|
■オープニング本文 平和が訪れた天儀の世界。 されども、昔ながらの危機が乙女たちを襲う。 ● 「護大がやっつけられたってー。魔の森とかもう生えてこなくてアヤカシも出なくなるってさ〜」 「やったもふー。お祝いもふ〜」 「秋だし、各地で豊穣祭か」 「もふもふ。今年も豊作もふ。心配が減ってごはんが美味しいもふ」 「クリスマス〜。サンタが来るよ〜」 「もふー。クッキーかじるもふー。ケーキ美味しいもふー」 「年越しそばできたよ〜」 「最近は年明けうどんというのもあるもふ〜。食べたいもふ〜」 「あけましておめでとう。はいはい、お年玉」 「お屠蘇飲むもふ。おせちも美味しいもふ」 「御雑煮善哉おもちたくさん欲しいもふ〜」 「七草粥だよ〜」 「ふ〜。食べ過ぎた体を癒すにはちょうどいいもふ〜」 ●そして、今。 「ミツコ……、あんた丸くなった?」 「はーちゃんこそ、太――」 「直接その単語を言うんじゃない!」 運動量も減る冬場。そんな時期に食べ続ければ、当然身に返ってくるのは体重変動。外見にまで影響出るようでは、多感な乙女としては気に病む所。 かくて、二人は開拓者ギルドを訪れる。 「いやでもそれぐらいはふっくらしたという程度だろ。それぐらい肉がある方が前より可愛いぞ」 「それ。セクハラだから」 「褒められるのはいいけど〜、今は欲しくない優しさだよね〜」 気を使ったつもりのギルドの係員だが、二人から返ってきたのは冷たい目線だった。 慌てて係員は口を閉ざすが、二人はそれ以上咎めず。ただ憂い顔でため息をついた。 「ま。あたしらはこれから仕事もあるし、合間見て運動を増やそうかなと思ってるんだけど……」 「問題はねぇ〜。もふらさまたちなの〜」 困惑仕切りに、ギルドの外へ声をかける。 その合図で入ってきたのは。 「もふ〜ん」 ごろごろと七色の大玉が転がってきた。 ……いや、よく見るともふらだ。縦も横も同じ大きさに丸々と太り、よく見なければ巨大な毛玉にしか見えないが、もふらたちだ。 彼女らがよく連れているもふらたちに違いない。 「もふ〜ん。よく動いたもふ〜。お腹すいたもふ〜」 「そろそろご飯の時間もふ〜。その前におやつもふ?」 「あ、茶菓子見つけたもふ。美味しいもふ」 「まてまてまてまて」 客用に置かれている茶菓子を発見され、係員が止める間もなく腹に収められてしまう。 心なしか、丸さが増した気もする。単に毛が膨らんだだけかもしれない。とはいえ、ただでさえ大きいのに、これが集まって転がられるのは……何と評してよいのやら。 「普段から怠けて食っちゃ寝してるもふらがここまで増えるとはなぁ」 「平和になって緊張が解けたのかなぁ〜。最近寒いから運動してくれないし〜」 「この体型だから余計に動きたがらないからね。でもさすがにもう少し痩せるというか、締まってくれないとさすがに面倒だわ」 呆れる係員に、ミツコたちも困った顔をしている。 「だが、このままもダメだろう。運動なり食事制限なり考えないのか」 「それよ! つまり運動しようとしても動いてくれないし、食べ物で釣ったら意味ないし。しかも、下手に運動させようとしても、転がって移動したりするから効果がどの程度なのか分からないし!」 「ごはんもね〜。こんにゃくとか野菜増やしたりして対処してるよぉ〜。でもなんか倍以上食べようとするし、ご飯自体減らすと食料庫が荒らされたり、漁とか猟に出かけようとするし」 「……最後の。動いてくれるならそれでいいんじゃないか?」 「事情を知らない漁師さんや猟師さんに取り入って分け前もらうだけだもん。面倒かけるだけだし、もふらさま自身はその間寝て待つだけだからだめだよぉ〜」 楽をしたがるもふらさま。その為なら知恵も回るらしい。 係員も少し考えてみる。 「走ったりしたがらないなら、水泳はどうだ。確か泳げる場所はお前たちの牧場にはあったな。浮力があるから、動きやすくていいと聞くぞ」 「浮力があり過ぎて、もふらさま浮かびっぱなしになるもん。漂うばかりで全く動いてくれなくなっちゃう」 沈まないもふらさま。だからこそ、夏場の需要もあるというものだが……。 水辺で無茶をして溺れられても困る。 あれこれ考えても何やら煮詰まる。 「もふ! もふたちがこうなったのは管理する側の監視不足もふ! しっかりするもふ!」 「はうぅ〜。それを言われると、負い目に弱いよぉ〜」 不穏な話をしてると聞きつけ、もふらたちがミツコたちに詰め寄りだす。 「分かったもふか〜。つまりもふたちのせいじゃないもふ。詫びと仲直りに鍋料理でも一緒に……」 「だから待たんかい。自己管理という言葉も世にはあるだろうが」 「もふたちにそれを求めるもふか?」 真顔で聞かれて係員も黙る。確かに、もふらたちにそれを求めること自体が間違いな気もする。 「この調子で、あたしらもちょっと強く出にくいのよねぇ……。ミツコは元々もふらさまに甘いし」 「それにね〜。もふらさまに付き合ってると、こっちもいい運動にはなるんだけど〜。動いた分、ご飯美味しいし、もふらさまが食べてるのにつられてついつい食べ過ぎて〜」 「……で、お前らも今に至る訳か」 「これに関してはぐぅの音も出ないわ」 冷たい目で見てくる係員から、気まずそうに二人が目を背ける。 その間にももふらたちはやってくる開拓者に食べ物をねだり、依頼希望者の気を和らげたお礼を貰ったり、子供と一緒におやつを食べたり。 やりたい放題だ。 「もふらさまこの調子だからねぇ。厳しくやらないと無理そうだし。悪いけど、開拓者にもふらさまの絞り込みを頼めないかしら。怪我とか無い程度にがっつりやっちゃって!」 「その間に、みーちゃんたちも体重落とすぞ、がんばるぞー!」 頼み込むハツコに、ミツコが決意を口にする。 案外、その為にもふらを遠ざけようとしているのかもしれない。 いずれにせよ。断る理由はない。 巨大化したもふらさまの為、ダイエット作戦を企ててもらうよう、開拓者たちに依頼が出された。 |
■参加者一覧 / 柚乃(ia0638) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / 八甲田・獅緒(ib9764) |
■リプレイ本文 「じゃ、後はお願いね〜」 「もふらさまたち、がんばって☆」 軽い挨拶と共に、依頼者たちは開拓者たちにもふらたちを託した。 離れていく後姿が、なるほど、以前見かけた頃よりも大きくなっているのは気のせいではないだろう。勿論、本人たちに面と向かっては確かめられないが。 それにその程度。もふらたちの比ではない。 元々大きなもふらではあったが、それがさらに肉つけるとさらに巨大に思える。 さらにさらに。寒いせいか、毛も何だか倍増してる気がするし、それで丸く縮こまっている姿を見ていると、もはや単なる巨大な毛玉にしか見えてこなくなる。 ただの毛玉なら大きいだけで別に構わない。 しかし、その毛玉たちは動く。ごろごろと。自主的に食べ物を求めて……。 「はぅつ。想像以上にまんまるなのですよぉ」 八甲田・獅緒(ib9764)の耳と尻尾がぺたりと垂れ下がる。 獅子の姿を持つ活発そうな外見ながらも、性格もそうである訳ではない。帰りたい、と今にもギルドの外に向かおうとしている足を踏ん張らせているのは、矜持か仕事意識か、ただの痩せ我慢か。 「もふ〜ん。お腹すいたもふ〜。何か食べる物は無いもふか」 「ごめんなさい。何も持っていません」 くんかくんかと鼻を鳴らして柚乃(ia0638)を探るもふらたち。だが、柚乃が袖を振って見せた途端に、興味が失せたと次の人にねだりに向かう。 向かう姿も、ごろんごろんと毛玉が転がる。柚乃よりも大きなその玉が七つも転がるのは圧巻とも言えた。 見送った柚乃はそっとそばでたたずむ相棒のもふらを見つめる。 金の瞳が「何?」とまっすぐ見つめ返してくる。藤色の体もいつもと変わらないもふら。 しかし、柚乃の目はごまかせない。 「……丁度いい機会です。八曜丸、食っちゃ寝三昧だったあなたも運動して貰いましょう!」 「もふっ!?」 最近の生活どうあれ、八曜丸の外見はあのもふらたちほど酷くは無い。 八曜丸は必死に訴えるが、柚乃の決意は固い。 とんだとばっちりである。 そんなちょっとしたやり取りの間にも大毛玉なもふらたちはごろごろ転がっては次々と人々を襲撃――もとい、おねだりに向かい、わずかな食料も見逃さずに意地汚く口に放り込ませている。 痩せる気など毛頭ない。太っている自覚も無く、むしろ大きくなって楽ちんとすら思ってるようだ。 「これは……急がないと……手遅れになるっ」 リィムナ・ピサレット(ib5201)が戦慄に身を震わせる。 怠惰なもふらたちが堕落の極みを目指そうとしている。 その先に一体何が待ち受けているのか……。容易に考えがつくだけに、何としても今の内に阻止せねば。 ● 「託された以上、依頼を全うするまで。幸い、強引にやってもいいというお墨付きももらいました。――獅土、お願い」 「分かりますた。お任せ下さい」 獅緒は勇気を奮いたたせると、相棒の土偶ゴーレムに命じる。 「おめたち。止めんさい!」 相棒はぐるりと首を巡らせるや、まさに食べ物を貰おうと大口を開けているもふらの鼻先にぬっと立ちはだかる。 その間に、獅緒ももふらの周囲でおやつを上げていた人たちに頭を下げ、引き下がってもらう。 事情を説明すると、皆分かってくれてにこやかに去っていく。がんばって、という励ましはさてもふらと開拓者たちどちらに向けたものか。 しかし、周囲が下がっても下がらない者もいる。それで怒り出したのは当のもふらたちだった。 「もふ! 何するもふか! もふたち、お腹ぺこぺこで苦しんでいるもふ! 酷いもふ!」 食べ物の恨みを恐ろしい。殺気立っているのは、冗談でもない。温厚なもふらも怒る時には怒るのだ。 普段おとなしいだけに凄まれると余計に怖い。 「そ、そんなに言われてもダメなのですぅ」 動揺を隠しつつ、獅緒も退かない。 退かないが……。 あっさりと退いたのはもふらたちの方だった。――いや、退いたというか、甘酒売りが通っていったのを目ざとく見つけて追いかけようとしたというか……。 獅土と一緒に止めにかかるが。その間にも別の店で餅を見つけた、茶漬けが美味しそうだの、鼻をひくつかせては転がって行ってしまう。何せもふらたちの数も多い。手が回らない。 「ここでは誘惑が多すぎて体を絞るどころではありませんね。場所を移しましょうか」 柚乃はラ・オブリ・アビスを使って、赤いリボンをつけた真っ白の猫又に自身を見せかける。 ちなみに、姿を変えたことに特に意味はない。単なる気分の問題だ。 気が晴れた所で、おもむろに払串「大日女」を構え直す。精霊力を纏わせ振るうと、強烈な衝撃破がもふらを襲う! 直撃しないよう手加減している。それでも、いきなり攻撃され、もふらたちは驚いた。 「なにするもふか!?」 「運動ですよ。たくさん運動した後のご飯は美味しいですしね♪ さあ、牧場まで駆け足です!!」 再び、烈風撃。手前の地面に当てると、土砂が弾け飛んだ。 「も、もふ〜。お助けもふ〜」 「ひどいもふ。もふらいぢめもふ〜」 震えながら、もふらがすごい勢いで走り――いや転がり去っていく。 「うっ……。いえ、でもこれももふらさまたちの為……! 前の人、道を開けて下さい!」 泣きながら逃げられると、もふら好きとしては心が痛む。 それを堪えて、柚乃は念の為天狗駆も用い、その後を追いだす。獅土や八曜丸も転がるもふらたちの誘導を行い、寄り道をさせないようにする。 獅緒ももふら追いかけ、走る。 (でも、あれで運動になる……のか?) もふらの移動は結構速い。速いが、丸まって転がってるだけ。よく目が回らないものだとも感心する。 運動としてはどうだろう。上り坂も勢いで登り切っている。さして動いてないようにも思える。 けれど、何もしないよりかはましかもしれない。 ● 柚乃たちに追い立てられて、いつもの牧場まで戻ってきたもふらたち。 転がってきたはずなのに、ぜいぜい肩で息している。やはり一応運動になったのかもしれない。 「もふう。お腹すいたもふぅ」 「ごはん、ごはん。動いた後のごはんは美味しいもふね〜」 そして、何事も無かったかのように食料庫へと転がっていく。 「って駄目ですよ。いきなり何を食べるつもりですか?」 「はうあっ! 阻止ですよぉ、阻止!」 慌てて柚乃が先回り。獅緒も相棒に命じて食料庫を死守させる。 食料庫の扉はすでに壊れ、簡素な板が立て付けてあるのみ。もふらがちょっとぶつかれば簡単に突破される。 中にある食料は野菜が主。一応依頼者たちも考えているようだ。が、中にある量悉くがっつけば、痩せるどころでもない。 「確かに運動後のご飯は美味しいですけど。抑えた食事も大事です」 「し、しばらくは絶食してもいいぐらいだ、と……思います。食べる量を控えるべき……だと……」 柚乃や獅緒が口々に諭すが、もふらたちは聞き入れない。 「もふ。お腹一杯が大事もふ!」 「食べさせてくれないと、暴れちゃうもふ〜」 転がりながら、もふらたちが不平不満を口にし出す。そのまま転がって殺到されては、志体持ちとはいえ身が危ない。 さて、おとなしく食事をさせるにはどうすればいいか。 「た、た、大変だー!!」 そこに駈け込んで来たのはリィムナだった。そういえばいつの間にやら姿を見なくなっていた。 一体どこで何をしていたのか。 リィムナはたくさんの本を抱えて、息せきって走ってきた。 その慌しさに、さすがのもふらたちも抗議を止めてリィムナを見つめる。 「ご飯は……。ご飯はまだ食べてないね。良かった。――これを見て!」 呼吸を整える暇さえなく、リィムナは持っていた本を広げる。 何やら年季が入ったような古ぼけた書物だった。黄ばみくすんだ紙には、文字と共に絵も記されていた。 分かりやすい絵だ。誰が見てももふらさま。だが、その内容は……。 「もふらさまが……爆発している?」 首を傾げる獅緒に、「そうなんだ」と、真剣にリィムナは頷く。 「この本によれば、もふらが際限なく食物を摂り太り続け、許容量を超えると……、爆発して跡形も無く消し飛ぶ!」 物騒な事態にもふらささまたちがうろたえる。 「もふ、そんな話聞いたことないもふ!」 「きっと怖い話だから口にしづらかったんだ。あたしも今回調べて初めて知ったからね。――でも、歴史上の事例はかなりあるよ。ほら、こっちは今から五百年前に起きたとされるお雑煮集団爆発事件、こっちは千年前の小もふらおにぎり大食い事件、こっちは……」 持っていた本を次々と開き、リィムナが説明する。 どの本にも丁寧な絵付きで分かりやすくもふらが爆破するに至った経緯を説明している。丁寧で……詳しすぎるほどに。 「分かったかい。つまり、もふらは食べ過ぎると爆発してしまうんだ。もう一刻の猶予もないよ! 早く痩せないと!」 「ももももふっ! どうするもふか!」 さすがに爆発はしたくない。泣きそうな表情で、もふらたちはリィムナにすがる。 「そうだね、とにかく今は駆け足だ! 運動あるのみ!」 気合を入れてリィムナが指示するが、しかしもふらは渋い顔に変わる。 「もふ〜。さっき走ってきたもふ。それにお腹すいてるもふ。少しお腹に入れた後で……」 「な、何言ってるんですか。大変な事態ですよぉ。食べてる場合じゃないですよぉ。走った後で疲れているなら、温泉で汗をかきましょう」 「もふ! 分かったもふ!!」 獅緒は、もふらたちを温泉施設の方へと追いやる。 (でも、もふらって汗かくんか? そしてそれで痩せるのだろうか……?) 内心効果に疑問を持ってはいるが、食べさせ続けるよりもマシだろう。 ぶいぶい文句言いながらも、爆発の恐怖は効いたようで。もふらたちも素直に温泉に浸かりにいく。 見送りながら、柚乃はリィムナが持っていた本を何気に見せてもらう。 「これらの本……、見せた頁以外は真っ白なのですね」 「依頼を受けてから短時間で仕上げて来たからね。凝ったことはできないよ」 いい仕事をした、とばかりにリィムナが額をぬぐう。 勿論、もふらが爆発するなどありえない。全てでっち上げ。だが、もふらはやる気を出してくれたようなので何よりだ。 「さてと、それじゃ本格的に始めようか。――ほら、移動は駆け足! 転がらない! もっと速く! でないと、爆発しちゃうよ!?」 リィムナは幻影符をもふらに仕掛ける。見せられた幻は、もふら大爆発! 「もふ! 誰かやられたもふ!」 冷静になれば、仲間を数えて誰も欠けていないとすぐに分かるはず。それも思いつかないほど、大混乱になりながら、もふらは涙ながらに温泉に飛び込んで行った。 ● 日々、走り込みにお風呂に絶食からの食事制限。 心入れ替えもふらたちは減量に励む。 「食事は野菜とこんにゃく中心ね。鍋におでんと調理法はいろいろあるよ」 「それならお腹いっぱい食べても大丈夫ですね。――食べ過ぎないことに越したことないですけど」 リィムナが運んでくる料理を、柚乃ももふらの様子を見つつ、適量に配分する。 しかし、それで満足できる量ではない。それに腹も減りやすい。 最初こそは我慢もしていたもふらたちだが、それも日がたつとともにきつくなる。 「も、もふぅ。もういいもふ。お腹いっぱい美味しい物が食べたいもふ〜」 「餅、おにぎり、団子、すき焼きー!」 「クッキー、ケーキ、ちょこれいとうー!」 涙ながらに自由への逃走も増え始める。 その逃げ足が軽やかになってきていた。密かに手ごたえを感じるが、喜んでもいられない。 リィムナは輝鷹のサジタリオを呼び寄せる。 大空の翼を使って羽ばたくと、あっさりもふらたちを追い越し足止めする。 「どこに行く気かな。爆発したら、美味しい物食べられなくなっちゃうよ」 やはり輝鷹の力を借り、鷹睨で睨みつける。効果は覿面で、もふらたちは震えてしゃがみこむ。 (この調子だと、冷や汗でも痩せそうだな……) 獅緒は震えているもふらに自分を重ねて同情もしつつ。 「はう〜何か食べる物持ってないもふか?」 「持ってないですよぉ。風呂で汗をかいたら水を持ってきてあげます」 懇願するもふらに、きつく否定を入れる。 ● どこにあるか分からなかった手足も見え始め、腰のめりはりもつくようになる。 毛玉からは脱出し、ちゃんともふらだと分かるようになってきた。 何も言わずとも転がらず歩くようになった。運動を怠けて食事を取りたがるのは……まぁ、ある意味前からか。 ただ、空腹と疲労でもふらたちも元気が無い。へばって地面に張り付いている。 さすがにやりすぎたかと、開拓者たちが悩み始めた頃合いで、 「ただいま〜。もふらさま、元気してる?」 「おぉ、けっこう痩せたじゃない。さすが!」 見計らったかのごとくに依頼者たちが帰ってくる。依頼した時に比べ、こちらもすっきりした体型になっていた。 「ここまで頑張れば、後はもう大丈夫だよね。ありがとー」 「いえいえ。もふらさまの頑張りのおかげです。ね?」 柚乃が八曜丸に同意を求める。相棒もふらもいささか体型がすらりとなった感じだ。 「じゃ、これでもう大丈夫もふか。爆発しないもふか?」 大丈夫、と聞き、不安げにもふらたちが聞き返す。 「爆発?」 「えーと、そのね。ちょっとこちらに……」 訳が分からない依頼者たちに、リィムナは少し離れた場所に呼びつけ、事情を説明。 納得した依頼者たちは、後は上手く口裏を合わせると約束する。 「こっちものんびりやる事出来たし。皆お疲れ」 「やったもふー。じゃあ、今日は痩せたお祝いもふ!」 「祝杯もふ! 御馳走を食べるもふ!」 「それはダメですよ! 意味がないです!」 減量成功祝いに喜ぶもふらたちが、食料庫に駈け込もうとするのを、獅緒が慌てて止める。 まだ当分獅土に番を務めてもらった方がいいだろうか。 そんな考えがよぎりつつも、もふらとついでに依頼者たちの減量成功を今は喜ぶことにした。 |