無差別大量広範囲虐殺型
マスター名:からた狐
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/06/25 20:17



■オープニング本文

 押し寄せる黒雲のようなモノに、村人たちは最初こそ首を傾げた。
 すぐにそれが虫の大群と知れ、アヤカシと思しき外見に気付くと、誰もが悲鳴を上げた。
 走る足より、飛翔する羽の方が速い。
 覆いかぶさった虫の大群は、逃げ惑う人々に喰らいつく。
 一匹は二〜三寸程度。振り払えば簡単に落ちたが、それを埋めるように次の虫が体に群がる。
 激痛と共に血が流れ、悲鳴は断末魔に変わり。喘ぐ口からも進入し、脹れ上がった腹を中から食い破り、骨さえ貪る。
 家屋に飛び込んだ住人を追い、虫の強靭な顎は粗末な建物も貪りつくす。一つ穴を開けると、そこから容易く侵入し、震える獲物もまた貪り尽くす。
 家族や恋人を守る為、あるいは単純に自身の身を守る為、立ち向かおうとする者もいた。しかし、ただの人間では攻撃手段などたかが知れている。
 振り払う手や布など一時しのぎ。刀を振り回しても、素早く躱され。刃物すら虫は喰らいついて切れ味を鈍らせ、穴を開ける。
 思い余って、誰かが村に火を放つ。
 立ち込める煙や炎。撒かれて逃げ惑い倒れる村人達に、熱風を裂いて飛来し集る虫の有様は、まるで地獄絵。
 虫は獲物に群がる。振り払おうとしても、数は多い。

 かくて、村が一つ消えた。


「鉄喰虫が出た」
 ギルドの係員がうんざりと告げる。
 小さな虫のアヤカシ。造作も無い相手なのだが、強靭な顎を持ち、群れを成して人間を襲う。
「今回も群れで来ている。その数、百か二百では効かんだろう。あるいは千を越えるのか」
 虫を振り払い、どうにか他の村にまでたどり着いた者がいた。その相手も結局傷が元で亡くなってしまったが。
 アヤカシの出現を知り、調査に走ったギルドが見たのは、喰い荒らされた無残な廃村だった。
 火災は広がらなかったようだが、炭化し崩れ落ちた家屋は多い。
 ただ、火を免れた家でもまともな家は一軒も無い。屋根が落ち、壁が崩れ、柱が倒れ。中には妙に綺麗な土台だけを残して木屑が散乱しているだけの場所も。
 燃えた匂いに混じって、届く腐臭はしみこんだ血か。
 しかし、襲われた人々の遺体は見当たらず。どうやら骨すら残さず喰われたらしい。
 そんな村の中を、未練たらしく飛び交う虫の数は、数える気にもなれなかったという。
「百世帯ほどの村ではあったが、もはや人の住める状態では無い。虫が留まっている今の内に、これを始末しにいってくれ」
 鉄喰虫は単体ではたかが知れているが、何分数が多い。逃げられぬよう注意が必要だし、勿論集られぬよう気をつけねばなるまい。


■参加者一覧
沢渡さやか(ia0078
20歳・女・巫
霧崎 灯華(ia1054
18歳・女・陰
王禄丸(ia1236
34歳・男・シ
喪越(ia1670
33歳・男・陰
アーニャ・ベルマン(ia5465
22歳・女・弓
月野 奈緒(ia9898
18歳・女・弓
フレイア(ib0257
28歳・女・魔
シヴ(ib0862
27歳・女・サ


■リプレイ本文

「鉄喰蟲? このような虫型のアヤカシが大量発生した要因の方が気になる所なのですが?」
 フレイア(ib0257)が首を傾げる。
 一応ギルドでも調べたようだが、特に原因は見当たらない。下級のアヤカシが出没するのは常の事。数があったのは運が悪かったとしか言いようが無い。
 その言い分には気に障る所もあったが、そんな気持ちを引き摺って動く訳にも行かない。
「都が反映する陰でこうしてアヤカシに滅ぼされる人たちがいる。何ともやるせない話さね。次の被害が出ないよう、きっちり潰させてもらうさね」
「そうですね。群れを撃破し被害の拡大を防ぐ事に専念しましょう」
 今は滅びた村に留まっているが、いつ移動するか分からない。
 新たな犠牲が出る前にと告げるシヴ(ib0862)に、フレイアもすぐに気持ちを切り替える。
「残念な話ですけど‥‥。もし、このような事が神楽の都で起きた時に対処できるよう、その為の修行とさせていただきます」
 命の価値は同じといえど、やはり大切な人や場所ほど守りたい。
 月野 奈緒(ia9898)としても、この事態は気が気でない。
「人とアヤカシの生存競争か。生きるか死ぬかの瀬戸際とあっちゃ、お互い手段を選んでられんよな。えげつなくヤり合おうじゃねぇか」
 物騒な事を平然と言い放つ喪越(ia1670)。なのだが、独特の口調と身体全体で刻まれる調子でどうも緊迫感が無い。
「殲滅戦か‥‥。楽しみね、撃破数一位は渡さないからね」
 楽しげに笑う霧崎 灯華(ia1054)の方がよっぽど殺伐としている。
「退治は構わんが。まさかと思うが、装備を喰われはしまいな」
 王禄丸(ia1236)が心配した通り、可能性はあると返事が来た。
 ただ、でかいとはいえ虫相手。下級のアヤカシだ。よっぽど無茶しない限りは修復できるだろうとも。
 時に未開の地を切り開き、大アヤカシとも戦わねばならない開拓者たちの装備だ。柔であっては困る。


 被害にあった村に近付くにつれて、奇妙な静けさが周囲に満ちる。
 さらに近付けば、虫の羽音。十二分に離れて様子を覗っても、村一体を鉄喰蟲が覆っているのが分かる。
「うわぁ、まるで幽霊でも出そうな‥‥。というか、アヤカシの方が怖いですよね」
 崩れ落ちた村。あちこち剥げた屋根に、壊れた壁。散乱する瓦礫の上を動くのは虫たちだけ。
 アーニャ・ベルマン(ia5465)が光景に身を震わせたが、すぐに小さな虫たちに目を向けた。
 遠目で飛び交う姿を見ているだけでは、その脅威も見えてこない。が、この惨状を作り上げたのは間違いなく奴らなのだ。
「いよぉ、アミーゴ。周辺を調べてきたぜ。あまり近付きすぎると、こっちが見付かりかねねぇから、人魂も周辺ぐらいしか調べられなかったけどな」
 軽い足取りで偵察に出ていた喪越が戻ってくる。
 人魂の行動範囲は広いが、村にいる鉄喰蟲から自身の安全を図って距離を置くと、活動範囲は限られてくる。
「位置は分かりますか?」
「そこらは抜かりなし。‥‥でもまぁ、あちっこちにうじゃうじゃいるぜ。人家の辺りはまだ集団でいるようだぜ」
 フレイアが広げた地図に、喪越はざっと見た様子を示していく。
「いいわね。おもしろいじゃない」
 覗いて位置を確認すると、おもむろに灯華はナイフと符を用意する。
「本当に行くのですか?」
 そんな灯華を沢渡さやか(ia0078)は心配そうに見つめる。
「勿論。あたしの事は気にしなくていいから、思い切りやってよね」
 あっさりと笑って答える灯華に、さやかは少し息を吐く。
「分かりました。でももし、危険であればすぐに治癒しますので、頼って下さいね。皆様も」
 真摯な表情でさやかは告げる。
 下級のか弱いアヤカシ。とはいえ、数の暴力は時として恐ろしいものがある。

 最初に走りこんだのは灯華。村の中へと姿を見せると、あちこちから鉄喰蟲たちが飛び立つ。
 村の獲物は食いつくし、新たな獲物が飛び込んできたのだ。たいした知性もない虫たちは本能で動く。
 上手く食いついてくるか心配もしたが、とんだ杞憂だった。どころか、中心まで走る前に取り巻かれて、行く手を阻まれる。
「待ち切れないのはこっちも一緒よ。見敵必殺、一匹残さず殺ってやるわ」
 灯華が符を構える。渦巻く怨念を纏った悲恋姫が呪いの声を周囲に放つ。
 怨禍の悲鳴は広範囲に響き渡り、範囲の内の鉄喰蟲たちが一斉に地に落ちる。
 僅かな風に羽を揺らせ。余韻に浸る間も無く次の包囲網が開いた空間へ押し寄せる!
「楽しい虐殺劇を始めましょ♪ もっと群がりなさい! みんな消し炭にしてあげる!」
 集る鉄喰蟲たちを払い、ある程度集めるとまた悲恋姫を呼ぶ。
 嘆きの声は敵味方無く襲い掛かるが、それを踏まえて灯華は先んじて乗り込んだのだ。遠慮も躊躇も無い。寧ろ仲間が来る前にと、続けざまに放ち、大量の蟲を落としていく。
 他の開拓者たちが傍観を決めこんでいる訳でも無い。
「こっちよ! 来なさい!!」
 巻き込まれぬ距離で、シヴが咆哮を上げる。
 蟲の群れが動いた。
「やっぱり一斉に来るわね」
 声の届いた鉄喰蟲たちは勿論、気配を察したか釣られたか、他の虫たちも追ってくる。
「気をつけろ。取り巻かれると厄介だぞ。しかしまあこの名称。物語は違えど言うべきか。虐狂の極悪上弩へようこそ」
 シヴの護衛についていた王禄丸が告げる。敵の注意はシヴにあるが、だからと言って見過ごしてはくれない。
 牛面をつけ、荒らされた村と鉄喰蟲たちを見遣りつつ、走る。
 追いつかれないようにシヴもまた逃げる。安全に戦える場所へと。
 極めて身軽に身を整え、走る足は軽い。
「オッケー。先制攻撃一発かますか。それ、五・四・三‥‥」
 焙烙玉に火を点けると、喪越は虫の群れへと投げ込む。
 炸裂した陶器や仕込まれた鉄菱が飛び散り、多くの虫が落ちた。
 しかし、その程度ではまだまだ減らない。
「それ以上近付くな! 落っこちろーーー!!」
 アーニャは夢魔の弓を引き絞るとまずはバーストアロー。貫かれる矢の衝撃波に巻き込まれ、虫の群れの中、一直線に穴が開く。
 奈緒も負けじと複数の矢をホーンボウに番え、放つ。
 出鱈目な放ち方だが、弓引く際に精神を集中。心落ち着かせて矢を射る。
 敵の数も多いのだ。適当でもどこかに当たるが、なるべく一度に大量の蟲を始末する方がいい。
「限がありませんわね。隙を作ればすぐに次が来ます」
 フレイアが翳したウィングワンドの先からブリザーストームが広がる。白く染まった視界からは多くの虫が消えるが、難を逃れた虫がまたすぐに寄ってくる。
 やってる事は単調だ。
 鉄喰蟲が押し寄せる。攻撃する。そして後続の鉄喰蟲がまた来る。その繰り返し。
 しかし、攻撃の範囲や調子でどうしても全部を一時に相手するのは無理だ。空も飛ぶ相手。死角となる場所は出るし、取りこぼす数も多い。
 取り囲まれ、身体のあちこちに虫が止まる。掃った手に痛みが走り、僅かに血が散った。
「一旦離脱!」
 アーニャのバーストアローが活路を開く。走りながら、纏わりつく鉄喰蟲は払い落とし。
 距離を開けると、追いすがってきた鉄喰蟲たちを再び攻撃。
「月野さん。右手方向。回られます!」
「了解。多少の距離なんてすぐに詰められてしまいますね」
 さやかが閃癒で皆を纏めて回復させる。
 と、瘴索結界で虫たちの動きを把握。危険が及ばぬよう指示を出す。
「瓦礫の隙間にも隠れているな。どこからでも来るな」
 王禄丸は暗視で周囲を見る。味方に迫る鉄喰蟲は早駆で間合いを詰め始末するが、自分からは仕掛けない。こちらも攻撃は最小限に抑えている。
「ならば燃やさせてもらいます!」
 隠れている建物ごと、フレイアがファイヤーボールで燃やしにかかる。火は燃え広がり、煙が沸き起こると、さらに騒々しく鉄喰蟲たちは飛び交う。
「恐れている、とは少し違いますのね。何よりも食欲が優先。‥‥陣地に火を放っても、逃がしてくれるかわかりませんわね」
 村の外。畑だった所を利用して藁を積んである。油を撒いたそれは、もし撤退するようなら火をつけて時間を稼ごうとしてのものだが、貪欲な彼ら相手にどの程度の壁となるか。
「とにかく、飯飯飯〜だな。こいつら。分かりやすいがうざったい」
 距離を開けたり、逃げたりしながらも、喪越は鉄喰蟲たちを観察する。
 好奇心もあるが、後学の為でもある。目つきは彼なりに真剣なものとなる。
「盛者必衰はこの世の常‥‥。だからといって、死者の無念に変わりはねぇわな。この爆煙と焔が俺なりの贐よ。せいぜい派手に送ってやるさ」
 ――アディオス、アミーゴ!
 掛け声と共に焙烙玉を投げつける。何度やっても派手な炸裂に驚き、慌てる鉄喰蟲たち。その混乱もすぐに消えてしまうのだが。
「走りまわるにはこの場所は不利ね。あっちに付いてきてもらいましょうか」
 シヴが咆哮で、鉄喰蟲たちを誘導する。
 釣られたシヴの周りに集まった鉄喰蟲たちへ、さらに矢が降り注いだ。


 どのくらいそれを繰り返したのだろうか。
 大きな技は練力の消費も大きい。使い果たしても、なお現れる鉄喰蟲たちを武器で、あるいは練力が少なくて済む技で始末していく。
 それでも大きな群れは叩き潰し、鉄喰蟲の攻撃が散発的になっていく。
「全くちまちまと。もっと纏まってきたらどうなの!?」
 握ったナイフで一体一体を対処していく灯華。
「皆さん、お怪我は大丈夫ですか? ‥‥あ、その壁に三体ですね」
「ああ、屋根裏に引っ付いているな」
 数が少なくなれば余裕も出てくる。さやかが示した先を王禄丸が覗き、見つけた虫をアーニャが射抜く。
 さらに時間をかけて個別に始末していき。
 最後にさやかたちが村を見て回り、何の反応も無くなった事を告げる。
「ようやくかい。大変だったな、アミーゴ。もう勘弁だぜ」
 喪越が肩を竦めると、どっかりとその場に座り込む。
「火は消えたようだな。‥‥無事な建物も幾つかあるが、人が住める状態ではない。再建予定が無いなら一度更地にすべきだろうよ」
 王禄丸が村の状態に目を細める。下手に建物を残すと、ごろつきの棲家にされかねない。
「村人の遺体があれば埋葬したいけど、残ってないですよね‥‥」
 アーニャの問いに、さやかが頷く。家の中を覗いても、生活していた跡は残っていたが、肝心の人は綺麗さっぱり喰われてしまっていた。
 せめての供養と、アーニャは用意していた線香を焚いて花を添える。
「怖い蟲は退治しましたよ。どうか、安らかに眠って下さい」
 手を合わせ、祈る。
 か細い煙は静かに天へと昇っていった。