【VD】鬼は外 福はどこ?
マスター名:からた狐
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/02/18 00:48



■オープニング本文

 誰が広めたか、バレンタイン。
 好きな人にチョコを送る素敵な日だが、それに絡む人間関係は悲喜こもごも。
 贈って嬉しい、受け取って嬉しい。けれど、受け取ってくれないと悲しいし、誰も贈ってくれないのはもっと悲しい。
「ちくしょう、バレンタインなんて」
「幸せなやつらなんて消えちまえ」
 思わずそう呟く奴らも多い。


「そんな負の感情を持て余した可哀相な人たちから幸せな人たちを守り、かつ残念な人たちをも救う為、もふは立ち上がったもふ!」
「可哀相とか残念とか言うたるなや。もっと可哀相だろ」
 開拓者ギルドにて。胸を張りにこやかに告げるもふらを、ギルドの係員は心配して見ている。
 やる気に満ちたもふら。……こういう時はろくでもない事態になることが多い。
 予感的中。
「つまり、可哀相な人が可哀相じゃなくなればいいもふ。だからぼっちの可哀想を追い払うべく豆をまくもふ。幸い、チョコというのは豆から作られると聞いたもふ。だからチョコを投げれば、幸せになって退散するに決まってるもふ」
「……節分がしたいだけなんだろ」
 自信満々なもふらは、何かがずれている。
「そこでぼっち代表として、まずは酒天童子のぼっちにチョコを投げてみたもふ」
「やっぱり節分なんだな」
 選ばれた酒天も気の毒に。もっとも連れ合いがいないという点ではそうなのだろうが。
「寝てるところをチョコまいて、ついでにもふの特製チョコを食べさせたもふ。そしたら、怒り出して暴れてしまったもふ。おかげでもふが退散する羽目になったもふ」
「だろうな」
 いきなりぼっち認定されてチョコ投げられても、投げられた方は困るだろう。
「でも、もふは負けないもふ。ぼっちを追い払い幸せになってもらう為、もっと本気を出してチョコを投げるもふ!」
 なんか、違う気がするが……。もふらの言うことにいちいち突っ込んでいても身が持たない。
「つまり、酒天のような独り身と思われる人にチョコを渡す人手が欲しいんだな?」
「ちがうもふ。『ぼっち退散、福は内』でチョコは投げつけるもふ。でないと、ぼっちの可哀想が出て行かないもふ!」
 もふらさまは真剣だ。
「ちなみに独り身――ぼっちかそうでないかの区別は?」
「見たらわかるもふ!」
 つまり、全てはもふらの勘のみ。女の勘よりあてにならない。
「チョコは用意してるんだろうな?」
「頑張ってもふが作ったもふ。でもちょっとしかないから、いらないという人からも分けてもらったもふ」
 と、籠を取り出す。
 中には、個別包装された小さな箱が。その中にチョコが入っている。
 もふらはそれを加えて投げ飛ばすらしい。
 渡し方に問題はあるが、拾って食べられるなら食べ物を粗末にしてもいないだろう。
「依頼としては問題は無いが……暇な奴を勝手に見つけたらどうだ?」
「もふもふ。そうさせてもらうもふ」
 頷くともふらは開拓者たちに主旨を説明。ぼっちにチョコを投げる人を募集し始めた。



 もふらがチョコを投げるべく、神楽の都に出かけていってしばらく。
「チョコ投げもふらがいると聞いたぞ! どこ隠した!」
 今度は開拓者ギルドに酒天童子が飛び込んできた。
 事情はすでに分かっている。
「チョコの件か? たかがもふらのやることにそんな目くじらたてることはないだろう。この時節にチョコが貰えたんなら、悪いことじゃないだろ」
「貰うチョコが問題大ありなんだよ」
 酒天童子の表情が歪む。
 聞けば、寝てるところをいきなり豆ぶつけられて、口にチョコを突っ込まれたという。
 確かに驚いたが、それだけではその場で怒るだけ。
 問題はそのチョコ……。幸せのもふ毛入りだったという……。
「それはダメだろもふらさま……」
 もふらの手作り。あの手で手作り? 聞いた時点で気付くべきだったと係員は反省する。
 作る過程でうっかり入ったか、それとも幸せになれと願いを込めて入れたか。
 ……後者な気がする。
「それに他のチョコにしても。探してる間小耳に挟んだんだが、失恋した腹いせチョコだとか嫌いな奴への嫌がらせチョコだとかを集めたらしい。まぁ、一番多いのは失敗チョコらしいけどな」
 この時期に、いらなくなるチョコなんて限られる。
 どうやらもふらさま。集める際には「厄払いするからいらないチョコが欲しい。自分は絶対に食べない」と、説明したらしい。
 これではチョコを渡す方も、チョコを厄払いする為に集めてると勘違いしてしまう。もふらが食べないならなおさらだ。
 かくて、失敗チョコや貰ったけど胡散臭くて持て余してるチョコが回収されていったらしい。
 作った人の恨みつらみや、おふざけ、手が滑った愛情などが詰まったチョコの数々。
 そして、もふらさまにぼっち断定されてそんなチョコを受け取ってしまうとは。確かに怒りだしても不思議では無い。
「幸せを分けるというなら、もふ毛を直接貰った方がよっぽど幸運のお守りにでもなるだろうさ。というわけで、奴の毛全部丸刈りにしてばらまいてやる。ああ、大丈夫だ。どうせ一日もしたら元に戻る」
 はさみを手に邪笑を浮かべる酒天。
 それはやりすぎとは思うが……騒動は避けられないようだ。


■参加者一覧
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
菊池 志郎(ia5584
23歳・男・シ
御影 紫苑(ib7984
21歳・男・志
何 静花(ib9584
15歳・女・泰


■リプレイ本文

 世はまさにバレンタイン。独り身ぼっちを退散させる為、もふらさまが立ち上がる。
「もふらさまの御手製チョコ。――ちょっと食べてみたいです」
 手伝いとしてやってきた柚乃(ia0638)。配るチョコに興味が出るのは当然かもしれない。
 けれども、もふらは首を振る。
「駄目もふ。もふのはぼっち用もふ。柚乃ちゃんは、ぼっちじゃないもふ」
 柚乃のそばでは、相棒たちが騒いでいる。確かに独りの寂しさは感じられない。
 柚乃にしても、人に渡すチョコを執拗にねだる気も無い。残念に思いながらも、チョコを詰めた袋に自分が持ってきた分も追加する。
「ありがとうもふ。ではいざ出発もふ」
 もふん、ともふらが胸を張る。
 柚乃はチョコが入った大きな袋を抱え、その背に乗せてもらうと、皆で意気揚々とぼっち探しの旅に出る。

 もふらのチョコは梱包されていた。なので、さすがの柚乃も気付かなかった。そのチョコが、製造段階で問題ありありの訳アリ品なことに。
 勿論、柚乃はチョコはちゃんと作ってある。一口タルトに盛ったミルク・ホワイト・抹茶・ベリーの四種の味。
 であるが故に、当たり外れの大きくなったチョコ配り。
 彼らを探す修羅がいるのも知らず、とりあえず今は幸せを届ける為、彼ら自身が幸せだった。


 何 静花(ib9584)は酒天童子を探していた。
 今日はあちこちに顔を出しているらしい。これ幸いと一人行き先を尋ねて回るが、まだたどり着けない。
 一体どこでなにしているのか。通りを見回しながら歩いていると、
「ん?」
 通りの向こうから、尻尾ふりふり走ってくるもふら。
 綺麗な箱をくわえ、包むリボンが揺れている。思わず見ていると、狙いたがわずその箱が静花に投げつけられた。
 ま・さ・か・そう来るとは。完全に不意をつかれ、静花は顔面で受け取ってしまった。
「ハッピーバレンタイン、ぼっち退散もふー」
 満足そうに告げると、何事も無かったかのように去って行く。
 静花は顔からぽろりと落ちた箱をきちんと受け止め。無表情で箱を開けた。
 中はチョコレート。なんか白いのがいっぱいはみだしているが、そこはもうどうでもいい。
「……。この、も・ふ・ら・がぁー!」
 チョコは大事に懐に仕舞い。肩を震わせ、瞬脚で間合いを詰めると、静花は一息でもふらに迫る。
「何もふ! チョコは上げたんだからもう大丈夫もふ! これ以上は上げられないもふ!」
 どこかずれてるもふらさま。他のチョコを取られまいと、わき道に入る。
 これは静花にも都合がいい。わき道なら人目気にせず遠慮も無用。
「もふら滅するべし、ぶっ飛ばしちゃる!」
 静花は構えると、逃げるもふらに追いつき爆砕拳を叩き込みかけ――。
 そこに柚乃が飛び出した。戦帯「戦神」を締めた少女は、ぴたりと静花に密着。拳を振るう。
 鋭い一撃を静花はなんとかかわした。が、それで、気を弛めてはならない相手だとも悟る。
 軽く距離を置き、双方にらみ合う。
 静花から目を離さず、柚乃は告げる。
「もふらさま、後から追いかけます。今は先に」
「お願いするもふ。ここは任せるもふ!」
 もふらは涙をこぼしながら、袋を背負い走り去る。
「待て! 話は終わってない!」
 追いかけようとする静花を、しかし、あくまで柚乃が立ちはだかる。
「ここを通りたければ……私と勝負」
「修羅として。売られた喧嘩は買わないとダメだろ?」
 愛が渦巻く都にて、殺気だった雰囲気がにわかに湧く。
 だが、睨み合いは続かなかった。柚乃の方が、ふっと息を吐くと、油断はしないまま態度を軟化。頭を下げたのだ。
「お怒りになられたなら、それはお詫びします。けれどもふらさまは、バレンタインという今日、あなたにチョコを渡して幸せになって欲しかったのです」
 争うことは不本意。和解出来るなら、その方がいい。
 柚乃は説明するが、静花の怒りは収まらない。
「だからといって、食べ物をばらまくとはどういう了見だ。それに逃げるというのも怪しい。逃げなきゃ、ちょっと痛い目見る程度で済ませたものを」
 それでもふと疑問が生じる。
「なんで、私がチョコを渡されなければいけないんだ?」
「可哀想な独り身ぼっちに愛を届けたいそうですから、そういう人に見えたのだと思います。渡し方とかは確かに問題ありますから、私の方でも注意を……って聞いてますか? もしもし?」
 柚乃の話途中で、静花はよろめきしゃがみこんでいた。
「だだ大丈夫だ。しかし、……ぼっち……だと……いや、確かにぼっちだが」
 所詮、孤独な放浪の身。言われても仕方ない、と心で思えど、実際態度で示されてはやはり痛い。
 大丈夫と言いつつ、思わず柚乃に礼を言うぐらいには動揺していた。
 もはや柚乃には構う気なく。ふらふらと静花は通りへ戻っていく。
 それを心配そうに見届けた後、柚乃ももふらの後を追った。


 菊池 志郎(ia5584)は普通に道を歩いていた。恋人たちの浮ついた雰囲気はそこかしこから感じるが、気にするものではない。
 普段通りに生活していて、普段通りにもふらも道を走っていて。普段とは違って、いきなり箱を投げつけられた。
「ハッピーバレンタインもふ♪」
「何々ですか、一体?」
「悲しいぼっちさんを失くす為、愛の戦士はチョコを投げて撲滅活動もふ。そして、次のぼっちを消す為にもふは早々と立ち去るもふ」
 面食らう志郎に、もふらはたちまち去っていく。
 その慌しさ……というか、楽しみに夢中というか。
 やれやれ、と思いながらも、志郎は投げられた箱を見る。
 歪みがあるのは、もふらがくわえて投げたから。それ以外はまともな包装だ。
 何となく、その場で解いて中を確認した。確かに中はチョコだった。すごく綺麗に作られていた。表面に赤く彩られた『殺』の文字までも……。
「もふらさま、これは何の嫌がらせですか?」
 先の表情と、チョコから伝わる怨念めいた感情と。真意を測りかねて、志郎は思わず立ち尽くす。
「あ、おい。もしかして、そのチョコはもふらから投げられた奴じゃねぇか?」
 そこにさらにやってきたのは酒天童子だった。何やら殺気だった面相で駆け寄ってくる。
「そうですけど、これが何か?」
「どこ行きやがった! 隠し立てすると身の為にならねぇぞ」
 臨戦態勢万全である。ただごとではない。
「待ってください。一体何なんですか、これは」
 志郎が問い詰めると、酒天は急いでるのに、と、ぼやきつつ、手短に事態を説明する。
 状況を呑み込んだ志郎も顔色を変えた。
「失敗作や毛入りがいくつも? もふらさま訴えられますよ!」
「そうなったら浪志組の奴等が勝手に捕まえてくれるか。いや……その前に、やはりこの手で一度はぶっ飛ばす!」
「あああ。そういう人が出てもおかしくないです。早いところ止めさせないと! 分かりました。俺も追います」
 一体これまでにどれだけ配り歩いたのか。
 酒天も止めねば何するか分からない上、他にも頭に血が上った人はいるかもしれない。
 配られた人もそうだが、もふらの為にもならない。
 志郎も、酒天と並び、急いでもふらの後を追いかけだした。


 街の浮かれた気配は、家にいても何となく伝わる。それが日常に入り込んでくるかもその人次第。
 御影 紫苑(ib7984)も極々普段と変わり無い生活を送っていた。
 ギルド以外からの仕事。その際は、集中の為に部屋に閉じこもることもある。
 集中を妨げない為にか、家の中は人の気も失せて静かなもの……のはずだったが。
 ドンドン、と、盛大に玄関を叩く音が響いた。いや、叩くというか潰すというか体当たりのような騒音である。
 紫苑は集中を切ると、嘆息して部屋から出る。誰かを呼びに行くより、自分で応対する方が早いと踏んだ。
「はい。どちらさまでしょうか」
 後で家の者にどんな苦言を告げるべきか。そんなことを考えながら、紫苑は素直に戸を開け……。
「ハッピーバレンタインもふ」
 もふらさまにのしかかられる。倒れるのは、さすがに踏ん張ったが、その体制のまま何やら黒い物体を投げつけられる。
 何の嫌がらせかと思いきや、よく見ればぶつけられたのはチョコである。
 いや、出会い頭にチョコをぶつけるのも嫌がらせにはなる。ただ、もふらさま自身に邪気は微塵も感じられないだけで。
「いままでアヤカシ祓いの依頼で豆まきされたことはありましたが、まさか私が撒かれる側になるとは思いませんでしたよ」
 チョコを拾い上げて、紫苑は苦笑する。目が笑ってないが、そんなことはもふらも気にしない。
「もふ? もらったもふか?」
「チョコならたくさんありますよ」
「もふ。それは勘違いもふ。失礼したもふ」
 困り顔のもふらに、紫苑が訝る。事情を聞けば、独り身の寂しいぼっちを退散させる為に、活動しているという。静かな場所に人が動かない気配だけがしたので、てっきりぼっちがいると襲撃に来たそうだ。
 今度こそ本当に苦笑して、紫苑は勘違いを指摘する。
「ですが、それならば丁度いい」
 消沈するもふらを玄関に待たせて、紫苑は厨房に赴く。途中、様子を見に来た家人にはもふらから貰ったチョコをその口に放り込む。何やら白い綿のような物も見えたが、気にしない。すでに家人の口の中。悲鳴が聞こえたけど、それも無視して、紫苑は厨房の隅にまとめていた袋を引っさげて戻る。
 中には紫苑が貰ったチョコがまとめてある。得意先やら義理チョコやらでちょっとした量があった。無碍に捨てられず、かと言って食べきれず。どうするかと悩んでいたところの渡りに船でもあった。
「よかったら、これも配ってあげてください」
「もふー。全然ぼっちさんじゃなかったもふね。でも、へこたれないもふ」
 袋の中身を確かめて、ますます落ち込むもふらさま。それでも、気を取り直すとぼっちを退散させるべく、使命に燃えて去っていく。
 
 もふらが去って一段落。――紫苑が安堵したのも束の間。
 玄関周りを片付けていると、次なる客が飛び込んできた。
「おい。こっちでチョコを配るもふらを見なかったか!?」
「もし、チョコをもらったならすぐには食べず、十分に確かめてください」
 酒天と志郎である。
「それならあちらに。チョコはちょうど食べてもらったところです。何やら、真っ赤になってうずくまってしまいましたが……」
 慌しい客に、丁寧に説明すると、酒天は鼻息を荒くし、志郎は目を被って天を仰いだ。
 礼もそこそこ駆け出す酒天。志郎はその非礼ともふらの事情とご迷惑を手短に詫びつつ、やはり来た時同様慌しく去っていく。
 二人を見送り、紫苑は肩を落とす。と、奥で何やらまだうめいている家人に出かける旨を伝える。
 今日はもう仕事に集中どころではない。かくも雑念が入ったならば、いっそその雑事を追うのもおもしろかろう。


 聞き込みをしながら、酒天と志郎はもふらを追う。
 さすがは気まぐれもふらさま。行方を聞いても、予測がつかない行動に出ている時もある。
 それでも確実に、その存在との距離を詰め。
「いたぞ! 待ちやがれ!」
 ついに、通りの前方に大袋を抱えたもふらさまを発見。
 その声でもふらが立ち止まる。即座に酒天が距離を詰め、腰に佩いた太刀を抜こうとする。
「駄目です! もふらさまに危害を加えるなんて許しません!」
 止める声が響いた。柚乃だ。もふらと別れたはいいが、こちらもどうやらやっと追いついた様子。
 そして。
「もふら相手に慈悲はなし! ――ここで全て終わらせる!」
 立ち直った静花も合流。出会い頭にただもふらだけを求め、鋭い爪付の虎の毛皮で覆った拳を振るおうとする。
「待ってください! それはさすがにひどすぎますって」
「立ちはだかるなら、まとめて飛ばす!」
 志郎が止めるが、静花は退く気は無い。
「よし、そいつは任せた。今の内に、禊の時間だ」
「させないと言ってます!」
「もふー!」
 もふらの毛を削ごうと刃を抜く酒天に、柚乃は信じられないと頬を高潮させ睨みつける。
 通りで突如起きた騒ぎに、道行く人は興味深げに足を止める。
「なんぞ事件かい?」
「いいえ、単なる喧嘩みたいなものですよ。でも、巻き込まれないよう、十分距離は取ってくださいね」
 見物客に混じってみていた紫苑は、それとなく無関係の人に害が無いよう気を配る。
 騒ぎを抑えようと、志郎は双方をなんとか落ち着かせようと声を荒げる。見物人の中に紫苑を見つけて助けを求める。 
「だから、皆さん一旦落ち着いて。もふらさまたちもお願いですから、こちらの話を聞いて下さい。――御影さんも何か言って下さい」
「確かにおもしろいことではなかったですが、復讐までする気は無いです。そして、止める気も無いです。そこまで優しくは無いですよ」
 が、実に害の無い笑顔を向けられて断られる。
「とにかく。必要なのは話し合いです。どこか菓子店でゆっくり御茶でもしませんか?」
 互いに激昂、一触即発。聞かぬ耳に志郎は怒鳴り込むように説得を繰り返していた。


「……あのチョコはそんなことになってたのですか?」
「もふう。それは申し訳ないことをしたもふ」
 双方宥めて、ひとまず茶店に入り。さらに怒りの修羅たちを宥めながら、説明を繰り返し。
 志郎の苦労も甲斐あって、柚乃はようやく自体を悟り、もふらも恐縮する。
「チョコレートはもふらさまのおもちゃじゃないんですよ?」
「もふ。遊びじゃないもふ。もふは真剣もふ。でも迷惑をかけてしまってたならそれは謝らなきゃだめもふ。ごめんなさいもふ」
 志郎が嗜めると、もふらは言い訳しつつもきちんと反省はする。
 頭を下げるもふらに修羅たちも気を殺がれる。
「反省してるなら仕方がねぇ。天辺ハゲで許してやる」
「では、私はそのハゲに拳骨ヘッドロックを」
「だから止めてあげてください」
 真面目に告げる酒天と静花に、志郎はがっくりと肩を落とす。
 その様を離れた卓で見ていた紫苑は、目をそらすともはや興味なさげにそっと茶をすする。

 その後、もふらのチョコは改めて中身を選別。大丈夫な物を選んで、今度はお詫びを兼ねて逆行脚。
「そういえば、私は酒天も探していたんだった。赤肌の修羅と聞いて、何か心当たりは無いだろうか?」
 一息ついて、静花はうっかり忘れそうになっていた質問をぶつける。
「そういわれても俺が知るのは大昔の奴等がほとんど。それにすべての修羅について知り尽くしてるわけも無い。赤入道といえば武天の御仁だが、修羅じゃないしな」
 首を捻る酒天だが、静花は黙って首を振る。
 そんな静花たちにも改めてハート型チョコを渡される。
 配り終わった後に、柚乃からもチョコ餡大福と御茶が振舞われた。
「『大』いなる『福』を呼び込む縁起物ということで。何だかんだありましたが、楽しかったですね、お祭り」
「これでもうみんなぼっちじゃないもふ!」
 騒動は一体どこへやら。柚乃ともふらは穏やかに微笑み合った。