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■オープニング本文 それは、いつものことだった。 男たちが田起こし(田を耕し堆肥を撒く)をしている間、女たちはだいたい畑を耕している。 だから、いつものように流和は田に行った。一応女の子だとはいえ、体力や腕力の都合上、流和は男手に数えられる。 つまるところ、それは流和と佐羽の別行動だった。もちろん一般人の佐羽は、ごく自然に女手に計上されている。あたりまえだった。 しかしそれが、事件のはじまりだった。 「佐羽ー、終わったー?」 「まだー! ちょっと待ってー!!」 耕す前の草むしり。これをおろそかにすると、種を撒いたあとに泣きを見る。そのため佐羽は丁寧に草を取り除く。根っこごと引っこ抜くのがキモだ。 さんさんと降り注ぐ朝の太陽は、暖かいを通り越して暑い。春だというのに元気いっぱい降り注ぐ陽の光は、雨よりマシだが佐羽の体力をじりじりと奪っていく。それでも佐羽はめげない。おいしいものを作るには、きれいな畑を作るのが第一歩。ここは豆を撒く畑だ。つやつやしたきれいな豆よできろと念じながら、ひたすら佐羽はがんばった。この畑が終われば休憩だ。おやつが佐羽を待っている。朝からヨモギ餅をついて、朝から小豆を煮た。ふわりと甘い小豆の香りと、ヨモギの若芽の淡い香りが絶品のヨモギ餅。もちろんおいしく胃袋におさめるためである。ちょっと作りすぎた感はあるが、毎日の肉体労働を考えれば多少はっちゃけるのは許されてしかるべきだと佐羽は思っていた。つまり流和や佐羽の胃袋だけでは済まないほど作りすぎていたのだが、そのへんは都合よく記憶の隅に圧縮して追いやっている。 そうして雑草を抜きまくっていたとき。 ざくっ。 伸ばした腕に灼熱感。 「‥‥え?」 噴出した赤色が飛び散り、たった今きれいに根こそぎ始末した雑草の上に滴る。だくだくと流れる赤。 「佐羽!?」 慌ててやってきた友人が、佐羽に駆け寄り。 「こっち来ちゃ‥‥!」 「きゃあ!」 友人の膝が切れた。佐羽は見ていた。たしかに、雑草のひとつが衝撃刃を生み出し友人を切り裂いた。あふれる血飛沫。体は勝手に動いていた。 ひどく痛み始めた腕を庇いながら、友人に体当たりをかける。草のない畑の中に、もつれ合うように転がり込んだ。 すぐさま身を起こして振り向くと、しばらく雑草のいくつかが不自然にゆさゆさと身を揺すり、衝撃刃を飛ばしていた。一定距離を飛んで、しかし佐羽たちに届く前に消える刃。それを硬直して見つめる。けれど、雑草はやがてただの雑草のように動かなくなる。時折吹く風にそよぐだけ。 「誰か。流和ちゃん、呼んできて」 できるだけ冷静に、静まり返った女たちに声をかけた。 「‥‥ごめん。あたしひとりじゃ‥‥手に余る」 あたりを調べて、流和は告げた。その足や腕に包帯が巻かれ、血が滲んでいる。こんなことなら田植えほっといて師匠でも探しに行けばよかった、と、内心悔やむ流和。開拓者になるとは決めたが、とりあえず死ぬほど忙しい田植えをやってしまってから――、そんな悠長なことを考えていたのである。 「過ぎたことはしかたあるまい。とにかく、ギルドには話を通してきた」 村長の言葉に、流和は頷く。アヤカシは、がんばれば流和も倒せた。つまり、戦うこと自体は難しくはない。厄介なのは、どれがアヤカシなんだか流和にはさっぱりわからないことである。攻撃されてはじめて相手がアヤカシだとわかる。これではいくら弱いアヤカシだからって、流和ひとりでなんとかするのはちょっと難儀だった。 「うん‥‥、治療のできる人、来てくれると助かるけどなぁ‥‥」 痛みを訴えるため寝ている佐羽やその友人を思い浮かべ、流和はぽつりとつぶやいた。 |
■参加者一覧
礼野 真夢紀(ia1144)
10歳・女・巫
水津(ia2177)
17歳・女・ジ
赤鈴 大左衛門(ia9854)
18歳・男・志
明王院 未楡(ib0349)
34歳・女・サ
ティエル・ウェンライト(ib0499)
16歳・女・騎
藍 玉星(ib1488)
18歳・女・泰
龍水仙 凪沙(ib5119)
19歳・女・陰
カチェ・ロール(ib6605)
11歳・女・砂 |
■リプレイ本文 礼野 真夢紀(ia1144)たちが通されたのは、村長の家に程近い民家だった。布団を頭から被り、うんうん唸る蓑虫一匹。 ぱぱっと真夢紀が閃癒をかけると、ひょこりと佐羽が顔をのぞかせた。 「真夢紀ちゃん‥‥? あ、治ってる。ありがとー!」 指をグーパー、腕を伸ばして確認する。ついでに流和も治っていた。 「災難だっただスなァ。怪我で済ンだンはええ対処ン賜物、大ェしたモンだス」 赤鈴 大左衛門(ia9854)の言葉に、ちょっと照れる佐羽。 「うん、でも‥‥。 次もやれ、って言われたら、すっごく遠慮したいなぁ」 「佐羽ちゃん、次がないようにあたしががんばるんだけど‥‥」 ほんのり立つ瀬がなさげな流和。 「早ェトコ畑ァ出られるようけっぱるだスから、安心するだスよ」 「はい。お願いします」 「じゃ、まゆはもう一人の子を治しに行きますけど」 「案内するよー」 さっそく佐羽が動き出す。多少疲れが顔色に出ているが、寝ているほどの悪さでもない。 一方流和は居残りで、 「詳しく話を聞きたいアル」 「あ、んーとね」 藍 玉星(ib1488)たちと、村の地図を広げて情報を共有する。流和の調べた範囲はごく一部だが、 「まあ、ぶっちゃけ弱いんだよね。あたしが何発か攻撃食ってもたいした怪我じゃなかったし。さすがに佐羽ちゃんたちの傷は、ちょっと深かったけど‥‥。 このへんのは何本か倒した。でも、まだ向こうにわさわさいたけど」 「詳しく調べてみないと判らないアルが、取り敢えずは豆の畑の周辺、アルな」 「種蒔きが終わっている畑と、未だ終わっていない畑の場所は?」 カチェ・ロール(ib6605)の言葉に、流和はてきぱき答えていく。 「こことここの大きな範囲は終わってるよ。このあたりは撒き始めたとこで、半分くらい終わってる」 「それと、最初に草アヤカシを見つけた場所と、アヤカシが居そうな場所も」 「佐羽ちゃんたちが草むしりしてたのはこのへん。アヤカシが居そうなところ‥‥はわからないけど、居なさそうなところならわかるよ。みんなが最近出入りした畑は平気だと思う」 だいたいこのあたり、と指でなぞるそれを、カチェは頭に叩き込む。畑を荒らさないように、と真剣だ。 「畑は大切な場所です。早くアヤカシから取り返さないと」 「うん。あ、あの、あたし‥‥」 「こン時季の百姓仕事ァ幾らでも刻ァ欲しいだスからなァ。志体持ちだら、流和さぁも頼むだス」 「うん!」 特別武器の指定されることもなかったので、流和は薙刀を持って外に出た。真夢紀もちょうど戻ってきたところで、それぞれ三班に分かれての行動になる。 「流和さぁは薙刀だスか。ワシも同じだスから、おっ師ょ様から習った振るい方教えたるだスよ」 「え、いいの?」 「なァに、ええ訓練と思うて気楽に行くだス」 ぽむぽむと頭を撫でられ、ちょっと照れつつ流和は薙刀を構えた。 「その前に‥‥」 別行動になる明王院 未楡(ib0349)が、ちょっとだけたんまをかけた。 「提案が、ひとつ」 内容は、おおざっぱに言えばばっさばっさと薙刀で草を薙ぎ払うとよい、というものだ。もちろん詳細に、その際のメリットと留意事項も語られる。ちなみに内容は大左衛門も賛成で、彼流に言い直すと、 「焼畑前に下草ァ大鎌で刈るみてェに周りン草ごと刈り倒すだス!」 流和的に、たいへんわかりやすかった。 「スムーズに繋げながら正確な位置に攻撃し、また攻撃を咄嗟に流れを止めずに受けれるよう意識して行けば、基本動作の良い反復訓練にもなりますしね」 微笑みを残して去っていく未楡。大左衛門が簡単に流和に手ほどきを施し、彼らの班も行動開始となった。 じー、と雑草を見つめる。そよそよ、春の甘い風にそよぐ。 優しい若葉色。陽光に透ける薄い葉。伸びかけの柔らかな草たち。 「むー、カチェには全部同じに見えます」 肉眼で見分けはつかないものか、と思ったものの、やっぱり無理だった。 「草抜いてる所から先ですね」 瘴索結界を張り、真夢紀は歩き回る。 「‥‥しかし、こりゃまた、働き甲斐の在る広さアルな」 畑を見回し、こぼす玉星。作物や種の植わっている場所は避けるようにして真夢紀のあとをついていく。カチェも観察をやめ、アサドで下草を払いつつ移動。 ややあって。 ひゅっ。 耳元で聞こえた空気を切り裂く音。はらり、一筋だけ髪が落ちる。瘴索結界の反応は――ない。 瘴索結界の範囲より敵の射程範囲が広いためだ。 すぐに周囲に視線を滑らせる。真夢紀の目が不自然に揺らぐ草をとらえたのと、玉星が飛び出したのは同時だった。 踏み込んで一気に距離を詰める、が、玉星はそこで足を止めた。瞬脚を使っても、一息で詰められる距離ではない。もともと先制攻撃を許すのはしかたなし、と割り切ってもおり、一度その場で飛び来た攻撃を受け、改めて距離を詰めて気功波を放った。 玉星に一拍遅れでカチェも敵に肉薄する。不自然な草をアサドで薙ぎ、返す刀でもう一撃。あっさりと一本、消滅した。 「近付いてしまえば、大した事は無いのです」 たいした手応えもない相手。カチェは続けてまた別のアヤカシを斬りつけた。 そんな彼女らからわずかに遅れ、畑に入る流和。 「え? 水津さん、前に立っちゃうの?」 「術への抵抗が高いので‥‥」 ローブ姿の水津(ia2177)はわりと後衛にしか見えないのだが、たしかに術への耐性は高いだろう。 「ワシが前ン立つだスから、流和さぁは一歩後ろを来るだスよ」 大左衛門の言葉に頷きつつ、 (強くなったら存分に前衛張ろう‥‥!) 内心リベンジを誓う。 ともあれまずはアヤカシヴァージョン草むしり。探索範囲が広いので、三人は遠慮なくずかずか進んだ。攻撃食ったらそれがアヤカシ! と、目印にする気満々である。実力差があるからこそできる荒業だった。 「私の箒は神社も掃けますが‥‥アヤカシも切れます‥‥行きますよピュアフレイム‥‥」 流和に経験を積ませるため支援重視、とはいえ草刈装備、もとい、武器もきっちり持ってきた水津。いくつもの衝撃刃が飛来したのを見て取ると、瘴索結界を展開。まだすこし遠くて感知はできない。大左衛門と並んで前進。 「いました。そこです‥‥」 「用意はいいだスか? 流和さぁ」 「おっけーです!」 戦闘態勢を整え、殲滅にかかった。 最後の一斑。修行の一環、とはりきるのはティエル・ウェンライト(ib0499)だ。他の班とは別方面から畑に入り、効率化をはかる。前衛で、盾を構え、姿勢を低くしつつ移動。 「前はわたしにお任せください! その代わり何か見つけたら教えてくださいね」 周囲の雑草を警戒しつつ進む。完全に防衛体制を整えたティエルとは反対に、もうひとりの前衛といえば。 「くすっ。咆哮に反応して届かない距離から攻撃するなり、わさわさ風もなく動いてくれるかもしれませんね」 実験半分に咆哮を放った。とたん、一部の雑草が不自然にゆさり、と揺らぐ。 もちろんティエルが見逃すわけもなく、 「ティエル、突貫します!」 盾を前面に、ダッ、とまっすぐ踏み込む。未楡も薙刀を手に続いた。 二人に降り注ぐ刃の数が多い、それを見て取り龍水仙 凪沙(ib5119)も駆け出す。 「たかが雑草のくせに生意気なあ!」 氷柱が前の一本を打ち倒した。続けてティエルのスマッシュ。未楡は十字組受から攻撃に転じるが――、敵の衝撃刃は知覚攻撃。効果がなさそうだ。 ちょっとしたそんなトラブルを抱えつつも、たいした問題でもなく。さくさく討伐を進めていく。回復担当の凪沙ははじめ、攻撃の手を控えていたが‥‥。 「これぞ焼畑農業! 燃えろ〜!」 ほとんど回復の必要がない、と察してからは、わりと攻撃に偏っていく。うっかり怪我をしてもたいした傷にはならないので、回復手として気を張る必要がなかったのだ。手ごろな一群を火炎獣で一掃、これに未楡の回転切りが合わさり、固まっているものはさくさく片付いていく。 「こちらは終わりました!」 分散して生えていたのをティエルが叩き潰して周り、高効率で討伐が進んだ。 そうして一息ついた後。倒したアヤカシを地面から引っこ抜いてみよう、としたティエルだったが。 「‥‥あれっ?」 一本残らず、もれなく瘴気に戻って消えてるアヤカシ。あとかたもなかった。 残った正真正銘、ただの雑草だけが、そよそよと風にそよいでいた。 「ありがとうございました! ヨモギ餅はいっぱいあるので、遠慮なく食べてくださいね」 文字通り山になったヨモギ餅を、さっそくモギュモギュと口に詰め込む玉星。こぽこぽこぽ、と佐羽がお茶を注いだ。佐羽的につっかえたときを心配したようだが、リス状態の玉星はまったく喉に詰まらす気配はない。器用である。 「これがヨモギ餅なんですね」 ふわっと柔らかい緑色のソレ。どきどきしつつカチェはかじった。ふに、と頼りない歯ごたえ。むにー、と引っ張るとたいへんよく伸びた。はじめての食べ物とがんばって格闘する姿は、たいへんほほえましい。ちっちゃいのでなおさらである。 「‥‥」 水津は落ち着いて春の甘味に舌鼓を打っていた。口の中で香る、すこし青い香り。ふわりと柔らかな餅をそっと噛み切ると、中から落ち着いた甘さの餡子がお出ましになる。 ヨモギ独特の味と、餡子の甘さがほどよく互いを中和し、引き立てていた。ひとつ食べ終わり、またひとつ手に取る。うっかりはまり込んだループ。あとひとつ、もうひとつ‥‥。 「食べ過ぎました‥‥」 魔のループから自力で抜け出した水津。そんなに食べてないのに、と首をかしげる佐羽は、たぶん食事量が根本的に間違っている。 「ダイエットに行ってきます‥‥」 畑の女たちは、水津を喜んで歓迎した。 「作業の手伝いかあ‥‥」 水津を見送り、もぎゅもぎゅごっくんと口の中のヨモギ餅を飲み込みつぶやく玉星。 「何でも経験です。色々な事を覚えて、カチェは一人前の砂迅騎になるんです」 カチェも畑に出て行く。 「あら、砂漠の開拓者さん?」 「畑ははじめて? 草むしり教えるわ〜」 構い倒されていた。 「玉星さん、お茶‥‥」 「まだ手伝えない小っさい子の面倒でも見るアルかな」 ごきゅごきゅお茶で喉を潤してから、玉星も席を立つ。 「あ、助かります!」 ぺこりと頭を下げて玉星を見送り、佐羽は台所に引っ込む。そこでは真夢紀がてきぱきと料理をしているところだった。 「わ、なにこれ。珍しい匂いがする」 「辛い丼ですよ。一日置くとおいしいんです」 「味見していい?」 「はい」 どきどき、とスパイシーな香りのするそれを一口含む。 「えっ? な、なにこれ。すごく不思議な味がする‥‥、辛いだけじゃないよね?」 「ちょっと珍しい調味料を使ってるんですよ」 ふんふん、と話を聞きつつ舌に味を馴染ませ、味わい方を覚えていく。わりと器用な佐羽は、新しい味をどう楽しむか、を覚えるのが早い。つまり、馴染みのない味をすぐにおいしいと感じることができる。 「世界は広いなぁ‥‥」 しみじみ佐羽は呟き、はくりとまた一口含んで顔をほころばせた。 「佐羽さん、村に柏の葉ないですかね? 節句近いから柏餅の準備してたのそのまま持ってきたんですけど、葉だけ入手してなくて‥‥」 「柏? いくらでもあるよー」 わりとどこにでも生えている木である。村にもごろごろ生えていた。 「蓬は天麩羅にしましょうか。あ、藤の花ありませんかね? できればまだ開ききってない蕾の状態の。天麩羅にすると綺麗で美味しいんです」 「へー、天麩羅! 藤の天麩羅ははじめてだなぁ、とってくるね!」 花が開いたら、うちでは蔓ごとおひたしだよー、とにこにこしながら、佐羽は籠を持って採取へ行った。真夢紀の料理は村のみんなにおすそ分けするのがいいだろうか、と考えつつ歩く。途中でヨモギを摘んでいる未楡と出会った。 「未楡さん。未楡さんもお料理?」 「あら、佐羽ちゃん」 にこやかに未楡は出迎えたが、少しだけ困り顔。 「モグサを作ろうかと思ったのだけど‥‥、乾燥させないと、なんともならないの」 「簡単ですか? 難しくなければ、あたし、やりますよ」 手間はかかるが、作り方自体は簡単だ。忙しくはない? という未楡の言葉に、ちょっとずつやります、と答える。 「じゃあ、お願いしようかしら。畑へ行ってきますね」 籠いっぱいのヨモギを受け取る。独特の爽やかな草の香がした。 「都さ出てきて二度目の春だスが、こン時季ァ田仕事しねェとどうにも落ち着かねェだスてなァ。腕が鳴るだスよ!」 大左衛門は肩をぐるぐると回し、張り切って田に入る。 「農家なんだー」 同じく田起こし面子の流和。 「農作業と山仕事はいっつもやってただス」 「あ、じゃあこっち任せていい? あたし隣の田んぼ起こすからさ」 もちろんと頷き、ふと故郷との違いに気づいてたずねた。 「こン辺りじゃゲンゲは漉き込まねェンだスか?」 流和は近くの祖父を見上げた。 「じーちゃん、蓮華うちでやんないの?」 「土地に合わんでのぉ。片っ端からぱたぱた枯れよった」 ‥‥それって育成が悪いんじゃ? 疑問にに気づいたのか、村長は続ける。 「湿っぽいのに弱いみたいでのぉ‥‥、どーも上手く馴染まんから、早くにあきらめたのじゃ」 「あきらめ早っ」 しょうもない村長とは裏腹に、畑の女性陣はがんばっていた。 「力仕事はどんどん任せてくださいね!」 ティエルは畑でも全力である。 「わたしも小さい頃は近所の畑のお手伝いをしたりしましたから大丈夫ですよ! 『田園騎士ティエル、見参! 畑の平和はわたしが守る!』とか言いながらですけど」 そんなティエルには鍬が渡された。畝を作るのは女の腕ではわりとつらい。しかしティエルはざくざく掘り起こしてしまう。 「お嬢ちゃん、次はこっち頼めるかいー?」 「もちろん、任せてください!」 「ティエルねーちゃん、あっちもー」 「はい、今すぐやります!」 「がんばってるアルねー」 「だぁー」 そんなティエルのあとで、凪沙が黙々と種を撒いている。うさ耳がひょこひょこと動くたびに揺れていた。玉星は腕に抱えた赤子を抱きなおす。 「そろそろ休憩入りな〜」 その場を仕切っているおばさんの声で、休憩をとっていない面子が一度作業を切り上げた。 「働いた後だからかおいしい物が余計おいしく感じますね! 幸せです」 「いや〜、労働のあとの食事はおいしいねえ」 ぱくぱくぱく、もぐもぐごっくん、ぱくぱくぱく‥‥、エンドレスに食べ続ける凪沙とティエル。隣で流和も食べ続ける。三人の食べっぷりは見事だった。凪沙などだいぶ小さいのに、胃袋の収納量は相当のようである。流和にちっとも負けてない。 「喉つっかえるよ?」 お茶を出して忠告し、佐羽は畑に出る。 「練力の回復には甘いものが一番なんですよ!」 凪沙は堂々と言い張った。 「え、ほんと?」 無邪気に信じかけてる見習い開拓者、ひとり。 |