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■オープニング本文 ざわり‥‥と、山から吹き降ろした風が、森の木々を揺らしている。それは木々を抜ける間に強烈な突風となり、里へと降りてきていた。 「今日も風が強いなぁ」 「いつもの事さ。さっさと帰ろう」 山間の道。両側を崖に囲まれた細い道は、世が世なら天然の要塞と観光名所になるような場所だった。 だが、今はよその土地に見聞を広めにいけるのは、ごく限られた者達。なぜなら、その崖の上に広がる森には、闇が潜んでいるから。 その闇に急かされるように、家路につく人々。だがその直後だった。 きしゃ、きしゃああ‥‥。 森の中から抜け出るように、獣の声が響いてくる。闇に光るいくつもの目。どさりと崩れ落ちる人の音。そんな、悲しみの連鎖に繋がる光景が、里のあちこちで響いている。 『大殿、さまの、ために‥‥』 生き残った人々は、そんな声を聞いたとか何とか。 船長が呼び出されたのは、普段根城にしている国々とは反対側にある、理穴の町だった。さほど寂れてもいないが、固定商店などはない。その代わり、定期的に船便が訪れ、生活に必要なものを補充して行く。名産品は森の近い事で採れる様々な果物だ。 そこにはどんよりとした雰囲気が流れていた。 「ずいぶんな雰囲気だが、何の寄り合いだ?」 そう感じ取った船長は、ともかく議題を聞こうと、そう切り出す。 「実は、ここのところ、村の行方不明者が多発しておりまして‥‥」 なんでも最近、アヤカシが増えていて、以前のように森にも入れず、窮屈な生活を余技なくされていたそうで。それが嫌で逃げ出した可能性もあるらしい。 「これ以上、村からいなくなる者が増えるくらいなら、いっそ新天地を求めて、平原へと移住しようかと‥‥」 「おいおい。行方不明者は放置かよ」 頭を抱える船長。重くなって当然の話題である。行方不明者は、おおむね深夜にいなくなっている。主に働き手となる若者ばかりだそうだ。その前には、不満がこぼれていたそうで、もしかしたら夜逃げと思ったらしい。だが、気になるのは家財道具等はそのまま残されている事だった。 「それは、ギルドのほうにお願いいたしました。船長には、移住を手伝っていただきたく」 重々しい口調のまま、村長はそう切り出した。村は一般的な村なので、だいたい150人ほどと見ていいだろう。だが、船長の船は、せいぜい10人が限度。大きな町までは片道3時間と言ったところだ。 「‥‥そんなに乗れねぇぜ? 歩いて行ったほうがいいんじゃねぇか?」 と、船長が地図見てそう提案した。荷物を載せて行くのは構わないが、近場なら、その人数で歩いた方が、早く終わると。 ところが、村長は首を横に振った。 「それが、平原へ出る道に、きりの化け物らしきものと、大きな目玉が浮かんでいるのが目撃されまして。若手を失った今、我々だけでその霧を抜けるのは、正直厳しいのです‥‥」 襲われればひとたまりもない。実際、その事を知らせた旅人は村で亡くなり、葬儀を済ませたばかりだと言う。見れば、真新しい墓が1つ増えていた。 「しかし、大型避難船を頼めるほど、村の貯蓄は豊かではありませんので‥‥」 もう少し大きな村ならば、国からの援助も頼めようが‥‥と、村長は口を濁す。 「仕方ねぇなぁ。依頼は村長が出してくださいよ」 頷く船長。こうしてギルドにまた1つ依頼が載った。 『行方不明者が増えて、村が立ち行かなくなったので、避難したいと思います。どうかよろしくお願いします』 なお、もし行方不明者が見つかったら、ちゃんと連れて行く予定だそうである。 |
■参加者一覧
六条 雪巳(ia0179)
20歳・男・巫
美空(ia0225)
13歳・女・砂
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
虚祁 祀(ia0870)
17歳・女・志
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
空(ia1704)
33歳・男・砂
白蛇(ia5337)
12歳・女・シ
御神村 茉織(ia5355)
26歳・男・シ |
■リプレイ本文 村は、静かだった。朝早い事もあるだろう。水路となる川の周囲には霧が立ち込め、街道の方もなんとなく雰囲気が悪い。いわばどんよりとした雲の中にすっぽりと覆われてしまったような村で、開拓者達は、依頼をした村長の家に向っていた時、家の裏手で騒いでいる声がした。 「コラァッ。おまいはまた何をやってんだ。何をっ」 「別に飛空船が珍しいわけじゃ、無いんだからなっ」 何事かと覗いてみれば、『桟橋こちら』と書かれた台の上で、ノイ・リー(iz0007)に首根っこを押さえられながら、ぷらぁとを抱えて離さない天河 ふしぎ(ia1037)がいる。 「そう言えば、この前馬の骨の上の人も大殿がどうのって言ってた…近頃の事件、大きな繋がりがあるのかな?」 こうして、巻き込まれた形となったふしぎが、その原因となった依頼の事を言っている。確か、炎羅と言う大きなアヤカシがいると言う話だった。 「わかりまへんけど、村の人の話では、行方不明騒動の起きる少し前に、霧の中に浮かぶ武者行列のようなものを見たそうどす」 村人に話を聞いてきた華御院 鬨(ia0351)がそう言ってきた。一応、今は村の近所同士でまとまり、もし、誰かが居なくなったら、知らせてくれるように頼んできたそうだ。広間の方を覗けば、何人か怪我をしている者達もいる。どうやら、彼らから避難させるのが適切だろうと、六条 雪巳(ia0179)曰く。 ただ、やるべき事はそればかりではない。虚祁 祀(ia0870)の案で、船輸送は、休息時間を考えて、1日2往復の7日半予定。船長の管理は美空(ia0225)がやる事になったが、再び雪巳曰く、『今のうちに、霧の化け物の調査に向いましょうか』だそうだ。こうして、休憩時間をばっちり決めちゃった空(ia1704)以外は、開拓者達はまず現場へと向った。 「霧に近いね。争った形跡がないのは、不安な心と恐怖心を操られてる? 霧と複数の目で大きな一つのアヤカシかも?」 ふしぎが現場を見てそう言った。霧の目玉が出ると言う森に近い。村内の地位によって、住むところが分かれていたそうで、まだ経験の浅い人々は外側に。長老や代々村に住んでいる人は内側にと、家の放射状に広がっていた。 「ともかく、その目撃した場所と時間に行って見たほうが良いと思います‥‥」 白蛇(ia5337)が控えめな口調でそう提案する。 「単なる夜逃げであればまだしも、アヤカシの仕業となれば放っても置けませんしね」 雪巳もそれは考えていたようだ。そんなわけで、皆で手分けして話を聞きに行く事にした。 「どうにもアヤカシが絡んでる気はするんだがねぇ。失踪した奴の家族は何も気づかなかったのか?」 そう聞いているのは御神村。しかし、日常生活は普段どおりで、気付かなかったらしい。 「それらしい前兆はなかったのか?」 雪巳が尋ねると、なんでも居なくなった日には、必ず霧が出ていた事が判明する。 「こうして見てると、普通の人に見えるだけどな‥‥」 御神村 茉織(ia5355)が避難民を見回して言う。ちらほらと、まだ若者はいるようだ。折りしも、霧も濃くなり、行方不明になると言う条件が整いつつある。 「霧は好き…けど…この霧の中には…何があるのかな…」 日が暮れるのを待ち、警備を兼ねて、見張りに付く事にした開拓者達。視界に閉ざされている空間に、白蛇は緊張した様子で、その霧を見回した。そろそろ、眼を目撃した頃合だ。 と、その時である。避難の話がまとまって、皆準備しているにも関わらず、来ていない者がいるとの報告が入る。 「何でも、こことここの長男と次男が、まだ家から出なくて、普通に果樹園へ向っちゃったらしいのよぉ」 告げるように言い含めておいた華御院が、そう報告してくる。該当者の家で向うと、霧の向こうへと歩き出す若い男性の姿が2人。 「残っていた人が動き出したようですね。気をつけるようにお願いします」 そっと跡をつける雪巳。相手の動きは、他の村人より遅く、こちらに気付いている気配もない。ただ、農機具を持って、果樹園を通り抜けて、森の方へと向っていた。 「あれは‥‥霧の向こう? この森、どこに繋がってるんだ?」 御神村が村の地図を確かめると、小船腹平原の方だと書いてあった。確か、アヤカシが大量発生している地域である。 「ちょっと、見てくる」 白蛇、そう言って草木染の外套を羽織る。深い緑色の上着は、彼女を川べりの草へと覆い隠した。 「気をつけて」 「ん‥‥」 雪巳が心配そうに言う中、抜き足差し足シノビ足。足音1つ立てないまま、2人の跡をつけていく。 「眼の催眠能力か何かで連れ去られた可能性もあるかな…。至近距離で眼を視認するのは…不味いかも…」 おっかなびっくりと言っても過言ではない姿だったが、頭の中は冷静だ。木々に身を隠し、じっくりと周囲を監察する。血の跡こそなかったが、その霧の周囲には、本来あるはずのない守り袋が落ちていたり、鍬がひっくり返っていたりした。鏡があったほうが良いかなと、懐に手を突っ込んだ時、目の前の2人は、そのおぼつかない足取りのまま、森のほうへと入って行くところだ。 「あの人、霧の中へ入って行く‥‥」 まずい。と思った彼女、霧の正体よりも、村人の保護を優先するよう、御神村に頼まれていたので、迷わず回れ右して、濃くなってきた霧に警鐘をならす。 「仕方がない。ちょっと痛いが、我慢しろよ」 知らせを聞いた御神村が走り出す。ふしぎも後を追いかけた。と、彼は村人の正面に回りこんだ所だ。とすっと当て身を食らわせれば、気を失って崩れ落ちる村人。 「どうやら、操られていたようですね。船も警戒したほうが良いでしょう」 このままにしておくわけにはいかない。そう判断した雪巳は、4人で手分けして、ひっくり返った者を村まで連れ帰るのだった。 翌日。 3周目を終えたところから、物語は再開する。停泊には、村に一番近い桟橋が選ばれた。これは、美空曰く『町に停泊していればとりあえずは守りやすいのであります』との弁による。 「うー。船足が思うように出ねぇな。だいぶ無理させちまってる」 戻ってきた船長が、呻きながら戦隊の様子を確かめている。確かに、帆は重く垂れ下がり、まとわりつくような湿気が、表面に薄い水滴となっている。幾分冷えてきた空気の中、その水滴をふき取り、何とか表面だけでも水を落とすと、休憩所になっている村長宅に戻ってきたのだが。 「船長お帰り…食事にする? お風呂? それとも寝る?」 新婚の嫁かっと突っ込みたくなるような格好で、にこっと笑顔を浮かべるふしぎ。 「‥‥風呂場で飯食って寝てやる」 これで彼女持ちが信じられないくらいの美少女っぷりに、頭を抱えた船長がそう言うと、横合いから予定表の貼り付けられた板切れをもった美空が当然と言った様子で、割り込んでくる。 「それじゃおぼれちゃうでありますよ。まずは疲れを落として、栄養を補給、然る後体を休めるであります」 「おまい、昨日も寝てなかったじゃねーか」 その美空が顔色悪そうにしているのを見た船長、わしわしと頭をなで回す。が、美空はそのおててを払いつつ、へんっとふんぞり返る。 「一週間頑張れば、どうにかなるであります。さぁさぁ、汚れた上着は脱いで、風呂に入って、あっためるでありますよ」 「って、若い姉ちゃんが男脱がしに掛かるんじゃねぇっ」 がりがりと上着を引っ張られ、慌てて取り返そうとする船長。ここでも脱がす者と脱がされる者が逆転している。開拓ギルドの拠点では、往々にして見られる光景に、わきっちょから意味深な笑みを貼り付けたままの空が、がしっとその肩を掴んだ。 「途中で立ち往生なんてコトになったらシャレになんねぇからなァ。整備もしっかり頼むぜぇ」 「わかってらぁな。ちょっと言って見ただけだっつの」 ちけぇよ、お前。とジト目の船長。 「休憩終わったら、2便目を頼む」 同じく船上にいた祀も下りてきた。定期船のような大型船ならば、マストや見張り台もあるのだが、船長のような小型船は、船員用のベッドと簡単な台所があるのがせいぜいだ。その分、甲板は非常に見晴らしがいいので、敵影の監察には絶好のポジションではあるのだが。 「強行軍だなー」 「無理はしないでくれよ。護衛は俺がやっておくさ。船がうごかねぇんじゃ、元も子もねぇからな」 何しろ、最終便は3便目が待ち構えている。交代要員として護衛につく御神村。だが、忙しく走り回る開拓者達の姿は、村人に緊張感をもたらしてしまったらしく、中には「本当に大丈夫なのだろうか‥‥」と、不安そうな顔を浮かべている者もいる。 「そない緊張しなくてもええどすわぁ。折角やて、うちが一つ、舞をしやすんで、見とってくれやす」 と、そんな彼らの前に、衣装を纏った華御院がふわりと舞い降りた。寄り合い所には、祭りの練習などで使う、ちょっとした台がある。霧の出ている状態では、流石に広場まで連れ出すわけに行かないので、彼はそこで舞う事にした。歌舞伎風の、きちんと物語のあるものを選び、せめてもの慰めに。 「避難の手が足りない奴は言ってくれ。何とかするから」 少しづつ。でも確実に。御神村もそう言って、村人達を安全な場所まで運ぶのだった。 ところが、最終便を運行していた時、風が急に変わった。吹き込むような向かい風。にも関わらず、霧は晴れない。 「く、これが霧の目か‥‥。やはり、関係があったようですね」 祀が周囲を見回しながら、船べりへとかけよる。と、その先で、まるで霧が凝るように。うっすらと光る目。やはり、思った通り川に浮かぶ霧と、関係があったようだ。 「ウォォォォン‥‥」 目が、少し細くなった。笑ってる。そう見えたのと童子に、彼女は叫んでいた。「アヤカシだ!」と。 「ふん。待ってたぜぇ。俺様が相手だ!」 くわっと目を開く空。祀が心眼を使えば、霧そのものがアヤカシの体だとわかる。 「こっちも出てきたみたいどすなぁ。血を吸われへんよう、気をつけておくれやす」 華御院が、周囲を見回してそう言った。彼もまた、心眼を使える見。村人から聞き出した話では、まとわりつくように攻撃してくるようだ。中心にいると、まるで血が足りない時のような感覚になるらしいとの事から、おそらく吸血能力があるのだろうと、彼は告げる。 「やはり、この霧が原因なんだね‥‥」 「かと言って、戻るわけにいかねぇだろ」 残念そうに言う白蛇を、船長が一喝した。既に、村からはかなり離れている。足場は悪いが、ここで戦うしかないと。 「船長、後どれくらいもつでありますか?」 「離陸まで一刻ってとこだな。舵が‥‥重ぇ‥‥っ」 予定表と書かれた板を持った美空が、そう確かめると。船長は舵を大きく切った。直後、どてっぱらに激しい音。船員用の部屋で、最後まで残った者達が符湾そうにざわめいている。 「だとしたら、つっきった方が早いわ。船長さん、お願いできる?」 「もうやってんだよ!」 雪巳が目玉の数を数えてそう言うと、船長は左脇のレバーをぐいっと前へ押し込んだ所だ。数値が書いてあり、その一番上には『速度:七』と明記されている。 「弱点は、さすがに目どすかね」 正体はまだよく分からないが、霧に浮かぶ目に長脇差を振るえば、手ごたえはあった。どうやら、幽霊と言うわけではなさそうだ。 「実体化していればいいんだがな‥‥」 そこへ、祀が心眼を使う。今度は、敵の数を把握する為に。 「く‥‥。視界が‥‥」 が、敵もただやられては居ない。その直後、霧全体に、今度はいかにも生身な目玉が浮かぶ。目が浮かぶ位置と生命反応が重なっているから、おそらく別のアヤカシを呼び出したのだろう。あるいは、目撃されたのがこの目玉なのかもしれない。 「お前ら、返事しろつーの」 視界を閉ざされた空が大声で叫んだ。心眼で確かめると、敵の数は、自分達と同じくらいだ。だが、雪巳や美空と言った後衛も居る事から、空は精霊剣を振るう事にする。 「航行の邪魔はさせないでありますよ! がんばれー!」 その美空は、速度を上げ、防御力を増す神楽舞を踊っていた。一応、弓を持ってきているが、雪巳も神楽舞で支援に出ている。同じ様に踊った方が良さそうだ。 奔放な踊りと、静かな舞の力が、開拓者達を包む中、目玉達は距離を取ろうとする。船から動けない事に気付いたようだ。 「離すかよ! 狙え!」 「群だと困ります。えぇいっ!」 空が弓に持ち帰る中、白蛇は火遁の術で生み出した炎を、目玉アヤカシへと浴びせかけた。と、霧が少し薄くなり、目が焦げたように見えた。 「どうやら、あれが本体のようです‥‥」 霧の目。報告書にあった通りの特徴だ。残念ながら、目の中に行方不明の村人の姿はなかったが、それでも彼女はクナイを投げつける。返す刀でもあるかのように、霧が包みこもうとしてきた。が、そこへ空が立ちはだかり、槍を振り回す。 「ヒヒッ、俺は害意の壁。そう易々とは突破はさせんなァ」 意地悪く笑うのは、正確ゆえだ。ただし、向けらているのがアヤカシの今、それは頼もしくさえ白蛇には思えた。 「船長、もう少しよれるか?」 「おう。しっかり捕まってな!」 祀がそう言うと、船長はぐいっと霧アヤカシの方へ、船体を寄せる。呻いたわけではないだろうが、アヤカシが乗り手を包みこもうとした刹那、美空は焙烙玉に点火する。導火線がじりじりと燃える中、よっこいせと抱えあげた彼女、よろよろしながら目玉の方へ。 「あ、危ないッ」 生身目玉の方が、そこへ突っ込んできた。彼女の重さでは避けきれない。攻撃を御神村のクナイが弾くが、よろけた美空が玉ごと目玉の上へ。 「焙烙玉ストライク!」 ごすっと盛大な撲殺音がした。アヤカシの表面を流れる水気で、火が消えてしまったものの、目玉は既にぺちゃんこだ。 「もう、誰も襲わせはしないんだからなっ。見切った…炎精招来、縦一文字斬りっ!」 「以て貫く激動の槍!」 ふしぎの剣と、空の槍が、霧の目玉の中心部を貫く。直後、霧は文字通り霧散するのだった。 船で村人達を避難させたあとも、仕事は続いた。なぜなら、まだ村人を連れ出したのが誰なのか、わからずじまいだったし、避難所に放り込んでそれまでとは行かなかったからである。 「うーん、いかに寄せ手を募集とは言え、戦地に送り出すのは、いかがなもんと思うんどすけど‥‥」 華御院が、普段仕事をしている酒場の主人に繋ぎをつけてくれた。そのおかげで、村人達は緑茂の里で、民兵の仕事へとありつく事が出来た。だが、流石に戦場になるのが分かりきっているので、彼の顔はあまり浮かない。もっとも、船長の口ぞえもあって、どちらかと言うと避難所の自警や、その他のお世話が中心なのだが。 「ほなら、1つ、慰安の舞でも踊りましょうかいな」 今日も優雅に舞う女形。苦労ねぎらい、人思うかな。 |