|
■オープニング本文 ●義兵隊 義兵隊は北面東部国境地帯の村々を護る為、各村自警団から発展した民兵組織である。その名は義によって立つ者達の意味が込められている。しかし‥‥ 村人達を守護する意志、という曖昧な一点以外は実力、身分、精神性など全く問われることなく入隊が許可され、日々巡回をするだけで最低限食事と寝床が用意される部隊。 そのような状況で集まってくる隊士達といえば、職にあぶれた流れ者や農家の三男、四男坊。実力のほうは言わずもがなである。 そんな彼らも、ごく稀に真面目に役目を果たさねばならぬ時が来る。 これはそんな、義兵隊士の災難‥‥もとい奮闘の物語の一つ。 ●我慢の限界 義兵隊が一隊、第三隊の詰所、隊長の間。二人の男が腕を組んで向かい合っている。 「お前らの程度は知っている。が‥‥それでもこのケモノ退治の任は果たしてもらわなければならん」 初老の志士が苦渋に満ちた顔で告げる。それに対し対面の呑気そうな男、義兵隊第三隊長東堂悠斎が微塵の緊張感もなく語る。 「嫌だよ面倒臭い」 ガタ! 初老の志士が憤怒の表情で東堂の襟首を掴んだ音だ。 「ぐえ‥‥ちょ、降参降参。落ち着いてよ」 「お・ま・え・は!立場をわかっておるのか!先日も理穴への輸送任務は危険だと断り、近場のアヤカシ退治は一兵も送ることなく開拓者ギルドに丸投げ‥‥如何に芹内王が善人といえど、全く役に立たぬ穀潰しを何時までも養っては下さらぬぞ!」 「やだなぁ、日々の巡回は皆真面目にやってるじゃないか。それにそういう危ない事はここよりもうちょっと血の気の多いよその隊に」 ゴツッ! 志士の拳が東堂の顎に入った音だ。 「お前がそんなだから、楽をしたがる隊士が我先に第三隊に来ておるんだろうが!第三隊が義兵隊中有数の規模である理由が『隊長が率先して怠けるからだ』と知れれば即刻解隊ぞ!隊士を路頭に迷わせたくなくば出撃いたせ!」 ぜえはあと息を荒げる志士に対し、顎をさすりながら東堂が少しだけ真面目な顔をする。 「そうは言ってもねぇ‥‥嫌がる連中に『やれ』と頭ごなしに命令してたら駄目なんだよ。自分達が意味のあることをやるんだ、積極的に役立つんだ、と思って言われる前に手を挙げるようになるまで見守ってあげないと足軽は出来ても義兵は育たないよ」 息を整え、襟を正した志士は悠斎に向き直って言う。 「お前の大望もわからんではないが、今は目の前の急事をこなせ。開拓者に応援を頼むはよいが、いつものように丸投げは出来んぞ。働きぶりを密偵が見張っておるはずだからな」 「やれやれ、信用が無いねぇ‥‥」 二人は同時にふぅ、と溜息をついた。意味合いは恐らく違うだろうが。 ●面倒ごと 「やあ、待ってたよ」 東堂がひらひらと開拓者達に手を振る。 ギルドに提示された依頼は「求む、義兵隊のケモノ退治援護!詳細は詰所にて」というものだった。これが普段なら「義兵隊に代わってケモノ退治」となるところなので、詰所には受ける受けないは別として、どういう風の吹き回しかと気になった開拓者達が話を聞きに詰め掛けていた。 「実はね、ケモノ退治を手伝って欲しいんだ。場所はここ」 指し示された場所は村里から随分離れた山の中。吊り橋で渡る谷があったり桟道を通る必要があったりする中々の難所だ。 「直接何か被害があったわけじゃないんだけどねぇ‥‥まあほら、お勤めってのは色々大変なんだよ。で今回はOれ籤引いた‥‥ゲフン、選りすぐった隊士を十人ほどつけるんで、ケモノのうち最低半数は彼らの手で倒すよう取り計らって欲しいんだ」 おそらく、詰所前で鍬のように刀を振り回したり、槍を屋根にひっかけて右往左往したりと泥縄的な戦闘訓練をしていた連中のことだろう。 「僕は残念ながら色々仕事があって一緒にはいけないんでね。君達が頼りなんだ。いやぁ、残念残念」 嬉しそうにいう東堂につっこみを入れたくなった開拓者は恐らく一人ではないだろう。 |
■参加者一覧
霞・滝都(ia0119)
16歳・男・志
花脊 義忠(ia0776)
24歳・男・サ
雷華 愛弓(ia1901)
20歳・女・巫
斎 朧(ia3446)
18歳・女・巫
慄罹(ia3634)
31歳・男・志
銀丞(ia4168)
23歳・女・サ
アムシア・ティレット(ia5364)
23歳・女・シ
早乙女梓馬(ia5627)
21歳・男・弓 |
■リプレイ本文 ●前日 「腰入れろ、腰をよぉ!」 花脊 義忠(ia0776)の怒鳴り声が響く中、開拓者と義兵隊士が素振りや組み手に勤しんでいる。 霞・滝都(ia0119)や慄罹(ia3634)は付きっ切りで指導や組み手相手を勤める。 「そう、その持ち方なら振り切ってもすっぽ抜けることがありませんから」 「よし、大分筋が良くなってきたぞ。受け方も覚えれば一端の武人だな!」 基本的に叱るより褒めて伸ばす方針‥‥というよりも、余り厳しくするとすぐ潰れてしまいそうだったのだ。 「へえ、旦那もあっしらと同じような家の出だったんですけぇ?」 「最初は私も色々苦労しましたけどね。あなた達も自信さえ持てれば後は何とかなりますよ」 滝都は特に、自分の身の上なども交えて色々語らう。開拓者でも最初は同じであった事を説けば、自信の源になるかもしれないと。 とりあえず、ここまでは脱落・逃亡者を出す事も無く訓練は進んでいる。褒める事も効果があるが、何よりも 「皆さん、素敵ですよ♪」 「頼りにしてますよ。さぁ、これで手の擦り傷も大丈夫です」 「でへへ‥‥よぉーし霞の旦那、もう一本お願いしやす!」 軽い手当てや飲み物、汗拭きの用意を行う雷華 愛弓(ia1901)と斎 朧(ia3446)の笑顔と声援が効いているようだ。特に組み手は怪我をすれば手当てをしてもらえるものだから、怪我を全く恐れない。 「本番でそれが出来れば上等だ、ただし無理はするなよ」 弓術士で白兵戦は専門外の早乙女梓馬(ia5627)から見ても隊士の技量は拙い。とは言え、事前の話よりはやる気を見せている隊士をそれなりに好ましく感じていた。 「あっちはべっぴんさんに色々労ってもらえてええのぅ」 一方素振り組は今ひとつ士気が上がらない。大事な基礎作りも高みを目指す気概のない者には退屈な繰り返しになりがちだ。 義忠はそんな隊士達に一喝を入れる。まずは最低限武器に慣れてもらわないと話にならない。 「まともに振り回せるようになったら組み手をさせてやる!まずは剣を真っ直ぐ振れるようになることだな!素振りもう五十本だ!」 「みんな、がんばれー」 アムシア・ティレット(ia5364)は訓練逃亡阻止の見張りがてら訓練する隊士達に手を振る。 「へぇ‥‥はぁ、えぇとあむしゃさんは組み手はいいんで?」 すっぽ抜けをやらかして走りこみをさせられている隊士が彼女に声をかける。 「ごめん、私、剣へたくそ、なんだー。あ、でも、火遁あるから、安心して?‥‥ふぁいあ」 そう呟くとボウッと炎が上がる。シノビの術、火遁だ。 「うひゃっ!?」 「おどろ、かせちゃった?ごめん、ねー? 「おー、やってるやってる。で、先生さんとしてはどうよ?」 ひょいと顔を出した悠斎が銀丞(ia4168)に聞く。 「私も一日で剣術の髄を教え込めるような器量は無いから素人見立てだが‥‥良くは無いね」 「ほぉ?」 「武器の振り回し方や心得なんかは泥縄で出来る範囲としちゃ上出来だがね。恐怖の中で武器を構え続ける覚悟が無いと結局はこれだ」 と、銀丞は首が切り落とされる身振りをしてみせる。ふーんとさして注意を喚起された風でもなく答える悠斎。 「まぁそん時の保険も君らのお仕事だしね。お手当ては減るだろうけどすぱっとやっちゃってよ」 夕刻‥‥ 「よし、終わりだ。御主等も随分男前になったのう」 仁王立ちする義忠が訓練の終了を告げる。褒めて終わって、自信と疲労を持った状態のほうが寝食に良い。 「では汗を流し、飯を食い、良く眠れ!明日は早いぞ!」 わーっと一斉に駆け出す隊士。出撃隊士は夕飯が多めになり朝は三献の儀も付くのが恒例の為調子の良い隊士達は我先と風呂場に向かう。 「とりあえず、援護すれば何とかなるかもしれないくらいにはなってくれましたね」 「後は明日も今の調子が続いてくれればいいのだがな」 「おう、明日お前が逃げ出さないかで賭けようじゃないか」 博徒崩れの隊士に慄罹が声をかける。 「へへっ、そりゃあ悪いな。俺は他の連中と違って賭場で命張ってたんだ。肝は据わってるぜ?」 「そんときゃ俺の負けで良いさ。しっかり食っとけよ‥‥後、今の味忘れんな」 ●当日朝〜崖の吊橋 隊士達の顔は蝋のように青白かった。 二日酔いというわけではない。ぎりぎりまで伏せておく、と言っていた通り悠斎が隊士達に自力で半数を討たねばならない事を教えたのは精霊門を渡る直前だった。 訓練は受けながらも、実際のケモノ退治は開拓者に任せきりに出来るものだと思っていた隊士達は硬直したまま、押し出されるように精霊門を潜った。 「やれやれ、昨日の勢いはただの内弁慶か」 梓馬がふぅ、と大仰に溜息をついて発奮を促すが暖簾に腕押しである。周囲を囲んで多少の安心感と脱走封じはしたものの、今ののろのろとした足取りでは辿り着くだけでいつまでかかるかわからない。 そこで朧がよろよろと進み出る。依頼前に深手を負っている為もあるが、この日は実際の怪我以上に包帯を巻いている。 「すみません、私が遅れてご迷惑をおかけして‥‥ですが、一生懸命ついていきますので皆様はお気になさらず常の速さで進んでください‥‥」 こう言われては、彼女より遅く進む事は出来ない。少しずつ全体の移動速度も上がり、何とか予定より然程遅れず目的地に着くことが出来そうだ。 ‥‥が、さすがに難関と予想された揺れ吊り橋は一筋縄ではいかなかった。 「いやだー!絶対行かねえ!落ちる!死んじまう!」 「無理!絶対無理!皆落っこちるに決まってるべ!」 一人が騒ぐと不安は波及するもので、高所恐怖症の隊士を中心に大騒ぎになる。 「これはさすがに、力技已む無しですかね」 頭を抱えた滝都が呟く。 「渡らない、とぉー‥‥燃やす、ぞー♪」 「ほんとに縄をかけて引っ張る破目になるとはねぇ」 結局、最後まで進む事を嫌がった隊士達は荒縄で数珠繋ぎにされ、前は縄を引っ張る銀丞、後ろは楽しそうに橋を揺らすアムシアに挟まれて最初に吊り橋を渡らされることになった。 この怖がりようなら渡らせてしまえばもう逃げ道もないだろう。 「賭けの事は、忘れてねえよな?」 「お、おうよ。俺はあ、あいつらとは肝っ玉が違うんだよ」 「見ました?あれだけ暴れても大丈夫なんですから、楽しく渡りましょう♪」(ぎゅ) 「へ、へへへ。た、楽しくて思わず歌でも口ずさんでしまいそうでさぁ」 慄罹が先日の約束を持ち出したり、愛弓が手を繋いだりと手助けはするが、それでも四人ほどは自分の意思で橋を渡る努力をする。 「はっはっはぁ!少しはクソ度胸がついてきたみてぇじゃねえか!」 「そうだな‥‥会敵までには残りももう少し肝が据わるといいのだが」 最後尾から見守る義忠と梓馬から見ても、一度放り込まれた絶望の中で必死に這い上がる努力をしている隊士がいるのはわかる。この大事な一歩を踏み出そうとしている彼らを男伊達にしてやらねばならない。 ●仏桟道 コ‥‥ヒュウゥウ。カラ‥‥カラ‥‥カラ‥‥ 「喉が詰まったまま息をしたような音だな‥‥」 この桟道を抜ける風の音は聞いている側も息苦しくなる。そして岩の転がる音は頭蓋骨の転がるような軽い音を立てる。全てが抹香臭いこの桟道は旅人に嫌われる道の一つだ。 「ああ、嫌だぁ‥‥ここを通ると、仏さんのお迎えが三年早まるって噂が‥‥」 「絵の中の仏様が動いて崖に突き落とそうとするって話が‥‥」 「どこでそんな噂話を仕入れてきてるんだ?」 兎も角、ここも無理にでも進ませねばならない。 「ほらほら、早く進まないと後ろからせっつくぜ」 「観念しな。ここまで来たら退いても地獄だけだ」 慄罹と銀丞が後ろからせっつく。 ここでもまた、積極的に進む隊士は餌で釣る。 「ごめんなさい、何度もご迷惑を‥‥」 「い、いやいや!朧さんの為なら!俺の肩ぐらいいくらでも!はは‥‥ははは!」 「朧に肩を貸す権利」は愛弓と手を繋ぐのと並んで見得を張りたがる隊士には効果覿面だ。 「あ、る、こー♪あ、る、‥‥ん?なぁにー?」 遠足気分で軽やかに歩くアムシアに視線が集まる。隊士も開拓者も色々過去があるし深くは詮索しない主義だが、改めてみるとその覆面はもの凄く印象が強い。 しかも本人の天真爛漫な性格・言動とのギャップがまた凄い。 だが、幸いな事に彼女の印象が壁面の仏画を完全に喰っている。怪談話も忘れ、気が抜けて抵抗の無い隊士達をこれ幸いと押し進める。 目的地まで、もう少しだ。 ●鬼犬の待つ地 鬼犬の巣に辿り着くと、臭いで気付いていたか素早くケモノ達は迎撃態勢に入る。一方で開拓者達も素早く構えるものの、隊士達は殆ど棒立ち状態だった。 「ちっ‥‥!」 梓馬が舌打ちする。竦みはある程度予想していた一方で、道中の態度から楽観が生まれていたかもしれない。 しかしやはり、生まれて初めて自分に真っ直ぐ向けられた殺意に晒された隊士達は、これまでの意気地もどこかに吹き飛んでしまったように見えた。 「命を投げ出せとは言わん。だが、何もしない内から諦めたり逃げる奴は救えんぞ」 「お前ら、ちゃんと昨日教えた陣形での動きを忘れるなよ!」 「‥‥」 梓馬の発破や義忠の指示にも声を出す余裕すらなくしている。 「‥‥仕方ない。ひよっこ共がこなれるまでは私達が防戦するぞ」 銀丞がスラリと太刀を抜く。先に開拓者が数を半減させてしまうとまた甘えが出る。まずは隊士が槍をつけられるようにしてやらねば‥‥。 鬼犬たちもバカではない。直感で敵の弱い部分、即ち義兵隊士を見抜くと、唸り声を上げながら噛み付く仕草を見せる。 「ヒッ!あ‥‥」 カラン。思わず槍を落としてしまった隊士が、迂闊にも槍を拾おうとかがみこむ。 この絶好の隙を見逃すはずも無く、ケモノ達が一斉に襲い掛かる。 「ばっか野郎!戦の時には武器は命綱だろうが!」 義忠が咆えながら隊士の前に立塞がり、鬼犬の攻撃を受け止める。 「こっちも引き受ける!霞、慄罹、前に出ながら連中に陣を整えさせろ!」 銀丞も咆哮を響かせ前に進む。普段なら引き付けた相手を仕留めるまで然程かからないが、今回は喉が枯れる前にケモノが果たして全滅しているか、不安ではある。 「何とか突破口を見つけないことにはな‥‥」 鬼犬の動きを弓矢で牽制しながら梓馬がもらす。隊士達も何とか得物を動かす努力はするようになったが、竦んだままの動きではやはり実戦で有効な打撃にはならない。 「じゃあ、少し考えてみたんですがこんなのはどうでしょう♪」 「よしお前ら、今だ!といった瞬間得物で思いっきり突けよ。目はいっそ閉じてしまってもいいからな」 愛弓の提案は敵を引き付ける、止めを刺しやすくするといった事ではなく、義兵隊士の武器の切っ先に敵を動かすというもの。 無茶といえば無茶だが、ただ見守るよりも開拓者達で状況を操りやすい。 「よし、じゃあ俺達は回り込む。ティレット、上手く頼むぜ!」 「うん、まかせてー」 慄罹達の隊は大きく迂回するようにケモノの群れの側面に回る。咆哮のお陰で即座に反応してくる事も無い。 「いく、よー‥‥ふぁいあ!」 アムシアの火遁の炎は一瞬のものだが、鬼犬の慎重な戦い方を崩す脅かしとしては十分な効果があった。 狂乱した数匹の鬼犬が正面の義忠、銀丞に飛び掛る。その軌道を見極めると二人は身をかわす。 「よぉし、今だ!!」 ザシュッ 彼らの刃が一閃し、二匹の犬が両断され、そのままべチャリと地面に落ちる。そして飛び掛った犬のうち、残りの二匹は‥‥ 「ひ‥‥ひえぇええええ!」 真っ直ぐ突き出してあった隊士の槍や刀の刃先に自分から飛び込む形で貫通されていた。先程怒鳴られた手前、得物を落としこそしなかったが重みに耐えれず、また返り血に驚いて腰を抜かしたかそのまま尻餅をつくようにへたり込む。 「正面が綺麗に片付いたな‥‥お前ら二人はそいつを引っこ抜いておきな。残りは私達と一緒に次にいくぞ!」 「待ってください‥‥その前に治療を」 朧による治療が行われる間は、動転した隊士が気を落ち着ける余裕を与える。朧は最後に精一杯の笑顔で彼らを送り出す。 「頑張ってください‥‥皆様なら、きっと成し遂げれるはずです」 「落ち着いて、練習を思い出してください♪」 「がん、ばれー」 愛弓やアムシアの応援の中、梓馬が俊速の射術で機動性を殺している最後の一匹へと開拓者と隊士達が近づく。 「もう技や振り方なんて関係無い。要るのはお前さんたちの度胸だけだ」 既に刀を納め、煙管に火をつけた銀丞が隊士達を見て言う。 「さ、あの暴れ犬に肝っ玉見せ付けてやりな!」 「う、うぉおおおおお!!」 誰の上げた叫びが最初か、誰の突き出した刃が先かはわからない。 隊士達は自分達の役割を、見事果たした。 ●学んだもの 「な!昨日より断然美味いだろ、本気で頑張った後の飯は。これが楽しみで俺は生きてるようなもんだぜ」 「はっはぁ!悪ぃな隊長さん、俺らまで飲み食いさせてもらってよ!」 開拓者と一緒に帰ってきた隊士を出迎えた悠斎は彼らの健闘を称えて酒と飯を用意すると伝えた。 すると、隊士達は自分達への祝宴なら、是非とも開拓者達にも席を用意して欲しいと言ったのだ。自分たちだけでは無理だった、彼らのおかげでできたのだと。悠斎は笑って頷くと、すぐに宴席へと十八人を案内した。 「いやいや、お疲れ様。怪我とか大丈夫かい?」 梓馬と朧の間にひょいと入ってきた悠斎が徳利を振りながら言う。お猪口を差し出しながら朧が笑顔で返す。 「ええ‥‥隊士の方々に守っていただきましたから」 「はっはっは。あいつらに言っちゃダメだよ、本気にしちゃうから」 「しかし悠斎、あんたも中々人が悪いな」 続いて盃に注いでもらいつつ梓馬が悠斎を見据える。 「この手際の良さ。初めから俺達を招く腹積もりだったのだろう?」 「あぁ、大丈夫。一応失敗した時や、あと変に調子に乗っちゃってたら呼ばないつもりだったから」 「なるほど、彼らを褒め過ぎなかったのは分限を忘れさせぬ為か」 実力以上の自信は、怯えすぎて萎縮する事と同じくらい身を滅ぼす元になる。なまじ積極的な分、より危険ともいえる。 ふむ、と感心して梓馬が頭を上げるとそこに悠斎の姿は既に無かった。 「よぉ〜しお前ら愛弓ちゃんとアムシアちゃんに裸踊りをお見せしろ、隊長命令だぞ〜」 「あはは、隊長さんったら性質の悪い酔っ払いになってますよ♪」 「わー、パチパチ‥‥♪」 「いや待てアムシア、そこは拍手するとこじゃねえぞ」 「‥‥俺の気のせいだったか?」 盃に映る眉根をしかめた自分の姿を確認した後、梓馬は疑問と一緒に酒を一息に飲み干した。 |