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■オープニング本文 開拓者ギルド、受付――。 「いやったーっ!」 「これであたしたちも晴れて開拓者ね!」 「どんな依頼受けようかなー。やっぱ龍、連れて行きたいよね!」 今しがた開拓者になったばかりの新米三人が、わいのわいのと依頼を見繕う。 「龍‥‥使えるとすれば、やっぱ外の依頼よね。森の中はアウトかしら。着陸できなさそう」 「あ、これいいんじゃね? 山の上でアヤカシ退治!」 「ちょっ、パスパス! なに考えてるの、真樹! 僕そんな高いところ無理!」 「あたし的には、むしろ敵が強そうだから無理だと思うけど」 「なんだよー。じゃあこれは? 平原にキノコ続出。毒ばら撒いて超迷惑。地上で真っ向から戦うとか無謀。龍かグライダー所有者募集」 「キノコぉ? なんでキノコなのよ」 ぱさぱさしたおかっぱ頭、湯花がいかにも胡散臭げに眉をしかめた。 「時期じゃないよねー。鍋に入れたらおいしいけど」 「待て鋼天。毒キノコはやめとけ。それから、アヤカシは食えねぇ」 「知ってるよ。それくらい。でも、アヤカシだって季節の風物詩くらい考えてよねって思っただけ」 論点があきらかに間違っていたが、幼馴染たちはため息ひとつでスルーした。 「でも、上空からってどうやって攻撃しろってのよ。真樹はともかく、あたし、武器刀よ?」 「龍いんだろ。吐かせろ、火」 「あ、そっか」 「僕は治療に回るね〜」 「俺は手裏剣投げれるし。よし、申請して来ようぜ!」 そんなこんなで、うっかり幼馴染三人衆と同じ依頼になってしまった開拓者たち。 一緒なのはいいのだが、依頼現場付近の草原にて。 「ちょっ、こら! 何食べてんのよギャーッ! 柿! 落ちて腐った柿!? やめなさいよこらーっ!!」 湯花が炎龍の行動にいちいち騒ぎ。 「わわわわわ! 待てこら止まれ! 止まれったらひょえーっ! おーちーるぅーっ!!」 真樹が試乗していた駿龍に振り回されていたり。 「‥‥乗んなきゃダメ? ほら、僕離れてて、君だけ行って戦ってきてくれない? 回復? みんなが回復しに僕のところに戻ってきてくれたらいいし‥‥」 へタレなことをまじめに甲龍に打診している鋼天がいたり。 こいつら役に立つの? いや無理だろ。もしかして龍の乗り方から説明必須? イヤ〜な予感が、すごくした。 |
■参加者一覧
滝月 玲(ia1409)
19歳・男・シ
新咲 香澄(ia6036)
17歳・女・陰
霧咲 水奏(ia9145)
28歳・女・弓
リーディア(ia9818)
21歳・女・巫
マリー・プラウム(ib0476)
16歳・女・陰
万里子(ib3223)
12歳・男・シ
鳳珠(ib3369)
14歳・女・巫
緋那岐(ib5664)
17歳・男・陰 |
■リプレイ本文 「ぎゃああああっ! とーまーれーっ!!」 騒がしい。実に騒がしい――が。 「初々しいものに御座いまするなぁ」 くす、と口元をほころばせたのは、霧咲 水奏(ia9145)だった。まるでなっていない手綱さばきに、やわらかな眼差しを送る。その後ろに、ゆったりと控えるのは崑崙だ。彩度の落ちた薄緑色の鱗に、冬のささやかな陽光が注がれる。落ち着き払った甲龍だ。 なんともほほえましい、と、場数を踏んだ開拓者ならではのゆとりをもって臨む。 「先ずは龍に振り回されぬことが肝要に御座いまするな」 なんとかかんとか試乗から生還した真樹。結局腐った柿を腹に収めた炎龍に、げんなりした湯花。二人を見下ろして、水奏は的確なひとことを告げた。ぐさり! と二人の胸に突き刺さる。 「うっ‥‥!」 「いや、あの‥‥、ハイ、仰るとおりです‥‥」 言い訳ひとつ思い浮かばず、しおしおとうなだれた。ちなみに各自の朋友は、そ知らぬ顔でぷいっと顔をそむけている。先は長そうだ。 いろいろと不慣れな様子がどうにも他人事とは思えなくて、緋那岐(ib5664)は声をかけた。 「アドバイスは‥‥手綱は絶対放すな、相棒を信じろ‥‥くらいかね」 「し、信じるんですか‥‥」 湯花が顔を引きつらせた。まだまだこの三人には見えてこない境地なのだろう。こればっかりは経験である。 「まぁ、俺も三人衆と同じようにまだ駆け出しの域だけどな」 そのひとことに、あからさまに三人がほっと息をついた。けれど湯花が。 「‥‥でも、あの、緋那岐さんの龍‥‥だいぶなついてる‥‥」 「ん? ああ‥‥、そりゃ、様々な経験を得て絆は強まるわけだし」 「あははー。つまり僕らは、ぜんぜん懐いてない龍を連れ出しちゃったのが悪かった、ってことだよねー」 能天気に鋼天が笑った。どこから生えたのか、ずいぶん余裕を持っている。 「おいおい、余裕かましてて大丈夫かよ? 落ちたらひとたまりもねぇぞ」 「‥‥」 そっと目をそらした。緋那岐はため息をつく。空に飛び立つという現実から目を背けていたらしい。 「龍は人の心感じ取りまする」 水奏がやんわりと諭し、簡単に心意気を伝える。 「拙者も、微力ながらお力添えさせて頂きまするよ」 やわらかに告げられ、ぱっと彼らの顔に笑顔が広がった。 「よろしくお願いします!」 一気にやる気になった三人。よし、と緋那岐は月牙の手綱を握る。 「じゃあ、基本の飛び方教えるぞー」 「はーい!」 てんやわんやの飛行訓練、開幕。 手綱の握り方を直され、姿勢を直され、へっぴり腰を指摘され。 「ん、龍に完全に舐められてるね、もっと龍と意思疎通しながら‥‥ほら、がんばって!」 新咲 香澄(ia6036)と緋那岐とで、キッチリ基礎を叩き込む。 「バランス崩してるぞー。そこはもっと右に重心かけて!」 などなど。学ぶことは案外多い。 「操縦するのも大切だが、まずは墜ちない事だ」 滝月 玲(ia1409)は、三人とそれぞれの龍の鞍を縄で結び、そう言った。落っこちようものなら、キノコが大口開けて待っている。想像した湯花が顔色をなくした。 「手綱は放すな。危ないときは、無理せず助けを呼べ」 こくこくと湯花が必死に頷いた。 「あはは、湯花ちゃん今更怖いのー? 大丈夫だよ、悪運強そうだし」 「なによ! ‥‥あーっ! 何縄といてんのよーっ!!」 「あはははは」 「逃げる気!? ちょっ‥‥!」 ひょい。 玲が鋼天の首根っこを引っ掴む。 「逃げるな、いくらなんでも」 「ううう‥‥。そ、そうだ。地面すれすれに飛べばいいんじゃないかな!」 「なんのための龍だ‥‥」 玲と同じく呆れる湯花に、ぽす、とひとつの袋が渡された。リーディア(ia9818)である。 「炎龍さんは食べたがりだそうで‥‥」 「も、もしかして‥‥」 湯花の目が期待にうるむ。いやそこまで期待されると‥‥、ちょっと居心地が悪いかもしれない。 「キノコに食いつく前に果物を与えれば、と思ったのですが‥‥無くなったら終わりなんですよね」 でもあげますっ。めげない親切に、湯花は心の底から感激した。 「ありがとうリーディアさん‥‥! 大事に食べるわ!」 「え? はい、ええと、炎龍さんに」 ‥‥湯花さん食べちゃわないですよね? ほんのり心配になるリーディアだった。 ともあれ準備が整ったところで。 「二人には残念なお知らせがあるんだよ‥‥」 出発! の前に、万里子(ib3223)から待ったがかかった。あぶみに足をかけた真樹が踏み外し、駿龍に迷惑そうな顔をされている。 「何かあったんですか?」 「まず龍の炎は、まだその子達は使えないと思うんだよ」 「え」 「しかも空から地上に届かないし」 「えええっ!? 炎龍って火ぃ吹けるもんじゃねーの!?」 真樹がまた転がった。ケッ、と駿龍が喉を鳴らす。 追い討ちをかけるだろうが、伝えることはまだある。 「そして手裏剣も地上には届かないんだよね‥‥」 真樹が完璧に固まった。 「え、でも‥‥。手裏剣なら、それなりの距離に近づけば当たりますよね?」 きょとんと湯花が首をかしげる。 「うん。そりゃあもちろんだよ。だけどね、今の真樹にできるかな?」 だいぶ難しそうである。だから、乗りこなす事を優先して頑張った方が良いと思うんだよ、と万里子は締めくくった。 マリー・プラウム(ib0476)は、飛び立つ前に、三人にお手製のマスクを渡した。それぞれのデフォルメされた龍が、かわいく刺繍されている。意外にも(?)一番大喜びしたのは鋼天だった。 「うわぁ、かわいい! 作ったの? すごーい!」 龍の背中にいることも忘れ、紐を耳にかけてマスクを装着。マリーはふわりと頷いた。 「毒に掛かると大変だもん、龍の操作も大切だけどちゃんとマスクしてね」 「ありがとー!!」 ぶんぶか腕を振る鋼天に笑顔で返し、玲にもマスクを贈る。 「大丈夫そうか?」 「もちろん。鉄ちゃんと頑張るわ」 黄金色の鬣を靡かせる鉄閃が、堂々とその信頼を受け取った。 真樹についてくれるのは、緋那岐と万里子、そして鳳珠(ib3369)の三人だ。 「今回はよろしく頼むぜ?」 月牙の首を撫で、ひらりと緋那岐はその背に跨る。軽く合図を送れば、助走をつけて飛び立つ月牙。続けて鳳珠も光陰を駆って舞い上がる。二頭のシルエットがくっきりと地面に踊り、高度を増すに連れてぼやけていった。 ばさり、と真樹の駿龍も翼を動かす。 「行こうか」 万里子に促されて合図を送った。嬉しげに駿龍は助走をつけて。 「わ、わわっ!」 飛び立つなりぐんと加速した駿龍。へっぴり腰の真樹にあわせ、万里子は横からフォローする。 「駿龍は早いから大変だけど、初めは逆らわずに任せる感じが良いんだよ」 そのうちに龍の癖が見えてくるから、と、言われるままに手綱を掴んで癖を読む。‥‥とはいえ付け焼刃でなんとかなる範囲には、限度というものがあるからして。 「えええ急上昇とか待てちょっと‥‥!」 先に飛び立った月牙と光陰がよっぽど気になるのか、一直線に上空へ。 「あ、でも、振り回されるのとは意味が違うんだよ?」 平行して飛びながら、万里子が笑う。 「なんでそんな余裕!?」 自ら龍を操るのと、好き勝手な龍に振り回されるのの違いだろう。きっと。 「駿龍くん、戦闘が終わったら思う存分飛ばせてあげるから暫く我慢出来ないかな?」 無理かなーと思いながらたずねれば、やっぱり無理だった。駿龍、まったくの聞こえぬふりである。 「俺達と勝負しないか? ただ飛んでるだけっつーのも面白くないだろ?」 すい、と月牙を駆って並走し、緋那岐が煽る。キラン、と駿龍の目が輝いた。 「今回のアヤカシ相手には、ボクたちは毒を覚悟で接近戦するんだけど、そのために連携するからよろしくだよ」 香澄に告げられた言葉に、湯花は一瞬ぽかんとして――次の瞬間、破顔した。 「はいっ!」 喜んで香澄から手ほどきを受ける湯花。一通り学んでから、炎龍に乗り込む。マリーが鉄閃と炎龍とを縄で頑丈に結んだ。暴走時の重石役である。――こうして危ないところを引き受けるから、玲が心配するのだろう。 「さて、崑崙。霧咲が人龍一体の業、揮うと致しましょうか」 湯花の炎龍を意識しつつ、水奏も空へと飛び立つ。今のところリーディアの果物が功を奏し、まともな飛行を見せる炎龍。よし、とマリーはその背から下に向け、酒を振りまいた。 「鍋もいいけど炒めるともっと美味しいと思うの」 「え」 邪気のない笑顔に湯花がびびる。 (いやあのマリーさん‥‥!? 酒蒸し!?) 突っ込むだけの勇気はなかった。龍の背に乗るだけの量なので、酒がいきわたるわけではないが‥‥。眼下のキノコに深く同情した。 真樹の駿龍は、VS駿龍同士の対抗レースに熱意を燃やしている。大丈夫だろう、と鳳珠はその場を抜け出した。 ゆっくりと高度を下げて瘴索結界を張る。――まだ少し遠い。すこしだけ迷って、範囲ぎりぎりまで高度を下げた。毒はきわめて薄いが――。風にあおられたのか、いくぶん漂ってくる。リーディアに借りた手拭いで覆ったせいか、それとも毒の発生地から距離があるせいか。今のところ毒にかかってはいない。光陰の様子も見てみるが、こちらもまだ無事である。 瘴索結界から、無数に返る反応を感じ取った。反応の薄いところと濃いところがあるのに気づく。その情報を拾って、鳳珠は仲間にそれを伝えた。 戦いの火蓋を切ったのは、水奏の即射だった。 上空からの一方的な攻撃、とはいえ数が数ゆえなかなか減らない。一匹ずつしとめていく。 続けて放たれたのは、玲の火矢。ただ、残念ながら飛ぶさなかに火が消えてしまう。火矢にするなら、もうすこし工夫が必要そうだ。 「無理か‥‥」 その中で、駿龍をいい感じに空の彼方へ追いやった、万里子がかるぱっちょを旋回させて戻ってきた。 「行くよ! かるぱっちょ!」 円月輪を構えて高度を下げる。攻撃姿勢を感じ取り、かるぱっちょは翼が邪魔にならないよう、羽ばたきをとめて空をすべるように移動する。鞍から身を乗り出して円月輪を飛ばした。 キノコを切り裂く円月輪。その横を、香澄と湯花、そしてマリーが一直線に降下した。 「さぁ、一掃するぞ、覚悟してね〜」 ごうっ、と一直線に火が駆け抜ける。先ほどマリーが散布した酒を、まともに被ったキノコがいたらしい。いくらか火の勢いの強いところがあった。ただ、多少の炎のみではそれほど大きな効果は期待できそうもないだろう。開拓者もそうだが、アヤカシというものもだいぶ頑丈な存在である。 一方マリーは斬撃符で応戦し、鉄閃はスカルクラッシュでマリーの隙を埋める。ちなみに炎龍は、嬉々としてキノコにかじりついていた。 「離脱するよ〜」 香澄の声で湯花が手綱を引く。が――。 「ちょっ‥‥!?」 次から次へとアヤカシにかぶりつく炎龍。 「悪い事をしたら怒ってあげるのも愛情っ! しゃんとして!」 「っ、こ、こらっ! だめ! 戻るよ!」 マリーの叱責に反射で動くが、炎龍はアヤカシを放さない。 「ちょっ、だめ、ほんとにだめ!! あんたは頑丈じゃないんだから!」 毒の中、という状況も相まって焦る湯花。 「湯花さん、身構えて!」 ぅん、と動力を駆動させ、すこしだけシャウラを浮かせる。そして。 ――ぎゃんっ! ダメージを与えすぎないように。細心の注意を払って炎龍にぶちかました。よろけた炎龍は怒りをたたえ、ぐっと足を踏みしめる。そのまま香澄に体当たりを、 どっ! 割って入った鉄閃が、霊鎧をまとって受け止める。鉄閃の足が地面を抉り、爪あとを残した。けれども背に乗る主を振り落とさぬよう、注意をはらって体勢の安定をたもつ。 「目を閉じちゃだめ! 怖がらないでパートナーを信頼してあげるのっ!」 「っ‥‥!」 「湯花ちゃん!」 空から鋼天の悲鳴に近い声。ブツッ、と張られた縄が途切れ、鋼天の髪を風が煽る。 「あ‥‥」 玲が一気に急降下した。空に映える瓏羽の白羽が小さくなる。瓏羽の翼が風を裂き、一直線に地上へと。見送った鋼天は改めてその高度を感じ、くらりと一瞬の眩暈を感じた。 「落ち着いてください、鋼天さん」 すこしだけ低く飛びましょうか、リーディアがゆるやかに先導する。重りをくくられたウィーウェさんは、けれど寛大にその怠け者な同族を引きずった。 「‥‥えーと、ねえ、せめて自分で飛んでみない?」 鋼天の提案もそ知らぬふりだ。甲龍はずーりずーりとウィーウェさんに引きずられる。いや、空なので摩擦音はしないのだが、気分的に。 「ほら甲龍さん、気持ちはわかりますが行きますよ〜!」 リーディアが先導してくれるなら大丈夫だろう、と、鋼天は甲龍の首にしがみつき、すこしだけ視線を落とした。 (‥‥あ、大丈夫だ‥‥) 地上では、玲と水奏に護られ、マリーに叱責されつつ、香澄に誘導されてなんとか飛び立つ湯花の炎龍。また眩暈がした。 「大丈夫みたいですね」 「はは‥‥。心臓止まるかと思いました、僕‥‥」 リーディアもウィーウェさんから乗り出して、下の様子を見る。湯花含む四人は鳳珠の治癒を受けていた。玲だけが戻ってくる。 「繋ぎなおす‥‥ほどでもないか? 大丈夫だよな?」 ――助けを求める者が居たら馳せ参じるのが開拓者だ。 言われた言葉を思い返して、鋼天は曖昧に笑う。玲はその言葉の通りにやってのけた。 同じように助けに行けと言われたら、速攻で無理だと言い張る自信があった。だからこそ。 「癒し手‥‥かぁ」 巫女の責任って案外重いなぁ、空に来てまで癒さなきゃいけないんだ‥‥、ぶつぶつ呟く鋼天。素直そうな見た目に反して、実はあんまり素直ではなさそうだ。 いまだずりずりウィーウェさんのお荷物になっている甲龍。ウィーウェさんはまったく嫌がらないが、えんえんとこれではいかがなものか。「そーらーはーひろいーなー」高さを紛らわすためか、適当に音程をつけて鋼天が歌いだした。現実逃避の一環らしい。 リーディアと玲がこっそり視線をかわし、しかたがないと互いにすこしだけ困った笑みを浮かべた。 「毒は大丈夫ですか? 解毒しますよ〜」 「ん、ああ。頼む」 「あ、鋼天さん、まわりの方々の様子を見ていてくださいね」 「僕が?」 「仲間の様子を逐一見ておくのも、癒し手には必要な事なのです」 「‥‥はーい」 いくぶん不本意のようだが、可能な限り真下を見ないように意識しつつ周囲に気を配る。毒の消えた玲も、弓に持ち替えて援護する。 「‥‥減ってきた、のかな」 端から追い立てられ、その数を減らすアヤカシ。 「だいぶ固まりました。そろそろ焙烙玉を落としてもいいと思います」 下から鳳珠が指示を出す。 ちょっとどきどきしながら、リーディアが焙烙玉を出す。万里子と鳳珠、それから月牙を駆って戻ってきた緋那岐もだ。しつこく真樹の駿龍もくっついてくるが、最初より、いくぶんましな乗りこなし方である。 「タイムラグは‥‥あ」 ここからでは遠すぎかもしれない。 中空より高度を下げ、地上へ近づいた。焙烙玉がじゅうぶんに効果を発揮する距離に下がる。当然、ウィーウェさんはずりずり甲龍を引きずったままだ。ちょびっとシュールである。 「万里子さんはそのまま。リーディアさん、もうすこし右に‥‥そのあたりで。緋那岐さんはもうすこし高度を下げられますか? 真樹さん、落下圏内に入らないように、なんとか駿龍を抑えられますか」 鳳珠の指示に真樹は胸を張り、 「まかせてくれ!」 若干不安だが、幸運にも駿龍は真樹の言葉に従った。本当に幸運だった。 「では、いきます」 着火した焙烙玉が、四人の手を離れる。そして。 どぉんっ! 爆音と爆風。そして水奏の乱射が追い討ちをかける。心構えのなっていた皆は問題なかったが、唯一。 『!!』 ぬぼへーっ、とひたすらウィーウェさんに引きずられていた、甲龍がびびってバランスを崩す。 「え、ちょ、まっ‥‥!」 「手綱を引けっ!」 玲の叱責が飛ぶ。巻き込まれかけたウィーウェさんは、けれどたいしてバランスも崩さない。‥‥よっぽど肝が太いのだろうか。慌てるそぶりもなかった。 「えーと、まずは落ち着いてくださーい!」 「た、た、助けてー! 僕無理ーっ!!」 リーディアの言葉に返るSOS。どうする? 一瞬ざわめいて。 「‥‥じゃあ、このままゆっくり降りますね〜」 落ち着き払って着陸にかかった。 「ま、命綱も結んでるし。大丈夫だよな」 上手く気流に乗れず、じたじたなんとか飛んでるような、むしろウィーウェさんの邪魔をしているような甲龍。一応念のため玲はその横に琉宇をつけて飛んだ。 危なっかしいそれを見送って、鳳珠はもう一度瘴索結界を張る。だいぶ反応は消えたが、まだ残るものも。 「正確な位置をお伝えします。残りも綺麗に討伐してしまいましょう」 ゆったりと光陰を駆り、鳳珠が逐一情報を飛ばす。 「よし! かるぱっちょ、もう一息がんばろー!」 万里子が円月輪を構えて飛び、水奏も鳳珠の声を拾いながら矢をつがえる。 「ボクらももう一回頑張ろうか!」 香澄もグライダーを駆って地上へ向かった。 「はいっ!」 「よーし! じゃあ、湯花ちゃん、もっとスムーズに乗れるように意識してみてねっ!」 湯花の訓練も兼ねて、香澄の先導に続いて飛ぶ。もちろん目指すはキノコだ。 「じゃ、もう一回勝負するか!」 「負けねーぞ!」 こっちは妙な方向に火のついた、緋那岐と真樹。高空目指してぐんとスタートダッシュで引き離す月牙。むきになって追いすがる駿龍。エンドレスなバトルである。 やがてすっかりキノコがいなくなり、てんやわんやの(毒)キノコ狩りも終結を迎えた。 「お、終わった‥‥!」 最後の一匹を万里子がしとめ、鳳珠が「終わりですね」、終了を告げた。 ほっと息をつく湯花。真樹と緋那岐は帰ってこないが、鋼天はそのへんでべたりと地面にへばりついている。それに苦笑しながらも、玲は瓏羽の鬣にブラシをかけた。黄金の鬣が風になびく。 「どうだった?」 「マリーさん。 ‥‥寿命縮みました‥‥」 正直な返事である。でも、と湯花は続けた。 「がんばりたいな。あたしも」 続けてそばに水奏も降り立つ。鞍から降り立ち、 「崑崙、お疲れ様に御座いました」 己の朋友をねぎらった。そこへ。 「どぉわぁぁぁぁっ!? ちょ、まっ‥‥ぶつかるぅー!?」 「手綱引け!」 大気を引き裂き駿龍が急降下。緋那岐の注意にしたがって、なんとか手綱を思い切り引く。 ぎゅんっ! 間一髪、地面から一気に舞い上がる‥‥が、不意の突風にあおられてうっかりバランスを崩し、真樹もろとも地面へ激突。 「おーい、平気かー?」 無茶っぷりに慣れきったのか、緋那岐がのんびり声をかける。なんとかなー、よろよろと真樹が起き上がった。勢いはいくぶん殺されていたようで、たいした怪我もない。 「危ないですよ」 言いながらも鳳珠が閃癒を放った。 「さんきゅーです! あれ? キノコは?」 「ないよー、たぶん‥‥」 地面から鋼天が呻くように返事した。くすり、水奏は笑む。 「真樹殿、湯花殿、鋼天殿も。お疲れ様に御座いました。 それとよく龍を労って上げて下さい。ほんの少しの我侭を、聞いて上げるぐらいは良いでしょう」 キラン、と炎龍の目が輝く。そんな複雑な文章を理解できるわけもなかろうに、雰囲気は感じ取ったらしい。かぷり、と湯花を甘噛みする。 「ぎゃーっ!! 痛い痛いっ! あたしはおいしくなーいっ!」 「湯花ちゃん、そこで怒んなきゃだめっ!」 「は、はいぃ! えいっ!」 ――拳で語り始める湯花。もう、とマリーは苦笑した。 どうやら、一緒に龍の手入れができるようになるには‥‥もうすこし、時間とか経験とかが必要らしい。 いつかを楽しみにする。それも、いいだろう。 |