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■オープニング本文 秋が近いとされる今日この頃。 されど残暑はまだまだ続く。 「と、いう訳で海行くぞー」 「行くぞー♪」 西瓜と皮の浮き袋抱えて満面の笑みを浮かべる二人の水着美女(誇張アリ)に、ギルドの受付は慣れた手つきで手続きを始める。 「よかった、はーちゃん。喜んでくれたよ」 「卒倒するほど感激してくれるなんてねぇー」 「びっくりしただけじゃあ!! なんちゅう格好で来るんじゃああ!!」 「「はーい☆」」 ギルドのど真ん中でポーズを取る二人に、周囲から拍手やら口笛やら覗きの客やらが押し寄せる。 直後、受付にどつかれてギルドの裏で着替えさせられる二人がいた。 ● 「いや、なんかこう暑くてさー。細かい事考える前に涼しい事考えたいのよ」 「考えるのはいいが、常識を忘れるな」 着替えたハツコが団扇で扇ぎながら言い訳。 受付は怒りを通り越して頭が沸騰して撃沈中。 「でね、まだ暑いしー。みーちゃんとはーちゃんは海に行こうと思います」 「勝手に行け」 「つれないなぁ。折角だから、開拓者たちも誘いに来たのにー」 追い払うように手を振る受付に、ミツコが口を尖らせる。 「まぁ、時期は外したけどその分空いてる訳よね。だから、ミツコの親戚のつてで浜辺まるまる貸し切りできることになったの。折角だから日ごろからアヤカシ退治とか開拓で頑張っている開拓者達に一時の休みを提供しちゃえって事で」 「皆で炭持ってー、網用意してー、野菜盛ってー、浜辺で焼肉三昧♪」 「泳がんのかい!!」 どこからか、網と炭持って騒ぐミツコに、受付が突っ込む。 「だってー、海岸はクラゲでいっぱいだもーん。刺されると痛いよー」 「でも、普通のクラゲばっかりだから、アヤカシに殴られても平気な開拓者なら刺されても大丈夫でしょ。ガンガン泳いでいいわよ」 えらい言われようである。しかし、ただのクラゲに負けていてはアヤカシどころでないのも確か。 クラゲが出て一般人の遊泳には使えないから、貸切OKになったのだろう。 「なお、焼肉は野菜以外自力調達をお願いします」 「近くの山とか入っていいって許可取ったよー。後、岩場とか探せば貝とか魚とかいるかもね」 「ようはこき使える開拓者が欲しいだけか!?」 受付の言葉に、心外だといわんばかりに二人が威張る。 「ひどーい! 自分達の焼肉は持っていくもん!」 「ちなみに、こっちで用意した肉を食べたい場合は一人一枚につき100文払ってね♪ 自力でとってきて焼肉に参加する場合は、ショバ代として物資の一部提供を願うわよー」 「ぼったくりかーっ!」 どっちにせよ、依頼者達は食い放題である。 「後ね、浜辺はやっぱりスイカ割りって事で、こんなのも用意してみたよー☆」 やはりどこから出したのだろう。大きなスイカをミツコが取り出す。 よく育ったスイカは見るからに美味そうで。受付も思わず受け取ったが。 「? 何か軽いな?」 両手で抱えるほどの大きさ。確かにずっしりとは来るが、もう少し重くていいような。 「だって、中身空だもん」 あっさり頷かれてから、受付はもう一度スイカを見直す。 確かに一度切って繋いだような線があった。が、じっくり見なければ分からないだろう。 「スイカは全部で100個用意。当たりは一個だけで、見事当てた人は食い放題☆」 「ちなみに、空スイカを間違って叩くと‥‥」 ハツコが小槌を取り出すと、思いっきり実演する。 ぐしゃりとスイカからは、赤い果肉ではなく赤いカニがうじゃうじゃと這い出てくる。 「このように、中には別のモノが仕込んであります。特注で頼んだけど、職人さんの技術って凄いわねー」 「アホかああああぁぁぁ!!」 小さなしかも食用じゃないカニに集られた受付が、ギルドどころか都中に響く声を上げても別にいいだろう。 |
■参加者一覧 / 天河 ふしぎ(ia1037) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 菊池 志郎(ia5584) / 魔双破(ia5845) / からす(ia6525) / 和奏(ia8807) / セシル・ディフィール(ia9368) / 琥龍 蒼羅(ib0214) / 明王院 浄炎(ib0347) / キオルティス(ib0457) / 朱鳳院 龍影(ib3148) / プレシア・ベルティーニ(ib3541) / クロスケ(ib4127) / ゆうき(ib4130) / 臣導 篤仁(ib4141) / パール(ib4146) / 左之助(ib4150) / 辺裡(ib4154) / 俺吾 逃外流(ib4157) |
■リプレイ本文 夏が終わって、そろそろ秋‥‥のはずだが。 残暑厳しく、陽はまだ強く。冷たい水がまだまだ恋しい。 「おっしゃ、海行くわよ!」 「おー☆」 ざっぱんと白波上げて広がる大海に向けて、ハツコが気合を入れると、ミツコも笑顔で拳を振る。 「海行くぞ‥‥で、肉ですか」 「いいじゃない。こういうところで御飯も景色はいいんだし。海の中はアレだし」 菊池 志郎(ia5584)はもふらたちが運んできた大量の荷物を見る。 そして、ハツコは海を示す。 青い海。そこに浮かぶ半透明の丸い月。クラゲである。刺されると痛い。開拓者にはなんぼのもんではあるが。 「だが、楽しく遊ぶには邪魔だな。網持ってクラゲ駆除だ!」 「承知! 海の安全は拙者が護るでござる! おりゃああ」 からす(ia6525)に命じられるまま、相棒の土偶ゴーレムは海に入っていく。 波打ち際では足元までだった波も、やがて腰の辺りにまで埋まり、さらに沖へと進むといきなり頭まで没した。 みゃあみゃあ、とウミネコの鳴く声。波が打ち寄せ、泡が立つも変化は無く。 「無事に帰還するのだよー」 それでも、動じず。からすは的確に指示を出している。‥‥伝わっているかは不明だが。 「クラゲ。これがクラゲですか。海にはいろんな生き物がいるのですねぇ」 クラゲというものを初めて耳にし、こうして目の前に浮かんでいる。 その光景に、和奏(ia8807)は静かに感動していた。 「海では見た目ふよふよしていてあまり強そうに見えないのですが、毒があるのですね。‥‥なんとかお持ち帰りはできないのでしょうか」 浜に打ち上げられたクラゲをひっくり返す。入手は簡単だが、それは彼の望む姿とも少し違う。 「桶とか箱に海水ごと入れたら持って帰れるとは思うけど。でも、育て方とかまでは知らないし、すぐに死んじゃうかもよ」 「そうですか‥‥。綺麗なので、見せてあげたいと思ったのですが」 ハツコの率直な意見に、和奏は残念そうにクラゲを見る。 持って帰るか否か。ぼんやりと海月を眺めて考え出す。 「そして、浜には大量の西瓜か。奇妙な光景だな。‥‥陽淵、触るなよ」 相棒の駿龍が興味深げに西瓜を嗅いでいるのを見つけ、琥龍 蒼羅(ib0214)は直ちに止める。 何せ、見かけは確かに西瓜だが、割ると別のモノが詰まっている特別製。浜辺中に散らばった百の西瓜の内、本物は一つしかない。 「ふむ、当たりだ」 試みにからすは、近くの西瓜を割ってみる。 二つに分かれた西瓜からは、当たりの紙と共に綺麗な紙吹雪が飛び出し、辺りに舞い散る。‥‥手の込んだハズレだ。 そんな空っぽの九十九個分の果肉は、 「よく働いたもふー」 「労働の後のおやつは美味しいもふー」 大傘差して日陰を作り、涼を満喫し始めたもふらたちが食べている。 「鈴麗にクラゲは関係ありません! クラゲのいない潮溜まりで遊ぶのはアリ、トコブシとるのはアリ、焼き肉大会参加もアリです!!」 礼野 真夢紀が(ia1144)が相棒の駿龍に楽しそうに告げる。 「西瓜割りはせんのか?」 「それは‥‥ちょっと考えます」 口ごもって考える真夢紀に、明王院 浄炎(ib0347)は分かったと頷く。 「とりあえず、焼肉だな。準備はこちらでやっておくから、まゆちゃんは自分の分も楽しんできなさい」 「ありがとうございます」 真夢紀はきちんと礼を取る。 浄炎はそんな彼女に手を振ると、依頼者たちに向き合う。 「肉は有料なのか? 彼女が、その場で採って捌いた肉は臭みが取れない可能性がある、と危惧していたので俺が彼女の分も負担する。後、まゆちゃんも都で購入したモノを下処理してくれている」 背負っていた荷物を下ろすと、中からは藁が出てくる。その中からさらに箱。開けると、ようやく真夢紀が氷で固めた食材が取り出せる。 「了解」 少し肩を竦めるハツコ。 それに構わず、浄炎はさっさと竈を組み始める。 「炭を興し、網を温めるのも時間がかかるからな。飯も必要だし、この暑さなら茶も必要だろう」 「茶なら用意してあるぞ。如何かな?」 くらげまみれの土偶ゴーレム従え、からすは竹水筒を差し出す。とりあえず、相棒無事帰還。 「わざわざクラゲのいる海に入ろうとは思わないし、西瓜割りもなぁ‥‥。陽淵は肉が食べたいだろう。山で猪辺り探してみるか。‥‥手伝えよ」 蒼羅が相棒に伝えると、陽淵は期待の篭った目で見つめ返し、空へと舞い上がる。 「肉だけは有料。自分の食べる分は自分で確保、ですか。‥‥結構しっかりしてますね」 志郎も感心と呆れと半々ぐらいの感想を述べると、山に向かう。 「海、か‥‥」 魔双破(ia5845)はそんな海をじっと見つめる。が、すっと目を逸らす。 クラゲがいようといまいと。泳ぎに自信が無いので海に入る気は無い。 そして、金を払う気もさっぱり無い。 なので、素直に山へと向かう。 「さて、それでは錆止めするから日陰に行こう」 「かたじけないでござる」 土偶ゴーレムを伴い、からすも歩き出す。 吹く風も潮臭く。武器などの金属は要注意だ。 ● 「うぅぅみぃぃぃっ!! 楽しみなんだよ〜♪ あ、ショバ代はお稲荷さん持ってきたの〜」 プレシア・ベルティーニ(ib3541)は、依頼人たちに稲荷を渡すと、そのまま海に突撃。 「ちょっと待て。その格好で入るつもりか!? 水着は!?」 驚いた天河 ふしぎ(ia1037)が慌てて止める。 「ん、水着〜? うん、用意してきたよ! ボク水着要らないって言ったんだけど、お師匠様がね『お前は着ててもヤバいから、絶対着ろ』って〜。何でだろうね〜?」 持参した深紅のビキニ水着を堂々と掲げながらも首を傾げるプレシア。 「持ってきてるならさっさと準備するのじゃ。ふしぎも、持ってきておるのだろう? 何を照れておるのやら」 「べ、別になんでもないよ、うん。さっさと着替えてくる!」 朱鳳院 龍影(ib3148)も真っ赤なビキニで下着のような姿(といっても、水着も下着も見ようによっては似たりよったりだが)。 促され、ふしぎも少し動揺しながら慌てて着替えに向かう。 その姿を見送ると、ただ待つのもつまらんと、龍影はクラゲ構わず海に飛び込む。 波と共に泳ぐ龍影を、砂浜から羨ましそうにミツコが見つめる。 「やっぱり志体っていいなぁ〜。志体持ってたらはーちゃんも立派になれるのかなぁ」 「‥‥あんたは、人のどこを見ながら誰の何を気にしてるのかなぁーーーっ」 龍影がひとしきり泳いで立ち上がると、その豊かすぎる胸にはクラゲがひっかかっている。 一般人であればきつい反応が出る毒も、開拓者には効果が薄い。だから、こんなクラゲの海に入る事も出来るのだが‥‥。 どうもミツコの羨み視点は違うようで。ハツコがぐりぐりとその頭を押さえ込む。 「やはりクラゲが多いのぉ。あちこちちくちくするわい」 毒の効き目が弱いとはいえ、刺されて無事でもない。 龍影は眉を顰めると、引っ掛かったクラゲを鷲掴みにし、軽く睨んで放り捨てる。 一つ一つ対処するには数が多すぎる。砂浜に放り捨てても、また沖からやってくるようで。痛みはあるが、我慢できない程でもない。 その内、クラゲ相手も面倒になって、気にせず遊び出す。 「おっまたせ〜。せっかくの海だもん。皆で楽しく遊ぼうよ〜♪」 着替えたプレシアが、海に飛び込む。その後ろから、ふしぎが大きな襟付きのビキニで登場。‥‥はたして胸は必要あるのか。 「べ、別に恥ずかしくなんか、ないんだからな」 という割には、どこか挙動不審で。視線があちこちと定まらない。 と、その顔にぴしゃりと海水がかけられる。 「ふしぎ兄‥‥」 人妖の天河 ひみつが小さな手で水をすくうと、ふしぎに浴びせる。 「こら、ひみつ‥‥。龍影、プレシア一緒に、って二人も?」 濡れたふしぎに、龍影とプレシアもおもしろがって水をかけ出す。水飛沫にクラゲも舞うが、そんな事は気にしない。 「でも、遊んでばかりもいられないんだよね。お肉が欲しけりゃお金か持参か〜」 はたと気付くとプレシアはしばしの別れを告げて山へと向かう。 「やれやれ。ではこちらはスイカを探すとするか。いつまでも転がしたままは邪魔だしの」 龍影は砂浜に向かう。大量のスイカは砂に埋もれながら、割られる時を待ち続けていた。 ● 山に入ってすぐに獲物が見付かるかは、それぞれの力量次第。 「雀なども食べられはしますが‥‥。兎とか見つけられたらいいのですけど」 「向こうも警戒してるんだろ。蛇でも捕まえるか、もう少し奥を探すか?」 種類を選ばねばそれなりに食材確保は容易。 それでも、お裾分けできる程度に捕まえたい志郎としてはできれば数が欲しい。 魔双破はキノコや野草なども収穫。なんならそれで済まそうと考えている。 「いっそ秋本番になってたら困らないのだがな。この暑さでは、夏の野草もやられてしまう」 見つけた野草が毒草と気付き、除外する。 それでも、かなりの食材が取れている。知識だけで収穫出来る分、肉探しよりも楽ではある。 「見つけた見つけた。調子はどう?」 そこにプレシアが合流する。それぞれが思い思い獲物を見せると、プレシアはふと考える。 「川とかあったかな。魚も捕れたらいいよね」 食材は豊富な方がいい。皆で楽しく食べる為の都合をあれこれ考えていると、一声高く鳴いて、駿龍が舞い降りる。 「大物を見つけたようだな。驚かせて逃がさないよう、陽淵はここで待機。手隙の弓術士が入れば楽できそうだが‥‥」 行って蒼羅は面々を見る。が、そこに弓術士は無し。 「大丈夫。ボク、人魂で探せるよ。後は霊魂砲でゲットだよ〜」 だからお肉ちょうだいね、と笑うプレシアに、蒼羅は龍を見る。 「出来れば全員分確保したい所だが、獲物次第だな。こちらも心覆で近寄るが、手伝ってくれるならありがたいな」 「捕まえたならここで捌いて持っていった方がいいですよ。血塗れにすると、依頼主たち怖がりますから」 志郎が念を入れる。 肉は美味いのだが、解体作業は見て楽しいものでもない。見慣れないと、なおさらだ。 「あまり遅くなると、道が分からなくなる可能性もある。迷子にはなりたくないし、わたくしとしては西瓜割りにも興味があるので適当な所で失礼するよ」 「そうですね。俺も西瓜は興味あります」 太陽が西に傾いたのを見て、魔双破は断りを入れる。 「こっちも、手間も含めてあまり時間をかける訳にはいかんな。適当な所で切り上げる」 告げると、早速蒼羅は獲物がいる場所に狩りへと向かった。 ● 浜辺にて。西瓜相手に開拓者たちは奮闘する。 「心の目で見れば一目瞭然なんだからなっ‥‥」 ふしぎは額のゴーグルに手を当てると、静かに転がる西瓜に目を向け、 「見切った! 本物の西瓜はこれだ!」 借りた木刀を振り落とすと、見事に西瓜が叩き割れる。 ‥‥中身は空洞だったが。 「当たらぬものじゃのう。‥‥手の込んだ事を」 龍影は痺れた手を振る。叩いた西瓜の皮は削れたが、その中に隠されていたのは鉄球。さすがにこれは叩けない。 「がんばれもふー。負けるなもふー」 奮闘する開拓者たちを無責任に応援しているもふらたち。西瓜は食いあきたらしく、適当にごろごろしていた。 「そういえば、カキ氷は無いのですか?」 持参の見習いの刀で西瓜を斬っていたゆうき(ib4130)が汗を拭う。 「氷はあるけど、あれは保冷用だから食べちゃダメ。誰か氷作れる人がいればだけど、今回はね」 肩を竦めるハツコに、ゆうきはあっさりと諦める。 「そうか。残念だ‥‥。はぁ、腹へったなぁ。野菜徳盛お願いします」 腹を押さえ、臭いに惹かれるゆうきに、からすは得意満面に招く。 「うむ。こちらに野菜卓を儲けておる。特にキノコは豊富じゃぞ」 「毒が無いかは自分で確かめてある。心配せずに食べていい」 山から戻った魔双破も、野菜卓にしっかりお邪魔。自身が取ってきた肉もその隅で焼き始める。 「ってか、なんでそんなに野菜が好きか?」 野菜てんこ盛りの網を見て、ハツコが顔を顰める。 「お金使うのは嫌いでね」 「倹約中」 「焼肉は戦。戦は元気有り余っている者たちに任せて我々はのんびり食べようぞ」 「えーい、どいつもこいつも貧乏人めがっ」 「はーちゃん、それは言いがかりだと思う‥‥」 即答する魔双破、ゆうき、からすにまで拳を震わすハツコ。さすがにミツコも頭も抱える。 「こちらのバーベキューは健康志向なのですねー」 「違うから。こっちちゃんと肉焼いてるから」 野菜卓眺めて感心している和奏を、ハツコは強引に振り向かせる。人数が多いので、網の数も多い。そちらでは肉の比率がずいぶん多くなっている。 「あ、本当だ。そうですか。てっきり野菜だけなのは美容の為なのかと」 「確かに。肌にはよさげよね」 「‥‥うー、でもやっぱり肉も欲しいよぉ」 はたと気付くハツコに、迷ったミツコはそれでも肉に箸を伸ばす。 「良かったらどうぞ、猪も捕れたのでまだまだありますよ」 「「おー、すごーい」」 志郎が採ってきた肉を差し出すと、ハツコとミツコが感心した目で拍手する。奥では、山に行った面々に混じり、駿龍までもが満足そうに齧りついている。 「これだけあると付け合せのお野菜を考えないでいいから楽ですの。鳥はこちらでじっくり焼いて。トマトと一緒に甘酢をつけて召し上がれ。後は、牛は葱塩ですが、豚は味噌漬けにしてあるので焦がさないで下さい」 真夢紀が焼いたトマトに甘酢をかける。甘酢に入った大蒜が、肉の臭いに負けじと食欲をそそる香りを振りまいている。 「飯も少しは腹に入れておけ。無理に食わなくてもいいぞ。余ってもおにぎりで持って帰ればいい」 皿に肉を取り分けながら、浄炎が炊いた白飯も勧める。 「主殿、麺を持って来たでござる」 「ご苦労」 地衝が恭しく差し出した麺を受け取ると、からすは手早く調理にかかる。 食べた皿などは見つけると、浄炎が回収。洗い物用の桶に入れている。火が必要なら炭を運び、茶が空なら湯を沸かし‥‥と、人数がいる分やる事も多くて忙しい。 が、傍から見てると楽しく無さそうな事ばかり。 「食べてる? 少し手を止めてもいーと思うなー?」 「気にしなさんな。職業病みたいなもんだ」 心配したミツコが声をかけると、何でもないように浄炎が笑う。 ● 「さて。腹も一杯になったことだし。西瓜割りに戻るとするか」 箸を置くとゆうきは浜に戻っていく。 すでに結構な数が割られているが、それでも当たりは出ていない。 「迷子にならずに帰ってはこれたが。こっちは難しそうだな」 波に攫われないよう距離を置き、魔双破は西瓜と格闘する。ようやく割れた中身は空洞。軽く肩を落とすと、すぐにまた別の割り易そうな西瓜を探す。 「へー、兜ですか。良く出来てます。‥‥こちらは篭手。ああ、具足も‥‥」 志郎が割る西瓜からは、武具が出てくる。西瓜に収まる程度と小さいが、細部までよく作られている。 組み合わせると武者人形。他にも、市松、流し雛、小さなこけしが山ほど出てきたり。 「怖っ! 呪い人形ですかこれ! ミツコさん、ハツコさん。後よろしくっ」 「いらんわっ! 五寸釘と蝋燭なんて洒落にならーん」 「これは夜に百物語をしろという思し召し?」 気付けば周囲を、古ぼけた人形たちが取り囲んでいる。 怪しい気配はない。しかし、暑く明るい日差しの下でも、虚ろな目で無数に見つめられるのはなんとなく怖い。 処遇を押し付けあった結果、作った職人さんに送り返そうと結論付いた。 しかし、それを超える恐怖の西瓜が存在した。 「面倒じゃのぉ。そろそろ当たりが出てもよさそうじゃが」 西瓜より立派な胸も邪魔にはせず。何気に龍影が西瓜を割る。 黒と緑の縞々がさくっと割れても赤い果肉は見えない。それは最早構いはしないが、代わりにぞろぞろと這い出てきたのは黒い虫たち。 台所でよく見かけるが、いると大変不衛生。黒く陽に光るけどカブトムシと違い硬くも無くて、動きが早くていざとなったら空だって飛んじゃうしぶとい奴ら。 通称G。 いきなり暑く眩しい砂浜に放り出されて驚いたか、奴らも四方八方一目散に散り散りバラバラに逃げようと広がる。 「何だ、これはーーっ!」 たまたま傍にいて、逃げ遅れた魔双破が取り巻かれている。 「総員退避ー! 肉守れー!! キミの犠牲は無駄にしない!」 「っていうかー。開拓者さんたち、腕の見せ所ー!!」 たちまち起こる阿鼻叫喚。距離があろうと奴らの素早さ、いつ到達するか分からない。 焼肉会場でも、食事を守ろうと大わらわ。開拓者たちも臨時で駆除に追われる。 「た、大変な目にあった。‥‥でも、今度こそ!」 突発的な虫退治を終えると、ふしぎはゴーグルに手を当てて心落ち着け、次の西瓜に手を出す。 見た目はどれも一緒。割った瞬間の手ごたえはそれぞれ違う。 そして、今回は水気のある音をたてて割れた。中からは甘い香りの赤が見え、黒い種が零れ出る。 「本物みたい?」 恐る恐るとひみつも覗き込む。 「‥‥。あったー! 龍影、プレシア、食べられるよー!」 試しに毒見すると、確かに西瓜だ。 満面の笑顔になってふしぎは、所属小隊の仲間を呼ぶ。 「おめでとう〜。そういやお腹空いてない? 今、新しいお肉も焼いちゃうね〜♪」 「いやそれ、竈の方が壊れかねないから」 「手加減ぐらいするよ〜?」 火輪で火をつけようと構えたプレシアをハツコが慌てて止める。 「という事は、残りはハズレですか。何が入ってたのでしょう」 まだ砂浜には割られていない西瓜が残っている。 当たり西瓜に執着を見せず、ゆうきはその中の一つを適当に割った。 シュッと小さな風の音がして、煙が立ち昇る。 危険を感じてゆうきが身を引くと、軽い音を立てて火が空へと飛んだ。 カラクリ仕立てのせいか、規模は小さく。それでも見事な花火が天を彩った。 陽も傾き、そろそろ帰り支度。 「遊んだ後はきちんと片付け。砂浜に迷惑だから、ゴミは残すなよ」 散らばった西瓜や食べた残骸なども全て車に載せる。 「焼きすぎた人いないー? 糸瓜水一塗り五百文」 「高いってば〜」 「冗談よ。これはサービスって奴で」 眉間に皺寄せるミツコに、ミツコはぺろっと舌を出すと、糸瓜水は開拓者たちに渡す。 天気には恵まれたが、その分、残暑がきつい。来た時よりも皆黒く日焼けしている。 「さて。全員揃ってるわね。忘れ物無い? それじゃ出発するわよ」 荷台をくくりつけると、もふらたちも満足げな表情で、のんびりと歩き出す。 陽は落ちかけてもまだ暑く。 しかし、道すがら吹く風はどこか涼しく、草むらからは虫の声も。 秋の気配は近付いてきている。 |