ご主人様、流されました
マスター名:からた狐
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/07/12 19:45



■オープニング本文

 開拓者ギルドにて依頼が出された。
「山におばあさまが住んでいるのですが、最近その辺りで狼が出るという話を聞いたのです。そんな所にお一人で暮らしているなんて心配です。でも家族は誰も忙しくて今動けない状態です。お願いです、代わりに様子を見てきてくれませんか?」
 という依頼者の話を受けて、開拓者たちは現場の山に向かった。
 さほど大きくない山で、居場所も分かっている。狼は怖いが、たんなる動物でケモノですらない。油断しなければ恐ろしくも無い。遠足気分で相棒たちもつれてのんびりと向かう事となった。
 行く途中に渓谷があり、つり橋がかかっていた。
 揺れるつり橋をまずは体重が軽い相棒が渡って強度を確かめ、続いて橋が大丈夫な内にと重い相棒を渡し、最後に開拓者が渡ろうとしたのだが。
 彼らにふと影が差し込んだ。見上げれば、巨大な姿が見える。
 炎龍だ。野生なのか、誰かの相棒なのかは分からない。何を考えているのか、開拓者たちの頭上を旋回していたかと思うと、いきなり爪を鋭くし、攻撃の姿勢を取った。
「やるか!?」
「足場が悪い。まずは渡りきるぞ!」
 不意の戦闘に顔を引き攣らせて開拓者たちは、つり橋を走りぬけようとした。
 その様子は、渡りきっていた相棒たちにもはっきりと見えていた。

――ご主人様、ピンチです!! 

 窮地とあらば駆けつけねばならない、とばかりに相棒たちは一斉に主人の元に向かおうとした。
 その結果。
 つり橋からぶちっという嫌な音が響いて、大きく揺れた。重量超過、という奴だ。
 相棒たちがしまったと引き返すが、時すでに遅し。
 岸に近かった相棒たちは無事にたどり着いたが、形振り構わず駆け出した開拓者たちはその走りが起こす揺れでさらにつり橋の軋みを大きくさせる。けれども走らねば、岸にたどり着けない。いや、走っても届かない。
 そして、一本が切れると後は速かった。たちまちつり橋は崩壊し、開拓者たちは投げ出される。
「あほかあああああああ!!」
 単純な罵声は尾を引いて谷底へと落ち、あっという間に水音が上がりご主人たちは流されていった。
 あっという間の出来事、相棒たちも呆然と見ているしかなかった。
 ふと顔を上げれば、諸悪の根源炎龍も何か気まずそうにしていた。そのまま上昇するとふいっとどこかに去ってしまう。本当に何がどうしたかったのか。
(どうする?)
 相棒たちは、自然、目で確認しあう。
 ご主人たちの事だ。流れは急といえども、どこかで無事に上陸しているだろう。川の流れに沿って下れば、合流できるはず。
 だが、それにどれだけ時間を取られるか。
 開拓者一同が同じ地点に上陸していればいいが、ばらばらになってる可能性もある。それら全て集合するのを待たねばなるまい。さらに服を乾かすのにまた時間を取る。流された現場からここに戻るだけでもさらに時間を取り、そして
 ……その間ずっとヘマこいた叱責を聞かされる可能性がある。
 じっと……じっと目を見つめあう。その目が、残された荷物に向いた。

「これもおばあさまに届けてくれませんか? おばあさまの大好きな海魚の刺身なんです」

 依頼者に言われて託された品。たまたま相棒が持っていたので手元に残った。
 刺身である。今は夏である。氷で冷やしてあるが、今のままでは氷も解けてえらい事に!!
 そして、相棒たちの目がもう一度合わさった。
 
――よし、これを自分たちで届けよう!
――そして、橋落としたヘマをチャラにしてもらおう!

 その為にはさっさと届けに行かねば。ご主人様が戻ってくる前に!!


■参加者一覧
酒々井 統真(ia0893
19歳・男・泰
礼野 真夢紀(ia1144
10歳・女・巫
以心 伝助(ia9077
22歳・男・シ
エルディン・バウアー(ib0066
28歳・男・魔
久遠院 雪夜(ib0212
13歳・女・シ
プレシア・ベルティーニ(ib3541
18歳・女・陰
シーラ・シャトールノー(ib5285
17歳・女・騎
緋那岐(ib5664
17歳・男・陰


■リプレイ本文

 太い音を上げて、つり橋は切れた。
「ちょ……ま……!!」
「わほ〜い♪」
 支えを失った橋は奇妙にねじれて、足場としての機能を失う。失われれば、当然上にいた者は渓谷に落ちるだけ。
 落ちた先には川があり、大きな音を人数分だけ立てると、後はすぐに静かになった。
 残ったのは無残な橋の残骸。そして、岸を渡りきった相棒たちとその荷物。
「……。ゆ……、雪夜が雪夜が雪夜が雪夜が! どうするのだどうするのだどうするのだーーっ!」
 落ちた開拓者たちは浮かんでこない。誰一人も。
 主である久遠院 雪夜(ib0212)も当然姿を見せず、羽妖精の姫鶴は大混乱。小さな体で最大限に右往左往と飛びまわる。
 浮かんでこないなら川に流されたのだろう。流れは結構速そう。
 使い物にならなくなった橋に舞い降りると、迅鷹のケルブは水面に目を向ける。エルディン・バウアー(ib0066)も当然いない。
 他の相棒たちとは違い、ケルブは空を飛べる。同化で飛行能力を与えられる。
 十分主を助けられたと責められそうだが。
(しょうがないわよ。そんな暇もなく、あっという間に流されちゃったんだから)
 そう言わんばかりの気まずさで、ふいっと水面から目を背けると、そのまま遠い目を川下に向ける。
「クーン」
 以心 伝助(ia9077)の忍犬・柴丸もがっかりと肩を落とし、不安そうに尻尾を揺らす。
 遠く遠くまで流れ行く川。どこまで行ったか、からくりの菊浬(ククリ)は、主であり緋那岐(ib5664)を思って項垂れる。
「置いていかれた……」
 ただ何を思ったのかはよく分からない。
 流れに消えたプレシア・ベルティーニ(ib3541)に、からくりのアルヴィトルも残念そうにその硬い顔を俯かせていた。
「おやおや、水遊びをするなら水着に着替えましょうと伝えましたのに……」
「雪夜も水着に着替えてないぞー! え、まずいの? どうすればいいのだ!?」
「そうですね。落ち着く、というのが先決だと考えます」
 アルヴィトルのささやき。姫鶴がさらに顔色を青くしたのを見て、酒々井 統真(ia0893)のからくり・桔梗が宥める。
 そして、じっくりと渓谷の高さと川の全容を見つめ、分析をする。
「主様ならあの程度の落下は無事と判断します」
「そうよね。うん、シーラもドジなんだから」
 桔梗の判断に、シーラ・シャトールノー(ib5285)のからくり・アンフェルネも当然と乗っかる。
 からくり二体にそう言われて、改めて相棒たちは状況を確認する。
 付き合いの長さはそれぞれだが、自分の主の事は概ね分かっている。確かにこの程度でどうにかなる人たちではない。
 しかし、それで一安心もできない。主たちはきっと無事と判断した。では、次にどうするかだ。
「……まゆき、かわにながされちゃった。きっと、このはしがふるかったの。きっとそう」
 だから自分は悪く無いもん、と猫又の小雪は残骸と化した橋をぺたぺた前脚で叩く。おかげで礼野 真夢紀(ia1144)と一緒にお仕事する筈が取り残されてしまった。がっかりである。
「そうか。古かったんだね。それじゃ仕方ないね」
 菊浬も素直に頷く。その古い橋を揺れて軋むのが楽しいのか、飛び跳ねながら渡っていたのは彼女だが、それと橋が落ちた因果関係は不明だ。少なくとも彼女には。
「そうね。橋が古いのが悪いのよ。ま、シーラたちなら自分の事は何とかするわよ。その間にお勤めをサッサとすませようよ。それから助けに行けばよろしかな」
 何となく棒読み口調で、それでいて早口で。せかすアンフェルネに、それは大変と小雪が耳と尻尾を立てた。
「『今日も暑いから氷早く解けちゃうかも』って、まゆき、いってた。まゆきいたら、こおりつくってくれるけど、もどってくるのまってたら、おさかな、だめになっちゃう!!」
 お婆さんに届ける海魚の刺身。刺身なので、鮮度が命。お届け時間も計算して氷は用意した。途中で溶けても氷霊結でまた作れると暢気に構えていたが、その使い手も流され、いない。
 真白の手を振り上げて説明する小雪に、何体の相棒が言い事を聞いたと目を光らせたか。
「そうですね。あまり緊急な様子でもありませんでしたし、とにかく先に仕事を片付けましょう」
「ワン! ワンワン!!」
 のんびりと状況を捉えているアルヴィトルに、仕事は大事と柴丸も吠え立てる。
 幸い荷物は無事で、行き先も道順も分かっている。
 その意見に乗っ取って、仕事を優先する事にした。
 仕事をするとなると、それ急げとばかりに相棒たちは動き出した。
「まってぇ、おいていかないでくださいのぉ」
 動くとなると、概ね人の大きさはあるからくりの歩幅に、迅鷹の飛翔、羽妖精の浮遊。子猫の大きさで歩く小雪はつい遅れがちになる。普段から運んでもらう事が多いので、歩き慣れてもいない様子。
「ワンワン」
 そんな小雪のそばに、柴丸は駆け寄るとすっと背中を向けて座った。
「のせてくれるの?」
「ワン!」
 小首を傾げる小雪に、柴丸は高く鳴いて尻尾を振る。それでは遠慮無くと小雪が背に飛び乗る。柴丸は振り落とさないような速度で、皆と歩調を合わせて歩き出した。


 お婆さんの居場所は山の中というが、どうやら道からもやや外れ、獣道だかなんだか分からない場所を行かねばならないらしい。木々の目印も知らされていたので迷う事は無さそうではあるが、
 羽音を立てて、空を飛んでいたケルブが急に舞い降りてきた。
 何がと思う間もなく、柴丸もぴくりと耳を立てたかと思うと足を止めて唸りだす。
「ウウウウ……」
 緊張しているのは見て分かった。
 何に? それもすぐに知れた。
 近くの草が小さく揺れた。その影からのそりと狼が出てきた。はっとして他の相棒たちも立ち止まり、身を硬くした。その後方にも狼の姿。すっかり取り囲まれている。
 血に餓えたぎらついた目を相棒に見せている狼。からくりなど食べられはできないのに、その殺気は平等に向けられている。あるいはその手の中にある刺身が臭うのか。
 周囲を陣取られ、自然、中心に集まり出す相棒たち。
「で、出たのだー! ここ、こういう時は確か確か……そう、死んだフリをするんだーっ! ――って、それは熊っ!」
 わたわたと大慌てで姫鶴が騒ぎ、地面に寝てじっとしてみたり、また舞い上がったりと忙しい。
「落ち着いて下さい、ただの狼です。ケモノでもアヤカシでも無い。けして恐ろしい相手ではありません」
 右往左往する姫鶴の狐尻尾を、桔梗が捕まえる。
 むしろ、と空を見上げる。主たちを襲った炎龍。あれがどの程度鍛えられているかは分からないが、あちらの方が狼よりも手強い。再来されればまずい。
「狼にお刺身を取られるわけにはいかない。守る」
 大切な仕事の途中。失敗は許されない。菊浬は狼たちに身構える。
「荷物を取られないのが最優先。背中は誰かが守って。……なるべく殺したくないな」
 背中を預け合いながら、アンフェルネは相棒弓「白樺」を構える。だが、番える矢には少しためらいがある。
「前面に出ます。支援をお願いします」
 陰陽獣符を構えて、アルヴィトルがじりじりと間合いを詰める。狼たちも牙をむき出し、円を狭めてくる。
「みんな、おめめつむってー。めくらましのぴかってするからぁ」
 小雪は柴丸の背から飛び降りると、ごにょごにょと口の中で何かを唱え、前足を突き出した。
 眩い閃光が周囲を染めた。きゃん、と泣き声を上げた狼に向かい、即座に柴丸が飛びついた。咥えた忍犬苦無がすれ違い様に狼を切り、反撃を食らう前に近くの木を利用して上空に逃げると別の狼へと降りかかる。
 一歩も引かぬ態度は、狼も同じ。現れた十匹が交差して押し寄せようとするのをからくりたちは矢を引き、時には殴りつける。
 小雪もさらに鎌鼬に黒炎破と容赦ない。
「野生動物は火を恐れるっていうのだぞ。火で追っ払うのだぞ」
 姫鶴が手頃な枝葉を纏めて熾した火を振り回し、狼の鼻先を飛びまわる。
「追い払えばよいと思いましたが。しつこいですね」
 牙を剥く狼を躱すと、桔梗はその鼻先に混鉄棍をふり下ろす。
「キャウン!!」
 情け無い声を上げて、狼が大きく退く。けれど、まだまだ未練たらしく相棒たちをじっと窺っている。
 その様子を木の上から見ていたケルブ。どうも狼たちは腹を減らしているらしく、力量差に怯えながらも、折角の獲物を諦める気配は無い。
 ならば、適当な餌を上げればここは引いてくれるんじゃないかと、手頃な獲物がいないか見渡す。
「キーーー!!」
 そして、上空に見つけた存在に突如怒りの声を発した。真っ白の四枚翼がこれ以上無いほど広げられ、上空へと鋭く飛び立つ。そのあまりの剣幕に狼たちも身を震わせた。
 騒動で荒れる地上に、影が射した。ケルブの物ではない。それより大きい、翼を持つ猛々しい姿。――炎龍。
 つり橋に現れ、主人たちを襲ったあの龍に間違いない。
 狼たちはさすがにやばいとばかりに、尻尾を巻いて逃げ出す。他の相棒たちは、狼が退散した後も緊張が解けない。
 炎龍は大きく上空を旋回すると、一同目掛けて降り注ぐ!
「ダメです。これは渡せません!」
 刺身を持ったアンフェルネを庇い、アルヴィトルが龍を睨む。
 そんな事はお構い無しに間合いを詰めてきた龍だが、しかし、上空で体勢を崩した。ケルブだ。
(あなたのせいで神父様が、神父様がぁあああーー!!)
 涙なのか汗なのか。光る物を浮かべながら、ケルブは果敢に炎龍に挑む。挑みながらも時折離れて様子を見ながら、炎龍の出方を待つなどの余裕も見せる。
「空にいる間は手出ししかねますわ。あちらは任せて、今の内に……」
 今は刺身が大事と、桔梗は先を急ごうとした。
「ひーひっひっひ! 騒がしいと思えば、何ともおもしろい輩が迷いこんできたもんじゃあ」
 そこに今度は別の声が降りかかる。相棒たちではない。主たちでもない。勿論、狼や炎龍が喋るはずもない。
 声の主を探してみれば、一際高い木の上に新たな人影を見た。
「アラブルタカノポーーーーーーーズ! ――とぅ!!」
 太陽を背にして荒鷹陣を決めると、その人物はあっさりと木から飛び降り宙返りを決めて着地した。


 改めて目の前にした相手は、からくりたちより小柄で、けれど人間で。顔は布で隠していた。声の調子から見て、老婆のようだが……。
「からくりに、忍犬、迅鷹、猫又に、おや羽妖精もかい。誰かの相棒のようだけど、ご主人はどうしたい? まぁいいさ。なおさら好都合だねぇ。ちょっくら手合わせしてもらうよ!!」
 一方的に喋ると、相手は地を蹴り一気に相棒たちへと間合いを詰めた。固める拳は強く、その気迫は殺気に近い。
「待つのだぞ! もしかして、あなたは」
「問答無用だよ! 必殺、千年の拳――!!」
「げふぅ!!」
 姫鶴が止めに入るが、老婆の謎の掛け声と共に繰り出された拳でふっ飛ばされる。
 その様子を空から見ていたケルブは驚く。新手のアヤカシか。しかし、炎龍はしつこく付き纏っている。ここは地上にいる彼らに任せて振舞うしかないと、炎龍に鋭い爪を立てる。
「ワン、クゥーン?」
 柴丸も大いに戸惑っている。なんとなく依頼人と似た匂いがする気がするが、だとすればどういう事か。
 こんな山中、早々人と出会うとは思えない。ならばやはりお届け先のお婆さんだろうが、ならば何故攻撃してくるのか。
 訳が分からないので反撃もできず。必死に躱すが、しかしお婆さんの動きも機敏で、さっと回った足に脚をとられてすっ転ぶ。
「えっと、稽古? それじゃあ」
 謎の覆面老婆に興味津々の菊浬。そう結論付けると、自ら進み出、固めた拳をぶつける。
「ほ! そうこなくちゃあねぇ!」
 老婆は軽く喜ぶと、しかし、その繰り出した拳を簡単に捕まえた。そのまま捻り上げると、くるりと菊浬が輪を描いて地面に倒される。
「くっ、これ以上の失態を重ねる訳にはまいりませんわ」
 こうして老婆に構っている間にも、刺身の氷はどんどん溶けている。アンフェルネの持つ皿からは水が滴り落ちている。
 長引けば刺身の鮮度が落ちる。もし、腐りでもしたら運んだ開拓者の――つまりは主たちの失態となってしまう。それは橋を落とした以上に避けたい事項だ。
 桔梗は制限解除すると、機闘術で老婆に挑む。とにかく、動きを止めて話を聞いてもらわねば。
「ほぅ、やるねぇ。けれど、まだまだ!」
 鋭く棍を繰り出す桔梗だが、老婆はそれを躱し確実に拳を入れ続けている。
 数は勝る相棒だが、経験の少ない者も多い。地の利もある奇怪な老婆に翻弄され、困惑していたが、
「待つのだぞー! 姫たちは依頼でこの山にいるお婆さんの様子を見に来たのだぞ。手土産に海魚の刺身もあるのだぞ!」
 ふらふらになりながら必死に姫鶴が訴える。
「何、刺身とな」
「氷が持たないので、早く食べないと傷んじゃうんだぞ」
「ひっひ。そういう事ならさっさと言えばよかったのに」
 呆れた口調で覆面を脱ぐ老婆。その顔は確かに依頼人の面影がある。
「……何だか思った以上に苦労し、それ以上に脱力感が」
 深々と息を吐きながら、桔梗ががっくりと肩を落とす。
 言うも何も、問答無用で襲ってきたのはそっちじゃないか。そう言う気力も殺げるほどどっと疲れが押し寄せる。
 無事に刺身を渡すと、一服すればいいという老婆の申し出を断り、相棒たちは早々と帰路に着く。
 主人たちが川に流された事を話し、周辺の地図を描いてもらう。 
「ほぉ、そんな事が。こら、お前。責任とって、川沿いに探しておいで!」
 舞い降りた炎龍は、老婆に叱咤されてすまなそうに空に向かう。
「悪い奴ではないが、ここにいると暇なのか、悪戯ばかりでのぉ」
「そういえば、お婆さんもここでどう過ごされているのかしら。狼たちが餓えているのって、もしかしたらお婆さんが原因? だったら一定期間で狩場を変える等して、本来の住民たちにも配慮してもらえないかしら」
 襲われた狼たちとてそうなると被害者。かといって人を襲うようでは困る。
 アンフェルネの提案に、老婆がすぐに頷く。
「そうじゃの。奥にはもっと強者がいそうじゃし、そろそろ場所を変えてもよいな。ひっひっひ」
 なにやら妙な考えを抱いた様子。しかし、そこまで面倒は見切れ無い。とりあえず元気だったとは伝えられよう。


 相棒たちが落ちた所から川沿いに降っていけば、無事に主人たちを発見した。
「おぉーい。助けに来てくれませんかぁ」
 川にぷかぷか浮かぶエルディンを見つけて、ケルブは上空から何やら冷ややかな目を落とす。しょうがないなと言わんばかりの態度で、けれど迅速にエルディンに同化。友なる翼で陸地を目指す。
「あっ、あーちゃんだぁ♪ やほ〜☆」
「水遊びをする時は、ちゃんと着替えてからですよ?」
 着物のまま浅瀬で泳いでいたプレシアに、アルヴィトルはおっとりと嗜める。もっとも故意ではなく事故で落ちたと分かると慌てて心配し始めていた。
「やはりご無事でしたか。任務は無事に果たしました。……それと申し訳ありませんでした」
 主人を見つけて、ほっとする桔梗。すまなそうに頭を下げるが、それには統真の方が困ったように顔をしかめた。
「仕方が無い。軽い依頼と侮った判断ミスだ。刺身が腐るのは困るからな」
 よくやったと桔梗の頭を撫でる。
「ごめんさ……い……」
「いいさ、無事でよかったよ。……ただこれからつり橋は静かに渡ってほしい」
 しょぼくれる菊浬に、緋那岐はほっとするが。それも束の間、盛大なくしゃみを上げる。寒そうに震えた主人を、菊浬は両手広げて強く抱きしめていた。
「はぁ、何だか分からない内に川泳ぎをさせられて、いつの間にか依頼も完了してて。ほっとしたらお腹すいたわね。お菓子でも作ろうか。……手伝え」
「了解。怪我は無いのね」
 軽く睨みつけてくるシーラに、アンフェルネも当然とばかりに頷いて従った。
「お菓子を作るなら手伝おうか」
 お菓子作りを趣味にしている雪夜が申し出る。その頭上には姫鶴の姿が。
「やっぱりここが一番落ち着くんだぞっ♪」
 だらりと四肢を伸ばし、すっかりご満悦に寛いでいる。
「おなかすいたのぉ。おさかな、いいにおい」
「話聞いたわよ、御苦労様」
 魚を焼く匂いにつられてふらふら火による小雪を、真夢紀はそっと抱き上げる。ほぐした魚を差し出すと、美味しそうに食べ始める。
「ワンワン」
「ああ、お仕事頑張ってくれたっすね。ありがとう」
 千切れんばかりに尻尾を振って飛びついてくる柴丸を、伝助はにこやかに褒める。橋から落とされた事は今から叱っても仕方が無いと諦めている。
 何だかんだで、主人たちは相棒たちに甘いようだ。