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■オープニング本文 新天地求めて遺跡探索に世が湧く天儀の世界。 そんなの全く気にせず、乙女達は騒ぐ。 ● 「進化しようと思うもふ」 机に顎をつけて、ぼへーとしていたもふらが唐突に口を開いた。 「‥‥‥‥出来るの? マジ?」 「もふらさま、すごぉーい」 半信半疑な目を向けるハツコに対し、ミツコはきらきらと目を輝かせて身を乗り出す。 そんな二人の対応には気を止めず、もふらはごろーんと床に仰向けに転がる。 「なんか聞いた所によると、鯉が滝を昇りきるとものすごい力をつけて、龍に進化するそうなんだもふ。鯉に出来てもふらに出来ないはずが無いもふ。でも、すでに精霊力溢れるもふらが新たな力をたくさん付けるのはきっと危険もふ。だから、穏やかな水辺でゆっくり泳ぐもふ。でもお水はまだちょっと冷たいからお湯がいいもふ。そして、邪気が入らないように菖蒲を入れるもふ。甲冑を着た人にのぼりを立てて応援してもらうと楽しいもふ。のぼりは魚の形がいいもふ。運動するとお腹が空くので、御飯も用意するもふ。かしわ餅が食べたいもふ」 遊び道具の鞠を持って、伸びたり縮んだりしながら、淡々ともふらは告げる。 「そしたら、進化するんだね!? 分かった、はーちゃん、ギルドにごー!!」 「ちょっと待てミツコぉー!!」 気合一発。ハツコの手を取ると、彼女を引き釣り駆け出すミツコ。 その姿をのほほんと見送ると、もふらは一つ欠伸をしてそのまま寝始めた。 「という事情だから〜、菖蒲と柏餅を沢山用意して、甲冑姿で魚ののぼり立てて応援してくれる人を募集しようと思います。折角の進化の瞬間は皆も見たいよね〜」 「いやちょっと待て」 満面の笑顔でギルドに立つミツコに、受付は何ともいえぬ微妙な顔を作る。 そんな受付とまるっきり同じ表情をしていたハツコが、ミツコをひとまず横において聞こえぬよう密かな声を出す。 「‥‥で、本当にもふらさまって進化するの?」 「どう聞いても最後の一言を達成したい為の長い前振りだろ」 「あ、やっぱり」 ほっとしたようにハツコが胸を撫で下ろす。 「とはいえ、ミツコは全力で信じてるしねー。今、違うといってもまた面倒臭いし、お風呂はちょうど借りられそうだし。菖蒲湯で一緒に遊んで、ついでに柏餅を食べましょうという事で」 少し悩んだ後で、ハツコが手を打つ。 「内容的に、時期がずれてないか?」 「もふら時間で今なのよ」 のんびりと進んでます。 |
■参加者一覧
天津疾也(ia0019)
20歳・男・志
紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)
18歳・女・泰
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
赤マント(ia3521)
14歳・女・泰
ベル・ベル(ia9039)
15歳・女・シ
ティア・ユスティース(ib0353)
18歳・女・吟
日和(ib0532)
23歳・女・シ
レビィ・JS(ib2821)
22歳・女・泰 |
■リプレイ本文 もふらさまが進化する。 もたらされた衝撃の情報は瞬く間に開拓者たちの噂となってギルドを駆け抜けた!(一部誇張あり) 「もふらさまが進化するとは知らなかったね」 もたらされた話に、レビィ・JS(ib2821)は実直に感心する。 「‥‥え、もふらって進化するの?」 「それは是非見てみたいです〜」 驚きを隠せない柚乃(ia0638)と、純粋に好奇心を露わにしているベル・ベル(ia9039)もいる。 対して、紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)は、やや不審を顔にしている。 「もふ龍ちゃんはしないと思うって言ってるんだけど‥‥」 「でも、もふらさま自身が言ったんだもん。間違いないよ。きっと出身地とかで時期とか条件とかが違うんだよ」 「そうなのかなぁ?」 自身のもふらにも確認を取った紗耶香なのだが、ミツコは断固として進化を主張。輝く瞳で熱く語る。 「‥‥ああ、いたいけな乙女たちが騙されてる」 「ほな、教えてやりぃな」 「嫌よ。面白くないから」 「‥‥」 柱の陰でそっと涙するハツコに、天津疾也(ia0019)が小声で突っ込む。 コイが龍になるように。滝を登ればもふらも新たな形に生まれ変わるのか。 いやいや、ただ温泉に入ったぐらいで変われるのなら、世のもふらはとっくに進化してそうなもの。 当然、この話も裏がある。 もふらは単に菖蒲湯に浸かって柏餅を食べて、ついでに鎧甲冑を見て楽しみたいだけなのだ。 ‥‥一般的な端午からは外れているが、ま、月遅れで行う地方もあったり無かったりするので、別にいいだろー。 「まー、理屈こねて道楽したのはよう分かった」 分かった上で、疾也は付き合う気でいる。 「つうか、もふらが進化したらなんになるんやろな? 超もふらか」 「『モフラージ』になるとか?」 首を傾げる疾也の呟きを聞きつけ、柚乃もいろいろと考えてみる。 「ごっついもふらさま‥‥キリっとしたもふらさま‥‥。うーん、ちょっと嫌かも」 「そーぉ? みーちゃんは可愛いと思うんだけど」 「いや、絶対想像してる範疇違うでしょ」 何をどう考えたかは知らないが、眉間にきゅっと皺の寄った柚乃のに対し、頬を染めるミツコ。ハツコが苦笑いを浮かべる。 「もふらの進化‥‥か! きっと赤くなるんだと思うよ! そして、スピードが1.05倍程アップ!」 「何その微妙な速度差!?」 赤マント(ia3521)が期待を込めて告げる。 「そんな事は進化したら分かるだろう。それより早くその進化するもふらさまに会ってみたいな」 進化自体は興味無く。日和(ib0532)はもふら自身に興味を抱いている。 「そうだよね。話には聞いた事が菖蒲湯ってどんなお風呂なんだろう? 健康にいいって聞いたけど、お肌すべすべになるとか?」 ティア・ユスティース(ib0353)はお風呂に興味を向けていた。 「そんじゃま、とりあえず進化の場に行くとしましょうか」 どうなるか分かんないけどね。 そんな事を呟きつつ、ハツコはミツコを引っ張って、風呂場に案内する。 ● 借りたのは露天風呂。誰が来てもいいように、混浴で借りたのだが。 「眼福眼福」 「なんかやらしーわね」 鯉の幟と鎧姿でどっしりと構える疾也に、ハツコが目を細めて不審人物と睨む。 自分以外は女性(しかも若い)ともふらだけ。それを楽しまぬのも男して如何なものか。 番台のじーさんが羨ましそうに疾也を見てたりしてたが、とりあえず問題無い。 ちなみに脱衣所は当たり前だが男女別だった。 「でも、お風呂に水着って変だよねー?」 風呂ではあるが、裸の付き合いは風紀の問題で不許可。受付で渡された水着を着るが、その格好にミツコは首を傾げる。 「いろいろ事情があるのよ。なんならあんただけすっぽんぽんになる?」 ハツコに睨まれ、ミツコは疾也に目を向けた後で首を激しく横に振る。 「水着は締め付けられる感があるから苦手なんだが、仕方ないかな」 覚悟を決めて水着姿になったものの、やはり気になるようで。赤マントはそわそわと手直ししている。 「ちょっと胸元がきついですよ〜」 ベルは苦笑いで、胸を直す。借り物なのである程度サイズが合わないのは仕方が無い。 まぁ、風呂場ではあるが、裸ならぬ水着の美女ばかりではない。 レビィも疾也と同様にもふらの希望である甲冑姿でいるし、日和はもふらの気持ちになろうとまるごともふらを着込んでいる。 「えーと、この水着。布地が少なくありませんかぁ?」 紗耶香も自身の露出を気にして、少々落ち着かない。胸の辺りなど少ない布地がさらに押されて伸びて、非常にきわどい。 「平気ですよ。その分この菖蒲湯を堪能出来るじゃないですか」 ティアの水着はビキニ型。どうしても露出が多くなるが、それはわざと選んだもの。 「これが露天風呂‥‥そして菖蒲湯なんですね。広くて不思議な湯船‥‥そして清清しい若葉の良い香り」 湯に浮かぶ細い葉っぱの束。ただそれだけの物とも言えるが、ティアは感動を隠せない。 「本日はお集まりいただきありがとうもふ。では進化の儀を始めるもふ」 そんな中、今回の主役。進化する予定のもふら登場。 挨拶もそこそこに、打たせ湯で汚れを取ると、のそりのそりと湯船に入る。 「いい湯もふー。皆も入るもふー」 上機嫌。どこまでもマイペース。 ともあれ、お許しも出たので各々風呂を楽しむ事とする。 ● 「あ、結構浅いんですね〜」 露出を気にして早く隠れようと、早々と風呂に飛び込んだ紗耶香はちょっと驚く 「お風呂だもん。水着だからって泳ぐ場所じゃなくて浸かる所だから。飛び込んだりしたら怪我するわよ」 「だそうですよ〜」 連れてきた自身のもふらが前傾姿勢を見せており、紗耶香は笑いかける。 「泳ぐのは駄目か」 「残念だね〜」 「泳ぐ気だったんかいっ」 がっかりする赤マントとミツコに、ハツコは行儀が悪いぞと釘を刺す。 「いや、こう広いとつい。だが、もふらの瞑想の邪魔になるなら控えておこうかな」 赤マントがもふらに目を向けると、相手は目を閉じ、じっとしている。 確かに何かに集中しているようにも見える。のだが、 「風呂を堪能してるようにしか見えへん。‥‥いつになったら進化するんやー?」 苦笑しながら、鯉の幟を振って疾也は茶々を入れる。 それにも構わず、静かに風呂に入っていたもふらさま。突然、かっと目を見開き、勢いこんで立ち上がる!!! 「え、何!? 進化し‥‥はやややっ!!」 驚いたベルが駆け寄ろうとし。途端にするっと水着の紐が解けるお約束っ☆ 「なんや! どうしたっ!!」 「ときちゃん、向こうに銭の山が!!」 「どこやっ!!」 「ほら、今の内に直すよ!」 慌てて湯船に隠れるベル。 訳が分からず目を丸くしていた疾也(←見逃したらしい)を、ミツコが適当に目を逸らせ、その隙に他の皆でベルの水着を直しにかかる。 そんな騒動に一切構わず。もふらはのそのそと風呂から上がる。 「お腹空いたもふ」 そして、用意されていた柏餅を美味しそうに食べだす。別に進化もしていない。 「美味しいですか? 食べたいって聞いたから、五十個ほど作ってきました。柏葉を手に入れるのがちょっと大変だったけど、味は大丈夫。最近餡子作りも極めてきて、もふ龍ちゃんにはお墨付きをもらったんですよ」 紗耶香が胸を張る。 「美味しいもふ〜。おや、ぼた餅もあるもふね」 「そっちは僕だよ。柏餅もいいけど、おはぎもね! 徹底して赤い力を身体に取り込むのです!」 断言して赤マントがそちらも勧める。別に拘りは無いのか、もふらはそちらも頬張り出す。 のんびりと十分に堪能すると、またお風呂に戻るもふら。 そのまままたじっと湯船に浸かりだす。 「はやや、進化しないですね〜」 「もふらさまだから、のんびりなんだね〜」 餅を食べながらベルとミツコが温かい目で見守る。 「でも、そろそろ早くしてくれないと‥‥。暑い‥‥、まるもふ暑い」 「熱気もだが‥‥湿気も結構ある。さすがは風呂」 「‥‥脱げば?」 そして、風呂に入らず見守っていた二人がバテている。ハツコの忠告に、レビィは頷き、日和は断りを入れる。 「いいや。せっかくの進化だから、もふらの気持ちになってみようと思っての事だ。これしきでくじけられぬ」 にっこりと真面目に答えて、愛情たっぷりにもふらを見つめる日和。だが、汗はだらだら流れてるし、目も何となく虚ろ。 せめて水分補給は大事にと赤マントが水を差し出す。 「脱いでみたが‥‥まだ暑いな」 「‥‥いっそ受付で、水着借りてくれば?」 甲冑を脱いだレビィだが、下はコートにジャケットにセーター。むしろ今まで良くがんばった。 そして、水着を借りに一旦脱衣所に戻ったレビィだったが、 「どうしたんだい? 変な顔して」 「もういいわ」 現れた時は、水着に何故かコート姿。手を振るハツコを怪訝そうに見た後、涼しい顔で幟を持ち直し、もふらを見守る。 「俺も風呂と餅を貰っとくか〜。甲冑姿と幟は揃えておけばええやろ?」 「いいもふよ〜」 心地いいのか、上機嫌になっているもふらが好返事。 疾也も甲冑を脱いで水着になると、まずは餅で糖分補給。それから、風呂で汗と疲れを落としだす。 「のんびり出来るのはいいけれど、さすがにのぼせてきたかなぁ。でも、せっかくの付き合いだもん」 長い髪は濡れないように高く纏めあげ。首までとっぷり浸かった柚乃は、赤らんできた顔を仰ぐ。 「気負わずに楽しむのが一番ですよ。もふら様がゆるりと力を蓄える間、私達も穏やかに過ごしませんか? ‥‥もふらさまのお邪魔にならないのでしたら、心が落ち着くように笛の演奏などしたいのですが?」 「いいもふよー」 器用に頭に手ぬぐいを乗っけたもふらが答える。 ティアは一旦上がると、横笛を取りに戻る。 火照った体が湯冷めしないよう、大きな布を巻き付けると、湯船に足だけを漬けて演奏を始める。 緩やかで穏やかな旋律が、開放された空間に広がっていく。 ● 「進化したもふ」 そして、唐突にもふらは告げる。 ゆっくりと湯船から上がると、含んだ水を振るい飛ばし、そこらにあった拭き布を手当たり次第集めると、その上でごろんごろんと寝そべる。 「‥‥冷たい牛乳が飲みたいもふ」 「え? 分かった。貰ってくるよ〜」 若干濡れたまますっくと立ち上げり告げるもふらに、紗耶香が慌てて用意する。 「しかし、進化は‥‥したか? どっちでもいいけど」 牛乳を美味しそうに飲むもふらをあちこちから眺め、じっくりと日和は詰め寄る。 「したもふ! 毛が艶やかになって、お腹もちょっと丸くなったもふ」 ぷはーっと大きく息をつくと、威厳を持って胸張るもふら。 「‥‥通訳お願い」 「風呂に入ってさっぱりした上に、餅食ってお腹も脹れて十分堪能したって事やろ。ま、そう簡単に進化なんてせーへんわな」 痛そうに頭を押さえるハツコに、疾也が苦笑いで率直な現状を伝える。 「え゛っそうなのか!? ‥‥あぁいや、うん。わ、わたしも勿論そうだと思ってたよ。そんな進化なんて、は、ははははは‥‥」 衝撃の事実に、激しく動揺するレビィだが。皆がいる手前、何でもない風を装い必死に取り繕う。 「‥‥なんだ、つまんないの」 残念そうに肩を落とす柚乃だが、こちらはすぐに気を取り直す。 「いやいや、ほらヘアースタイルが違っているだろう。‥‥言い出したからには、ちょっとくらい進化っぽくしとかないとな」 日和はもふらに抱きつきもふもふを堪能しながら、ドサクサに紛れて頭の毛を撫でて微妙に変えていく。 「そうだな。ほらほら、ここん所の色も変わってるし。進化の結果だな」 疾也も染料を取り出すと、それとなくもふらの毛を染める。 「そんな事をしなくても大丈夫もふ。もふらは精霊力の固まりもふ。いきなり進化したら精霊力が暴走して危険もふ。だから、進化も順を追ってゆっくりもふ」 したり顔で告げるもふら。 「はやや〜。じゃあ、もっといろんな事をやって頑張ればきっと進化するですよ! 頑張るですよ!」 目を輝かせてベルは素直に応援する。 「そうですね。では、応援を込めて一曲。もふらさまの進化お披露目で吹こうと思ってたのですが、機を逸してしまったのもので」 微笑むと、ティアは勇壮な曲を奏で出す。 「ありがとうもふ! 頑張るもふ! さしあたって次は夏の暑い日に、涼しい川の側できんきんに冷えた氷とスイカを食べるもふ!!」 「えーかげんにせいっ!」 のほほんと告げるもふらに、どこからか取り出した疾也のハリセンが炸裂した。 「まぁ、あまり変化は無かったが心配無用。これが進化したもふらさまだ。赤くなってちゃんと速度も出る」 「ありがとうもふ」 赤マントがもふらに赤いマントを羽織らせる。そのまま帰宅の途に着いたもふらさまの足取りは、確かに1.05倍くらい軽くなったような気もする。‥‥あれだけ温泉を堪能すれば当然か? かくて、進化の儀が終わり。依頼料を受け取って各々が帰宅に着く。 「やっぱり滝を登った方が良かったか‥‥。龍の元が魚とは知らなかったし、滝を眺めていればせめてそっちの進化している所をみられるかな?」 「いや、それもただの噂というか伝説だし‥‥」 今日を振り返り、真剣に考え込むレビィに、どう声をかけたものやら。 世に純粋な人間がいる限り、もふらの幸せは続くだろう。 |