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■オープニング本文 季節は梅雨。 ただでさえ、水辺は要注意になる時期。そこにさらに別の要因が加わったりしたら、近くに住む者は堪ったもんじゃない。 「うちの村周辺では水が悪く、井戸を掘っても使えないんだ。だから、生活用水は雨水を溜めたり、その川で汲んだりしてる。後は、食用の魚を取ったり、洗濯に使ったりと川に行く用事は多い」 ギルドを訪れた依頼主は、矢継ぎ早に現状を訴える。 そうやって生活に頼る所の多い川に、最近アヤカシが出るようになったのだ。 「川辺で用をしていれば、鰐が出るようになった。どうにか今は凌いでいるが、怪我をする奴が後を絶たない」 勿論単なる鰐がそんなほこほこいるはずは無い。実際、今まで小さな魚ぐらいしかいなかった川なのだ。 水辺は、家事に出る女性も多い。しかし、こうも危険であっては近づけない。 夫や家族に代わってもらっても、相手がアヤカシではおちおちと気を弛めていられない。 鰐に食われて怪我をする者や、手足を失う者さえ出ている。 ただでさえ、働き手をさらに働かせているのに、失ってしまってはこの先どう生計を立てていくのか。 しかも、鰐は陸も動ける。 なかなか捕らえられぬ獲物に焦れて、村にまで来るようになっては子供らも危ない。 さらに。梅雨が明け、本格的な夏が始まれば雨水だけで生活するには限界が出る。 なので、今の内にこれらアヤカシを掃って欲しいという。 請け負ったギルドは、さっそく開拓者を募集する。 「確認された鰐は八体。普段は穏やかな川らしいが、ここの所の雨で流れが速くなっているという。危険なほど荒れてる訳でもないが、それでも注意は必要だろう」 アヤカシの数もそこそこいる。噛み付かれて怪我をせぬよう注意してもらいたい。 |
■参加者一覧
樹邑 鴻(ia0483)
21歳・男・泰
向井・智(ia1140)
16歳・女・サ
ザザ・デュブルデュー(ib0034)
26歳・女・騎
オラース・カノーヴァ(ib0141)
29歳・男・魔
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔
四方山 揺徳(ib0906)
17歳・女・巫
盾男(ib1622)
23歳・男・サ
蓮 神音(ib2662)
14歳・女・泰 |
■リプレイ本文 「今回のお仕事は、川で鰐退治らしいでござる。‥‥鰐退治です。鰐肉って美味しいでござるかね‥‥」 ぐぎゅー、と、腹を鳴らす四方山 揺徳(ib0906)に、石動 神音(ib2662)がきっと目尻をきつくする。 「そんな暢気な事言ってちゃ駄目! このままでは死人が出るかもしれないんだもん。‥‥神音にはセンセーがいたけど、とーさまやかーさまがいないのはやっぱりさびしーもん。神音みたいな子を作っちゃだめだよ」 自身を省みて、最後には神音は肩を落とす。 「あ、いや、承知しているでござる。どの道アヤカシは食べれないでござ‥‥ですから」 その勢いと、口調の訂正にしどろもどろになりながらも、揺徳は咳払い一つ、気を取り直す。 「大した心構えアルね。最近暑いし涼めそうな依頼でついでに技試しがしたかった‥‥とは言わない方がいいアルか」 「何を言ってるのだ?」 盾男(ib1622)の呟きに、オラース・カノーヴァ(ib0141)は首を傾げる。 「いやいや。それより、どう対処するアルか?」 誤魔化した問いには、ザザ・デュブルデュー(ib0034)が口を開く。 「川幅はさほど大きくないとはいえ、水上は不利。河原が比較的広い所からしても土手辺りに布陣して誘き寄せ、迎え撃つのが基本的な作戦と言う事になるな」 水の流れは早く。船は用意してもらえそうだが、足場の悪い所での戦いが危険なのは容易に考えられる。 「一応流されないよう命綱の縄は持ってきた。水が使えないのは、死活問題だからな。さっさと片付けて安心して使えるようにしないと」 樹邑 鴻(ia0483)が、荷から荒縄を用意する。 「私も荒縄は用意しております。それと、川辺で滑るかも知れませんのでお気をつけて。靴に縄や藁を巻いて滑り止めにするのもいいですね」 ジークリンデ(ib0258)が皆の足元を見回す。 「私は草履持ってきてるから大丈夫。足場の状況で履き替えるよ。村の人々を傷つけ、生活すらも苦しめるとは‥‥。 人々の盾を目指す者として、この様なアヤカシ、放っておく事は出来ません!」 「盾ね」 拳を込めて、唸る向井・智(ia1140)に、盾男が一つ頷く。 ● 「村人さん達の平和な日々は、我々が取り戻して見せます――っ!」 不安と期待を込めた村人たちに智が気合を込めて宣言する。 彼らから具体的な場所を聞くと、さっそく開拓者たちは問題の川へと足を運ぶ。 生活に使っていただけあって、現場まではきちんと道が出来ている。行くのは簡単だが、アヤカシたちが村へやってくるのも容易いだろう。 着いた河原は、その周辺だけ草が刈り込まれ、整備されていた。自分たちが動ける空間だけあれば、と考えたのだろう。 その他は日当たりに応じて草が生え、樹が迫り出し、自然のままの状態で放置されている。 悪くは無いが、今はそのどこに敵が潜んでいるのか。 「アヤカシは瘴気の塊、この世の穢れの証。なればこの水面にも恐ろしい澱みが潜んでいるということなのでしょうね」 ジークリンデが流れる川に目を向ける。 川幅約三丈。昨今の雨の影響で流れは早く、水もやや濁って見える。それでも、泳ぎに達者なものなら向こう岸に着く事はできよう。 恐るべき邪魔が入らねば。 滑らないよう草履に履き替え、杭を打って命綱を貼り、戦いやすいように周辺を整備し直す。 「こうしてる間にも、近付いてるって事は無いのかなぁ」 松明に火をつけて、神音が水辺を照らす。 「いるでござるよー。ただ、遠巻きに様子を見てる感じでごじゃ‥‥います」 瘴索結界を用いた揺徳が川を指し示す。 茂みの陰に水の中。どこもざっと見ただけではアヤカシがいるとは判別できない。 「こちらの不穏な気配を向こうを嗅ぎ取ったようでござ‥‥そうだ。で、どうする?」 揺徳が振り返る。 迂闊に近付けば襲ってきそうだし、このまま様子を見ているにも時間がかかる。 「じれったい。破裂させて脅すか?」 オラースが焙烙玉を取り出してみせる。 「来ないなら、呼び出せばいいのよ」 「フォローする。気兼ねなくやってくれ」 鴻が構える。 あっさり頷くと、智は咆哮を放った。 途端、ばしゃりと水が跳ねた。水が揺らぎ、影が動く。 そして、川から姿を見せた鰐たちは、その大顎を開け、素早く智へと襲い掛かる! 「先手必勝。村人の不安を取り除き糧を得る為、消滅してもらうぞ。鰐もどき!」 気を術に集中し、オラースのアークブラストが炸裂する。仰け反った鰐が激しく水を打つも、その他の鰐たちは構わず押し寄せてくる。 「固まって来ていただけたのなら、こちらもありがたいですわ!」 姿を認めるや、ジークリンデがブリザーストームをお見舞いする。 霜を張り付かせた鰐たちに、智が迫る。 「どんな時だって、皆さんの盾になって見せますっ! ‥‥盾根性――ッ!!」 開いた大口に、大斧「塵風」を叩き付ける。 分厚い刃が深く食い込む。しかし、その一方から別の鰐が智に食いつこうと大きく跳ねる。 「甘いアルね!」 盾男が団牌を叩き付ける。盾に巨体の重みがずしりと響いたが、それを弾みに鰐が跳ね返った。 「ミーは伊達に盾男名乗ってるんじゃないアルヨ。攻防に盾を使えてこそ、一人前の騎士アルネ」 鰐たちを鼻で笑うと、盾男は川を背に取る。陸上に上がった鰐たちを川に逃がさないようにする為だ。 対し、正面に陣取るのはザザ。 「抜けられるのもまずいからね。後方は頼みますよ」 「その時はこれを食わせようか」 ザザの言葉に何事も無くオラースは焙烙玉を手にする。もっとも、着火から爆破まで僅か時間がかかる。相手の姿が見えているならとアストラルロッドを振りかざす。 ダイアモンドの光が弾く杖の先からブリザードが吹雪き、鰐たちを飲み込む。 「少し混戦模様でしょうか。逃したりはいたしませんが」 眩い閃光と共に、ジークリンデの透願の御玉から放たれた雷は茂みに入り込もうとしていた一体を狙い打つ。 「早急に、数を減らす!」 鴻が飛び掛ってきた大顎を、さらに下から打ち上げる。 強烈な一打で鰐は仰け反り、引っくり返る。 「はあああー!!!」 気力を集中して攻撃力を高める。 見えた真白い腹に鴻は覆い被さると、容赦無く朱槍を降り下ろす。 暴れる鰐にさらに体重をかける。びたびたと地を打っていた尻尾がだらりと垂れた。散った血のようなものは、瘴気となって霧散していく。 「アヤカシじゃあ、から揚げにして喰う事も出来ないな」 「普通の鰐なら、お持ち帰りして肉三昧な生活だったのに‥‥」 残念そうにする鴻に、揺徳も肩を落とす。 「もう。そんな事ばっかりじゃ駄目だよ」 神音は口を尖らせる。 「分かっている。遊ぶつもりは無い」 飛び掛ってきた鰐を躱すと、即座にその頭を蹴り上げる。 沿った一匹を槍で制すると、横合いから走り寄って来た一体に気功波をぶつける。 「うきゃ」 生えた牙を見せ付けるように、神音に間近に口があった。 震えを感じたものの、それを意識した時には持っていた松明をその口に放り込んでいた。 一瞬にして口が閉じ、松明が砕かれ、火ごと飲み込まれる。 鰐で一番怖いのは、やはりその強靭な顎に咬み付かれる事。 神音は命綱を引っ張ると、とりあえず口を塞ごうと鰐に巻きつけてみたが、 「きゃあ!」 その絡んだ縄ごと、神音を引き摺ろうとする。 仕方なく手を離すと、再び自由に動き出す前に神音は七節棍をその目に向かってしたたかに打ち込む。 がばっと、鰐の口がこれまで見ないほどに開き鞭のように尾がしなって来た。 躱すが、わずか掠る。それだけでもひどい痛みが走ったが、やはり無視して鰐と対面する。 「負けてなんていられない。神音も開拓者なんだから、センセーみたいに強くなるんだ!!」 歯を食いしばると、棍を構えた。 「まったく。なかなかしぶといな」 ザザは呼吸を溜めると、力を込めてフランベルジュを握り、強烈な一撃を放つ。 炎のように波打つ刃は 鰐の顔が大きく殺ぎ落とされる。 「瘴気に戻れば痛みも無くなる。それよりアヤカシの動向は?」 剥き出しになった歯を見せつつ、鰐が迫る。 それを躱して、背から串刺しにしつつザザは揺徳を見る。 「ちゃんと追っているでござる。逃げていくようであれば追いかけて始末。逃げなくても始末」 最初は智だけを狙っていた鰐も、術の効果が解けてくると共に他の人間にも目移りし出す。 密集していては戦いづらいので、自然ある程度の範囲に散らばるし、痛い目を見れば様子見で姿を隠そうともする。 瘴索結界で感知したまま、その範囲をなるべく広げないよう揺徳は回り込む。 が、取り立てて攻撃が出来るわけでなし。茂みに逃れようとする鰐だったが、ある地点に踏み入った途端、強烈な吹雪に包み込まれた。 「おやおや」 「フロストマインは設置済みです。お気をつけあそばせ」 肩を竦める揺徳に、ジークリンデが微笑する。 「と言っても、隠れられるのは厄介よね。やっぱりこっちに来てもらいましょうか」 智の咆哮。他の開拓者と争っていたアヤカシたちも、彼女の方へと頭を動かす。 「逃がさないアル!」 ガードに噛み付いていた鰐が魅かれて動き出したのを、盾男は盾ごとぶつかり押し倒す。倒れた鰐に止めとばかり鴻が気功波を放つ。 雪雷飛ぶ中、刃閃き肉が飛び、骨の砕ける音が響く。 「‥‥向かってきても始末。かわいそーなわにー」 暴れる鰐たちに、何の抑揚も無く揺徳が言葉をかけた。 ● 「ふう、最近暑いから水辺は涼しくていいアルねー」 足を水につけて、盾男が一息つく。 「鰐はもういないのか?」 「反応は無い。倒した数も、聞いていた数と合ってたので大丈夫でござろう」 周囲を念入りに見渡すザザに、揺徳は頷いてみせる。 「アヤカシたちの瘴気。これで少しでも祓えればいいのですが‥‥」 ジークリンデは水の精霊に向けて舞を捧げる。 神音と揺徳とで傷を癒すと、村に報告。 ようやくこれで安心して川を使えると、安堵の声が漏れ。早速川の仕事へと村人たちは向かい出す。 神音も、怪我をして動けないという人に代わり、仕事の手伝いを申し出る。 溜まっていた雑用をどっさりと頼まれてしまったが、それは気にならない。 「これで神音もセンセーに少しは近づけたかなぁ‥‥」 不安そうに呟きながらも、明るく笑う村人に混じり川辺へと急いだ。 |