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■オープニング本文 「なんだ、これは!?」 骨董趣味の旦那さまは、蔵を覗いて驚愕した。 そこは、自分が気に入った品々が詰め込まれている。価値のある物もあれば、どうでもいい品もある。 その中に、青銅で出来た騎士像がある。ジルベリアの商人から買った物だという覚えがある。 ただし、二体だけ。 買ったのは随分前で、昨日までは確かにその二体だけ。価値も様々な美術品を守るように入り口近く左右で対になるよう立てられていた。 それが十体に増えている。入り口から左右対になるように向き合い、奥に向かって五組が等間隔で並んでいる。 家族を呼んで尋ねたが、誰も購入した覚えはないという。 一体いつ増えたのかとふしぎに思いつつ、手前の一体に近付いてみる。 見ても普通に騎士像だった。それまでは。 旦那さまが次の像を確かめようとして、最初の像から離れた時だった。ただの青銅像のはずが、手持ちの槍を構え、素早く旦那さまの背中にその刃を差し入れた。 「がはっ!!」 急所を一突き、何が起きたかも分からないまま旦那さまは倒れて、床に血反吐を吐く。 途端に、付近の騎士像も動き出した。同じく手にした槍を構えると、もだえる旦那さまに容赦なく槍を突き立てる。 「ひ、ひぃいいい、誰かぁあああ!」 入り口から見ていた家族は、悲鳴を上げて逃げる。だが、動く騎士像から飛んだ槍が家族すらも簡単に血祭りにあげた。 「どうした、何が起きた!?」 悲鳴を聞きつけ、家の方からばたばたと人が集まる。 その物音を聞きつけたか、騎士像たちは顔を見合わせるや、素早く槍を引き抜きついた血を被害者たちの衣服で拭うと、蔵に戻り、また元の像のように整列する。 「こ、これは一体! 賊の仕業か!?」 駆けつけたのは使用人で、ただ惨憺たる有様に腰を抜かした。 まさか蔵の像が動いたなどと思わず。旦那さま自慢の蔵が開いていた為、彼らはそう判断したのだが……。 ● 「たまたま、別の使用人が物陰から一部始終を見ていた。それで勘違いせずに済んだという訳だ」 開拓者ギルドに話が伝わり、ギルドの係員から依頼内容が説明される。 もし賊と判断されれば、屋敷の外を警戒しただろうし、現場の調査として蔵に無造作に踏み込み、旦那の二の舞になる者も出たかもしれない。 今は、アヤカシのいる蔵はとりあえずそのままに、家からも人を遠ざけてはいる。 「入り込んだのは青銅剣士といわれるアヤカシだ。青銅像の外見をしていて、厄介なことに完全に瘴気を消すことが出来る。消している間は、奴自身も寝ているような状態で動くこともないが、目覚める条件があって動きだす」 動き出せば、当然瘴気を放って人を襲う。旦那たちが襲われたように。 獲物が通り過ぎてもずっと寝ているでは、間が抜けている。旦那の行動からして、恐らく近付いて立ち去るぐらいが覚醒の条件か。いろんな事例から推測しても、油断している相手の背後から突然襲い掛かるのを得意としていることが多いようだ。 剣士としての腕前もそれなりに持ち、急所や装甲の薄い所を狙う技量を持ち、重そうな外見に反して素早く攻撃を回避する。攻撃が当たっても、像なので痛がりもせずに暴れまわる。ひとたび動き出せば面倒な相手ではある。 「蔵はそのまま、ということは入り口は開いてるのか? ならば、動く前に遠くから破壊すれば?」 開拓者の一人が提案するが、それに係員は申し訳なさそうに首を振った。 「青銅像は十体。うち、二体は元々あったのだから八体が入り込んだアヤカシになる。その二体の本物の青銅像は、故人となった所有者が大事にしていた物なので、依頼者である遺族から形見として壊したりしないで欲しいとのことだ」 勿論、蔵の中に置かれている雑多な品々も不用意に壊してもらっては困る。 つまり蔵ごと纏めて破壊したりは論外だし、像もきちんと見極めて破壊する必要がある。 「襲われた状況からして、入り口付近の二体ほどはアヤカシ確定でいいの?」 「とも限らない。奴ら人と近い知能は持ち合わせているらしいからな。盾代わりに入り口に付近に本物の像を配置して、外からの様子をうかがう程度の小細工はしているかもしれない」 現場が混乱して、ギルドに連絡が入る間にも蔵から目が離れた時間はある。立ち位置を変えるぐらいはできるだろう。 倒れた旦那を運び出す際、蔵に出入りした人もいる。が、アヤカシは動いていない。様子を見ているのか、そのぐらいの知性は持ち合わせている。 もちろん、像は対になるよう並んではいるが、本物の像同士が並んでいるとも限らない。 「やがては、蔵のアヤカシも気付かれている事に気付く。そうすれば、どこかに逃亡するか置き土産に誰かを襲うか。何をするか分からない」 なぜ蔵に現れたかは分からないが、今の留まっている間にしとめて欲しい。 繰り返すが、他の青銅像や蔵の美術品には被害が無いように。 |
■参加者一覧
北条氏祗(ia0573)
27歳・男・志
鈴木 透子(ia5664)
13歳・女・陰
明王院 玄牙(ib0357)
15歳・男・泰
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
藤本あかね(ic0070)
15歳・女・陰
武 飛奉(ic1337)
14歳・男・泰 |
■リプレイ本文 (集まらなさそう……) と、藤本あかね(ic0070)が考えた通りか。姿を見せた開拓者は五名のみ。 潜んでいる青銅剣士は八体というから、数の上では不利となった。 しかも、現場に人はいないものの、故人の思い出の品が残っている。それを壊さないでくれ、と頼まれてしまっては、考慮する必要もある。 「全て壊せば面倒も無いはずだが、面倒な注文をつけてくれるものだな。壊されてたまらんものはどかしておくがよいぞ。むしろさっさとどかす」 「それにはやつらの前を通らねばなりません。少なくとも入り口の奴らをどうにかしなければ」 鼻息荒く、武 飛奉(ic1337)が告げるも、鈴木 透子(ia5664)は首を振る。 出来るなら運び出して虫干しぐらいしたかったが、青銅像の前を通らなければならない。あれがアヤカシなら迂闊に踏み込めない。 倉庫にはまだ血の跡が残っている。故人は運び出したが、アヤカシの仕業と分かってからは足を踏み入れていない。そこで起きた惨劇、亡くなった主人に透子は手を合わせる。 蔵には彼の趣味が詰まっている。興味のない者が見ても値が分かる物から、さっぱり価値が分からない物。大きさも用途もばらばらだ。 それでも、外から蔵を覗いてるだけでもなんとなく主人の人柄が分かるような気がする。 「故人の思い出の品であり、残された方々にとっては大切な遺産。故人や残された家族を思えば厄介でも何とかしてあげたいですね」 明王院 玄牙(ib0357)は告げるも――結局、問題としてはあの中からどれがアヤカシと見極めるかに戻る。 「甲冑好きとしては動く青銅像は少々興味があるが。その手の技能は乏しいので、お任せする」 北条氏祗(ia0573)は早々と一歩下がる。下がってもそこは間合いの内。事起こればすぐに対応できる距離は把握している。 ● 真なる水晶の瞳を覗き込みながら、透子は青銅像をうかがう。目のようなレンズを覗きこめば、精霊と瘴気の力の流れを感じられると言われるが、感覚はどこまで当てに出来るか。 少なくとも離れて見ている今、妙な気配は感じない。擬態している間は瘴気も露わにせず、物品と同じでしかない。何かの条件で目覚め、そして襲ってくるという。 試しにあかねが人魂を放つが反応なし。それをいいことに奥の青銅像まで探りに行くが、やっぱり見分けはつかなかった。 「近付くと普通に起こることが条件でしょう。試しに息をかけてみます」 言い置いて透子が手近な青銅像に近付く。瘴気の有無に注意しながら、そっと息を吹きかける。 じっと見つめるが動く気配は無い。飛奉と玄牙を従える形で、次の像へ確かめに動きかけた途端。 その槍が素早く動き、透子らの背中へと刺し迫る。 けれど、その動きは読まれていた。 瘴気を察した透子が無言のまま合図を送り、飛奉と玄牙が背拳で後方に気を張り巡らせていた。動き出すのをむしろ待ち構えていたのだ。 素早く飛奉がその槍を払いのけ、玄牙が朱墨をしみこませた筆を振るった。ただの剣ならかわせば終わりだが、飛沫までは避けようがない。青銅の体に目立つ朱がつけられる。 動き出したのを見るや、あかねと透子は結界呪符「白」でアヤカシと骨董品の分断を図る。 「背後からしか狙わんとは正しく卑怯者と言える」 不快感も露わに、飛奉は拳を振るう。赤龍鱗の篭手で固めた一撃は、しかし、寸前でかわされた。洗練された動きは見かけ通りの騎士を名乗る程度はできるということか。 青銅像はさらに間合いを開けようとして、呪符の壁にぶち当たる。蔵の大きさはそれなりでも区切られてしまえば、それまでだ。勿論骨董品も守られる。 腹立ち紛れか、青銅像が地団太を踏んだ――ように見えた。 途端に、雰囲気が一変する。透子の感覚に頼らずとも、瘴気の気配が強くなったのが分かる。 「音か床の振動か。どうやらそれが合図だったみたいですね」 蔵の中を見つめて、玄牙が告げる。 来る前から、超越聴覚と暗視で聴覚と視覚は補っていた。僅かな音も聞き逃さず、薄暗い空間も彼には関係ない。 表情など変えるはずは無く、けれど、残りの青銅像たちも動き出していた。 壁に仕切られ、体には朱を付けられ。隠れようも無く、逃れようもないと悟ったのか。残りのアヤカシたちも動かし、一斉に片付けに入った。 「動いてくれたのなら好都合。形見の品を確保するわよ。一度に来られるのはまずいけど、それも押さえてやろうじゃない」 「奥に閉じ込めるのではなく、なるべく入り口付近に出てきてもらって下さい」 陰陽符を構えたあかねを一旦下がらせ、玄牙は蔵の奥にと踏み込む。 動き出した青銅像は即座に槍を振るってきた。回避に専念し、攻撃を受け流しながら青銅像たちの目をひきつけつつ、また入り口まで逃げ戻る。 釣られた青銅像たちが追ってくる。 稀に拳を振るったが、それもほとんど打撃を与えてはいない。挑発と、何より他の像との識別の為。手につけた朱が青銅像にも移る。 元より、他の開拓者たちも蔵の入り口付近で待機。わざわざ動きが制限される内部に踏み込む必要も無い。 青銅像の動きを見極めながら、透子はその他の品の保護を優先。呪殺符「罪業」を青い炎が包むと、動かない青銅像が壁で囲い込む。 動く青銅像たちは、自分たちが閉じ込められるとでも思ったのか。我先にとさらに入り口にむけて殺到する。 多勢をまとめて相手にするのも面倒と、あかねは蔵の中への退路を絶ち、入り口へもそれとなく壁を作り上げる。全部は閉じ込めない。向かってくる分には多少の足止めが出来れば十分。 通路が狭まれば、自然、出てくる順番も決まる。飛び出した青銅像相手に、ようやく出番かと氏祗は霊剣「迦具土」を抜いた。 「構造としては、なかなか面白いのだがな。石屑と散れい!」 余計な駆け引きもない。鎧に興味はあるが、それも後で骨董品の青銅像でもじっくり眺めさせてもらえれば十分。 気合いと共に斬りかかる。迦具土の切っ先が幾つにもぶれ、それに惑う内に刃は青銅像へと下ろされていた。肉を絶つようにはいかない。けれど、確実に痛手を負わせる。 アヤカシは槍を振るってくる。壊れた姿のまま、槍さばきには寸分の狂いもない。像ゆえに、痛みなど元から感じない。氏祗はかわすが、続けて槍は襲ってくる。 その実力はけして侮れない。であるが故に、背後より襲うという卑怯さが際立つ。 二度とそのような真似ができないように。槍の軌道を見極めかいくぐると、氏祗は早急に像を破片へと破壊する。 区切られた通路からは、抜け出した青銅像が転がり出てくる。つけた朱は手で拭ったのか、多少かすれていた。その程度の知恵は持ち合わせている。 もっとも、中の骨董品には近づけない以上、青銅像自体が朱を払っても汚れが広がるだけ。なので、途中で諦めたらしい。結局中途半端に塗ったくられた朱が青銅像の表面に伸び、その手も朱に染まっている。 作り物の赤。だが、それ以前にはどれほどの血で汚してきたのか。 「とはいえ、他の品々に間違っても被害を出しては困りますからね」 玄牙はかかってきた一体の攻撃を躱すと、すんなり皆の方に押し出した。中の動きの方が気になる。 「皆でかかって、壁を壊すつもりのようです。気をつけて」 玄牙が警告を発する。死角になっても音で聞き分けられる。もっとも、外に出ようとあがく騒音自体は壁越しに聞こえてくる。 通り抜けられる程度の幅はあっても、そこを通れば一体ずつ出て行くことになる。それは危険と踏んだか。 穴が空き、壁が崩される。あとは一斉に襲い掛かるだけという最中に、あかねが招鬼符を放った。 現れた鬼が襲い掛かる。そちらに目が向いた隙をついて、透子が結界呪符「白」で分断する。 先に片付け、残りは六体。人数的には互角にはなったが、術師たちは直接戦闘には万一にでも狙われると困る。 軟弱なと飛奉は考えるが、口に出すまでも無い。何より今は目の前に明確な敵がいる。 「このようなこと。さっさと終わらせるに限る」 分断した敵を片付ける。壁に隠れたままなら、今度はその壁を消して露わにする。 槍を構える敵に対して、飛奉は真正面から挑む。槍の間合いは広い。青銅像はそれを生かして開拓者たちを振り払って時間を稼ぎ、他の仲間がから結界呪符「白」から出てくるのをなんとか凌ごうとする。 だが、その小細工がまたいらだたしい。飛奉は躱すのをやめると、一気に踏み込んだ。傷がつくのを恐れない。その迫力に逆に青銅像の方が戸惑う。 敵と密着し、掌で撃つ。衝撃を直接内部に伝え、身の守りもまともに効かない。相手が体制を整える前に、素早く次の拳を古い、青銅像を潰しにかかった。 ● 結界呪符「白」で区切り、なるべく少数になるよう相手にする。 八体全てをしとめるまで時間はかかったものの、無駄な被害は避けられた。 「残ったのが、主人がそもそも所有していた青銅像だな」 「朱もついてないですし。何より近付いても動きそうにないですね」 入り口に一つ。奥の方に一つ。玄牙が触れてもみるが、全く動く気配は無い。ついでに出来栄えも観察し、悪くは無い品だと、氏祗は満足げに頷く。 「その他の品も無事です。万一壁を壊してこちらにまで被害が出たらと冷や冷やしました」 蔵の中を簡易に点検。大きな異変はなさそうで透子はほっと胸を撫で下ろす。 「なんとかなったわねぇ」 深々とあかねは力を抜く。不安要素はあったが、概ね満足行く結果。 飛奉は特に何も言わず、入り口から興味なさそうに冷たく見つめ、鼻を鳴らす。 大丈夫とアヤカシの排除を依頼人たちに伝える。感謝の言葉があったが、表情は晴れやかとは言い難い。 失われた命まではどうしようもない。 故人たちへの報告も済ませると、開拓者たちはギルドへと戻っていった。 |