もういくつ寝なくても
マスター名:からた狐
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/01/06 17:22



■オープニング本文

 騒乱やまない天儀の世界。加えて年末になれば、あらゆる人が忙しい。
 ごろりと寝ている暇は無く。普段は寝ているやつらもここぞとばかりに動き出す。

 とある天儀のとあるもふら牧場で。とあるもふらたちが来客を迎えるべく大忙し。
「サンタクロスを待つもふー」
 そわそわと、赤いもふらが扉を開け放つ。力のかけ方を間違えたのか、扉が外れたが気にしない。
「くつしたもふー。でっかいくつしたを用意するもふー」
 どこから用意したのか。人一人入りそうなおおきな靴下を引きずる青いもふら。床にばらまかれていたゴミやら装飾品やらを巻き込み、引きずり、辺りに散らすが気にしない。
「木を飾るもふー。雪降らせるもふー」
 黄色もふらは、針葉樹にがんばって小物を飾り付け、綿の雪を降らせる。のしかかった拍子に、葉っぱや枝を撒き散らし、綿もひっかかりが甘くて吹き込む風にのって飛び散っているけれども。
「お菓子を用意するもふ。食べるもふ」
 緑のもふらは、ケーキやクッキーを運んで机に並べる。運ぶ間に何故かこけてケーキぐちゃぐちゃ、クリームが飛び散り、クッキーはあちこちに散乱。そんなものを出す訳には行かないと、皆で片付ける。主に腹の中に。
「罠をしかけるもふ。サタンクロズから贈り物を守るもふー」
「もふ? そんな話だったもふ?」
「忘れたもふ」
 桃色もふらと黒もふらが揃って首を傾げる。けれど、なんとなく開きっぱなしの扉に大きな籠を棒で立てかける。これで、入ってきた奴は棒につまづいて籠に捕まる寸法。
 もし誰かがひっかかったら、その時はその時だ。
 すべての準備が終わり、白いもふらは満足げに頷く。
「これでもう安心もふー。あとは寝て待つもふ!」
「「「「ぐー」」」」 
 お腹も(何故か)いっぱいになって、幸せそうに転がるもふらたち。
「……コラマテもふらども」
 その楽しげな寝顔とちらかり放題な部屋を見て、ミツコとハツコの乙女二人は顔を引きつらせる。
 クリスマスを楽しもうと企画はしてみたが。何をどうしてこうなった? な惨状になっていた。


 かくて、二人は開拓者ギルドを訪れる。
「クリスマスクルシミマスクルシンデマース♪ みんなで楽しみたかったけどなんか難しいねぇ? という訳で、お掃除要員募集チューなの〜♪ お部屋片付けて、きれいに飾り付けしてちょ♪」
「あと料理もね。その他必要な物とかはこっちで用意するから、助けてくれないかしら」
 調子のいいミツコと、疲れた様子のハツコが、ギルドの係員に頼み込む。
「もふ。人がいっぱい来るもふ。楽しむもふ」
「もふも手伝うもふ。がんばるもふ!」
 事態をどう把握しているのか。人が来ると聞いて、大いにはしゃぐのはついてきたもふらたち。
 それを見ていた依頼人は微妙な顔になって、係員も頭を抱える。
「お前らはじっとしていた方がいいんじゃないのか?」 
「じゃ、寝て待つもふー」
 係員の的確な忠告に、すぐに反応するもふらたち。
 寝転がるとそのままごろごろ転がり――机にぶつかって、上にあった墨壷を倒した。
「……あれも片付けていってくれ」
「「開拓者様、助けてー」」
 静かに真っ黒になった机と床を指す係員。棒読みで助けを求める依頼者二人。
 年の瀬なのか、浮かれてはしゃぐもふらさま。この調子ではこれからも何をやらかすやら。


■参加者一覧
/ 羅喉丸(ia0347) / ワイズ・ナルター(ib0991) / エルレーン(ib7455) / ラグナ・グラウシード(ib8459) / 何 静花(ib9584) / 漸想皇(ic1418


■リプレイ本文

 年に一度のお楽しみ。
 異国の風習でも、楽しければ騒がにゃ損だ。
 とはいえ、もふらたちはいつでも楽しんでいるし、依頼人も何かにつけて騒いでいる。
「まーた、もふらか……」
 なにやら気の削がれた表情で、何 静花(ib9584)は現場の惨状を見渡す。
 お楽しみ会として、みんなで騒ぎたかったらしい。
 が、騒ぐには早すぎた。仕度が整わない内から――というか、整えている段階で、浮き足立ったもふらたちにより部屋の飾りやら料理やらは壊滅状態。何をどうすればこれほど荒れ果てるのか。これではお楽しみも水の泡だ。
「何をすればいいのやら」
 依頼として来てはみたものの。漸想皇(ic1418)としてはどう動いていいのかさっぱり分からない。
 よっし、とワイズ・ナルター(ib0991)はたすきをかけて気合いを入れる。
「とりあえずは掃除ですね。料理をしてもこれでは運び込めません」
「もふ、がんばるもふ!」
 その隣でもふらたちも真似して背筋を伸ばす。が、彼らのやる気はあてにならないし、どこに向かうのかも分からない。
 頼もしいやら不安やら。
「もふらたちは動くのもほどほどにしてくれ。指が無いのに無茶しやがる」 
「えー、指あるよー。蹄じゃないよー」
 不安だらけで静花が告げると、ミツコが「ほれ」ともふらの前足をつかんで見せる。
 じっくり見ると、犬猫のような手足である。
(そういえば。私はもふらの依頼に入るの初めて……か?)
 ふと静花は自身の過去を振り返る。
 もふらは天儀ならどこにでもいるし、いつだって気ままに生きている。通りすがりに騒動に巻き込まれることもある。いろいろと関わることも多いので、どうだったか思い出せない。
 が、どうでもいいのかもしれない。
「それじゃあ、クリスマスに向けて。準備のやり直しするわよ!」
「おー」
 声を上げるハツコに、もふらたちはその前足を振り上げて呼応する。が、それで果たして何が出来るのか。
 依頼主が誰であれ、やることは決まっている。この部屋の掃除と料理の仕度。そして、やる気のもふらの暴走を止めることである。


 荒れた部屋ではどうにもならない。
 はずれた扉を打ち直し、罠も撤去。ツリーも一旦外に出す。散乱したケーキや紙くずや綿ボコリを掃き取り、拭き取り。ナルターはせっせと部屋を片付けていく。
 依頼人たちも開拓者たちに任せっぱなしは悪いと思ったのか。いろいろと動き回っている。
「遅れてすまん。少々仕度に手間取った」
 そこに羅喉丸(ia0347)が飛び込んできた。
「おっそーい、って言いたい所だけどね。まだまだやるべき箇所はあるから、さっそくお願い」
「承知した」
 ハツコから渡された埃避けの割烹着を身につけると、羅喉丸は適当に天上からぶら下がってる飾り――だったものを、丁寧に取り除いていく。
 最初は掃除をきちんとしていたもふらも、すぐに飽きてそれぞれ思い思いの行動に出始める。
「これは何もふ?」
「おっと、それは大事なものだから触ってくれるなよ」
 もふらの一体が、羅喉丸の荷物に興味をもって中を覗きかける。
「いい子にしているとサンタさんは来るんだよ。だからちゃんと掃除を手伝おうな」
「じゃあ、悪い子には誰が来るもふか? サタンクロズもふか?」
「それは聞いたことが無いなぁ」
 朗らかに談笑しつつ、荷物はしっかりと死守してもふらの目の届かぬ場所へと移す。まだ知られる訳にはいかない。

 そうして、順調に部屋は片付け、整理整頓ができた所からまた飾り付けていくのだが。
「うおおおお……クリスマスの準備をするもふらさまたち……」
 鼻息も荒く、なにやら目も涙で潤みながら、ラグナ・グラウシード(ib8459)はもふらたちの毛に埋もれている。
 埋もれてもふもふを楽しみながら、それ以外は特に動こうとしない。
「もふもふ。大丈夫もふか? 風邪もふか?」
「大丈夫というか、ダメというか。早くどきなさいよ。掃除の邪魔!」
 すっかりお楽しみに没頭していたラグナを、エルレーン(ib7455)が目を三角にして注意する。
 クリスマス準備の為、依頼の為に来たのだ。遊びに来たのでは無い。
 そこをつかれると、ラグナも我に返って奮起する。
「ふ、そうだな。りあじゅうどもなら撲殺だが……。もふらさまたちなら! もふらさまたちの為ならー!」
「もふー! がんばって欲しいもふー!」
 ふきんを掲げて、力強く宣言するのだが。
 もふらの声援を受けると、感激して抱きついて感謝を述べる。そのまままたもふもふに浸りこんでしまい、掃除どころかまったく何の役にも立っていない。
 むしろ、もふらたちが遊び半分でじゃれ付くので、狭い小屋がさらに狭くなる。
 業を煮やしてエルレーンが追い出しにかかる。
「もう! やくたたずのラグナなんかあっち行っちゃえっ!」
 手にしたはたきを振り上げて、ごろごろするだけのラグナをエルレーンは追い払おうとする。
「なんだと! この寒空にたたき出そうというのか。もふらたちが可哀相だと思わないのか!?」
「どっか行って欲しいのはラグナであって、もふらたちじゃない!!」
 怒りもあらわにたたき出そうとするが、ラグナにしてみれば寒風吹き荒れるもふらもいない場所に追い出されるのはたまったものではない。もふらにしがみついて、エルレーンをかわそうとする。
 本人たちは必死の攻防。が、周囲にしてみればたまったものではない。
 始めは努めて知らん振りしていたナルターも長引くほどに口の端が引きつりだし。
 ついに、勘弁ならないと静かな怒りを込めて二人に声をかける。
「申し訳ないけど――、夫婦漫才は終わってからにしてくださらない?」
「夫婦漫才なんかじゃない!」
「そ、そうだよ! さっきからラグナがサボってるから、私は!」
 ナルターからの殺気すら感じる態度に危険を感じたか。
 声を荒げるラグナに、エルレーンも必死で訴えかける。が、ナルターは表情を引き締めたまま、厳しい目で二人を見る。
「今は仕事中でしょ? はしゃいで遊ぶのは終わってからにしてね」
 きつーく言い置いて、ナルターはまた掃除に戻る。
 言われてしまった方はさすがに懲りて、肩を落とす。
「もふもふ。元気出すもふ」
「風呂にでも入って元気出すもふー」
「うん、いいねぇ。もふらさまも綺麗になろう」
 もふらに励まされて、ラグナも気を取り直す。ふらりと出て行くもふらたちに続いて、どこぞへと出て行ってしまう。

 一方のエルレーンは酷く落ち込み、立ち直れない。
 そこに顔を出したのは静花だった。掃除は手が足りてると見て、料理作りを先んじて行っていたのだが――。
「どうした? 何かあったのか?」
「わ、私は、もふらさまたちのためにがんばってるのに……。悪いのはあのばかラグナなのに……」
 自分では一生懸命やってたつもりなのに、ラグナと同列に見られた。涙目になって訴える。
「何があったかは知らないが、手が空いてるならちょうどいい。料理の方を手伝ってくれないか? 何せ毒見と称してつまみに来るのがいるので手が足りん」
 じろりと静花がもふらを見ると、見られた方はあらぬ方へと目をそむけていた。
 事情が分かったようなそうでないような。ともあれ、手伝いは欲しかったので誘い出す。
 何せつまみ食いに現れたもふらを投げて締めてとおしおきするが、その隙をついて別のもふらが料理に近寄る。
 もふらを気にしたら料理を進められないし、かといって料理をがんばれば隙をついてもふらが口を出してくる。
 追い払うにも料理をするにも、誰かは必要。
 がっくりうなだれたまま、やっぱりサボる気にはなれず、エルレーンは厨房に戻る静花の後につく。

――これが後にとんでもない事態を招くなど、今、この場にいるものは予想もしていなかった。


 飾りつけも終われば、後は料理を運び込むだけ。御招待にあずかり、開拓者たちもそのまま席につく。
「はやく食べたいもふー」
「まだだ、こういうのは全員揃ってからだろう」
 そわそわと料理の周囲に集うもふらを、静花は容赦なく蹴散らす。
「そういえば羅喉丸さんがいないね。どこ行ったんだろ」
 人数を数えてミツコが首を傾げる。すると、小屋の扉が開いた。
「Merry Christmas。良い子にはプレゼントをあげよう」
 入ってきたのは紅白衣装に身を包んだ白ひげの男。
「サンタもふー」
 さすがにそれは知っていたのか、もふらたちが目を輝かせる。
「っていうか、羅喉丸さんよね」
「それは言わない御約束だろう。本物の代理となるが、喜んでくれるかな」
 平然と告げるハツコに、羅喉丸は苦笑いで口止め。大袋の中からジルベリアで手に入れた食べ物をもふらたちに分け与える。
 サンタ衣装の調達に少々手間取ったり、途中荷物を覗かれては準備がばれそうにはなった。けれど、もふらたちの単純に喜ぶ顔を見ていると、苦労の甲斐もあったというもの。
「出遅れたか。けれど、喜ぶと思って、私もたくさん買物してきたお!」
 サンタ人気にやや歯軋りしつつ。ラグナも用意してきたお菓子をもふらに配れば、もふらはあっさり喜んでラグナに群がる。
 とすると、別にサンタでなくてもいい様子。
 とはいえ、喜んでくれた。満足してサンタは立ち去ると、また羅喉丸になって会場に戻る。
「それでは、改めて。めりーくりすますー」
 ミツコの掛け声とともに、紙ふぶきを散らす。
 すぐにもふらたちが料理にがっつき始めるのだが……。
「か、辛いもふ、辛いもふ、からいもふーーっ!」
 真っ赤な炒飯にくらいついたもふらが、しばし時を止め、途端に騒ぎ出す。
「やけに赤いと思えば、やっぱり」
「赤い物と言われると炒飯しか出てこなくてな」
 ジト目で見つめるハツコに、静花は深々とうなずく。辛味成分満載なのは見た目どおりだった訳だ。
「普通のでいいんだよぉ」
「そう思って、祝い事に出すような豪勢な料理も作っている。泰国料理にはなってしまったがな」 
 ほれ、と静花は示す。
 しかし、そちらの料理を食べたもふらが口をすぼめて転がりまわっている。
「すすすすすすっぱいもふー!」
「え? ……。ごめん! これ、酢の量間違えてる!」
 慌てて口にしたエルレーンが詫びを入れる。五分の確率で料理は大失敗するそうで。
 その後も食事をすすめるが、出来栄えは見事にムラがある。底が焦げてたり、辛さがさらに際立っていたり。かと思えば、大失敗が一回転したのか、誰もが絶賛する一品が出来てたり。勿論、普通に美味しい物もある。
 気づけば、誰もがおそるおそると箸をすすめている。
「何この緊張感」
「これはこれで楽しいもふー」
 いいのかと首を傾げるハツコだが、唇はらしながらももふらは楽しんでいるので問題無いようだ。

 ナルターは隅っこで密やかにこの場を楽しんでいた。手にしたシャンペンを傾け、ケーキを頬張り、もふらや同僚たちの騒ぎを微笑みながら見ている。
 静花も馬鹿騒ぎには加わらず、一人で酒を飲んでいたが。そんなナルターを目にしてそっと近付き、抱いていた疑問を思い切って問うてみる。
「ところで、こいつらは一体何を祝ってるのだ?」
 途端に、ナルターが飲んでた酒を吹きかける。ここまで手伝っておいて、というものだ。
 もっとも、静花にしてみれば依頼をただ遂行しただけ。泰の田舎生まれでこういう行事は縁が無く、天儀に来てからも各地を放浪して人里に居つかなかったので、疎いままだった。赤と緑が基本の行事と聞いて、緑の旗袍を着てはみたがその意味もよく分からない。
「知らないなら教えてあげるもふ。そもそもは三択ロスという伝説から始まり……」
 聞きとがめたもふらが、神妙に話し始めるが、なにやら妙な話も混じりこんでいる。静花は一応聴いているが、さてどこまで信じるか。
 突っ込む気にもならず、ナルターは寝こけてるもふらにもたれかかる。
 たらふく食べて楽しんだもふらは少し目を開けたが、また目を閉じた。 
「楽しいパーティにメリークリスマス」
 その頭を優しく撫でると、ナルターもならって目を閉じる。もっとも、団欒はまだまだ続き、すぐにまた賑やかな騒動が沸き起こっていた。