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■開拓者活動絵巻 |
■オープニング本文 天儀各地で問題発生。 神楽の都の片隅で、不穏な情勢に乙女たちも怯える。 「なんかさー。最近、物騒ばかりでいい話ってあんまり聞かない気がするよねぇ」 「陰殻はああいうお国柄だからしょうがないとしても、アヤカシはねぇ。理穴でも暴れてるらしいし、勘弁して欲しいわ」 内容の割には緊張感も無く。蜜豆なんぞ食べながらミツコとハツコはまったりとしている。 「開拓者さんたちには是非ともがんばって欲しいよねぇ。でも、みーちゃんたちも何かお手伝いできないかなぁ」 「資財運び程度なら出来そうだけどね。でも、それはもふらさまたち貸し出せばいいだけか」 「やっぱり無いかぁ」 首を傾げるミツコに、ハツコも一応考える。 一般人の彼女たち。出来る事も限られる。むしろ戦場に近付く方が邪魔となる。 おとなしくしてるのが一番だねぇと、のんびり蜜など口に頬張る。 「そんな事はないもふ!」 そこに否定を入れる声が現れる。 すっくと立ち上がり、無駄に胸をそりくり返して威張るもふもふの塊は―― 「もふらさま!!」 二人は立ち上がると、蜜豆を椅子に置いて、地にひざまずく。そんな二人に、もふらさまは厳かに告げる。 「確かに無力かもしれないもふ。でも、後方からの応援が強い力になる事もあるもふ!」 「それは――具体的にはどんな風に?」 「星に願うもふ!!」 力強く宣言するもふらに、二人は尋ね返す。 「今は年に一度の七夕もふ! 笹に短冊かけて祈ればきっと叶えてくれるもふ!」 「なるほどなー」 「そして、祈るには禊が必要もふ!」 感心する二人に、続けざまにもふらは叫ぶ。 「禊にはたっぷりの水が必要もふ! それには海が一番もふ! 濡れると体が冷えるので火を焚くもふ! それにはやっぱり砂浜が一番安全もふ! 祈るならお供えも必要もふ! でっかいお願いの為には、でっかいお供えが必要もふ! すなわち西瓜を供えるもふ! でも供えっぱなしは付近の人に迷惑になるので、ちゃんともふたちで食べるもふ!」 「なるほど! それじゃさっそく!」 立ち上がろうとした二人を、慌てるなともふらが制する。 「待つもふ! 少人数でやってもつまらないもふ! 大人数で祈ってこそ、お願いも大きくなるもふ!」 「じゃ、ギルドに相談だね♪」 「そうしましょうか♪」 「「以上、現場再現でしたー♪♪」」 「長いし、訳分からんわっ!!」 ミツコとハツコによる開拓者ギルドで繰り広げられてた寸劇に、まばらな拍手が起こる。その拍手よりも大きな声で、開拓者ギルドの係員が悲鳴に似た叫びを上げていた。 「要するに。海で泳いでから砂浜に笹立てて焚き火の準備。夜になったら火を焚いて短冊に願い事書いて、西瓜食べましょうというお誘い」 「砂浜は借りたから大丈夫ー。笹も用意したし、短冊も用意したし。あ、水着も貸し出してくれるところ見つけてあるから大丈夫だよぉー」 小道具の蜜豆をがつがつと平らげながら、二人笑顔で説明する。その周囲では、もふらたちが満面のドヤ顔を浮かべている。 「海水浴して七夕しながらキャンプファイヤーで西瓜割りの間違いじゃないのか?」 「平たく言うとそうなるわね」 「もふ」 端的に言い直した係員に、二人ともふらたちも開き直る。 やれやれと肩を落としながらも、係員はいつものように開拓者たちを募集する。 参加するか、手伝うかどうかは、開拓者次第。 息詰まるこのご時勢に、息抜きは必要かもしれない。 ――もっともこの依頼人たちは息を抜いてばかりなのだが。 |
■参加者一覧
皇・月瑠(ia0567)
46歳・男・志
レイア・アローネ(ia8454)
23歳・女・サ
ワイズ・ナルター(ib0991)
30歳・女・魔
黒曜 焔(ib9754)
30歳・男・武
リーシェル・ボーマン(ic0407)
16歳・女・志
ヴァレス(ic0410)
17歳・男・騎 |
■リプレイ本文 不穏な情勢に怯える依頼者。 何か自分達にも出来ないかと、もふらさまのお告げに従うことに。 「そろそろ出発もふ!」 禊の海の為――もとい、単に泳いで遊びたい為に、はりきるもふらが皆を急かす。 「ちょっと待て! いろんな水着があるのはいいが悩むなぁ。どれにするか」 「早くしないと置いてくよぉ〜」 沖にある島へ行く舟を始め、必要な物は全て用意してくれている。水着だって貸し出し可能……は、いいが。張り切って品数揃えてくれたおかげで、レイア・アローネ(ia8454)は衣装合わせに目移りする。 「水着は褌でもいいのかね?」 一通り用意された物を見比べて、おっとりと黒曜 焔(ib9754)は訊ねる。 自身でも水着は用意している。 が、水着「レッド・ダンディ」の真紅は彼にとっては派手すぎたらしい。 「別にいいよ〜。素っ裸は困るけどー、要は禊で泳げればいいんだし。皇さんだってそうだもんね」 ミツコが指差すその先には、戸板を抱えて波を見ている皇・月瑠(ia0567)の姿がある。 背の彫り物も露わに、まっすぐと海を見据え、もふんどし一丁が風になびく。 厳しい表情は一体何を思うのか、傍目から想像もつかない。背中の天女の美麗な笑みとは裏腹に、どこか近寄り難い気迫すら感じてしまう。 「では、わたくしも用意した水着で参加させていただきます」 ワイズ・ナルター(ib0991)も着替えると、モノキニ「ブラン」を披露する。 ワンピース型の白い着衣だが、前が大胆に切れ込んであり、背中も布地が無くて紐で結んだ大人の水着。なかなかセクシーな姿に、焔の猫耳と尻尾がぴんと跳ね上がる。 ただ。如何せん、人目を引くにはここにいる人も限られる。 ヴァレス(ic0410)とリーシェル・ボーマン(ic0407)にいたっては、互いが一番に目に入る様子。 「せっかくだから俺は借りたよ。ぉ、リーシェルのもいいね、似合ってるよ♪」 「そんなにじろじろ見ないで。……やっぱり着替えてくる!」 黒に青波模様のトランクスでリーシェルを待っていたヴァレスは、その相手の姿をしっかりと見つめる。 一方。見られたリーシェルは、顔を真っ赤にしてまた着衣室に駆け戻ろうとしている。ヴァレスの為にわざわざ用意したビキニだというのに勿体無い。 「もふらさまが待ちくたびれてるから出発するわよ、急いでー」 「はーい、今行くよー。――という訳だしね」 お冠で叫ぶハツコに、ヴァレスは色よい返事をする。 一時は着替えると騒いでたリーシェルも、ヴァレスの説得に落ち着きを取り戻し。まだ恥ずかしそうにはしてるものの、急いで用意された舟へと乗り込んでいった。 「いざ、出発もふ!」 そして、全員が乗ったのを確認すると、もふらの掛け声と同時に舟は沖へと漕ぎ出されていった。 ● 舟がついたのは目と鼻の先の小島。そこから向こう岸まで泳いで禊とする。 到着地点は見えているだが、泳ぐとなるとそれなりの距離はある。 「ふむ。少し弱いが、悪くないうねりだ」 小島から海岸を望み、月瑠は波を読む。 波は穏やか。泳ぐにはいいが、波に乗るにはつまらない荒さだ。 だが、そもそももふらさまの付き合いと思えば、我慢も出来る。軽く準備運動を済ませると、いざと砂に刺した戸板を脇に抱え、海へと足を進める。 「では、まずは禊もふ! 身を清めるもふ!」 言葉の崇高さとは裏腹に、海の煌き以上に目を輝かせてもふらが波に飛び込んでいく。 「もふらさま。泳ぐの手伝ってくれませんか?」 「もふもふ。手助けするのも徳の内もふ」 波間からナルターが呼びかけると、すぐにもふらが寄って来る。 水に浮かぶもふらは浮き袋代わりに丁度いい。ただ泳ぎはうまくない。波に揺られて、油断するとあらぬ方へ流されてしまう。舵取りをしてくれる人間がいるとありがたいので、そこはもちつもたれつだ。 ナルターとたわむれるように進むもふらたち。 それを見つめて、おうちで留守番している相棒もふらを思い浮かべて焔はしんみりとする。 (今頃拗ねてるだろうなぁ) 連れてきたかったが、一応これも仕事の内。けじめは必要。 けれど、波間でちゃぷちゃぷ手足をばたつかせているもふらたちを見ていると、どうしても思い出さずにいられない。 家にも思いを寄せつつ、目の前のもふらたちにも気を配る。一生懸命泳いでいるのか、水に遊んでいるのか。波にさらわれそうなら犬掻きで近寄ると、海岸の方に向かえる様に捕まって共に泳いであげる焔。 月瑠も、沖まで流されそうなもふらを見つけると、ただちに救出に向かう。さっそうと板で波切り近寄ると、もふらに手をかけ全力で岸へと押し戻す。寡黙で表情も変えず、けれどその行動は優しい。 「もふー。助かったもふ!」 何とか陸まで泳ぎ着き、ぐっしょり濡れてぺたんこになった毛をもふらが震わせる。 その水飛沫がかかるのも気にせず、無事でよかったと頷くと、月瑠はまた戸板抱えて海へと乗り込んでいく。 島から海岸へと無事泳ぎ戻り。なのに、リーシェルは落胆を隠せない。 「負けたかぁ。川泳ぎとは勝手が違った」 泳ぎには自信があった。なので、島にいる時にヴァレスに意気揚々と賭けを申し出た。……というのに、この結果。 反面、受けたヴァレスは嬉しそうな事この上なし。 「さて、賭けの褒美は……もうちょっと考えてみようかな。勝ちに夢中で考えてなかったからね」 「御手柔らかに頼むよ」 敗者は勝者の言う事を一つ聞く。リーシェル自身が言い出した条件なので、今更無しにも出来ない。 「皆、御疲れー。日暮れまでもう少しあるから、各々休んでてー」 「でも、暗くなる前に薪組むの手伝ってよ」 海岸まで泳ぎ着き、一息つく皆に、依頼者からの声が飛んできた。 ● 泳いだ後はしばし休息。 ではあるが、そこは御気楽もふらさま。ごろごろ寝そべる者も入れば、また海に乗り出し波に漂う者いる。 波際ではリーシェルとヴァレスが二人戯れる。 「それで? 頼み事は決まった?」 「後でね」 リーシェルは先ほどの賭けが少々気になる。 だが、首を傾げる彼女にヴァレスは普段の笑顔をさらに明るくして、返事自体ははぐらかす。 沖では、月瑠が変わらず戸板で波乗りを続けている。 上手いものだが、たまには波を読み違えて盛大に波に飲まれている。 海に沈むことしばし。溺れたかと心配になる頃に、ようやく波間から顔を出して、漂っていた戸板につかまる。 小脇には、海亀がじたばたもがいている。さすが開拓者というべきか。沈んでもただでは浮かんでは来ない。 砂浜にはそうやって捕らえた魚が大量で、もふらさまたちも喜んでいる。 月瑠の表情や態度は相変わらず変化は無く、想像も出来ないが、どうやらかなり満喫しているようだ。 それを何度も繰り返して波を楽しんでいた月瑠。何回目かの浮上の後に、ふとさらにその目が天に向いた。 「そろそろ頃合か……。篝火は……天高く摘まねば意味がない……」 日の傾き具合を見た月瑠は、海から戸板に乗って戻ってくる。 「もふらさまたちも退屈しだしてるようですから。早々準備にとりかかるのは悪くは無いですね」 水着のままで、構わず用意されてた薪を持ち上げたナルター。なのだが、その際、うっかり水着を引っ掛けてしまう。 「しまった! や、破れてないですよね」 脱げそうになり、思わず薪を放り出して身を押さえる。幸い、直接見た者はいなかったようだが、裏返った悲鳴とその慌てようは見過ごせない。 「どうした!? 何が起き……うわーっ!」 尻尾振り上げ、全力で駆け寄ってきていた焔が、突然消えた。 「え? え? 一体どうして……きゃああ!!」 乱れた水着を慌てて直しながら、焔の消えた現場に駆け寄りかけたナルターも。すぐに踏み出した足場が柔らかいのに気付いた。 まずいと思った時にはすでに遅し。掘られた砂穴に足を滑らせ、体がすぽりと沈みこむ。 「……。もふらさまの仕業ですね。何するんですか」 尻尾を振ってしてやったりのもふらたちを、ナルターは静かに睨む。 出ようとしても、砂が崩れて上手く這い出せない。気付いた他の人の手を借りて、ようやく抜け出した。 「穴だらけでは薪も組みにくい……。すなわち篝火も無しになる……。祈りも西瓜も魚も無い……。嫌ならただちに砂浜整地を求める」 「もふもふ。それは困るもふ」 太い薪を両肩に担ぎ。月瑠が声をかけると、もふらたちは慌てて穴だらけにした砂浜を埋めて回る。 「ちょっと待って。誰か〜」 慌てたあまりか、それともわざとか。穴に焔を入れたまま。首だけ出した状態で、しょんぼりと焔の耳もうなだれる。 ● 日が暮れると、薪に点火。月瑠が綿密な計算と共にくみ上げた篝火は盛大に赤々と燃え上がり、けれども火の粉や煙が風に流れて邪魔にならぬよう工夫されている。 ちゃっかり獲った魚も焼き上げられ、皆に振舞われる。 「……万物事象は流転する、ただ火を焚くだけでは持ったいなかろう」 古酒を嗜みつつ、たまにするめを炙り、もふらや依頼人たちの騒ぎを目を細めて見守る。 燃え広がらない位置には笹も立てかけ、思い思いの願いの短冊をつるして、後は厳かに祈る。 ――という主旨だったはずだが。 もういい加減、もふらたちはそんな建前なんて忘れ果て、自身の遊びに興じている。 「そこを右! いや左! もうちょと前って、こっちに来過ぎ。一旦後ろに下がって……ちっがーーう! そ、そこは!!!!」 器用に棒をくわえ、西瓜割りに勤しむもふらたち。 が、やはり慣れてはおらず、目隠しされてあっちこっちに棒を振り回す。 それだけなら可愛いものだが。 どうして、肝心の西瓜が焔の隣で当たり前に転がっているのか。 砂に埋められたまま、逃げられず。珍しく必死の形相で首を動かし、どうにか棒から逃れる。 「おふざけはそこまでにして〜。そろそろちゃんと食べようよ〜」 のんびりとしたミツコの静止でようやくもふらも退散。焔も掘り起こされ、改めて西瓜は割られて配られる。 「よく冷えた西瓜ですね。甘みも十分で、暑さに疲れた体に丁度……くしゅん」 渡された西瓜を堪能していたナルターが、ちいさくくしゃみをする。水着から浴衣「月下美人」に着替えたとはいえ、夜は冷える。海風も強く、思うよりかは肌寒い。 気付いた月瑠が、それとなく薪を増やす。炎はより高く燃えて明るさを増し、純粋な熱気を振りまく。 上がる火の粉に目を向けながら、月瑠は一人娘の成長を願う。七夕用にかけられた短冊には『家内安全』。簡潔な文字だが、込められた願いは重い。 ナルターもまた、上がる炎に見ていた目をそっと伏せて手を組む。 (平和に過ごせますように) 炎と共に、その思いが天にも伝わるよう、真摯に祈る。 「やぁっと抜け出せたぁ。……うん? もふらさまたちも欲しいのかい?」 砂だらけのまま砂浜にひっくり返る焔。渡された西瓜にさっそくかぶりつくも、すぐに物欲しそうな目線に気付く。 試しに一欠け分けてあげると、すかさず大きい方に口を持っていくもふらたち。のみならず、焔を挟んだまま争奪戦を始め、すぐにまた砂まみれのもみくちゃにされてしまう。 「いたた、重い! もふらさま、助けてー」 無茶苦茶にされながらも、回復スキルを活性化させててよかったとほっとする。普段おっとりしてようとも、そこら辺は抜け目がない。 少し離れた場所で、騒ぎを見ていたヴァレスとリーシェル。彼らの甘い雰囲気を読んでか、西瓜を渡した後は珍しくもふらも寄って来ない。 「君と星を見るのは三度目か」 「星も綺麗で、火の粉も星のようで」 「あぁ、綺麗だまた来れるとい……」 「そういえば、リーシェルは勝ったらどうしようと思ってたの?」 二人で見上げる空の下。ヴァレスは、リーシェルの言葉を切って質問を割り込ませる。 不意を食らい、リーシェルの顔が持っていた西瓜も落としそうになる。顔が赤いのは、火を映しているせいではなさそうだ。 「そ、それは……、いや、その……キス、を……だね」 歯切れ悪く、言葉もたどたどしく。それでも、短い言葉と態度には願望が如実に表れている。 気付いて、ヴァレスも笑う。 「俺のやりたい事は決まったよ。今からある事をするけど動かないでね」 恋人になってしばらく。けれど、いまだにした事が無い。 驚いていたリーシェルも、顔をさらに赤らめたまま、黙って頷く。 二人の姿がそっと重なる。 揺れる短冊には『リーシェルとずっと一緒に』『ヴァレスと共に有れますように』。 もふらたちの争奪からようやく抜け出た焔も、砂を払うと改めて短冊に願いを記す。 (子供たちの笑顔を守れますように) 書き上げ、満足な笑みでつるしながら……ふと思い出してもう一つ短冊を手にする。 「御財布が……もうちょっと重くなりますように」 何せもふらの食費も洒落にはならない。つるすとついでに拍手打って真剣に祈る。 願い事は様々なれど、その思いの強さは誰しも同じ。 幸せが訪れますように……。 |