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■オープニング本文 景色が極彩色に色付く季節、秋。 舞う落ち葉は大地に緋の絨毯を広げ、柔らかな香りの金木犀は黄金色に咲き誇る。 清流の水面にひらりと落ちた紅葉の葉が流線を描き、緩やかに流れていく。 その景色は、鮮やかな錦織のようだと例えるに相応しく―― 「わーい、葉っぱの雨だ!」 次々に舞い落ちる紅葉を見上げ、森で遊ぶ子供達は無邪気にはしゃぐ。 川から流れてくる落ち葉を掴まえて、誇らしげに胸を張る子供。 大きなどんぐりを拾いあげて其々の大きさ比べをする姿などは、見ていて微笑ましくも感じる。 平穏で穏やかな森の時間は、そのまま何事もなく過ぎるかと思われた。 そんな時、木の上から「きゅい」と可愛らしい鳴き声が響く。 「今の鳴き声、なんだろ?」 「あ、リスだ。木からリスが降りてきてるよ」 子供達がその姿を見つけたとき、既にソレは木の幹を伝って地面へと降り立っていた。 仄かに暗い影が落ちた木陰で立ち止まった栗鼠は、その潤んだ丸い瞳でじっと子供達を見つめる。 「わぁ、可愛い。呼んだらこっちに来るかなぁ?」 おいでおいで、と。 子供達は屈んで栗鼠に向かって手を伸ばして、呼びかけた。 きゅきゅい、と呼び掛けに反応したかのように鳴いた栗鼠は木陰から子供達に向かって走り出す。 日の光に照らされ、栗鼠の姿が露になった。その周りにほんのり浮き立っていたのは――真っ黒な、瘴気。 彼らが、ソレをアヤカシだと気付いたのは一瞬後の事。 「み、皆! 逃げろ‥‥!」 慌てて逃げ出す子供達だが、栗鼠アヤカシは素早く少年の肩に飛び掛かり、その身体に歯を突き立てる。 激しい痛みに気が遠くなりそうになったが、少年は必死に栗鼠を振り払った。 そうして、子供達が何とか全員逃げ去った後。 口元から血を滴らせた栗鼠の背後に、鳴き声と共に別の栗鼠アヤカシ達が集まり始める。 ――きゅい、きゅぅ。きゅー。 何れのアヤカシも円らな瞳を光らせ、子供達が逃げた方向を見つめていた。 その鳴き声と眼差しは、再び彼らのような者が来る事を望んでいるようで―― 「そんな訳で、君達にはリス型のアヤカシを退治して欲しいんだ」 若い青年ギルド職員は集まった開拓者達を見遣ると、君達なら余裕かもね、と付け加えた。 栗鼠アヤカシは、一般的な野生のリスの大きさと変わらず力も弱い。 非常にすばしっこいが、体力もそれほど無さそうだ。 攻撃が当たり難そうな事だけが気掛かりだが、対策を立てさえすれば問題ないだろう。 「アヤカシが居た場所は子供が遊び場にしていた森。近くに小川が流れてるから、すぐ分かるよ」 幾ら一体が弱いとは言っても、相手は多数。 被害はまだ子供の怪我のみだが、一般人が再び襲われればひとたまりもない。 アヤカシ達は今はまだ森を根城にしているようだが、人間の血肉を求めていつ人里へ向かうかも分からない。 何も知らぬ人間が迷い込む可能性もある以上、早急な退治が求められる。 「それと、今の季節。其処はすごく景色が綺麗なんだって」 無事にアヤカシを退治できたなら、彩りの秋景色に暫く浸って来るのも良いかもしれない。 後に続く楽しみがあれば戦いにも力が入るだろう、と青年は告げる。 そうして「いってらっしゃい」と開拓者達を送り出した彼の言葉には、信頼が込められていた。 |
■参加者一覧
リコ(ia0484)
11歳・女・陰
彩音(ia0783)
16歳・女・泰
周太郎(ia2935)
23歳・男・陰
頼明(ia5323)
35歳・男・シ
ネイト・レーゲンドルフ(ia5648)
16歳・女・弓
永 助六(ia7675)
34歳・男・シ
桂木圭一郎(ia7883)
37歳・男・巫
宗久(ia8011)
32歳・男・弓 |
■リプレイ本文 ●錦色模様 清々しく響き渡るは囀る鳥達の声。舞い落ちた銀杏の葉が、川のせせらぎに揺蕩う。 季節は今まさに秋。自然が最も色付く時期。 「紅葉の絨毯の上で、金木犀の香りを肴に一杯――風流だねえ!」 仄めく花の匂いを感じながら、永 助六(ia7675)は煙管を片手に森景を見遣った。 赤や黄、橙が織り成す色彩は、正に秋色と表すに相応しい。 然し、景色を楽しむのは後の話。 退治に集まった開拓者達は、以前にアヤカシが現れたという場所に辿り着く。 「小さくてめんこい‥‥だけなら良いんだが、ねぇ」 陽を受け、金に光る髪を掻き上げた周太郎(ia2935)は、開けた場所まで歩みを進める。 彼の隣、大きな包みを手にしている桂木圭一郎(ia7883)もまた、アヤカシの気配を気に掛けていた。 圭一郎が持つ包みの中身は、事後の為に作ってきた弁当。 暢気に映るやもしれないが、それはアヤカシを必ず倒すという心積もりがあってこそのもの。 「秋、食べ物が美味しい季節になって参りましたね」 落葉を見たネイト・レーゲンドルフ(ia5648)がふと思い浮かべる事――それは、食欲の秋。 紅葉狩りから狩猟を連想したネイトは、猪を狩って味噌鍋にするまでもを夢想していた。 景色も良いが、秋は食べ物が美味しい季節。それも致し方ないだろう。 一方、未だ見えぬ相手の姿を浮かべ、宗久(ia8011)は楽しげに口を開く。 「ハハハ、リスのアヤカシだってさー。かっわいーの。本当にさぁ、カワイイよねぇ」 愛でたいという思いを軽快な言い回しで語り始める彼は、誰にも止められぬような雰囲気を纏っている。 リコ(ia0484)はそんな彼らを、蒼色の瞳でじぃっと見つめていた。 観察が趣味というリコから注がれる視線。特に周太郎へ向けられる眼差しは、他の誰へよりも強い気がする。 (「この人がお姉様とお知り合いだなんて。どこで会ったのでしょう?」) 抱くのは嫉妬か、はたまた純粋な興味か。 むぅ、と軽く唸りながらも、彼女は栗鼠アヤカシを誘き出す方法を考え込んでいた。 その時、森の奥で人の気配を感じたのか、遠くの木の上で何かが動く。 瞳を爛々と輝かせ、開拓者達へと向かい往くのは――無数の栗鼠アヤカシの姿。 ●栗鼠襲来 僅かな物音を聞きつけ、青い髪を翻して彼女は振り返る。 逸早くその存在に気付いたのは、木の上を睨みつける様に視線を遣る彩音(ia0783)だった。 一瞬後。葉音を響かせて木々を伝い来る気配に、他の仲間も顔を上げた。 「力無きものは無いなりに己の安全を考える、か‥‥」 きゅい、と鳴きながら次々と多方向の木から下りてくる栗鼠達を見据え、頼明(ia5323)が武器を構える。 視線を交差させ、頷き合った開拓者達は各自三方向へ散開した。 先ず、奥の木へ下り立ったアヤカシ達に向かったのは助六。 その後ろに続くのは圭一郎とネイトの二人。三組体制でアヤカシに向かう、ひとつの作戦だ。 「さぁて、秋を楽しむ前に邪魔な石ころはどかしておくに限るよ」 助六の口元が三日月を描く様に緩められ、咥えられていた煙管から紫煙が立ち昇る。 自身の体躯で二人の邪魔にならぬようにと、後方で圭一郎が神楽舞・攻を舞い始めた。 応援を受けた助六は十字手裏剣を構え、ネイトも藍染めの弓を番える。 「可愛らしいのは認めますが、リスは食べられる所が少なそうですね」 アヤカシ退治の仕事と食欲。両方を思うような言葉と共に、ネイトの矢が栗鼠に向けて打たれた。 真っ直ぐな軌跡を描き、矢は命中。 集中攻撃を狙う助六も手裏剣を投げるが、素早く避けた栗鼠にはかすりもしない。 「永さん、栗鼠が向こうへ逃げてしまいます。ご注意を!」 数歩引いた位置から状況を見極める圭一郎が呼び掛ける。 栗鼠はたった一撃で弱るほどだが、逃げられてしまっては元も子もない。 おう、と短く応えた助六は早駆で栗鼠の前に瞬時に回り込んだ。 行き場を失った栗鼠は急に立ち止まざるを得なくなり、その円らな瞳でじっと見つめる。 「‥‥何、どうってことないさね」 怯む――と見せかけ、助六は笑顔で手裏剣を放つ。勢い良く回転した刃が栗鼠を薙いだ。 一匹を倒したと思いきや、背後の木から新たな栗鼠二匹が現れる。 正面から来た栗鼠は助六へ、もう一匹は素早く駆けて圭一郎の目前まで近付く。 気を付けて、とネイトが呼び掛けるが、栗鼠はきょとんと見上げるだけですぐには攻撃を仕掛けて来ない様子だ。 (「この円らな瞳、思わず撫でたくなってしまいますねえ」) 敵だとは分かっていても、可愛いものに目がない圭一郎は無意識のうちに手を伸ばす。 その隙を逃さなかった栗鼠が、きゅいーと鳴き、かぷりと彼の指を噛んだ。 「‥‥‥!」 「桂木さん、大丈夫ですか」 噛まれた痛みに声も出ない圭一郎に、ネイトが弓を引き絞りながら声を掛ける。 幸いにも栗鼠はすぐに指から離れ、狙う的として最適な位置取りにある。 我に返って再び舞い始めた圭一郎の応援を受け、栗鼠の投げた団栗を十手で受けていた助六がにやりと笑む。 「そろそろ、一気に片付けちまうかね」 言葉と同時に栗鼠へ向かって真正面から手裏剣が飛び、ネイトが放った朔月の矢がもう一匹へと放たれる。 苦しげな声を上げた二匹は、同時に倒れた。 「居ました、あそこ!」 栗鼠が現れた事を受け、アヤカシの位置を指し示したリコ。 その前へ、頼明が壁として護るように立ちはだかる。彼らと相対するのは、二匹の栗鼠。 木葉隠の術を使用した頼明の回りには術による木の葉と、現実の落葉が合わさって舞い上がる。 その様子に攪乱された栗鼠へ、リコが呪縛符で式を呼び出す。 「あっそびーましょっ」 あくまで明るい口調だが、栗鼠の周囲に出現した式はその動きを確実に阻害している。 「‥‥良い援護だ、往くぞ」 その隙、瞬時に駆けた頼明が敵に棍を振り下ろす。アヤカシはその一撃の元に葬り去られた。 頼明は飛び掛かってきたもう一匹の栗鼠を避けようと身を翻す。だが、僅かに掠った爪が肩口を引き裂く。 「く‥‥」 肩を抑えるも、傷は深い訳ではない。武器を構え直した頼明は鋭い瞳を栗鼠に向けた。 ひょこひょこ走り回る栗鼠へ、しかと視線を定めた彼は素早く駆けて行く。 「栗鼠さん、まてまて〜」 そして頼明の反対側から、リコの鎌鼬の如き式符が疾走する。 斬撃符と、頼明の容赦のない打撃。左右から繰り出された攻撃を受け、栗鼠はぱたんと倒れ込んだ。 きゅう、と鳴いた声を最期に、その体は瘴気の霧となって散った。 そして、宗久達が相手をするのは、数匹の栗鼠達。 謀らずも囲まれる形になってしまったが、誰も怖気付く事などは無かった。 「メデタイ‥‥愛でたいなぁ、可愛いなぁ、可愛さがさ、持て余して、持て余して、余ってしまいそうで困るなぁ」 実物を目にした宗久は、勢いの乗った口調で栗鼠を眺めている。 歪んだ笑みで冗談が一割だと笑う彼だが、それは九割は本気だと云う事か。 「何にせよ倒すだけです」 弓を構えて照準を合わせる彩音。その時、木から飛び降りた栗鼠がその身体へ襲い掛かった。 「彩音さん、危ない!」 周太郎がはっとして叫ぶ。 今にも齧り付かれそうな瞬間。彼女は咄嗟に機転を利かせ、体を回転させながら己ごと栗鼠を樹に叩き付けた。 栗鼠はその拍子に地面に落ち、素早い動きで離れていく。 痛みはあったが、まともに齧られるより幾らか軽くはなっただろう。 「ま、どんなにしたってアヤカシだからね」 言うより早く、宗久が放った矢が栗鼠目掛けて飛翔した。 然し矢は尻尾の先を掠っただけで、アヤカシはちょこまかと攪乱するように動き回る。 「ほれ、大人しくしとりな」 彩音が大事に至らなかった事に安堵を覚えつつ、周太郎が呪縛符で式を呼び出す。 完全に動きを止める事は出来なかったが、栗鼠が怯んだ瞬間を狙った彩音が敵を射る。 「次です」 呆気なく倒れた栗鼠を尻目に、彩音の瞳が次の標的へ狙いを定めた。 先程は失敗した呪縛も、次こそ当てて見せようと周太郎が動く。 「オン・シラバッタ・ニリ・ウン・ソワカ」 動き回ろうとした栗鼠の周囲、式が纏わりつくように出現した。 ハハ、と明るくも気怠げな笑いと共に、隙を逃すまいと宗久が瞬速の矢を放つ。 矢に貫かれた栗鼠は虫の息だが、それでも必死に攻撃を加えようと宗久に飛び掛かる。 もう一匹のアヤカシも好機と見たのか、彼へと団栗を投げ付けた。 「おおっと、いくら可愛くても、愛でたくても、齧られるのはヤだからねぇ」 纏わり付いた栗鼠を、宗久は白鞘で振り落とす。 落ちた瞬間を狙った彩音の矢はアヤカシを的確に捉え、その息の根を止めた。 流石に、団栗まで避けきる事は出来なかった宗久だが小さな栗鼠の攻撃は致命傷には至らない。 状況を不利と判断した栗鼠達は、三人をじぃっと見つめる。 おまけに可愛らしく鳴き始め、心なしかぷるぷる震えていた。 ――が、彩音は構わず、続けて矢を射る。 「一匹持って帰りたいなぁ。あんまり可愛いからさ、持って帰って食べたくなるなぁ。食欲の秋だもんねぇ」 早口気味に言葉を紡ぐ宗久だが、彼らもまた攻撃の手を緩める事は無かった。 必死に避けようと逃げ回る栗鼠達は、既に追い詰められている。 残るは一匹。 逃げる事もままならぬ栗鼠へ、周太郎がつかつかと歩み寄る。 円らな瞳を向けるそれを引っ掴み、彼は目を伏せた。 それらは、アヤカシとして生まれて来なければ純粋に愛でる存在でもあっただろう。 だが、人に危害を加えるアヤカシである以上、それは滅するべきものだ。 「オン・マリシエイ・ソワカ!」 零距離から放たれた周太郎の斬撃の式符が、栗鼠の体を斬り裂く。 そして、もう動かなくなったそれは瘴気と共にゆっくりと消えていった―― ●彩り満ちて 森に、笑い声が和やかに木霊する。 其処には以前と変わらぬ様子で遊び回る子供達の姿があった。 怪我の治療を終えた後、一度報告へ向かった開拓者達は、良ければと村の子供を森に誘っていた。 先に遊び始めた子供達を遠目に、開拓者達は陽の差す一角に座り込んでいる。 「たくさん作ってきましたから、遠慮なくどうぞ」 穏やかな口調で包みを広げ、圭一郎が弁当箱の蓋を開けた。 箱の中身は季節の野菜の煮染めから始まり、金平牛蒡や薩摩芋の甘露煮、卵焼きに漬物と非常に豊かだ。 子供達も食べられるようにと、多めに用意されたおにぎりも綺麗に並んでいる。 「‥‥良ければ、此方も‥‥」 圭一郎の弁当の隣、頼明もまた自分が作ってきた食事と甘味の包みを取り出す。 此方も負けてはおらず、梅と鮭の塩むすびや沢庵、切干大根の横には色も鮮やかな炒め物。 炒り卵の色合いもさることながら、鱒の粕漬焼までもが用意されており、実に食欲をそそる弁当だ。 周囲が秋の彩りだとすれば、此方は食の彩りという所だろうか。 「頂いても良いんですか?」 聞きつつも、既にネイトは食べる気満々だった。 思い浮かべた猪鍋の思いは叶わなかったが、手作りの味を口にする事が出来る。それだけでも十分だ。 器用に箸を使い、金平牛蒡を口に運んだネイトが「美味しいです」と感想を漏らす。 素直な言葉に圭一郎はにこにこと柔和な笑みを浮かべ、他の仲間にも弁当を勧めた。 「しかし、圭一郎さんとは三年振りになるのか」 食事に手を付け始めた周太郎は、ジルベリア産の茶を振舞いながら、過去に彼と出会った時の事を思い返す。 早いものですね、と圭一郎がしみじみ頷く。 友人として暫く会っていなかった分、積もる話もあるだろう。秋色の景色の中、和やかな会話は続く。 「わぁ、どれも美味しいですっ」 笑顔を向け、頼明の弁当をつつくリコは実に幸せそうだ。 ネイトも同じく目の前の弁当の味を楽しみ、おにぎりを片手に満足そうな表情を浮かべている。 そんな彼女達の姿を目を細めて見遣る頼明。誉められて嬉しくない事など、きっとない筈だ。 「おべんと、おべんとっ。あ、甘いのありますか?」 楽しげに問うたリコに、頼明が甘味を差し出す。 それは牛乳寒天と羊羹。食後の楽しみがまだあった事に、ネイトとリコは目を輝かせた。 歩みを進める度に、落葉の絨毯がさくさくと軽快な音を立てる。 残党が残っていないかの確認も含め、秋の森を散策していた彩音は、頭上からの物音に木々を見上げた。 「‥‥」 枝の上に見えたのは数匹のリスの姿。アヤカシかと身構えるが、目を凝らせばそれらは瘴気を纏っていない。 視線を戻し、再び歩き出す彩音。 その時、ひらりと一枚の紅葉が舞い、悪戯でもするかのように彼女の頭上に落ちた。 「面白い事、ないかなぁ」 冷たい川に足を浸し、大きな独り言を呟きながら遊ぶのは宗久。 最初は子供達に妙に怖がられていた彼だが、物好きな子供が思い切って彼に話し掛ける。 元より人当たりの良い事もあり、宗久は子供の相手を苦ともせずに喋り続けた。 「いやぁ、面白い事っていったらアレだね。こんな年下の子達に、モテてしまう事が面白いと云うべきか、ハハハハ」 気付けば、彼の傍にはいつの間にかわらわらと子供が集まっていた。 少し離れた木の下では、助六がアヤカシ退治の武勇を語っている。 「またこわーいアヤカシが来るかもって? 安心しとけ、おいちゃんたちが居るからな!」 胸を張った助六を見た子供達は、残っていた不安を拭い去るかの如く満面の笑みを浮かべた。 持参した団子を仲間にも勧め、助六は景色を眺める。 ふっと、煙管を加えた口元が僅かに緩んだ。風流だねぇ、と。 「森で遊ぶ時の参考になれば良いが‥‥」 弁当の片付けを終えた頼明は、子供に栗の薬効を教え始める。 無表情ながらも、面倒見も良く説明を続ける彼にこくこくと頷く子供達。 それに混じって周太郎も紅葉狩り途中で拾った栗を見つめながら、興味深く聞いていた。 「と、もうこんな時間なんですね」 鴉の鳴き声を聞き、圭一郎が空を見上げる。 秋が深まったと云う事は、日が沈み行く時間も次第に早くなっているという事。 そろそろ引き上げなけれはすぐに暗くなってしまう時間だ。 散策から帰ってきた彩音も手伝い、皆に帰宅を促す。 まだ遊び足りぬという子も居たが、夕方では仕方ないと子供達は次々と帰路につく。 「それじゃ、私達も帰りましょうっ」 子供達が全て帰った事を確認して、リコが仲間に呼び掛ける。 最後の記念にと、助六は紅葉の葉を一枚拾い上げて懐に仕舞いながら、誰にでもなく呟いた。 「紅葉にゃ『大切な思い出』って言葉があるのさ」 ――今日、この日は其々にとっての良い思い出に成り得ただろうか。 陽の色を受けた長い影が橙の色味を増す森へと重なる。 夕暮れに染まりゆく空は、まるで遠ざかる者達を見送っているかの様にも見えた。 |