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■オープニング本文 それは昔のお話。 人々はアヤカシに苦しめられ、理穴もまた東方にある魔の森の脅威と戦い続けてきた。 拡大を続けるアヤカシ勢力に、棲家を追われる人々。 瘴気を祓い元の森を取り戻したい。平和な生活を過ごしたい。 そんな人々の願い虚しく、アヤカシの力は強大だった。 力が足りぬなら奇跡を信じるしかない。 奇跡への願いはいずれ祈りとなり、祈りは踊りという形で示されるようになった。 ――踊り。 それは古今東西共通する祈り方の一つでもある。 また、不安が蔓延する世の中、少しでも憂さを晴らせるよう動きたかったのかもしれない。 音楽は元気が出るよう速い曲調。羽扇子は枝に止まる自由な鳥。衣装は自然への一体化を考え、布地は少なく。 健やかに伸びる樹々のように手を天高く伸ばし、力強く振り仰ぐ。逆風にめげずに立ち上がるよう、揺れる枝葉のように全身を一心に揺らす。 若さと生命力に溢れる女性が夜を徹し、ただひたすらにひたすらに平和な森の再生を願って踊り狂った。 それが、樹理穴踊りの始まりだったという‥‥。 なお、樹を模した理穴の踊りということで樹理穴踊りとされるが、国名をまんま冠するのはどうだろうと誰かが言ったのか。いつの間にやら、樹理穴(じゅりあな)踊りと呼ばれるようになったという。 やがて、踊りが広まるにつれ、その騒乱な動きが問題になってきた。 なんか衣装とか風紀面でよろしくないっしょ? と言い出す者も出て、踊り自体が冷ややかな目で見られだす。 ――このままでは神聖な祈りが‥‥樹理穴踊りが潰されてしまう。 危機感を抱いたある人物は、ならば踊りを心置きなく楽しんでもらえる場を作ろうと考えた。 演舞場・樹理穴。 首都・奏生の一角にあるその建物は、そんな若者たちに向けて舞台を開放している他、踊らない人でも楽しめるようにと酒や果物が振舞われる。 接客のお兄さんは最初裏方で黒子衣装だったが、表に出るにつれ単なる黒装束になり。 お姉さんは森を表す動物の格好をしているそうだが、動きづらいので神威人のような耳と尻尾だけになったそうな。 決してお安くは無い場所だが、どんなに踊ろうとも文句は言われない。その踊り見たさに人が集まり、人の多さがさらに話題となり。 そこにいる間は世の不安を打ち消し、一時の平和を満喫出来る所ではあった。 が‥‥。 ● 「店長、赤字です」 現在の演舞場・樹理穴の一室で。経理は単刀直入に切り出す。 店長は布団を被った。聞こえないふり。 「愚かな事を」 「いやー、やめて! 夢よ、これは悪い夢よぉ〜」 冷ややかな声と共に店員たちが一斉に布団を引き剥がす。 ちなみに店長は髭面のおっさん。見た目四十代。可愛い子募集中。 「どうするんですか? 昨年末辺りから売り上げは下降の一途。このままでは私たちの給料未払いどころか、店もじきに潰れます」 「潰れるなんて言わないでー。どうしてこんなことになったのよぉおー」 「どうしてって、きっかけは緑茂の勝利でしょうね」 いやいやと耳を塞いでしゃがむ店長に、きっぱりと経理は言ってのける。 いつの世も、踊りに興じる者は絶えない。それが演舞場の支えに成っていた。 そこに起きた緑茂の戦い。それは、開拓者が大アヤカシに勝利した記念すべき一戦。 そして、人々は気付いたのだ。 祈って踊るばかりでは奇跡など起きない。真の奇跡は、行動してこそ起こるのだと‥‥。 開放された東の地に人々が戻り出すと、さらにそれは加速。都から離れていくのだから仕方がない。 「最近では新たな門が発見され、新天地の話で持ちきりですし。新たなる地を開拓しようとする動きも大きいですね」 続けざまに経理は情勢を述べる。 需要が大きく動けば、当然供給する側も動き出す。 結果、演舞場に通う人々は激減。遊興よりも実利に励む。 「でも、それはアタシたちの一生懸命の祈りが天に通じて、皆に力を与えたに違いないのよん。信じる心もなく勝利できるほど甘い世の中ではないわん」 「しかし、それを実証するのは至難です。それに心だけでなく、技・力を伴ってこその勝利です」 泣く店長に経理は冷淡に告げる。 まぁ、確かに樹理穴が戦や開拓にどれほど貢献したか。誰に聞いても首を振るのは間違いなし。 「あああ、このままでは崇高なる樹理穴踊りが廃れてしまう〜」 「廃れるのは演舞場だけでしょう。踊り自体はどこででも可能ですから」 「あんた! 職を失ってもいいの!?」 「実家継ぎますから。ちなみに楽団や接客係たちも身の振り方を考え出してます。本日も何人かから辞表の書き方を相談され、実際ここに預かって‥‥」 「いやあああああーーっ! このままでは‥‥このままではぁああ!」 懐から出される手紙の束に、店長が泣き崩れる。 その態度から一変、強気ですっくと立ち上がる。 「よし! 開拓者さまをご招待するのよ!」 「はぁ?」 意図が見えず、経理が聞き返す。 「戦いに開拓。開拓者たちが疲れているはず! 労う事は悪いことじゃないわ! そんな彼らが来てくれたら、我が演舞場の宣伝にもなるし、人の多さに釣られて遊ぶ人だって増えるはず。ここの楽しささえ知ってくれたら、きっと人も戻ってくるわ!」 「‥‥そんな単純に行きますかね」 「いくわよ! そうとなれば、さっそくギルドにお願いしなくっちゃ♪」 自分の考えに満足して店長は開拓者ギルドに足を向ける。経理はため息をつく。 ‥‥とりあえず当分、赤字は解消されそうにない。 |
■参加者一覧 / 白拍子青楼(ia0730) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 平野 譲治(ia5226) / 魔双破(ia5845) / からす(ia6525) / 和奏(ia8807) / 琥龍 蒼羅(ib0214) / シルフィリア・オーク(ib0350) / ティア・ユスティース(ib0353) / 琉宇(ib1119) / 十狼佐(ib4441) |
■リプレイ本文 日没の頃。演舞場・樹理穴に客が集まり出す。 女性の踊り場ではあるが、観客として男性の入場もある。歓談の場としても活用されている為、踊らぬ女性も普通にいる。 「とはいえ、私は門前払いかな?」 からす(ia6525)は外見12歳。 目に付くのが若い男女が多い‥‥とはいえ、からすではさすがに若すぎる。 大丈夫なのかと、店の黒服に声をかけると、相手は丁寧に笑い返してきた。 「いいえ、年齢制限は行っておりません。お話はうかがっております。どうぞ、こちらへ」 開拓者である事を明かすと、そのまま中へと通される。 よくよく見れば、一般人であっても、からすより歳若い子供もうろついている。ただ、そういった子は概ね親についてきたようだ。 単に夜更けに子供がうろつくのは問題があるし、入場料はけして安くない。子供の遊び場には少々時期が早いので少ないのだろう。 ● 演舞場内。 真っ先に目に付いたのは中央で踊る女性たちだ。高台の上で派手な衣装で激しく踊る様は、嫌でも目立つ。 その周囲では演奏する楽団。 それらを取り囲むように歓談の場が設けられている。卓について食事を楽しんでいる者もいれば、女性と歓談している者もいる。 樹理穴踊りは、元々アヤカシの脅威から理穴を思う祈りの踊りだったらしい。 それが、長い時を経て色々問題視され廃れかけたのを、救う為に作られたのが演舞場・樹理穴。 だが、ここも状勢には勝てず。遠のく客足を何とかしようと、店長が思いついたのが時の人たる開拓者たちを無料招待する、だった。 はたしてそれがどう効を奏すか。 それは分からないが、とにかく招かれた開拓者たちは珍しそうに演舞に見入っている。 「なるほど。白羽扇というのがありますが、ここで使用する為の舞扇だったのですね〜」 踊る女性たちが手にしている羽根付き扇を見て、和奏(ia8807)は得たりと手を打つ。ちょっと(いやだいぶか?)違うのだが、似ているといえば似ているか。 ただ、それ以上の感想は特になく。 ま、招待されたのだから見学させてもらおうと、ぼちぼち卓に座る。 「歴史あるですの。御姉様たちへのお手紙に、話のタネで書けそうかしら」 礼野 真夢紀(ia1144)は、設置されていた卓の一角に座ると、飲食を注文。これは別料金になるそうだが、それぐらいの余裕はある。 「お待たせいたし申したっ! ごゆっくりしていってくださいましっ!」 運んできたのはもふらの着ぐるみを来た平野 譲治(ia5226)。一応、招待された立場というのに、給仕に司会にと目まぐるしい。 「あ、あの。お客様? お客さまもごゆっくり楽しんでいただいてよろしいのですが‥‥」 「ん? 平気なり! おいらに手伝えそうな事ないなりかっ? なんでもやるぜよ!」 お客に仕事をさせてよいものか? 困惑する店員たちも何のその。精力的に譲治は演舞場内を動き回っている。 「宵の演舞へようこそ! この演舞は緑茂の戦いに際して、戦人だけにあらず人々の支えとなり申した踊りなのだっ! ‥‥あー、るーがいるぜよっ! 一緒に合奏したいなりっ!」 知り合いを見つけて、声をかける。 誘われた琉宇(ib1119)としても、演奏に興味を持ったのは吟遊詩人の性か。 「変わった踊りだよね。踊りに合うような変わった音楽を僕も披露出来ないかな?」 演奏中は難しいが、楽団たちとてずっと引き続ける訳ではない。 交代時や休憩時など、曲が途切れる時に余興で行う分には構わないとの事。 その時間も尋ねると、それに合わせて琉宇は楽器を用意し始める。 そんな様子もじっくり見物しながら。姉たちにどんな話をしようかと真夢紀は運ばれた料理に手をつける。 ● 所属が楽団の音色に合わせて、舞台上では派手やかに女性たちが踊る。 祈りの踊り。しかもアヤカシに対してとなれば、開拓者たちとて他人事ではない。 「アヤカシに挑み続ける人々を勇気付け、瘴気に侵された自然の再生への祈りに満ちた舞踏ですか。楽の音を癒しの風に代え、祈りを歌声として紡ぎ続ける私達楽士と通じるモノがあるのでしょうか」 と言いながらも、ティア・ユスティース(ib0353)はちょっとだけ首を傾げる。 癒し、というには曲調が速過ぎて騒がしい。踊りも単調だが激しく、踊っているのは素人なので洗練されたとは言えず。安らぎの癒し、とするには少々落ち着かない。 だが、楽しんでいる、とは感じる。 「静寂の中で、天地に、そして魂の奥底にある神殿に捧げる祈りもあれば、行動で示す祈りもある‥‥ってところなのかねぇ〜」 シルフィリア・オーク(ib0350)も、興味深げに踊りを見る。 「力強い風のように瘴気を吹き払い、力強く芽吹き、再生する森の草木の様に真っ直ぐ伸びやかに舞う。そんな力強く情熱的で、命の息吹を感じさせる舞ってのも悪くはないじゃないさ」 祈りといえば厳かな印象もあるが。これもこれで、凶悪なアヤカシに対抗しようという強さを感じる。 「祈りを感じるならば、体現するのが早いかもしれませんね」 ティアの言葉に異論を挟む者は無い。 元より女性であれば、舞台上に立つ事は問題でなく。踊りに興味を持った開拓者も少なくなかったのだが‥‥。 「でも、あの‥‥これ、短く無いでしょうか?」 巫女として。白拍子青楼(ia0730)は、これまでにも奉納舞に関わってきた。 所変われば品変わる。踊りや舞も、拍子様々。地域に根付いた土着のものならなおさらだ。 曲や踊りがどんなであれ、やるとなったら舞衣装も乱れ一つなく着こなしてきた。 ‥‥のだが。 樹理穴踊りで勧められた衣装を着てみれば、何とも裾が短い。短いと言うより、無いといってもいいのかもしれない。長い足が丸見えだ。 下穿きは付けるとはいえ、舞台上にいれば中が見えてしまいそうなほど。 「大丈夫よぉ〜。とっても似合ってるわっ! 最高よん!!」 「はぁ‥‥」 店長は掛け値無しに褒めてくれるが、それでも青楼は気になって、裾を引っ張って少しでもお尻を隠そうとする。 「これも、祈りの形、って奴なのかい」 森のような深緑の樹理穴衣装を身に着けて、シルフィリアは舞台に上がる。 渡された羽扇子を振り上げて、情熱的に、蠱惑的に。観覧席でただ見ている女性たちを誘うかのように、激しく身を包む。 ティアも最初こそはやや戸惑いがあったが、踊りの意味を掴むと、やがて一心不乱に踊り出す。 その踊りを見て。臆していた青楼も思い切って舞台に上がる。 昇ってみると観客は結構遠い。間に所属の楽団が演奏しているので、近付いて覗かれる心配は無い。 ‥‥だから、舞台周辺は楽団が居座っているのかもしれない。 それでも裾は気になるが、そっちに感けていては踊りも崩れる。 あくまで踊りは気品を持ち。たおやかに、流れるように、美しく。 激しい動きに、やがて頬も紅潮し、危うげな色気も醸し出す。 ● 「それでは皆様。楽師たちが休憩の間、おいらとるーによります合奏をお聞き下さいなりっ!」 数曲が終わり。楽師たちが入れ替わる間、譲治が三味線を構え、琉宇はなにやら奇妙な手作り楽器を用意する。 大小揃えた太鼓を正面に、支柱に乗っかった鍋の蓋やベルを両脇に置く。 「楽師さんたちもお願いしますね。単調だけど、リズム付けて。――いくよ!」 用意した細い撥で二、三回叩くと、素早く叩きはじめる。 合わせて楽師も譲治も三味線を鳴らし、楽師たちも音を合わせ始める。 「踊りはともかく。演奏されている曲は昔から奏でられた曲なのだろうか」 仲間の演奏を聞きながら、まったり観覧席で食事中。 琥龍 蒼羅(ib0214)は興味深く先程の音楽を思い返す。 「ではないかな? まぁ、多少変化してるかもしれないが」 こちらは、注いでもらった果汁を口にし、からすもふと告げる。 ギルドで紹介された時に聞いたこの踊りの由来に変遷。‥‥まぁ、胡散臭い部分も何となくあるので、鵜呑みにしてかかるのも危険か。長い歴史の内では、都合のいい解釈もまかり通る。 「奇跡は行動する事で起こる物、か‥‥。確かに、それは正しい考えだな。祈る事が無駄とは思わんが、ただ待つだけでは何も変わらない」 「祈りだけでは、解決しない。だが、力無き者たちの精神的支えとして、また、戦に赴く戦士達を鼓舞する為に踊り子や楽師達が雇われるのも珍しくはない。礼拝から遊興になったとて馬鹿にすることはできないね」 言いながら、飲みねぇ食いねぇ、で金を支払い、からすが飲食を進める。 折角だからと蒼羅も礼を言い、 「ノーノー! 遊興違う! あくまで樹理穴は祈りの為の踊りネー! 今も昔も、そうなのデース!」 にゅっ、と顔を出した変な人に。さすがの蒼羅もぎょっとなって手を止め、からすは飲んでた果汁を吹いた。 頭は髪を大きく丸く膨らませ、丸眼鏡にあからさまな付け鼻八の字髭。 珍妙な変装は全然正体を隠していない。 「店長さん‥‥だよな?」 「ノー、私、テンチョー違いまーす。通りすがりの一般人デース!」 指摘すると、あからさまに動揺しながらも否定する。 「それより、ユーたち楽しんでまースカ? 楽しんでまーすよネ? だってここはとってもいい場所なんですカラ、他の人にも勧めタクなりますヨーネ?」 「主旨は分かりますけど。うるさいし、食事も特別美味しくないですよね。毎日は厳しいです」 「しくしくしくしく」 ずばっと言い切った真夢紀に、不審人物は床に蹲って泣き崩れる。 「そうなのですか? 美味しいと思いますよ? 食べられるならそれでいいと思いますが?」 「ああああああああああ。そうぢゃない。そうぢゃないのよぉおお」 卓一杯の食事をパクつく和奏に、一瞬、不審人物の顔が輝いたが。 味オンチに気付いた周囲が面白がって嘘八百な食べ方を教えてるのに、和奏は平気な顔で素直に食べている。 説得力の無さに、崩れ落ちて涙が池になる。 「いっそ、舞台がある飲食店として始めてみては? 昼はまったり音楽流れる、夜は踊れる飲食店」 「だからね? うちは踊りの為の踊り場であって、飲食はさぁびすって奴なのぉ」 「にしては、結構な金取るが?」 「ううう。だってショバ代とかー、皆のお給料とかー、あたしの化粧代とかー、経費も嵩むんですものぉー。世は無情ー」 からすが提案するも、不審人物は涙目のまま。 口調が元に戻ってるが、それも気付いて無い様子。 「あくまで踊り、ですか。難しいですね。‥‥そうそう、羽根扇を鈴に持ち替えてもいいでしょうか? 祈りの本質を忘れなければ、新たな祈りの姿があっても良いのではないでしょうか?」 舞台から戻ったティアが、感じた事を口にする。 「そうね。曲間の余興ならいいわ。‥‥と、裏で、テンチョーに話つけてオキマース」 思案した後に了解する不審人物。途中で、役柄を思い出して、取ってつけたように口調を変えた。 「では僕も演奏に。折角これだけの人数が集まったのだからな。ここの宣伝にもなるだろう」 「勿論デース! やっぱり樹理穴サイコー! 素晴らしいデース」 席を立つ蒼羅に、不審人物が諸手を上げて喜ぶ。 ブレスレット・ベルを手に、鳴らして踊るティアは人目を惹く。 目新しい踊り方に、女性たちも興味を引かれ、その周囲に輪が広がる。 「‥‥新しい踊りを取り入れるっていうのはいいかしら? ああ、でも、あたしは樹理穴踊りを守るだけ。踊りの形式をあたしが勝手に変えるのはよくないわ」 楽しげな踊り手たちに、不審人物は苦悩している。 「祈るだけでは奇跡は起きない。行動してこそ、奇跡は起きる。あたいもそう思うよ。ただ‥‥祈りって奴はさ、行動を起こす動機や支えにもなるものだからね。それはそれで大切にしたいじゃないさ」 艶っぽく笑ってウィンクするシルフィリア。 「そう、そうなのよ! 樹理穴踊りは皆の心の支えであるし、そんな樹理穴踊りを支えるべく演舞場・樹理穴があるのよ! ああ、でも踊られてこその踊り。楽しまれてこその樹理穴。人心が離れていくのは用が終わったから? ううん、アヤカシは残ってる。まだこれからのはずなのにぃいいいい!」 「そろそろ五月蝿い」 苦悩を抱えて、声が段々大きくなる不審人物。 からすはこめかみを押さえると、ペシリ、と花札を投げつける。 四角い綺麗な札は、狙い違わず不審者の口を塞ぐ。 「申し訳ありません。不審者が紛れ込んでいたとは。お詫びとして皆様の飲食代も勉強させていただきます」 「ちょ! ちょっと! 誰が不審者なのよ! こら、いやん、離して〜!」 奥から店員が飛び出てくると、不審人物を担ぎ上げてまた奥へと引っ込んで行く。 その様子に肩を竦めると、開拓者たちはまた銘々に楽しみ出す。 祈りの踊りに、食事に、歓談。 店の経営状態など、表からでは気にはならない。 夜通し繰り広げられる賑やかさは、ほんの少しだがアヤカシの脅威も忘れられそうだ。 |