの話でありんす」 おめめを輝かせる彼らに、牡丹さんはそう言って、遊女達の居間へと足を踏み入れるのだった。 廓も一応開店時間と閉店時間がある。たいていは交代制で、外泊の歓迎されないお家の方々用の時間帯と、午前様な方々用の時間に分かれている。そのうち、火事が起きた時間が多いほうの当番を尋ねていた。 「流石に廓でありんすなぁ。火事が起きたとき、何か他の事件でもありんした?」 「いや、どうだったでありんしょう」 首をかしげる芸姑達。そんな彼女達に声を潜めつつ、牡丹は続ける。 「舞台が舞台でありんす故、足抜けも考えられるかと」 「いや、それはないでありんすよ。少なくともその時期、逃げ出した芸姑は存知まへん」 火事に紛れて逃げ出した事も考えたが、芸姑にも楼主にも心当たりはないようだ。確かに、外は身を切る寒さ。もし意表を付いて逃げ出す子がいたとしても、それには何らかの締め付けが見えるはず。 「そうなんえ?」 「寒かったし、その時期に逃げ出したら、途中で凍え死ぬこともありんしょうし‥‥」 芸姑も命がけになる為、ここではないようだ。 「そうですかぁ。うーん、はずれでありんすかねぇ。同じ人間が火付けをしてるとなれば、いままで起きた場所から次の場所も見えるかもしれんせんが、如何でありんしょう‥‥?」 地図に火事が会った場所を記す牡丹。と、それをしげしげと見つめた彼女は、あることに気付いた。 「おや? これは‥‥」 「ただいまー。少し調べてきたよ」 「同じくです」 そこへ、レイとクレアが戻ってくる。それぞれの情報を集めてみると、1つの事実が浮かび上がっていた。 「見てくんなまし。事件が起きたのは、皆宝珠の近辺でありんす」 「こっちで聞いたのもそうね。だいたい、宝珠から半里も離れてない場所ばかり」 火事のある場所は、宝珠の近辺に集中している。どうやら、事件の鍵はそこにあるようだ。 「後は、アヤカシの件でありんすねぇ・・・」 「正直、街の中に侵入しているにしては、静かですよね‥‥? ただのアヤカシじゃないか、そもそもアヤカシじゃないか、だと思うんですけど‥‥」 「最後の一件は絡んでいるかもしれないけど、それ以外はどうかな‥‥」 前者なら、火事をあえて起こされている可能性はある。頭を捻っていた彼女たちにもたらされたのは。 「火事だーーー!」 半鐘の音。見れば、宝珠からごく近い場所に、その火種はあった。 「ひょっとして、あえて起こされたのかもしれない。気をつけて」 「どちらにせよ、火事は止めねばなりんせんなぁ」 急いで向かうと、ちょうど燃え上がっている真っ最中だ。火消しの水もかけられているが、中々静まらない。おまけに横では、原因を巡って大喧嘩中。 「あー、ちょっと落ち着いて。ほら」 火元にフローズをぶっぱなした後、どうどうと割って入るレイ。と、程なくして落ち着いたのか、我に帰る住人。と、燃え盛っていた炎がそれに呼応するように小さくなっていく。 「一体何が起きたんでありんしょう?」 「わからないけど、喧嘩してたらいきなり火が燃え上がって‥‥」 やはり、ここでも火事と喧嘩がセットになっている。だが、牡丹の問いには以外な答えが帰ってきた。 「こう皆はんも度々起こられると困りんしょう」 「困るは困るけど、商売にはなるし‥‥」 「どういうこと?」 クレアが問うと、彼らはその火事もまた、ここでは商売の種になっていると教えてくれた。どこの火消しが一番早く消すか、人死には出るのか。それすらも商売の対象らしい。 「これ‥‥本当にアヤカシかな? それ以外の可能性は‥‥」 「うーん、やっぱりアヤカシは関係ないのかもしれないな」 アヤカシではなく、誰かが故意に火事を起こした可能性が大きい。 「確かに、アヤカシにその様な知能があるかは分かりんせんし‥‥。わっちが思うに、度々ある火事に合わせてアヤカシの事件が起きた‥‥といったところでありんしょうか?」 牡丹の考え方が、一番理屈が通ってる様に見えた。だとすれば、どこかにアヤカシが潜んでいる筈だが、調べた限り、どこに潜んでいるか見当も付かない事ばかりだ。 「火が強まらなければ、大丈夫じゃないかなぁ。そもそも火は強くなるもの、って考えて気を使ってもらうよう周知する、とか」 と、ややあって、クレアはそう言い出した。火のない所に煙は経たずとも言うが、火種のない所に火事は起きない。 「無理でありんすよ。凍えてしまうでありんしょう?」 「だったら、せめて宝珠の効果範囲を仮定するとか。不便だけど、町おこしのためだし、いいんじゃない?」 宝珠の半里以内に集中している。それなら、公開時間に限ってでも、範囲を火気厳禁にすれば良いのではないかと。 「ふむ、考えてみる事にしよう」 調査と見回りの回答を聞いた依頼人が、火気規制領域の通達を出したのは、それから程なくしての事である。 |