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■オープニング本文 天儀暦1009年12月末に蜂起したコンラート・ヴァイツァウ率いる反乱軍は、オリジナルアーマーの存在もあって、ジルベリア南部の広い地域を支配下に置いていた。 しかし、首都ジェレゾの大帝の居城スィーラ城に届く報告は、味方の劣勢を伝えるものばかりではなかった。だが、それが帝国にとって有意義な報告かと言えば‥‥ この一月、反乱軍と討伐軍は大きな戦闘を行っていない。だからその結果の不利はないが、大帝カラドルフの元にグレフスカス辺境伯が届ける報告には、南部のアヤカシ被害の前例ない増加も含まれていた。しかもこれらの被害はコンラートの支配地域に多く、合わせて入ってくる間諜からの報告には、コンラートの対処が場当たり的で被害を拡大させていることも添えられている。 常なら大帝自ら大軍を率いて出陣するところだが、流石に荒天続きのこの厳寒の季節に軍勢を整えるのは並大抵のことではなく、未だ辺境伯が討伐軍の指揮官だ。 「対策の責任者はこの通りに。必要な人員は、それぞれの裁量で手配せよ」 いつ自ら動くかは明らかにせず、大帝が署名入りの書類を文官達に手渡した。 討伐軍への援軍手配、物資輸送、反乱軍の情報収集に、もちろんアヤカシ退治。それらの責任者とされた人々が、動き出すのもすぐのことだろう。 「リーガ城への補給だ!お前ら、きりきり積み込め!」 「おいおい、つい数日前にも船団が出たばかりじゃねえか。そんなにやばいのか?」 「それがどうも、上でアヤカシに襲われて、定数どおりに物が運べてない状態らしい」 「うえっ、じゃあ俺達も無事に着ける見込みのない中飛ばなきゃいけないのかよ」 「まぁ、今回は天儀から来たらしい傭兵さん達が守ってくれるみたいだから、少しはマシらしいけどな・・・・」 船乗り達が不安そうに話す様子も、最近では珍しくない。いかに危険であろうと彼らは生活のために飛ばねばならないのだ。 「今回の責任者は、貴方でよろしかったですかな?」 「天儀の方か。龍と人を載せるスペースは確保したし、報酬は上が提示したはずだが、他に何かご用が?」 「表にある小ぶりの船は、今回は使わないのですかな?」 「あれは・・・・以前受けた襲撃の際に、竜骨に打撃を受けています。飛ぶだけならまだしも、物を満載しての輸送には耐えられません。廃艦同然ですよ」 相手が期待はずれだという表情をすると思ってそう答えた船団長だったが、意に反して眼前の天儀人は会心の笑みを浮かべている。 「同然の二文字を抜いても良いのなら、あの船に最期にもうひと働きしてもらいましょう。これから言う物を積んでおいてください。船員は最小で、脱出艇は必ず準備を。そして船団の先頭をこの船にさせてください」 これほど輸送船団を攻撃的にする必要が果たしてあるのかと思えるほどだ。船団長の不安を見透かしたかのように天儀の傭兵は言う。 「何、これが上手くいけば、次からは少しは安全になりますよ」 |
■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
那木 照日(ia0623)
16歳・男・サ
八重・桜(ia0656)
21歳・女・巫
レフィ・サージェス(ia2142)
21歳・女・サ
斉藤晃(ia3071)
40歳・男・サ
奈良柴 ミレイ(ia9601)
17歳・女・サ
白霧 はるか(ia9751)
26歳・女・弓
アレーナ・オレアリス(ib0405)
25歳・女・騎 |
■リプレイ本文 離陸間際の船団の中で、船員達が集まっている一隻がある。 「皆様、よろしくお願いいたします」 アレーナ・オレアリス(ib0405)が一輪の白薔薇を胸に、優雅な一礼をして船への渡し板に足を乗せる。 「ようこそ俺達の船団へ。期待しているぜ」 船長を始めとして熟練の船員達の船乗り流の敬礼を受けて開拓者達と龍が船に乗っていく。 同じ頃、こちらも離陸間際の火船の中。用途上最低限の人員しか乗らず、その数少ない乗員も突撃直前に脱出する予定になっている。 「こっちはああいう歓迎はないのか?」 「忙しいのでね。無駄口を叩かず着火手順を覚えてくれたまえ」 「花火の打ち上げ係みてぇなもんだからな、仕方ねぇ」 鷲尾天斗(ia0371)と斉藤晃(ia3071)、ギルド職員の三人が居るのは火船の中枢、目の前では風の宝珠が淡く光っている。 「着火後にこれを暴走させれば、良い具合に燃え上がってくれるはずだ」 「貴重な門だが、使い捨てていいのか?」 「だいぶ深い傷が入ってるからな。予想外のタイミングで暴走されるよりは使い切るほうがマシってことだ。他の珠はちゃんと回収の算段があるから気にしなくて良い」 「景気良くやれってことだな」 準備の整った船団はふわりと浮き上がっていく。火船も浮き上がっていくが、その挙動は他の船に比べて鈍く、ふらついているのがが外からでも見える。浮遊宝珠が必要最小限まで減らしてあるせいだろう。 火船護衛の開拓者は船に平行して最初から飛ぶ。火船は他の船と異なり龍を載せる余裕が無い。 火船のふらふらと飛ぶ様子を染井吉野の背から見ている八重・桜(ia0656)にも人並みの不安が頭をもたげてくる。 「あの船、目的地までちゃんと着くんです?途中で揺れで油壺とか倒れたら危険だと思うのです」 「大丈夫です。事前の船荷の整理整頓は念入りに行わせて頂きましたので」 レフィ・サージェス(ia2142)が胸を張って言う。彼女の知る家事技術には荷崩れしない物の積み方も当然のように存在する。 とりあえず何も無いうちから発火する危険は防げそうだ。 「船団長殿、これからの予定ですが」 「俺は雇われ船長の一人だ。別に船団全体にあれこれ言う権利なんてないぞ?」 アレーナが話しかけたのは船団の中でも古株の、開拓者の龍達を載せれる大型船の船長。 「万が一ですが、平穏無事につきそうな場合はいかがしましょうか?」 「なぁに、あの火船の鈍さのせいでいつもより余分に時間がかかるから、心配しなくても出くわすだろうよ」 「船団を守る船のせいでアヤカシに出くわす率が上がるって・・・・ダメじゃん?」 奈良柴 ミレイ(ia9601)が呆れ顔でぼやく。 「まぁ・・・・このところ襲撃を全く受けなかった船団はいないので、要らぬ心配とは私自身も思いましたが、念の為に」 「お客さんの到着だぜぇ!」 天斗の嬉しそうな声が響く。船団前方から杞憂を吹き飛ばすかのように雲霞のようにアヤカシが接近してくるのが見える。 「感じるです!アヤカシを感じるです!上や下、横からも来るのです!」 桜の瘴索結界は立体的に張られるため、船の死角になりやすい縦方向からの接近も感知できる。こうした一斉襲撃を受けた場合は得られる反応が多すぎて一瞬頭が追いつかないという問題もあるが。 空の青が黒い影の群に遮られる。 「敵が七分に空が三分・・・・ってほどじゃねえやな。よぉし、合唱隊はこっちに来ぃ!」 「あわわあわわあわわあわわ・・・・!?」 ひと当てする気満々の晃に引っ張られるように、那木 照日(ia0623)達が火船前方に移動を始める。 「極力ひきつけますが、後方はお願いします。レーヴァテイン!」 「はい〜、お気をつけて〜」 レフィに行ってらっしゃいとばかりに暢気に手を振る白霧 はるか(ia9751)。 「討ちもらしの対処が中心にはなりますが、気を抜かず行きましょう」 アレーナ、ミレイ、はるかが広く三角に位置取って船団本隊のカバーに入る。 「鬼さん、こちら・・・・手の鳴る方へ・・・・」 「鬼さんこちら、っとなぁ!」 「手の鳴るほうへ」 照日、晃、レフィが一斉に咆哮を使う。比較的抵抗力のあるアヤカシでも三重奏を聞いて耐えれるものは少ない。 「あわわ!?たくさん来ました!?」 「すげえ迫力だ。咆哮の地鳴りに続いてアヤカシの羽音が暴風みたいに響いてくるぜ」 火船の直掩につく天斗のところまで仲間の咆哮の合唱とそれにつられたアヤカシが一斉に近づく様子がわかる。 「さて、大物がしっかり食いつくまでは小物を蹴散らしておくか。火之迦具土、突っ込むぞ!」 「お前ら相手に燃やすのは勿体ねえんだよ!とっとと親玉呼んできな!」 晃の意を反映するように熱かい悩む火種がアヤカシをバリバリと噛み砕く。 単体の戦闘力は決して高くない蝙蝠アヤカシだが、四方八方から襲い掛かられると特に龍の腹側に死角が生じる。吸血の牙の一撃一撃がなまじ痛みが薄いため、龍自身の反応も遅くなりがちになる。 「あわわ、急旋回しても振りほどけないのです」 「じっとさせていてください。動くと危ないですよ」 レフィの刃が帝陽に取り付いたアヤカシを切り裂く。斬り込む角度が悪ければ大惨事になるところだ。 「待たせたな、ドジ踏んでたりしたかい?」 「なんや、わしの活躍に拍手喝采しにきたんか?ほらよ、ぐるっと回って一回転!」 天斗に大見得を切りながら晃が回転切りでアヤカシを切り払う。 船団本隊には咆哮の効果を免れた少数のアヤカシが迂回して来る。が、それもミレイの咆哮に引き付けられて開拓者の方へと向かってくる。 「折角ここまで回り込んだのにねぇ・・・・ダメじゃん?」 甲彦に守りの姿勢をとらせながら、ゆっくりと逃げの姿勢をとる。一直線に追いすがるアヤカシ達に側面からはるかの放つ矢が襲い掛かる。 「そんなに無用心だと、いい的ですよ〜」 「あまり時間をかけず、船団の護衛にすぐに戻れるようにしましょう。ウェントス!」 アレーナの駿龍は一撃離脱を繰り広げ、消耗を抑えながら戦う。 「きっちり倒してよね。甲彦も俺も全部弾き続けるのは無理なんだから」 「よぉし、大物のご到着だぜ!」 怪鳥と言って相違ない巨大な鳥の姿が近づいてきたのを確認した天斗が叫ぶ。 「も、もう一度、確実に引き付けましょう・・・・」 「火船の連中に脱出の連絡もしてやらなあかんしな」 サムライ達が火船の周囲に集まる。晃の吹く笛の音で、船員達が脱出艇へと向かってくる。 「もう逃げちまっていいのかい?」 「ええ、危険を冒しての操船ありがとうございました。後は私共にお任せください」 船員達は龍の背で礼を述べるレフィに手を振りながら脱出艇に乗り込む。入れ違いに、龍の背から船上に飛び降りた天斗が宝珠の元へと走る。 「お前ら、俺が乗ってる内に火をかけるなよ!」 天斗がそういって船内に消えると早速晃がにやりと笑って咆哮する。 「おっしゃあ、寄ってこいや、アホウども!」 「あわわ、いいんでしょうか・・・・。て、手の鳴る方へ・・・・」 数匹の怪鳥が火船に触れるほどの距離に近づいたその時、火船がぐらりと大きく揺れる。船室から転げ出た天斗が慌てたように火之迦具土に飛び乗る。 「頃合ですね」 「オッサンてめぇ、あと少し遅かったら本気で燃やす気だっただろ!?」 「へっへ、全幅の信頼を置いとっただけや。おっしゃ、でっかい花火を打ち上げろってな!」 龍たちが散開し、晃の炎龍が待ってましたとばかりに火を噴く。 甲板に置いてあった導火線を通して炎は船内に置かれていた油壺や薪へと燃え移り、火勢の強くなった炎を宝珠の力で暴走する風がかき回す。あっという間に船全体が火に包まれ、火船は文字通り船の形をした炎と化す。 開拓者への攻撃軌道に入っていたアヤカシ達は避ける間もなく船にぶつかっていく。 アヤカシの身はただの炎で燃え尽きるほどに脆弱なものではない。 しかし、火船の状況は炎の渦の中で舞い踊る赤熱化した船材や積載物の破片が叩きつけ、突き刺さる赤い地獄である。蝙蝠アヤカシ達は次々と引き裂かれて炎の中に消え、巨体を誇る鳥アヤカシも翼にところどころ穴が開き、羽毛が焼け焦げている。 そして高度をやや下げながら、火船は正面から来ていた鳥アヤカシにぶつかっていく。 アヤカシもろともに弾け散っていく火の粉が花びらのように舞う。 「あははは!咲いた咲いた!大輪の花が咲いたよ!アヤカシの命を一緒に燃やして、普通の焔では見れない輝きで満ちている!」 天斗が手を叩いて狂ったように笑いながら残ったアヤカシに引導を渡さんと急降下を始める。 この炎の花は後方の船団にも見える。それは全船に対する全速前進の合図でもある。 「た〜まや〜、ですかね〜?」 はるかの暢気な一言に、堅焼が違うというように首を振っている。 「どうする?こっちの小物もまだ残ってるけど?」 「船団は移動を開始しています。近づく害を払う程度で、私達も進行方向に主軸を移しましょう」 ミレイの問いにそう答えて、アレーナはウェントスの手綱を取る。 「だって。はるかー、ぼーっと見てないで急がないとダメじゃん?」 グェエエエエエエ! 生き残った鳥アヤカシ達が彼方まで響き渡る咆哮を上げると、小ケルニクス山脈から新たな集団の影が飛び上がるのが見える。 「あわわ・・・・新手、みたいです・・・・」 「この距離なら一気に行けば振り切れるはずです。進路を塞ぐ分だけ何とかすれば・・・・って、こっちに来たのです!」 炎に巻かれていたアヤカシたちが狂乱の唸りを上げながら、さながら特攻の勢いで開拓者達に突っ込んでくる。 「元気よぉて結構!こっちからしばきに行く手間がはぶけるからのぉ!」 晃がアヤカシの嘴を真っ向から受け止めると、熱かい悩む火種が噛み付いてがっちりと動きを固める。 「これ以上の狼藉はお許しできません。ですので、排除させて頂きます」 レーヴァテインの背上で大きく得物を振りかぶったレフィが払いぬけるように一撃を加える。首筋に刃がめり込んだところに二頭の龍が胴を引くように爪牙を立てる。 首の傷口を無理やり広げられ、ブチリとアヤカシの首が落ちる。 「まず一匹、掃除完了ですね」 「おっしゃあ、次いくで!」 「こっちに来たら嫌です。あっち行けです」 桜と照日には一匹ずつ鳥が襲い掛かる。高所を取るために追い払いたいところなのだろう。桜はつんつんと馬上槍を構えて鳥を威嚇しながら染井吉野に距離を取らせる。 「あわわ・・・・もう少しだけ頑張ってください・・・・」 援護に回ろうにも照日も目の前の一匹をやり過ごす必要がある。 「帝陽・・・・急げますか?」 照日の声に答えるように龍は一度大きく鼻を鳴らす。照日が矢を番える中、帝陽が拳士がするように腰を捻って構える。 そして、矢をかわすための急機動で速度の落ちた鳥アヤカシに渾身の爪撃を叩き込むと、アヤカシは錐揉みに回転しながら墜落していく。 「頑張りましたね・・・・さあ、次です」 一方で桜は微妙に逃げ時を失して困っていた。一度詰められると背を向けて逃げる側に比べて速度が乗った状態で追う側のほうが優位になる。なんとか機会を見つけたいところだが・・・・ 「動きすぎないでくださいね〜」 後ろから聞こえるか聞こえないかの大きさで、はるかの声が聞こえた気がする。 と、まだやや射程外と言ってよい距離から放たれた矢が正確にアヤカシに突き刺さる。相手が怯んだところで染井吉野が大きく翼を動かし間合いを取る。 「今です、ソニックムーブです!」 そう叫びながら桜は自分も力の歪みを打ち込む。正面から叩きつけるような衝撃波を受け、アヤカシの突撃が鈍る。照日の援護が間に合えば状況は変わるだろう。 「ちゃんと当たったみたいですね〜」 「では、次は後ろから追ってくる集団への牽制をお願いします」 船団本隊も、先鋒からそう遠くない距離へと近づいている。一度振り切ってしまえば、アヤカシもそうそう追いすがることは出来ない。 アレーナとミレイが側面からの襲撃に警戒して並走しつつ、最後尾の船の甲板上に降り立った堅焼の背からはるかが牽制射を行う。 上のほうの戦いは概ねかたがついたようだ。しかし、火船の一撃で墜落しかかっていた鳥達は態勢を立て直し、再び攻撃に舞い上がろうとしていた。 「遅えんだよ!」 急速で近づいた天斗が一撃を加え、そのままループしながら上昇する。 「さぁ!この『惑撃の槍戦鬼』の俺が相手だ。お前等も命の花を燃やし咲かせてみろ!」 振りを前提とした槍の穂先にゆらりと炎が点る。鷲尾天斗、必勝の構えである。 「火之迦具土ぃ!」 急降下を始める龍との繋がりは、自分の足と鞍に結んだ一本の命綱のみ。鞍から身を投げるように飛び、精霊剣から流し斬りに繋がる合わせ技『幻葬』でアヤカシを消滅させると、天地の感覚を失いそうな飛行の後に龍の鞍にしがみつく。 「この生死が交錯する瞬間。堪んねぇな!」 「前方、敵影なしです!」 目の前の危険を排除して、結界を張りなおした桜が周囲の敵を確認する。 「よぉし、しまいや!遅れず乗り込め!」 開拓者達の龍が甲板上に戻ると、船団は更に速度を上げて一息に危険地帯を突き抜ける。 「この空で散った、全ての者へ・・・・」 アレーナは胸から取った白薔薇を、手向けのように空へと流した。 「アヤカシが花火になるのを肴に呑みたかったがの」 「天上の風を浴びて呑むだけでも悪くないだろう?」 甲板上で酒を飲む晃にヴォトカのボトルを呷りながら赤ら顔の船団長が挨拶する。 「帰りもあの道通るんやろ?」 「そうそう、だから呑まずにはやっとれん。お前らがさっさとあの喧嘩を片付けてくれりゃ俺達も長生きしやすくなるってことだな。お前らの大活躍に」 「なるほどな。それじゃ、てめぇらの長寿に」 盃とビンで乾杯すると二人はぐいと飲み干した。 |