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■オープニング本文 ※このシナリオは【混夢】IFシナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。 20XX年――。この世界でアヤカシと言う存在は、人間の闇の心から生まれたモノ。人間の憎しみ、悲しみ、怒りなど、負の感情から生まれたアヤカシは、自分を生み出した感情を糧に成長する。はじめは一般人の眼には見えぬ存在であるアヤカシも、多くの負の感情を得れば実体化し、人間を襲う存在と成る。 そんなアヤカシの存在を感じ取り、また退治できる能力を持つ者達を、人々は『開拓者』と呼んだ。 開拓者達は『開拓者ギルド』という会社に所属し、様々な依頼を受ける。しかし一人前になる前に、私立ギルド学院に通わなければならない。学院を卒業して、はじめて『開拓者』としての認定を受けることができるのだ。 学院に通う生徒達も、実習として依頼を受けることがある。そこでは日々、様々な依頼が持ち込まれるのであった。 『あなた』は学院の生徒となり、立派な開拓者になる為に持ち込まれた依頼を解決してください。 私立ギルド学院の受付コースに所属する女子生徒、鈴奈は困っていた。 「参ったなぁ…」 困り果てた彼女は、コースの担当教員の芳野を頼ることにする。職員室に行くと、芳野に声をかけた。 「あのぉ、芳野先生。ちょっとご相談したいことがあるんですけど……ここじゃちょっと」 「ん? じゃあ生徒指導室で良いか?」 「あっ、はい」 職員室の隣にある生徒指導室に移動した二人は、机をはさんで向かい合って座る。 「そんで俺に相談ってのは?」 「はっはい…。実はわたしの友達で、桃霞ちゃんという女の子がいるんです。彼女は私立の女子校に通っているんですが…」 桃霞が通う高校のクラスメートの一人で、華子(かこ)という女子生徒が最近、登校して来ない。彼女と仲が良かった桃霞は友達と一緒に、華子の見舞いに行った。しかし華子はベッドに寝たまま、一向に起きない。不審に思い、華子の両親に話を聞いてみた。 「そしたらどうも彼女、一週間以上も眠ったまま起きないらしいんです。華子さんのお父様は大病院の医院長でして、医者に診てもらっても原因が分からないらしいんです。それでもしかしたらアヤカシの仕業ではないかという話が出たらしく、ギルド学院に通っているわたしを頼ってきたんです」 「眠り…と言えば、悪夢系のアヤカシか…」 芳野は腕を組み、難しい顔をして呟く。 人間が悪夢を見た時に感じる恐怖などの負の感情から生まれたアヤカシは、主に感受性の強い若い女の子を狙って取り憑く。憑かれた女の子達は良い夢を見る。それこそその夢が覚めてほしくないと強く願う程に。しかし夢の中にいればいるほど、女の子達の生命エネルギーはアヤカシに奪われ、やがて最悪の場合は衰弱死する。アヤカシに取り憑かれた場合、どんな薬でも回復させることは不可能。まずは本人が夢から覚めることを願わなくてはならない。 「まずはその華子さんとやらが好きだったモノを調べあげないとな。何か好きだったものとかあるか?」 アヤカシは夢に人間を捕らえ続ける為に、好きなモノを見せる。 問われた鈴奈はカバンから手帳を取り出し、開いて読み上げた。 「えっと…。彼女は恋愛に強い憧れを持っていたらしいです。でもおウチが厳しいですし、表立っては恋愛ができないことを不満に感じていたようです。後は甘いケーキなども大好きだったみたいですけど、親が医者をしているのでたくさんは食べられないとも言っていたらしいです」 鈴奈の説明を聞いて、芳野は困惑気味に苦笑する。 「まあ年頃の娘さんらしい好みと悩みだな。それじゃあ夢の中ではイケメンと恋に落ちて、甘い物をたらふく食っているんだろうな」 「…多分」 男性からしてみればバカバカしい夢でも、華子のような女子高校生にとっては憧れなのだ。ゆえに一週間以上も夢から覚めない。 「はあ…。とりあえず先に夢を覗けるヤツを調査に向かわせるか。華子さんの家の連絡先は?」 「あっ、コレです。書かれているのは自宅の電話番号です」 鈴奈からメモを受け取った芳野は、強く頷いた。 「うしっ。そんじゃあ早速ウチの者を向かわせるか」 開拓者の中には、悪夢系のアヤカシが見せる夢限定に覗き見できる能力を持つ者がいる。彼らが調査に向かい、出した結果報告書を見て、芳野と鈴奈は眉間に皺を寄せた。 「…何つうか、考えていた通りだったみたいだな」 「ですね」 夢を覗き見してきた者の報告では、華子はやはりアヤカシに囚われている。その夢では様々な種類のケーキが巨大化しており、彼女は可愛らしいピンクのドレスを着たお姫様姿になり、喜びながらケーキを貪っているらしい。街らしい所にある建物なども全てお菓子でできており、見ているだけで胸焼けを起こすみたいだ。 そして巨大なお菓子の城には韓流スター並みの美形な青年が、白馬の王子様のような格好でいる。甘いマスクで甘い言葉を華子に囁き、寄り添う二人はまるでバカップルのように見えた。 「…しかしその王子様からアヤカシの気配を察知した、と」 「自分に夢中にさせて、夢から覚めなくさせているんですね」 「だろうな。しかしお菓子の街と城に、韓流スターみたいな王子様、ね。そういうのが最近の女子高校生の好みなのか?」 「いえ、それは個人の好みです」 一通り書類に眼を通した二人は、机の上に報告書を置く。 「とりあえずこのまま開拓者コースに依頼ということになるだろう。学生達はまず、意識を華子さんの夢の中へと入り込む。その後、華子さんを保護し、夢から覚めるよう説得する。そしてアヤカシの本体である王子様を倒さなきゃならんが、問題はそこだな」 「その王子様を倒すことを華子さんが望まなければ、妨害してくる可能性があるってことですね?」 鈴奈の言葉に、芳野は深く頷いて見せる。 アヤカシは華子の夢を乗っ取ってはいるものの、主導権は基本的には華子にある。彼女がアヤカシを退治することを拒絶した場合、開拓者達は彼女に攻撃される場合もある。そしてそこで重傷を負えば、現実世界の体も重傷を負う。 「しかも夢っつうのはデタラメときている。彼女がブチギレでもしたら、シャレにならんからな」 「…ですね。華子さんをできるだけ刺激せずに、納得させるようにしなければいけません」 彼女がアヤカシに心奪われているままでは、こちらが圧倒的に不利。 さて、『あなた』はどのように行動する? |
■参加者一覧
フランヴェル・ギーベリ(ib5897)
20歳・女・サ
黒木 桜(ib6086)
15歳・女・巫
羽紫 稚空(ib6914)
18歳・男・志
ラグナ・グラウシード(ib8459)
19歳・男・騎 |
■リプレイ本文 華子の父親が医院長として勤める病院の治療室には今、一週間以上眠り続けている華子と、四人の開拓者達がいる。五人はベッドで眠っており、しかし開拓者達の意識は華子の夢の中にあった。 夢の中に無事たどり着いた四人は、『開拓者』としての服装と装備品を身につけていることを確認した後、周囲の光景を見回す。 「お菓子の世界、か…。美味そうだな。ふふんっ、なかなかにメルヘンじゃないか。私好みだぞ」 ラグナ・グラウシード(ib8459)は口から垂れるヨダレを手で拭いながらも、お菓子の街をギラギラとした眼で見ている。 黒木桜(ib6086)は街の中心にある大きなお菓子の城を見上げ、うっとりしながら呟く。 「お菓子のお城なんて素敵です。それにこの街も何て夢のような…」 「夢の中ならば…桜とあんなこととかそんなこととか出来ちゃったりするワケか?」 桜の隣では、恋人の羽柴稚空(ib6914)が怪しい妄想をふくらませていた。 「コラコラ、みんな、そうじゃないだろう? ボク達は華子を助けに来たんだから」 フランヴェル・ギーベリ(ib5897)の一言で、三人はハッと我に返る。フランヴェルは真剣な表情で、お菓子の城を見上げた。 「悪夢系のアヤカシとは厄介だね。だが、必ず助け出さなければ!」 三人も真面目な顔で頷き、四人は城に向かって歩き出す。 城の門は開いており、砂糖で出来た花を食べている華子を庭で見つけた。周囲を見回すがアヤカシの姿はなく、四人はこっそりと華子に近付く。 「あのぉ…華子さん、ですよね?」 まず桜が華子を驚かせないように、笑みを浮かべながら声をかける。華子はビクッと体を揺らすと、驚愕の表情を浮かべながら桜に視線を向けた。 「あっあなたは?」 「私立ギルド学院の者です。あなたを救いに参りました」 桜は後ろにいる三人と華子を交互に見ながら、説明を続ける。 「自覚は無いようですが、あなたは悪夢系のアヤカシに囚われているんです。このままでは命の危険があります。どうか夢から覚めるように思ってくれませんか?」 「えっ? そんな…」 眼を見張った華子の背後に、突如一人の人物が現れた。 「華子、私を置いて行くのかい?」 現れた人物を見て、四人は警戒する。王子様の姿と形はしているものの、その身から出ているのはアヤカシの気配だからだ。 「華子、騙されるな! そいつはお前を利用しているだけだ!」 ラグナが険しい表情で一歩前に出て、説得にかかる。 「私こそがお前を救う真の白馬の王子だっ! 偽りの愛に溺れても楽しいことなんてないぞ! さあ、私の所に来い! 私がお前の魂まで深く愛してやろう!」 力説するものの、華子は申し訳なさそうに俯く。 「ゴメンなさい…。タイプじゃないんです」 「ほがっ!?」 「じゃ、落選者は退散しような」 稚空は哀れみを感じながら、硬直してしまったラグナをズルズルと引きずってその場から移動させる。 「じゃあ我々も城の中に移動しようか。どうやらキミ達は私と華子を引き離す為にやって来たようだし」 戸惑う華子の肩を掴み、無理やり城の中に入ろうとするアヤカシに向かって、稚空は騎士剣・ワイナーズテールを抜いて斬りかかった。 「させるかっ!」 「おっと」 「きゃあっ!」 アヤカシは紙一重で避け、その場から離れる。そして腰に下げていた剣を抜き、稚空と対峙した。 その間に、フランヴェルは倒れ込んだ華子の元に駆け寄る。 「大丈夫? お姫様」 「あっ、はい…」 フランヴェルの差し出した手を借りながら立ち上がった華子に向かって、お菓子よりも甘い笑みを浮かべた。 「間近で見ると実に可愛らしい…。ボクの名はフランヴェル・ギーベリ、踊っていただけますか?」 「えっ…? あっ!」 もう片方の手を華子の腰に回し、その場でフランヴェルは華麗なステップでワルツを踊り始める。 「ああ、ボクのことはフランと呼んでくれ」 「はっはい…」 あまりに突然の出来事に、他の四人も踊る二人に視線を向けた。 「王子である私が、侵入者と戦っている最中にお姫様に手を出すなんて感心しないな」 「これは失礼。彼女の愛らしさに理性が吹っ飛んでしまったのでね」 アヤカシとフランは互いに笑みを浮かべているものの、二人の間には火花が散っている。しかしフランはすぐに視線を華子に戻し、情熱的な眼差しを向けた。 「キミはこんな所にいるべきじゃない。ここは何もかもが甘い…甘味で出来た檻だ。居心地は良いだろうが、いずれその甘味に溺れてしまうよ。ボクと外の世界に戻らないかい? 甘さだけじゃない、たくさんのステキがキミを待っているよ。もちろん、ボクがキミをエスコートしよう。どうかな?」 「えっと…」 頬を赤く染め、恥ずかしそうに視線をそらす華子を見て、ラグナは複雑そうな表情を浮かべる。 「何で男の私がダメで、女のフランでああなるんだ?」 「ええっと…ほっほら! 『タイプじゃない』って言ってたじゃないですか。きっといつか、グラウシード様みたいな方が好きな女性と巡り会えますよ」 「そうか…そうだな!」 桜の必死の説得で、ラグナは何とか立ち直る。 しかしその間に稚空はアヤカシに剣の押し合いで負け、軽く吹っ飛んだ。 「ちっ!」 その隙にアヤカシは素早くフランから華子を奪い、お姫様抱っこをすると一気に城の二階のベランダまで飛び上がった。 「華子、キミにとってここは楽園だ。ここから出ればまた、あの窮屈な生活に戻ってしまう。それでも良いのか?」 華子の眼を真っ直ぐに見つめながら、アヤカシは怪しい笑みを浮かべる。 「あっ…」 不安に揺れた華子の眼。次の瞬間、地震が起こった。 「きゅっ急に何で…きゃあっ!」 「桜っ?」 桜の悲鳴を聞いて、稚空はそちらを見る。すると様々なお菓子達が、続々と四人に迫って来ていた。 銃を持った全長一メートルほどの兵隊達が、バタバタと四人を取り囲む。兵隊はクッキーの鎧を身に付け、本体はチョコレートでできている。 兵隊の一人が桜に銃口を向けそうになったので、稚空は【フェイント】を使って兵隊の注意を引き付ける。そして岩清水を懐から取り出し、兵隊達の足元に水をかけた。 「桜、頼む!」 「はい!」 桜は【氷霊結】を使い、水がかかった兵隊達の足を凍らせ、動きを止める。 「よっしゃ!」 再び剣を持ち直し、兵隊達に向かっていく稚空に、桜は【神楽舞「速」】をかけた。 「精なる光よ、彼の者の助けとなる力を与えよ!」 桜のスキルのおかげで俊敏性を高めた稚空は【瞬風波】を使い、直線上にいる兵隊達を風の刃で攻撃する。倒しそこねた者も、続いて【月鳴刀】で攻撃力を高めて切っていく。 「ヤレヤレ。華子の説得、後もう少しだったのにな」 兵隊が撃ってくる大砲の弾丸は、粘着力のある水飴でできている。その攻撃をタワーシールドで防いでいるフランは残念そうにため息をつく。だが表情を引き締め、周囲を取り囲んだ兵隊達に魔刀・アチャルバルスを抜いて切っ先を向けた。 「とりあえず、敵は倒しておこうか」 【回転切り】で一気に取り囲んだ兵隊達を倒す。そして大砲を撃ってくる兵隊の胴に、【払い抜け】を叩き込んだ。 「どけどけぇ! 私の大剣を、貴様らが受け止めるには重すぎるぞ!」 カーディナルソードを振り回し、ラグナは兵隊達を倒していく。 ところが稚空が桜から離れた隙に、全長二メートルもある巨大なショートケーキがガバッと口を開き、桜を頭から飲み込んだ。 「きゃああっ!」 一早く桜の悲鳴に気付いたフランはすぐさま駆けつけ、ケーキの両端を切り落とす。そしてラグナが少し開いた口から桜の腕を掴み、引き上げる。 「大丈夫か? 傷は甘い…じゃなくて、浅いぞ! しっかりしろ!」 必死になるラグナだが、フランは倒したケーキの口の中を見てある事に気付いた。 「このケーキ、そもそも歯が無いから怪我も無いよ。だから落ち着け」 ラグナの後頭部に手刀を叩き込み、フランは桜に稚空の方を指さして見せる。 「キミは恋人の近くにいた方が安全だ」 「はっはい」 無事に助け出された桜を見てほっとしている稚空の元に駆け寄ろうとしたが、突如、銃を持った一人の兵隊が桜の前に出て撃ってしまう。 「きゃっ…! くっクリーム?」 銃から飛び出たのは真っ白な生クリーム。しかしケーキに食べられた時に乱れた胸元から顔に、ベットリと付いてしまった。 桜はふと真顔になり、生クリームが付いた唇をペロッと舐めてみる。 「甘く…ないです」 「残念だけど、夢の中だからね」 しょぼん…とする桜に、フランは苦笑を浮かべながら声をかけた。 「…はっ! ばっバカ、桜! いつまでもそんな姿をしてんじゃねー!」 少しの間、呆然と桜の姿に見入っていた稚空は我に返り、慌てて桜の元に駆け寄る。そして上着のディープブルー・マントを脱ぎ、桜に差し出す。 「まっまあ俺だけ見るんなら良いんだが…。とにかく俺の上着を着ろ!」 「ありがとうございます」 桜は稚空から上着を受け取り、羽織る。 稚空は顔を真っ赤にしながら、生クリームを撃った兵隊を睨み付けた。 「もう桜に妙なもんかけんじゃねー!」 そして次に、周囲にいる者達に向かって叫ぶ。 「つーかこっち見るんじゃねー! …だーっ、もう! 何が何だかワケ分かんねぇ…」 頭を抱えてしゃがみ込む稚空だが、ふと桜の方を見る。桜はフランからハンカチを受け取り、顔を拭いているものの、拭いきれていない部分もあった。 「桜、ここにも付いてるぞ」 そう言って桜の顔に付いている生クリームを、ペロッと舌で舐め取る。 「あっ、すみません。稚空」 それを見たラグナの表情が般若面のようになり、近くにいた兵隊から銃を奪い取って稚空と桜に向かって撃った。 「うわっ!」 「やんっ!」 ラグナが奪った銃から飛び出したのは、チョコレートの液体だ。 「私の眼の前から消えてしまえぇ! このリア充どもぉ!」 「…ラグナ、キミってヤツは……ん?」 呆れるフランの耳に、何かが飛んでくる音が聞こえる。ソレは一見はレンガだが、正体はチョコレートブロックだ。ソレがものの見事に、ラグナの後頭部に直撃する。 「ふんがっ!?」 その場にバッタリ倒れてしまったラグナを見て、フランは深いため息を吐いた。 桜と稚空に兵隊達を任せ、城に入ったラグナとフランは奥の部屋で、華子とアヤカシを見つけた。 「王子を気取るアヤカシ風情がっ! ようやく見つけたぞ!」 ここへ来る前に桜に【愛束花】で回復させてもらったラグナは、元気よくスキルを使う。【オウガバトル】で自身の攻撃、防御、抵抗を上昇させる。 それを見たアヤカシは一歩前に進み出て、王子の姿から騎士の姿へと変貌した。そして剣を抜き、ラグナに向かって構える。 「どうしてもここから出て行ってくれないんだね?」 「出て行くのは貴様の方だ! 貴様に本当の騎士の戦い方というものを見せてやるっ!」 そしてラグナとアヤカシの戦いが始まった。その様子を心配そうに見つめる華子の所へ、フランは気配を消しながら近付く。 「華子」 「あっ、フランさん…」 フランは武器をしまい、真っ直ぐに優しい口調で華子に話しかける。 「外の現実が辛いかい? 無理に良い子でいる必要はないんだよ。不満があるのなら、俯いていないで思い切りぶつけよう。人生とはそうやってぶつかり合い、切り開くものさ。勇気を出して、偽りの甘い夢からさよならしよう!」 「でっでも、彼が…」 華子は後ろ髪を引かれる思いで、戦っているアヤカシに視線を向ける。 「――残念ながら、彼はアヤカシだ。キミの王子様ではないんだよ」 フランはスっと眼を細めて魔刀を抜くと、【真空刃】をアヤカシの顔に向かって放った。 「ぐっ!」 真空の刃で切り裂かれたアヤカシの顔からは血は一滴も出ず、代わりに黒い瘴気が溢れ出した。 「ひっ…!」 その姿を見て眼を見張った華子は、フランにしがみつく。 「ご覧、アレが彼の正体だ」 険しい顔をするフランを、アヤカシは忌々しそうに睨み付ける。 「どこを見ている! 貴様の相手は私だぞ!」 ラグナの声で慌てて体勢を直そうとしたアヤカシだが、ラグナは【グレイヴソード】で攻撃と命中を上昇させて飛び上がり、アヤカシに向かって剣を振り下ろす。 「コレで悪い夢は終わりだっ!」 ラグナの剣は、アヤカシを頭から真っ二つに切り裂く。すると割れたアヤカシの中から大量の黒い霧が飛び散り、あっという間に視界を黒く染めた。 ――そして開拓者四人と華子は、病室で眼を覚ます。 フランはすぐさま起き上がり、華子が眼を覚ましたことを確認すると、人を呼んだ。 すると慌てて医者や看護師達が華子の元に集まり、騒ぎ出す。 四人はそのまま静かに病室から出た。 「う〜ん…。何だか甘い物が食べたくなったな。スイーツバイキングにでも行くか。やはりお菓子は現実で味わうからこそ美味いものだしな!」 「あっ、お付き合いします! わたくしも甘い物をいっぱい食べたくなりました」 「桜が行くなら、もちろん俺も行く」 「来るなぁ! リア充どもぉ!」 病院の中にいるのにも関わらず、騒ぎたてる三人。フランはその様子を苦笑しながら見ていたが、医者が病室から出て来た後、再び華子の病室に入った。簡単な検査は終わったらしく、看護師が数名、病室に残っているだけだ。 フランは華子のベッドの側にあるイスに座り、話しかける。 「元気になったら、ボクと一緒に街に遊びに行こう。良いスイーツバイキングをやっている所を探しておくよ」 「はい…。楽しみにしていますね」 やつれた顔で、それでも微笑みを浮かべる華子はゆっくりと手を伸ばす。 その意味を察したフランも笑みを浮かべ、華子の小指に自分の小指を絡ませた。 「――約束だ」 【終わり】 |