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■オープニング本文 ● 春風うららか、新芽が膨らみ花が咲く。 (そろそろ‥‥いい季節ね) 受付台の近くにある窓からも外の景色が見える。薄桃色の花弁が少しずつ樹上を彩っていく様子が、春の訪れを感じさせてくれるのだ。 気分転換に花を見に出かけるのもいいかもしれないと思いながら、晶秀は記憶の抽斗を探り出した。桜の花言葉はなんだっただろう? (精神美、淡白‥‥優美、と) 戯れに紙の端に筆を躍らせてみる。一度目が気に食わなかったようで、納得行く文字がかけるまで何度か繰り返した。 「‥‥‥」 「あのー」 「‥‥‥‥‥」 「あ、あのー、晶秀さん?」 差し込む陽射しが遮られて手元がかげった事にも気にせず、かけられる声にも気づかず書き直していれば、遠慮がちにかけられる声。 「はっ?」 名指しで呼ばれてはじめて気づいた晶秀が顔を上げれば、今では御得意様とも呼べる古物屋の店主。 「‥‥お時間大丈夫でしょうか? 依頼をお願いしに来たのですけれど」 「っ! ‥‥大丈夫です、お話伺います」 文字ばかり連ねた紙を横に押しやり、新しく書き付ける紙面に向けて筆を構えた。 ● 「花見の誘い‥‥にしてはいささか大々的ですね」 「もちろん宴会のような形を想定していますが、そこでちょっとした行事を催そうと思いまして」 うちの店の宣伝にもなるでしょうから。そう続けながら三豊が話すのは、彼が考えてきたコンテストの概要である。 「それで、着こなしコンテストですか」 「実際には参加者さんが持ち寄った衣装を使うことになりますし、その場でうちの商品が売れるというわけではないですけれど。少なくとも、主催者として名を連ねておけば店の知名度をあげる事はできると思うのです」 晶秀さんはどう思われますか? そう意見を問われずとも、理にかなっていることはわかる。 「確かに、開拓者に頼むのが理想ですね」 別の土地を出身としている者達の参加があれば、神楽で暮らす者達にとって新しい刺激になることもあるだろう。 (でも、それは建前かもしれないわ) 最近曇りがちだった世間の空気に明るさを呼び込める、晶秀にとってはそちらの方が重要に思えた。 「審査員は誰が担当するんです?」 書き付けたメモを見直して、審査員は三名だという箇所を確認してから首をかしげる。一人は主催者である三豊だとして、残り二人は誰が担当するというのだろうか。 「そこで、晶秀さんにもお願いがあるのですが‥‥」 言葉を最後まで言われなくとも、その視線で感じ取る。 「‥‥貴方ほど目が肥えているとは思えないのですが」 「審査員ごとに着目点を変えますから、そこは大丈夫です。むしろ晶秀さんが適任なのですよ」 だから大丈夫と頼み込まれれば、仕事の内容もはっきりしていることだからと請け負うことになるのだった。 ● 『花見の会にいらっしゃいませんか』 桜が美しい季節がやってきました。 その桜の美しい景色の中で、互いの春の装いを競い合ってみませんか。 自慢の服で装った参加者、花や人々を愛でる観客‥‥共にお待ちしています。 古物屋店主 三豊 矩亨 追伸 此度の会にいらっしゃる皆様には、心ばかりではありますが松花堂弁当をご用意しています。 |
■参加者一覧 / ヘラルディア(ia0397) / 京極堂(ia0758) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 巴 渓(ia1334) / 瑪瑙 嘉里(ia1703) / 四方山 連徳(ia1719) / ルオウ(ia2445) / 倉城 紬(ia5229) / ペケ(ia5365) / 設楽 万理(ia5443) / 鈴木 透子(ia5664) / からす(ia6525) / 詐欺マン(ia6851) / 和奏(ia8807) / リエット・ネーヴ(ia8814) / フェンリエッタ(ib0018) / アマネ・ランドリン(ib0100) / ルンルン・パムポップン(ib0234) / ファリルローゼ(ib0401) / ミレイユ(ib0629) / 御影 瑠璃(ib0774) / 神凪 縁(ib0978) |
■リプレイ本文 ● 薄紅の花弁に誘われ、花見の宴に訪れる。依頼書に書かれていた文字を目でなぞりながら小さく笑みを浮かべたのはヘラルディア(ia0397)。 (販売促進なのは見え透いてる気がしますが。華やかで見目が麗しい催しならば‥‥) 金の髪で真珠の簪が揺れる。一人二人と集まってくる開拓者達を見れば、これは賑やかな宴になる事だろう。 「精神美、淡白‥‥優美」 その他に何だったかしら、と頭を悩ませている晶秀に、笑みと共に口を開いたのは巴 渓(ia1334)。 「その花言葉はヤマザクラのもんだな、晶秀さんよ。桜の種類によって、実は花言葉が細かく指定されてるんだぜ」 「ああ、そうでしたか―――」 花言葉について二人が話を進めている中、主催者の三豊が松花堂弁当を並べて行く。 「お手伝いします」 そう口にして弁当を並べるのを手伝う和奏(ia8807)はどうやら、少しよそいきの気分で緊張しているようだ。 「美しきものを愛でる事に貴族も庶民もないよ」 からす(ia6525)は落ち着いた声音で呟き桜を見上げる。設けた茶席、そして彼女が選んだ茶葉は香り高い。 「桜、すっごく楽しみです! 私、天儀に来たら絶対お花見するって決めてたんですよ」 興奮した様子でルンルン・パムポップン(ib0234)は桜を見つめる。ハラリハラリと散っていく儚げな花を愛でる姿にからすは笑みを零した。 「それはいい、存分に楽しんでほしい。この宴を楽しむ心もまた、美しい」 「(私は桜の木になりますよ。でも、大勢の前ってちょっと苦手)‥‥ここはお酒の力を借りてしまおうかな?」 もふらのモフペッティを連れたペケ(ia5365)がその場にあったお酒を口にする。ヴォトカと甘酒を置いていたアマネ・ランドリン(ib0100)がその飲みっぷりを見て嫣然と笑みを浮かべた。 「いい‥‥飲みっぷりね」 彼女を含めた4名『若葉の双翼』は合戦の打ち上げとしてこの場に来ていた。姉であるファリルローゼ(ib0401)の頬をつついたフェンリエッタ(ib0018)が隊長であるアマネへ手を振った。 「アマネさん、ミレイユ(ib0629)さん、行ってきますね!」 その姿に穏やかに頷きミレイユは声音に嬉色を浮かべる。 「楽しみです‥‥頑張って応援させて頂きますね」 少し離れたところでは倉城 紬(ia5229)がお重を広げていた。 「えと。あの、お花見と言う事なのでお料理も春を意識して作ってみました‥‥」 「お、美味そう!いただきます!」 ルオウ(ia2445)がサッと手を伸ばすが、駄目ですよ、と倉城の制止が入る。 「う♪ こーゆーの好きだから、大丈夫だよ。私の分の料理、取っておいてね?」 美味しいし、とタケノコの佃煮を口に入れたリエット・ネーヴ(ia8814)は給仕さんに早変わり。テキパキとお茶の用意をして声を上げた。 「お茶を欲しい人とか、御代わりを希望する人は私に言ってねぇ〜♪」 この宴のメインはコンテストであるが、宴でメインに弄られる者も存在する。 「ぬちょ主殿、また触手で人を困らせてないでござるかね?」 三豊へと声をかけたのは四方山 連徳(ia1719)だ。以前の依頼、三豊の『珍しい品』のお陰でもふらがぬちょ太郎化‥‥もとい、触手を纏った事を知っている一人である。 「流石にそう、何度もお手は煩わせませんよ‥‥」 苦笑と共に口にする三豊であるが、説得力の有無は問わずにおいておこう。ぬちょ太郎と呼ばれたもふらは今日もご機嫌のようで、パムポップンと遊びながらもふ〜と嬉しそうだ。ぬちょ太郎? と首を傾げた礼野 真夢紀(ia1144)はほう、と感嘆の息を吐く。 「もふらさまも様々なのですね‥‥」 間違ってはいないが、ちょっと純粋な様子に心配になってしまう晶秀。冷静な受付さんはくれぐれも気を付けて下さいね、と引き攣った表情で念を押すにとどめた。 「ぬちょ太郎、凄まじいネーミングセンスだわ」 黒と白のモノトーンで引き締めたジルベリア風の礼服を纏った設楽 万理(ia5443)はカツンとハイヒールを鳴らして登場。 桜も桃色なら、雰囲気も桃色の世界を醸し出す2名。 「(お願いしてみて、良かった‥‥)あ、あの、京極さん」 緊張した様子の瑪瑙 嘉里(ia1703)の髪に飾られた枝垂れ桜のような櫛。艶やかな黒髪に映えるのを見れば名前を呼ばれた京極堂(ia0758)は煙管から口を離して目元を和ませた。 「お? それえぇやん♪ 可愛いなぁー」 余ってるから貰ったのだと、瑪瑙の言葉に少し面白くないものの笑みで隠して髪に口づける。 「嘉里のために色々作ってきてんでぇー‥‥ほいっ! 京極特製三段重弁当や!」 ほわほわと柔らかい雰囲気を醸し出していた瑪瑙だが、不意打ちの口づけに真っ赤になるとはにかみ京極堂の着物の裾に触れた。 はしゃぐとまでいかずとも、目がキラキラと輝いている。 「とても、嬉しいです‥‥」 お酒を持ってきましたと、甘酒と桜火を差し出し二人は完全に二人の世界に入っていく。 もう一方、色んな意味で良いコンビの二人。 「こう言う格好も‥‥」 せめて桜が舞う、この瞬間だけは仇討ちも忘れ―――決して忘れる事が出来ないものの、御影 瑠璃(ib0774)はいつもより可愛らしい姿をしていた。ロングのカツラに、桜の花が描かれた巫女っぽい給仕服‥‥いわゆるメイド服に、桜のピアス。 (いっちょ俺も盛り上げるとするかな‥‥) 何やら画策中の神凪 縁(ib0978)は気合を入れると着替え‥‥? にいそしむのだった。 「花の色は‥‥」 詐欺マン(ia6851)は詩を口ずさみながらお茶を飲んでいた。 「このお茶はまろの好みでおじゃるよ」 「それは良かった、もっと淹れてあげよう‥‥」 「春ですねぇ―――」 詐欺マンとからす、そして和奏。何やら異色の取り合わせであるがこれはこれで楽しそうである。 ● 花見は決して、花を愛でるだけではない‥‥その証拠に集まった人々はコンテストに参加する為各々衣装を持ち寄っていた。 「華やかですね」 と三豊が呟く。しっかり特等席を陣取った彼はぬちょ太郎と共に審査員だ。 「面白そうもふ」 「アピールも重要です、勿論」 晶秀の紅い瞳が光る‥‥可愛い物や乙女らしい物を好む彼女の審査眼はどう発揮されるのか。 「えー、一番手は神凪 縁さんですね、どうぞ」 クジで決めた順番を書いた紙を読み上げる。 何処からともなく聞こえて来た拍手と共に、ダンッと現れた神凪。 褌が風になびく、ボディペインティングと言う斬新なアイデア‥‥始めからやってしまった、脱いだら凄いんです、を。 凍りつく場内‥‥と言う事でもないが、レディの皆さんが少しばかり視線を逸らしている。が、そこにも適切に動ける人間は存在した。 「え〜に〜し〜♪」 太刀「兼朱」を意気揚々と振りながら壇上に上る御影、眩しすぎる笑顔だ。それが若干怖い。 「ちょっとお願いがあるんだけど、一緒にあっちに行こ♪」 御影の後ろに般若、退路、そんなものは始めから無かった‥‥女性は恐ろしいものだ。悦に入っていた神凪の背中を冷たい汗が伝う。 「やっぱ男はわいるどでなくちゃな‥‥って瑠璃、何だその物騒な得物は!? わかった、俺が悪か――――げはっ!?」 「楽しそうもふよ‥‥」 何やら10点の札を掲げるぬちょ太郎、判定の基準は全く分からないが―――とりあえず。 「お見苦しい所があったことを、深くお詫び申し上げます」 「‥‥晶秀さん、何方に仰っているんですか?」 それは聞かないお約束、御影が神凪に教育的指導を施している間にコンテストは進む。 「おー、すっごく派手!」 ネーヴの言葉に派手で表してもいいのだろうかと倉城は苦笑を浮かべる。とりあえず、彼女が行った事は――― 「ルオウさん、頑張ってほしいですね」 応援だった。 「からすさんは参加されないんですか?」 「私は参加するより、こうして見ているのが一番似合う」 和奏の言葉にゆっくりと首を振るからす、ではまろが、と立ち上がったのは詐欺マン。 「まろの姿を、とくとご覧あれ」 何処からともなく響く拍手、内股であらわれた詐欺マンは、バッと骸骨の外套を棚引かせ汚れた忍者鎧を纏っている。『正義』と書かれた扇子を広げて口元を隠し、烏帽子には『愛』外套には『真実』と言う手の凝りよう。 「髑髏の外套は陽気に浮かれることの危険さを、忍者鎧はまろが汚いシノビであることを」 ザッと番傘が広がる、表すのは桜と同じ一瞬の美しさ。 「見えない褌に、春そのものがある―――」 脱ぐ気か? と思わずツッコんだ開拓者達、だが詐欺マンは番傘を翻し水遁の水しぶきを浴びながら優雅に踊るのみ。ある意味オイロケ担当である。 「賑やかし位には‥‥」 続いて現れたのは礼野、単衣に縫いつけた桜の花弁‥‥縫ったと言う事で色が変わっている部分もあるが、そこはご愛嬌。後朝に摘んだタンポポの冠が愛らしい。 「次、いっきますよーっ!」 桜の花びらを豊かな胸元から撒き散らし、現れたのはペケ。淡い桃色に染色したミニのワンピースに同じ色合いの手袋と帽子、幹に見立てた茶色のニーソックス。 「悪の抜け褌め、覚悟するもふ!」 ヒーローごっこを始めたモフペッティと向き合い、攻撃、かわし‥‥ 「あ‥‥!」 自分の撒いた桜の花弁で盛大にひっくり返る。風に揺れるスカートの中身が肌色だとか、ちょっと理解してしまった開拓者。内心大拍手をした者はどれ程いただろうか? 次に現れたのは設楽、面接に乗じたアピールを始める。 「設楽 万理です。学生時代ですか‥‥狩りでリーダーを務めていました」 「もふら狩りもふね、分かるもふ」 ぬちょ太郎が同意する‥‥分かりますか、と返事を返す設楽。同族狩り? とか、何故分かる? とか。色々ツッコミどころはあるのだが何処から突っ込んでいいか歴戦の開拓者でも迷ってしまう。 「皆さま、色々な趣向を凝らされるのですねぇ‥‥あ、次の方が」 常にパチパチと拍手を送る和奏、登場する度に流れる拍手音は彼が担当している。‥‥気がする。 「私は実は騎士で隊の慰労会も兼ねて来ました。お姉様、アマネさんミレイユさん―――いつも私を支えてくれてありがとう」 鈴の鳴る音と共に現れたのは柔らかな若草色のワンピース、レースの透け感が夏にもよさそうな衣装を纏ったフェンリエッタ。7分丈のパンツがキュートでありながらスポーティー、そのまま桜白色の飾り紐を揺らし、スカートの裾をつまんで優雅に一礼。 「戦地にも花が咲きいずれ若葉の季節が廻るよう‥‥願い込めて」 クルリと身軽な動作で回ったフェンリエッタ、シスコン前回の顔でファリルローゼが見つめる。微笑ましいものである‥‥勿論、審査員を睨みつける事も忘れない、彼女の中で妹の順位はトップを抜いていた。 「柔らかな春風ね、フェンは」 フェンリエッタの笛と合わせながらランドリンのリュートが奏でられる。女神の如く、合戦を駆け抜けた姉妹の一人へ。 「桜のヘアバンド、ワンピースの『スプリング』に‥‥」 「お姉様―っ!とっても素敵です!」 突如響くのは、勿論先に席へと戻ったフェンリエッタの声。どうしたのか、という問いかけには蚊の鳴くような声とうるんだ瞳で。 「‥‥は、恥ずかしいんだ」 クールなお姉様が恥じらう乙女になった瞬間だった。需要が高そうである――― 「野を彩る、春の女神に乗せて‥‥」 ランドリンがリュートを奏でる。それを聞きながらミレイユは心地よさそうに目を細めた。柔らかな言の葉はまるで、春そのもののようだと、思う。 「騎士の姿しか見ておりませんが、やはり綺麗なものですわね」 「ミレイユ、貴女も綺麗よ‥‥智と武の女神だわ」 「いえ‥‥私達の事を女神のよう、と言ってくださるけれど、アマネさんの方こそ女神のようだと思います」 ランドリンとミレイユが微笑み合う。言葉を借りるなら、女神の談笑だろうか? 姉妹が席に着いたのを確認して、現れたのはパムポップン。胸の覆う布は桜色、帽子も桜や菜の花が彩る春らしい姿。 緑の着物を纏い、現れては一回転。首元に光る蝶の首飾り。それ以上に眩しい笑み。 「みんな、お花見に来てくれてありがとう、私みんなの為に、歌って踊っちゃいます!」 ブレスレット・ベルが軽い音を立てる、当人曰く、ルンルン流忍法のオン・ステージ。 「桜の言葉は確か‥‥死体が埋まってる?」 なんて、言う言葉に開拓者達もフリーズしたりするのだが―――華やかな宴は最高潮へ。 「俺はサムライのルオウ! よろしくな」 黒い陣羽織をなびかせ、名刀「ソメイヨシノ」が閃く。相棒の猫又を相手に殺陣でアピール。 月の光に照らされソメイヨシノは桜色に染まった。 ● 「さて、皆さん‥‥もう一方審査をお願いします」 そう切り出した主催者の三豊、ぬちょ太郎ももふもふ言いながら視線を向ける。 「わ、私ですか?」 いきなり話を振られた晶秀、そんな事前の打ち合わせは聞いていない‥‥が、有無を言わさず舞台に引っ張り上げられた。髪は手櫛程度で揃え、決して女性らしさは失っていないがもう少し華美な服装でも良かったと思う。 ぬちょ太郎に差し出された桜の花を受け取り、髪に差すだけ‥‥それでも。 「皆さん、これからも宜しくお願いします―――」 依頼人と開拓者を繋ぐ開拓者ギルドの受付員として、晶秀は正々堂々と口にすると静かに頭を下げた。 「この宴、最後まで楽しもう―――桜が散る前に」 芽吹き咲いては枯れる命、からすの言葉と共に皆桜へと視線を移す。コンテストも終われば次は夜桜見物へ。 「やほー♪ 食べてる?」 給仕を一旦終えて、ルオウに抱きつくのはネーヴ。倉城の取っておいたお弁当を食べる事も忘れない。 「うぉっ! 勿論だぜ、食って食いまくる!」 不意打ちを食らって衝撃にガクンとなったルオウだが、気を取り直してモグモグとお弁当を食べていく。 「それにしても、皆さん甲乙つけがたいものでしたね」 倉城が感嘆の息と共にお茶を飲み干した。それに頷いたネーヴは暫く考えて手を打った。 「また、皆で来よう!」 来年、お互いに健勝で‥‥そこまで考えたのかは誰にもわからないけれど。それでも、一緒にと言う思いは変わらない。 「なあ、俺の衣装どうだった?」 ルオウの言葉にカッコ良かったと二人の少女は頷く。そして、私のお陰と言わんばかりの雪を見て、ルオウは頬を掻いた。 「お酌はいかがですか? お茶ですが‥‥」 お酌をしてもらったからお返しに、と設楽がネーヴを始めとして盃へついでいく。今日の彼女は新入社員らしく何処となくオドオドとした雰囲気だ。 この『所在無くお酒注いでる姿とか堪りませんよね!』なんて力説が入ったり‥‥自分で作ったこの礼服。割と彼女は気にいっているらしい。 「今回のお花見は、とっても賑やかです―――」 続いて、設楽がお酌をした相手。ありがとうございます、と盃を受け取った和奏がほんわりとした笑みを浮かべる。 (人が出てきて、帰って行ったのは‥‥何だったのでしょうか?) 何となく拍手のしすぎで疲れている和奏だったが、当人もその事実に思い当たる事は無いようだ。 「真に雅やかでおじゃる‥‥」 詐欺マンが呟きながらからすの出した和菓子を口にする。 上品な和菓子に舌鼓を打ち、また、桜へ――― 「‥‥と、三豊の旦那」 個人にお礼はしていないと巴が広げたのはお重。そら豆と桜海老の炊き込みご飯、フキのきんぴら、ウドの味噌和え。にしんの焼き物、つくしのおひたし。どれもこれも力作である。 「春の野草は苦味と甘みが同居した、繊細な食材だからな。苦労したぜ。にしんは旬の魚だし、桜海老の彩りで華やぐ感じがすんだろ」 当人も自信作らしい、その言葉は頼もしい。 「‥‥ほれ、口開けろよ大将。黙って見てるんじゃ、じれってぇ。俺が食わせてやるよ」 姐御肌炸裂‥‥そのお味は会心だったと、明記しておく。 ぬーちょ太郎さん ぬちょ太郎さん 触手にからめた 晶秀さん ちょいと 放して 下さいな 四方山が歌いながらぬちょ太郎をもふる、あのもふらは間違っていると呟く晶秀。 触れぬが吉、パムポップンもぬちょ太郎を思う存分もふる‥‥もふもふがもふもふの毛皮で超もふもふになったぬちょ太郎は心地よい。 「こうして桜を見るのもいいね―――」 御影の言葉に、苦笑する神凪‥‥顔面が殴られ過ぎて惨劇状態だがそれは気にしてはいけない。褌にボディペインティング以外も用意はバッチリ。 「ほれ、お前の好物の酒を一杯持ってきたぞ。今日は思う存分飲め!」 「あ、気が利くじゃない」 お酒の強い御影とは対照的に、直ぐに酔いつぶれた神凪、暫しのまどろみを。 「松花堂弁当も、美味しいですし。何より大切な仲間と、綺麗な景色の中で、美味しいお弁当を頂く‥‥」 幸せなことですね、と微笑むのはミレイユ。その横ではお酒で豹変、キス魔となったランドリンがファリルローゼに抱きついていた。 勿論ファリルローゼは真っ赤である。 「スリットとかセクシーだったじゃなーい‥‥」 可愛いんだから、と額に口づけるランドリン、その横にはフェンリエッタがギュッと抱きついていく。彼女はもしかしてハグ魔? そんな『若葉の双翼』はこれからも、こうして続いていくのだろう―――4人の願いは桜へ込め、永久に。 放しましょう 放しましょう 晶秀さんの 代わりに 遊んで くれるなら 放しましょう のびやかな歌声に小さく笑みを漏らしながら礼野が、姉達へ手紙を書き始める。 『今回は自作のお弁当は作れなかったのですが‥‥出たお弁当も美味しかったですし、他のコンテスト出場者様の着こなしも勉強になりました』 「綺麗でしたよ‥‥春が沢山散りばめられていて」 そんな彼女の横で、小さく零したのはヘラルディア。 「見上げれば満開の桜、この地に来て何度目かでしょうか?」 故郷への思い、それは変わらないものなのかもしれない。心が帰る場所―――今すぐに飛んで帰る事は無理だけれど。 「賑やかな空気に紛れつつ、見つめれば吸い込まれそうな桜の花々を愛でつつ‥‥京極さんの隣に、私がいて」 幸いにございます、と控えめな笑みを浮かべる瑪瑙。さり気なく肩を抱いた京極堂が頷いた。 「たまにはこうやって、のんびりするのもええなぁ♪」 穏やかな二人の時間を、時間を共有することを、共有する相手がいる事を‥‥ 幸せだと思える幸せを。 「幸せっちゅうやつやなぁ」 放しましょう 放しましょう 貴方と 一緒に 何時までも 時間を忘れて 遊びましょう 「桜だけじゃなくて、月も見れるなんて贅沢ですね‥‥」 顔を覗かせた月を見ながらペケは呟く。四方山が始めた歌、ノリのいい開拓者達が歌うのに合わせながら、小さく笑みを零した。 「アレは私の相棒じゃないし、アノ事も不可抗力なんだから‥‥!」 代わりも何も無いわ、と晶秀が口にするが―――誰も聞いていませんよ、晶秀さん。 全く‥‥とため息を吐いた彼女に、もう一品どうぞ、とお重が差し出されたのだった。 (代筆 : 白銀 紅夜) |