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■オープニング本文 「おう、あんたらか」 諸々の手続きを済ませて走ってきた開拓者達に楼港の係留職員が話しかける。 「龍達の戦支度なら済んでるぜ。あいつらもやる気は十分、いつでも出れる状態だ!」 遭都、北面、五行、東房の一都三国に接する天儀南東部の湾は船舶航路の要衝であり、日々多くの船が行き交っている。 その一方で、近海にも関わらず海賊やアヤカシによる急襲が度々発生する危険海域としても有名である。なにせ連携の悪い三ヶ国の境界線、各国の担当者は連携どころか互いに牽制しがちで、もたもたしている間に被害が拡大することもしばしばあった。 その為、今回の騎龍許可を機に利害関係の薄いギルドの開拓者へ任せてみようという意見が出るのは自然な流れであった。 「相手は飛行型アヤカシの一群。湾内の船を襲いつつ沿岸都市まで進出する腹積もりだろう。陸地の戦いとは色々と勝手が違うが、龍もアヤカシも大抵の場合後ろや上からの攻撃には弱いのが相場だ。立体的な位置取りに注意して、決して気は抜くなよ!」 そう忠告しながら職員は龍の背へと開拓者を押し上げる。 沖合いに見える灯台から発光信号で連絡が入る。 アヤカシ総数14。小型空戦型8体、船舶攻撃型4体、対都市攻撃型2体。 天気晴朗にして、視界を遮る雲も無し。 開拓者と相棒達が、今大空を舞う。 |
■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
雲母坂 優羽華(ia0792)
19歳・女・巫
喪越(ia1670)
33歳・男・陰
八嶋 双伍(ia2195)
23歳・男・陰
菊池 志郎(ia5584)
23歳・男・シ
新咲 香澄(ia6036)
17歳・女・陰
麻績丸(ia7004)
15歳・男・志
久我・御言(ia8629)
24歳・男・砂 |
■リプレイ本文 ●いざ蒼天へ 朝日が海に反射する中、開拓者を乗せた龍達は大きく翼を広げると、次々に空へと舞い上がっていく。 「トゥバン、初仕事だよ。一緒に頑張ろうね!」そう声をかけられた新咲 香澄(ia6036)の駿龍トゥバンも一声咆えると大空へとはばたいた。 乗り心地が悪くなるほど気性の荒い龍は居ないが、戦の前で興奮しているせいか動きが荒い龍は少なくない。 「こうして乗るのも何時以来でしょうね・・・・慣らしも兼ねて、手早く片付けたい物です。では、共に参るとしましょう・・・・禍火」 朝比奈 空(ia0086)はそう言って、自らの龍を落ち着かせる 青い空の向こうから、いくつかの黒い影が見えてくる。人と同じか、やや大きいくらいの小さな影が数個。続いて龍より大きな、空飛ぶ衝車のような影。そしてその奥に・・・・巨大な黒い塊が二つ。いずれも、話に聞くアヤカシであろう。 「さぁ行きましょう燭陰。いつもの喧嘩ではなく初陣ですよ・・・・存分に暴れましょう」 八嶋 双伍(ia2195)が手塩にかけて訓練してきた燭陰が、大きく咆哮を上げた。 開拓者たちの接近に反応し、小型アヤカシが散開を始める。開拓者を包み込み、側背からしかけようという狙いであろう。 「まずは俺達で向こうの意図を挫きます。先生、時間勝負ですね、急ぎましょう」 菊池 志郎(ia5584)は自らの龍、隠逸を先生と呼ぶ。名が呼びにくいことと、彼の師の代からの古参に敬意を払ってのことである。 志郎、香澄、雲母坂 優羽華(ia0792)の駿龍が真っ先に接近して包囲を阻み、後続とともにまずは小型の数を減らすのが開拓者側の作戦だ。 「ほな気張りましょかぁ。倚天はん、あんじょうよろしゅうにぃ」 優羽華は倚天の背からゆったりと神楽を舞う。倚天に精霊の加護を纏わす為に。 そのままアヤカシの群れを突き抜けた後、倚天はよろめきながらUターンし、元来た方向へと向かう。 「おっとと♪お〜には〜ん‥‥ちゃうちゃう、アヤカ〜シは〜んこ〜ちら〜、手ぇ〜鳴〜るほ〜うへ〜♪」 そう囃しながら逃げる優羽華達に数匹のアヤカシが追いすがる。その進路には開拓者の本隊が居ると、この時点では気付かぬまま・・・・ 志郎と香澄はそれぞれ相手の側面に回り込む軌道を取る。つまりは側面を取ろうとするアヤカシ達と正面から渡り合う形になる。 「さぁ、トゥバン!ボクらの連携を見せてやろうよ!」 正面から向かってくるアヤカシに、香澄の霊魂砲が撃ち込まれる。痛打を受けながらもそのまま突っ込んできたアヤカシをトゥバンは蹴りつけると、その反動で間合いを取る。アヤカシの翼の付け根の鉤爪を避け、こちらも味方の方角へと逃げていく。 「トゥバンのスピードを甘くみないでね!」 「さて、こちらはこちらで行くとしましょうか」 志郎と隠逸はそのまま引き付けることなく攻撃に入る。 「皆が逃げるとばれてしまいますからね」 手にした手裏剣をしっかりと構え、アヤカシの目や翼を狙って投げつける。当たればしめたもの、防がれたとしても・・・・ 「先生、お願いします」 速度を緩め、目を庇う為視界の狭まったアヤカシに隠逸が爪の一撃を加える。ふらつきながら反撃に移るアヤカシたちの爪牙を巧みな機動でかわし続ける。 ●白兵戦展開 やや遅れて戦闘空域に突入した後続の開拓者達の前で、先発隊を追いかけていた小型アヤカシのうちの三匹が編隊を離脱して戻っていく。中・大型から大分引き離されていることに気付いたのだろう。 「ふむ、この場で一網打尽とは行きませんか」 「楽はさせてくれねぇってね。さぁて鎧阿、食い扶持分は働いてくれよ!」 双伍の呟きに喪越(ia1670)が笑いながら肩をすくめると、そのまま突き進む。 優羽華達を追ってきた一群に対し、正面から霊魂砲の連続射撃。後方から距離を詰める双伍と合わせて、密度の濃い砲撃を浴びせ、すれ違った後は振り向くこともなく大物の群れに向かう。 「アディオス!達者でな〜」 二人の背を取ろうと旋回したアヤカシの更に後ろを取る格好で、優羽華、香澄の二人に空も加わって攻撃する。 「油断大敵、うちらを放っといたらあきまへんえ?」 「こっちのことも忘れられたら困るよ!」 「隙だらけですね・・・・墜ちなさい!」 後方を取られた小型アヤカシは呆気ないほどに墜落していく。 「久我ちゃん、しっかり付いて来てるかい?」 後ろを振り返ることもなく喪越が久我・御言(ia8629)に尋ねる。 「ああ、大丈夫だ。しかし、後ろは警戒しなくても大丈夫なのか?」 乗龍の秋葉ともども初陣の御言にとっては仲間達の動き方、考え方は勉強になる一方で驚くことも多い。 完全に後方警戒をしないなど恐ろしくは無いのだろうか。 「なぁに、敵の後ろにゃ味方がいる。ってこたぁそっちに任せて大物狙いで問題無しだぜアミーゴ」 「さて、距離も詰まってきましたし、久我さんも気を引き締めてください。朝比奈さん達と合流するまでが危険な時間ですから」 「了解した。自らの職分は果たさせてもらおう」 目の前の二匹のアヤカシを片付け、志郎も敵の本隊を目指す。 「お疲れじゃないですか、先生?」 志郎の問い掛けに隠逸は軽く首を上げ、グルルと答える。まだまだいけるという意思表示だろう。 「わかりました。でも無理はしないでくださいね」 「イヤッホウ!こいつぁとびきりの大物だぜ!」 大型アヤカシを見た喪越は口笛を吹きながら感嘆の言葉を発する。図体の割りに小ぶりな腕や翼と、巨大な角を生やした中型もさることながら、名状し難い黒い塊としかいいようの無い、いかなる原理で飛んでいるのかもわからない大型の迫力は凄まじい。 そして中型の内二体が開拓者達を誘うように高度を下げ始め、更に後退していた小型の生き残りも近づいてくる。 「他の連中はどうだい?」 「うん、周辺の小物は片付いたようですね。程なくここまで来てくれますよ」 「なら下に降りた連中から潰していくか。よーし鎧阿、折角のお誘いだ、失礼すんじゃねぇぞ!」 鎧阿と燭陰が突撃の雄叫びを上げながら下に降りた中型に真上から襲い掛かる。 「やれやれ、せっかちどすなぁ」 先発集団の様子を見た優羽華があきれたように言う。 「でも、喪越さん達のおかげで随分良い形ができたようですね」 空の分析通り、下に降りた中型とそれを追う二人、そしてそれを狙う小型に対しては志郎と御言、高度を落とさず進む中型・大型は彼女達が牽制すれば、個々の状況で著しい不利を蒙ることは無い。 「え〜っと、ボク達はどうすればいいかな?」 「余力を残しつつ、迎撃で問題ないかと」 頭に疑問符をつけた香澄に空が答えると、そうかとばかりに香澄はトゥバンの速度を上げる。 「わかった!それじゃ突っついてくるね〜!」 「さて、今が一番の機だ・・・・秋葉、頑張ってくれ」 御言の言葉に答えるように秋葉が進む。御言と合わせても2対3の状況下でもよく持ちこたえながら戦う・・・・が。 「くっ、後ろにつかれたか。振り切れないか?」 正面と迂回方向にも敵を抱えた状況では難しい。速攻で正面のアヤカシを潰し、反転迎撃に出るのもスキルを持たず決定打に欠ける今の御言では厳しいか。 「ならば避けきるしかないな・・・・秋葉、心体を一にしてやり過ごすぞ!」 正面からの爪、背後からの一噛み・・・・精神を集中し、これを避ける。 「・・・・しまった!」 だが、先回りして待ち構えていた三匹目の爪が秋葉を抉る。グゥゥゥ、と呻き声を上げてよろめく秋葉。 「すまん、私の未熟だ。もう少し耐えてくれるか?」 その時、アヤカシの翼へと数本の手裏剣が刺さる。 「お待たせしました!先生、久我さん達と連携して一気に片付けましょう」 志郎がさらに回り込む形で、アヤカシを御言と挟み討てる位置取りに動く。守勢に回されてしまうと耐久力の無い小型は脆い。龍達の爪牙に裂かれて次々に姿を消していく。 ●敵中核部隊 「大きいなぁ。よし、死角に回り込んじゃえ!」 香澄は中型の後方に着き、距離を縮める。と・・・・ 「わあっ!」 ぐるりと首?を180度回転させ、アヤカシの角が襲い掛かる。寸でのところで直撃はかわしたものの、トゥバンの脚から出血しているのが見える。 「ごめん!ちょっと油断したね・・・・」 理外の存在たるアヤカシは時に考えの付かない動きをこなす。あの角は360度動くものと見たほうがいい。 「空も優羽華も気をつけて!距離をとって攻撃しよう!」 後に続く仲間に注意を促しながら、旋回する龍の背で霊魂砲の準備を始める。 「上もやってるみたいだねぇ」 喪越は霊魂砲を浴びて唸り声を上げる中型アヤカシを楽しそうに見ながら言う。 「悪くない状況なのですが、問題が二つ」 「ひとつはこいつらが思ったより脚が速いってこったな?」 中型は突撃を得意とするだけあって、図体の割りに速度が出ている。どこかで加速を緩めないと、港まで近寄られかねない。 「まぁ、一発くらいなら踏ん張れるよな、鎧阿?」 自信が無さそうに小さく鳴く鎧阿の頭をぽんぽんと叩きながら、進路方向に立ち塞がる動きを取らせようとする喪越。 「もうひとつは、このアヤカシが思いの外頑丈な事」 双伍の懸念として、最早中型には引き離され小型の直掩も失ったままゆっくりと近づいてくる大型の存在があった。 一般に大きいほど強いというアヤカシの性質からしてあの二体が最大の難敵である事は疑いない。それに対しての練力がどれほど残せるかは中型の耐久力次第である。 「まぁそれでも見た目にも大分くたびれてるんだ、その辺は一気に畳み掛けてから考えようぜ!」 アヤカシの前方に躍り出た喪越と鎧阿に、アヤカシは身を細めるようにして突撃体勢に入る。 危機を察した鎧阿の鱗が、ざわめくように硬度と密度を高めていく。 「グァアアアアアア!」 そこから、何を思ったか真正面からアヤカシに突っ込む! 「おいおい、心中しようってんじゃないだろうな?」 そして正面からわずかに軸をそらして、アヤカシの角の根元付近に鎧をぶつけるようにして攻撃を受ける。ただ正面から受け止めるよりも衝撃を受け流せる。 「なるほど、角を正面に固定したこの体勢時がこちらの好機。燭陰、仕掛けますよ」 高度を上げながら追尾していた燭陰が急降下しながら襲い掛かる。それに合わせて至近距離から撃ち込まれた双伍の霊魂砲を受けたアヤカシは、ぐらりと傾くと海中に沈み、そのまま浮き上がってこなかった。 どうだとばかりに鼻を鳴らす鎧阿に喪越は手を叩きながら 「いやいや、さすが俺の相棒。それじゃ、もう一発頼むぜ」 グウォ!?と横に首を振る鎧阿。 「はいはい、こっちこっち〜」 「うちも忘れてもらったら困りますえ〜」 駿龍二頭が交互に挑発をかけて足止めしつつ・・・・ 「動きが止まった・・・・さあ禍火、私達の番です」 空の禍火が上空から急降下して中型アヤカシを攻撃する。離れた二人も、攻撃をしかけながら再度接近。 やがて、弱りかけたアヤカシに対し興奮した龍達が一斉に襲い掛かる。爪を立てて引き裂き、牙で喰らいつき引きちぎる。たちまち幾つかの塊にちぎられたアヤカシは空に溶けるように消えていく。 「どうどう、もう倒したよトゥバン」 「あらあら、倚天はんらもまだまだやんちゃどすなあ♪」 なだめながら撫でてやると、龍も嬉しそうにグルルと鳴く。 「さあ、後は大型を残すのみ。禍火、もうひと頑張りですよ」 その声に応えるように龍の翼が大きく広がる。 「さすがに、二人で仕掛けるには無謀か」 「ですね、他が片付くまでは積極的に仕掛けるわけにも・・・・」 志郎と御言の前を大型アヤカシが悠々と進んでいく。その周囲には常に小さな(といっても5,6歳の子供くらいの大きさがあるが)泡のようなものが撒き散らされていく。どうやらこの能力は敵を認識してからの攻撃行動ではないようだ。 「さっき沖合いのほうまで確認してきたんですが、ある程度時間が経つと何もしなくても爆発するみたいですね」 志郎が偵察した時、沖合いでは黒い爆炎が連なるように上がっていた。誘爆したのか、それぞれが各個に爆発しているのかは確かめようが無かったが。 「一先ず、これで割れるかどうかやってみます。離れていてください」 志郎はそういうと泡の一つに近付く。 「先生、投げたらすぐに飛び退いて下さい」 そう言って、手裏剣を泡に投げつける。 ぱん、と風船が割れるような音とともに漆黒の爆発が眼前で起こる。爆発範囲は中々広い。 「ふう、寿命が縮むかと・・・・誘爆などはないみたいですね」 爆発に飲まれたはずのいくつかの泡は、変わらず浮かんでいる。所謂炎と衝撃の爆発とは違う何かなのだろう。 「後は・・・・いや、これは皆が来るより先にするのは危険すぎますね」 龍の能力を活用するためにはどこまで接近しても大丈夫かを見極める必要がある。が、それはまた決死行でもある為治療のあてが無いうちにするのはリスクが高すぎる。 ●阻止限界点 「小型・中型は殲滅したようですね」 「はいはい、怪我した人は早う来ぃや〜♪」 散開していた開拓者達が一度集結する。優羽華と空の治療で龍と人それぞれを癒しながら、対策を練る。 「技が撃てる間は離れて戦っても問題ないと思うんですが・・・・」 「困るのはその後、ってか?」 「さすがに、私と菊池さんの手裏剣だけで戦える相手ではなさそうですね」 開拓者達の後方には傾き始めた昼日を反射する船や、楼港の街の背の高い建物が見える。時間は無尽蔵にあるわけではない。 「あそこまで押し込まれては開拓者の名折れですからね。体当たり覚悟でいきますか」 眼鏡を直しながら双伍が覚悟を語る。 「それじゃ、いっくよー!」 香澄の掛け声とともに陰陽師達が一撃離脱を始める。 アヤカシの巨体のほぼ一点に一斉に霊魂砲が撃ちこまれる・・・・がもともとが染み出した闇の塊のような外見の上、表情も声も発しないアヤカシが相手なので被害評価は出来ないに等しい。 「声出したり避けようとするくらいの可愛げはあってもいいと思うんだがな」 「やりにくい相手ですね・・・・」 「うー、練力切れ〜」 「こちらも、先程のが最後の一発ですね」 しかし、眼前のアヤカシは歩を止めることなくゆっくりと、しかし確実に街へと近付いている。 「オーケー、俺っちが先陣切らせてもらうぜ」 言うが早いか、喪越が泡のカーテンの中へと飛び込んでいく。 「こういう時はお前みたいに鈍い方がかえって向いてるぜ、鎧阿」 段々と泡の間隔が狭まる中、泡の一つが翼風に煽られ軽く揺れた後、破裂する。 「っと!直接触れる以外にも駄目な場合があるとはね」 爆発を避けようとすると玉突き式に他の泡に触れる可能性が高い。一撃に耐えつつ真っ直ぐ進むほうが比較的少ない損害で済む。 「びびるな鎧阿、踏ん張りどころだ!」 爆発に飲まれ、焼けたように爛れた左腕で、同じく左半身に爆風を受け悶絶する鎧阿の背を叩く。 姿勢を直して突き進むと、やがて泡の密度が減り、アヤカシの巨体が眼前に迫る。 「とと、ここでぶつけられちゃ洒落になんねえな」 体表から次々に小さな泡が膨らんでは周囲に散らばっていく。向こうから近付いてくる分、これまでとは別の注意が必要になる。 だが一つ、有利な情報も得られた。喪越は大声で叫ぶ。 「泡を潜り抜けたらアヤカシの正面に回れ!そこなら泡に当たりにくいぞ!」 正面も他同様泡が飛び出してくることは変わりない。が、アヤカシの前進に伴って泡は磁石の同極が反発するように両脇に少しずつ避けていく。 「それじゃ、あいつにこれの仕返しをしてやろうぜ、鎧阿!」 喪越が左手を大げさにぶらぶらさせると、鎧阿は一直線にアヤカシに飛び掛る。爪を立てると、まるで豆腐のように削れ、しばらくして傷跡を埋めるように闇が染み出す。どうやら硬い外皮で弾くよりも体力で耐える型のようだ。 他の開拓者と龍も、多少爆発を受けながらもアヤカシに接敵すると、すかさず空と優羽華が癒して回る。 「あと幾らいけはります?」 「4、5回・・・・位でしょうか。あまり余裕はありませんね」 「うちもどす。そしたら倚天はんらにもあんじょうきばってもらわなあきまへんなあ」 「っく、すまん、秋葉はそろそろ限界だ、離脱する!」 「先生、手裏剣で泡を割ったら接近してください」 「悪い、鎧阿に治療を一発だけ頼む」 「よーしトゥバン、前の人の龍が退いたところでキックだ!」 比較的狭い空間に一同が揃うと、飛び交う怒号や指示の一つ一つを理解することは難しくなる。そんな中、誰が発したかもわからないこの一言だけは全員の耳にしっかりと響く。 「街だ!」 振り返ると、楼港の街が随分と近くに見えるところまで来ていた。 「治療のため、と温存しておくわけにもいきませんね・・・・禍火」 空に名を呼ばれると、禍火は意図を察したかのように高度を取る。 そして・・・・翼をたたみ殆ど墜落に近い形で垂直降下する。 「炎よ・・・・闇を浄め、人々に安寧を・・・・!」 噛み付く、というより頭を突き刺すようにアヤカシに潜り込ませ禍火が開いたアヤカシ表面の穴に、浄炎を灯す。龍には害を与えないからこそ出来る特攻技だ。 内部を炙られたアヤカシは・・・・まるで泡のように弾け、そして消える。 「やった・・・・やったぁ!」 「気ぃ抜くなよ!もう一匹いるぜ!」 とは言え泡の密度も減り、開拓者と龍たちの攻撃もするとなると緩慢な動きの大型アヤカシは見る間に身を削られていく。 そして程なく、最後のアヤカシも弾けるように消え失せた。 ●戦い済んで 「はーい、倚天はんも皆はんもお疲れやす〜」 優羽華を乗せた倚天がふわりと降り立つ。町外れの発着場は療養用の厩舎以外は一面草原が広がっている。 「どうどう、落ち着け秋葉」 若い龍達は着陸後もいまだに興奮冷めやらぬ様子で尾を振ったり地面を引っかく。こうした状態の龍による騒動を避ける事も考えて発着場の場所は決められている。 「トゥバンお疲れ様。大変だったけどよくがんばったね!」 香澄にねぎらいの言葉と共に撫でられ、駿龍は自慢げに翼を広げて大声で咆える。 燭陰に至っては暴れ足りないと言わんばかりに日頃の「喧嘩」よろしくごつごつと双伍にぶつかってくる。 「ははは、元気でなにより。ですが、まずは怪我を治す。喧嘩はそれからですよ」 「お前さんの龍も落ち着いてるなぁ」 「あ、喪越さん。そうですね、先生は師匠よりも長く生きてるらしいので」 かなり苦いはずの薬草汁を苦もなく飲み干す隠逸の傷口に薬草を擂ったものを塗りこんでいた志郎が振り向く。 「それより喪越さんの龍は?」 「あいつなら・・・・」 と指差した先では鎧阿が気持ちよさそうに飛んでいる。 「優雅にお散歩、てとこだ。んじゃ、俺は潮風でも浴びながら一眠りしてくるさ」 包帯を巻いた左腕を上げると、喪越はゆっくりと岬へと向かうのだった。 |