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■オープニング本文 とある旅商人の一行は、先を急いでいた。 道中、思わぬ災難がありいらぬ足止めを食ってしまった。おかげで予定が大幅に遅れ、日もとっくに沈んでしまっている。 前の街に戻ることも考えたが、いっそ次の街に入る方がいいと判断して、道を急いできた。道中、複数の用心棒を雇っていたのも、心強かった。 昼は荷車が行きかう交通の要所といえど、夜間に出歩くものは少ない。 アヤカシ以外にも凶賊や、稀に狼などが出る。腕に覚えが無ければ出歩けない。 郊外の街道に掛かる橋。 後はここを渡りきれば、街まですぐという所。夜の中に、街の灯りも浮かんで見えている。 だが、すんなりとその橋を越えられなかった。 「……戦え」 橋の途中で、立ちはだかる者がいた。 修験道の衣装に身を包み、桧笠を目深に被った体躯のいい男。薙刀を手に、嫌な笑みを浮かべている。姿は青白く透き通り、足元がかすれて消え、地上から浮いていた。 「アヤカシか!!」 無力な旅商人たちが悲鳴をあげる中、彼らを守る為に用心棒たちが飛び出し、武器を構えて臨戦態勢に入った。 鬼道験者と言われるアヤカシだった。 囲む用心棒たちに笑みを向ける。と、その目線が腰を抜かしている旅商人たちに向けられた。 「邪魔」 冷たく言い放つや、旅商人たちから悲鳴が上がった。 いつのまにか白い鬼女たちがその中に紛れていた。女たちは白髪を振り乱し、やけに長い腕についた鋭い爪を振るい、奇声を上げ、逃げる商人を捕まえ水底へと引きずり込む。 死水女。もちろんアヤカシだ。 「やめろ!」 用心棒が助けに向かおうとしたが、一瞬にしてその前に転移した鬼道験者が阻む。 「……戦え……戦え……戦え……戦え……」 アヤカシが静かに笑うや、触れずして用心棒の手足がねじ切れた。散乱する荷物が不自然に飛びまわり、人間たちを追い回す。 ● 足に自信のあった小僧一人。他を見捨てて辛うじて逃げ切った。 警備に事情を話し増援が出されたが、橋に入るや仕掛けられていた呪詛にかかり、死水女からの混乱で同士討ちが発生。大勢が倒れた。 橋は封鎖されたが、交通の要所。物資が止まれば街の経済にも関わる。無茶を承知に飛び込む者もいて、少なくない犠牲者を出している。 事態を重く見て、その街から開拓者ギルドに依頼が出された。 橋の上で凶行を振るうアヤカシたちを退治して欲しい。 |
■参加者一覧
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
鈴木 透子(ia5664)
13歳・女・陰
椿鬼 蜜鈴(ib6311)
21歳・女・魔
昴 雪那(ic1220)
14歳・女・武
吉田慧沼(ic1390)
12歳・男・吟 |
■リプレイ本文 橋の上には屍。散乱する荷物は、吹く風に押されてむなしく転がる。 彼方と此方を繋ぐ橋だが、渡る者は無い。 立ちふさがるアヤカシ。その姿も今は見えない。 「向こうもどこかで潜んで、こちらの動向をみているのでしょうか」 川の周辺にも目を向けるが、鈴木 透子(ia5664)には敵の姿は捉えられない。空にも陸にも潜める鬼道験者。死水女は水中にも潜める。油断は出来ない。 念の為に、川の浅瀬に綱を渡してきた。万一水中に落とされた時の命綱になるように。 その作業の最中にも顔を出すかもと警戒はしたが、姿は見せなかった。どうやら橋の上を戦場と決めているのか。 大きな橋だ。開拓者たちが戦うには十分。 けれど、視界を遮るものはない。敵は空を飛びまわり、水中も得意とすることを思えば、地の利はやはり向こうにある。 (自分たちに有利なことを分かって利用しているみたいです) 鬼道験者も死水女もその程度の知恵はある。 「橋のこちら側には封氷を仕掛けておこうかの。もっとも向こう側に逃げられる可能性はあるじゃろうがな」 軽く紫煙を拭きながら、椿鬼 蜜鈴(ib6311)はフロストマインを仕掛ける。 小さな吹雪が足元に吸い込まれる。次、誰かがその地点に踏み込めば、たちまちその吹雪は解放されてその踏み込んだ誰かを襲う罠。 厄介なのは、敵もまた似た罠を仕掛けているということだ。 「罠を発動させずにすめばいいのですが……。見た限りでは分かりませんね」 昴 雪那(ic1220)は、蜜鈴が仕掛けた罠と橋の上とを見比べる。どちらもそこに罠があるなど見分けがつかない。 あるいは、橋には何も仕掛けてないのかもしれない。その可能性もまたある。 鬼道験者の仕掛けた罠は呪詛。直接的な攻撃ではないので、危険と認識し辛いが状態異常など体の変調を来たしやすい。 一応、解除の技は活性化してきたが、呪詛が掛かったかどうかの見極めもまた難しい。 罠の解除は出来ない。 となれば。 「悩むことはねぇ。目印も何も無く避けるのが難しいなら突き進むまでだろ!」 ルオウ(ia2445)は脇差「雷神」を引き抜くと、率先して駆け出す。 罠があったか、発動したか。それすらも分からない。 だが、それはもう問題では無い。気にもしない。見据えているのはさらにその先。 橋の中央まで走ると。唐突にルオウの眼前に鬼道験者が現れた。 「……戦え!!」 悪しき妄執から出現したアヤカシは、ただそれだけを要求してきた。 ● ぼやけた輪郭、向こうが透けて見える半透明の体。 けれど、振り下ろされた薙刀には確かに殺気めいた圧を感じた。 するりと躱すと、ルオウは一刀斬りつける。 手ごたえは殆ど無く。傷口は開いたが血が吹き出る様子も無く、鬼道験者は虚ろな顔を覗かせたまま。 「鬼道験者は薙刀。琵琶法師では無いか」 自身は三味線「古近江」を構え、吉田慧沼(ic1390)はまずは精霊集積を蜜鈴と透子へと奏でる。 その蜜鈴はアゾットを構える。 「戦え……とな……? 言われずともそのつもりじゃてな」 ルオウと刃交える鬼道験者に向けてアイシスケイラルを放つ。まともに当たるが、炸裂しても相手はやはり気にせずルオウへの攻撃を止めない。 すぐに次を蜜鈴は唱えるが、 「後ろです!」 雪那の警告と同時に、蜜鈴はとっさにその場を飛び退いた。立っていた場所に、真白い女が髪振り乱し、鋭い爪を振り下ろしていた。 死水女だ。橋の上。やはりいつの間にやら四体の鬼女が姿を見せて、開拓者らに向けてにたりと笑った。 長い腕を伸ばして、死水女は蜜鈴を追う。 その前に雪那が割り込んだ。矛「天鈴」を振るうと、軽やかな鈴の音と共に死水女が吹き飛ばされる。 と、思いきやその姿が消える。そして、雪那の真横に現れた。そのままうめきのような声を上げる。 「くっ」 思考が乱されるのを、雪那は気力を振り絞って耐える。 「うわあああ」 慧沼は追いかけてくる死水女から必死に逃げる。直接戦闘はやや分が悪い。 「こちらに」 透子が呼びかけ、とっさに慧沼もそちらに走る。 かばって、透子が結界呪符「黒」を出現させる。凌いだと思った途端に、頭上を飛んで一体、さらに別の死水女が横から出現する。 透子が白面式鬼を作り、これをぶつける。白面をつけた、透子とよく似た式が攻撃するも、死水女がそれを痛がる素振りはやはりない。とはいえ、式が押さえている隙にこちらも体勢を立て直せる。 「瞬間移動が面倒ですね」 「何とか撹乱を狙ってみようか」 慧沼は三味線を構えなおすと、組み合う死水女に向けてスプラッタノイズを叩きつける。 「撃破優先は鬼道験者……ではありますが」 雪那は死水女を相手にしながら、周囲をうかがう。 開拓者の数は少なめ。鬼道験者はルオウを相手と定めたか他に向く気配は無く。 鬼道験者とルオウの力量差は歴然。負ける気配は無い。 隼人で先制を取ると、相手蹴り付け脇差で切り入れる。続けて二撃目を入れようとしてルオウの腕が歪んだ。念力だ。 「小賢しいな!」 もぎ取られはしなかったが、太刀筋は歪む。 死水女たちはその邪魔はさせじ、あるいは誰も逃すまいと残る開拓者たちの相手にかかっている。 数は互角。だが、こちらも落ち着いて対処すれば力量は開拓者が勝る。 混乱されて、その落ち着いてが叶わなくなると面倒が増えるが、そこは慧沼も同じくやり返す。 敵味方入り乱れる混乱ぶりは迷惑至極。 だが、雪那が呪詛を解いてしまえば後は個々の能力の差。アヤカシなんぞに負ける気もしない。 「ちらちらと目障りじゃの……邪魔じゃ」 それでもあちらこちらと転移する死水女の動きは予測もしづらい。 蜜鈴はわざと目を背けて、隙を作る。狙い通りに、死水女は死角となった方へと飛び込んできた。 突き出された爪が頬を掻く。傷以上の痛みは毒のせいか。構わず、振り向くや蜜鈴はサンダーヘヴンレイを放つ。 誘いこんだのも無造作では無い。他の死水女たちの位置を把握した上での計画。一直線に伸びる雷が射線上にいる敵をまとめて打ち抜いていく。 死水女の悲鳴が響いた。 ● ルオウの一撃が空を斬る。振り切った時、その視界から鬼道験者が消える。 「小賢しいな。戦えと言って来たんだから、逃げるような真似はするな!」 周囲を見渡すや、ピストル「アクラブ」を発砲。鬼道験者に小さな穴が空く。 その鬼道験者は間合いを開けて攻撃を受けながらも、薙刀を構えなおす。途端に、その身から傷が幾分薄れる。 「このような姿になっても癒しの術を忘れないとは」 雪那は胸に痛みを覚える。 鬼道験者も元は僧侶。雪那と似た境遇のはず。それが何故こんな存在を生み出すほどに力を求めたのか。 嘆きも同情も今は無用。 「逃がしはしない」 ルオウが咆哮を上げる。 「……戦え!」 声を荒げて、鬼道験者が飛んだ。逃走の気配は無い。あくまで戦闘に執着している。 頭上から振り下ろす薙刀をルオウは真っ向から斬りつける。 抵抗はわずか。さらに力を込めると、押されて薙刀が砕けた。 薙刀もその身の一部。かなりの痛手と見る。その傷を癒すように、鬼道験者が薙刀を作る。 だが、それを待つまでも無い。 慧沼が闇のエチュードを奏でる。 雪那は烈風撃を放ち、絡んできていた死水女を吹き飛ばす。透子は壁と式を使うと鬼女を追い詰める。 そして、蜜鈴はそれらを射程において、雷を放った。 「ぎゃあああああ!」 すでに痛手を負っていた死水女が消失。他にしても勿論無傷ですむはずない。 「今の内に!」 「言われなくても、やってやるよ!」 ルオウは踏み出すや、薄れてかすむ鬼道験者をためらい無く貫き、斬り伏せる。 「ぐおおおおお!」 恨みがましい声を上げて、鬼道験者はルオウに手を伸ばす。が、その手は何もつかめず、ただの瘴気の塊となって橋へと横たわった。 鬼道験者が倒れるや、生き残っていた死水女が歎くように奇声を上げた。 と、同時に姿が消える。まだ転移する力は残していたようだ。 「見逃してもらえるとでも思ってんのか」 ルオウは雄叫びを上げる。注意を惹かれた死水女は逃げるのをやめ、怒りをむき出しにして橋の上へと戻ってきた。 「わらわに背を向けるか……。おんしの背に目は無かろう」 蜜鈴が鼻で笑うと、アイシスケイラルを放つ。氷の刃は長く伸び、逃走中の死水女を塵と返す。 「これで終わり。さっさと皆を弔ってあげましょう」 橋の上で戦う死水女に慧沼がスプラッタノイズ。 混乱して無茶な動きを繰り返す死水女を、透子は白面式鬼で捉えるとそのまま引導を渡す。 ● アヤカシを倒したのを確認する間も無く。 倒れている人々に透子は駆け寄る。 勿論とうに息は無い。が、ならばこそこんな所にいつまでも放っておけない。 雪那や慧沼が報告に向かうと、ほどなく付近の人たちが手伝いにやってきた。 ルオウが拾い上げた荷物とまとめて橋の上から運び出す。 片付いた橋は待ってましたとばかりに、旅人や商人が駆け出していく。 その様を眺めながら、蜜鈴は煙管に火を入れる。 風はちょうどピタリと止み。煙は細く天へと昇っていった。 |