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■オープニング本文 冥越。 国土の大半を魔の森に飲まれ、放置されて久しい。 すでに公式の交流はなく、修羅の一件でしばし足を踏み入れた時もあったが、それからの状況に変化は無い。 住んでいた者の多くは、勢いを増す魔の森やアヤカシの脅威に耐えかねとっくに国を脱出している。 けれども、今なおその地に留まり、脅威と戦いながら生活を続けている集落も幾つかある。 ● 「という訳で、冥越に住んでるじっちゃに御年賀を届けてくんろ」 「まて」 開拓者ギルドに顔を出した修羅の少女は、こともなげに葉書一枚だけを出してとんでもない事を言ってきた。 ギルドの係員の顔が引きつったのは無理も無い。 「冥越に? あの冥越か? そこにただその葉書を送り届けるだけに行けと?」 「んだ。隠れ住む必要もねくなったし、おらたちは都に出てきたけんど、じっちゃは今更人前に出るのも嫌だとひきこもっちまっただ。 じっちゃも若い頃はアヤカシ相手にぶいぶい言わせてたし、残る以上は返り討ちの覚悟も出来てるだ。どの道老い先短いなら好きにしたらええが」 「……なんかいろいろ言いたいが、まぁいい。続けてくれ」 係員が首を傾げるも、少女の方は問題ないと大いに頷いている。 「別れて暮すことにはしたけんど、家族は家族。年の初めぐらいはきちんと顔を合わせるべ、と、去年は里帰りして新年を祝ったんじゃけんど。今年もそうしようと思っていたら、一緒にこっちに来てる父ちゃの具合が悪くてとても帰らんね。 だから、そのことを知らせる為と新年の挨拶を込めて、じっちゃに年賀を届けて欲しいが」 差し出された葉書は、新年を祝う文と共に、縁起のいい絵柄などが描かれている。近況がこまごまと記されている辺り、愛情が無い訳でもなさそうだ。 いい話ではある。 ……行き先が冥越でなければ。 とはいえ、そんな場所だからこそそこらの飛脚に任せるわけにもいかない。志体持ちでもなければ命が危うい。 「まぁ、請け負う奴がいれば頼まれるが……。そのじっちゃとやらがいる場所は分かるのか?」 「地図を書くけ、大丈夫。それとなく道しるべもあるし、迷う事はねぇべ。ただ家はちょっと山ン中だべ。途中夜通し歩くか一泊野宿しねぇと辿りつかね」 ……冬の山で一泊。いや、行きと帰りで二泊か。普通の場所でもそれは大変なのに、くどいようだが場所は冥越。 新年早々の度胸試しには十分すぎる。 「こう言っては何だが、危険な場所なのはお前さんも分かってると思う。だったら、父親の看病は誰かに任せて、お前さんも行くのが筋じゃないか? 道案内としても依頼人としても。そうもできないほど父親の容態は重いのか?」 それはそれで心配だ。 けれど、その問いに、少女の方が非常に困惑してしまった。 「実はおらにもよく分からんべ。先日、くりすますというのに出かけていったと思ったら、帰った途端に『サンタが〜、トナカイが〜、ツリーで雪崩れがああああ〜』とうなされっぱなし。たまに暴れるだで目が離せねぇし、人にも任せらんねぇ。じっちゃも大事だが、父ちゃも大事なんじゃ。 くりすますにはおらは用があって行けなかったんだども、一体何があったんだか」 悩む少女。 見ていた係員は、ちらりと視線をギルド内に移した。 ギルドには開拓者たちも大勢いて、依頼人の話をそれとなく聞いている者も多い。 その彼らから何人か、父親の話が出た途端に何やら顔を引きつらせて目をそらせた。 どうも、知らない方が懸命と見る。 「まぁ、いい。しかし、そんな容態で今はどうしている?」 「布団で簀巻きにしてきた。だどもあまり長いこと留守には出来ね。 ――無茶はよく分かってるべ。だから無理ならしょうがね。後日改めてじっちゃの様子を見に行くべ。けんど、新年の挨拶、やっぱりきちんと正月の内にしておきたいべ」 申し訳なさそうにしている少女に、係員は一応尋ねてみると年賀も受け取る。 かくて、開拓者たちが呼び集められる。 「冥越に住んでいるとある老人の元に手紙を届けて欲しい。 道中は、どうやら片道でまるっと一日かかるらしい。野宿するにせよ、必要な品は依頼人側で用意するという事だ。 老人が一人で暮せる辺り、近辺は比較的安全なのだろう。とはいえ、それはあくまで冥越の中でも、だ。 すでにあそこはヤツラの領域であり、人がいると知れれば無制限にアヤカシは寄ってくるだろう。 下級中級……確率は低いが上級や大アヤカシと出くわす可能性もゼロとは言い切れない」 何が起こるかわからない。それが今の冥越だ。 「無論、命は大事にだ。無理と判断すればすぐに引き返せ。そもそもここに関わる必要もない。それでも行けると思った奴は……頼まれてくれないか」 新年早々。他人の祝いの為に命をはるか。 |
■参加者一覧
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
鬼啼里 鎮璃(ia0871)
18歳・男・志
海月弥生(ia5351)
27歳・女・弓
オラース・カノーヴァ(ib0141)
29歳・男・魔
シルフィール(ib1886)
20歳・女・サ
ヒビキ(ib9576)
13歳・男・シ
津田とも(ic0154)
15歳・女・砲
スチール(ic0202)
16歳・女・騎 |
■リプレイ本文 離れて暮らす祖父に、年賀状を届ける。 家族思いのいい孫だ。手紙を届けるぐらい楽なもので、何かのついでに行っても十分。 「ただそれだけの話が……どうしてここまで面倒で危険な依頼になるのやら」 何度依頼を確認しても、シルフィール(ib1886)は頭が痛くなる。 「運び屋という職業もありだな。ギルドでは人が集まらなければそれまでだ。依頼すれば確実に運んでくれる専門業者は需要があるだろう。そう思わないか?」 「いいかもしれませんね。……行き先が冥越で無ければ」 何やら真面目そうに考え込んでいるオラース・カノーヴァ(ib0141)に、柚乃(ia0638)はどう答えたらいいか若干困惑もしている。 孝行は分かるが、それに伴う危険は天秤にかけてつりあうかどうか。生きて帰れる保障も無い。まぁ、冥越には今ほとんど人がいないので、こういう届け物はきわめて稀ではあろうが。 「お歳を召していらっしゃるのに、まだ残って頑張ってみえるとは……。流石ですね」 鬼啼里 鎮璃(ia0871)の感心も無理は無い。 鎮璃はかつて冥越で過ごしていた。暮らしぶりは大体想像がつく。 志体持ちの鎮璃でも楽な生活ではなかったのだ。修羅とはいえ老齢では元気でいるのだろうか。 「でも、きちんとこなせば……縁起がつきそうです」 前向きに柚乃は考える。確かに、無事に行って帰ればいい経験にはなるだろう。 「何れは解放しなければならない土地だしね」 吹っ切ったように、海月弥生(ia5351)は強く告げる。 今はアヤカシが跋扈する冥越。だが、ここを祖国とする者は開拓者でも多い。 土地に愛着を持つのも老人だけでは無いのだ。 ● 冥越までは、近郊から船を漕ぐ。 その船をはじめ、必要と思われる道具はすべて依頼人が用立てた。危険な場所へと行かせるのだから、せめてもの心遣い。 渡された地図も念の為、人数分用意してある。道らしい道は無く、目印にしても地面の傾斜具合や、山との位置や距離程度の箇所も多い。もっとも魔の森に明確な看板なんぞ作れないので、仕方ない。 教えられた海岸から上陸。船も岩陰に隠すと、改めて開拓者たちは陸へと目を向けた。 「ここが冥越か……」 ヒビキ(ib9576)は息を飲んだ。 海岸に迫る山は緑が生い茂る。けれど、その木々は果たして本当に植物なのか。よく見れば、風も無くさわさわと動きまわっている姿も見える。遠くから聞こえる鳥や獣の声は本当に生きているのか。まして奇妙な咆哮をあげているのは……。 ただ見ているだけでも、そこはかとない震えを感じる。 確かに陽州とは違う。封印後、目立ったアヤカシの侵攻もないまま時を過ごしていた自分たちが「ぬるま湯育ち」なんて言われてしまったのも頷ける気がした。 「荷物はなるべく持とう。必要なら私の手持ちも出そう。その代わり、索敵はしっかり頼む」 「分かっています。この瘴気に臆している場合でもありませんね」 船から荷物を降ろすスチール(ic0202)。 柚乃はしっかり深呼吸すると、懐中時計「ド・マリニー」を握り締める。 祖父に合う為には山に分け入る。 鎮璃とヒビキが交代しながら、先んじて刃を振るう。が、戦う為でない。 「あまり切り込みをいれないように。通れないのは困るけど、あからさまな痕跡を残すと鬼系辺りは人に勘付くかもしれない」 「了解」 道のようなものはどこにもなく、そのままでは到底歩けたものでも無い。 僅かな目印を頼りに草木生い茂る中を切り分け、進む。 「隊列には気をつけて。後ろを取られて支援組がやられるのも洒落にならないわ」 刀も槍も、いつでも構えられるよう気をつけながら、シルフィールは慎重に拓かれた山に足を運ぶ。枝の折れる音、葉の鳴る音。蹴った石の行く末や、土が滑り落ちた先など僅かな変化でもアヤカシは察する可能性はある。 目も耳も。臭気や肌に触れる感覚すらも頼りに、周囲に変化が無いかを確かめる。 さっと頭上から影が横切った。とっさに草木に身を埋めると、弥生はバダドサイトで空を見上げる。 「骸骨の龍……っぽいわね。一体だけで他に仲間はいないよう」 周囲にも素早く目を向け、不振な影が潜んでないかを確認する。 「打ち落とす?」 津田とも(ic0154)が潜んだまま、火縄銃「轟龍」を構える。 それをオラースが静かに制す。 「いや、向こうはまだ気付いていない。このままやり過ごせるかまだ様子を見よう」 「音で新手を呼び込んでも怖いしな」 ヒビキが告げる。 骸骨龍の骨しかない姿からは、何を考えているのか全く予想がつかない。 周囲をやたらうろつくのは、こちらに気付いているのか、それとも別の何かがあるのか。 息を凝らしてじっと茂みから窺っていると、やがてアヤカシは徐々に遠ざかっていった。 アヤカシとの交戦は極力避け、やむを得ない時だけ短期戦で敵を叩いた。 その物音を聞きつけ、新手が姿を現す時もあり、全く油断できない。時には道を外れてやり過ごしながら、開拓者たちは先へと急いだ。 「今日はこの辺りで野宿ね」 倒木を見つけて、シルフィールが告げる。 空はまだ少し明るいが、木々に遮られて山の中は暗くなってきている。無理に進む事も出来るが、それで危険になるのは自分たちだけでは無い。 「さっさと行って、さっさと帰る方がよかないか?」 攻撃を重んじるともとしては、慎重な行動にはやや不満が残る。 だが、周囲に強く訴え、一人突っ走るまではいかない。 「錬力や体力の持続も考えなきゃ行けないし。最悪、焦ってお祖父さんの家にアヤカシを案内したくはない。夜明かし程度はした方がいいな」 荷物を降ろし、夜営の準備をしながらスチールが答える。 依頼人に、道中で安全な場所は無いかを事前に聞いていたが、「ない」という素敵な回答。アヤカシはどこにどうしているか分からないから迂闊に安全宣言を出したくない、というのもあったようだ。 「少なくとも感知できる範囲にアヤカシはいません。今の内に休めるだけ、休みましょう」 柚乃は炎のように赤い不思議な羽根を取り出す。羽柄を擦ると、用意していた枯れ木に火がつく。 魔神「不死鳥」から抜け落ち、本体が消滅しても、まだその羽根は不思議な力を持続させている。 暖かい品を作って、食事を済ませると、見張りを決めて順番に休む。 最初は柚乃とスチールが。次に、鎮璃とともとなり、弥生とヒビキ。オラースとシルフィールが最後となる。 休むといっても、いつアヤカシが来るかは分からない。 不意の事態に飛び起きれるよう、眠りも浅くなる。 不審な影を見つけて一回、奇妙な声が鳴り響いて二回ほど起こされはしたものの、目立つ襲撃も無く、無事に朝を迎える。 朝の光はこんな場所でも――いや、こんな場所だからこそほっとする。 「火の始末。夜営の跡なんて知られる訳にはいかないわ」 簡単に食事を済ませ、念入りに燃え残った後もシルフィールは埋める。 「今日中には配達先につくはず。祖父宅周辺まで行けばそれなりに安全にはなるそうだ」 「けど、そこまでアヤカシを案内させないのは昨日と同じ。家が近いならなおさらですね」 地図を確認していたオラースに、鎮璃は頷く。 移動に関しては昨日とさほど差は無い。 ただ、輪をかけて周囲に気を配って移動した為、昨日以上に時間がかかったぐらいだ。 それでも、何とか敵をやり過ごして目的とされる場所にたどり着く。 「渡された地図によれば、この辺りのはず何だけど……」 視力を上げて、弥生が周囲を見渡す。 他の開拓者たちも各々に、祖父宅が無いかを探していると、 「伏せろ!!」 オラースが声を上げる。何をと思う間も無く一斉にかがめば、立っていた空間に軽い音を立てて矢が飛んでいった。 驚いて矢の来た方向を見定めれば、今度は別方向からまた矢。 間の空き方からして、どうやら移動して討ってきている。恐らくは一体。 即座に、開拓者たちは構えた。見つかっているなら迅速に。数が少ないならなおさらだ。 けれど、それに柚乃が慌てた。 「待って下さい、瘴気反応が無いって事は……もしかしてお爺さんですか?! 私たち、お孫さんに頼まれて手紙を届けに来たんです!」 配達する年賀状を振り、呼びかける。 途端に、矢が止んだ。 それまで矢が来たのとはまた違う方角から、気配が現れる。 山の木々の間。姿を見せたのは、大きな草の塊。その異様さに、まさかと一同それとなく構えを強くしたが……」 「何じゃ、お前ら。ちゃんと生きておるのか?」 服を脱ぐように草を落とすと、中から出てきたのは皺くちゃながらも腰のまっすぐな老人。 目を丸くする老体の前で、一同は一斉にほっと息をついていた。 ● 「全く物騒な。もう少しで依頼の目的を撃ち殺す所だった」 「すまんすまん。しかし、こっちもまさかこんな所まで外部のもんが来るとは思わんて。てっきり死人か何かかと」 口を尖らせるともに、老人は笑う。 案内された先は、すっかり魔の森に飲み込まれた村の跡地だった。家の形はほぼ無く、示されなければ村だった事すら分からない。崩れて苔に覆われた家の陰に隠れるように、老人の棲家は作られていた。 窮屈な場所で、開拓者たちと老人が座ればもういっぱいだった。 一通りの挨拶と、託された品を渡す。 孫の顔を見れなかったのは残念がっていたが、時期を見て来るという知らせに老人は顔を綻ばせていた。 「もしよろしければ、御孫さん宛に一筆いただけないでしょうか」 「そうじゃな。馬鹿息子にも喝を入れておかねばならん。さて、文字を書くなどどれだけぶりか」 柚乃から渡された携帯ペンセットを珍しそうに見た後、老人はペンを走らせる。 ちらりと見えた限り、なにやら罵詈雑言が並んでいる。けれど、老人は楽しそうに微笑んでいた。 「それで、もし御迷惑でなければこちらで少し休ませていただけませんか」 「構わんよ。といっても、野宿と変わらんかの」 鎮璃からの願いに快諾するも、笑みは自嘲に近かった。 家と呼べるような場所でもなく。たらふくの御飯も、寝具など当然期待出来ない。 ただ、安全だけは保障すると老人は告げる。 「帰りは強行軍になるからね。さすがに二徹になるのは勘弁ね」 寝れるだけでもめっけもの。と、シルフィールは堅くなった背筋を伸ばす。 ● 「達者でな。孫にもよろしく言っておいてくれ」 「はい。お爺さんもあまり無理なさらず」 穏やかに別れを告げると、開拓者たちは潰れた村を後にした。 そこからはまた過酷な道なき道。 「皆で無事に帰るまでが依頼です……」 口元を引き締める柚乃に、一同もそれぞれの仕草で頷く。 行きと違い、帰りはとにかく道を急ぐ。日が沈んでも最低限しか休まず、とにかく魔の森を抜けるのを優先する。 「……っ、来ます!」 柚乃が示した先。葉の揺れる音と共に飛び出してきたのは剣狼の群れ。 「今度は間違いないな」 苦笑しながらともは火縄銃を撃つ。轟音が響き、剣狼が一体ひっくり返った。 「まだ帰り着くまで距離がある。錬力に注意して」 「中級相手ならともかく、下級の小物問題無いわ。もっと問題なのは上級や――大アヤカシと遭遇しないかだけど」 ロングソードを振るうスチールに、シルフィールも殲刀「秋水清光」で敵を掃う。 数は全部で五体。言うように小物相手で敵ではなかった。 が、剣狼はしばしばアヤカシの中でも偵察や先遣隊の役割を果たす。 「急ぎましょう。とにかくはぐれないで。夜の内なら迷っても現在地は見出せる」 弥生が地図を握り締め、天を見る。こんな場所からでも星は綺麗だ。地図の制度が不安だが、位置情報が大まかに分かればそれでよし。星の眼差しには問題ない。 一つ事を起こせば、ずるずると後は悪くなる。騒ぎを聞きつけ、獣系のアヤカシが増える。増えれば、遭遇する確率も上がり、戦闘が始まる。繰り返せば噂でも広まるのか、鬼系も集まり矢を射掛けてくる。逃げて道を間違えれば、植物系のアヤカシが枝葉を絡ませ血を啜ろうと迫る。 昨日は落ち着くまでやり過ごしていたが、今日はとにかく先を急ぐ。 「おとなしくしていてください」 柚乃が夜の子守唄で場にいた小鬼たちを眠らせると、止めは刺さずに一同はそっと横を通り抜ける。まともにやりあっていては疲れるばかりだ。 やがて夜も明けようという頃。 星の眼差しも利かなくなる。上陸した方向だけは見失わないよう、一同はひたすら突き進む。 「海岸が見えます。後もう少しです」 弥生が告げた矢先に、竹槍が飛んできた。鬼たちだ。 「しつこい輩だ」 歯噛みをすると、オラースはメテオストライクを浴びせる。ここまで来たなら遠慮は要らない。 海岸を横切り隠していた船に飛び乗ると、すぐに出航する。 海に出てしまえばひとまず陸のアヤカシは追ってこない。 それでも、船の上をよぎる影は出来る。骸骨龍だ。 「本当にしつこいな。見送りなんていらないよ」 嫌そうに顔を顰めてヒビキは戦弓「夏侯妙才」に持ち替え、素早く矢を射掛ける。 他の面々も、これで最後とばかりに惜しげもなく容赦無い攻撃を浴びせる。 この抵抗には参ったのか。片翼が外れると、上げる悲鳴もなく骸骨龍は海へと落ちる。 そもそも骨。どんな具合で飛んでいたのかも分からない。すぐに浮かんでくるかも知れぬと緊張しながら、とにかく今は離脱を優先。 全速前進、船を大海原へと滑らせた。 沖に出ると波は高く、船は大いに揺れる。けれどそれがどれほどのものか。 開拓者たちは追っ手が無いのを確かめてから、甲板でぐったりと腰を下ろした。 「来たついで、僕も里帰りなんて少々考えもしましたが、止めて正解ですね」 告げる鎮璃が、そっと目を伏せる。 帰った所でもはや人はおらず――。一体、どうなっているのか。 今は爺さまからの返礼を大切に持ち、人がにぎわう神楽の都へと帰るのみ。 |