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■オープニング本文 「えーと、お金持ったー、着替え持ったー、お弁当‥‥、あれ?」 荷物を確認して、流和は首をかしげる。 「佐羽ちゃーん。お弁当まだー?」 「待ってー! おにぎり握ってるからー!」 ひょこり、と台所に顔を出せば、おにぎりを握る佐羽。 ‥‥なんかちょっと、量、多くないか? 「‥‥佐羽ちゃん? どうしたの? いくらあたしでも、その量はちょっと大変だと思うんだけど‥‥」 赤ん坊の頃から親しい佐羽が、いまさら流和の食事量を見誤るだろうか? 「なに言ってるの、流和ちゃんだけのじゃないよ」 「え?」 「あたしと流和ちゃんの分」 にっこり微笑み差し出すおにぎり。きれいな形の三角で、玄米がほかほかとおいしそうにくっつきあっている。鼻腔をくすぐる米の甘い香りがなんとも。 「佐羽ちゃん、どっか行くの?」 「うん、流和ちゃんと一緒に行くの」 ‥‥。 あれ? 流和はしばらく沈黙し、佐羽の台詞を吟味し、脳内に浸透させ。 「‥‥なんで?」 結局わからずに、正直に聞き返した。 ちなみに、流和の目的地は開拓者ギルドである。開拓者になりたいものの、一人で修行、などという時間のかかりそうなことはやっていられない。適当な師匠を見つけに行くのが目的である。つまり、佐羽がついてくる理由がまったくない。 「なんで!? なんでじゃないよ!」 けれど、佐羽は怒った。目が怒りに染まっていた。本気の顔だった。 「流和ちゃんばっかり! あたしだって‥‥、あたしだって料理人になるんだから!」 「‥‥ぅあ」 畑どーすんのとか、開拓者を目指すのは夢とかあこがれより、手っ取り早く実力をつけたいためだよとか、いろいろ流和の中にわき起こった。わき起こったが、とりあえず、一番大事な目の前の問題を確認する。 「佐羽ちゃん、おじさんたちの許可、とったの?」 「ばっちり!」 親の許可も習得済みだった。輝かんばかりの笑顔でしゃもじを掲げる。 「売れる嫁入り道具、売り払って資金作ったもの!」 嫁入り道具。よそはどうだか知らないが、村のあたりじゃ女の子が生まれれば、地道にこつこつためていくものである。ここらじゃ十五か六でほいと嫁に出されるので、十とすこしの流和や佐羽も、そこそこの嫁入り道具を持っていた。それを売り払う。 会心の笑みとは裏腹に、けっこう壮絶な決意である。 ――佐羽ちゃん、意外と我が強いからなぁ‥‥、おじさんたち、押し切られたんだ‥‥。 佐羽はとても頑固だった。どのくらい頑固かというと、だいぶ昔。そんなに高くはない崖の上の蕗の薹をとっていて、うっかり落ちたとき。川に流されつつも蕗の薹を手放さなかったくらいには頑固で執念深かった。そう、特に食べ物には。 染否、という町がある。 どこにでもありそうなありふれた町。流和はギルドに行くついでに寄っただけだが、佐羽は食事処の戸を叩く。 「だめだめ。うちはもう手は間に合ってるんだ。戦力にならない子供なんかいらないよ」 店の主人に追い返され、しょぼんと肩を落とす。流和は心配げに眉を寄せたが、慰めの言葉はかけなかった。もう日は暮れかけていて、さっさと宿を決めないとまずい。 「‥‥やっぱり、伝手とかないとだめなのかなぁ‥‥」 「どうだろう。でも、さっきのでまだ二十三軒目だし。諦めないんでしょ? どうせ」 「うん」 「ほら、おでんでも食べてあったまろうよ。そこのお店で」 「うん」 「すみませーん。おでん二人分ー」 「あいよー。なんの具だ?」 「卵とこんにゃくとはんぺんと大根と‥‥あ、昆布も!」 「まいどあり!」 ちゃりん、とお金を支払って、屋台のそばでもくり、と大根にかぶりつく。 「‥‥うーん、町まで出てきてるのに、なんか微妙な味ー」 流和が容赦なくコメントした。中の店主がダメージ食って落ち込んでいる。 「‥‥あれ?」 佐羽ははんぺんをかじり、その味にきょとんとする。ひとくち、ふたくち‥‥。 「あっ! 思い出した!」 「な、なに? 佐羽ちゃん」 「あのときのおでん! ほら、お祭りでみんなにおごってもらったとき! ものすごーくおいしいものばっかりだったのに、一軒だけふつーのおでん売ってた屋台!」 「ああっ! お前らあのときのガキどもじゃねーか!」 店主も気づいたようだ。流和も遅れて気づく。 「よく覚えてたね、佐羽ちゃん。こんな特徴もなにもない屋台」 店主がまたダメージ食って落ち込んだ。 「お、お前らよくも‥‥。これでも昔は美味いって評判だったんだぞ!」 「ド田舎でだけ商売してたとか?」 「違う! ‥‥家内がタレ作ってたときだよ。俺ぁ大根切ったり、そんなのばっかやってたから‥‥。アイツの味を出せないんだ」 なんだか聞いちゃいけない雰囲気だった。流和はうーん、とちょっと悩み、佐羽に、 「とりあえず、ここで修行したら?」 提案した。 「え、ここで?」 「なんの話だよてめーら」 「佐羽ちゃん、料理人目指してるの。でもどこも弟子入りさせてくれなくて」 「あー‥‥。ここらの人間、あんま甘くねぇからなぁ‥‥」 「だからとりあえずここで妥協して、おじさんの伝手であとでいいとこ紹介してよ」 「遠慮もクソもねえなおめー」 「いいじゃない。なんかの拍子にお店繁盛するかもしれないし。佐羽ちゃんもいいよね?」 「え‥‥でも」 「だいたい佐羽ちゃん、そんなにお金持ってないでしょ」 村の嫁入り道具なんて限度が知れている。村の安全を担う流和と違って、自分の夢を追いかける佐羽は村の支援を受けていない。所持金に差があるのだ。 「あ、うん。 そうだね、お願い、おじさん。あたしがんばるから」 「‥‥」 店主は悩んだ。それから。 「‥‥ひとつ。条件がある。 俺ン家じゃねえけど、養鶏してる家が町の外にあってな。そことココを繋ぐ道に、アヤカシが出てんだ。おかげで遠回りして卵運んでもらってンだけど、これが大変らしくてさ。 退治してこい。それができたら、佐羽‥‥つったか? 衣食住、込みで面倒見てやるよ。養鶏所に恩売れるし、な」 ニヤリと笑って、二人を追い返した。 |
■参加者一覧
礼野 真夢紀(ia1144)
10歳・女・巫
橘 天花(ia1196)
15歳・女・巫
黎阿(ia5303)
18歳・女・巫
神咲 六花(ia8361)
17歳・男・陰
明王院 未楡(ib0349)
34歳・女・サ
プレシア・ベルティーニ(ib3541)
18歳・女・陰
マルカ・アルフォレスタ(ib4596)
15歳・女・騎
霧雁(ib6739)
30歳・男・シ |
■リプレイ本文 他の皆と挨拶し、流和と佐羽は神咲 六花(ia8361)にも声をかけた。 「六花さん。こんにちわー」 「お久しぶりです」 正月以来だから、わりと久しぶりな部類だろう。 「お正月に流和たちと食べたお餅の味が忘れられなくてまた」 「ええっ? お餅持ってきてない‥‥!」 六花の言いたいこととは違うのだろうが、言葉をそのまま受け取ってわたわたする佐羽。 (従姉妹‥‥、年の離れた可愛い親戚かな) ほわ、と和みつつ、子供の好きな六花は佐羽の勘違いを訂正する。 「字面通りじゃないよ」 「じゃあもち米ですか? 炊き込みご飯じゃないので、もち米も入ってないんですけど‥‥」 餅から離れる気のない佐羽。のどかな会話に、先ほどはじめましての挨拶を交わしたばかりの黎阿(ia5303)が加わる。 「なんで料理人になりたいのかしら?」 えへへ、照れたように佐羽は頬を掻いた。 「ここ最近は、すごく、いろんな食べ物を食べる機会があって‥‥。 でも、次から次に知らないことがいっぱい出てくるんです。なんだかぜんぶ知りたくなっちゃって。 もちろんおいしいものをみんなで食べたい、っていうのも大きいですけど」 どこまでも貪欲で、終わりのなさそうな夢だ。 「佐羽様も御自分の道を決められたのですね。少しでも夢を叶えるお手伝いが出来れば嬉しいですわ」 にこりとマルカ・アルフォレスタ(ib4596)は微笑む。 「マルカさん‥‥、ありがとう!」 「ですが、普通にお料理が出来るだけで羨ましいのに、料理人でございますか‥‥」 「あー‥‥、うん、まあ、人それぞれだよ!」 マルカの感嘆の言葉に、慌てて流和がフォローした。なぜか青い顔で。たぶん、チョコな季節の記憶ゆえにだろう。こくこく佐羽も頷く。ちなみに二人はマルカを不器用だと思い込んでいるが、案外そうではなかったりするのだから不思議な話であった。知る日が来るかは謎である。 そんな青い二人とは裏腹に、わりとどんな時でも動じない礼野 真夢紀(ia1144)は話を切り出す。 「出発前に店主さんに会えますかね? 念書を書いてもらってた方が良いですの」 そんなわけで、最初の目的地は屋台となった。 「ほら、あそこの角の屋台だよ。おじさーん」 佐羽が手を振る。 (どこかでお会いしたような) のれんの向こうのおじさんの顔、なんだか見覚えがあるような。マルカは首を捻る。 「‥‥ご主人さん。相手の困窮につけ込んで、雇う条件に料理と直接関係の無いアヤカシ退治を強要するのはどうかと思いますよ?」 そう言う橘 天花(ia1196)は、静かに怒っていた。じっとおじさんの目を見て反らさない。ひきり。引きつるおじさん。いくら見た目かわいい少女に見つめられても、視線がおそろしければ嬉しくなかった。もちろん天花に相手を喜ばせるつもりなどないが。 「幾ら流和ちゃんが志体持ちでも、佐羽ちゃんは一般人。もしお二人だけで向かって、怪我で済まない事になっていたらどうなさるおつもりでしたか?」 「う。その、だな」 言い訳をみなまで言わせず、 「こんな無理を強いるのですから、約束を守るのは勿論、相当良い条件で雇って頂けますよね?」 にっこり。 笑顔が逆に、コワイ。 「は、はいもちろん! おやつもお小遣いもつけさせていただきます!」 おじさんの返事に佐羽はぱっと顔をほころばせ、逆に流和は二歩ほど天花から離れた。 (て、敵に回しちゃいけないひとだ‥‥!) 根っこがわりと小市民な流和とおじさんの心がひとつになる。むろん、なっても特にメリットはない。 心がひとつになってない佐羽は、遠慮なく本題を切り出した。 「あのね、おじさん。かくかくしかじかで念書を書いてもらえないかなって」 「てめ、その説明で通じると思ってんじゃねぇぞ。‥‥言いたいことはわかるけどよ」 天花を視界に入れないようにしつつ、あからさまに面倒くさそうな顔をする。 「‥‥意欲ある若者の力を借りて、奥方の味の再現に取組まれては? 良い供養になりますよ‥‥」 それとなく後押しする明王院 未楡(ib0349)。ぎくんとおじさんの肩が跳ねた。 「や。その‥‥。生きてるんだが」 つつー、と視線をあさっての方向にそらす。つまりは。 (‥‥逃げられたのですね) その上、レシピを教えてくれ、とは言えない程度に悪化した関係らしい。困ったおじさんである。 「と、ともかくだな。書けばいいんだろ? 書けば!」 話をそらすように紙切れを取り出し、炭でざかざか書きなぐる。ほらよ、と渡される念書。墨でなく炭だし、字は雑だし、文面もいいかげんだが、一応内容はマトモだ。 「アヤカシは必ず倒しますので大船に乗った気持ちでいて欲しいでござる!」 にこやかに霧雁(ib6739)は挨拶する。 「お、おう、よろしくな」 さっきの恐怖が抜けきっていないのか、おそるおそる反応を返すおじさんだった。 一本道に入る直前。流和と佐羽に加護結界をかける真夢紀。流和に作戦を説明する霧雁。そして。 「え? えええ〜〜? あのおにぎり食べれないのぉ〜〜〜!?」 佐羽の抱える弁当箱を見て、しゅんと落ち込むプレシア・ベルティーニ(ib3541)。 「え? えと‥‥」 「ふふふふ〜、大丈夫なんだよ〜☆ こんな事もあろうかと〜、おっきいお稲荷さんを作ってきたもんね〜☆」 巨大お稲荷さん。文字通り、ほんとにでかかった。 「‥‥特注かな、油揚げ」 佐羽はそのサイズを目測し、あれ作るにはどうしたらいいんだろう、と思考を飛ばす。 ぐきゅるる、プレシアのお腹が豪快に鳴いた。 「よぉ〜し、まずは腹ごしらえだ〜♪」 恐ろしい勢いで腹の中へ消えていく巨大お稲荷さん。 そんなこんなで進んでいくと、遠目に大きな鳥が見えた。こちらが気づくと同時に向こうも気づいたようで、羽音を立てて寄ってくる。 天花は透願の御玉を両手で構え、時間をかけて精霊力を集めた。同じく真夢紀も精霊砲の射撃準備。じゅうぶんに精霊力が充填されたのを確認し、タイミングを読んで射出した。群れた鳥の真ん中にいたものにぶち当たる。真夢紀の撃ったものが当たった一羽が一瞬で掻き消え、直後に天花の精霊砲がもう一羽を打ち抜いた。どちらも一撃で相手を葬り去る。 「説明した通りでござる」 霧雁から網を受け取り、流和はこくりと頷いた。 「がんばる」 すぐに背を向け合い、お互い脇の茂みへ身を潜めた。あらかじめ隠密行動をとっていたわけではないので、気づかれたかもしれないが。 前衛に出るのは未楡とマルカ、そして本来なら後衛の六花である。マルカが金色の兜に光を反射させて気を引こうと試みた。が、残念ながらこの鳥型アヤカシは、そういった習性を持たないようで‥‥、てんでばらばらに行動する。とはいえ目の前に人間がいれば、とりあえず胃袋のために動くのがアヤカシだ。黙っていても向こうからやってくる。 アヤカシが射程圏内に入るとすぐに未楡は咆哮を響かせる。二羽、咆哮にかからなかったものが出た。 「こちらで受け持ちますわ」 漆黒のオーラを纏い、マルカが片方に狙いをさだめた。槍を構え、アヤカシが攻撃範囲に入ってくるのを待つ。 じ、と待ち構え――鋭い嘴を突き出してきたところで、ハーフムーンスマッシュを叩き込んだ。直後に鎧の隙間を縫って、マルカの肌を鉤爪が裂く。ごく浅い傷、と言ってかまわないレベルだ。ちらりと視線を投げてきた六花に、小さく首を振って問題のない旨を伝えた。 その六花はというと、鞭で牽制しつつの応戦であった。剣を持ってくる予定が、うっかり間違えたようである。とはいえ使う分にはそう問題でもない。アヤカシに斬撃符を飛ばす。 「ギャッ」 思い切り貫通し、瞬く間に瘴気へ戻って霧散する。 そこで霧雁と流和が飛び出した。幸い咆哮で隠れた二人にまったく注意が向いておらず、霧雁の投げた網は一羽の片翼を絡めとる。流和がマルカと戦っていたものに投げた網は、あっさりと避けられた。見た目の通りに素早い相手であるし、流和の腕力もろもろがすこし足りなかったのもある。敵は流和に向かって足を振り上げた。反応できずに固まる流和。 「下がってなさいな。ここはお姉さんにお任せよ」 黎阿が佐羽の一歩前に出た。前衛は勘弁してほしい、そう思いつつも。 「高嶺の花を名乗る以上は、引けないわ」 黎阿は月歩で攻撃をいなす。もっと数が多かったり咆哮がなかったりしたら大変だが、幸い相手は一羽だ。一方、未楡は嘴や爪の集中砲火を浴びていたが、掠りはしてもどの傷も浅い。横から霧雁が、打剣で敵を打ち据えた。 「そろそろプレシアさんの攻撃が来るでござる」 「ありがとう」 ちらり、と流和を確認した。敵のスピードについていけずにいるが、六花たちがフォローしているし、なによりマルカが止めを刺して攻撃範囲から離脱を始めた。 霧雁が鞭で敵を拘束する。寄ってくるものを薙ぎ払って一蹴し、未楡は一気に距離を取る。続けて霧雁も離脱した。 すこしだけ時間は戻る。みんなが戦う中で、なぜだかいきなり木登りをはじめるのはプレシア。 手ごろな枝を見つけてそこから戦況把握、戦闘中に木登りとはわりと危ない行動だが、幸い敵のほとんどが未楡に集中していたために安全に登れた。 「よぉぉ〜し! アヤカシが一カ所に集まったね〜?」 敵所在地を確認。仲間が戦域から散っていく。そしてプレシアは――なんと。 飛び降りた。 「おりゃぁ〜〜!!」 飛び降りざまに隷役で地力を底上げし、悲恋姫を響かせた。その直後、とうぜん重力によってプレシアを地面がお出迎え。着地する、が。 じぃぃぃん! 足のばねを使って衝撃緩和、などという行動をいっさい度外視した飛び降りは、もちろん足にそのままダメージを与えた。ダメージというか、痺れたのだが。 「びぃぃえぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!」 食べるのも全力なら、戦うのも全力。そして、プレシアは泣くのも全力だった。 もちろん――。 悲恋姫の術者が泣いたからといって、悲恋姫の効果に加味される、なんてこともなかった。 戦闘は、プレシアの悲恋姫で片がついた。見た目の通りに耐久力のない敵である。オーバーキルではあったが、すんなり殲滅できたのは佳境と言えよう。 「お弁当が楽しみでござる!」 「ここでいいですかね?」 適した場所に茣蓙を敷く真夢紀と霧雁。そよそよと風も温かく、日当たりもいい。 手を洗い、火を熾し‥‥。 「こ、凝るねー」 薬缶を火にかけて、竹で湯飲みを作る霧雁。ピクニックを飛び越えて野外炊飯に近い。たぶんきっと、食への執念ゆえに。 「湯漬けを作り食するでござる!」 霧雁の準備は抜かりなかった。薪も火種もきっちりと。ついでに茶葉も急須も準備万端。 「へー、お茶漬け。‥‥塩漬けの魚の切り身とか入れたらおいしそうだよね」 茶碗にとぽとぽ湯が注がれて、ふわりと鰹節独特の香りが広がる。霧雁はご機嫌で香りを楽しむ。 他の面々もそれぞれにお弁当を広げた。ちなみに、腹の虫を鳴らしたプレシアは真っ先に二つ目のお稲荷さんにかぶりついている。 「‥‥食べる?」 佐羽は自分のおにぎりを取り分けた。しょぼんとしていたのを覚えていたらしい。 「嬉しいなぁ〜☆」 ぽんぽんとおにぎりを口に放り込み、ぺろりと食べつくす。その隣で流和がプレシアのペースに追いつこうとがんばってほっぺたを膨らませ――、詰まらせた。 「ごふっ」 「まだまだたくさんありますわ」 にこにことマルカがお茶を差し出す。一気にそれを飲み干す流和。 佐羽はふわりと米粒に歯を立て、途中に入っているタケノコをコリ、と噛む。もぐもぐ丁寧に咀嚼すると、油揚げからじゅわっと味が染み出す。 「おいしい〜」 「里からタケノコが送られてきたんだ。料理、僕はあんまりなんだけど」 「素材がおいしいと、あんまり手を加えなくていいから楽ですよねー」 「そうそう」 「旬のものって素敵ですよね」 にへらと笑う佐羽の横から、にゅっと流和の手が伸びた。真夢紀の作ってきたお弁当箱の、鶏肉の照り焼きに直行である。 「垂れるわよ。お皿使いなさい、お皿」 「ありはとー」 ぺい、と皿を突き出す黎阿。自分で作ってきたおにぎりをはくり、とかじる。 「足りるんれすか?」 「口に入れたまましゃべらない。 そんなに食べる方じゃないし、体型を維持するのには常に意識しないと‥‥ね。 あ、でも味見は担当してあげるわよ♪」 「これは何? 真夢紀ちゃん」 緑色の野菜をつまみ、一口かじる佐羽。歯を立てると、ぽくっ、と優しく口の中に落ちてくる。梅の爽やかさが口内に広がった。 「あすぱらがすです。苗で育ててるんですよ」 「これ、いいなぁ。町で育てられないかな? 天麩羅もいけそ‥‥、ちょっ、プレシアさん、流和ちゃん! 食べるの速いよ‥‥ああもうっ!」 急いでサンドイッチにかぶりつく。 「慌てなくても大丈夫だよ」 お茶漬けを掻き込みつつ、六花がなだめる。笹の香りがほのかに移ったおにぎりをぱくつき、天花も小さく笑った。 未楡が苦笑して、いくつか佐羽の皿に料理を取り分けてあげる。 「水菓子に枇杷を持って来ました。皆さんもどうぞ☆」 「わぁ、おいしそう」 つつー、と枇杷の薄い皮をむく。真夢紀も買ってきたパンを並べて、自作した苺ジャムの蓋を開いた。 食事が終わって片付けて、そして染否に帰還。 「なんとかする、以外に条件つけなかったんでしょう? 男なら約束位は守るわよね?」 黎阿は鮮やかに凄んだ。 「も、もちろんだ」 おでんを渡しつつ、腰が引けてたおじさんは答える。 「そういえば‥‥出るときに奥さんの話をしていたけど。レシピ帳とかあるんじゃない?」 「あったらよかったんだがなぁ‥‥、記憶力のいい嫁持つと、なんでもかんでも覚えてるからなぁ‥‥」 ため息をつくおじさん。天花はそっちを完璧にスルーして、佐羽を激励する。 「身内向けの料理とは勝手が違ってこれから大変でしょうけれど、頑張って下さいね☆」 「はいっ!」 また、未楡は荷物を佐羽に渡した。 「お客様の食べ物を扱うのですから、厨房に立つ以上汗に汚れた恰好で立ち続ける訳には行きませんしね‥‥着替えは幾つあっても多い事はないと思いますよ」 (直接的金銭援助は、受け取り難いだろうし‥‥) 畳まれた衣類と手帳、筆記用具を受け取って抱きしめる。 「未楡さん‥‥、はいっ」 未楡の心遣いもあり、佐羽は気兼ねなく受け取って喜んだようだ。 「わぁ、これ、未楡さんが書いてくれたんですか?」 さっそくぱらぱら手帳をめくる。一冊は白紙、もう一冊は料理のイロハ、しかも絵付き。 「これ就職のお祝いですの」 続いて真夢紀からは水飴と甘刀である。甘いものは素敵な食べ物だ。 「わ‥‥、なんだかもらってばっかりだなぁ」 それから、佐羽は締めくくった。 「皆さん、ありがとうございました! 一人前になったら、うんとご馳走しますね!」 |