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■オープニング本文 「わぁ‥‥」 「すごいね、すごいね流和ちゃん!」 「ど、どれ食べよう。おいしそうだよ佐羽ちゃん」 激しい人ごみに揉まれつつ、二人の子供は手を繋ぎ、並ぶ屋台に目移りしていた。 食欲をそそる匂いにつられ、あっちをうろうろ、こっちをうろうろ。ぎゅっと握り締めた佐羽の手の中には、小さな巾着ひとつ。もらったお小遣いはほんのわずか。ひとつかふたつ、買い食いすればなくなる程度のもの。 (すごいすごい‥‥! たっくさんの食べ物がいっぱい‥‥! 見たことのないのばっかり。何にしよう‥‥) 少ないとはいえ、好きに使っていい、と渡されたものだった。片っ端から買い漁りたい衝動はあるが、どれがいちばんおいしいのか、よく吟味しなければいけない。ふたりの目は真剣だった。慎重に、慎重に選ぶ。 「さっきのお店、とうもろこし焼いてた」 「とうもろこしは村で食べれるよ。あっちはどうかな‥‥、『やきそば』だって。なんかおいしそうな匂いするし」 「隣のお店もよくない? 『おこのみやき』って書いてある‥‥どっちもすごく並ぶんだね‥‥。ああ、りんご飴もおいしそう‥‥!」 ぜんぶ食べてしまいたい。偽らざる本音だった。 そうしてうろうろと、悩みに悩みぬいていたとき。 「っきゃ!」 どん、と誰かにぶつかって、佐羽は思わず転びかけた。とっさに流和が繋いだ手を引っ張るものの、身長差がないため、結局佐羽は膝をつく。 「いたっ」 「だ、大丈夫? 佐羽ちゃん」 「う、うん。あれ、お財布! 落としちゃった、ええと‥‥あ」 幸い怪我もない。転んだはずみで転がった巾着に手を伸ばす。が。 一瞬早く、骨張った男の手がその巾着を掴んだ。 (えっ) その腕は瞬く間に人ごみにまぎれてしまう。 「あいつ! 取り返してくる!」 ぱっと佐羽の腕を振り払い、流和が人ごみに飛び込んだ。 「ちょっ‥‥流和ちゃん!? 無茶だよ、待って、流和ちゃ‥‥!」 呼べども既に姿は見えない。 呆然と立ち尽くす。人ごみはがやがやと流れていく。やがて。 「あれ、財布がない‥‥!」 屋台の前で、金を払おうとした男が声を上げた。「うそ、あたしも」「俺もだ!」声が続く。 (あの人‥‥だ、きっと。あの手の) さ、と血の気が引いた。 流和は強い。運動神経がずば抜けている。――村の中では。志体を持つのは流和だけだから。 けれど。 (犯人の人も‥‥同じだったら‥‥!) あたりを見回す。運悪く警備の人間は見つからない。なら。 「か、開拓者の人‥‥いないですか! 誰か! お金は‥‥払えないけど‥‥! 流和ちゃんを助けてください!」 同じころ。 流和は大通りを抜け、わき道にそれたところを走っていた。男はどんどん人気のないほうに入っていく。 (あたしが追いつけないなんて‥‥もしかして) 相手も志体――だろうか。そのくせスリなど、やることがせせこましい。格好もみすぼらしかった。ただ、上背だけはある。 (もしかして‥‥やばいかな。武器は持ってなさそうだけど) 必要がなかったせいで、流和はまったく戦いを知らない。やってもせいぜい子供の喧嘩が関の山だ。でも、お金はなんとしてでも取り返さないといけない。 佐羽も流和も、とにかく楽しみにしてきたのだから。 (待っててね、佐羽ちゃん。おいしいの食べよう!) ぐ、と心で拳を握り締め、ひたすらに追いかけた。 |
■参加者一覧
礼野 真夢紀(ia1144)
10歳・女・巫
羽喰 琥珀(ib3263)
12歳・男・志
アルマ・ムリフェイン(ib3629)
17歳・男・吟
悠月 澪玲(ib4245)
19歳・女・弓
蒼井 御子(ib4444)
11歳・女・吟
マルカ・アルフォレスタ(ib4596)
15歳・女・騎
洸 桃蓮(ib5176)
18歳・女・弓
ベルナデット東條(ib5223)
16歳・女・志 |
■リプレイ本文 「お祭りだー!」 師からもらったおこずかいを持って、蒼井 御子(ib4444)が通りに出てきた。 「何から食べ‥‥ん?」 「か、開拓者の人‥‥いないですか! 誰か!」 「どうしたの?」 「あ、あの、友達、スリ追いかけて、それで、志体だけど、でも流和ちゃんは」 しどろもどろに話していると、 「‥‥? どっかで聞いた声が‥‥」 あれ? と記憶と一緒に声を辿って人ごみをかきわけるのは、礼野 真夢紀(ia1144)だった。 「佐羽さん? 何でここに?」 「え? 真夢紀ちゃん‥‥? え?」 きょとん、としているうちに、さらに。 「もしかして、佐羽様では?」 ひょこ、と顔を覗かせたのはマルカ・アルフォレスタ(ib4596)。 「ええ!? マルカさん!?」 そこへ、声を聞きつけ、甘味巡り中の洸 桃蓮(ib5176)とベルナデット東條(ib5223)の二人連れがやってきた。 さらに羽喰 琥珀(ib3263)、アルマ・ムリフェイン(ib3629)、悠月 澪玲(ib4245)が加わり、話を聞くことになる。 「えと、あの、おこづかいがスリで流和ひゃんがっ」 噛んだ。 「ほい。甘いもんは気が落ち着くぞー」 腕いっぱいに抱えた戦利品の中から、林檎飴を渡す琥珀。じわっと涙を滲ませつつも、しっかり受け取る佐羽。どんなときでも食欲には忠実だ。 「どうか落ち着いて。何があったのか教えてください」 桃蓮は柔らかく問いかけた。しどろもどろに答える佐羽。それでもあらかたの事情は聞きだせた。 「流和が‥‥一人でスリを追って行ったの‥‥?」 澪玲の言葉に、こくんと佐羽は頷いた。 「‥‥大丈夫。私達が一緒なら百人力、だよ‥‥。一緒に流和を助けて‥‥スリにめっして‥‥皆で美味しいもの食べようね‥‥」 「っ‥‥うん‥‥! みんなありがとう、よろしくお願いします!」 それから手早く打ち合わせる開拓者たち。もくもくと林檎飴を食べる佐羽。 「それから‥‥、佐羽は、私達と一緒の班、ね‥‥」 「ええっ!? あたし、流和ちゃんみたいに走れないよ‥‥?」 「私が背負おう」 佐羽の懸念を、あっさりベルナデットが吹き飛ばした。けれど。 (あたし、行く意味あるのかなぁ‥‥) もしかして澪玲さんは人の顔覚えるの苦手なのかな、と思いつつ、そろりとベルナデットの首に腕を回した。ひょいと軽々背負われて、視線が高くなる。佐羽には新鮮な視界だった。 ――流和ちゃん、見えないな。 ぎゅっと抱きつく腕に力を込める。 「大丈夫だ、流和殿は必ず保護する。だから協力してくれ」 ダイレクトに伝わった不安に、ベルナデットがフォローを入れた。 捜索は難航を極めた。‥‥なんてことはない、のだが。 祭りの大通りゆえに、とどまる人は少ない。目撃者の多くは既にどこかに行った後。 そこらの屋台の店主こそ動かない代表格だが、忙しすぎて通りのごたごたなど総スルー。そんな中、御子は話を聞ける屋台を探していた。 「おっちゃん! これちょうだ‥‥じゃなかった! 物凄い勢いで走って行った二人組を見なかった!?」 「なんだ、客じゃねーのか。いたぜ、うちの前通り過ぎてっただけだけど」 あっちにな、と指差す店主。 「後で皆を連れてまた来るよー!」 「おう、千人ぐらい連れて来い!」 いきなり笑顔になった店主。 「千人は無理だけどー! 百分の一くらいはー!」 現金な声に見送られ、次の聞き込み相手を見繕いに走った。 「すみません、少しいいでしょうか?」 その近くを通りかけた警備の三人組を捕まえたのは、桃蓮だ。 「捜査の協力を。スリの犯人を捜しているのですが」 話を聞いて、警備はすこしばかりしかめ面を晒す。 「話はわかったけど‥‥、どこまで役に立てるか微妙だな。もちろん見つけ次第捕まえるし、仲間に会ったら伝えておくけど」 警備がメインだからこそ、どこにいるかもわからないスリにかかりきりは難しいと言う。 「ごめんな」 「いえ、それでもいいので、お願いします」 丁寧に頼んだ桃蓮に、祭りの警備でやさぐれていた野郎どもがちょびっと癒されていた。 「人ごみを掻き分けて進んでいた男と、少し古い藍色の着物の黒髪の女子、見なかったか?」 何度目かに通行人にたずねる琥珀。見たよ、とあっさり彼は言った。 「ほら、そこの角曲がってったんだ。ぶつかりかけて、でもヤキソバだけは死守したけど」 いらん話まで聞けたが、これで一歩前進だ。 「アルマ、真夢紀! こっちだ」 同じ班の二人に声をかけ、角にあるヤキソバ屋に目印をつけることにする。 「なぁ、ここに旗立ててってもいいか?」 「あぁ!? 営業妨害じゃねえなら好きにしろや! こらルイ、てめぇキャベツ刻んでないな! 切らすなつっただろ!」 「す、す、すみません今すぐ‥‥きゃあっ!」 忙しすぎて殺気立っていたが、承諾はもらえた。 手伝いの少女がキャベツを慌てて切ろうとするが、つるっと滑って、ごろんと転がり。 「あっ‥‥!」 ソースの入った壷に激突し、それが琥珀のほうにばしゃっと――。 「っわ!」 とっさに手にした『それ』で受け止める琥珀。飛び散るソース。壷の割れる音。広がる独特の匂い。そして。 真っ白かった旗は、しっかり染まりきっていた。 「見っけ! ここだね」 御子が見つけたのは、やきそば屋に立てかけられた旗。けれど。 「‥‥なんか、いい匂いになってない?」 「まあ‥‥。おいしそうな旗に」 「でも、旗は食べられませんよね。どうしてこうなったんでしょう?」 首をかしげる三人組の少女たち。ともあれ、ここを曲がればいいのだろう。旗の下に石で留められたメモもあるし。 「急ごっか!」 駆け出す御子たち。そのあとで。 「まったく、お前は大事なソースを!」 「本当にすみません‥‥!」 店内でぶつくさ言ってる人が、いたとかいないとか。 「いた、あれじゃないか!?」 路地を走る二人組みの背中を見つけた。 「間違いないです。流和さん! 下がってください!」 呼びかける真夢紀。が。 流和は振り向きもしない。一瞬、三人の間に戸惑いが広がった。流和を確保する、と決めたはいいが、肝心要の方法を考えていなかったのだ。まさか突っ走るとは。 「僕が回り込むよ。真夢紀ちゃんと琥珀ちゃんは正面から、お願いね」 とにかくスリにも流和にも、立ち止まってもらわなければ話にならない。アルマはスパートをかけて飛び出し、そのまま一気に流和もスリも追い抜いた。くるりと振り向き、立ち止まる。 「っ、てめぇら‥‥!?」 あわてて立ち止まったせいでスリは一瞬つんのめるが、なんとか立ち止まった。が。 「追いついたっ!!」 「っわ!?」 そのまま流和がタックルをかました。 「流和ちゃん、離れて!」 「こいつスリなの! お財布!! っきゃ‥‥」 アルマの忠告にも耳を貸さず、スリに掴みかかろうとして、逆に突き飛ばされる流和。不安定な体勢からの攻撃ゆえにしりもちをつくだけだが、その隙にスリは立ち上がって逃げようとした。 「っぎゃ!」 その足を撃ちぬく真夢紀の白霊弾。すかさず、懐に飛び込んだ琥珀が刀を閃かせる。鞘のままのそれはたがわずにスリの腹を薙ぎ払った。 「ぐふっ!」 吹っ飛ばされて民家の壁に背を打ち付ける。が、それでもまだ立ち上がろうとし。 アルマがリュートに指を走らせる。ゆったりとした曲が奏でられた。 どさ、と。 男はその場に崩れ落ちた。 スリが眠ってしまうと、香ばしい旗を辿る御子たちが追いついた。ぎゅ、と縄でスリを縛り倒すアルマ。 「これでよし、だね」 アルマの言葉に、しりもちをついたままぽかんとしていた流和が、は、とわれに返る。 「お財布!」 「ええと‥‥どれでしょうか」 スリの袖からいくつかの財布や巾着を取り出したマルカが、流和にそれを広げて見せる。流和はそこではじめて、 「な、なんでマルカさん!?」 気づいた。ようやっと。 「まゆもいますよ〜。もう、流和さん、止まってって言ったのに。なんで突っ走っちゃったんです?」 「真夢紀ちゃん!? ええ? 真夢紀ちゃんならそう言ってよ、そんなら止まったのに!」 開拓者ならすぐ任せたのに、とぶすくれる。けどな、と琥珀がなだめにかかった。 「気持ちはすげーわかるけど、怪我したら何にもなんねーだろ? 佐羽かなり心配してたぞー」 「うっ」 自覚はあるらしい。呻いて流和はしょぼくれる。そこにベルナデットたちもたどり着いた。 「みんな! 流和ちゃん!」 「さ、佐羽ちゃん‥‥」 「ばかーっ! もう、もうっ!! 村じゃないんだから! ベルさんも重かったと思うのに! もう!」 ひとしきり怒ると気が済んだのか、佐羽は面識のない五人を紹介していく。そして。 「このひとが‥‥べ、べるにゃれっと‥‥。 ‥‥ご、ごめんなさ‥‥!」 「ベルナデット東條だ」 かわりに本人が名乗りなおした。赤くなる佐羽。流和が笑う。 「佐羽ちゃんったらー。あたしは言えるよ、べるななっとさ‥‥」 沈黙。 「‥‥ベルさんじゃだめですか?」 わりと本気でたずねる流和だった。 琥珀が警備員を探しに行ってすぐ。かすかなうめき声とともに、スリが目を覚ます。瞬時に状況を理解したのか、苦々しく顔をしかめた。 「どうしてスリを‥‥」 桃蓮が問いかける。わけありなのかもしれない。 「‥‥っ、腹が減って‥‥」 食べたくて、食べたくて。たまらなかった、と。 (まだ更生の余地はあるか) ベルナデットは胸のうちで呟いた。 「お腹空いてるの、すごく辛いよね‥‥」 澪玲は言った。 「でも人のお金を盗むの‥‥絶対にダメ‥‥」 ぐ、と男は呻いた。 「それに自分で稼いだお金で食べた方が‥‥何倍も美味しいよ? もうしないって約束するなら‥‥このお饅頭あげる‥‥」 差し出されたそれに、一も二もなく男は頷いた。縛られた腕で受け取るのはできず、澪玲は口まで運んでやる。 貪るような食いっぷりに、あっというまに饅頭は消えた。もっと食べたそうな顔をしていたが、量は用意していない。 かわりにマルカが、優しく諭すように言葉をかける。 「志体‥‥のようですが、もう一度やり直したらどうですの?」 「っ‥‥」 けれども素直にその言葉に従うには、男はだいぶすさんでいたのだろう。最後まで、首を縦には振らなかった。 スリを警備に引き渡した一行は、ようやっと大通りに戻ってきた。アルマは並ぶ甘味を見る。 (僕は大体、長持ちする飴玉になるんだけど‥‥女の子ってどんなのが好きなんだろう。ちょっと気になる) 二人が女の子らしい胃袋の持ち主か、若干疑問ではあるが。 「んー‥‥。まとめてだけど、一つ二つくらい奢らせて貰おうかなっ。 頑張った分のお疲れ様代と、僕にカッコつけさせるボランティアだと思って! どう?」 「え。ええ!? わ、悪いよアルマさん」 「そ、そうだよ。お小遣いもらってるし、お財布戻ってきたし」 とか、口では言いつつも。わし、とアルマの手を掴む。逃がす気がまったくない。 「うん、これでいいの? じゃ、買ってくるね!」 引っ張っていかれた揚げ物屋で、アルマはコロッケパンを買い与えた。だいぶ並ぶ羽目にはなったが、受け取った二人は目がキラキラだ。 「‥‥!」 「さ、サクッってした! 感激‥‥! ありがとうアルマさん‥‥!」 心の底からの感謝だった。 はにゃんととろけつつ大事に食べる佐羽。必死にばくつく流和。隣でマルカがにこにこする。 先に食べ終わって満足した流和が、マルカの視線に気づいた。 「あっ、もしかしてマルカさんも食べたかった?」 「いえ。わたくし、お二人の気持ちのよいお食事振りが大好きなんですの」 微笑ましげに告げられて、さすがの流和もちょっと照れた。 「お二人のお勧めはありますか?」 「お好み焼き‥‥ジルベリアのお菓子も食べたいなぁ」 マルカと真夢紀の言葉に、二人はわたわたと見回す。 「う、うーん。何がおいしいのかなぁ。うーん‥‥」 「私のお勧めは焼き鳥‥‥塩皮は最高‥‥。流和と佐羽はつくねのが好き、かな‥‥」 「ぜ、全部好き!」 澪玲の言葉に反射で返す佐羽。琥珀が笑った。 「スリ捕まえんの協力してくれたから、奢るぜー」 「えええ!?」 「えーっと。まゆもお祭りに来たんですけど。色々食べたいんですけど一人じゃ多すぎて食べられませんの。だから、色々買って分けっこしませんか?」 「ま、真夢紀ちゃん‥‥!?」 悪いよ、ちゃんと自分で買うよ、と言いつつ――。 申し出た二人の腕は、やっぱりガッチリ佐羽と流和に捕まっていた。それに気を悪くしたふうもなく、 「どれかに絞るなんてまだるっこしーから、屋台全制覇しよーぜっ」 食い倒れツアーになだれ込んだ。 「あつっ!」 「マルカさん、大丈夫ですか?」 「え、ええ‥‥。油断しましたわ。熱いんですのね、たこ焼き」 ちょびっと舌先がひりひりするが、じきおさまるだろう。桃蓮に微笑んで、次は慎重に冷ます。その横で。 「な、なにこれすごいおいしい!」 「琥珀くん、これすごい! 信じられない、おいしい‥‥!」 ヤキソバに感激する二人がいたり。 「あ、探すときにチェックしてたんだけどさ、あの店行かない?」 御子の目をつけた店‥‥は、今もやっぱり人が少ない。店主がやたらイイ笑顔で出迎え、おでんを出した。 「‥‥あれ。なんか普通」 「まあ、おいしはおいしいよね‥‥」 「‥‥やっぱ、人の少ない店ってダメってことかなー?」 「御子ちゃんったら。べつに悪いわけじゃないんだけど、うーん。まわりがおいしすぎるのかな?」 率直な感想に、店主が地味に落ち込んだり。 「そろそろ甘いものも‥‥。東條さん、良いお店はありますか?」 新しい友人の問いに、ベルナデットは迷いなく、 「あそこのりんご飴と、あそこの饅頭は評判だと聞いたな」 言われるまま購入する。たがわずにおいしい。おいしいが。 (‥‥実は甘党? 見た目だいぶクールなのに) こっそり流和が盗み見てたり。 もふら型の饅頭を見つけた澪玲が、 「わぁ‥‥可愛い‥‥。でも食べちゃう‥‥」 ぱくっと‥‥いや、もふっと食べちゃったり。 わいわいと、十人の大所帯。しかも半分が神威人。だいぶ目立っていたものの、トラブルもなく平穏に。 三人で買った焼きとうもろこしを飲み下し、真夢紀がたずねた。 「でも、なんでお二人はここに来たですの?」 「‥‥」 佐羽と流和が顔を見合わせ。 「ああーっ!!」 ようやく、村の代表で大もふ様を見に来た、と思い出したのだった。 |