草原の海に浮かぶ島
マスター名:ほっといしゅー
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/12/23 10:44



■オープニング本文

 開拓を命じられた倉川八郎平にとって、最初の冬を越せるかどうかの山場は越えたようであった。
 あれから、彼は余塚に家族を置いたまま、開拓予定地の端っこに小屋を建てひとり移り住んでいた。日に日に隙間風は厳しさを増し、夜は布団を余計に掛けないと眠れないほどになっていた。反対側の進捗具合とはうって変わって、この倉川の西岸は全くの手つかずであり、広大な湿原が一面に広がっていた。長年行っていた壱師原各地の干拓事業を見ても、この面積を耕地として整備するのには途方もない時間がかかるだろう。どうしよう。ここへきてしばらくは、ただ無為に過ごすだけであった。
 ただ、祁瀬川景詮の下した、開拓の命令が冗談でないことも、遠回しな自決の指示でないことも、彼にはよくわかっていた。どんな無理難題をふっかけられても、一人で超人的な働きをこなすことを求められているわけではなく、景詮は自分にできることを求めているのだ。と、そう彼は考えを変えることにした。このまま開拓の作業にかかることが無理なのであれば、さて、では自分のできることとは何だろうか。焦りつつもそう思い悩んだ末、彼はまず計画を立てることに思い至った。その計画さえしっかりしておれば、景詮はあの仏頂面でも資金を工面してくれるだろう。景詮の家臣である小槙元綱が話を聞いてくれるらしいが、それはそのときのために違いない。
 冬を目前に結論を得た彼は計画の第一歩として、どのような形で整備するかの構想を思い描いた。南北に流れる倉川から、東側は大きな用水を中心として開拓が進められていたが、西側は何本も並行して細い用水を伸ばし、その間に短冊状に切り分けられた田圃を作る形とした。東と違い奥地まで水を届ける必要はないため、この用水の規模で水が足りるだろう、という目算であった。
 計画の全体像が浮かべば、次はどれくらいの用水が必要か、実際出向いて確かめることが次の作業である。これを春が来るまでに終わらせようと思いたち、彼は湿地の中へ踏み分け、田にしたときの水のはけ具合を気にしながら、適切な短冊の幅を見抜こうとしたが、そこで思わぬ邪魔が入ったのだった。
 湿地のちょうど中央に、庄屋の家1軒くらいの大きさの、小さな丘があった。その丘を包むように樹木が生えてい、これは後に焼き払ってしまう考えだったのだが、その林の周辺に彼はアヤカシの姿を見つけたのだ。
 それは騎馬に跨がり、槍を携える陣羽織の鎧武者の姿だったが、はじめ八郎平は不思議に思いながらも、家臣団の誰かだと思って気にしないでいた。それが日を追うたびに騎馬武者姿が増えていったのと、たまたま面会した元綱に話したことで、これが誰のものでもない可能性が高いことが判明したのだ。また、彼らが馬賊という可能性も、ここ壱師原の地では皆無と言ってもよい。
 騎馬武者の身につけている具足も古風なしろもので、今では景詮以下誰も使っておらず誰のものかも判然としない。ただ、当初からいた武者の、筋兜に据えられた立物だけは、八郎平の目を引くのには十分なできのものであった。
 それは鬼の一本角のような大きく前に張り出した、1尺半から2尺はあろうかという長い金箔押の前立で、先端が刀の切っ先を上に向けたように尖っているものである。正面から見てあまり目立たない立物は珍しく、元綱もそれを聞くと驚いたように彼に伝えた。
「それはもしや、わが主家に代々伝わる立物かもしれませぬな。‥‥アヤカシについて、殿に掛け合うてみましょう」


■参加者一覧
御凪 祥(ia5285
23歳・男・志
赤鈴 大左衛門(ia9854
18歳・男・志
ジルベール・ダリエ(ia9952
27歳・男・志
久悠(ib2432
28歳・女・弓
寿々丸(ib3788
10歳・男・陰
長谷部 円秀 (ib4529
24歳・男・泰
藤吉 湊(ib4741
16歳・女・弓
鏡華(ib5733
23歳・女・陰


■リプレイ本文

 依頼の受諾の際、倉川八郎平の上役である小槙元綱の説明を聞いてはみたが、長谷部 円秀 (ib4529)の疑念はどうにも晴れなかった。何の前触れもなく、アヤカシは突然姿を現すのであるが、時機と内容があまりにも人間的で極めてできすぎていたからだ。
「どうも、胡散臭いんですよね。鵜呑みにはできません。‥‥気になりますねぇ」
 八郎平の掘っ立て小屋へ向かう道中で、彼は本音を口にした。八郎平とも話したあと、この地域の来歴を調査しアヤカシの手がかりを探す作戦だったが、考え方によっては全く別の予想もできたのである。
 もしも、これが人間の仕業だったとしたら――アヤカシには武家に代々伝わる立物など興味ないだろうし、騎乗した姿というのもあまり例を見ない。しかしこれが倉川干拓の発展を阻止しようとする何者かによって仕組まれたものであったら、この現象について一応の説明は付く。ただそれでも、誰が何のために、を考えると説得力は低くならざるを得ない。壱師原勢に敵対する者の企みであれば、ここ以外にも干拓地、ましてや耕作の始まったものは多く、また内部の者の仲間割れであれば、わざわざ主家にまつわる小物を使って貶めるという危険を冒すこともないだろう。
「俺は墓やないかと思うとるけどな」
 ジルベール(ia9952)の予想に赤鈴 大左衛門(ia9854)が同調した。盛り上がった林は、それが墳墓やその類であることの現れかもしれない。また、藤吉 湊(ib4741)が墓という単語に興味を示し、ふたりの間に割って入った。アヤカシが守るものって、何なんやろ。
「墓って、なんや、曰くありげやないか。おもろいもんでも見つかりそうやな」
 3人の意見に、瘴気と化して消えてしまうアヤカシが、自分たち、あるいはほかの生き物の墓を作って守るとは思えないと円秀が反論すると、大左衛門はさもありなん、と大きく頷いた。
「そりゃァ、人と同じに考えちゃいけねェたァ分かっとるだスが‥‥」
 それ以上の答が得られたのは、もう少し時間が経ったときのことである。
「倉川殿も開拓者というわけか。苦労しているな」
「だスな。この件ァワシも関わっとるだスからな。できる限り合力するだス、なァ八郎平さぁ」
 掘っ立て小屋にて八郎平と顔を合わせたとき、久悠(ib2432)はいたわるように声をかけた。また大左衛門は、身分が変わって再開した彼があまり変わっていないことを確かめるとちょっと安心した。ただし、この小屋の普請の悪さには、ふたりとも眉をひそめざるを得なかったが。
 開拓者を前にし、彼は早速説明をはじめた。途中大左右衛門の質問に対し、八郎平が以前この周辺で合戦があったことを認めると、開拓者の予想は、アヤカシの集う丘に誰かが葬られたか、あるいは戦死者が祀られているかのどちらかに大きく傾くこととなった。
 それに続けて、壱師原の領袖、祁瀬川家をはじめとする志士団と、現在の多くの領民は、その合戦のあとでこの地へ入植してきたと彼は語った。つまり、それ以前の古文書は、公的には壱師原には残っていないということだ。そのほかに、八郎平の祖先など、いくつかの集落が古くから村を構えてはいたが、そのときの様子を知るものはごくわずかだという。
 それから話は、アヤカシ自体へと移った。御凪 祥(ia5285)に全体的な印象を問われて、アヤカシを構成する瘴気だけでは醸し出せない、なんとも落ち着いた雰囲気を放っていると彼は述べた。また、彼がアヤカシを観察していたのはかなり近くであったので、これには鏡華(ib5733)がよく見つからずに済みましたねと、しきりに感心していた。彼の話すところでは、枯れ草が腿くらいまで伸びているので、隠れるのはそれほど難しくはなかったという。しかしアヤカシを前にしてさえ立物や数まで把握する彼の冷静さについては、これから彼女が開拓者を続けていくにあたっては、見習っておくべき有用なことであることには間違いはなかった。そうでなければ人の上には立てず、アヤカシと対峙するならば、なおさらのことなのだろう。
 話が終わったあと、彼は開拓者からの質問攻めを受けた。アヤカシの数や様子など子細にわたり彼は答えたが、特に耳目を集めたのはその数の増え方だった。一般的なアヤカシのように、力を蓄え大きくなるのではなく、似たような騎馬武者が1騎ずつ、数日おきに現れているとのことだったからである。
「まばらに増えてゆくとは‥‥なんとも珍妙でございますな」
 馬がいて、鞍を乗せて、鎧を着た武者が乗る――順を追って騎馬ができあがっていく様子を想像し、寿々丸(ib3788)は首をかしげた。しかもアヤカシはその場から移動する素振りは見せなかったという。それではまるで、配下が揃うまで待ち、戦の準備をしている騎馬大将のように彼には映った。
 アヤカシの全体像が掴めたところで、開拓者たちは八郎平の小屋をあとにし、さらに当時の状況を伝え聞いている者を捜しはじめた。彼の話のとおり手間取ったが、祥と円秀が根気よく聞き込みしたことで、日暮れ時にはある集落の語り部をなんとか見つけ出すことができた。
 その語り部によると、実際に合戦があったのは倉川の東岸だという。そこで深手を負った大将が、西へ逃げ、川を渡った後力尽きたことを、彼はすらすらと暗喩した。祥が訊いた、大将の兜の立物がその後、なぜ領主の家に伝わるのかについてまでは口伝されてはいなかったが、これで日々増えるアヤカシの素性についてははっきりしたと言えるだろう。ここからは開拓者たちの想像になるが、開拓に着手したことで騎馬武者の何らかの思念が蘇り、それをアヤカシの発現する依り代に都合よく利用されたものではないだろうか。
「開拓も立場を変えれば侵略になりうる‥‥なんとも因果な事やね」
 ジルベールはつぶやいた。もし、開拓されることがなかったら。かつてのつわものたちは草葉の陰でゆっくりと休んでいたのだ。結論を得、開拓者たちは複雑な気分に駆られていた。しかし、アヤカシの存在は罷りならないものであることは明白である。
「倉川に縁ある者ならば、ここが拓けるは本望‥‥のはず」
 久悠の揺れ動く心がその語尾に表れていたが、しかし彼女は毅然と言い放った。

 日を改め作戦を決行するにあたって、開拓者たちはまず川沿いから、また空中から、遠巻きの偵察を試みた。甲龍の背から湊の見た小さな丘はこんもりと盛り上がってい、そこ以外に周囲に低木も含めた樹木が全く生えていないことから、まるで孤島のようにも見えた。
 その島の周りを、数騎の騎馬がうろうろしていた。また木の枝葉越しにちらちらと見え隠れしているのが別の騎馬のようである。彼女の見立てでは、数にして10騎前後のように思われた。
「あかん。煉角、もうちっと低く飛んでぇな、もー」
 今日の龍はご機嫌斜めだったようだが、彼女の下、もう少し地上に近いところでは、寿々丸の放った人魂が蝶の姿をとって漂っていた。
 何か良いものがあればいいですな。その距離からはもう少し、騎馬の詳しい姿が確認できた。武者は槍のみを携え、脇差や弓矢などは持ち合わせてはいないようだった。
「たしかに、何かを守っているようにも見えるが」
 地上から丘を見、久悠は率直な感想を述べた。八郎平もこうやって見間違えたのだろう、彼の言うとおり、武装済みの騎馬がただ野営しているようにしか見えなかった。そして騎馬の集団の真ん中に、立物付き兜の大将首がある。
 相手が騎馬と言うこともあり、作戦は周到に練られた。アヤカシがどのような攻撃をするかは、実物を見てみないことには何とも言えないのだが(鋭い牙で馬が噛みついてくるかも知れない!)、もしも騎兵の突撃を受けてしまっては、徒の足軽――すなわち開拓者のことである――はひとたまりもないのだ。
 そのため、一般的な対策として用いられている馬防柵を罠として開拓者も採用した。もっとも、資材の関係上、湊が周辺の集落に頼んで貰い受けた数本の杭を並べ、縄で縛るという簡易なものであった。簡易なものとはいえ、馬が驚けばそれでいいのだ。また、驚かずに突入してきた場合でも、横に張った縄で防ぐことができるから、これは十分に合理的な選択であった。
 できうる限り丘に近づき罠の設置を行ったあとは、この罠へ向けて騎馬をおびき寄せなければならない。この囮は祥と大左衛門が名乗りを上げた。
 祥は同じ槍遣いの士とあって、正面から挑んでみたいというはやる心を落ち着かせるのに、難儀していた。今回は囮だ、熱くならぬようにせねば。そう思いながらも、槍を握る彼の手にはいつもより多くの汗が滲んでいるようだった。
 緊張しているのは、柵の後ろにいる者達もさほど変わりなかった。特に弓を手にする3人は、柵に到達する前に騎馬をどれくらい消耗させるか、に重きを置いて待ち構えていた。一射一騎とはいかなくとも、馬の機動力を削ぐ形で白兵戦に持ち込まねば苦戦は必至である。
 罠の設置が終わり、前方で囮のため待機しているふたりへ合図するため、霊力をこめて湊は矢を番えた。
「こン土地ァお前ェ等の居てええ場所じゃねェだスよ!」
 空気を切り裂いて鳴る鏑矢の音と大左衛門の掛け声によって、アヤカシは敵の存在を認識した。騎馬が向かってくるのを確認すると、大左衛門と祥はくるりと背を向け、全速力をもって駆けだした。追いつかれては罠として柵を設けた意味がなくなってしまう。心臓が喉から飛び出してきそうなほど動悸し、呼吸のため開けた口を閉じることができなくなるくらい、瞬間的な酸欠と疲労にふたりは襲われた。
「やあやあ、われらは開拓者なり。北面は壱師原守護、祁瀬川景詮が命により参った! いざ尋常に勝負や!」
 例の立て物付きへ向かって、声が届くかどうかわからない距離から、ジルベールは鬨の声を上げた。これをもって、いよいよ戦闘が開始された。
 直後、息も絶え絶えのふたりのその頭上を、ひっきりなしに矢が飛び越えていった。久悠の音頭によって3人が連携して放つ矢はことごとく同じ目標を捉え、あるものは馬ごと前のめりに転倒しそのまま起き上がらず、あるものは矢の衝撃によって馬上からはじき飛ばされ、またあるものは馬に跨がったまま武者が射貫かれ、その姿を保って力尽きていた。そうやって戦う能力を失った騎馬は、いずれ溶けるようにかき消えていった。アヤカシであることの証左である。
 ふと鏡華は、大人10人ほどの重さのある騎馬が、地鳴りのような音を響かせて真正面から向かってくるのを見、今回が開拓者になって初めての依頼だということを改めて思い出した。こんな大仰な相手を、ねえ‥‥。しかしその退屈そうな感慨も、すぐ戦雲に紛れ、彼女は陰陽符へ意識を戻し集中した。
 射撃により騎馬の数は7騎まで数を減らしていた。囮が死にものぐるいでその身体を柵の向こう側へ押しこんだ直後、騎馬は柵の目前へと差し掛かった。
「ほれ見い! 猟師出身は伊達やないで!」
 作戦は奏功した。柵を目の当たりにし、アヤカシはまるで本物の騎馬のように足を止め、前脚を跳ね上げいなないた。それを見た湊の歓喜の声をまた合図に、待機してた開拓者たちが浮き足だった騎馬へ攻めかかった。囮のふたりも息を整えると、槍を手にとり息を吹き返すと、即座に取って返すのだった。
 乱戦では、小回りのきく陰陽術が猛威を振るった。寿々丸も鏡華もまずは式によってアヤカシの動きを封じてから相対した。騎馬武者はまとわりつく小鬼などによって動きが鈍らされただけでなく、間合いにうまく柵を挟むことによって、振るう槍が巧みにかわされ、またたく間に窮地へと追い詰められていった。鏡華はその様子を眺め、動きにくいのってどんな気持ち、と意地悪な笑みをうっすらと浮かべていた。
 一方、予想されたことではあったが、後衛をかばって盾になった志士の3人は騎馬を相手に、非常に苦しめられた。柵によって動きを封じたことは確かだが、それでも騎馬には高さという武器があった。なおかつ長い槍を手にしているため、志士優位の間合いを取るのが非常に難しかったのだ。だがそれで音を上げてしまっては、開拓者は務まらない。祥と大左衛門の槍が、あるいは円秀の刀が、果敢にアヤカシに挑んでいった。3人は手傷を負いながらもよく冷静に対処し、馬を狙う戦術を共通して採用した。祥は騎馬武者よりも長い槍の長さを活かし、馬の足を引っかけた。また同じく槍を使う大左衛門は、大きくしなる槍の柄を用いて、騎手が落馬するよう仕向けた。
「向かってくるならば――容易い!」
 しばらくの後、決定的なひと振りは、立物兜の後の先で斬りかかった円秀の流れるような太刀筋から生まれた。馬上の人物は一瞬戸惑ったあと、馬の背からドウとくずおれるように落ちた。円秀が残心を静めると、今までの白熱が嘘のように、騎馬武者たちも、またそれが身につけていた立物も跡形もなく失われていた。

 丘の検分には、八郎平だけではなく、元綱や久賀綾続、さらには領主、祁瀬川景詮も現れ、ちょっとした行事のような賑やかさになった。つつがない様子の綾続は、見知った開拓者の姿を認めると二言三言の軽い挨拶を交わし、ねぎらいの言葉をかけた。
 アヤカシ退治ということで念には念を入れ、景詮は甲冑に陣羽織を着込んでいたが、張り子を被せた烏帽子兜と、帝国式板金鎧を彼女の体型に合うよう叩き直した胴、景詮のため独自にあつらえたこの2点以外については、今回の騎馬武者とほとんどそっくりな甲冑であるということに、開拓者は驚いた。
 この地由来のものではなかったらしく、瘴気はほぼ完全に消え去っていた。一同が林に分け入ると、下生えの生い茂った丘の麓に、小さな祠が鎮座しているのがすぐに見つけ出された。木製の社殿は長い年月が経ったのか朽ちかけており、観音開きの小さな戸も封印が破れ、容易に開くようになっていた。
 代表して綾続が戸を開けた。皆の予想通り、戸の中には件の立物が祀られている。
「おそらく、兼詮公のものでしょう」
 立物を取り上げ、語り部の言っていた大将のものと思われる名前を、綾続は口にした。景詮は彼から立物を受け取ると、一角獣やカブトムシの角のように、兜にはめ込んだ。
「あるべきものが、あるべき場所へ戻った。礼を言う」
 兜を被り直し、開拓者へ向けて感謝の意を述べたあと、景詮は八郎平に向き直った。
「この丘は役を果たした。使うて構わぬ」
 それに対し、ジルベールと久悠が異論を唱えた。古いものが消え、新しいものが生まれる、これもその自然の理と何ら変わるものではない、と景詮は説明した。いずれにせよ、この草原に浮かぶ島には記念碑的価値しかない。景詮は過去に囚われないのか、それとも過去から目を背けるのか。評価は人それぞれである。