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■オープニング本文 世界の片隅、空の下。二人の乙女が言い争う。 「みーちゃんはー、もふらさまが食べてみたいの。はーちゃん、どう思う?」 春より天真爛漫な陽気で告げられ、ハツコは飲んでた茶を吹いた。 「ミツコ! あんた、バカァ!? もふらさまは何かもっそりしてやる事為す事トロさ抜群荷物運びぐらいしか能が無いのかと思ってたら無駄口だけはやたらに動く、人間だったら駄目見本のようでも神様のお使いなのよ! 罰当たりな!!!」 「うわぁ、もしかして、はーちゃん、もふらさま嫌い?」 「何でよ、もふもふしてて可愛いじゃない」 鼻息を荒くするハツコに、ミツコはちょっとだけ首を傾げる。 容赦の無い批評は当たって無い事もないが、概ね辛口でずれている。 「大体ね。もふらさまは食べられないの。肉に潰そうとした所で‥‥」 「そんな事したらもふらさま死んじゃうじゃない〜。もふらさま、死んじゃったら消えちゃうんだよ〜。可哀想だよ〜。はーちゃんヒドイ!!」 恐怖に慄く目でハツコを見るミツコ。 すすすっと後ろ歩きで距離を取り、通行人にぶつかりかけた幼馴染を、ハツコは心の中で梟のように思いっきり首を傾げながら、とりあえず手招く。 「んな事あたしも知ってるっつうの。たださ。それであんた一体、どうやってもふらさまを食べる気なの。生きたまま踊り食いする気?」 「ん〜、それも考えたけど〜」 「考えたの?!?」 「もふらさまに近付くと無条件でもふもふしたくなるから噛み付いちゃ可哀想なの〜」 「‥‥前半のいいたい事は同意するし、後半も分かるけど、全体一文としては脈絡無いんだけど」 「それにもふらさまは食べないよ〜。だって、神様だから食べられないじゃない。だから食べてみたいの〜」 最初に戻る。すなわち、訳が分からない。 話が進まず、疲れたハツコはお茶に専念する事にした。 卓に置いた湯飲みを啜っていると、ちゃっかりミツコも隣に座って茶を啜る。 「つまりね。もふらさまのもふもふを見ていたら、もし、もふらさまをぱくっと食べちゃったらどんなだろうってみーちゃんは考えましたのであります。まる」 「つまり、味を想像してみたって話ね。だったら、最初からそう言えば‥‥」 「みーちゃんはねー。絶対砂糖で煮た苺に真っ白い砂糖をい〜っぱいまぶした感じだと思うんだー」 世にも幸せな笑顔でミツコは語る。 人が話してる最中に、と怒りたかったが、思わずそのもふら味を想像し、ハツコは卓に突っ伏す。 「で、デロ甘‥‥。大体、何そのドロドロ状態は。もふらさまって結構頑丈だし、あたしゃ、干菓子っぽいと思うな。いや、そもそも甘そうじゃないな。普段からもしゃもしゃ喰ってばかりだし、草っぽそうね。挽いた穀物を硬く焼いたっぽいんじゃない?」 「えー、もふらさま、硬くないよぉ」 「何言ってんの。あの頑丈さ。‥‥あーでも、見た目じゃなくてあくまで味かぁ」 湯飲みを置いて、人差し指で卓を叩きながら、ミツコは考え込む。 「動物と考えたらやっぱり肉味? 雑食って事は牛とか豚とも違うんだろうけど」 「えー。もふらさまお肉ないよぉ。だって消えちゃうんだもん。水で薄めた蜜をシューって霧状にしたのを固めた味なんだよぉ」 「なんで、あんたはそう甘い味しか思い浮かばないのさ。案外、あの毛は全部白葱で、本体もでっかい玉ねぎ味かもしれないでしょーに!」 「ひっどー。もふらさまはあんな目に染み込む攻撃的な味しないもんっ!!」 卓に並んでお茶をしながら、のっそり歩くもふらさまの味についてあーでもないこーでもないとかしましく騒ぎ立てる。 ● そして、ギルドに依頼が入る。 「‥‥考えすぎて気分悪くなってきた。という訳でとりあえず納得できそうな味を探したいから他の人の意見も聞いてみたい。暇な奴、もふら味考えるの手伝って。お茶ぐらいは出す」 「え」 ハツコから端的に言われて、ギルドの受付は退いた。 いろんな意味でふつーに退いた。 「はーいはいはーい。あのね、いろいろ考えるだけじゃ面白くないから、作れるなら作って皆で食べてみたいなー。台所と食材と食費ははーちゃんが出してくれるって♪」 後ろからひょこり顔を出し。笑顔でとんでもない事を抜かす。 「マテ、何であたしの財布からたかろうとしてんのよ!!」 「あ、作れなくてもみーちゃん秘蔵のチョコレイトウを見つけたからお茶請けはあるよー。無理しなーい、気にしなーい」 「戸棚に隠してたのに!! いつの間に見つけたのよ!!」 ギルド内を走り回る二人に、受付は頭を抱える。 「まぁ、依頼を出すのは構いませんけどね。もふらさまは精霊力の塊ですし、口に出来ても空気味というのが結論じゃないかと」 「うん、あたしもそれは言ったんだけど‥‥」 「や〜だ〜。もふらさまは神様なんだから、素晴らしい味がして欲しいヨォ」 膨れるミツコに呆れる受付とハツコ。 そもそも神様を食べたいという発想自体が妙なものだが。 「ま、春だし」 いろんな奴がいてもいいだろう。 ただし、あくまで味を想像しようというだけで、もふらに危害を加えてはいけないのでご注意を。 |
■参加者一覧
天津疾也(ia0019)
20歳・男・志
皇 りょう(ia1673)
24歳・女・志
剣桜花(ia1851)
18歳・女・泰
チョココ(ia7499)
20歳・女・巫
アーシャ・エルダー(ib0054)
20歳・女・騎
アグネス・ユーリ(ib0058)
23歳・女・吟
リスティア・レノン(ib0071)
21歳・女・魔
不破 颯(ib0495)
25歳・男・弓 |
■リプレイ本文 ● 「もふらさまって、食べられるんだねぇ。知らなかった!」 「あ、あれは、食べられるのですか!??」 「‥‥食べられない認識であってるからね?」 衝撃の事実発覚!? 感心するアグネス・ユーリ(ib0058)と驚愕するアーシャ・エルダー(ib0054)に、そっと否定を入れる依頼人のハツコ。 「死ぬと消えるから食べるのは無理。だから、味を想像したいって訳。本当に大丈夫〜?」 「あ、あははは。そんなの百も承知。分かってるって。‥‥ちょっともふりながら考えてくる!!」 疑惑を振りほどくように、アグネスはもふらへと走る。 「それにしてももふらの味とはねぇ。面白いことを考える方がいたもんだなぁ」 「えへ。それ程でも〜」 にこやかな不破 颯(ib0495)に見つめられ、嬉しそうにしているのは同じく依頼人のミツコ。 「褒められた事じゃない気がするんだけど?」 ハツコが困ったように見つめるも、二人は気にしてない。 「いや、精霊信仰を厚くする我が家では、とても恐れ多くて考えもしなかったからな。‥‥だが、言われて見ればあの牛に似た巨体。牛鍋のようにすれば‥‥」 「よだれ出てますよ」 「ちちち違うぞ、これは。そもそも神の使い、精霊力の結晶たる存在を食べるなど‥‥!!」 差し出された手ぬぐいに、動揺する皇 りょう(ia1673)。しかし、追い込まれる者、時として偉大な思考に辿り着く。 「そうか! あの毛並みは、夏場にはちと暑そうだ。ならば、羊のように刈れば良い。そして食すのだ。もふらさまは涼しくなり、私達は空腹を満たせる。皆が幸せになる名案ではないか!」 精霊と人間が丸く収まる妙案。閃いた考えに納得し、滝のような汗を拭う。 が。 「刈った毛を食べるの?」 「お口の中、もしゃもしゃしそうだよね?」 ぼそぼそと陰で言い合うハツコとミツコ。 りょうの思考迷宮は脱出出来てないようだ。 「でも、もふら様はどんな味がするのでしょうね? きっとふわふわ甘いのではないかと思いますわ〜」 「うん、みーちゃんも絶対そう思うんだぁ〜。はーちゃんはちょっと違うみたいだけど」 まだもふられているもふらを見ながら、お茶を啜るリスティア・レノン(ib0071)にミツコが和んだ表情で並んで頷く。 「だって、結構でかくてがっしりしてるのよ」 「確かに、毛を剃るとまた別の想像が出来そうですよね」 ハツコの言い分に頷くアーシャ。 とりあえず、毛刈りした姿を想像してみると、 「‥‥もしかしてまずそう?」 「むっ!?」 ぽつりと呟いた一言に、ミツコから鋭い視線が飛んだ。 「もふもふの味がどうなってるか。言われたら気になる所やなぁ。ほんまに喰う訳にいかんから、想像でしかないやろけど」 「そうそう。だからどんな味であっても文句は言わないの。人それぞれ」 天津疾也(ia0019)の言葉に、ハツコはのっかり、ぶーたれてるミツコの頭を無理やり別方向に向ける。 「どんな味でも人それぞれ、ですか」 そのハツコの言葉に、考える物があるのか、チョココ(ia7499)がぽつりと呟く。 「食べられない物はさすがにやめてよ」 「大丈夫。すべて食べられる物で作ります。‥‥さすがに食べれないものはやめていただきたいですね」 「Gとか黒い虫とかは料理と関係ないんやし、容赦なく締め出させてもらうで」 チョココと疾也の視線が交わる。 「我が神への信仰も大事ですが、それよりも切迫した問題が私にはあるのです! という訳で、依頼人に確認しますが、今回ひっくるめて依頼人持ちのお茶会にお付き合いで、依頼料が貰えるのは間違いないですね?!」 妙に気合の入った様子で剣桜花(ia1851)が詰め寄る。 「うん。こんな馬鹿な事に付き合ってもらうんだしね。‥‥食費は予定外だったけど」 ハツコがミツコを軽く睨む。 「よし! このびんぼー中におやつを食べるだけでお金がもらえる依頼があるとわっ! 神様、感謝いたします!!」 「食費は浮きますね」 喜び拝む桜花とは、対象的にチョココは静かに呟く。 ● もふら味を考える。 考えるだけでもいいとは言ったが、やはりどのようなものか現物があった方がいい。 という訳か、ほとんどの参加者が調理を考え、台所に立ち、あるいは市場に買出しに向かう。 「私は‥‥残念ながら、料理の腕は人様に出せるものではないのでな。今回は今後の勉強に拝見させていただく」 目指せ、良妻賢母。 熱い思いを胸に、りょうはぎゅっと拳を握る。 「だいじょーぶ。皆、頑張ってくれてるし、お茶請けもあるしね」 ミツコは、どこぞから小粒のチョコを取り出すと、りょうの口に放り込む。 「うん♪ このお茶請けは美味だな」 「ってか、それ秘蔵してたのって‥‥いや、もういい」 むぐむぐと顔を綻ばせるりょうに、何故か肩を落とすハツコがいる。 ちょっと長めに買い物をしたのがアーシャと、彼女に誘われたリスティア。 「なんでも甘味を全て食べてまわるのだとか。真面目な方なのですわ」 「婦女子たるもの、甘味を制覇せずにいられませんよねっ!?」 「そのとーり!!」 「って、何でミツコも一緒になって甘味処に入るのよ!!」 ほわっと笑うリスティアの腕を掴んで、アーシャは次々と目につく甘味処を制覇。 「本当にこれ、必要な事なんでしょうね」 余計な出費はしたくない。ハツコの顔にはそう書かれているようで。 「我が郷里ではない味ですからね。しっかり堪能、調査しておかねば」 しかし、アーシャの探究心は止まらない。 「店員さんにお聞きした所、あちらの店舗でも白い御菓子を扱っているそうですよ? 行ってみませんか?」 リスティアも真摯に手伝い、情報を集めてくる。 御汁粉などをたっぷり賞味した後は、目につく饅頭や飴、食紅、餡などに手を伸ばす。 こちらはもふら味の菓子作り用。なので、今、食す訳にはいかない。 「くっ、これも騎士としての修行なのです!」 両手一杯に食材抱え。そのまま口にも銜えたい思いに耐えるアーシャ。 「でも、生地がもちっと美味しいよ〜」 「が、我慢〜」 その後ろで、やはり両手一杯に御菓子を抱えてついでに口にもほうばるミツコ。 誘惑に抗する修行は、依頼人宅に戻るまで続いた。 ● 各々のもふら味が出来た所で、試食会。 「アッサム茶はいかがですか? 緑茶よりチョコに合うと思って用意してきました」 温めた急須に、桜花が慣れた手つきで紅茶を入れる。 湯飲みに注がれた色濃いお茶をしばし楽しむ一同。 ‥‥そのまま、会話が止まる。 卓の上にはお茶請けチョコレートと並び、皆が作ったもふら味が並んでいる。 玄人揃いで無いのだ。多少歪な物があっても当然。 が、その中で明らかに問題作が二つ。 「とりあえず一つ目。もふらの形が可愛いんだけど‥‥そちらの人、大丈夫?」 大福に黒い飴で目をつけたり、赤く色付けされた白餡で首周りの赤をつけてみたりと、見た目は可愛らしく出来ている。 その一方、卓の片隅ではアグネスが青い顔で唸っている。 アーシャとリスティアの作品。彼女がその試食をしていたのは、台所に出入りしてた者なら気がつく。 「それは、試行錯誤の結果と言いますか」 「人に死食させる前に、試行錯誤してちょうだいな」 明後日を見るアーシャに、恨みがましい目をアグネスは向ける。 ちなみに試しに作った最初の品は、隠し味の塩醤油味噌の混ぜ込みに失敗したか。見た目からしてもふらというよりアヤカシと化している。 「よく食べたわね。勇気あるわー」 「いえ、アーシャさんが『ピンクのもふらがいる』と気を逸らせた隙に、口に放り込んだんです」 リスティアの密告に、それ以上何も言えず祈るハツコ。 「でも! 変な物は入ってなかったはず!!」 「それに、おかげで美味しくできましたよ。こちらは安心していいかと‥‥」 力説しながらも不安そうにしているのは、謙虚さゆえか、不安なのか。 「まぁ、いいわ。それよりもこっちね」 恐る恐ると目を向ける先にあるのは、何やら黒っぽい汁が染みた、でんっと大きな肉の塊。添えられたふわふわのメレンゲが一層肉の色を増してみせる。 伴う独特の臭気。見た目より何より、これが一番気になる。 「『野獣の黄昏〜そよ風を添えて〜』ですが、何か?」 チョココはさらりと告げるが‥‥。菓子類が並ぶ中、その存在感は大きい。 「えーとね、何のお肉?」 「猪と熊です。迷いましたが、いい機会ですので両方とも」 恐れるミツコに、やはりあっさりと料理人は告げた。 「自分のがはよ出来たら、誰かの手伝お思て見てたんやけどな。一体、何で煮込んどったんや? 凄い臭いしとったんやけど」 「動物の血です。大丈夫、ちゃんと調理に使える血を用意しました。食べられない物は一切使用しておりません。もふら様の獣部分を出す為、肉に味付けや臭み取りもしてないぐらいです。硬さを出す為、水分も抜いてます」 きっぱりと言い切られる。 が、調理法を聞いてなお食指が遠のく。 「じゃあ、最初の一口はりょーちゃんで」 「そだね」 見詰め合った後、あっさりそう判断する依頼人二人。 「依頼であるなら、これもまた勉強と‥‥。しかし、旦那様をメロメロにできそうな手料理の方が‥‥」 血の料理を前に、胸中複雑なりょう。 「いーじゃん、メロメロじゃなくてヨロヨロになっても」 「そうだよ。弱った旦那を介護して好きに出来るんだよ!!」 どさくさになにやら指南してくれてるが、それが実にいい加減な事はりょうでも分かる。 ● 「皆さんの味を楽しみにしていたのですが〜。甘い印象が多いですか〜」 「確かに、私も菓子のように甘いか、湯葉のように深い味わいがあるか。どちらかかなと」 告げる颯に、りょうも頷く。 「でも、味付けはちょっとずつ違うよね。このもふら様は部分ごとで違ってるし」 ミツコが颯の菓子に手を伸ばす。 五分の一もふら人形型菓子は練り切りを求肥で包んである。食紅で色付けした体毛はアーシャと似た感じだが、使った餡は、耳が桜餡、顔がゆず餡、体にこし餡、手に抹茶餡、尻尾が白餡となっている。 ついでに、目は黒飴だが、鼻は甘納豆だったり。 「餡の種類と位置は、相棒に意見を聞いてみたんですよぉ〜」 もふらの事はもふらに聞け。‥‥ではあるが。 「何で、もふら様、自分のお味が分かるんだろう? ‥‥共食い?」 「違うと思いますよ〜」 首を傾げるミツコに、にこりと否定を入れる。 「どういう所を気にかけるかで印象変わりよるわな。俺はもふもふ感を大事にして、こないなったんやわ」 疾也がマシュマロを置く。 チョコをたっぷり練りこんだ菓子は、ふわっとしながらも弾力がある。 「ちょいあっためて食べるんが、ええ感じや思うねん」 「焦げちゃうよぉ」 「そら、炙りすぎや。加減ちゅうもんがあるやろ」 食べなれない菓子に悪戦苦闘気味。見かねて疾也が手を出す。 「チョコはいいですねぇ。そうそう、私のもふら様味はこれです。もふもふした外見にさくっとした口ざわり。中身がすかすかな精霊力で出来たもふら様らしいオチ付!」 桜花が用意したのはシュー。大抵はこの中にクリームが詰まるが。 「あ、はさんで食べるといい感じ」 「それじゃ意味無いですよぉ。シューが究極のもふら味なんです」 餡子やらマシュマロやら詰め込み、好き勝手に食べだすミツコ。 わざわざクリーム抜きと頼んで買ってきたのに、がっかりだ。 「肉料理も説得力はあったわね。筋肉質で力強いって。‥‥食べるならせめて臭みは消して欲しかったけど」 妙な表情を作りながらも、わりとハツコは好印象だが。 「えー、あれは無いよ。もふら様はもっと軽いんだもんっ」 対照的にそっぽをむくミツコ。 「そないきつぅ言わんとき。予想の味は人それぞれなんやろ。思い思いの感想を述べるだけで気楽に行こうや」 「う、ごめんなさい」 窘められて、項垂れる。 「そうそう、人生は楽しく行きましょうよ〜。甘い物でも食べてね〜」 颯は、飴を練り合わせ、ハサミで整えるとあっという間にもふら細工の飴を作り、ミツコの口に放り込む。 「上手いもんねぇ」 「昔出店でよく作ったんです〜。今日の菓子は職人や店で作り方を教わりましたけどね。でも、せっかくこれだけの味も揃ったんだから、もふら味の出店とか出しても面白そうですよねぇ〜」 人数分の飴細工を配りながら、ちらりと疾也に目を向ける。 「どうやろ。人それぞれの味やし、思うてるもんと違とったら金は出しづらいで」 肩を竦める疾也に、そっと桜花が近付く。 「さすが師匠〜。で、どうやったらお金が溜まるんです? 前手伝った商店が結構危ない橋を渡ってましたよね。やはり飛空船の維持費を出すとなると普通の取引では追いつかないんでしょうかねー」 金欠で困り果てている桜花。ここで是非に秘訣を聞き出そうと手を尽すが、 「何や。色仕掛けでは来ぉへんのか」 「仕掛けたら教えてくれますか!?」 「アホ。貰えるもんは楽しむけど、こっちが支払うかは別問題や」 「酷いです〜」 のらりくらりと躱されて、まるきり暖簾に腕押し。 「そういえば、彼女の意見はまだ聞いてないような?」 ふとハツコがアグネスを見る。 「あ、あたし? もふらさまもふれたし、御馳走様だけどね」 しっかり堪能した様子のアグネスは、言って湯飲みを置く。 「最初はあたしもまふっとした感じでマシュマロを考えたのよ。でも、ちょっと甘すぎだし、もふらさまはもっとがっつりの印象があったのよね」 それで次に考えたのは白パンだった。 「お尻の辺りとか似てるじゃない。でも、パンってこっちじゃあんまり食べ無さそうだし、一から作るとなるとねぇ」 「ジルベリアの人も結構来てるんだし。多分手に入ったわよ?」 「でもねぇ‥‥。で、そこからさらに考えて。出た結論がこれよ!」 言ってアグネスが出したのは、おむすび!! 「これなら、白くてふわっ、で。簡単に手に入って、がっつりで、飽きも来ない! 見た目も何か似てる!!」 どうだ、と胸をはって告げる。 軽く握られた塩むすびの具は梅干。 まじまじと、そのもふら味を見ていた二人だが。 「何か分かる〜〜」 「白いし、赤いし。確かに似てるよぅ〜」 何か依頼人のツボに嵌まったようで。 笑いたてる二人を、一同は唖然と見ていた。 ● 一通りの試食が終わっても、談笑は緩やかに続き。 「今日は馬鹿な依頼に付き合ってくれてありがとう」 帰り間際に依頼料を渡し、言ってハツコが笑って見送る。 「それで、ミツコ。もふら味は納得いったの?」 かなりお金をかけたミツコの悩み。これで解決してなかったら、怒るどころではないが。 「うん。やっぱりもふら様の味は人の数だけあるんだよ。奥が深いよねぇ」 「‥‥それを最初に納得してくれてたら、大騒ぎしなくて済んだのに」 解決はしたようだが、なんか涙が止まらない。 「いーじゃん。すっごく楽しかったしー」 肩を落とすハツコの周囲を、ミツコは爛漫な笑顔で飛び跳ねていた。 |