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■オープニング本文 「狼か‥‥アヤカシやケモノでなくとも、物騒な相手には事欠かないな」 数人の衛視が街道を巡回している。 ここ暫くの間に、この街道で旅人が狼に襲われ命を落としたという話が数件上っている。いずれも狼自体を見たということは無いのだが、残された死体には数匹の狼に襲い掛かられたものである事を示す痕跡があらわれていたのである。 「とはいえ俺達がぞろぞろ歩いたところで、何か解決するものかねぇ。運良く目の前に狼が現れるとでも‥‥ん?」 衛視の一人が、向こうから来る人影に気付く。外套を目深に着込んで顔かたちは見えないが、旅人であろうと衛視は判断した。 「おおい、旅人さんよ。最近この辺りは狼が出て物騒だ。目的地が近いなら、俺達が護衛するぞ」 返事は無い。そのまま、ゆっくりとした足取りで近づいてくる。 「なぁ、俺の声、小さかったり聞きづらかったりしたか?」 「いや‥‥向こうが考えごとでもしてたか、お前の下卑た声に警戒したんじゃないか?」 そのまま向かってくる相手との距離が詰まったところで、もう一度話しかける。 「済まない、我々は街道の警備をしている衛視だ。一人旅をしたいというなら邪魔はしないが、せめて夜は野宿せず旅籠で‥‥」 本当に鼻先が見える距離まで来て気付く。外套の中身は、少なくとも人の頭部ではない。 そして、その異形の人影が右腕を上げると‥‥ 「ぐあっ!?」 袖口から手の代わりに狼が飛び出し、不幸な衛視の喉笛に喰らいつく。 「しまった!アヤカシか!」 衛視たちは槍を構え刀を抜き、後ろずさりながら隊列を整える。しかし、最後尾の衛視の背中が何かにぶつかる。 振り向くと、前方のアヤカシと同じ風体の姿がもう一つ。そして更に、どこに隠れていたのかもう一体。それぞれが袖から、裾から次々と狼を放ってくる。 そして狼達は斬りつけられても突かれても、使い手の袖に戻っていっては再び傷一つ無い姿で現れ、衛視たちに襲い掛かる。 やがて衛視達が動かなくなると、三つの人影は狼を自らの体にしまい、何処かへと去って行った。 「息のあった衛視が今際の際に言い遺した内容だ。よかったな、同じ轍は踏まずに済むぞ」 それだけ言って、ギルド受付は資料から目を離し開拓者のほうを向く。 「連中を悼む気があるならアヤカシを狩る。それが供養には一番だ。さて‥‥狼に関しては、剣狼で間違いないだろう。歩く人影、俺は『歩狼巣(ホロウズ)』と命名したいところなんだが、これに関しては初目撃なんで情報の蓄積は無い」 そして、ここからは正確な情報ではなく憶測であると前打って話を続ける。 「アヤカシにも多少の法則性はある。少なくともアヤカシが他のアヤカシを湧かすのは、高位のアヤカシでもない限りほいほいできるわけでもない。そこで考えられる要素は、だ」 一つ、歩狼巣は文字通り、動く剣狼の巣である。 上より、剣狼は無尽蔵に沸くものではなく歩狼巣一体毎に限度があると考えられる。 一つ、移動用の別体を必要とするアヤカシは活動時間が短い。 一方で類似の個体より戦闘力は高い事が多い。 一つ、傷を癒す力は妖力、或いは瘴気の譲渡によるものであると思われる。 与えた打撃が無駄になっている事は無いと思ってよいだろう。 「いずれも、割とこちらに都合の良い解釈だ。もし相手が貧相な見た目に関わらず超高位のアヤカシであった場合、予想は大外れするわけだ。臨機応変に判断してくれ」 |
■参加者一覧
桔梗(ia0439)
18歳・男・巫
四条 司(ia0673)
23歳・男・志
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
濃愛(ia8505)
24歳・男・シ
郁磨(ia9365)
24歳・男・魔
赤鈴 大左衛門(ia9854)
18歳・男・志
ナイピリカ・ゼッペロン(ia9962)
15歳・女・騎
シア(ib1085)
17歳・女・ジ |
■リプレイ本文 街道。見慣れた空間も、どこかにアヤカシが潜んでいると思うと不気味に見えてくる。 「3・3・2人で隊列を組むように動くのはどうかな」 桔梗(ia0439)が、歩狼巣の奇襲に対応できる移動手段を提案する。 「いいな、それは。後は、人とアヤカシを見分ける手段だな!」 ルオウ(ia2445)の言葉に、濃愛(ia8505)が肩を竦めて言う。 「残念ながら、そこは基本目視になります。人通りはそれなりにありますから、その都度使うというわけにも参りません」 「カッコはわかっチョるんだス、目と耳張って慎重に探せば何とかなるだスよ!」 赤鈴 大左衛門(ia9854)が笑いながらルオウの背中をバンバンと叩く。 街道を通る人影は、漠然とすれ違う内はまばらに思えるが、刮目して見ると多いように感じる。 「‥‥疑心暗鬼とはやはり含蓄のある言葉ですな」 「ぼやくでない。我が故国であれば紛らわしい旅行者の数はこんなものでは済まんぞ」 ローブを纏った旅人を見るたび、臨戦態勢に入りながら顔を確認するという神経をすり減らす作業に疲れた郁磨(ia9365)をナイピリカ・ゼッペロン(ia9962)が一喝する。 確かに、天儀でも随分一般化したとは言え、ジルベリアのように旅装といえばローブという程では無い。 かれこれ、十と何人か目の人影に近づく開拓者たち。 (「擦り切れたぼろぼろのローブにもかかわらず、足先や指がこの距離でも見えない。当たり、か‥‥?」) シア(ib1085)が思案する横で、ルオウがいつでも刀を抜ける体勢で声をかける。 「なあ、そこのあんた‥‥」 振り向いたローブの中には‥‥顔が、無い。そしてフードから剣狼が一匹、ルオウめがけて飛び出してくる。 「っとぉ、当たりだ!」 刀を盾に初撃を防ぎながらの彼の言葉にいち早く反応して、四条 司(ia0673)が心眼を凝らす。 「左方向から一体!他はまだ反応無し、最低もう一体来るはずです!」 司の言葉通りの方向を見ると、地を這うような低姿勢‥‥狼の疾駆のように、もう一体の歩狼巣が迫ってくる。 「私達が壁になろう!」 「壁で済ます必要は無い!せっかく近付いて来ているのじゃ、このまま斬り倒してやれい!」 最も近い位置にいるシアとナイピリカがそのまま迎撃に向かう。勢い切りかかるナイピリカの斬撃を、歩狼巣は大きく飛び退いて回避しつつ、両手から一匹ずつ、剣狼を投げつけるように放ってくる。 「ええい、ちょこまかと!」 「願ったりだ、このまま手駒を出し尽くすまで引き付ける!」 「正面、左側面と来たら‥‥桔梗殿、貴公は如何に見る?」 「囲う、という狼の性質からしておそらく右。4体目以降による後方があるとしても時間差があるだろう。俺は皆の治療を考えるとあまり中心から動きたくない。濃愛、右は頼めるか?」 「何とかしてみましょう」 まだ敵影の見えない草原に目を凝らしながら、ゆらりと濃愛が歩み出る。と、その動きに気付いた郁磨がすかさず馳せ参じる。 「旦那、俺が護りにつきます。無茶はしないでください」 「これは心強い。郁磨殿、サポート頼みましたよ」 二人が草原に踏み込むと、剣狼が一匹、二匹と現れる。歩狼巣の姿はまだ見えない。 「姿を隠す知恵はあるようですね。では‥‥燻りだすとしましょうか」 薄笑いを浮かべながら、濃愛は火遁の印を組んだ。 「だああ、次から次へと!仕方ねえ、まとめて相手してやらぁ!」 ルオウはそう叫んで剣狼を自らのほうへと引き付ける。 「援護しましょう」 「取りこぼしと、奥の歩狼巣を頼むぜ。俺はじゃれ付いてくるワンちゃんの相手で一杯一杯だ」 司にそう返すと、一度大きく刀を引く。10匹近い剣狼が一斉に飛び掛ってくる。 「一纏めってのはわかりやすくていいだろ!」 円を描く強烈な斬撃が剣狼たちを弾き飛ばす。不動の覚悟のお陰か、自分の負う手傷はそこまで酷くは無い。 「さぁて、今出てる分で全部なら苦労しなくていいんだけどな」 「何とか先手は取られずに済んだだスな」 側背の警戒をしていた大左衛門が背中に背負った弓を準備する。 三方の様子は軽く首を振れば一望できる。危険があれば前に出ればよいし、さもなくばこのまま弓を射続けるのも良い。 「なァに弓術師ほどではねェだスが、ワシの弓術も捨てたもンじゃあねえだス」 引き絞った矢が向かう先は‥‥ 「一、二‥‥五、どう思う?」 剣狼達の攻撃を捌きながら、シアがナイピリカに訊く。歩狼巣から現れた剣狼は、普通の個体に比べて統制が取れている。 連携が整いすぎている分予想外の攻撃は無いものの、さすがに数で順当に畳み掛けられると防戦一方にならざるを得ない。それでも、うまく足を使って動くことで徐々に群れを歩狼巣から引き離してはいる。 「ひと当てしてみればわかるわい、ナイピリカ・ゼッペロン、参るぞ!」 ずんずんと近寄るナイピリカに、歩狼巣の腕から一匹の剣狼が襲い来る。が、これは当然のように予見していた彼女の不意を突くには至らない。 「空っぽにしておるとは思っておらん。馬鹿にするでないわ!」 そのまま、胴を横薙ぎにするように斬りつける。大方の予想通り、実体の希薄な歩狼巣の体を剣はすり抜け‥‥無い。急速に実体化し、余計なダメージを受けながらも剣を体内に留める。 「しまっ‥‥」 逆手の小剣で恐らく飛び掛ってくるであろう剣狼に身構えた時。 ナイピリカの後ろから飛んできた矢が歩狼巣の頭部に突き刺さる。さすがに実体化している最中は効果が大きかったようで、希薄化しながらも呻き声をあげてよろめく。 「上手くあたっただスかー?」 「大左衛門か、絶妙のタイミングじゃ!やはり普通に斬るだけだと効きが弱い、隙を突くか、狼の数を減らしてからが勝負時じゃ」 濃愛の三発目の火遁に捕らえられ、火達磨になった歩狼巣がのたうつ。 「このまま大火事になられても困りますからね」 水の刃が歩狼巣を切り裂くと同時に、その炎を消す。 「多少動けるようになった途端旦那を狙うとは、所詮頭は獣並か」 歩狼巣の右手から現れた新手の剣狼を郁磨が威嚇する。 「まあ、こちらも善意で水をかけたわけではありませんし」 そう言って濃愛は手元に作り出した雷の手裏剣を、歩狼巣の頭を狙って投げる。 バチバチと壮絶な感電音を立て、煙を燻らせながら歩狼巣は両手を前にかざす。 「ほう、まだやる気ですか。拙者が楽しんでいる内に消えたほうが楽になれますよ」 そう言って、現れるであろう剣狼に対する回避行動を取る。 すると、歩狼巣のローブが内側から裂け、中からは六匹の剣狼が一斉に飛び出してくる。 「成程、残る力を出し尽くして仕掛けてきましたか。郁磨殿、最早治癒もままならないようですし好機ですよ」 「だ、旦那ぁ!そうは言っても一度にこの数ってのは!」 「離れすぎた一人、二人には効かないが、仕方ないな」 桔梗が癒しの光を撒く。小さな消耗が積み重なっていた開拓者たちもこれで持ち直して戦える。 「裏方を任せて、悪いだスな」 彼方で歩狼巣に戻ろうとしていた剣狼の背を射抜きながら、大左衛門が声を掛ける。 「役割分担に依存は無いよ。それより‥‥懸念が事実になるようだ」 桔梗が指した先、開拓者の来た方角から、新手の歩狼巣一体が既に数匹実体化した剣狼を引き連れて向かってくるのが見える。 「任せんしゃい、弓で時間を稼いで、何となれば身を張ってでもおンしには近寄らせんだスよ、役割分担だスからな!」 ハハハと豪快に笑って箙から新たな矢を番え、歩狼巣に狙いを定める。 「っつ!」 噛み付きやしがみ付きのような動きを阻害する攻撃を最優先に回避する為、引っ掻き等一過性の攻撃は受けねばならない瞬間がある。 それでもシアは致命的な隙を見せることもなく、十分に剣狼達と歩狼巣の間に距離を稼ぐことに成功する。 「さて、そろそろ仕掛けさせてもらおうか」 それまでの捌きを中心とした掌打から、衝撃を加える蹴撃や臓腑に叩き込む拳打へと戦い方を変える。 「ギャウン!」 剣狼は打たれることには脆い。それを補うのが、歩狼巣の治癒である。 「逃がさん‥‥く、そう上手くは運ばないか」 逃げ道は予測できるだけに、歩法を活かして追撃を加えようとしたシアだが、別の剣狼が盾になってそれを防ぐ。新たな負傷者も含め、逃げる二匹の退路を残る剣狼達が確保する。 「個ではなく全体の為に迷い無く動くか、たいしたものだ。だが‥‥」 「連携は貴様らの専売特許ではないぞ!」 歩狼巣と対峙していたナイピリカが向きを変え、向かってくる剣狼に斬りかかる。2匹の剣狼が切り伏せられると同時に、歩狼巣が新たな剣狼を彼女に向けて放つ。が、それと同時にローブを含めた歩狼巣の姿が少し希薄になる。 「ふむ、こ奴も全く制限無しに剣狼を呼び出せるわけではないという証明かのう?まあ良い、出てくる端から切り捨てるまでじゃ!」 「実体化せねばならない隙‥‥ですか」 「考えるよりも一発斬り込んでみたらどうだ?」 歩狼巣のローブの中を睨みながら剣狼の相手をする司にルオウが発破をかける。 「ひとつ試してみましょうか」 剣狼の相手をルオウに任せ、迂回しながら歩狼巣を射的距離におさめる。その上で、時機を見計らう。狙うは、剣狼が回復のために戻る瞬間。飛び込んできた剣狼を体内に入れようと歩狼巣が右腕を伸ばしたとき。 炎を纏った司の長槍がその右腕を捕らえる。確実な手応え。歩狼巣は仰け反りながらも剣狼を取り込むと、今度は左手を掲げてくる。 司は剣狼の一撃を肩口に受けながらも、出現と同時に歩狼巣の左腕にさらに一突き。 「出し入れの瞬間の剣狼の出入り口!歩狼巣に確実な当たりが見込める場所です!」 そう叫ぶと、手応えの軽くなった槍を構えなおす。 「おおっとお、間一髪だスな」 接近してきた剣狼の牙を大左衛門が横によろけながら避ける。がたいの良い彼が左に右にふらふらと避ける姿はユーモラスですらある。が、そうした仕草やもう一息で当たりそうなぎりぎりの避け方も、彼一流の兵法。後ろにいる桔梗より狙いやすい相手と思わせる事に意味がある。 「三方のいずれかが片をつけるまで忙しくなりそうだな」 歪の力で剣狼を捻り倒しながら、桔梗が周囲の様子を伺う。 「後、三体。大分減らしたな」 その残る剣狼もそれぞれ消耗している。シアも本格的に攻めに回る余裕が出来てきた。 飛び掛ってくる剣狼の力をそのまま利用して背中を地に付かせると、そのまま倒れこむように肘の一撃。断末魔の声をあげる剣狼をよそに素早く起き上がって次に備える。 「これで後二つ‥‥増援はもう無いか?」 「の、ようじゃな。奴め、これほどの不利になっても新手を繰り出さん」 ナイピリカが横目で歩狼巣を見る。二人が剣狼対策に専念している間、次々に新手を繰り出していた歩狼巣だが、ここにきて明らかに動きが無くなっている。 「何にせよ好機じゃ、目の前の敵を殲滅じゃ!」 彼女の流れるような斬撃を受け、剣狼は更に数を減らす。それを見た歩狼巣は両腕から1匹ずつ剣狼を出し‥‥そのまま消滅する。 「隠れた‥‥というわけではないか」 「どうやら弾切れじゃな。ならば後三匹、一気に畳み掛けるのじゃ!」 郁磨と濃愛の周囲では、斬り、あるいは焼かれ斃れた剣狼達が消滅しつつある。 「ぜぇ‥‥はぁ‥‥疲れ、た」 「郁磨殿、倒れている暇はありませんよ。後衛が狙われていますから」 軽く肩を鳴らして駆けていく濃愛を見ながらぼやく。 「怪我してるって言ってたのに‥‥何で戦いに入ると元気になるかな」 大きく深呼吸してふらりと立ち上がると、郁磨もその後を追う。 「逃がしてはやらねえよ!」 ルオウが一声叫ぶと、周囲の剣狼が彼目掛けて動く。が、既に回転切りの構えをしているところに誘い込まれての一斉攻撃は、一網打尽の先触れでしかない。 「おりゃあ!」 台風のように暴れるルオウの前に、十匹は居た剣狼が残らず塵と化す。そこに新手を送ろうとしていた歩狼巣は、機を合わせた司の攻撃に消耗している。 大きく振りかぶって、ルオウの側に新しい剣狼を送り出した瞬間。 「隙が大きすぎる!」 司の止めの一撃を受け、歩狼巣は消滅する。 残る一匹の剣狼で、手練れの開拓者二人に勝とう術があるはずもない。 「ふう、他も三々五々集まってくるようだ」 安堵の溜息を漏らしながら、桔梗が癒しの光を辺りに散らす。 濃愛達がカバーに入ったため、本来の支援に専念できるようになってきた。 「さて、ではワシも本来の仕事に戻るだスかな」 大左衛門は弓を引き絞り、歩狼巣に狙いを定める。 (「確か‥‥狼を出す瞬間が狙い時だスな!」) しっかりと狙いをつける。すぐそばでの剣狼との戦いは仲間を信頼して任せ、天地に自分と歩狼巣のみが居るかのように心を水のように落ち着かせる。 そして、歩狼巣にわずかな動きが見えた一瞬。 「今だス!」 鏃に炎を纏った矢が、風を斬りながら飛び、歩狼巣を貫く。歩狼巣はぐらりと歪み、何も居なかったかのように消え去った。 「おお、お疲れさん。どうだった?」 ギルドの受付が散歩帰りにかけるような声で言ってくる。 「致命的な危険は無いんだが‥‥数がやたらと多い。一度に呼べる数は個体によってまばら。多いのになると十匹は出してきたな」 「俺と旦那は、最期に一気に剣狼を放って果てるのを見ました。文字通り、動く巣としての存在っぽい」 「基本的に、物理攻撃は効き難い‥‥のですが、剣狼を出し入れする瞬間は効きが良くなるみたいですね」 「飛び道具みたいに剣狼を放り出す時もあっただスが、歩狼巣自体が攻撃してきたちゅうことは無かっただス」 「お前ら一度に言うな。俺は聖人君子じゃないんだからな!?」 大左衛門達が一斉に話し始めると、受付は怒鳴りつつも歩狼巣に関する記録を書き連ねていく。こうした戦闘結果は、次に同じ、または類似のアヤカシが出現した際にそれと戦う開拓者達へのありがたい情報となる。 「しかし、妙な連中じゃったな。何がしたくてわざわざあんな形態をしておるのじゃ」 「恐らくは、魔の森から離れたところで行動するための、文字通りの移動基地でしょうな」 ナイピリカの疑問に濃愛が予想を言う。事実には敵わないが、一定の事実に基づく予測は決して根拠の無い夢想では無い。 「普通の剣狼に比べて‥‥意思疎通に優れていた気がするな」 「シアさんもそう思いますか?身を挺して盾になるような戦い方は確かに通常剣狼がする事は‥‥」 「しかしこのアヤカシ、理論上は他の下級アヤカシ版が居てもおかしくなさそうだな」 「外見は一応ローブ姿で決まりっぽいな。誰か、似顔絵とか描けるか?」 「開拓者の皆さん、お茶が入りましたよ〜」 記録所に残るアヤカシの情報とは、このような経過を経て綴られていくのである。 |