【砂輝】陽動狩猟・緩
マスター名:咬鳴
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/05/20 23:53



■オープニング本文

●砂漠の戦士たち
 神託は正しかったな――
 調度品の整えられた白い部屋の中、男は逞しい腕を組み、居並ぶ戦士たちを前に問いかける。男が多いが、女性も少なくは無い。
「さて、神託の続きはかの者らと共に道を歩めということだが‥‥」
 皆が顔を見合わせてざわつく。俺は構わないぜと誰かが言ったかと思えば、例え神託と言えども――と否定的な態度を見せる者も居た。お互いに意見を述べ合ううち、議論は加速する。諍いとは言わないが、各々プライドがあるのか納得する素振りが見えない。
 と、ここで先ほどの男が手を叩く。
「よし。皆の意見は解った。要は、彼らが信頼に足る戦士たちかどうか。そういうことだな?」
 一度反対した者はそう簡単には引かない、彼らも彼らなりに考えがあってのこと。であれば。
「ならば、信頼に足る証を見せれば良い‥‥そうだろう?」
 だったら話は早いと言わんばかり、戦士たちは口々に賛意を示した。男はそれを受けて立ち上がり、剣の鞘を取り上げて合議終了を宣言する。男の名はメヒ・ジェフゥティ。砂漠に生きる戦士たちの頭目だ。

●船に巣食う
「と、いうわけでジェフゥティ殿から涙が出て胃液を吐くほどありがたい申し出を仰せつかったわけだが」
 オリジナル・サンドシップ。アル=カマル国における目に見える伝説。今回の神託による邂逅を受け、アル=カマルではこのオリジナル・サンドシップの回収を行わんとする動きがある。
 当然いくつかの問題はあるが、最もわかりやすいものとしてこの船は現在アヤカシの巣窟になっていること、そしてそのアヤカシの数が百をくだらない事が挙げられる。
 様子見の偵察がてら、これらのアヤカシを排除する。それが今回の依頼である。

●砂の巨体
 オリジナル・サンドシップに巣食うアヤカシの中でも、大物と言われる部類の存在がサンドゴーレムである。
 頑丈・豪腕にして再生能力まで備えたその巨体は居るだけで十分な脅威となる。
「今回、偵察がてらにちょっかいをかければ色々なアヤカシが反応するだろう。そこで、周囲の取り巻きが減った状況はサンドゴーレムを討つまたとない好機になる」
 無論サンドゴーレム自身も反応して動きはするが、その鈍重さゆえに他のアヤカシとの間に距離が生まれるであろうと予測できる。
 残るのは同じくらい反応の遅いマミー達くらいか。
「時間をかければ出てった連中や、船の中のアヤカシが合流しないとも限らん。仕掛けるからには一気呵成にな」







■参加者一覧
風鬼(ia5399
23歳・女・シ
鞍馬 雪斗(ia5470
21歳・男・巫
ハイドランジア(ia8642
21歳・女・弓
蒼井 御子(ib4444
11歳・女・吟
リンスガルト・ギーベリ(ib5184
10歳・女・泰
藤堂 千春(ib5577
17歳・女・砲
翠荀(ib6164
12歳・女・泰
ミル・エクレール(ib6630
13歳・女・砂


■リプレイ本文

「上から二番目。こうも見下ろすのは珍しいですな。普段は筋肉巨漢の1,2体くらい居りますから」
 周囲を‥‥自分より低いところに頭のある面々を見て風鬼(ia5399)が感慨深く言う。
 ここはアル・カマルの砂漠のど真ん中。人とアヤカシの激戦区。
「謎のモノローグはよいから、そろそろ目的の相手が見えてくる頃合ではないかの?」
 小鬼‥‥もとい、鬼面を被ったリンスガルト・ギーベリ(ib5184)が尋ねる。
「太陽の位置からしてそろそろのはず‥‥目的のアヤカシ以外の群れにぶつかるのも困るし、大回りになってるのは仕方ないね」
 答えたのはミル・エクレール(ib6630)。風景に変化の無い砂漠では日や星による測量は旅の必須技術になっている。

「わふー!さばくー!おっきーー!なんかいっぱいいるねー!」
「変な踊りを踊ってるみたいだねー」
「張子の虎を連想させますね‥‥」
 いっぱいいるミイラ達の様子は、藤堂 千春(ib5577)の比喩が当を得ている。据わりの悪い首の揺らぎがよろめくような不要な動きを増し、一方で固まった関節による大袈裟な動きがハイドランジア(ia8642)のいう『変な踊り』のようになっている。
 マミーが他のアヤカシより極端に出遅れている理由はその動きの鈍さゆえだろう。翠荀(ib6164)の大声にも反応しない辺り、神経的にも鈍いのかもしれない。
 その中央をやはりゆっくりと、しかしこちらはぶれない動きで進む砂山が問題のサンドゴーレムだろうか。
「あれですかね。見た感じはデザートゴーレムにそっくりですな。ギルドの兄ちゃんは『似てるけどかなり違うぞ。決してうろ覚えで記録して間違えたわけじゃないぞ』と強弁しておりましたが」
「砂を噴くってのは珍しいよね」
 他に合流しそうなアヤカシがいないか、十分確認したところで開拓者達は攻撃を開始する。
「皇帝の正位置か‥‥悪くは無いな‥‥」
 験担ぎに引いたタロットを見ながら雪斗(ia5470)が呟く。その意には安定、成就・達成、意思などを含む。

「さって、お披露目には良い機会、かな」
 蒼井 御子(ib4444)が演奏を始める。短く激しいファナティック・ファンファーレを柔らかなハープの音色で奏でるという変わった曲調だ。
「名付けてハープによる熱狂的支援曲、ってね」
 その調べの中、反応しているのかいないのかゴーレムの周囲をうろつくマミー達に雪斗がブリザーストームを放つ。
「滾る灼熱‥‥悪くないが、少し頭を冷やそうか‥‥?‥‥氷雨従える者よ、遥かの地より来たりて賜れ‥‥氷華水月、悉く凍りつけ!」
 詠唱によって呼び起こされた吹雪が、マミー達を氷柱に変えていく。
「頃合や良し、ゴーレムの陽動は妾に任せておくがよい!」
 盾を掲げながらリンスガルトが踏み込む。未だ砂山状の姿のゴーレムだが、腕だけがにょきにょきと形作られ、殴りかからんと振り上げられる。
 一発の銃声とともにゴーレムの腕が横にぶれ、何も無い砂を叩く。
「穴は開けられないかもしれないけど、出鼻を挫く事はできる。ボクはボクにできる事をさせてもらうよ」
 ミルは黒鉛の残る短筒に素早く次弾を装填し、ゴーレムの去就に気を配る。
 地面についた腕をそのまま支点にして、砂山から這い上がるように砂巨人が形成されていく。
「ふふん、大きいだけの木偶の坊など妾にかかれば大したことは‥‥少しはあるかもしれぬが」
 遥か遠方まで影を落とすその巨体からの一撃はかすめただけでも相当なものになるだろう。

 ゴーレムからやや離れた位置にある小さな傾斜。狙撃には絶好のポイントになる。
「まずは、そ、その、遅い足取りを更に遅くします!」
 千春はゴーレムの片膝を狙い、すかさず次弾を装填してもう一方の膝も撃ち抜く。
 巨体に似合わず、撃たれた膝をがくりとつくゴーレム。
「き、効いてるみたいです。これならしばらく足止めができるかと」
 ところが、有効打過ぎたのかゴーレムの足がさらさらと崩れ、腰から下が砂漠と同化する。
「ほっとくと再生しそうだね〜。ここは畳み掛ける手かな?」
 ハイドランジアもしっかと狙って矢を放つ。
 強弓からの一射はゴーレムの胴をぶすりと射抜く。尤も効いているのかどうか反応からは窺えないところが難点だが。
「わふー、そろそろめだまかな!でっかいかな?おいしーかな?なーふぶき!!」
 サンドゴーレムの目玉は美味である、という嘘を風鬼に教え込まれた翠荀がわくわくしながら陽動している。
「はっはっは(やばい、ネタバラシの機会を逸した気がしますわ)。ゴーレムは任せて私はマミーの誘導係ですな」
 体よく目を逸らしながら離れる風鬼。

「十分支援もあるし、この調子ならば問題なくいけそうじゃな‥‥む?」
 リンスガルトに相対するゴーレムが、大きく空気を吸い込むように形を歪める。
(「話にあった砂噴射のようじゃな。しかし、あのように隙の大きい構えでは対応は簡単よの」)
 鬼面を被りなおし盾を正面に構え、防御姿勢を取る。
「この風の流れ方‥‥皆、顔を覆って息を溜めて!ただのブレスとは違うよ!」
 ミルの叫びに重なるようにゴーレムが唸る。
 ズォオオオオオ!音が響くほどの風と共に吹き出された砂は、噴射と言うより砂嵐と言わんばかりに周囲に砂を撒き散らす。それは、マミーも開拓者も等しく砂の下に埋めるほどの強烈なものであった。


「ふぅ、確かに『噴射』ではあるよね。全方向だけど」
 最もこういう出来事に慣れているミルが、やはり一番立ち直りも早い。砂を払いのけて周囲を見る。
「さて、他の皆は‥‥わあっ!?」
 すぐ傍に二本の足と緑色の尻尾が突き立っている。こんな特徴的な。
「だ、大丈夫か?」
「ぺっぺっ‥‥あははははは!!わふー!ごーれむはすごいな!」
 引っこ抜かれて砂を吐いた翠荀がけらけらと笑う。
「とりあえず、他に埋もれてる仲間がいたら助けてやってくれ」
「わかったー!」

「ふぅ、銃に砂が詰まらなくて、よかったです」
 砂嵐が到来する直前、千春は先ず我が身を盾に愛銃を庇った。機械に砂はあまりよろしくない。
「距離があって助かったね‥‥ん?」
 ハイドランジアもコートを叩きながら顔を上げる。ゴーレムの居た方向を確認すると、何か砂が凝固した彫刻のようなものが浮かんでいる。
「核‥‥かな?」
 周囲に徐々に砂を集めているところを見ると、その公算が高い。
「狙ってみましょう」
「それじゃ、景気付けに『ハープによる熱狂的支援曲』第三楽章、いくよーー!」
「「何時の間に!?」」
 演奏を始める御子に驚く二人。案外さっきの砂嵐に飛ばされてきたのかもしれない。
 気を取り直して、核らしきものに狙いを定める。
「こ、ここからなら‥‥いきます!」
 銃弾や矢が当たるたびに心臓のように振動する。

「ええい、忌々しい」
 地の底から這い出るようにして、リンスガルトも砂から脱出する。至近距離で砂嵐に長時間晒された為、髪の間や鎧の隙間に入り込んだ砂による不快感もひとしおだ。
「ここまで来たら怪我をするのも阿呆らしくなるのぅ」
 指がまだ三本分しか再生していない状態で押し潰しにかかるゴーレムの手を長柄槌で殴りつける
「む?」
 当たりが随分と軽く、空洞を殴りつけたような音がする。外見のみならず、中身も十分に回復していないようだ。
「弱ってるとあらば、一気呵成に攻める頃合じゃな。誰ぞ、支援に回れるかや?」
「蔦よ、地より生じて悪しきを絡め取れ‥‥最悪避け続けていても、狙撃班が片付けるだろう。勝ちをあせって無理はするなよ‥‥?」
「ふん、誰に向かって言うておる。妾に無理は存在せぬわ!」
 雪斗が魔法で抑えたゴーレムの腕に飛び乗ると、リンスガルトは真紅のオーラを滾らせながらまだ再生しきっていない胴体と、その奥にある核を粉砕せんと得物を振りかざす。

「う〜む、その根性たるや天晴れ」
 外套を外してばさばさと砂を払う風鬼の目線の先には、砂を全身に乗せたままゆるゆると迫るマミー達の姿。
「腕を切っても足を切っても、首を飛ばしても力尽きるまで止まりませんな。元が不安定な分バランス崩しても大して変わらないと」 陽動としてマミー達を引き付けたはいいが、面で迫ってくる相手を撒く為に仲間達からもゴーレムからも随分離れてしまった。
「厄介ですな。となるとここは‥‥爆殺の一手で」
 焙烙玉に火をつけぽいっと放り、爆発によって開いたマミーの穴を悠々と突破する。
「後は、木乃伊共が戻る前にさっくり片付く事を望むところでさあね」


 開拓者達の攻撃によって、サンドゴーレムは修復よりも破損が早い状態に陥りつつある。
「わっふー!りんすー、むこーのふたりがだきゅーん、ばすーんするからべりっとしてほしー、って!」
「あ、やっぱり。えーっと、狙撃班が核の狙撃に残りの全力を注ぐから外装を剥がして欲しいと‥‥」
 息を切らせて走ってきたミルが翠荀の言葉を通訳する。
「ええい、妾は忙しいのじゃ、最初から通訳が要らぬ言い方をせぬか!」

「後退用にストーム一発分‥‥となると、今使えるのはこれが最後か。後は任せる‥‥!」
 雪斗の風の刃が、目印のように核の外装に十字の傷をつける。
「周囲は気にせず、ゴーレムをお願い!」
 ミルはそのままマミーの牽制に回る。三々五々再集結を始めたマミーの足元を中心に攻撃する。

「あの十字傷が目標じゃ。わかるな?」
「わふー!」
 ゴーレムの膝を蹴り、リンスガルトと翠荀が跳ぶ。
「砕け散るが良い!」
「ひっさつ、キーック!」
 二人の攻撃を受け、陶器のようにバラバラに砕け散る外装。
 そして‥‥
「わふー!めだま!めだま!」
 桃色に輝く球体、ゴーレムの核がついにその姿を晒す。

「着弾差は?」
「は、半秒ほどこちらが早いです!」
「了解!タイミングはボクが合わせる、千春ちゃんは中心をしっかり狙って!」
「は、はい!中心に、減衰を可能な限り避けて‥‥‥‥‥‥撃ちます!」
 外装の破片の隙間を縫うように抜け、ほぼ同時に一弾一矢を受けた核の中心から皹が走る。
 二人の背後で行われていた御子の演奏が終わるのと時を全く同じくして、粉微塵に砕け散る。


「お待たせしまし‥‥やば」
 道を塞ぐマミーを蹴飛ばし戻ってきた風鬼を待っていたのは、今にも泣きそうな目でプルプル震えている翠荀。
「あー、うん、後で沢山食事を奢るので今はとりあえず一致団結撤収をですな」
「古の民への手向けをする暇も無いとは。せわしないのう」
 風鬼が引き離していたマミー、先行していた他のアヤカシ、そしてサンドシップから現れるやもしれぬ新手。
 それらに捕捉されるより前に、迅速な撤退はすべきであろう。
 砂漠にしみ込ませるように弔い酒の瓶を逆さに突き立てると、かるく祈りの印を切ってやる。

 それからしばらくして。
「ありがたいといえばありがたいのじゃが、釈然とせぬ部分もあるのう」
 オアシスから汲み立てと言う触れ込みの水壺の中で、リンスガルトがぐぬぬと呻く。
 首尾よくアヤカシの追撃を振り切った開拓者達だが、しばらくして別の集団に捕捉された。
 砂漠の商人達。彼らは『偶然』水や食事、医薬品、替えの衣類などを運んでいるところで開拓者達に出会ったそうだ‥‥あまりにも手際のいいテント設営や食事の準備を見るとそうは思えないが。
「まあいいんじゃない?ギルドもそれを見越して報酬にちょびっと上乗せしてたんだろうし。砂まみれで髪や装備が傷むのも避けれるしね〜」
「彼らキャラバン商人のモットーは『機会には喰らい付け、喰らいついたら骨まで離すな』だからなぁ」
 上機嫌のハイドランジアに対してミルは浮かない顔。

「わふー、わふわっふー!わふー!」
「あああ‥‥金に羽が生えて去っていく姿が‥‥」
 嘘をついた埋め合わせとして翠荀に食事を奢る事になった風鬼。
 体格的にそこまでは‥‥と思ったのだが、どっこいどこに収納されるのか実によく食べる。
「い、いいんでしょうか?」
「いいんじゃない?」
「こら、そっちまで奢るとは言ってませんぞ」
 既成事実化しようとする御子にすかさず釘を刺す。

「げに恐ろしきは妖より人、か‥‥『節制』の逆位置‥‥簡単には放してもらえなさそうだな‥‥」
 一枚のタロットを手に、雪斗は深く溜息をついた。