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■オープニング本文 「おいお前ら、蜂の巣駆除に行ってもらうぞ」 ギルド受付がネズミ狩りにでも誘うような言い草で手近な開拓者に言う。 「当然だが、わざわざ開拓者に頼むと言う事は、つまりはそういう事だ」 ある家の軒先に季節外れの蜂の巣が出来た。家人は当初は自力で駆除するつもりだったらしいが、巣から出てきたカラスほどの大きさの蜂を見てとるものもとりあえず一目散に逃げ出した、と言う事である。 「まぁ、良い判断だったといえるだろう。どう控えめに見てもアヤカシであろう相手に普通の蜂の駆除方法が通じるとも思えないからな。というわけで依頼は、このアヤカシ蜂と巣の駆除と言う事になる」 蜂はカラスほどの大きさで、強さも大きくなった蜂に準じたものと想定。巣はスズメバチの巣と同じくらいの大きさ。 巣よりも蜂の方が大きいような気もするが、それでも出入りできるのはアヤカシ脅威の生態故か。 「敵の攻撃手段は当然針もあるが、蜂は顎で噛んだり脚で掴む力もバカにならん。その上で普通の蜂には無い力を持っていても不思議じゃない。十分注意する事。何より敵の数が未知数だ、うかうかしてるうちに囲まれないようにな」 |
■参加者一覧
橘 天花(ia1196)
15歳・女・巫
斉藤晃(ia3071)
40歳・男・サ
風鬼(ia5399)
23歳・女・シ
マーリカ・メリ(ib3099)
23歳・女・魔
大泉 八雲(ib4604)
27歳・男・サ
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)
10歳・女・砲
伽壇 互助(ib6200)
20歳・男・魔
りこった(ib6212)
14歳・女・魔 |
■リプレイ本文 「‥‥と、いうわけだ。蜂退治が終わるまではこの辺りには近づかないでくれ」 近隣の村人達を集めて、大泉 八雲(ib4604)が説明する。 「はぁ、どれくらいで終わりますじゃろか?」 「遅くても明日には終わると思いますよ。本当は皆さんが普段の暮らしをしてるうちに済ませたかったのですがね」 開拓者達が村に来たとき、蜂アヤカシが巣食う家には折りしも隣家のご隠居が碁盤を持って遊びに来ようとしていた。 風鬼(ia5399)曰く「葱背負った鴨ですな」状態である。 「後は自分たちに任せて、安心してごしなはい。ちぃとの間不便しますが、きっと今まで通りになーます‥‥いえ、しますけん」 伽壇 互助(ib6200)は村人に笑顔で出来るだけ安心させつつ、彼らの篭る家の窓板を閉じる。 「さぁて、そしたらちゃっちゃと片付けるでぇ」 斉藤晃(ia3071)が黒いマントを翻す。 「う〜〜〜〜ん、巣穴、見えませんね」 「巣自体が他のアヤカシを収納するアヤカシかもしれませんよ」 蜂の巣の観察、もとい監視につくマーリカ・メリ(ib3099)達がじっと見つめるが、蜂の巣のどこから蜂が出てきているかが見切れない。橘 天花(ia1196)の言うとおり、蜂の巣と似て非なるアヤカシならではなのかもしれない。 「燻り出しは無しですね」 「虫なら効くんやけど、アヤカシは大概煙や火に強いからのお。囲まれ対策に煙玉はありかもしれんが」 蜂の巣から離れたところに開拓者七人全員が集まる‥‥全員? 「あれ、ルゥミちゃんは?」 「さっきまでその辺で土いじりしてたみたいだけど‥‥」 「ふっふっふ、あたいのカモフラージュったら完璧ね!」 ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)が居るのはさっきまでは畑の一角だった場所。今はタコツボ(個人用援壕)を家畜の糞尿と枯れ枝で擬装した射撃陣地になっている。 仲間達に居場所を教える為軽く手を振っておく。見る側にとっては肥溜めに落ちてもがいているようにも見えるが、敢えて近づきたくも無い。 「ま、まぁ無事な様ですし、問題なしといきましょう」 「さぁて、わしと八雲が突っ込んで集める、それをバタバタ撃ち落す、てことでええな」 準備が出来ている事を見ると、晃が派手に立ち回りながら咆哮をしかける。 「来いよ虫けら!相手してやろう!」 八雲も吼えながら大剣を振り回す。 十分に蜂が集まってきたところで、煙玉を地面に叩き付ける。もうもうと煙幕が張られる中、蜂たちは次の一手を警戒し動きを緩め、そして煙の外に出る。 「動きが鈍ってますよー」 りこった(ib6212)のサンダーが蜂の一匹を撃ち落す。それを皮切りに、開拓者の攻撃が次々と蜂を砕いていく。 煙玉の煙が晴れる頃には、全ての蜂が叩き落され‥‥その代わりに、ほぼ同数と思しき新手が巣の周りに集っている。 「刺されず済むかと思うたが、やっぱそう上手くはいかんもんじゃのう」 「蜂より巣穴を片付けろということか、仕方ない。もう一度咆哮をかけて突っ込む!」 「応!」 サムライ二人が巣を目掛けて突撃する。 「こちらも蜂を撃ちつつ、隙あれば巣を狙っていく感じですねー」 「天花さんは機を見て前の二人の消毒ですな。援護はしますですよ‥‥しかし、見た目より当たり判定が小さいような」 中央を線で狙うように撃つのが確実らしい。 「なるほど、れぇざあ万歳」 「風鬼さん‥‥何の話です?」 「いえ、弾幕手のサガについて少々」 「っと、マーリカに貰った加速が切れてきたか」 手の甲に残った傷に唾を拭きつけながら八雲が舌打ちする。 「だいだい、虫ってやつぁ嫌いなんだ、足が多すぎる」 何匹叩き落したか最早数えてもいない。潰してもつぶしても巣の中、というより巣の周囲に新手が沸いてくる。 「針対策に隙間の無い服にしといたが、鉄帷子にでもした方が良かったかのう」 カラス並に大きい蜂の尾針は、それこそ槍の穂先大の大きさがある。 「ついでにちっと難儀なんじゃが‥‥」 「声でわかる。俺もさっきから‥‥」 『吼えすぎて声がかすれてきた』 ややかすれた声で二人がハモる。 「まぁ、ある程度はなんとかするやろ。その間にわしらはさっさと巣を殴り倒すかの」 「わ、わ、こっちにも来ましたー!髪の毛はやめてくださいー、お手入れ大変なんですよぅ」 後衛にも群がって来る蜂の群れ。りこったが髪を押さえながら悲鳴を上げる。 「うわ‥‥近くで見ると尚きしゃが悪ぃ。さっさと処理しないと」 とは言え、蜂の襲撃を避けながらでは攻撃に意識を集中しづらい。 「旗って虫除けにも便利なんですねー‥‥手が凄く疲れますけど」 マーリカがバサバサと旗を振っている。当座は凌げそうだが本人の言うとおり長時間続けれるものでもない。 蜂の包囲網が次第に狭まってくるのを見て、互助が前に進み出る。 (「はは‥‥ちょっと無茶かな。まぁ‥‥皆さんの楯になれれば」) 狙いやすい相手を見つけた蜂が、一斉に迫る。 「センパァーー!ファァアーーーイ!!」 肥溜、もとい援壕から響く声。言葉の意味は、言ってるルゥミ自身も知らないが、教えてくれた祖父は『仲間と助け合う時のおまじない』と笑っていた。 ふらふらと定まらない動きをする蜂だが、攻撃の際はぶれの無い動きになる。先の動きも予測しやすく、狙う側からすれば絶好の瞬間だ。 遠雷に手早く次弾を込め、次々に撃ち落していく。 「今日のあたいは絶好調!この程度のヘナチョコなら練力込めは不要ね!」 「よし、今の内に一気に巣に攻撃を!」 ルゥミの射撃で蜂の脅威が減じたところで、長射程のスキルで蜂の巣を狙う。 石弾や雷に撃たれた巣がぐらぐらと揺れ、そこから舞う細かな破片がアヤカシ蜂に変化する。 「うわ、突っつきに行かないでよかったー」 「やなフラグがたつところでしたー」 巣から蜂が出る、というよりはミニ魔の森、瘴気塊からアヤカシが発生しているといったほうが近いか。 放っておいても蜂、叩いても蜂が出る厄介な代物だ。 「風鬼さん、互助さん、前の御二方の治癒に向かうので援護をお願いできますか?」 「楯役以外なら」 「任されました」 「恐らく、こういう場合前衛の方は‥‥」 「殴るたびに新手を吐き出すか、面倒だな」 「強う殴っても軽く殴っても出てくる数が同じなら、一撃に全力込めて殴るのが良さそうじゃな」 「蜂はどうする?」 「虫けらなんぞ無視じゃ無視」 「‥‥と、お考えになると思いますので」 「前衛が常にそうかはわかりませんが今回の前衛に関しては全く同意ですな」 かれこれするうちに蜂を得物で払いながら巣に攻撃する前衛を回復範囲に納める。 「大丈夫ですか?毒などの影響はありますか」 まずは閃癒、そして解毒の必要を問う。 「あぁ、痺れや中から蝕まれた気配は無いんだが‥‥」 刺された痕が熱と痛みを伴いながら大きく腫れ上がっていく。目の周りなどは視界に関る為避けているが、顔も結構刺されている為あまり仲間に見せたく無い状態になりつつある。 「とりあえず解毒を頼む」 背中を見せたまま、八雲は言った。 斬られ、撃たれるたびに蜂の巣は小さくなり、とうとう指二本で摘めるほどの大きさになる。代わりに、相当な数の蜂を吐き出しているが。 その蜂達が、幕を張るように集まってくる。 「ええいくそ、あと一発入れれば壊せそうなんだが」 蜂たちの陰で、巣は殊更大きい一匹の蜂を生み出すと、自らをそれに抱えさせる。 「うぉ、逃げよるか」 「逃がさんきに!」 互助の放つ石弾を、蜂が体で止める。巣さえ逃がせば、ということのようだ。 「うう、どうしましょう、逃げられちゃいますー」 「りこったさん、ルゥミちゃんが『狙いはテキトーでいいから強いの一発GOGO!』って言ってますよ?」 加速のかけ直しでいっぱいいっぱいのマーリカが伝える。 「ぷ、プレッシャーです〜‥‥わ、わかりました、気合も込めて全力でいきまーす!」 蜂は幸い守りに集まっていて後衛まで刺しには来ない。すすすっと近づくと、文字通り全力を込めた火球を放つ。 ボウッ 蜂一匹を消し炭にする爆発の熱風が辺りに吹き荒れる。わずかに間を置いて、新たな蜂がその隙間を埋める。その後ろで‥‥ チュイッ、っと銃弾が獲物を捕らえる音がした。 「ビューティホー」 援壕から頭を出して、ルゥミが射撃確認の為にもう一度照準を覗く。 貫通された巣は粉々になって消え去り、一緒に撃たれた女王蜂も力なく落下している。 「あたいは狙撃も完璧ね!後は残党をバリバリ撃ち落すよ!」 「これで最後か‥‥人とアヤカシの死合だ、怨んでくれるなよ?」 蜂を打ち落とすとどっかと大剣を地面に突き立て、八雲がしんみりと呟く。 「しかし、巣の構造をじっくり見てみたくはありましたな。外側だけ真似て、中の方はよくわからないものが詰まってた可能性もありますが」 「うえぇ、想像しちゃったじゃないですか」 風鬼の言葉に顔をしかめるマーリカ。 「見回り、終わりましたよー」 「少数ですが逃げ隠れようとしてたので、片しときましたけん」 「おう、ごくろうさん。一杯やらんか?」 戻ってきたりこったと互助に晃が杯を勧める。 「それは?」 「蜂蜜酒や。やっぱ蜂は蜂蜜を作ってなんぼやな、よう暖まる」 「よいですね。ぜ‥‥ひ‥‥!?」 蜂蜜酒の芳香を打ち消すように、肥料の臭さが流れてくる。 何事かと一同が振り向くと‥‥ 「みんな〜」 塹壕を片付けていたルゥミが、とてとてと笑顔で走ってくる。全身に被った家畜の糞尿の臭いを漂わせたまま。 仲間達が後ずさるのを見て、一瞬首を傾げる。鼻栓をつけたままの本人には、漂う異臭がわからない。 「あ、そうか!アヤカシを一発でやっつけるあたいの覇気にびびってるのね!味方まで寄せ付けないなんてあたいってすごいね!」 勘違いしたままえっへんと胸を張る。 ‥‥村人の所へ行った開拓者達の第一声が、安全確保の報告よりもまず「湯を沸かして欲しい」であった事は言うまでもない。 |