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■オープニング本文 娘の父は、生まれて間も無くどこかに消えた。 母は五歳の時に、男を作ってどこかへ逃げた。 縁があって、とある店に奉公に入れたが、そこでの暮らしも楽ではなかった。 邪険にされながらもそこでしか生活する場所も無く、冷や飯を食らう毎日。 十六になって、彼と出会った。 羽振りのいい明るい男に好かれたくて、なけなしの金で身を整えた。気を引きたくて、望むものはがんばって揃えた。 男の要求は限度を知らず、娘は方々から金を借りたがすぐに行き詰った。 そんな中、売り上げが足りないと店が騒ぎになった。 店で犯人探しが始まった。最近金に困っていたと、娘が犯人にされた。 身に覚えが無いと訴えたが、役所に突き出すと言われてはもう店にもいられない。 夜更けに店を抜け出し、男の元へと走った 「一緒に逃げて」と、娘は言った。 「いいよ」と、男は答えた。 共に町から逃げた。 闇の深い山中まで逃げ、男は娘を抱き寄せた。 そのまま崖の上で娘を押した。深い谷へと娘は落ちた。 男は黙ってその場からいなくなった。 砕けた娘の周囲に、彼女の荷が散らばる。 少ない荷の中から零れ落ちた一つの人形。生まれた時、父が娘に買い与えたと母から聞いた。 割に高価な仕立ては、我が子への愛情があって奮発したのだろう。 その切りそろえられた髪も乱れ、肌は割れ、綺麗な着物も血に染まる。 そして、人形は起き上がった。 小さな足で大地を蹴ると、夜の闇へ嬉々として飛んだ。 ● 「ったく、あんな辛気臭ぇ奴と誰が一緒になるかよ」 「酷い男ねぇ。さんざん貢がせたってぇのに」 「金ぐらいしか用がねぇだろ、あんな小娘。しかも、窃盗のとっばちりなんざごめんだね。俺は知らなかった」 「本当かねぇ」 定宿にて男は女と笑う。罪の意識などありはしない。元よりそういう男だった。 多分、このまま何も無ければ、数日もせずに娘の事など忘れていただろうが‥‥。 「痛っ!」 「どうしたんだい?」 「いや‥‥何か聞こえなかったか?」 「風の音だろう?」 顔を顰めて男が辺りを見回す。女は興味無く首を振る。 「違う、聞こえる。畜生、あの女の声が!!」 しかし、男はそうではなかった。頭を押さえて苦しみ出す。 「声!? そんなの聞こえないよ!?」 女は訳が分からない。必死に言い含めるが、とにかく男の様子が変なのは確か。 「待ってて今誰かを‥‥」 助けを呼びに、外に出ようと戸を開けた。 その目の前に。 何の支えも無く壊れた人形が浮かんでいた。 ぽかんと口を開ける女の口に、人形は手にしていた匕首を深く入れた。 女が倒れる。男と人形の間に隔てるモノは無くなった。 「お、お前はあの」 『捨てないで‥‥』 すがるように人形は男に近付く。 「やめろ! 来るな!!」 頭を押さえ、泡を吹きながら男は逃げる。 聞こえない声は容赦なく男を攻め、人形は男の首に纏わりつく。 「俺が悪いのかよ!!」 直後、骨の折れる太い音が部屋に響き、誰の声も聞こえなくなった。 ● 「その後、娘の奉公先だった店が出火。焼け跡から店主夫婦や他の奉公人の死体が見付かった」 開拓者ギルドにて。受付が依頼を説明する。 死体の状況から、どうやら何かから逃げ回ったのは確かだった。出火はその際に蝋燭を倒したのが原因らしい。 「さらに金貸しが不審死で見付かる。繋がりを調べると、いずれも娘に金を貸した店だ。そして、別の町で年老いた女とその家族が殺害。女は娘の母親だった」 死因もバラバラで、ショック死から刺殺絞殺毒殺と一貫性が無い。唯一の共通点は、駆けつけた人たちが空を飛ぶ人形を見ている。 「山中から娘の死体は見付かった。彼女が持っていたという人形が消えていて、目撃された人形とそれは特徴が一致している。可愛がっていた人形が主人の為に歪んだ報復に出た、なんて言うとちっとは綺麗な話に聞こえるが‥‥」 ちっ、と受付は舌打ちをする。 「冗談じゃねぇ。これは立派なアヤカシの仕業だ」 付喪人形。棄てられた人形に瘴気が篭ったアヤカシ。大抵は捨てた持ち主が狙われるが、その主人はすでに死んでいる。 なので、狙う対象がその周囲に移ったか。 アヤカシの考える事など所詮人の範疇を越える。そもそも元になった瘴気にどこまで縛られるのか、それも定かでない。 「とりあえず、今の所、娘の繋がりのある奴が狙われている。となると、残っているのは父親ぐらいだ。娘が生まれてから、借金が原因であちこち逃げ回っていたらしい。その足取りをたどってどうやらある街に今いるらしいとまでは絞れた」 その街は方々から訳ありの人間が集まって出来た所だ。 訳ありと言っても理由様々だが、それでも人には言いたくない事情を持つ者が多いから自然秘密主義になるし、そういった連中同士の結束も固い。住む気も無いよそ者には排他的にもなる。 逃げ込んでくる奴は毎日のようにいるし、働く内に身の整理が出来て出て行く奴も多い。 どういう人間がいるのか、把握できないし、する気も無い、というのもあるかもしれない。 「父親の人相書きはあるが、十年以上前の物だ。こんだけ年月がたっているなら人相も変わっている可能性が高い。その他、手がかりはなしと来ている」 軽く受付は肩を竦める。 勿論、行方が分からぬのはアヤカシとて同じだろうが、こちらは長い間離れ離れだった母親すら見つけ出して始末している。あまり楽観視できない。 「そもそも、付喪人形が父親を狙うかも分からないが‥‥他に手がかりが無いのも事実だ。一応、他の場所の警戒もしているが、とりあえず、こちらは父親を保護して警戒してくれ」 出るかもしれない相手を警戒して、顔も分からない相手を護る。 面倒な依頼に開拓者たちは顔を見合わせていた。 |
■参加者一覧
沢渡さやか(ia0078)
20歳・女・巫
斉藤晃(ia3071)
40歳・男・サ
白蛇(ia5337)
12歳・女・シ
ドクトル(ib0259)
29歳・男・魔
ノルティア(ib0983)
10歳・女・騎
ミヤト(ib1326)
29歳・男・騎
久悠(ib2432)
28歳・女・弓
天野 瑞琶(ib2530)
17歳・女・魔 |
■リプレイ本文 訳ありの人間が集まったからか。街は警戒するような胡散臭い目が四方から届く。 ミヤト(ib1326)は家人の許可を得、塀に貼り紙を貼っていく。 書かれている人相書きは、若い男。この情報から十年以上も経つ。顔の作りも変わっているだろうが、とりあえず、今はそれしかない。 「‥‥要らぬ、心配。で、済め‥‥ば、良いん。だけど、ね」 本当にいるのか。実際にアヤカシに狙われているのか。不確かな事ばかり。 それでもそれがすべて当たった時が怖い。 ノルティア(ib0983)も、黙々と貼り紙をしてまわる。 アヤカシに狙われており、心当たりのある者には報奨金を出す旨を書いた。 情報は幾つか入ったけれども、報奨金目当てのガセが多く、支払っていたノルティアは対策を考えざるを得なかった。 有用と思える情報は今の所無い。 あるいは。怖い騒ぎに巻き込まれるのはごめんと敬遠されたか? 「少し聞いて回ったが、ここら辺でそういう奴は覚えが無いそうだ」 久悠(ib2432)が一通り聞き込んで戻ってくる。 ギルドで更に細かい父親の情報が無いか聞きこんでいたが、何分、古い話なので不確かな事が多かった。名前や年にしてもごまかそうと思えば出来るのだし、身体情報も周囲の人からうろ覚えの内容。アテにするには少々頼り無かった。 「まだ、始めたばかりだからね」 まだまだこれからだと、がんばるミヤトに、ノルティアも小さく頷く。 久悠もまた、別の場所に聞き込みに赴こうとし、人相書きを手に取る。 「それにしても。見事な不幸の連鎖だな」 そんな男に捨てられた娘。短い生涯はけして穏やかなものでなく、最悪の結末で幕を閉じた。 「でも、彼女の望んだ人生ではなかった筈だから」 久悠の呟きが誰を指しているのか悟り、ミヤトは目を伏せる。 思い出す自身の境遇。幸福と呼べるかは心構えにもよるが、少なくとも周囲の親切に助けられてきた。 「そうだな。‥‥愚かだが哀れだ」 久悠もふと息を吐く。 娘への助け手は、欺瞞に満ちていた。だが、それは娘の責任だろうか。 境遇を比べ、幸を喜び不幸を憐れんで終わりにさせられる程、簡単な事で無く。 だからこそ、ミヤトは普段の素振りは形を潜め、いつも以上に集中して解決に臨んでいる。 「人形の情報も今の所無い。来るとしたら、僕らと似た方角からになるんだろうけど」 ミヤトが唇を噛む。焦燥が胸をよぎるが、それは無理やり宥めた。 「もう‥‥これ以上は‥‥」 ノルティアが訥々と呟く。 新たな不幸を起こさぬ為に、今はやる事をやるしかない。 ● 「順番通りに並んで下さい。大丈夫、まだありますから慌てないで下さい」 長蛇の列に、ドクトル(ib0259)は呼びかける。 手がかりを聞き込みがてら、寺を訪れたドクトル。あいにく父親へと繋がる話は聞けなかったが、街の人たちに炊き出しを振舞う提案は了承してもらえた。 自費で用意した大量の粥は口コミで広がり、食い詰めていた人たちが我先にと押し寄せている。 「こういう人を御存じないですか? 娘さんが亡くなられて遺族を探しているんです」 並んだ人を整理しつつ、平行して情報も集める。 「いいや、知らないなぁ」 食事を振舞ってもらえる感謝からか、人々の口は軽い。それでも有用な話はなかなか聞けない。 父親の肉体の変化を考慮した上で、聞き込みをして回る。勿論、その中に当の相手が混じってないかも隈なく見て回る。 顔や身体を泥で汚した白蛇(ia5337)は、そのまま子供らと混じる。 干し飯を食べたり、一緒に遊んだりしながら、それとなく周辺の話を耳に入れていた。 「お寺で御飯もらえるんだってー。俺たちも行こうぜ」 そこへ、他の子たちが駆け込んでくる。 遊んでいた子供たちは、その話でぱっと散った。 その姿を見送った後、おもむろに白蛇も寺に足を運んだ。 並んだ人ごと遠巻きに眺める。 集まった人は百か、二百か。いや、こうしてる間にもどんどん人が集まってきている。 時折、横入りしたとか、前の奴の方が量が多かったとか、いつまで待たせるとか不満の声も散発する。その度にドクトルが走り回っている。 それ以外は、人々の話し声で賑やかになっている。ただ、声を潜めて話す者が多く、活気があるとも言い難い。 少し離れて白蛇は耳に集中する。 「ありがたいね。これで一食浮くよ」 「人探しか。手伝えば、もう少し何かくれねぇかな」 「アヤカシが関わってるそうだよ。とばっちりなんてごめんじゃないか」 「人相書き配ってたな。何かあいつに‥‥いや、気のせいか」 思い思いにそれぞれが喋っていても、超越聴覚なら聞き分けられる。 「あの‥‥お話聞かせてもらっても‥‥いいですか?」 気になる言葉を拾い、白蛇はその相手に話しかけた。 ● 探すのは何も父親ばかりではない。 全ての懸案はアヤカシであり、それを始末できれば憂いも晴れる。 「人形屋って一応あるんですねぇ」 扉にかかった看板を目にして、天野 瑞琶(ib2530)が目を丸くする。といっても、探している人形のようなものでなく、女が内職で作るような布人形が主だった。 中を覗かせてもらったが、そこにいるのは愛くるしい人形ばかり。人を襲う禍々しさも無い。 礼を言って外に出ると、また捜索を開始。 「人形がじっとこちらを見てる気がして少し怖いですわね‥‥」 街を歩きながら、瑞琶は人形探しに集中する。 片手で抱える程度の人形だ。隠れる所も多い、物陰など要注意。家の中や床下も勿論、屋根の上に引っ掛かっても気付きづらい。 そこから、じっとこちらの様子を伺い隙あらば‥‥などと考えると、瑞琶は思わず身を震わせる。 「大丈夫。隠れていても、瘴気結界でなら見つけだせます」 そんな瑞琶に、沢渡さやか(ia0078)が笑って諭す。 しかし、その笑みは中途で消えた。 瘴気を感知するに便利な術だが、如何せん効果時間がある。短い時間ともいえないが、こうして探し回っていてはすぐに切れてしまう。 向こうから出てきてくれないかと、父親に変装し、囮としてうろつくが、気配を感じる事も無い。 そもそも、こちらも狙って来ているか分からない相手と来ている。不確かな話に、自然、さやかも疲れが出てくる。 「怨み辛みのあげくの果てか。世の中誰しもが幸せではないが故か」 人相書きを配っていた斉藤晃(ia3071)が姿を見せると、そう言って苦笑する。 「何か分かりましたか?」 尋ねられ、晃は肩を竦める。 「こっちはさっぱり。ただ、他の奴らが父親らしい人物かも知れん奴を見つけたそうや。今は町外れの方にいるらしく、他の連中もそっちを探しに行っとる」 人相書きの裏に、ざっと街の地図を書き記すと、話に出た辺りを指し示す。 「そちらは私達もまだですね。調べにいきましょう」 父親の話が出たならば、アヤカシが出る可能性も高くなる。 三人で、後を追いかける。 「そういえば、町長に会われるとかお話されてましたわね?」 瑞琶が尋ねると、これまた苦笑して晃は返す。 「一応、協力するという言葉は聞けた。が、アテにはならへんやろな」 町の長に会い、父親の話をしてみるも、入れ替わりの多い人全てを把握しているわけでは無い。 一応治める者として、街の現状をどうにかしようと動いている。その中でのアヤカシ話は迷惑そうにしていたが、邪険にする程でもなく。さっさと探して終わらせて欲しいという態度が見え見えで、晃も怒る気にもなれなかった。 向かった先は、街中よりもさらに荒廃が進んでいた。 家の造りやすれ違う人たちなど、明らかに粗末になっている。より困窮している人達が集っているのが見て取れる。 その中を、注意深く進んでいた彼らだが、 「気配があります! こちら!!」 はっと、さやかが顔を上げる。 何を言っているのか、それ以上語らずとも分かる。表情を引き締めると、走り出した。 ● 炊き出しの寺で話を聞いたドクトルと、白蛇は、ノルティア、ミヤト、久悠とも合流して話を追う。 「その人なら、さっき川の方に行ったよ。娘が呼んでるって。ついに頭に来ちまったのかねぇ」 大丈夫か、とは呟くが、それ以上、相手は関心を持っていなかった。 むしろ気にしたのは、言葉を聞いた側だった。 まだ推測の段階。裏を取りつつ、話を詰めている。確証を得てないのだが、嫌な言葉を聞いた。 「‥‥急、ごう」 不安そうに、ノルティアが告げる。 川に着いた。久悠が理穴弓を構え、鏡弦を鳴らす。 「いやがった」 その声を受けて、呼子笛が吹き鳴らされる。 久悠は即座に矢を番え、放つ。素早い動きのその先に、浮かぶは一つの日本人形。 水面に立つそれを、呆然と見ていた男は、今の所捜していたらしき人物に見える。 矢は、人形を貫いた。衝撃で人形が揺れる。 とっさに男は人形へと手を伸ばした。 人形はその手を掴むと、川の中へと引き釣り込む。派手な水飛沫が上がり、そこにはもう誰の姿も見えない、浮かび上がってくる気配も無い。 「駄目だ! そんな事はさせない!!」 重い防具を脱ぐと、ミヤトは川に飛び込む。 思いの外深い川に沈む男を追う。 流されながらも、男を捕まえる。岸に戻ろうとした時、男を掴んでいた人形の首が、ぐるりとミヤトに向いた。 『捨てないで!!』 頭に直接声が響く。恨みに塗れた声だが、オーラドライブで自身を高めたミヤトには影響を与えない。 わずか歯を食いしばると、ミヤトは人形を払いのける。 流されていく人形。その隙に、岸まで男を届ける。 「間に合ったようだな」 晃たちもそこで駆けつける。 「やはりこちらに目をつけて来ましたか。お誂え向きにここなら人気も少ないですし、誰かを巻き込む心配はなさそうです」 周囲に目線を走らせた後、さやかは川を睨む。 そこには、流された筈の日本人形が何の表情も無く浮かび、ただ殺気だけを振りまいていた。 開拓者たちが構える。 「ま、待ってくれ。あれは娘が‥‥娘の‥‥」 気がついた男が開拓者たちを止めようと手を伸ばす。その手をノルティアはしっかりと握り、きっぱりと首を横に振った。 「違い、ます‥‥。あれは、ただの‥‥アヤカシ。‥‥だいじょぶ。‥‥必ず、お守り、します」 晃が吼えた。 咆哮に魅かれ、人形が晃へと突っ込んでくる。 そこへ久悠の矢が再び射抜く。瑞琶のホーリーアローが、ドクトルのサンダーが、白蛇の不知火が撃ち付ける。 瞬く間の事だった。 燃え上がる人形に、晃が朱槍を向ける。 一瞬、顔を顰めたが、すぐにまた人形を睨みつける。 「残念ながら‥‥。もっと気のきた絶望(こえ)を聞いたことあるんや。五濁悪世の悲鳴(こえ)をな!」 晃が踏み込む。 大柄で力強い体躯が示すままに、槍は全練力を集めて真正面から人形を貫く。 「所詮この世は地獄也。せやけどなぁ。この世が地獄だけやないことも知ってるんや!」 苦しそうにもがいていた人形が、ことりと動きを止めた。 上がる煙に、瘴気が混じり立ち昇る。 『捨てないで‥‥』 嘆くようなそんな声は、誰の耳にも届いた気がした。 ● 落ち着いてから、男から話を聞くと、やはり娘の父親だった。想定していたよりずっと年老いて見える。 全ての事情を話すと、娘が死んだ事を知り、父親は愕然とし、やがて号泣した。 「どうして、借金なんかして、家族を置いて逃げたんだ。死んだ娘の事、どう思うんだ?」 責める訳ではなく、ただ事情を聞きたくて久悠は尋ねる。 「‥‥騙されたんだ」 目を真っ赤にして落胆する父親は、ぽつりぽつりと語り出す。 子供が生まれて何かと金が入り様だった。それで借金をしたが、借りた相手が性質の悪い連中と繋がってると知らず、気付けば膨大な負債を抱え込んでいた。 チャラにする代わりにと請け負わされた仕事が、悪事に加担する羽目になり。 役所に届けようにも、家族に危害を加えると脅されては出来かねる。かといって、これ以上迷惑もかけらないと、逃げるしか無かった。 そんな借金取りらは、やがて重ねた悪事で役所に捕まり、沙汰を受けた。 父親は解放されたが、その頃には妻は別の家庭を持ち、娘も店で奉公していると噂で知った。 「幸せになっているんだと‥‥思ってたんだけどなぁ‥‥」 今さらのこのこ出て行っても、彼らの生活を壊すだけ。元の生活は諦めてしまった。 それからは己も省みず働き。やがて体を壊し、この街でもさらに端の場所で、ただ寝込む毎日が続いていた。 それでも彼らが幸せならば。そう信じていた。 父親を保護し、アヤカシも倒した以上、それで依頼は終了。だが、人形をきちんと弔ってやりたいという考えは、概ね皆一致した。 娘の墓に入れてあげようと、父親を伴い参る。 「いいのかい?」 唯一残された片見の品。本当に手放すのか、久悠が問う。 「ええ、その方が娘も人形も寂しくは無いでしょう」 静かに父親は頭を下げる。 「戦闘に入ったら、容赦無し。とはいえ、せっかくダメージの少なそうな術を選んだのに、酷いですわね」 人形を、瑞琶が綺麗に撫でる。 術で焦げ、穴の大きく開いた人形は修復も難しい。壊れないよう、そっと娘の墓へと入れてやる。 「今まで一人で良く頑張ったねぇ。向こうでゆっくり休んでね」 線香を焚き、朱色の簪を供え、ミヤトはそっと手を合わせる。 「残すものが怨みだけなんてのは悲しいの。せめて良かったを思い出してそれだけを抱いて寝てろや」 言って、晃は酒を注ぐ。 静かに煙が立ち上り。父親はずっと手を合わせている。 「娘さんの事‥‥忘れないであげて‥‥」 「これからは。偶、に。会い‥‥行って、あげた。ら、喜ぶ‥‥思う。辛い、だろう。けど‥‥後、を。追う、なんて‥‥考え、ちゃ。め、だよ?」 白蛇とノルティアと声をかける。父親は黙って頷く。 「お母さんの事も‥‥供養してあげて」 ドクトルの言葉には返事は無い。 ただ、静かな嗚咽はいつまでも続いていた。 |