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■オープニング本文 その山では、日夜人夫が働いていた。 その山では、坑道が整備されていた。 その山では、時折地面が掘り返されていた。 その山では、怪しげな小屋から加工の音が聞こえてきた。 その小屋では何かを摺る音が聞こえ、不快な臭いが充満する時もあった。 その小屋には時折淡黄色の塊が運び込まれるのが見えた。 その小屋から、大量の木箱が定期的に運び出されていた。 この怪しい作業所の噂は付近の賊徒の間に広まっていった。 「お、俺昔小耳に挟んだ事があるんだが、金山の発掘って多分こういう奴だと思うんだ」 「ひひひっ、マジかよ!旅人襲って身包みはぐようなけち臭い仕事よりいいな」 「でもよ、荷運びの護衛も凄いんだろ?ヤバくないか?」 「なぁに、火ぃかけて荷車焼いちまえばいいんだ。で、奴らがあわててる間に零れた金塊の一つも失敬すればいいんだ。金はそうそう溶けないし価値も下がんねぇよ」 「お前頭いいな!」 こんな感じで賊による襲撃が始まった日からというもの、山では謎の爆発が頻発するようになった。 「あの山には実は硫黄鉱があってな、細々と掘り出してはいたんだ」 ギルドの受付はそういって一人の神経質そうな男を紹介する。 「あの山での硝田と火薬製造を管理してる丹波氏だ。硝田ってのは火薬の材料の一部を人工的に作る場所だな」 「どうも、ご紹介に預かりまして。硝田は準備から本格的に量産されるまで時間がかかりまして‥‥ものになる品が出来るようになったのはつい最近なんです。目下の課題はこれにあわせた硫黄の質の向上と良質の木炭の確保、練力火薬の加工知識を持つ技術者の招聘で‥‥」 「あ〜、高説済まんが依頼内容と違うようだが」 なにやら長くなりそうな話を受付が制す。 「これは失礼。そうしたわけで、材料が比較的集めやすい事もあって、そのまま山中で火薬の製造までを一気に行えるよう作業所として整備したわけですが‥‥付近の学のない賊共がこれを貴金属の採掘加工と勘違いしているようでして、火薬の運び手が襲われる事態が多発しておりまして」 火薬の存在は知られていても、その製造過程を具にしっているものばかりではない。さらに実際硫黄の採掘の為坑道を掘っているとなれば、中々誤解は解けそうにない。 「では依頼はその山賊を‥‥」 「ええ、『生かして』捕縛して、我々が作っているのが金ではなく火薬であることをその目に焼き付けて欲しいわけです」 「なるほど‥‥は?」 丹波の話では、金の輸送と信じきっている山賊は問答無用で荷車に火を放って来るらしい。無論、火薬に直接火などかければ‥‥ 「ボン、と」 「はい。引火爆発、周囲を綺麗に噴き飛ばしています。生存者も少なく、生存者は重傷の為よそへ移されます。おかげで山賊たちの中で謝った認識を改めるものが居ない始末」 何度も繰り返されると、周囲は大穴だらけになるかもしれない。そこまでくれば山賊たちも気付くかもしれないが、それを悠長に待てるわけもない。 「囮だからといって火薬輸送を止めるわけにはいきません。皆様にも当然火薬の輸送は行っていただきます」 「だ、そうだ。少しは危険の分散できるやりかたもあるが、まぁ期待はしないでおいてくれ」 |
■参加者一覧
風鬼(ia5399)
23歳・女・シ
レグ・フォルワード(ia9526)
29歳・男・砲
シュヴァリエ(ia9958)
30歳・男・騎
羊飼い(ib1762)
13歳・女・陰
蓮 神音(ib2662)
14歳・女・泰
隠岐 浬(ib5114)
14歳・女・志
リーブ・ファルスト(ib5441)
20歳・男・砲
ルシア・エルネスト(ib5729)
20歳・女・弓 |
■リプレイ本文 「へぇ、随分良い硫黄が取れるんだな。ただ、最終的な物が並なのは硝の質がまだ安定しないから、ってとこか?」 「そこは今後の課題です。数年すればこなれてくるはずですが」 リーブ・ファルスト(ib5441)はこれから運ぶ火薬の現物を見ながら丹波と談笑している。 「おーい、駄弁ってないで手伝いやがれ」 えっちらおっちらと箱を片手に、肩には布を担いだレグ・フォルワード(ia9526)が怒鳴る。 開拓者が取った方針は「プランAに出来る限りの防火対策を全部やる」という豪快なものだ。 まずは本来の荷物である木箱‥‥火薬を油紙で包み、それを内側蝋塗の木箱に入れたものだ‥‥が慎重に荷台に積まれていく。 それを括りつけた上から、空箱が積まれていく。 「結束はきつくなり過ぎないように緩まないようにを心がけなさいね。きつ過ぎるとかえって縄が切れたり荷が結束から抜けたりしやすくなるから」 「了解した」 巨大化した荷物を縛る為の大量の縄を運びながらのルシア・エルネスト(ib5729)の言葉に対し、シュヴァリエ(ia9958)が黙々と作業をする。ぶっきらぼうで口数は少ないが、仕事はきっちりやる性分だ。 「ところで風鬼(ia5399)と隠岐 浬(ib5114)は?」 「さっき『先行偵察してきますわ』って言ってどっかいっちゃいましたよぅ」 フェルトの材質が羊かもふらか気になってふにふに触っている羊飼い(ib1762)がいつもののんびりした声で答える。 「偵察にかこつけて作業から逃げやがったなあいつら‥‥」 その頃偵察に出ていた二人は割りとさっくり賊の痕跡を見つけていた。というより道から死角になるからと安心しているのか、何やら話しながら笑い声まで聞こえてくる。 「がっはっは、金さえ奪えば俺達大金持ちだぜぇ〜〜!」 「ワシャそろそろ体がきついからな‥‥奪った元手で旅籠でも始めるつもりじゃよ」 「錦とは言わねぇが、銭持って帰ればあのしけた村の連中もちったぁ見直してくれるかな‥‥お袋‥‥」 「‥‥むむ、これはいけませんな」 聴覚を高めて山賊たちの言葉を聞き取った風鬼が唸る。 「ん?そんなにやばい相手?」 「死亡フラグを立てまくっとります。彼らだけで死ぬのは構いませんが、巻き添えの可能性を思うとこれは危険ですわ」 ある意味ではものすごくやばい相手である。 「こちら側と、声からして道の真反対におそらく同数の山賊ですな。後は火を焚く音もします」 「じゃあ、うちが確実な数を見極めればいいんだね。心の目で‥‥上手くいけっ!」 車座で火を囲む山賊が九人。焚き火は暖を取りつつ襲撃時には矢や松明の火種にするものだろう。今の緩んだ状態からして、襲撃時もしっかりした連携を組むとは思えない。おそらく其々が勝手に動く程度のものだろう。 「ただいまー」 「ちゃんと偵察してきましたわ」 「こんの、ぬけぬけと‥‥」 荷車は上に板を敷かれ拡張されている。火薬箱の周囲に空箱が置かれ、隙間には石綿が詰め込まれている。その上からフェルト、水除けのなめし皮、水を含ませた布、日射での蒸発を防ぐ為さらに上にもう一枚布、とこれでもかと言わんばかりの処置が施されている。見た目に元の積荷の倍くらいには膨らんでいる。 「駄馬さんをもう一頭借りといて良かったね。重いだろーけど、がんばってね!」 石動 神音(ib2662)が駄馬の背をぽんぽんと叩く。巨大化した荷車を曳かせる為、作業所で用意したものに加えギルドに頼み込んで資材と一緒に借りてきた。 「言ってみるもんですよねぃ。快く貸し出してもらえましたからぁ」 「あれは快くって言うのか?」 ちなみに貸し出しの際ギルド受付は苦虫を噛んだような顔で 「知ってるか?ギルドの備品は有限なんだぞ」 と言っていた。 「皆さん、準備が出来たなら参りましょうか」 「あれ、丹波さんもついて来るのか?」 「捕まえた山賊に作業所を見せるという相談をされていたようなので。襲撃隘路を越せば後はさしたる害もないでしょうし」 襲撃地点までは特に問題も無く荷馬車は山道を越えていく。 「♪荷〜馬車〜がぁご〜と〜ご〜とぉ羊〜飼いをぉ〜」 「どこに売られるつもりだ。しかし、さすがに風が冷たいな」 リーブが突っ込みを入れながら身を震わせる。 「冷たいのもあるが、乾燥してるのがやばいな。相手が火を使う以上、油断できないな」 「と、レグさんのありがたい訓示があったところで、そろそろ問題の場所に入ります」 風鬼が山賊が屯しているあたりを指差す。 「向こうもぎりぎりまで引きつけるでしょうから、火矢にはくれぐれも注意を‥‥」 「ヒィヤッッハァアアアーーー!!!」 言い終わらないうちに奇声を上げながら山賊たちが飛び出してくる。 「ヒャッハー、燃やせ燃やせー!!」 「燃やして奪え!奪ったらとんずらだぁ〜!」 「‥‥まぁ、ほどほどに注意を」 待伏せで危険な状況に陥るのは避けられたが、山賊たちが予想以上にバカなのは困ったことである。何せ、行動の予測がつかない。 「では皆さん、よろしくお願いします」 「え〜、丹波さんも手伝ってくださいよぅ。自分もこんなに頑張ってるのにぃ」 「皆さんと違ってうっかり矢がかするだけでも大事ですので。依頼主特権です」 荷車の陰で帳面に書き物を始める丹波に積荷の上から羊飼いがぶーぶーと文句を言う。 「やめてぇ私の為に争わないでー」 積荷の上に立ち、ばっさばっさと旗を振り回して火矢を叩き落とす。割と面白おかしい光景でもある。 山賊の火矢の狙いははっきり言って適当な上、弓の引き絞り具合もバラバラだ。だが、その為かえって「どこに飛ぶか」の判断がつきにくい。 「弓術師があんな撃ち方すれば物笑いだけど、どう飛ぶかわからないのは厄介ね」 「一矢たりとも通さないつもりで行くのが一番確実だ。片っ端から打ち落とせ!」 結果としてはシュヴァリエの言うように、可能な限り全てを払いのけなければならない。 「弾け弾け!荷車にさえ当らなければとりあえずは何とかなる!」 「ちょっと荷物が大きくなってるから当りやすい気もするけどね」 リーブが盾を翳し、浬は薙刀を回転させて矢を落とす。 「飛び道具の本職が、格の違いを見せてやろう!」 レグの朱藩銃が撃ち出す空気弾が、火矢を次々と撃ち落す。 そして辺りに落ちた火矢の火を、風鬼が丁寧に踏み消していく。 「大事な作業です。横着してるわけではないのですな」 「あ」 羊飼いが叩いた火矢が、弾く角度が悪く積荷の上にぽとんと落ちる 「わ!わ!わ!」 「よいしょっと!これで大丈夫!」 気功波で撃ち落しに加わっていた神音が、すかさず荷台に片足を乗せて火矢を掴んで放り投げる。 「ふぅ〜、助かりましたぁ」 「矢切れを待つ手もあるが‥‥危険を背負い込むよりは排除する主義なのよね」 ルシアは矢を引き絞ると、山賊の弓の弦を狙って狙撃を行う。 「外した時は、相手の運が無かったって話になるだけだし」 弦だけを切る狙いで外した場合、山賊に深々と突き刺さる事になる。 案の定、そこかしこで弦を切られて驚愕する声と痛みに呻く悲鳴とが入り混じり阿鼻叫喚の状態になる。 「これで諦めてくれればいいんだがな」 「そうもいかなそうですな」 弓を捨て松明と賊刀を手にした山賊たちを見て、レグと風鬼が溜息をついた。 数で上回る山賊を迎撃する以上、自然と荷車付近での水際防衛にならざるをえない。 シュヴァリエはハルベルトを突き出し松明を叩き落すと、くるりと穂先を回し、山賊の襟首を鉤にひっかけて引き倒す。ついで迫ってくる山賊には柄で脛を叩き、姿勢が崩れたところで賊刀を器用に打ち割る。 「ええい、きりがない!」 「いい加減にしろよなお前らぁ!こっちが折角色々考えてるのに命を投げ捨てるような突っ込み方するなよ!」 彼の奮迅の動きや浬の撒菱を使った防衛の前に倒された山賊が転がっている。 しかしその後ろから次々に新手が来ては、松明を振り回したり、中には投げつけてくるものもいる。どの山賊も血走った目で、他の山賊が倒されるのに目もくれず荷車を目掛けて走ってくる。 「あれはお金のことしか考えてないから色々目に入らなくなってるんじゃないかなー」 「加えて仲間甲斐が無いから他がどうなっても自分が無事なら、というのも考えられますな」 神音と風鬼の分析で概ね正解である。 「騙されないでーこれは爆発する囮よぅ偽物よぅ」 羊飼いの警告(?)も全く耳に入っていない。 「何だか怪談にある腐った死体物のワンシーンみたいですよぅ」 血走った目でわらわら集ってくる山賊は中々におっかない。 「足を狙って撃て撃て!数人死んじまってもこの際不可抗力だ!」 「這って近づいて松明を投げる可能性がある!射撃で転んだ連中を確実に眠らせろ!」 暫くして。 周囲には松明や火矢の焦げが転がっている。ついでに縛り上げられた山賊たちも転がってる。 「燃えカスにはきちんと水を被せておけよ。火の粉の一つも大変な事になるからな」 「くそっ、てめぇらが邪魔しなければ、その金は俺達のものだったってのによぉ!」 消火活動に勤しむ開拓者達に山賊が毒づく。 「だーかーらぁ、運んでるのは爆発物でぇ金じゃないんですよぅ」 「まぁ、口で言っても納得はしないだろうなぁ。丹波さん、この火薬少々使っちまってもいいかい?」 「一箱使い果たすとかでなければ問題ありませんが」 丹波の許可を得たレグは、早速梱包を解いて火薬箱を一つ引っ張り出す。 「じゃ、まずはご開帳だ。お前ら、これがほんっとに金に見えるか?」 黒灰色の粉を一すくいとって山賊たちに見せる。 そしてそのまま、目の前でその火薬を銃に詰め、空に向けて空砲を発射してみせる。 山賊たちの間から、どよめく声が聞こえてくる。 「大体あれだけ襲撃の度に爆発騒ぎが起こってるんだから、いーかげん気がつかなきゃ駄目だよ。いー大人なんだから」 腕を組んだ神音が叱る。至極もっともだが、髭面の男達が半分以下の年齢の少女に説教を受けている光景は中々凄い。 「さて、この捕まえた山賊たちを作業所に連れて行くんだっけ?」 「ええ、おそらく目に叩き込まないと理解できないと思いますので。ただ、ここからだと麓の受け渡し所の方が近いのでまずはそちらに」 丹波の勧めに従い、まずは山を下る。そこで山賊より強面の砲術師や職人達に火薬を渡すと、荷台にふんじばった山賊を乗せ、山道を登っていく。 「いやぁ、ようやく火薬を納品できましだぜ。これも開拓者の旦那がたのお蔭でさぁ」 「へぇ、こいつらが俺達の苦心の結晶を焼いたふてぇ山賊どもですかい」 「すみませんね、私以外は普段余り人と接する仕事ではないもので身だしなみへの配慮が足りませんで」 開拓者達にお茶を出し山賊を睨みつける作業所の火薬職人達は、山賊がタガタと震え開拓者達の笑顔が軽く引きつるほどのがたいと容貌の持ち主達だった。 採掘や加工、硝田の手入れを毎日のようにしていると、どうしてもそうなるらしい。 「ごつい人達だけど、手先は器用なんですねぃ」 「耳かきに半分とか繊細な分量の調合をしたりするからな。俺達も砲術士の訓練で色々やらされたなぁ」 作業の様子を山賊と一緒に見学しながら、羊飼いが感心したように言う。リーブが解説を加えるが、一緒に何か苦い記憶を掘り起こしてしまったようだ。 「お前達が狙っていたのはおおかたこれだろう。よく見ろ、ここで採掘していたのは硫黄だ。金ではない」 硫黄鉱とそこから取れた硫黄を山賊たちに見せつけるシュヴァリエ。恐怖とセットにして教えこめば、山賊たちも二度と襲ってはこないだろう。 「採掘現場での労働は受け付けております。山賊に行き詰った時は門を叩いてください」 「そこで真面目に働くようなら山賊になってない気がするわね」 案内の鉱山責任者の勧誘に、ルシアがつっこむ。 「それじゃお前ら、もう二度とこの作業所にちょっかいはかけるんじゃないぞ」 「ちゃんと仲間にも教えるんだよー」 ほうほうの体で逃げていく山賊に浬が手を振る。まぁ、これで近隣の山賊は頼まれても二度と邪魔はしないだろう。 「目の前で発破のデモンストレーションをやったのが一番効いたな」 鉱山で岩盤崩しに使う爆薬を実際に使って「荷車に火がつけばこうなっていた」というのを見せてやったところ、山賊たちは真っ青になって事の次第を理解したようだ。もう二度と襲わないという血判状まで出してくるほどだった。 「荷物運びごくろーさま!」 帰り道、神音に三位湖の水を飲ませてもらったギルドの駄馬がぶひひんと嘶く。 その背には借り出した布や石綿が積まれている。 「考えてみれば、一度麓に下りた時点で返しておけばよかったんですな」 「言うな。帰り道が遠く感じる」 そして開拓者達も折り畳んだ大きな布をそれぞれ背負わされていた。 |