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■オープニング本文 「お前達、小鬼退治をやらないか?」 それは、よくある「アヤカシに荷物を奪われた」という運び屋からの依頼だった。 小鬼や豚鬼、鬼達は習性的に人の運ぶ物を奪おうとする。 そして、奪った物を食って騒ぐ事もしばしばある。 アヤカシは本質的には人喰いである。人以外のものは彼らの飢えを十分に満たさない。 にも拘らずしばしばこうした行為をとる裏には、それが人の恐怖や怒りを増幅する行為であると知っているからだ。 為に鬼達は時に食物以外を口にすることがある。大鋸屑や堆肥など、人なら間違えないが一見食物に見えないことも無い物体を食って興に乗る鬼は笑い話の類として語られる。 今回奪われた荷物もそうして勘違いの末に小鬼達の腹に収まっている。 「が、肥料や砂利と違って今回大いに問題なのは、だ」 ギルドの係員が呆れながら言う。 「あの阿呆どもが喰ったのは、火薬の原料という点なわけで」 火薬はデリケートな品物である。なので、輸送に伴う揺れや温度、湿度の変化を鑑みて長距離の輸送は火薬の完成品ではなくそれぞれの原料の状態で油紙に梱包されて輸送される。目的地に着けば、そこで調合して火薬になる。 アヤカシの体内では生き物のような消化は行われない。適当に入った物体は一定期間貯蔵された後適当に排出されるだけである。 そのアヤカシの胃袋が、今回薬研に近い働きを偶然にもしてしまったわけである。 「つまり今、くだんの小鬼達の胃袋の中には出来たての火薬がたっぷりつまっている事になる」 火をかければ無論鬼は綺麗に弾け飛ぶだろう‥‥開拓者や、周囲の地形を巻き込んで。 「火気や火を出す技は当然厳禁。煙草や灯明も控えるべき。更には武器同士や鎧とかち合った時の火花や刃が相手の体を貫く時に発生する熱ですら引火の危険がある、と専門家が言っていた」 どうしろと言うのだろうか。 「鈍器や素手、火や刃物の関わらない術の類なら大丈夫なんじゃないか?‥‥多分」 あまり自信の無さそうな表情で受付は言った。 |
■参加者一覧
守月・柳(ia0223)
21歳・男・志
湖村・三休(ia2052)
26歳・男・巫
レオ・リベルタ(ia3842)
14歳・男・泰
月酌 幻鬼(ia4931)
30歳・男・サ
霞音 零(ia7635)
15歳・男・陰
ルーティア(ia8760)
16歳・女・陰
宿奈 芳純(ia9695)
25歳・男・陰
四方山 揺徳(ib0906)
17歳・女・巫 |
■リプレイ本文 開拓者達は火薬を運ぶ荷車が襲われた地点までやってきた。 「さて、まずは奴らがどう出るかだが‥‥」 「ご安心を。目星はついております」 守月・柳(ia0223)が言うや否や、宿奈 芳純(ia9695)が采配を振って答える。 「早いな。人魂で探ったのか?」 「否、それはこれからです。何、簡単なことです。襲撃は秩序ではなく突発によるもので、襲撃用の斥侯や拠点は無し。あなた達が得たこの情報に、襲撃地点と先例に基づいた小鬼の移動速度を加えれば選択肢は驚くほどに絞り込めます」 そこまで話すとばさり、と小鳥に変じた式札を空に放つ。 「見た目よりも消耗の激しい術ですから、出来れば情報管理に専念いたしたきところ。散開後の追尾の要もありますので」 「え〜っと、結局芳純のいいたい事って‥‥何?」 「見つけるまでも見つけた後も、小鬼を逃がさないように位置を確認して僕達に式で連絡をし続けるので、戦闘参加は控えめになる、と言う事なんだと‥‥思います。間違ってたらすみません」 別に内容は間違ってないのだが、言い方が控えめになってしまうのは霞音 零(ia7635)のもって生まれた性格ゆえか。 とりあえずルーティア(ia8760)には伝わったようで、ふんふんと頷いている。 そんな真面目な作戦相談が行われている一方で‥‥。 「良いねぇ良いねぇ!腹に一物抱えちゃった小鬼!おじさんはそういうのが大好きだ!」 「爆弾!爆弾と言えば爆発!爆発は浪漫!でござ‥‥ですね!」 月酌 幻鬼(ia4931)と四方山 揺徳(ib0906)が全く意味のわからない意気投合をしている。 二人とも変わった事に興味を持つ点では一致している。 が、変わった事の極めつけと言えば‥‥ 「クカカカカ!おいレオ、おめぇ火薬喰ったことはあるか!」 湖村・三休(ia2052)がレオ・リベルタ(ia3842)を捕まえて、おそらく人類の九割九分以上がしたことのない経験の有無を聞いている。 「火吹きの油の飲み方は教わったけど、火薬はさすがにありませんね〜」 「俺はガキん頃、かやく飯を食って思った!『ホワィ!?なんで火薬が入ってねぇんだ!』と」 「あ〜、子供の頃に当て字間違いはよくやりますね〜」 正しくは加薬である。 「そして今思うのは『火薬は本当に喰えないのか』だ!丁度いい依頼が来たもんだぜ」 「ひょえ〜、鬼に続いて人が火薬を食べてみようなんて爆弾発言にも程がありますよ」 聖職にあるまじき笑い方をする三休と大げさに驚いてみせるレオ。傍から見ると笑劇の一種と勘違いされそうだが、三休は間違いなく本気の目をしていた。 「さて、ではこの辺りで‥‥おやこれは丁度良い、向こうから出向いてくれたようですね」 芳純の指し示す先からは、小鬼達が奇声をあげながらやってくる。威圧感を与える為か得物を打ち鳴らしながら。 「‥‥よく今の今まで爆発せずにいてくれたものだ」 「火薬食ってあんなことするとか‥‥バカじゃないのか。というかバカだ」 柳やルーティアが呆れてため息をつく。考えた行動を全く取っていないというのが唯一認められるこの小鬼達の法則性だ。 「良いねぇ!良い鬼っぷりだねえ!よーし今日からお前さんたちは『爆鬼』だ!」 「観客を冷や冷やさせて注目を集めるおどけっぷり‥‥やりますね」(ゴクリ) 「混ざりようによっては‥‥小鬼型の花火が完成しているでござろう、じゃなかったしてるんでしょうね」 一方で妙な方向に盛り上がっている面子もいる。順に幻鬼、レオ、揺徳である。 「無駄話はその辺りに。一丸となって接近されては困りますからね」 開拓者たるものおどけていても切り替えは早い。芳純の言葉を待つまでもなく、ばらばらに展開し、小鬼を各個にひきつけようと動く。 「スピードにはちょっとだけ、自信がありますよっ!」 どどどっと鬼の群の後ろまで回りこむように近づいたレオが、鬼の頬に挑発狙いの軽い拳を数発打ち込み、間合いを開く。 それに呼応して群の正面から柳が打ち付け‥‥ない。鼻先でわざと止めて見せ、肩を押すように軽く突く。さらには激昂した小鬼の一撃を横に軽く動くだけでいなす。 「そんな戦い方では当たらんよ‥‥」 そして二人が小鬼に十分に印象を与えたところで機を見て同時に別の方向へ距離を取ると、それにつられて小鬼達もばらばらに追い始める。 「群を更に乱して爆発はしないようにするには‥‥これでいけるはずです!」 零が呪縛符を放つと、それに囚われた小鬼が他から遅れ、単独になる。 「なるほど、単純な手でも結構かかるものだな」 そこまでの動きを見ていたルーティアも、レオを追う群の最後尾の一匹のみの前に立ち塞がるように割り込むと、邪魔をされた小鬼が矛先を変えて彼女に殴りかかる。 「おっと」 すかさず棍で斜めに受け流すと、するりと綺麗に力が流れていく。 「この棍という武器‥‥爆発回避の為の代用品程度の考えだったが、以外に拾い物か?」 「はっはー、おじさんが遊んであげよう!」 幻鬼が小鬼の一匹の首を掴んで引き寄せると、そのまま強引に群から引き剥がす。 「クカカ、ボンバー小鬼を分散させて、更にロング距離から力の歪みでアタック!ボディはデリケートな分ヘッドで戦わねえとな、サンキュッ!!」 外来語を取り混ぜた珍妙な言葉遣いだが、三休の言う内容は実に理に適っている。鉄や火の関わらない、歪みや精霊力の直接行使はこの状況で最も安定した攻撃方法だ。同じ攻撃方法を取れる揺徳がうんうんと頷く。 「なるほど、キュっとしてボン!でござるな!」 ボンしてはいけないのではないだろうか。 「さて、皆様方の動きが定まったところで状況を纏めておきましょうか」 芳純が式を飛ばして一帯を鳥瞰する。開拓者達は事前の相談どおり、上手く個別に引き寄せながらも小鬼を包囲の輪の内側に囲うように動いている。 「ふむ、まだ『輪』から抜け出したものは居ないようですね。小鬼の数が減りだした頃が肝要ですね」 最初に挑みかかったのもこの二人なら最初に決着をつけたのもこの二人。 「ぬしらではなく、ぬしらが飲み込んだものが厄介だったのでな‥‥」 柳は冷静に、まず腕に打撃を加え、武器を取り落とさせる。剣戟の火花が考えられる最も危険なものであるからだ。 そこから、頭部を集中的に殴打する。意識が朦朧とし、ばったりと倒れようとした小鬼の首にそのまま七節棍を絡めて締め上げると、空いた片手に精霊の力を集める。 「これで‥‥終わりだ!」 その一撃を叩き込まれ、小鬼は軽く痙攣するとそのまま動かなくなる。 「さてまずは一匹。仲間達の援護に向かわねばな」 泰拳士の技において胴体の急所を狙う技は多い。人間と異なるアヤカシは末端部への攻撃は致命傷とならない事が多い。為に武術においては核となる胴を以て攻撃目標とすることが多いのである。 では、何らかの事情で胴への攻撃が不可能な場合どうするか。その答えは‥‥ 「根気が大事‥‥!道化師根性ォ――ッ!」 ひたすらに手数を以て押し切るのが下策ながら上策である。勿論相手は一方的に殴らせてくれる訓練人形ではないので‥‥ ぶわっとレオが両手を広げ、翼を広げた鷹のような構えで威嚇する。一瞬の小鬼の怯みを突いて、骨法の一撃を顔面に叩き込む。 転ばせて、石を枕にさせた状態で膝を叩き込めば一番確実なのだが衝撃の発生が怖い。 「ど根性ぉーーーーーーッ!」 結局レオは、気合とともに繰り出した何十発目かの一撃で小鬼を立ったままKOした。 「なるほど‥‥どこを持ってもいいし、どこでも攻撃できる。気に入った」 ルーティアは棍で戦いながら、その特性を肌で実感する。穂という主攻撃部位を持つ槍に比べ、一撃の威力は確かに劣る。しかし全体が攻撃・防御に使う事が出来、重量の偏りがない分軽く振り回すことが出来るなど、取り回しの面では棍に軍配が上がる。 そこに彼女自身の二天の型を組み合わせる事で、二本の棍を攻防いずれかに用いる事も、交差させて防御に集中する事も、唐突に左右の用途を変えて惑わせることも出来る。 そして極めつけには、体術の補助にも使える。片方の棍を地面に突き立てると棒高跳びの要領で舞い上がり、もう一本の棍で無防備な頭頂部めがけて振り下ろす。 「ありがたい。お前らのおかげで、自分はまた強くなれそうだぞ」 ルーティアはそう呟くと、左右の棍をくるりと回しながら飛び上がり、二本同時に喉首に突き立てた。 鹿の姿をした影が角を絡めるように小鬼を呪縛する。 「大丈夫だと信じたいんですが‥‥爆発したらすみません」 生来のネガティブ思考が為に、衝撃や火気とは無縁の吸心符を打つのもおっかなびっくりな零。 式が小鬼に喰らいつくと同時に思わず伏せる。が、幸いにして爆発は起こらなかった。 「だ、大丈夫ですか‥‥で、でも次はやっぱり爆発するとか」 心配しだすときりが無い。かくて躊躇しながら、見ようによっては真綿で首を絞めるような攻撃を繰り返す。 一方で自重しない戦いをするものも居る。 「ゆ〜〜〜〜っくりと力を入れれば、そうそう火花も散らないだろ。おじさんは頭いいねぇ」 と言いつつ小鬼の頭に乗せた金砕棒に幻鬼が力を込めると、小鬼の悲鳴とともにゆっくりとめり込んでいく。無茶苦茶な力技である。 「ごめんよぉ。おじさん、早く片付けてお嬢ちゃん達を助けにいかないといけないからねぇ」 笑顔で言い放つ。もっとも笑顔と言っても、それこそ悪鬼羅刹の嗤いのようにしか見えないが。 「な、な、何で拙者の方にやる気満々の小鬼が2匹も来るんでござるか〜〜っ!?」 揺徳がござる口調を直す余裕も無くして叫ぶ。同じように力の歪みを放っていたにも関わらず、三休の前の小鬼は目の前の相手を無視して彼女の方に向かってきたのだ。 「日頃のグッド功徳の差ってモンだぜ、サンキュッ!」 恐らく事実は凄みのある容貌の三休より、鎧を着ていても揺徳の方が弱そうだと踏んだのであろう。浅知恵と言えば浅知恵だが、状況だけ見れば図に当たっていると言えなくもない。 「待てーい!か弱き女の子を追い回すとは、羨ま‥‥不届き千万!おじさんが代わりに相手だ!」 割り込むように勢い良く幻鬼が現れる‥‥が少々勢いが良すぎたようだ。急に現れた新手に反応し切れなかった小鬼は、そのままの勢いでドン、とぶつかり転倒する。 一瞬、時が凍りついた。 直後の数瞬は、当事者達にとっては何十倍もの長さに感じられたかもしれない。 兎に角、火事場よろしくの馬鹿力で幻鬼が小鬼を掴んで投げ飛ばし、三休の張っていた結界がその機能を果たす。 雷鳴のような爆発音とともに空中で小鬼は黒煙の塊に変わった。 「いっやぁ〜、ここまでとは思わなかったねぇ」 「汚い花火でござるー」 軽口を叩く幻鬼もキャッキャッとはしゃぐ揺徳も、間近で爆発をしていた場合の想像を振り払おうとしているのがありありとわかる。 一方で三休は、爆発する瞬間を凝視してなにやら頷いていた。 「これで6つ。零さんも直に片付くでしょう‥‥はぐれたのをいい事に離脱を図る一匹が居ますね。さて‥‥」 芳純は用意していた紙に最低限の言葉で逃げる一匹の状況を記すと、呼び出した鼠と小鳥の式にそれを結える。 「近いのはレオさんとルーティアさんですか。しっかり届けるのですよ」 「ひいはぁ、一仕事すんでまた一仕事、暇なしは貧乏になりそうで嫌ですねぇ」 「疲れているなら任せてくれても構わんぞ?今の自分は機嫌も調子も良い」 芳純の連絡どおりに動く事で、小鬼を挟み撃ちにしたレオとルーティア。 「なんの、ありがたくもここまで大事もなかったようですし、最後まで手堅くいきましょう!牽制のお手伝いくらいはさせて頂きますよ」 レオは小鬼の後ろに回ると、羽交い絞めにして動きを封じる。 「さあ、抑えているうちにボクごとやっちゃってください!」 「‥‥じゃあ、遠慮なく」 本気で諸共に仕留めようとルーティアが構えたのを見て、レオはささっと手を放した。 「いやー、楽しい相手だったねぇ。さてさてお金も出るし、お嬢ちゃん一緒に飲みにいかなぁい?」 幻鬼が早速揺徳やルーティアを誘っている。 「わーい奢り奢り、奢り酒でござ、ですー♪」 「ふむ‥‥それは皆で慰労会だと受け取っていいのか?」 「道の被害が無かったのはありがたいですけど‥‥これを残しておくと爆発しそうで、いやきっとしますよね‥‥」 零が心配そうに見るのは、小鬼が瘴気となって溶け消えた後、そこに残された火薬の塊。 「ギルドに伝書を飛ばして、専門家による事後処理をお願いしましょう。彼らの到着までここを監視すれば私達は撤収して構わないでしょう」 多数の式を飛ばし続けた芳純だが、疲れたそぶりは見せぬようにして采配を懐にしまうと、雲雀の姿の式に文を結えて飛ばす。 「桜をはじめ、初春の花々が一望できる街道の空に雲雀を舞わせるか。後方で状況を把握・伝達し続けた礼を言いに来たが、風流を解するものには言葉よりも‥‥」 それだけ言うと柳は横笛で、春の風に乗せるように爽やかな曲を奏でる。 「で、ほんとに食べるんですか?」 「あたぼうよ!これで美味けりゃ皆ハッピーだぜ!」 レオが期待半分に見る中、三休が火薬を指でひと掬い、ペロリと舐める。 「こ‥‥これは!!」 「え!?まさか本当に美味しいとか?」 「不味い!硫黄臭さと薬臭さに炭の味が入り混じって実にバッドな風味だ!」 当然と言えば当然である。 「いやー、それは残念でしたねぇ」 「フールを言っちゃいけねぇ、これで滅多に口に出来ねぇものを試せたってもんだぜ、サンキュッ!それに、あのボンバーっぷりを見て良い事を思いついたんだ。これが上手くいきゃあ、またデリーシャスな一品が増えるぜぇ、クカカカカカ!!」 丸一羽分の鶏肉を内側から蒸気で膨らませながら炙る『爆発鶏(ボンバ−・チキン)』が美食家達の話題に上るのは、暫くしてからの話である。 |