【祭強】乱入不要
マスター名:からた狐
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: 普通
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2015/02/16 12:53



■オープニング本文

『世界最強決定戦』
 武帝の深い思慮か……あるいは単なる興味半分か。
 古い書を紐解き、その記述を元に開催が決定されることになった。
 各儀各国、四つの班に分けられ、あらゆることで競い合う。
 知力武力素行の良さ。――その他諸々総合してもっとも優れていると思う班に、投票をして一番を決めようという訳だ。
 
 何であれ、祭りとあれば民衆の心も浮き立つ。
 これに便乗して商売をしたり、自分たちの王が一番だと応援に力を入れたり、俄かに勝負事が開催されたり。
 娯楽の少ない冬場とあって、各地で関連した賑わいを見せている。
 護大が消えても、アヤカシ被害による復興はまだ終わっていない。その他考えられる問題は多々あるが、それが故に民衆はこの気晴らしに飛びついていた。


「というのに。それを邪魔する馬鹿は消えないわけだな」
 開拓者ギルドにもたらされた報告。目を通してからギルドの係員は集まった開拓者たちの前に投げ出した。
 とある街では、世界最強決定戦にちなんで相撲大会を開こうとしていた。
 積雪も無い地方なので移動も楽。冬の寒さには閉口しつつ、近隣からも娯楽や参加賞を求めて大勢の人がすでに集まってきているそうだ。
 その人々から「鬼を見た」という目撃譚が報告されているという。
 今の所、見かけるだけで被害は出ていない。どころか、人に見つかったとなるとすぐに逃げ出しているという。しかし、話を細かく聞くにつれ、目撃された鬼はいろんな個体がいた。
 どうやら徒党を組んだそれなりの数がいると推測される。しかも武装までしている。
「鬼がただの人から逃げる、とは考えにくい。それも複数が……。おそらく、街の大会で最も人が集まっているのを狙って、それまでは騒ぎを起こさないだけだろう。その方が恐怖を煽れるとでも企んだか。いずれにせよ、明日の大会当日に奴らが動き出すと思われる」
 動き出さなくても、アヤカシを放っておけるわけがない。せっかくそこかしこの復興も進んできた今、また被害が拡大されるようでは人々の心が落ち着かない。
「見かけたのは氷鬼。……おそらく二十体はいる。巨体な上に大型の鈍器を振り回し、冷気を放ってきさえする」
 けっして雑魚ではない。一対一なら駆け出し開拓者では危ういほどの相手。
「目撃情報は街の南側に集中している。街道で開けてるところだが、その近くでそれだけの鬼が潜むとすれば、少し離れた場所にある森の中だと思われる」
 森は樹木で動きが制限されるが、それは向こうも同じこと。ただ、森も広くそのどの辺りにいるかまでは分からない。
 街は外壁に囲まれているが、鬼が力任せに叩けばどこまで持ちこたえられるか分からない。何より、人々の楽しみに無粋な邪魔を入れてはいけない。
「乗り込んでいくのもいいし、待ち受けるのもいい。いずれにせよ、人々に手が及ぶ前に始末してほしい」
 アヤカシの脅威はまだまだ続く。だが、彼らが勝利することなどないと、知らしめねばならない。
 民衆にも、アヤカシたちにも。


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
八甲田・獅緒(ib9764
10歳・女・武


■リプレイ本文


 武帝による、各儀各国を巻き込んだ大祭――天儀一武闘会。
 宮廷からのお祭り開催に、各地でも様々な便乗な祭りが開催されている。
 祭りとあれば、騒動が起きるのはある意味想定内。どこの地でも良くない輩はいる。しかし、不穏な影が忍び寄るのはいただけない。
 大会前日には街に到着した開拓者たち。街中では、これから行われる相撲大会を楽しみに、参加する人も観客も盛り上がっている。
 しかし、街を歩いていても一部で少々憂いを見せている人も見かけた。アヤカシ目撃情報は伏せていても、目撃者から広まるのは止められない。これという害も今は出てない分、漠然とした不安だけが広がっているようだった。

 そして大会当日。
 アヤカシの姿を目撃した街。その南門にて開拓者たちは待機する。
 駆けつけた開拓者たちは三名。複数の中級と思しきアヤカシ相手にその数はいささか心許なくも思えるが……。
「氷鬼が二十体か……。あたし達を相手取るには全然足らないね♪」
 至って気楽に、リィムナ・ピサレット(ib5201)はアヤカシ側の出方を待っている。
 共にいる羅喉丸(ia0347)にしろ琥龍 蒼羅(ib0214)にしろ、数々の激戦を経験してきた猛者。多数のアヤカシを相手にするとなっても、誰も恐れてなどいない。
 懸念があるとすれば、やはり数か。手が足りないのはどうしようもない。
「あそこが、氷鬼たちが潜んでいるらしいという森か」
 望遠鏡で羅喉丸は様子を確認する。森は今の時期でもうっそうと生い茂り、奥に行くほど様子がうかがえない。
 乗り込んでさっさと片付けたい所だが、探しきれない間に入れ違いで氷鬼たちが出て来て街を襲われてはまずい。
 幸い、その森から今いる南門の間までは見晴らしがいい。移動してくれれば、どこかで見つけ出せるはずだ。
「更なる懸念は、こちらの裏をかいて他の箇所から街に侵入しようとして来ないかどうかだが……」
 街は全体に防壁が作られていて、外との出入りに四つの門がある。さすがにこの人数ではそのすべてを見張るのは不可能。門番はいるが駆けつける間に被害が出る可能性は多少ある。
 しかし、蒼羅はあっさりと否定する。
「知能の低い相手だ。陽動などを警戒する必要はないだろう」
 欲望優先。きわめて短絡的。なので行動は読みやすい相手だ。
 
 ドン、と、街中から火薬音が鳴り響いた。

 全員が一瞬身構えたが、空に上がった白煙を見つけてほっと胸をなでおろす。
「相撲大会開始、だね。腕に覚えのありそうな奴が集まってたようだし。――早く来てくれないかなぁ。律儀に待たなくていいのにさ!」
 うずうずとリィムナは氷鬼の出現を待ちわびる。鬼退治が終われば、大会に飛び入り参加するつもりなのだ。
 そんなリィムナの態度を、二人も咎めない。鬼とはその程度の相手でしかない。
「さて、来たな」
 望遠鏡を覗いていた蒼羅が指し示す。
 開始の合図はちゃんと森まで届いたようだ。ほどなく、一角が崩れると氷鬼の群れが吐き出された。
 身を隠す気は無いようで、そのまますごい勢いで走ってくる。手にはどこで手に入れたか、戦槌や棍棒や大斧と大型の武器を持っている。奴らが力任せに振るえば、外壁の門扉もあっという間に壊れるだろう。
 人型とはいえ、アヤカシの移動も速い。瞬く間に街に近付いてくる。
 乗り込まれるのをただ待つ気はない。門番たちに防衛の指示と、念の為、街の上役たちに警戒するよう伝達を頼むと、開拓者たちは街の外へと打って出た。


 見晴らしのいい草原は、互いの動きも分かりやすい。
 街から出て来た開拓者たちに、氷鬼たちも気付いた。力強く武器を握りしめていく。しかし、止まる気配はない。
 防衛の為、門は閉められた。
 向かってくる鬼たちの中でも、突出してくる氷鬼がいる。力自慢か、単に特攻馬鹿か。どちらにせよ、大差は無い。相手が三人だけなら、数で押し切れると思ったか。
「甘いな」
 羅喉丸は不快気に鼻で笑うと、瞬脚で一気に距離を詰めた。
 先頭を走る氷鬼を捉えると、素早く拳を繰り出す。
 撃龍拳をはめた一撃一撃が、まるで荒ぶる竜の如し。一瞬の内に三発繰り出されたその速さは、間近で見た氷鬼でも見極められない。
「ゲハッ!!」
 体を曲げて氷鬼が倒れた。血反吐を吐く仲間を見て、氷鬼たちはようやく異変に気付いた。
 そして、羅喉丸自身は倒れた氷鬼を見ていない。すぐさまその場から飛び退き、次の氷鬼へと標的を変えていた。
 数の差はどうしようもない。囲まれて叩き込まれては、何かと面倒。ならば包囲されないよう動き回るのが得策だ。
「ウグッ、ガウ!!」
 接近に気付いた氷鬼が牽制を込めて、武器を振り回した。とっさの判断で力は十分に乗っていないが、それでもなお唸りをあげる鋭い一撃。
 けれど、羅喉丸は八極天陣で自身の気を操ると、軽くその打撃を躱す。そして、重い武器につられて体勢が崩れた氷鬼に、容赦の無い攻撃を加え、また離脱を繰り返す。
 油断ならない相手だと、氷鬼はたちまち思い知る。さすがにそれで無策に飛び出すほどの馬鹿でもない。しかし、退く気配はない。
 怒りの雄叫びを上げると、気を引き締め、武器も強く握り締める。
 殺気立つ氷鬼たちに、臆さず蒼羅は飛び込んでいく。
 眼前に迫った氷鬼がたちまち斧を振るってくる。唸る斧が地上に突き刺さると同時に、氷鬼の体からは血のような物が噴き出す。
 傷を負ったのは氷鬼の方だった。蒼羅の手には、一瞬の内に斬竜刀「天墜」が閃いている。
 奥義・蒼龍閃。鬼の攻撃後の隙を狙い即座に抜刀し、一撃を加える。その速さもまた、氷鬼程度では対処できずにいた。
 何が起きたか理解する頃には、蒼羅はとうに刀を鞘に納めて次の攻撃への態勢を整え、かかってくる氷鬼たちを素早く斬りつけている。
 接近戦では二人に敵わず。動き回る彼らに、傷一つ入れることすら難しい。
 開拓者たちを止めようと、氷鬼が冷気を飛ばしてくる。激しい冷気が空気を白く凍らせながら、羅喉丸を捉えようとする。
「おっと」
 軽く躱すと、目の前の氷鬼の懐に飛び込む。身の丈の大きいアヤカシだ。羅喉丸であっても隠れるに十分。そして、飛び込まれた氷鬼が邪魔で、他の氷鬼の攻撃が緩む。
 その隙にすかさずアヤカシに拳を突き入れ、離脱。倒れた氷鬼からは離れなければ押し潰される。盾代わりを失い危険になるが、まだまだ相手はいる。変わらない足取りで手近な相手に飛び込み、始末にかかる。
 蒼羅は虚心を用いて、氷鬼の動きを見切り、冷気が放たれると同時にその場を飛び退く。その先に氷鬼がいれば、即座に抜刀。斬り伏せる。
 結局、近くにいようと遠くから仕掛けようと、氷鬼たちの動きはほとんど相手になっていなかった。
 それどころか、蒼羅は意識して、彼らをなるべく一か所に固めようと努めてすらいる。自らを囮に、あるいは牽制し、氷鬼たちは振り回されながらも、徐々に集まってきている。
 そんな戦場では、リィムナが応援するかのようにずっと歌い続けている。その身に舞い散る薄緑色の燐光が、歌声を際立たせている。
 勿論、同行した以上、リィムナもただ歌っているだけでもない。鬼の方は暢気な歌い手から始末しようと、術を放つ。鋭い冷気は氷となり冷風となり。けれど、リィムナも何でもないように軽々と避けて動き回り続けている。
(このぐらい、慣れてるからね。歌いながらだって避けられるよ♪)
 胸中で誇りながらも歌は止めない。ローレライの髪飾りで自身を武器とし、歌に術を込める。動き回ろうとも息すら切らさず、朗々と紡がれていく。
 弱っていた氷鬼が倒れた。他の氷鬼たちは、羅喉丸や蒼羅にやられた傷が致命傷となったのだと、悲しみと怒りの叫びをあげる。
 ある意味正しい。二人の攻撃は手加減なく、氷鬼たちの武器よりも恐ろしい一撃を浴びせている。
 けれど。
 距離を置き、遠方から仕掛けていた氷鬼もまた倒れてしまうとさすがにおかしいと気付く。
 リィムナに歌われていたのは魂よ原初に還れ。外傷を発生させずに対象を滅びに追いやる呪曲で、それと理解する頃には氷鬼たちは相当の痛手を被っていた。蒼羅がなるべく彼らを集めるように動き回っていた為、曲の効果を受けた個体は多い。
 じくじくと命を削がれていた氷鬼たちが倒れていく。曲を早く何とかしないと全滅する。そう気付いたか、氷鬼たちが脇目を振らずにリィムナに押し寄せてくる。
 けれど、リィムナに辿り着く前に。氷鬼が血反吐を吐いて倒れた。 
「ま、こんなもんでしょ」
 これもまた誰にも見えはしない。呪本「外道祈祷書」を手に、リィムナの黄泉より這い出る者が呼びだした式神は、呪いを送り込んでいたのだ。


 リィムナの曲で弱りだすと、とどめを刺すのもたやすかった。
 羅喉丸の拳で抉られ、蒼羅の刀で両断され、氷鬼たちはただ数を減らすのみ。最初の数の差はやはり問題にならなかった。
 最後の一体が瘴気に帰り出したのを確認すると、三人は特に感慨も無く戦いの姿勢を解いた。
 
 街まで戻ると、門では鬼退治の成功を門番や駆けつけていた有権者たちが労ってくれた。
 けれど、それ以外に街に変化はない。街中で行われている相撲大会に夢中で、そちらの祭りもつつがなく行われているようだ。
「よし、じゃあ飛び入り参加でやってくるよ。いいよね!?」
 腹掛け「金時」に着替えると、リィムナが大会関係者に詰め寄っている。
 鬼すら倒す相手。市井の腕自慢程度では相手にならないが、余興としては十分だろう。許可を得ると、リィムナは喜び勇んで走っていく。
 大会関係者から付近をうろついていたアヤカシがいた報告とお詫びがあると悲鳴と糾弾があった。けれど、そのアヤカシがすでに倒されたことを告げられると賞賛で湧きあがる。
 やがて飛び交う開拓者たちの武勇伝に、蒼羅が呆れたような声を上げた。
「……どうも話を盛られているようだな」
 目撃していた者はいるのだから、どう話されても仕方ない。が、祭りを盛り上げるべく、氷鬼たちは禍々しく、開拓者たちの活躍より派手になっている。
「どんな形であれ、祭りの盛り上げになるならいいだろう」
 羅喉丸も苦笑いするしかない。
 土俵上では、リィムナが子供たちと組みあっている。なんとものどかな光景だ。
 無粋な客にお断り願った所だ。今の賑わいにわざわざ水を差す必要はないだろう。