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■オープニング本文 ※このシナリオは初夢シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。 高僧をしている六十代の男性は、弟子でまだ十代の少年・天城と僧侶仲間達と共に、古い寺に来ていた。 この寺は五十年ほど前、とある裕福な商人が建てたもの。商人は顧客や財宝を招く招き猫を愛しており、そこから本物の猫も愛するようになった。 その為、この寺の御神体は木彫りの猫であり、亡くなってしまった猫を弔う寺であった。猫を専門に弔う場として、愛猫家達からは重宝されていたのだが……。 「今ではすっかり化け猫寺になってしまったのぉ」 「師匠、化け猫になっているのは人間の方なので、思っていてもあまり言わないでください」 高僧の言葉に、天城はげんなりしてしまう。 「そもそも私達はこの状況を何とかする為に呼ばれて来たんですから、何とかしないといけませんよ」 「確かにそうなんじゃが……この状況、何とかできるものかのぉ」 数日前、この寺の住職から依頼がきた。 何でも寺の建物が古くなった為に、建て替えたいらしい。ところが御神体を移動させようとした瞬間、ピカーっと光り、寺の敷地内を真っ白な光が包み込んだ。 すると敷地内にいた人間の頭には猫耳が、お尻からは猫しっぽが生えてきた。 慌てて敷地内から出ると、元の人間の姿に戻ったらしい。 「猫は死んでも縄張り意識が激しいんですね」 「そうじゃな。しかし困ったのぉ。うちの僧侶達では歯が立たん」 僧侶達は御神体に鎮魂の札をはるつもりで寺に向かおうとしているのだが、近付けば近付くほど猫化していくのだ。 しかも全身が猫になってしまうと人間としての記憶が消えてしまうらしく、敷地内で普通の猫のように過ごしてしまっている。 なので全身が猫化する前に敷地内から出てしまうせいで、一向に状況は改善しないのだ。 「しかもその上、悪霊化した猫まで襲ってきますしね」 「ヤレヤレじゃのぉ」 この場を荒らされると思った猫達の霊が悪霊化し、爪で引っ掻いてきたり、噛み付いてきたりする。 立て続けに起きる異常事態に、僧侶達は音を上げつつあった。 「住職の話では、御神体を移動する前にうっかりお経を読むのを忘れていたそうです。一応、前日に儀式はしたらしいんですけどね」 「しかしこの五十年、寺を建設してからは一度たりとも御神体は動かしておらんかったらしいぞ? まあ掃除の時には動かしたじゃろうが、すぐに戻しただろうしのぉ」 「いきなり長距離移動させられそうになって、慌ててしまったんでしょうか」 「あるいは儀式の意味が、分からんかったのかもな」 「……それ、住職には絶対に言わないでくださいよ」 「ひょっほっほ」 とにもかくにも猫化する呪いと、悪霊化してしまった猫を何とかするには、御神体に鎮魂の札を貼り付けなければいけない。 天城はしばし考えた後、暗い表情で重いため息を吐く。 「こうなったら開拓者に頼むしかなさそうですね。最早、我々僧侶の手には負えませんし」 「そうじゃのぉ。しかしただ頼むだけというのも、こちらの立場がなくなるからのぉ。いろいろお手伝いできる物を用意しとくか」 「ですね」 |
■参加者一覧
リンスガルト・ギーベリ(ib5184)
10歳・女・泰
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
霧雁(ib6739)
30歳・男・シ
サライ・バトゥール(ic1447)
12歳・男・シ |
■リプレイ本文 寺の敷地外で高僧と天城から幽霊の猫にも効くまたたびを入れた袋を受け取ったリンスガルト・ギーベリ(ib5184)は、その匂いに顔を歪める。 「うっぷ……。この匂いはたまらんのぉ。しかし猫化する呪いか。妾の恋人であり親友を猫として可愛がりたい気持ちはあるのじゃが、妾のことを忘れてしまうとなると話は別じゃ」 「確かに面白い呪いだよねー……って、あっあたしは完全に猫化する前に、依頼を終えるつもりだよ? リンスちゃん、あたしをわざと猫化するのだけは止めてね!」 呪いを楽しむつもりはないリィムナ・ピサレット(ib5201)は、慌てて残念そうな表情を浮かべているリンスガルトに両手を振って見せた。 しかし霧雁(ib6739)とサライ(ic1447)の微妙な表情の視線を受けて、リィムナは咳を「ごっほん!」と一つした後、真剣な顔付きになり、新品の褌を手に持つ。 「天城くんから貰った猫目石なんだけどこの新品の褌の端に結びつけて、紐の部分は手に持って、投石器と同じ使い方をしようよ。猫目石は小さいし、これなら地面に落としてもすぐに拾えるからね」 そう言いつつ、リィムナは猫目石を布に巻いてしっかり結ぶ。 「では拙者は網をいくつか持つでござる。女人にはちと重いでござるからな」 霧雁が網を肩にかけるのを見て、サライも網を持つ。 「それじゃあ僕も持ちますよ。……しかし相手が猫の霊というのは心が痛みますね。せめて言葉が通じればいいのですが」 「生きた猫でも意思の疎通は難しいでござるよ。でも猫化というのも良いものでござるな。猫になれば毎日寝ていても、誰かが餌をくれるでござる。働かなくても良いなんて、最高でござるよ!」 「……それ、冗談ですよね? 僕の師匠である方から出る言葉とは、あまり思いたくないんですけど」 冷たい眼差しを向けながら網を霧雁に向けて今にも投げそうになるサライを見て、慌てて霧雁は首を横に振る。 「もっもちろん冗談でござるよ!」 「……まっ、いいでしょう。でも霧雁先生は元々猫の獣人なので、猫化がはじまってもあまり容姿は変わらなさそうで良いですね。僕なんてウサギの獣人なので、どんな姿になるのか心配ですよ」 サライは自分の頭にあるウサギ耳をクイクイと引っ張りながら、重いため息を吐く。 「やる前から心配するだけ無駄じゃ。それよりそろそろはじめるぞ。皆の者、作戦通りにな」 リンスガルトの一声で、三人は真剣さを取り戻す。 「あたしはスキルのラ・オブリ・アビスで虎になるよ。いくら悪霊化した猫とはいえ、虎にはビックリするだろうからね」 リィムナがスキルを使っている間、霧雁とサライは寺のある方向を見る。 「しかし御神体がある本殿が拝殿と一緒で良かったでござるな。ここから丸見えでござる」 「このお寺は拝殿のみですしね。戸も御神体を移動させる為に先に開けられていますし、真っ直ぐに走れば良いだけなんですが……その間が問題なんですよね」 二人の視線の先には拝殿の中で宙に浮く御神体があるが、敷地外からそこまでにかなりの距離がある。そしてその間に、悪霊化した猫達がウヨウヨしているのだ。挙句には猫化してしまった元人間まで足元にいるのだから、タダでは先に進めないだろう。 「まあ身軽な者が集まっておるのじゃから、大丈夫であろう。それでは参るぞ! まずはリィムナ!」 「了解だよ!」 三人がリィムナから少し距離を取ると、リィムナは一喝にて近くにいた悪霊達を追い払う。そして四人一斉に走り出した。 「ヤレヤレ。脚絆・瞬風を身につけてきて正解じゃったのぉ。おかげでスキルの瞬脚がよく効くわい」 悪霊化した猫達が襲いかかってくるのを恐るべき速さで避けているリンスガルトの片手には、猫目石が握られている。だがそのせいで頭の上に髪の色と同じ二つの金色の猫耳が、腰の辺りには金色の太い尻尾が生えてきた。 「にょわっ!? なっ何で妾の尻尾はこんなに太いのじゃ! もしやまん丸な猫になるのではっ……! そっそれだけは勘弁じゃ! すまんがリィムナ、パスじゃ!」 「わー、リンスちゃんの猫娘姿、可愛い♪ ……って、パスなの!?」 リンスガルトの近くにいたリィムナは、投げられた猫目石を慌てて受け取る。 「確かに今のあたしは虎の姿になっているから、猫はあんまり襲ってこないけど……。猫化は確実に進むんだよね?」 予想は的中し、頭と腰の辺りがムズムズしはじめたのを感じて、リィムナは慌てて早駆を使い、同じく早駆で移動していた霧雁に近寄った。 「霧雁さんなら本格的な猫化が始まるまで、平気な姿でいられるから!」 リィムナは猫目石を霧雁に向かって投げた後、素早く離れて行く。 「まあ拙者であれば、猫化が進むまで容姿は変わらぬでござるな。では今のうちに、少しでも猫の量を減らすでござるか。一分間しか効果はないが、奔刃術を使うでござる」 霧雁はスキルの奔刃術を発動させると、走りながら懐からまたたび入りの袋を取り出して口を開け、仲間達から距離を取る。 「ほ〜れほれ、お前達が大好きなまたたびでござるよ〜」 すると顔を緩めた猫達が、一斉に霧雁に寄って来た。そうして猫達が追い付きそうになった時、霧雁はスキルの夜を発動させて、周囲の時間を三秒ほど止めている間に立ち止まり、網を猫達に向けて放つ。 「大量でござるな」 ギュッと網の口を結んだ後、近くにあった猫の銅像に網の紐を結びつけて再び走り出す。 しかし口元にニョキッと猫ヒゲが生えたことに気付き、慌てて猫目石を持ち直す。 「サライ君、すまんがパスでござる!」 「了解です!」 早駆で移動したサライは、投げられた猫目石を受け取る。 「では僕も先生を見習って、猫達を減らしますか。猫の悪霊に効果があるのか分かりませんけど、スキルの夜春で色仕掛けしてみましょう」 サライはスキルを発動しながら、猫達に向かって「んにゃお〜」と甘えた声を出してみた。 するとスキルにかかったメス猫達は『うにゃあ』と鳴きながらサライに飛び付き、体をこすりつけ、喉をゴロゴロと鳴らしながら爪を出す。 「イタタッ! つっ爪は出さないでください!」 更にオス猫達は互いに睨み合い、鳴き声で威嚇しあい、しかも取っ組み合いまではじまってしまった。 それらがサライの近くで数多く行われるものだから、巻き込まれているサライの眼には涙が浮かぶ。 弟子のあわれな姿を見て、霧雁は声をかける。 「あっ、言い忘れていたでござる。猫は発情期の間、興奮度が上がっている為に喧嘩っ早くなるでござるよ。迂闊に発情期の猫に近付くと、痛い目に合うでござる」 「そういうことは早めに教えてくださいよ、先生!」 既に痛い目に合っているサライは慌ててスキルの夜を発動させて、時間を止めた。その間に網で猫達を捕獲し、ぜぇぜぇと肩を揺らしながら息をする。 「ほわわっ!? いつの間にかウサギ耳と尻尾が、猫の耳と尻尾に変わっています!」 自分の体に変化が起きたことを知り、サライは慌てて猫目石を握った。 「申し訳ありませんが、リンスガルトさん! パスです!」 「しょうがないのぉ」 たまたまサライの近くにいたリンスガルトは、投げられた猫目石を再び手にする。しかし受け取っている間は立ち止まっているので、スキルの背拳を発動させていた。 「敵に背中を見せても、やられはせんぞ!」 後ろから襲いかかってきた悪霊達を避け、前へ進む。 だが一番前を走っていたリィムナが拝殿近くまで行ったのを見て、急に立ち止まった。 「リィムナには御神体に札を貼る役目を任せておる。ここが正念場じゃ」 くるっと振り返ったリンスガルトは、御神体の近くにいるせいで顔には猫ヒゲが生え、また両手が猫の手になっている。 「悪霊と化した猫達よっ! 妾が相手になってやる! 光栄に思うが良いぞ!」 襲いかかってくる悪霊達を八極天陣にて避けながら、またたび入りの袋を取り出し、地面に叩きつけた。 煙と化したまたたびは、リンスガルトや猫達の鼻に届く。 「ぶほっ!? はっ鼻も猫化してきておるのか。このままでは、妾までまたたびに酔ってしまいそうじゃ……!」 猫達はまたたびの匂いを嗅ぐと、心地良く酔っ払ってしまった。それは良いのだが、リンスガルトまでまたたびの効果が出はじめている。 「くうっ……! このままでは意識が持ってかれる。霧雁っ、後は頼むぞ!」 リンスガルトは最後の力を振り絞り、近くにいた霧雁に向かって猫目石を投げた。 しかし力を失いつつあったリンスガルトの腕力では距離が届かず、二人の間に落ちてしまう。 すると結び目の中からコロコロと猫目石が出てきたものだから、丸くて動く物が大好きな猫達が興味を持つ。 「だが興味を持ったのは悪霊ではなく、猫化した元人間達でござるか! 今しばらく動かないでほしいでござる!」 霧雁はスキルの夜を使い、時間を止めている間に慌てて猫目石を拾う。 しかしその手が猫の手になっているのを見て、すぐさま猫目石をサライに向けて投げた。 「サライ君、すまぬでござる!」 「先生、パスが早すぎます! しかも暴投じゃないですか!」 動揺していたせいか、霧雁は力強く猫目石を投げてしまった。 猫目石は曲線を描きながらサライの頭上を越えて、拝殿から離れた場所まで行ってしまう。 「くっ……! 僕は一時ここから離れますが、リィムナさん、後は頼みます!」 「分かったよ!」 猫目石を追うのはサライだけではなく、猫化してしまった者達までもだ。 地面にポトン、コロコロ……と転がった猫目石を、猫達は前足で蹴りながら遊び始める。 「うわわっ! それは猫のおもちゃじゃありませんよ!」 サライはスキルの夜を使って猫達の時間を止めて、猫目石を拾った。 「猫達を多数引き寄せられたのは良いのですが、このまま僕が戻れば仲間達の身に危険が……。くぅっ、こうなったら苦肉の策です!」 サライは猫の手になりながらもまたたび入りの袋を取り出し、自分自身に振りかける。その上、夜春まで発動させて「うみゃあーんっ!」と甲高く鳴く。 すると先程と同じように悪霊化した猫達や猫化した者達に、もみくちゃにされる。 早駆で悪霊達の攻撃を避けていたリィムナは、サライの身に起きている惨劇を見てギョッとした。 「あわわっ! サライくんが体をはって、犠牲になっているよ! 早くしなくちゃ!」 リィムナ以外の三人の体は最早、半分猫になっている。 作戦ではリィムナが御神体に鎮魂の札を貼る役目を持ち、他の三人は猫化の呪いを引き受ける為に猫目石を渡し合うというものになっていた。はじめのうちはリィムナも猫化を遅くする為に猫目石を持ったが、それでも拝殿近くになれば受け取ることはできなくなる。 だが呪いを発動している御神体の近くにいるせいで、猫目石を受け取らずともリィムナには猫耳と尻尾が生えてきており、鼻もまたたびの匂いを嗅いでうっとりしてしまう。 しかも御神体近くには悪霊達が警備するように多数存在しており、リィムナは一度立ち止まると一喝する。 ひるんだ悪霊達の隙間を、早駆を発動させながら通り抜け、猫の手で鎮魂の札を御神体の額に貼りつけた。 「ていっ!」 ビッターンと札を貼られた御神体は、突然ブルブルっと震えだす。 「おっと、離れた方がいいかも」 リィムナは御神体に背を向けると、走って拝殿から出た。 すると拝殿の近くで、完全に猫化してしまったリンスガルトを発見する。金色の長毛種の猫になったリンスガルトと目が合うと、リィムナは目にも止まらぬ早さで近寄った。 「猫になっても、あたしには分かるよ! リンスちゃんだね。やっぱりかーわいい♪」 リィムナがキャッキャッと喜びながら抱き上げて頬ずりすると、リンスガルトもスリスリと頬を寄せて、鼻と鼻をくっつける。 「あっ、聞いたことがあるよ。猫が鼻と鼻をくっつけるのは、『仲良しだよ』って言っているんだってね。そうだよね、あたしとリンスちゃんは仲良しだよ♪」 リィムナとリンスガルトがじゃれている所から離れた場所では、完全に猫化した桃色の長毛種の霧雁が草の上で仰向けになりながら眠っている。 そんな霧雁に毛づくろいをしているのは、黒猫になったサライだ。 しかし御神体は震えるのを止めると、突然ピカーっと光り輝いた。 「うわっ!?」 その光は強烈で、リィムナや猫達が目を閉じずにはいられないほど。寺の敷地内に光は満ちて、やがて少しずつおさまっていく。すると札を額にくっつけたままの御神体はゆっくりと床におりて、静かになる。同時に悪霊化した猫達は一斉に姿を消して、また猫化した人間達も元の姿に戻った。 「ううっ……ん。凄い光だったなぁ」 「こりゃっ、リィムナ! いつまでも妾を抱き上げているんじゃない!」 「あ〜、リンスちゃん。戻っちゃったね」 少し残念そうに言いながらもリィムナは、顔を真っ赤に染めているリンスガルトを地面におろす。 そして霧雁とサライも、元の姿に戻った。 「ふう……。さぁて、と。依頼は終わったでござるし、昼寝でもするでござる。どこかに良い場所はないでござるか?」 「まったく。先生は猫になろうがなるまいが、やることと考えることは一緒ですね。でもまあお供しますよ」 二人が拝殿に背を向けて歩きだそうとした瞬間、険しい顔付きのリンスガルトが声をかける。 「そこの男共っ! まだ依頼は終わっておらぬぞ! 後片付けがまだじゃ!」 「リンスちゃんの言う通りだね。まだ御神体の移動はちゃんと終わっていないし、こっちに来て手伝ってよ」 「くぅっ……!」 「だ、そうです。行きましょうか、先生」 残念そうに項垂れる霧雁の背中に手を置きながら、サライは拝殿に向かう。 ――こうして高僧や天城達が寺の敷地内に安全に入れるようになったことで、改めて鎮魂の儀式が行われた。 そして無事に御神体の移動をし終え、建て替えの工事がはじまる。 しかし依頼を終えて数日経過したが、リンスガルトの顔には憂いの表情が浮かんでいた。 「はあ……。やっぱり完全に猫化したリィムナを見たかったのぉ」 「リンスちゃん、まだ言っているの?」 そして霧雁もまた、リンスガルトと同じ表情を浮かべている。 「はあ……。やっぱり猫と化した時に、もっと昼寝をしておくべきでござった」 「先生はいつでも昼寝をしたい時に、しているでしょう」 離れた場所にいるリィムナとサライは、同時に深いため息を吐いた。 <終わり> |