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■オープニング本文 ※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。 ● 今日も平和な天儀の世界。 しかし。侵略の魔の手は差し迫っていた。 空を見上げて、天儀の人は叫ぶ。 「あれはなんだ!」 「鳥だ!」 「飛行機だ!」 「いや、宇宙艦隊だー!!」 という訳で。天儀の空にびっしりと得体の知れない宇宙艦隊が並んでいた。 「五百年の時を越え! 現世に復活、酒天童子! なお。シュテンドウジではなく、サケゾラ ワラベコと読みます! そこ、お間違いなく!!」 その中でも一際大きな艦から、一人の修羅が高笑い。黒尽くめの衣装に黒マントまで翻して、なんとなく悪役チックに天儀を見下ろしている。 「人のこと何百年も酢漬け酒漬けにした挙句忘れくさりおってー! ベコはもうぷんぷんなのです! この恨み果たすべく、毎日毎晩星に祈ったところ、空の彼方からこんなに味方が来てくれました!!」 「MOFUー!」 ワラベコの声に応えて、艦の至る所から姿を現したのはなんともふらさま。いや、よく似てはいるが、人工物の光沢に表情が乏しい。 「こいつらは、この船に搭載されていた御用達ロボット、メカモフラ! ちなみに、ベコの言う事だけを聞くよう改良済み! という訳で、あんたたち! とっとと天儀征服にかかるわよ!」 「MOFUー!」 ワラベコが手を指揮するや、たちまち艦からメカモフラたちが溢れだし、天儀を蹂躙し始めた。 畑の作物を盗み、女性のスカートをめくったり、風呂で勝手にくつろいだり、猫の髭を抜いたりとやりたい放題。 その悪行にたちまち天儀は混乱し、開拓者ギルドには相談が押し寄せた。 ● 苦情の山を前に、係員は頭を抱える。 「まじめにとりあうのも面倒だが、放っておくのも厄介。とはいえ、メカモフラを倒しても艦から新しいのが降ってくる。あの艦自体は空から降りてくる気配もなし。さてどうするか」 「心配無用! こんなこともあろうかと策はすでに練ってあるわ! ミツコ、準備はOK!?」 「勿論出来てるよ、は〜ちゃん。という訳で、あちらをどぞー」 ギルドの壁をぶっ壊し。姿をあらわしたのは、二人の少女!! ミツコとハツコの示した先は、薄暗い部屋。派手な音を立てて煙が噴き出すと、それが晴れるのに合わせて派手なライトが浴びせられる。いつの間にそこにいたのか、五体のもふらが揃っていた。 「あかもふら!」 「あおもふら!」 「みどもふら!」 「きもふら」 「もももふら!」 「五体揃って、……えーと、なんだっけもふ?」 「そういや決めてた?」 「うーん」 「……遊びに来ただけなら帰れ」 悩みだす五体のもふらと少女二人に、係員は怖い目を向ける。 「酷いわね。この事態を打開すべく、策を練ってきたって言ったでしょ」 「目には目を、歯には歯を! ソーセージにはソーセージを! すなわち、モフラにはもふらさまを!!」 「もふ!」 拗ねるハツコに、胸を張るミツコともふらたち。 けれど、説明された所で係員の憂いは晴れない。 「たった五体のもふらで何が出来る。敵はどうやら無尽蔵だぞ」 「うん。でもねー。母艦のコントロールルームにある初期化スイッチを五体のもふらさまが力を合わせて押したら、全ての艦が止まって命令系統もリセットされるってさー。勿論あのメカモフラたちもね」 「なっ! どこでそんな情報を!?」 「散歩してたら取扱説明書が落ちてたもふ。多分ベコちゃんが高笑いした時に落としたもふ」 「そ……そんな簡単な」 どんと詰まれた艦隊取り扱い説明書を前に、係員が倒れ伏したのは当然かもしれない。 「いや、だがそれが本当なら一気に形勢逆転だ。お前たちに頼むのは多大に不安だが、天儀の為だ。是非やり遂げてくれ!」 気を取り直して、係員が頼む。 かくて、天儀の未来は五体のもふらに任された……ように見えた。 「うーん、でもまだ問題があるんだよねー」 ハツコが困ったまま、もふらたちを見つめる。 「もふー。飽たもふー。帰っていいもふか?」 「毛が汚れたもふ。風呂に浸かって一杯やるもふ」 「その前に、遊びたいから泥んこになるもふ」 口々に好きなことを言いたい放題。 任された自覚も何も無く。唸るハツコの横では、もふらたちがごろごろ転がりだす。 「もふらさま、まじめに戦ってくんないのよ」 「空に昇る手段も分かんないよねー。飛べないし」 「大問題じゃないか!」 天儀の平和はまだ遠い。 人々の生活を守る為、結局全ては開拓者たちに任された! |
■参加者一覧
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
菊池 志郎(ia5584)
23歳・男・シ
クロウ・カルガギラ(ib6817)
19歳・男・砂
ラグナ・グラウシード(ib8459)
19歳・男・騎
多由羅(ic0271)
20歳・女・サ |
■リプレイ本文 ※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。リプレイも架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。 ● 五百年の恨みを込めて。 宇宙艦隊を動かす酒天童子ことサケゾラ ワラベコ。 降下したメカモフラたちは、その命に従い、悪逆非道を行い始めた。 「……ってもなぁ。大した害は無さそうだけどさ」 妙なヤツラがやってきた。 クロウ・カルガギラ(ib6817)はその程度にしか思わず、悪戯三昧のメカモフラを気にも留めず。たまに向かってくるメカモフラも適当にあしらいつつ、とある茶店へと足を運んだのだが。 店先に貼られた『曜日限定スイーツ 売り切れ』に戸惑い、思わず店長に訳を聞く。 「売り切れ? まだ開店間もなしだろうに」 「すみませんねぇ。あいつらにドカ食いされてしまいまして」 店長が指差したのは、店を占拠するメカモフラたち。 出された皿はすぐに空っぽ。お茶までゆっくりとすすり、ふぅ、と一息をつく始末。 「MOFU−」 満足したのか。唖然と入り口で見ていたクロウを器用に笑うとそのまま駆け出していく。 「食い逃げだー!」 慌てる店長には目もくれず、クロウはちらかった食べかすに怒りを燃やす。 「次に食べられるのは一週間後なんだぞ! 先週から半月待ちになるとは、許せん! 来い、ユィルディルン!」 「ヒヒーン!」 愛馬の霊騎を呼び寄せるや、その背に飛び乗りメカモフラたちを追う。 「待ーてー」 「MOFU〜」 逃げ回るメカモフラに、投げ縄を作って振り回すクロウ。 その集団に、なにやら毛色の違うメカモフラを見つける。 「あいつがボスか?」 当たりをついて縄を投げる。見事、メカモフラの丸い首に縄が絡まった。 ぴんと張る縄を引っ張りすぎずたるまさず。絶妙な距離感をユィルディルンと取る。 「そのまま袋詰めにして開拓者ギルド送りにしてやる。そして、身動きできないお前のさんの前で、美味そうに甘菓子を食ってやろうじゃないか!」 黒い笑いを浮かべて、クロウが高らかに宣言する。食い物を奪われた恨み思い知れ、と。 メカモフラは縄で縛られ、動けず。 と思えば。その頭上にプロペラが現れる。 何がと思うでもなく。プロペラが回転を始めると、メカモフラが空に飛んでいく。――縄をつかむクロウごと。 「あ〜れ〜」 下手に手を離せば大怪我をする。 メカモフラと共に空高く昇っていく主人を、どこか呆然とユィルディルンは見送っていた。 ● 「悪戯も微笑ましいものなら放っておきますが、畑の作物を盗んだり、お風呂に勝手に入ったりするのはよろしくありません」 「あの艦隊が邪魔で洗濯物が乾かないと、御近所の主婦からも苦情がありました。母艦でふんぞり返っているサケノミハラペコちゃんにお灸を据えればいいわけですね」 空に位置して降りてこない艦隊群。そこに向けて、菊池 志郎(ia5584)と柚乃(ia0638)はとりあえず白旗を振った。 やがて、一体のメカモフラが二人に近寄ってきた。 「あんたたち。白旗ということは投降する気?」 その口から発せられた声は、今回の首謀者・酒天童子ことサケゾラワラベコ。どうやら艦隊から音声のみお届けしているらしい。 「はい。とてもメカモフラ艦隊に勝てそうにないし、自分やこちらのもふらさま達はむしろワラベコさんの下につきたいと考えてます。詳しくは近くでお話したいので艦内に御招き願えませんか?」 なるたけ丁寧な口調で志郎が頼むも、返事はつれない。 「ふっ、そんなやすやすと他人を敷地内に入れるかと……」 「天儀の酒やお菓子もお渡ししたいのですが」 「OK。今、迎えを出すから!」 あっさり前言を翻して、通話は切れた。 「やっぱりサケノミハラペコちゃんですね。天儀征服……。響きは魅力的ですけど、征服してどうするのでしょう?」 軽い侵略者に頭を抱え。 試しに柚乃は手持ちの道具で未来を占ってみる。 (晴れのちもふら。……もふらまみれになるでしょう) そっと想像してみる。 あたり一面にもふらさま。はじめよう いまからすぐに もふライフ。 そっと野望を秘めて天を見上げる。 そこにもふらが降ってきた。いや、もふらではなくメカモフラたちだ。 それだけでなく、地上に散っていたメカモフラたちも一斉に集まってきた。 あっという間に、辺りが偽のもふもふで埋め尽くされる。 「MOFU−」 メカモフラたちの叫びが唱和した。 その声がきっかけになった。メカモフラたちが次々と集まり一塊になっていく。 見る間にもこもこの毛玉は大きくなり、そこから手が生え足が生え、そしてにょっきり頭部が飛び出し。 巨大メカモフラが完成した!! 「でもあまり可愛くはないですね」 「そしてキミ達は真似しないように」 そばにいるもふらたちと比べて、どうしても玩具臭さが残るメカモフラ。 その出来栄えに柚乃は率直な感想を述べ、志郎は真似して複雑に組み合おうとするもふらたちに注意を入れる。 そして最後に箱が落ちてきた。どうやらこれに乗れという事らしい。 志郎と柚乃、柚乃の相棒であるからくりの天澪、そして五体のもふらたちが土産を持って乗り込む。 志郎の相棒である鷲獅鳥の虹色は、乗り込みこそしないが当然荷物を持って同行する。 それでどうするのかと思えば、がっつりと巨大メカモフラが箱をつかむ。それで運ぼうというのだ。 器用に箱をつかむメカモフラを、天澪が見る。童女の外見さながら、好奇心をむき出しにしているが、そのまま自分も巨大化したいとか言い出さないかと、柚乃は少し心配になった。 よっこらしょ、と巨大メカモフラが踏ん張り、開拓者らが入った箱を持ち上げる。 「皆、がんばってねー。もふらさまをよろしくー」 「とりあえずうまく行くよう祈ってるから」 それを見送りに現れたミツコとハツコ。 地上からのんびりと手を振る二人の横を、猛スピードで駆け抜けるものがあった。 駆け寄ってきたユィルディルンはためらい無く、浮かびかけた箱に飛び乗る。 「おや。一緒に行きますか?」 志郎が問いかけると、二つ返事で頷く霊騎。 霊騎一体増えたぐらいどうということはなく。 巨大メカモフラは、高い棚に鍋でも片付けるように、艦隊母艦へ荷物が詰まった箱を押し込んでいた。 ● 適当すぎる乗り込み手段に具合を悪くし、しばらく吐き気に苦しむ志郎と柚乃。 「ふふふふ。ようこそ、我が船へ――ってきゃー、何するの!」 「ペコ、働け」 ワイングラス片手にニヒルに笑いながら登場する童子に、すかさず柚乃から鞭が飛んだ。 すかさず童子は逃げる。 「危ないじゃない! どういうつもり!?」 「仕置き。悪い今年たらおしりぺんぺんする……そう聞いた」 「くっ、誰からそんな恐ろしいことを!」 ウィップ「カラミティバイパー」を構える柚乃に、童子も恐れながらも身構える。 その間に、志郎が割って入る。 「まぁまぁ、両人落ち着いてください。ワラベコさんとて遊んでいる訳じゃないでしょう」 「当然。復讐の為の計画を練っている所よ」 尋ねられて、童子が威張って胸を張る。 「なるほど。けど、口だけでは何とでも言えます。ここは一つ、仕事しているところを見せていただけませんか? 例えばコントロールルームでメカモフラに指令を送ってるところなど」 「見せてどうするっさー。どっちみちこのワラベコさまに逆らうなら、それこそおしりぺんぺんで牢獄に突っ込んでやるんだから!」 告げる酒天童子の周囲を、現れた小さなメカモフラたちが取り囲む。 それでも慌てず。志郎はにっこりと笑いかける。 「いえいえ俺は争う気はありませんよ。ワラベコさんのためなら猫の髭を抜く事も厭いません。勿論、牢屋も入れといわれるなら従いますよ。ただこの獄中から、仕事しろー、とかわめかれるのも嫌じゃないですか?」 不機嫌に鞭を持つ柚乃を、志郎は指差す。そのそばでは、早速目的を忘れたか、廊下でごろごろしているもふらたち。 仕事しない代表が転がっているのでは説得力無いかと内心ヒヤリとしたが。思う所があったのか、童子が考えた後に了承を告げた。 「分かった、ついて来なさい」 先導して歩き出す。 とりあえず、乗ってくれたことにほっとしながらも、本番はこれからだと気を入れなおす。 童子の周囲にはまだメカモフラが付き従っている。 「ほら、もふらさまたちも行きますよ」 「面倒もふー。このおやつを食べるもふ」 「それは後で。ふっかふかの寝床や大きな御風呂や見所は艦内にたくさんあるでしょう。一度は行っておかないと勿体無いです。それに、こんな格納庫みたいな場所で食べるより美味しく思えると思いますよ」 「もふ。それもそうもふ」 口八丁に言葉をつむいで、志郎がもふらを促す。 「そういえば、あの霊騎さんは?」 姿が無いのに気付き、柚乃が慌てて周囲を見渡す。 「もふ。ご主人を探すと行ってしまったもふ」 返って来た答えに少し不安にもなったが、目的が違うのなら仕方ない。 「――そういえば、天澪の姿も無いような」 自由行動を許したものの、全く視界に無いとなると困る。 こちらはさすがに放っておけない。どうしたものかと悩んでいると、当の相手が、童子が行った方から駆けてきた。 童子の連れているメカモフラにも興味を示して、のこのこと着いていったそうだ。どうせ主人達も一緒に来る……と思っていたら、当の主人たちは転がるもふらに合わせてなかなか来ず、慌ててしまっていた。 「向こうも遅いと怒ってます」 知らせを告げる天澪に、柚乃も急ぎ童子の後を追う。 「分かりました。さあ、もふらさまたちも行きますよ」 「このおやつも持っていっていいもふね」 「……。虹色、手伝ってあげてください」 もふらを動かすには必要になるかもしれない。志郎は鷲獅鳥に頼む。 室内で動きを制限されながらも、虹色は荷物を持ち歩く。 ● 分割されたモニターには、天儀の各地が映し出されている。 いずれも地上に降りたメカモフラたちがいたずらをする姿もばっちり映っている。 それで天儀征服が出来るのかは不明だが、実質被害が無い今のうちに止めねばならない。 モニターの前には、様々な機械が並んでいる。五つのブロックに分かれており、その真ん中には「危険触るな」と書かれた初期化用ボタンが、透明カバーの向こうに見えていた。 「あれを押せばいいのですね。でも、近寄るのは……」 志郎が声を潜めて告げる。 位置はすぐに分かった。だが、コントロールルームには作業中のメカモフラたちがごろごろと動いている。本家もふらよりも勤勉なのは間違いない。 「メカモフラたち、地上部隊は遭都に集結! 五百年の恨みを込めて、とりあえず……何か輪唱しなさい!」 マイクを通じて、童子の号令が飛ぶ。途端、ぴたりと地上で活動していたメカモフラたちが、それまでの行動をやめて別の動きを見せる。 別のパネルには、巨大な天儀の地図。そこに赤い光点が映し出され各地に散っていたが、それが遭都に集まりつつある。 光点はメカモフラの現在位置か。数はおびただしく、あの数が朝廷を取り囲んで輪唱を始めたら、いろんな意味で辛そうだ。 「さあ、どう! この華麗な仕事ぶり! 手伝うなら手を貸してもらうけど、あくまで刃向かうのなら……」 コンソール上に立って勝ち誇る童子。 ふざけた態度はそのままに、けれど口調が重い物に変わる。 早く止めねば天儀はさらに混乱する。けれど、もふらがスイッチを押す隙をどうするか。 しばし、にらみ合う。 唐突に。けたたましいアラームと共に赤い光が室内を駆け巡った。 「何事!?」 童子が声を上げると、すぐにモニターが切り替わった。 艦隊内部の映像だ。 クロウが霊騎にまたがり、群がるメカモフラたちを蹴散らしながら駆け抜けていた。 「いつの間に!?」 慌てる童子が何かをする前に、扉が音を立てて開いた。 「到着!」 そこに、ユィルディルンに乗ったクロウが飛び込んできた。 メカモフラたちをユィルディルンが蹴飛ばすと、クロウはふんぞり返っていた童子と対面する。 「貴様の野望もここまでだ、覚悟しろ……って、うん?」 「な、何。何か文句があるってーの?」 びしり、と指差し童子を糾弾したクロウだったが。その言葉尻が力を失う。 不躾に上から下から隈なく見る彼に、見られている方も戸惑っている。 やがてクロウはあからさまに盛大な息を吐き、がっかりと肩を落とす。 「なんだよ……『ベコ』で『角が生えてる』んだからさ、そりゃ期待するじゃん? 『牛的なもの』をさ。それがこんな……『ひんそーなちんちくりん』とは……」 「だぁれが、ちんちくりんだああああ!!」 やれやれと手を上げるクロウに、童子の顔がさっと朱に変わる。 「うーん、設定としてはどうなのでしょう?」 「胃袋は牛並でいいと思いますよ。四つじゃ足りないかも」 「何かすごい勝手なこと言ってるぅ! この作品は本編とは関係ないのにー」 小首を傾げる柚乃と志郎に、童子がさらに声を荒げた。 「えーい、細かい事はもういい! メカモフラたち、あいつら纏めてやっつけちゃいなさい!」 「MOFU−!」 システムをオートに切り替えるや、その場にいたメカモフラたちが一気に開拓者たちに迫る。 「食い止める! 今の内に早く」 クロウの指示で瞬く間に霊騎が走り回る。虹色もすかさず飛び出すと、翼を振るい風を起こす。 メカモフラたちの動きを封じる為。だが、さすがにメカなのか、蹴られ飛ばされようと踏まれようと、顔色一つ変えずに動く内は起き上がって命令を実行しようとする。 そして、もふらは急には動かない。 「もふー。どのボタン押すもふー?」 「ジャンケンで決めるもふ?」 「チョキをどうするもふ?」 「最初に決めておけー!」 その暢気ぶりに、動き回るクロウも思わず口を出す。 「はーははははっ! そんな間抜けに何が出来るか。艦内のメカモフラたちを集めて押しつぶしてあげ……ぎゃんっ!」 高みの見物で大笑いしていた童子の足に、柚乃のカラミティバイパーが絡みつく。そのまま引けば、足をとられて見事にすっ転んだ。 「こらー助けなさーい!」 「MOFU−」 足が絡まってもがく童子の指示を聞き、メカモフラたちが童子に群がる。 「今です。さっさと止めたらこの艦の設備で御遊び三昧ですよ」 メカモフラの動きが止み、志郎がもふらたちに囁く。 「もふー!」 遊び三昧と聞いて、即座にもふらが動いた。 「うぎゃあああ、止めてー!!」 童子の悲鳴など危機もせず。 カバーごともふらたちはスイッチを押していた。 艦の動きが止まった。 モニターは一斉にブラックアウト。アラームもぶつりと消えて照明も落ちた。 非常用の予備があるのか、薄ぼんやりと明るいだけのコントロールルームのあちこちでは、やはり動きを止めたメカモフラたちが転がっていたが。 その背がぱかりと割れる。 中からよいしょと出てきたのは、正真正銘のもふらたち。 「やれやれ大変だったもふ」 「言う事聞くのも大変もふ」 「やっぱりごろごろが一番もふー」 疲れた体をほぐすように、体を動かしたり転がったりだらけたり。 「殻が外れると、もっふもふのもふらさま?」 柚乃が告げる。 わらわらともふらだらけになる室内に、驚くべきか喜ぶべきか。 その中で、童子は薄暗い室内でも分かるほど青ざめて落胆している。 「あ、あんたたち、なんてことしてくれたのよ……」 その言葉を待っていたように、床が大きく傾いた。 艦が傾いているのだ。 「もしかして……エンジンの類も止まりました?」 何の音も響いてこないと気付き、志郎が恐る恐る確認を入れる。 「そんでここはどこだと思ってるんだーーっ!」 やはり童子の叫びを待っていたのか。 艦は急速に傾くと同時、一気に体への負荷を伝えてきた。 ● そして開拓者ギルドにて、ミツコとハツコは今回の依頼報告に目を通す。 「急降下しつつも再起動に成功。墜落した艦も無人の場所への誘導が効いて被害はなし……か」 「ふんふぐっ!」 「もふらさまたち、がんばったんだねー。メカモフラたちももふらになったし、よかったよねー」 「んんがー!!」 淡々と読み上げるハツコに、暢気に労うミツコ。 「そんなに簡単じゃなかったですけどね」 その時を思い出し、志郎はやれやれと出された茶をすすった。 落ちる艦内。渡されていた取扱説明書から起動方法を探し出し、実行するのがどれだけ大変だったか。 再び動きを取り戻した艦は、オートに設定した上で宇宙に送り返した。 メカモフラのパーツは幾つか残ったが、艦と連動しているのかもはや動きもしない。 天澪が、気に入ったか組み立てて玩具にはしているようだが、その程度だ。 「んんがんがーぅ!」 「それで、この子どうするの?」 ハツコは依頼書をたたむと、床に転がってる物体を指差す。 さるぐつわでしめられ、縄でぐるぐる巻きにされた童子が転がされ、芋虫のようにくねっていた。 その目の前には、豪華ケーキセット。そして、それを頬張るクロウ。 「いろいろな裏技用いて無罪放免らしいけど。そうは問屋がおろさない。罰はたっぷり受けてもらおう。結局メカモフラの親玉はこいつなんだしな」 「んがー!」 おいしそうなスィーツをたっぷりと見せ付けながら、それを目の前でじっくりと味わう。 くやしがる童子を上から目線で笑い、クロウは食べものの恨みを存分に晴らしていた。 「もふもふ。もふたちも欲しいもふ」 「そうですね。もふらさまたちも今回がんばりましたから」 美味しい食べ物に集まるもふらたちに、柚乃は、では料理を作ろうと立ち上がる。 天儀の危機などそこにはなく。和やかないつもの光景が舞い戻っていた。 |