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■オープニング本文 暑い夏が終わろうとしている。 昼はまだまだ残暑が厳しく、蝉の声もうるさいものの。夜ともなればひやりと涼しく、虫の音の合唱を始めている。 今年の夏も忙しかった。 開拓者たちが一生懸命依頼をこなすかたわらで、相棒たちもいっぱい動いた。 海に行けば飛び込み、山に行けばやっほーと叫び。甘いスイカで笑顔の後は、氷で頭を痛くし。今日は花火だ、明日は祭りだと駆け回る。 「……だってご主人さま、かまってくれないんだもん。依頼にもつれていってくれないしー」 「うちもそうだよー。相棒依頼取ってきたと思ったら、他の子つれてくんだよー」 「在宅警備員は飽きたー。ご主人さま遊んでー」 顔を合わせた開拓者ギルドの片隅で。相棒たちが、うだうだと文句を垂れる。 夏の遊びは、粗方やりつくした。秋の味覚や風景を楽しむにはまだ早い。 ようするに、暇、なのだ。今もご主人は新しいアヤカシ依頼がないか確認中だし、もし興味のある依頼があればさっさと出て行っちゃうだろうし。 えーい、僕たち私たちをナンダと思っている。日常の荷物もちじゃないんだぞー。 などとぷんすか言い合っていると。 ふと誰かが呟いた。 「そういえば、おいら肝試しはまだやってないなー」 言った当人には他意など無い。単にそう思い出したから口にしただけ。 ただその一言に、他の面子がふと顔を見合わせる。 なにやら考え込んだ後、「それ使えるかもね」と、にんまり笑う。 ● 「招待状? 誰から?」 「いやまぁ、それはともかく。とにかく来てくれと泣いて頼まれてなぁ」 開拓者ギルドに顔を出した開拓者。係員から呼び止められると、一枚の板が渡された。 薄く切った板には、簡単な地図と日時が指定されている。どう見ても招待状だが、差出人の名前は無い。 気になって係員に詰め寄るも、相手の態度もどうもはっきりしない。 「この場所……郊外の廃寺か? もしやアヤカシが?」 「それはない。ないが、もし行かないなら怖い目にあいかねないな。ある意味、アヤカシ以上に」 「はぁ?」 思わせぶりな係員。何かを知っているのは確かだが、それは言ってくれそうに無い。 「とにかく、この日時にこの場所へ来るよう、くれぐれも念を押してくれと頼まれたんだ。準備があるから早く来るのはダメ。また、待つのが面倒なので遅れるのもダメ。……非常に怪しいと思うだろうが、これは守った方がいい。後が怖いぞ」 「はぁ……」 詳しく言ってくれないのに、ひたすら念を押してくる。親切なのか、なんなのか。 ともあれ、開拓者はじっくりとその招待状を見てみる。 日は数日後の夜。行き先は廃寺……だが、集合場所として廃寺前の空き地が指定されている。という事は、他にも誰か呼ばれているのか。 「……。武装していくのはあり?」 「いいんじゃないか? ただ、あまり派手にしてやるな。可哀想だから」 尋ねるも、係員はおざなりに手を振る。後は知らんとばかりに。 かなり胡散臭い。が、その態度を見る限り危険はなさそう……か? ● 謎の招待状を手に、開拓者がギルドでの用を済ますその一方で。 受付卓に座っていた係員が、こっそりと陰に語りかける。 「……。これでいいのか?」 どこに隠れていたか、顔を出してきた相棒たちがにんまりと笑う。 招待状を渡したのは、いずれもそこにいる相棒のご主人たち。 そうこれは彼らの企画なのだ。 曰く。 日頃構ってくれないなら、恨みつらみと愛を込めて、勝手に夏の思い出に肝試しを開催しちゃうぞ、との事だ。 もちろん、肝試しで驚かせる相手は自分たちのご主人。 「構ってくれないから、勝手に遊んじゃうぞー」 「僕らはご主人のこと、よーく見てるんだぞー」 「弱点だって分かってるんだぞー。怖いんだぞー」 嬉々としてどうやって驚かせようか楽しんでいる相棒たちを、係員は見る。 ご主人たちをこっそりと驚かせたいと、泣いて頼まれ、用意された招待状をとりあえず渡したが、さてこの後どうなるのやら。 (まぁ、あの辺り民家どころか人気も無いし。大暴れして寺が壊れても、取り潰す手間が失せたと喜ばれるだけだろうしな) 何かあっても彼ら自身の問題だ。ギルドは関係ない。 |
■参加者一覧
酒々井 統真(ia0893)
19歳・男・泰
喪越(ia1670)
33歳・男・陰
レビィ・JS(ib2821)
22歳・女・泰
弥十花緑(ib9750)
18歳・男・武 |
■リプレイ本文 ● 開拓者ギルドに開拓者が来るのは当たり前。 だが、そこで係員から伝言を渡されるのはちょっと珍しい。 首を傾げながら――あるいは都合よく解釈してうきうきになりながら――彼らは招待状を受け取った。 都の郊外にある山寺の前で。待ち合わせ時間に来て見れば、他の開拓者とも鉢合わせ。 「おや」 「あら」 「やあ」 日は暮れたが、まだ誰彼の判別はつく。酒々井 統真(ia0893)、レビィ・JS(ib2821)、弥十花緑(ib9750)は顔を合わせるが、その表情からして互いに事情が分かってないのはすぐに知れる。 「パッツンの金髪美女未亡人からと思えば、これも俺の色男ぶりが罪ってやつかね。だが、三人一緒というのはいただけないぜ。誘う時は俺だけを見てくれ、ベイベー」 「はぁ? この招待状を受け取ってきただけなんだけど」 独特の調子で話しかけてくる喪越(ia1670)に、レビィは目を丸くしている。 よく分からないが、とにかく、彼もこの事態を分かってないとは判断ついた。 「俺も同じだ。ギルドで渡されたんだが、差出人もない」 「だから、てっきりパッツン金髪美女未亡人のお誘いと思ったんだが……違ったか」 レビィ同じく招待状を見せた統真に、喪越は文字通りに肩を落とす。 「共通点のある人選とは思われへんし……。恨みを買ったとしたら、どこで買うたんやろな?」 花緑は首を傾げるが、それに対する答えはなかった。 「ギルドに遊ばれてると?」 「率先しているならもう少し隠すでしょ。係員の歯切れが悪さから、誰かに頼まれたと見るのは間違いないでしょうけどね」 統真が告げると、レビィも同じく首を傾げる。 さっぱり訳が分からない。 殺気は感じない。しかし、妙な雰囲気をそこはかとなく感じる。いったい、どういう罠が仕掛けられているのか……。 「悩んだって仕方ねぇ。進めばいいさ。悪い事してくるなら、その時チョメチョメしてやりゃいいのよ」 軽く笑うと、喪越は山寺に向かってまずは階段を上りだす。 悩んでいても仕方ない。ここで立ち尽くしていても、いまだ元気な薮蚊と戦うだけだ。 三人も、ひとまず寺に向けて動き出す。 その様子を陰から見ている者たちがいる。 「流石は我が主。実におめでたい思考回路をしていらっしゃいます」 褒めてるのか呆れているのか。見つめる眼差しは意志を持てど、硬質の煌きもまた持ち合わせる。 からくり。名は綾音といい、その主人は見つめる先にいる喪越である。 それ以外は人妖二体に、駿龍一体。いずれも集まった開拓者の相棒である。 「すっかり一緒にいる人妖も増えたから、待ってる間も退屈ってわけじゃないけど……でも、置いてかれる事が多くて納得してないのは変わらないんだからね」 じーっと葉の陰から、統真を睨みつけるルイ。 「我らのちから、みせるとき!」 小さな拳を作る灯心(とうしみ)。 慕っているのにどうも反応が薄い気がする。ここは一つはっきりさせねば。 その誓いを恐らく誰よりも強く感じているのは、駿龍のフユシグレか。誰よりも率先して動き、罠を仕掛けていた。人語は話せぬでも、なんだか心意気というか恨み節が伝わってくる。 「怒らせたら怖いって、とーまに分からせるの」 いや、それ以外の主人様にもだ! 不敵に笑うルイに、他の三名も似たような表情を浮かべていた。 ● 最初に道を外れたのは喪越だった。 「どこに行くんだ?」 「ちょっと野暮用〜♪ 着いてくんじゃねぇぞ。アディオスアミーゴ」 妙にうきうきと弾んだ足取りで、すっかり暗くなった山の中へと踏み込んで行ってしまう。 理由はよく分からない。どうしようか、と残された面々はしばし悩むも、先に進む事を選ぶ。 だが、しばらく進む内に統真もまた離れる。 「悪い。おれもちょっと……」 何に気を取られたか。首を傾げつつも、二人から離れてまた別方向の山の中へと飛び込んでいく。 残された二人で、山門を潜り境内を過ぎ、崩れた寺を見つめるが。その行く先に、奇妙なものが落ちていた。 蒟蒻である。 とりあえず、素通りするレビィ。暗くてよく分からなかったというのもあるかもしれない。 そうするうちにひとまず寺までたどり着く。さらに向こうには墓場跡らしい空き地も見えるが、そこまで行くべきなのか。 「どうしたらいいと思う……って、誰もいない!?」 判断つきかねて呼びかけるも、言葉は空を虚しく漂った。 一緒にいる筈の花緑もいつの間にやら姿を消している。花緑はついでと薬草探しもしていたので、はぐれたのを互いに気付かなかったか。 訳の分からない招待状からこのような事態に陥り、放置。さすがにどうしたものか、次の行動に悩むレビィ。 「ぎゃあああああああ!」 「あれは、喪越さん!?」 山の中から悲鳴が届く。聞き覚えのある声は、続く何かの爆発音だか、炸裂音だか、崩壊音だかに紛れてすぐに消えた。 何が起きたか。息を飲んだレビィの頭に、小石が当たる。 ふと見上げると、空から岩が降ってきていた。 「げ」 顔を引き攣らせて飛び退く。当たる位置ではなかったが、落下の衝撃で破片が飛び散る。 これは攻撃と見ていいのか。迷っていると、今度は木が滑り落ちてきた。それも当たる位置ではなかったが……。 「どういうつもり? やるならこっちにも相応の態度を取らせてもらうわよ」 臨戦態勢を整えながら、レビィは夜の闇に呼びかける。 その夜から、翼を広げて飛来する巨体が迫ってきた。速さからして駿龍に間違いない。 迎え撃つべく身構えたレビィだが、駿龍は目の前まで迫るとぶつかる寸前、華麗に上昇した。 野生の龍にしては動きが機敏。訓練を受けた騎龍と見ていいだろう。 とすると、下手に傷つけると厄介かもしれない。 迷った末に、レビィは境内を逃げにかかる。 けれども駿龍は、しつこく追ってくる。直接の攻撃は無いが、まるで何かの鬱憤を解消するかのように……。 ● 三人と別れた喪越は、ほいほいと気軽に山の中を進む。 その手にあるのは女物の下駄。そして帯。 最初に見つけたのは下駄だった。その時は、何故こんな所に? 誰かの忘れ物か? ぐらいは考えた。 しかし、その下駄に目を止めて、ふと見上げた先に木に帯がかかっている。さすがにそんな物を忘れる女はいない。 となれば、考えられる事は一つ! 三人と適当言って別れると、後はわき道を進むのみ! 行く手には着物や長襦袢が点々と落ちており、迷いようが無い。 さらには、肌着も落ちているとなれば、その次に来るのは女性自身か!? 「こ、これは……キターーーーーー!」 とりあえず、肌着も拾おうと駆け寄ると、足元で奇妙な感触があった。 何だ? と思う間もなく。地中に埋まっていた網が喪越を捕らえる。すくいあげられた喪越は、そのまま木のしなりにまかせて遠く投げられる。 「一丁上がりで御座います。此処からが修行の本番。ようこそ死の地雷原へ。どうぞ、心行くまで御堪能しやがり下さいませ」 木の陰で、深々と丁寧に綾音がお辞儀をする。 勿論、服を脱いだ女性などいるわけない。すべては、主の性格を見抜いた綾音の巧みな誘導だった。 「ぎゃあああああ!!」 夜の山中に、喪越の悲鳴が響く。続いて、爆発、炸裂、その他諸々。綾音が知力体力すべてを注ぎ込んで念入りに作り上げた罠の集合体。重い仕掛けはフユシグレが手伝ってくれたので一切手を抜かずにすんだ。 休む暇も無いほどの騒音が、喪越が消えた山中から轟き続ける。 「ちぃっ! しかし、この程度で俺様の熱いリビドーを止められると思うなよ!?」 まだ見ぬおねえさん(きっと美人)に思いを寄せて、喪越は死の罠を次々と踏破していく。 ● 別れた統真もまた別のモノを追っていた。 彼が山中に見つけたのは金の髪。 見え隠れするそれに誘われ、未整備の山を登り壊れた塀を乗り越えて境内に踏み込み……。 「うわ!」 途端、足元が沈んだ。落とし穴だ。 結構深い穴の底へと落ち、統真は身軽に着地した。 深いと言っても限度はある。登ろうと思えば登れる高さ。さてどうするかと穴の縁を仰ぎ見ると、空から何かが降って来た。 とっさに手で振り払うも、それは思うよりもずっと柔らかな感触で粘つき、手に張り付いた。 「な……っとう……?」 糸引く豆は嫌いな代物。手から落ちてもまだ粘ついているその感触に、さすがに顔をしかめる。 「これは一体、どういうつもりだ」 「ふふふふ。いっつも留守番させてる罰なのよ!」 穴の縁から、ひょいと顔を出すのは相棒のルイ。馴染んだ顔が自信たっぷりに胸を張っているのを、統真は複雑な表情で見つめる。 「……なんかよく分からないが、すまなかった」 「分かればいいのよ」 頭を下げる統真に、あっさりとルイも許す。 元々、さほど怒ってもいない。納得した所で、統真も穴から出る。 「ねぇねぇ。追ってきたのって、やっぱりこの髪を見たから? 誰かと間違えた?」 にやりと笑ってからかうルイに、統真は若干うろたえた様子を見せる。 「馬鹿言うな。体の大きさが全然違うだろ。見間違えたりしないさ。――ところで、さっきから聞こえる騒音もおまえの仕業か?」 「ううん、あれは別の子よ。フユシグレさんがいろいろ手伝ってくれたけど、基本的に悪戯は自分の主に対してのみだもの」 山の中から、境内から。何か崩れたりする音が響いている。一体何が起きているのか。今いる場所からはよく見えない。 何となく気になって統真は人妖にたずねる。 返って来た答えにしばし考えた後、統真はじっと這い出た落とし穴を見つめる。 「……。おまえもまるくなったよなぁ」 「当然でしょ」 なんだかしみじみと告げる統真に、ルイも大きく頷いていた。 ● どこで買ったか分からない恨みはとりあえず横に置き、花緑は道をたどりつつ、薬草探しにせいを出す。 もっとも、そうして辺りを見回しながら、不審な気配が無いかも気を配る。アヤカシやら賊やらに襲われても、この面子なら凌げる自信はあるが、無駄に痛い目を見る必要も無い。 朱雀錫杖を肩に担ぎながら、気の抜けた風情で夜の散歩を楽しんでもいたが、その足を不意に止めた。 (俺の数珠?) 草の影に、落ちている物。立ち止まって拾い上げると、どう見ても自分の物としか見えない。 さらに注意して周囲を探れば、水晶の賽子が詠草料紙「春霞」と一緒に置かれている。どちらも見覚えがある。 が、誰かにあげたとか落とした記憶は無し。ここにこうして見つける意味が分からない。 詠草料紙を拾い上げれば、書かれている文章は『さいころをもってまっすぐすすめ』。その文字も見覚えがある。多分ギルドの係員の文字だ。 態度からして、係員がこの件に一枚噛んでいるのは想像に難くない。とはいえ、その黒幕となると一体誰なのか。 レビィはこちらが立ち止まったのに気付かなかったよう。ひとまず、この指示従うかと、サイコロを振って歩き出す。 不信感は拭えない。ますます周囲に警戒しながら、花緑は境内に入った。 ふとその頭上に、布が落ちてくる。 慌てず騒がず、振り払った花緑だが。さらにその後から見知った顔が落ちてきた。 「おや」 流石に振り払わず、きちんと灯心を抱きとめる。 「う……うぬううううう。慌てもせずにのうのうと! わ、我はふまんだ! 花緑はわざとさけているだろう!?」 「は?」 腕の中で何やら暴れ出した人妖に、花緑は純粋な疑問を声に出す。 「たしかに、送り主のしれぬ人妖だが! だが、我の主は……っ!!」 灯心は怒る。怒りながら、何か泣きそうな顔をしている。 その顔をまじまじと見て。じっくりとさらに考え、花緑は素直に頭を下げた。 「ああ、ええと――なるほど。はい、はい。解らんとこもあるけど、言いたいのは解った……気ぃはする。登録もして腹括ったつもりやったけど、所詮つもりやった、と」 まだまだ疑問は多い。が、そもそもの行動の根源は見抜けた気がする。 灯心の目を見てはっきりと。花緑が告げる。 「お前の出自はよう知れん、とはいえ放り出さん。しっかり面倒見る。主として」 灯心はじっと聞き入っていた。聞き入り、何も答えず。ただ花緑の腕をぎゅっとつかむ。 「ところで、何で上から降ってきたん? 何しようとしてたんや?」 「蒟蒻を用意しようとして、うっかり落ちてしまったのだ」 花緑の疑問に、笑顔で灯心は答えるが……。 「蒟蒻? 弁当? 食いたいんか?」 「ちっがーう!」 主のぼけにまた怒り出す。 どうも意志の疎通が成り立つまでまだまだかかりそうだ。 ● 相棒と和解できても、他の開拓者を置いてさっさと帰宅するのも悪い。 合流目指して、花緑も統真も一旦寺を目指す。 「二人とも! と、人妖? 相棒? どうしたの?」 寺では駿龍がレビィを追い回していたが、統真たちが現れたと見るや、これで終わりとばかりに地上に降り立っている。 なんだかふんぞりかえって睨んでくる駿龍に注意しつつ、レビィは二人からこれまでの事情と呼ばれた理由を聞く。 「え、相棒が恨みを込めて肝試しを企画? ……え、と。あれ? じゃあ、あの龍って誰の相棒?」 話を聞いてもまだ分からないと。レビィは駿龍を指差して尋ねる。真顔で。 「ガハァッ!?」 「フユシグレさーーーーん」 途端に、血反吐を吐くような声を漏らして、駿龍が倒れた。 「フユシグレ? どこかで聞いたような?」 レビィの脳裏に何かが引っ掛かる。 「ギルドで係員が教えてくれたぞ。ずーっと龍舎に預けっぱなしだったそうだ」 「わなを作るのをてつだってくれたり、にもつもはこんでくれたり。……道がせまくてつっかえたり、小さなにもつがつかめなくて苦労してたけど」 そんなレビィを、人妖二人からも恨めしそうな視線が飛んでいる。 「龍舎……。え、……あ。あーーーっ! そういえば!!」 素っ頓狂な悲鳴をレビィが上げる。 開拓者は必ず龍を支給される。けれど、空にでもでなければあまり連れまわす機会が無い。さらにレビィはそれ以前から行動を共にしている忍犬がおり、相棒許可の出る依頼だと主にそちらを連れて行くので、きれいさっぱり忘れてしまっていた。 相棒として登録されているが一緒に動いた事は無く。それはフユシグレの行動にも出ていて、他の相棒たちが主の好物や苦手な品を巧みに利用して罠を仕掛けていたのに対し、駿龍はレビィの好みも何も分からないので、しょうがないから余ったこんにゃくを道に置き(そしてしっかり無視され)、追い回したぐらい。 素性が知れ、はっとして駿龍に振り向く。相手はジト目で見返したかと思うと、力強く翼を羽ばたかせて空に飛び立つ。 月が出ているのに、なんだか雨が降ってきたようで。水滴がちらほら地に落ちる。 「ごめんっ! もう忘れないからーーっ!」 レビィの叫びは、いまだ遠くで続く戦闘音に掻き消された。 明けて翌日。 ギルドの管理している龍舎の一角。すねて身を丸める駿龍に、ひたすら平謝りしているレビィの姿と、それを呆れて見つめる忍犬の姿が目撃された。 そして、都郊外。ボロになって倒れる喪越を引き摺りながら、黙々と都に向かうメイドからくりの姿が確認される。 美女(からくり)に誘われ朝帰りを果たした喪越だが、それで何か改まったのかは分からない……。 |