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■オープニング本文 ●誘う面 「もう、だめだ。もう、おしまいだ」 悲観に暮れ、つと立ち止まっては、またとぼとぼ歩き出す。遅々として進まない歩みは、もはや向かう場所さえ分からず、進む意味も消え失せてしまったが故だろう。 大量の借金を表す手形を両手に満載させ、岡介は長屋に戻ろうか、あるいはそうしまいか迷っていた。このまま長屋に戻れば、恐らく取り立てを行う筋者に捕まってしまう。かといって、他に自分の行く当てなど無い。金貸しどころか、友人たちにまでせがみ倒して借りた金さえ、岡介はびた一文返済していない。今更会いに行ったとて、金を返すよう言われるか、顔も見せるなと追い返されるかの違いでしかない。 どこか、遠くへ行きたい。長屋でもなく、友人の家でもなく、そうした諸々が海の彼方へすっ飛んでしまうほどの遠くへ行きたい。膨れ上がった借金も、それを取り立てる筋者も、もはや自分に愛想を尽かした友人もいない場所へ行ければ、今度こそ自分はまともにやっていける気がする。 そんな益体のないことを願っていると、いつの間にか人気の失せた路地に来てしまった。既に岡介の足が、長屋に向かうことを拒否しているらしい。 何か、路地の先に光るものがある。ぼうと淡く、雲に隠れた月のように不確かな光を放っている。一度視線を外せば、次の瞬間には消えてしまいそうで、何故だかじっと見つめていなくてはならないような気がしてくる。 「来るか?」 光のほうから、声がした。その光り方に似て、淡く脆い調子だ。聞こえるか聞こえないかのか細い声だったのに、いつまでも頭の中に木霊して残っている。 それは岡介が、望んでいた声だからかもしれない。 「こちらに、来るか?」 声がしたとき、光が像を結ぶ。人の生首が、岡介の目線の高さに浮かんでいる。 「ひいっ」 おもわず腰を抜かし、岡介は尻もちをついた。そんな岡介を見兼ねてか、顔がふわふわと頼りない調子で近づいてきた。 顔が近づくにつれ、岡介の恐怖は薄らいでゆく。それは生首ではなく、華美な装飾を施したお面だった。 何だお面かと、岡介の緊張が緩む。お面が浮かんでいることも、尋常な現象ではないのだが、そこまで頭が回らない。 「来るか?」 岡介の目と鼻の先で止まり、面が今一度問うた。 「行く。行くよ。連れて行ってくれ。俺を、連れて行ってくれ」 もうここに未練はない。ここではないどこかへ行けるなら、どうなっても構わない。憎らしい手形をふり捨て、岡介は面に縋りつく。 ゆるゆると、面が後ろを向く。自然、面の裏側が岡介に向けられる。派手な色合いに飾られた表とは違い、裏は無垢な木肌があるだけの、質素なものだった。 その面を、岡介が迎えにいく。泉の水を飲み下すように、光る面を掬い上げる。それは誂えたかのようにすんなりと、岡介の顔にはまり込んだ。 ●騒がす面 「これは、大変な事態ですよ」 理穴の首都、奏生で、またも人が行方不明となった。分かっているだけでも、これで八人になる。決まって夜に人気の無い路地を歩いていると、光る面が現れ、それを被った者は何処かへ消えてしまう。僅かな目撃証言をかき集めて作られた依頼書には、その程度のことしか書かれていなかった。 確かに不穏当なことではあるが、その不穏当が吹き溜まる開拓者ギルドにおいては、むしろ日常と言える。そんな開拓者ギルドの受付の青年をして「大変な事態」と言わしめるさらなる事態が、奏生の街には起こっていた。 行方不明になった者達が、総じて何らかの形で人生に追い詰められていたことが原因か、路地に現れるその面は、その人の行きたい場所へと誘ってくれるという噂が一人歩きし、多くの者が面を求めて闊歩するという事態が起きていた。 中には面のことを『面妖さま』と呼んで敬い奉る輩まで出てきている。曰く面妖さまは神の使いであり、面に選ばれた者だけが神の国へと行くことが出来るだのと、恥ずかしげも無く街角で講釈を打っているという。 「街はその『面妖さま』なるアヤカシの話題で持ち切りです。ギルドがアヤカシを退治するようなら、抗議を行うと公言している連中もいるそうです。単にアヤカシを斬って捨てるだけでは、事は済まないかもしれませんね」 今や奏生中の路地には、何らかの理由で人生に嫌気の差した人間がうろついている。彼らを見張っていれば、面妖さまは現れることだろう。しかしどうやら面妖さまは、奏生の人々に大人気のようだ。面妖さまを慕う輩が、何らかの妨害活動に出る可能性がある。面妖さま自体を相手にするのは勿論、その人々の相手もせねばならないらしい。 「それにしても何故、このような人達ばかりを狙って攫うのか、それも解せない所です」 面妖さまは何故、このような迂遠なやり方で人を攫うのか。あえて人気のない路地で、さらには人生に絶望した人間に狙いを定めた捕獲方法のおかげで、アヤカシ一匹を倒して終る仕事が、とんだ骨の折れるものに成り代わってしまった。 「ややこしい仕事ではありますが、どうか受け持っては下さいませんか?」 受付の青年の請うような視線が、依頼書の横に添えられている。 |
■参加者一覧
天寿院 源三(ia0866)
17歳・女・志
巴 渓(ia1334)
25歳・女・泰
四方山 揺徳(ib0906)
17歳・女・巫
瞳 蒼華(ib2236)
13歳・女・吟
蜜原 虎姫(ib2758)
17歳・女・騎
言ノ葉 薺(ib3225)
10歳・男・志
カルロス・ヴァザーリ(ib3473)
42歳・男・サ
リリア・ローラント(ib3628)
17歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ●始まる面 奏生。理穴における貿易の要であり、首都でもある。緑茂の戦いにおいて活躍した儀弐王の元、よく統治されている。 今この街に、一匹のアヤカシが潜んでいる。人気の失せた路地の奥で、獲物が来るのを待ち構えている。 「妖魔は天敵。ただ、それだけだ」 巴 渓(ia1334)は嫌悪も顕に呟いた。単に人を喰らうというだけでも虫唾が走るのに、巧妙な手口で人の心の隙を突き、歪んだ信頼関係を形成するなど、彼女にとっては度し難いのだろう。 「人の絶望につけ込み、攫って行くアヤカシ……、これ以上の被害は出させません」 巴の言葉に同意し、天寿院 源三(ia0866)が強く言う。まるで自分の覚悟を、自分自身に言い聞かせるかのようだ。 「面妖さまですか。はてさて、このようなアヤカシが人の支持まで受けるとは……。世も末、というものなのでしょうか」 幼い見た目を裏切り、言ノ葉 薺(ib3225)はひどく大人びた調子で心情を漏らす。 「まったくでござる。人生に疲れたり嫌気がさしたなら、自分で何とかすれば良いでござる。何とも出来ないから云々は、ただの甘えでござる」 四方山 揺徳(ib0906)は大げさに頷きながら、言ノ葉に同意する。 アヤカシそれ自体も許し難いが、それを増長させている人々にも、彼女は義憤を燃やしていた。 四方山の率直な言い様に、カルロス・ヴァザーリ(ib3473)はふんと鼻を鳴らす。 「俺はただ、アヤカシを毀せれば……、それでいい」 ただそれだけのために来た、と嘯いて憚らない態度である。だが、それを裏付けるだけの退廃の気配を、彼は纏っている。 「……アオは、その人達を、助けてあげたいです」 見るからにおどおどと、瞳 蒼華(ib2236)が呟いた。彼女にとっては渾身の決意だったのだろうが、それはややもすれば聞き逃してしまいそうなほど、淡く儚い音だった。 そんな瞳の頭に、ぽんと軽く手が乗せられる。 「アオちゃんは、優しいのね」 蜜原 虎姫(ib2758)は目を細めながら、瞳に語りかける。その声音こそ優しく、包み込むような心地を有していた。 「……面妖さまも、寂しいのかな」 ぽつりと、リリア・ローラント(ib3628)はそんなことを呟いた。 人々を何処かへ誘うアヤカシ、面妖さま。その所業は確かに許し難い。それでも彼女は、そのアヤカシに思いを巡らせていた。 ●探す面 「すまんが俺は別行動だ。用心深い相手、悟られる訳にはいかん」 奏生に着いて早くも、巴はそう言い残して足早に街中へと消えていった。恐らく彼女には彼女なりの考えがあるのだろう。 「では、我々も行くでござる!」 四方山を先頭に、カルロスと天寿院は金貸しの所へ向かおうとしていた。 人生に追い詰められた人間を好んで攫う面妖さまの気性から言えば、多額の借金を抱えた人間は垂涎の的だろう。事実、そうした人間も行方不明者の中に含まれている。 「グヘヘ。情報を渋るようであれば、アヤカシに連れて行かれたら一文も帰ってこないぞ、とか脅してやるでござる。それでも協力しないなら、変な噂を流して潰してやるでござるよゲヘヘ」 可愛らしい顔をくしゃくしゃに歪めて、嬉しそうに四方山はぶつぶつ呟いていた。アヤカシ云々よりも、金貸しを脅しつけるのが楽しみなようだ。 「そんな面倒は要らん。手足の一本も砕いてやれば、勝手に囀る」 さらにカルロスが不穏なことを言い出し、天寿院は見兼ねて二人を諌める。 「派手に動けば、拙者たちが開拓者であることを悟られてしまいまする。四方山様もカルロス様も、どうか穏便に頼みますぞ」 今この奏生には、面妖さま敬い奉っている連中がいる。その中には、アヤカシを退治するギルドを快く思わない者たちもいるだろう。 今回の作戦は、そのような人々にも配慮し、繊細な心遣いを以って遂行せねばならない。 この二人をどう抑えるかが鍵だ、と勝手に自己完結した天寿院は、決意を新たにして聞き込みに臨むことにした。 言ノ葉は日中の間に路地を探索し、廃屋や空き家を捜索していた。人気のない場所に決まって現れるアヤカシならば、その近くを根城にしていてもおかしくはない。 もしかすれば遺留品や、遺骸まで見つかるかもしれない。 あまり喜べる状況ではないが、見つけないことには事は進展しない。言ノ葉は覚悟を決めていた。 「言ノ葉さん」 またも見つけた空き家に足を踏み入れようかというとき、優しげな声が彼を呼び止めた。 「リリア殿に、蜜原殿」 そこにいたのは、一見して旅人のような風体をした、開拓者仲間だった。 リリアと蜜原は、言ノ葉と同じように路地での探索を行っていたが、聞き込みが主だった。 「調べ物の、進展は、如何ですか?」 物腰柔らかく、丁寧に蜜原が尋ねる。すると言ノ葉は申し訳なさそうに首を振り、 「芳しくありません。失踪場所の近くの空き家を回ってはいますが、目ぼしいものは……。お二方はどうです?」 尋ね返す言ノ葉に、蜜原もリリアも俯きながら首を振った。 「やっぱり依頼書以上のことは、街の皆さんもご存じないみたいです」 蜜原と二人で聞き込みをしたリリアが、簡潔に説明してくれた。 路地に写る三人の影が、引き伸ばされていく。もうすぐ、日が沈む。アヤカシの、時間が来る。 赤い夕日を眩しそうに眺めていると、どこからともなく、弦の調べが三人の耳に届いた。 「これは、アオちゃんの、歌」 リュート。遠くジルベリアより伝わった弦楽器である。近くで歌っているのか、ポロリポロリと歯切れ良く流れる音に乗って、瞳の声が響く。 「其は光る面 被りし者 何処へと連れ去る 其は闇の中 生れし者 何処から現れる?」 赤く染まる景色と相まってか、淡くて儚い調べなのに、胸の奥を大きく揺さぶる強さがある。 「アオさんの歌、綺麗……」 恍惚とした表情で、リリアが漏らす。天涯孤独の身だが、その歌声には郷愁の念を禁じえない。むしろ肉親を知らぬからこそ、そういったものへの憧憬は人一倍にあり、こういうふとしたときに胸を突き上げてくる。 それは隣にいる蜜原も同じだったようで、赤い光を浴びながら、熱心に聞き入っていた。 瞳の歌が終る頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。 「もう、夜ですわね」 日中、たいした手がかりは掴めなかったが、これから夜になる。アヤカシが動くに相応しい時間になる。 「では、手筈の通りに」 そう言い残し、言ノ葉は軽い身のこなしで屋根を飛び乗った。蜜原とリリアも心得ているようで、またも路地に足を踏み入れていった。 ●顕る面 道辻で歌い、街の人から面妖さまのことを教えてもらった瞳だったが、あまり目新しいことは分からなかった。 やはり、より直接的な手段を講じなければならないらしい。 リュートを仕舞いこみ、瞳は周りに人がいないことを確認すると、予め用意しておいた忍装束を取り出した。暗がりに溶け込む柿渋色をいそいそと着込み、仕上げとばかりに白色を基調にした面を被る。これならば暗がりでも、月光を浴びて浮かび上がるだろう。 これで少しは、面妖さまに近づけただろうか。不安の募る瞳だが、気を持ち直し、その心を声に乗せて発する。 怪の遠吠え。アヤカシにしか届かない歌を、一人歌う。 面妖さまに届けるべく、彼女は歌い続けた。 巴は一人、ひたすら路地に佇んでいた。努めて気配を殺し、ここと決めた場所で待つ。アヤカシが現れる、その時を。 「来るか?」 巴の耳に、そんな声が届いた。それは明らかに、人間の発声ではない。アヤカシ特有の、ぎこちなく取り繕った人語だ。 「こちらに、来るか?」 またも響いたアヤカシの声に、巴は我知らず失笑を漏らした。 件の声の主が、中空を漂っている。 アヤカシが獲物を喰らう隙を首尾よく突こうと思っていたのに、まさか自分が誘われようとは。 「俺を誘うとは、どういう了見だい?」 「こちらに、来たくないのか?」 巴の問いかけには答えず、面妖さまが三度尋ねる。 「ああ、行きたかないね。てめえだけで行きな」 言い終え、巴は懐に忍ばせてあった呼子笛を大きく吹いた。これで路地にいる仲間たちが、一般人を誘導するか、こちらに加勢するかしてくれるだろう。 だが、早々に決着させるに越したことはない。 「はあっ!」 間髪を入れず、巴は面妖さまとの間合いを潰し、鞭のような脚を素早く振るう。 風を巻いて放たれた疾風脚だったが、面妖さまは揺ら揺らと、風に靡いてするりと巴から離れてゆく。 「この、逃げるな!」 すぐさま放たれる追撃も、面妖さまは木の葉の如く揺らめき、すり抜けてゆく。 「ならば、向かうとしようか」 拳雨の中をぬるりと避けて、面妖さまが言葉の通りに向かい来る。 それは巴の顔に、吸い込まれてゆくようだった。 ●落ちる面 面妖さまに扮し、蜜原やリリア、言ノ葉と協力して一般人を誘導していた瞳にも、巴の吹いた呼子笛は届いていた。 「こちらに、来るですの?」 笛の音から遠ざけるように人々を導き、屋根に潜む言ノ葉が機を見て炎魂縛武を放ち、目を眩ませて次の場所へと向かう。 蜜原とリリアが前もって、人々がうろつかないようにしてくれたので、瞳の工作は恙無く進行していた。 そうしてますます人気が無くなった路地を急ぐ影があった。 多重債務者を追っていたカルロス、四方山、天寿院の三人である。一般人の誘導は他のものに任せてあるので、直接に面妖さまを討滅する腹積もりだ。 竜の神威人であるカルロスが一足先に笛が鳴った場所へ着くと、そこには尋常ではない光景があった。 「カルロス殿、どうなされた!?」 路地の入り口で立ち止まるカルロスを見て、天寿院が話しかける。そして彼女が路地の先を見たとき、同じように固まってしまった。 笛を鳴らしたであろう巴の顔に、面が被さっていた。 「巴様!」 刀を抜き放ち、突進しようとする天寿院を、カルロスが手で制した。 「カルロス様!? 早く巴様を助けねば!」 「待て。様子が妙だ」 仲間の窮地を見て熱くなってしまった天寿院に、静かな語り口でカルロスは冷や水を浴びせる。 巫女である四方山は元より荒事には向かないが、それでも平静とはいかない様子だった。 カルロスに制されたまま、三人は巴を見据えていると、彼女は覚束ない足取りで、こちらへと歩いてきた。 一歩一歩確かめねばならないような、危うげな歩みで、三人の目の前まで来て、はたと立ち止まった。 そしてこれ見よがしに面を鷲づかんだかと思えば、それを力の限り壁に叩きつけた。 「……助かったよ。カルロス」 憔悴しきった巴は、礼を言った直後、その場に崩れ落ちた。 「巴さん!? 今治療するでござるよ。気を確かに!」 四方山はすぐさま風の精霊を呼び出し、その風で巴の体を包み込んだ。真っ青だった巴の顔が、徐々に赤みを取り戻してゆく。 その傍ら、巴が投げ捨てた面を、天寿院が拾い上げる。木で作られた、華美な面。依頼書の情報とも一致する。これが面妖さまだったことは、まず間違いないだろう。 「これは、如何なる仕儀でしょうか?」 カルロスを見上げ、問うてみるが、彼は何も答えなかった。 「他の連中にも、知らせておくか」 そう言って、カルロスはその路地を後にした。 ●面たり得るは あの晩以降、面妖さまの出現はぱたりと止んだ。それもそのはず、件のアヤカシはすでに、開拓者によって退治されていた。 開拓者と悟られぬよう施した工作はうまく作用し、面妖さま無き今、ギルドに抗議をするような輩は出現していない。 依頼は既に終了しているが、瞳と蜜原とリリアは残ると言い、今も面妖さまに頼ろうとする人々を救おうと頑張っている。 その姿を、依頼でいっしょに働いた他のメンバーが見守っていた。 「巴様。そろそろ教えていただけませんか?」 茶屋で団子を食べている巴の横に座る天寿院が、唐突に尋ねる。それは勿論、あの夜の路地での、面妖さまとの邂逅のことを聞いていた。 熱い茶を一気に飲み下し、巴が苦々しく切り出した。 「……俺は、面妖さまを倒してはいない」 共に聞いていたカルロス、四方山、言ノ葉が、眉根を顰める。 「ならば、面妖は勝手に死んだのか」 カルロスの問いに、巴は深く頷く。 「顔に張り付かれた先は良く覚えていないが、あんたたちが来た頃には、死んでいたよ」 「道理で、瘴気が希薄だったわけだ」 一人納得し、カルロスが頷く。彼が巴と面妖さまを見て感じた違和感が、ようやく分かったようだ。 「なるほど。そういうことでしたか」 言ノ葉もその説明で十分だったようで、四方山と天寿院を差し置いた年長の三人は一様に納得している様子だった。 「あの、どういうことでござるか?」 尋ねる四方山に付和して、天寿院も首をこくこくと振る。 「アヤカシが、勝手に死ぬ。それはどういう状況でしょうか?」 そんな二人へ、逆に言ノ葉が問いかける。 「それは、自身を形成する瘴気が希薄になって……」 そこまで喋り、はたと天寿院が気がついた。 「面妖さまは、餓死したのですか!」 「人間風に言うなら、そんなところだな」 四方山も合点が行ったようだが、その顔は陰鬱だった。 攻撃を受けることなく、することなく飢えて死んだ面妖さま。その意味するところが、彼らにとっては理解し難いものだった。 「ならば、面妖さまは攫った人達を……」 天寿院の台詞を継ぐものは、誰もいなかった。 「さて、答えは何処にあるのでしょうかね」 軽い調子で言ノ葉は言うが、その答えこそ、面妖さまのいなくなった今では、誰にも分からなかった。 |