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■オープニング本文 荒野で突如チロチロと燃え出す炎。 空気が乾き、枯れ草も多いこの時期。自然に生じた炎が野山を焼く『野火』は決して珍しいものではない。多発する地域では火の精霊の怒りとして鎮霊の儀式の対象にされていたりもする。 しかし、その野火が不自然な軌道をとってまで人里を真っ直ぐに目指す場合。 その場合は精霊ではなくアヤカシの所業であり、必要なのは開拓者による迅速な撃破である。 「過去の記録によると『暴れ野火』と呼ばれているらしいな。干してる稲藁や家屋の屋根などこの季節は乾燥した燃えやすいものが多いから、一気に燃え広がって村一つを焼き尽すことも珍しくない。早い内に退治してしまうに限るな」 暴れ野火は自らも橙色の火の玉のような姿をしており、燃え盛る火の中で奇怪な笑い声を発すると言われている。 「橙色の宙に浮く火の玉、しかも声を出していると言う事なので探せば見つかるとは思うが‥‥問題は相手は広がる野火の真ん中にいるという点だな」 近付くには火の中を無理矢理突っ切る覚悟が必要になる。消火するにも火の回りは早く、アヤカシを仕留める以外では雨後で増水した川の堰でも切らない事には文字通り焼け石に水になる。 「ここのところ、いい感じに晴れてたからな‥‥草も乾いてるし水もそんなに貯まっては無いだろうなぁ。とまれ、放っておいた場合の被害は下手な小鬼の群れの比ではない。ギルドは開拓者諸君に迅速、確実な撃破を期待する」 |
■参加者一覧
天津疾也(ia0019)
20歳・男・志
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
大文字・姫子(ia2293)
20歳・女・泰
風鬼(ia5399)
23歳・女・シ
村雨 紫狼(ia9073)
27歳・男・サ
朽葉・生(ib2229)
19歳・女・魔
朱鳳院 龍影(ib3148)
25歳・女・弓
煤暮 三ッ七(ib3747)
30歳・男・騎 |
■リプレイ本文 「最近はめっきりさむうなってきたから焚き火とかは暖かいやろうがなあ」 天津疾也(ia0019)の身に伝わる熱気と目に映る光景は、焚き火というには余りにも激しすぎる。 「これは限度っちゅうもんを越えてるやろ」 普通の野火は、地上の草を舐めるように低く燃え広がる。ところが、『暴れ野火』が起こしたこの野火はところどころで炎の柱が吹き上がり、中心から周囲へと熱風を運ぶ風が吹き荒んでいる。 火炎地獄といった趣だ。 「なるほど、これは里に被害が及ぶ前になんとしても撃破しないとの」 「よく分かんねーけどはやくボコんねーとヤバいんだな!」 朱鳳院 龍影(ib3148)が顎に手を当て野火を見遣ると、その爆乳に視線が釘付けになっている村雨 紫狼(ia9073)が物凄く適当な相槌を打つ。 「ま、せっかく水場があるんで、それを使って倒しますかな」 情報の通り、近くにあった小川の水に手を漬けて葛切 カズラ(ia0725)が一息つく。 「やれやれ、少しは火除けになるかしらね〜」 川沿いの集落で農業に使われる小川はところどころ土盛で狭められ、水を溜め込みやすい造りになっている。とはいえぞんざいな造りであるし、晴天の続いた後ともあって踝にようやく届く程度の水位しかない。 「頼りにするのは水じゃなくて自力ってェことだな」 水をひと掬い被りながら煤暮 三ッ七(ib3747)がふん鼻を鳴らす。防火用に被るのに躊躇せずに済む綺麗な水であるのはありがたいところだ。 ひゅ〜るりら、ひ〜るりら‥‥カカカカッ。 熱風に乗って、鼻歌のような嗤い声が聞こえてくる。 「だいぶ近いか?にしても、火種をどけるちゅうても低い雑草の類は焼くくらいせな綺麗にはならへんな」 「何か昔話にありそうな皮肉ね」 枯れ草をつまみながら愚痴る疾也の言葉に、大文字・姫子(ia2293)が肩をすくめる。 「ブリザーストームで凍らせておきましょうか?」 杖を構えた朽葉・生(ib2229)が問う。 「いや、喫緊の火消しに使ってもらった方がありがたい。後、踏み込む瞬間とか」 「わかりました。では、そのように」 野火が目視できる距離まで近付いてきた。 「ああ、確かに自然の火ではありえない燃え方ですわな」 風鬼(ia5399)の指摘通り、周囲に延焼しつつも一番強い炎は風向きと明らかに異なる指向性を持って村落の方向へと真っ直ぐ進んでいる。普通の野火では考えられない。 「さすがに、本体とやらは簡単には見えないわね〜」 「真ん中らしいっちゅうことやから、それで目星つけるしかあらへんわな」 「では、私らの出番じゃな。逃げ遅れるでないぞ」 「おっしゃあ!」 ざばりと頭から派手に水を被った紫狼が応じる。 「とりあえず火対策と言えば水だよな!皆もしっかり被っとこうぜ!な!」 偉く熱心に勧めるが、水で女性陣の服が透けるのが見たいという露骨な下心が顔に書いてある紫狼の勧めにほいほい応じてくれるものはそうは居ない。 先行したサムライ二人と距離をあけて、支援する仲間達が動く。 「なあ風鬼、紫狼の咆哮いうたら‥‥」 「不慮の事故に遭ってもまあいいやと逆に考えれる人材は貴重ですな」 「‥‥せやな」 「?」 疾也と風鬼の会話に姫子が首を傾げた時。 「うおおおおおおおおおっ!!ち、ちちデケええええええええダイナミッ!!!」 身も蓋も無い雄叫びが木霊した。 「ああでもフェミニンな風鬼先輩も色っぽい葛切先輩も、姫子ちゃんも朽葉ちゃんだって魅力的だ!」 途端、野火は急に向きを変え、彼を巻き込まんと迫ってくる。己が煩悩の限りを咆哮に乗せる村雨流咆哮術。何故か敵を高確率で釣り出せる高度な技術である。だが‥‥ 「‥‥では私は朱鳳院様が火中に切り込める道を作る準備に専念します」 「まーまー、程ほどで助けてあげなさいよ。悪気があるわけじゃなさそうだし〜。あ、足元まで火が届いてる」 仲間からの支援率も削る諸刃の技でもある。 「う熱ちちちちっ!!」 火の回りは当然人の足よりも速い。が、この暴れ野火にはそれに加えてある特徴がある。地表のやや上で炎が発生しては消えるを繰り返すながら移動していて、こちらは速度がやや遅く意志を持っているかのように一定に進む。その下で草などが燃え、方々に広がっている。こちらは火勢が早く、全方位へと燃え広がっている。前者がアヤカシによる力、後者がそれを切欠とした自然の火と見るべきか。 「さて、水場を戦場にせねばならんからな。暴れ野火とやら、次は私が相手じゃ」 龍影の咆哮に呼応し、野火が向きを変える。その間に、延焼する一帯に生がブリザーストームを放ち消火する。 そして炎の中心部を風鬼がじっと見据える。 「過度の眩しさも防げる辺り、暗視は実に便利ですな。さて、橙の火の玉はどこですかいな‥‥」 舞い踊る赤い炎の中で、他と色が違う部分が無いか、五感を結集して探り当てようとする。 「それらしき物と見えなくも無し‥‥試してみますかな」 印を組んで影を延ばし、絡みつかせる。炎の回りがやや弱まり、前線のサムライが後退する余裕が生じる。 「やれ、あっていたようで。しかしこれは目が疲れますわ、ほんと」 小川にサムライ二人が飛び込む。 「やれやれ、こればかしでも今は恵みの水じゃな」 「うおお、足や尻が焼けたように熱いぜ‥‥」 二人の火傷具合の差は単純に先鞭をつけたか否かの差である‥‥と信じたい。 「さて、こっからがほんまの迎撃やな」 川縁まで届いた普通の火は、燃えるものが無くなったところで水をかけられ食い止められている。だが、アヤカシのもたらす妖火はそのような事に一切かまわず火の粉を撒き散らしながら迫ってくる。 「振りかかる火の粉は払う‥‥ってか?まんまじゃねェかよ。くだらねェぜ」 グレートソードを頭上に翳すように構えた三ッ七が皮肉をいいながら薄笑いをする。 川沿いに、数枚の石壁が召喚される。野火から見て川の反対側。そちらには、まだまだ燃やせるものが沢山ある。そこに辿り着かせない為の防壁である。 そしてすぐ近く。それこそ手が炎に触れるほどの距離まで引き寄せて、生はブリザーストームを放つ。 「道を開きます。白兵戦を挑む方は、氷雪にも気をつけてください」 吹き荒れる吹雪が、炎を押しのけていく。そしてその中に唯一消えぬ橙色の炎。 「覚悟っ!」 近付こうとした姫子の足元から火柱が吹き上がり、暴れ野火の周りでは小さいながらも複数の火の玉が本体を守るかのように発生する。一点における瞬間の威力では炎が吹雪を上回るようだ。 カカカカカと哄笑するような音を立てる暴れ野火。 「成程、攻撃手段兼着火法であるわけか。だが油断せねば避けれぬほどではないようじゃな。好機がくれば、即行動。基本じゃな。 ‥‥ぬぅん!」 龍影の渾身の拳がアヤカシを捉える。火の玉相手では見た様子から効果を探る事は出来ないが、少なくとも殴りつけた実感は十分にある。 「炎で見えなくなるまでが勝負やな。一発たりとも外せんでえ!」 「こういう時も広範囲攻撃が欲しくなるわね〜〜味方巻き込まないタイプの」 疾也は炎の間の針の穴のように僅かな間隙を縫って矢を放つ。カズラが式を撫でると、その異形は鴉のように姿を可変させ、上空からアヤカシを一突きに狙う。 彼ら後衛を炎の射程圏内に納めようとアヤカシが前に出たところで、生のストーンウォールが退路を塞ぎ、後衛を守るために更に壁が現れる。 「おっし、これで袋の鼠だ!俺の柊流二天剣、しっかり味わえこの野火野郎!! 」 最初に浴びせられた炎の怨みを晴らすように紫狼の刀が叩きつけられる。 カカカ‥‥カカ。 アヤカシの哄笑が一瞬だけ途絶える。 「どうした?ウゼェ笑いが止まってるぞ‥‥オラ、笑えよ‥‥てめェが燃え尽きる最後の時までなァ‥‥!」 タイミングを見計らっていた三ッ七のオーラスマッシュを受けた暴れ野火は、逃走用に炎を撒き散らすと、川の上流にふよふよと逃げ始める。 「おっと、逃がすわけには参りませんな」 風鬼の影が纏わりつき、暴れ野火の動きを阻害する。 「ここで終わらせなければ‥‥吹雪よ、邪な炎をかき消せ!」 絶え間なくブリザーストームを打ち続け、さらにはストーンウォールの召喚で相当に消耗している生だが、力を振り絞って暴れ野火へとブリザーストームを打つ。 カカカ‥‥カカ‥‥ 笑い声と橙の炎は徐々に薄れていき‥‥そして消えた。 「さて、問題はここからですね」 姫子のいう『問題』とは。 アヤカシが呼び出した炎は消えるが、それによって燃え広がった野火自体はアヤカシが死んでも消える事はない。 村を直線的に襲う事こそなくなったが、さりとて風向き次第ではどうなるかわからない。 「投げっぱなしのキャンプファイヤーはご遠慮願いたいわ、ほんま」 草を刈って野火の拡大を防ぎながら疾也がぼやくと 「火事と喧嘩は華って言うけどね〜〜」 岩首に変化した式を残り火の上でごろごろと転がしながら、かずらも面倒臭そうに言う。 「おお、いい感じに焼けとりますわ。お二人とも、こういう役得もあるんで悪い事ばかりではないですな」 風鬼が棒切れで掘り起こしたのは焼き栗。 「道中栗の木を見つけましてな、折角だからと撒いておいたんですわ。炎も鋏とかと同様使いようですな」 「これで‥‥全て食い止めたと思います」 ブリザーストームで消火した生がやれやれと膝をつく。 「しっかり綺麗さっぱり焼け落ちたもんだな!ま、俺は無も‥‥もごもご」 「倒したはいいが荒廃した大地は戻らねぇ‥‥てか。ハッ」 不穏当な事を言いかけた紫狼の頭を脇で固めながら三ッ七が皮肉げに嗤う。 「そう悲観するものでもなかろう。見ようによっては焼畑の下準備とも言えようぞ」 「焼畑‥‥ですか?」 うむ、と龍影は言葉を続ける。 「石の壁すら焼き溶かすアヤカシの炎のお蔭で、一帯は開墾を妨げる石木も排除されておる。そして草の灰、水場と悪くない条件が揃っておれば、開墾に手をつける集落もあるじゃろうよ」 「災い転じて福と成す‥‥ですかね」 アヤカシの手で作られた焦土はこの後人の手でどう変化を遂げるのか。それは、時がたってみなければわからないだろう。 |