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■オープニング本文 今日もどこかが騒がしい。 そんな天儀の空の下で、二人の乙女がコーヒーブレイク。 一緒に運ばれてきた小さな砂糖壷を、カップの上で逆さまにひっくり返す。 底にあった粒も丁寧に掻き出してから、こんどはおもむろに牛乳壷に手を伸ばし、同じく丁寧にひっくり返す。 溢れかえらんばかりのカップの中身を、慎重にかき混ぜて一口啜り、 感想一言。 「にっがーーーっ!!!」 「なんでっ!?」 ぎゅーーっ、と。眉間にしわ寄せて突っ伏すミツコに、ハツコが驚愕の声を上げる。 「なんでって、なんでー? にがいよー。ねー? もふらさまもそう思うよねー?」 驚かれたことに驚いて、ミツコが隣のもふらに同意を求める。 同じくコーヒーを嗜んでいたもふらは、やはり眉間にぎゅっとしわをよせているが。 「こーひーとは苦いと分かったもふ。でも、そのこーひーはこーひーでないもふ。別物もふ。甘すぎてじゃりじゃりするもふ」 至極当然の感想を口にする。 「‥‥皆、味覚が変だ」 「あんたに言われたくは無い」 ハツコ、頭を抱える。 「そんなに嫌かねぇ? 飲みなれると結構いけるわよ?」 砂糖と牛乳は入れてはいるが、どちらも匙一杯程度。 それで美味しそうにしているハツコに、もふらとミツコは信じられないように見る。 「もふにはまだまだ苦いもふ。でも、香りは気に入ったもふ。お風呂に入れるといいもふ。こーひー色に染まるもふ」 「その前に、風呂に入れられる程、豆手に入れるのも大変そうなんだけど」 何故か嬉しそうにしているもふらに、ハツコは悩む。 コーヒーは元々泰南部で取れるもの。輸入品だからなのか、単に味が好まれなかったのか。あまり流通してなかった。 最近になって神楽の都でようやく一般にも飲まれだし、豆や道具も目にするようになってきた。が、都から離れればまだまだ知名度は低い。 都の中で普通に飲む分なら割と手に入っても、用途に合わせて大量に、となるとちょっと考えてしまう。 ‥‥まぁ、もふらの風呂に入れるのなら出し殻でもいいかもしれない。 「そういえば。豆じゃなくて、なんか植物の根っこからもコーヒーが出来るってこないだ図書館で読んだよ」 渋い表情のままコーヒーを食べながら、ミツコは口を挟む。 「図書館? あんた、そんな所行ったの」 「うん。もふらさまが食べたいって言ったから」 「もふ」 「‥‥何を?」 何故か自信満々に胸をはるミツコともふらに、ハツコは首を傾げるが、 「でも、おもしろそうね。その本、あたしも読みたい」 「じゃ、今から図書館行く?」 話が纏まると、コーヒーを飲み干し。 二人並んで図書館に向かう。 ● 「たんぽぽ? 今の季節にか?」 開拓者ギルドにて。 乙女二人の依頼に、受け付けは少々目を丸くした。 無理も無い。たんぽぽといえば、春だろう。 「秋咲きのたんぽぽもあるってさ。まぁ、あんまり記憶にないし少ないのかもだけど。それに必要なのは花じゃなくて、根っこだし」 「根っこをね。刻んで灰汁抜きして、乾かして、乾煎りしたものをコーヒーみたいにして飲むんだって、ここに書いてあるのー」 ミツコの言葉に乗って、ハツコも懐から出した本を開いて示す。 そこにはたんぽぽからコーヒーを作る方法が記されていた。 まぁ、豆を使ってないので代用品か。 「他にも、ごぼうとか何かの種とかでもコーヒー代わりにして飲んだりしてるらしいけどね。ミツコ曰く」 「たんぽぽって甘くて美味しそうだよね〜。飲んでみたい♪」 「‥‥代用品って事は、元の味と似たり寄ったりのはずだぞ」 何かいいものを想像してるらしいミツコに、受付はそっと告げる。が、そっとすぎてあまり伝わってない。 ハツコも気にするなと手を振る。 「というわけで、たんぽぽ探しをしてみようかと。まぁ、時期も時期だし、探せなくてもいいけど。二人で探すよりは大勢で行った方が楽しいわよね?」 「弁当持ってか?」 「そうね。それと、コーヒーぐらいつけるわよ」 「いらない」 ミツコの眉間にしわがよる。 笑うハツコに、受付も軽く肩を竦める。 たんぽぽ探しという名目の野遊び、といったところか。 まぁ、息抜きにいくなら止める必要も無いだろう。 特に異論無く、受付は依頼の貼紙を作り出す。 「ところで、気になったんだが。先程の本はどっから持ってきた?」 「図書館の本よ。貸し出し禁止って言うから懐に入れて、こっそり持ってきた」 あっさりと告げて頷く二人を、即座に受付は殴り倒す。 「さっさと返して、司書に謝ってこい! 話はそれからだ!!!!」 「えーなんでー。公共の物は皆の物。皆の物ならみーちゃんのもんでしょー?」 「皆のもんなら皆が活用出来るようにしとかんかいっ!」 「だから、今からまたこっそりと戻そうと思ってるってばー」 「こっそりだろうが堂々とだろうが、やるなっ!」 人として、やっちゃいけない事はある。 |
■参加者一覧
礼野 真夢紀(ia1144)
10歳・女・巫
斉藤晃(ia3071)
40歳・男・サ
和奏(ia8807)
17歳・男・志
琉宇(ib1119)
12歳・男・吟
十野間 修(ib3415)
22歳・男・志
シルビア・ランツォーネ(ib4445)
17歳・女・騎
アナス・イェンセン(ib4567)
53歳・男・シ |
■リプレイ本文 お弁当と珈琲をもふらに持たせ、秋の郊外に出かける。 人家もまばらになり、やがて広がる大自然。 薄が揺れて、まだ夏の面影を残す原っぱが広がる。紅葉を楽しめるには少し早いか。 その中に、目当ての黄色い花は‥‥見付からなかった。 「よりによってタンポポとは‥‥。別に、タンポポでなくてもジャガイモや大豆でも作れるのに」 当然の光景に、シルビア・ランツォーネ(ib4445)は呆れ返っている。 代用珈琲は結構多い。今の時期、簡単に手に入る食材でも作れるのに、何故わざわざ春の花なのか。 「ま、色々ある中でたんぽぽが美味しそうだし、おもしろそうってだけだけどね」 「焼き芋をお湯に付けるの? ふやけそうだよー」 目を逸らして笑うハツコ。ミツコは真面目に尋ね返す。 「たんぽぽは判ります。黄色い花が咲いて、綿毛になるヤツですよね。あれがコーヒーになるのですか?」 「出来ますよ。丁度先日たんぽぽ茶に話していたばかりなだけに、タイムリーな依頼もあった物です」 静かに感心している風の和奏(ia8807)に、十野間 修(ib3415)が微笑む。 「お茶やコーヒーだけでなく、お酒も作れるそうです。図書館で見つけて、作り方も書き写してきました」 修と一緒に来た礼野 真夢紀(ia1144)。 「どれどれ? ほぉ、花は酒に、葉はお茶に、そして根っこはコーヒーに♪ なんとも可愛らしく、魅力的な花ですな」 書き写した紙を見せてもらい、アナス・イェンセン(ib4567)の顔が綻ぶ。 「へぇ、見せて」 ハツコに問われて、やはり紙を見せるが。 「材料集めはさておいても、8ヶ月保存する時点で今回の依頼中には無理よ」 こちらは微妙に首を傾げられる。 「ですねぇ。でも家で作ってみますから、花が咲いてたらお願いします」 「咲いてたら、ね」 でもめげずに、皆に頼む真夢紀。 聞いてるシルビアは眉根に出来る皺を伸ばす。 「そう思って、僕も図書館で調べてきたよ。本を返しに行くついでだったから、軽くだけど」 琉宇(ib1119)も、調べてきた事を披露する。 「だいたい田んぼの土手とか水路が好きみたいだね。あ、でも畦とか堤防は掘っちゃダメだよ。土地の人にすごく迷惑かけるからね。冬の温度差が少ないからか、木の傍に咲くのもいるようだけど、秋に咲くようなヤツは、他の草が少なくて人のいる場所の方が見つけ易いみたいかな?」 「‥‥もしかして、ここまでこなくても御近所で探す方が楽?」 今度はハツコの眉間に皺が寄る。 「かもね? でも、実際はどうか分かんないかな。菊の仲間みたいだし、お刺身の菊の花に似てるから、魚屋さんや漁港の人が何か知らないかと思って聞いてみたけど、そっちは今一つだったなぁ」 そういう場所では、きちんと栽培されてるものを使う方が多いのだろう。 シルビアが、肩にかかった髪を払う。 「どのみち、咲く品種も一応あるってだけで、この季節では絶望的。依頼だから、一応協力するけどこんな徒労に感けるつもりはないわ。‥‥あたしは、あくまでフィリップの世話『ついでに』来たの。適当に探して、適当な時間にとっとと帰るわよ! 他の連中みたいに泥だらけになって探したりしないからね!」 きつく念を押すと、シルビアはしっかりスコップを手にして相棒と歩き出す。 ぐるっと見渡し、気持ちよさげな草原ではなく、人が歩いて草の少ない日当たりのいい道端へと進む。 炎龍は気晴らしで空を駆けだしたが、彼女自身は気晴らしには向きそうにない場所でずっと足元を気にしている。 アナスは大声で呼びかける。 「‥‥根っこは全て掘り起こしてはダメですよ。少し残しておけば、来年も咲きますからね」 「分かってるわ! その前に、泥だらけになる気は無いと言ったじゃない!」 シルビアは顔を真っ赤にするとそっぽを向き、再び足元を気にしながら歩き出した。 ● シルビアを皮切りに、各自たんぽぽ探しに野原を巡る。 ‥‥といっても、ちょっと見影も形も無いのは前述の通り。 「秋といえばススキに萩。‥‥トンボも飛んでますね。あ、あまり近くでばたばたしないように」 駿龍・颯に、和奏が注意する。 気晴らしに連れてきたので、思う存分原っぱで翼を広げるのは構わない。が、トンボの目を回そうとしても、龍が騒いではすぐに逃げてしまう。 ちなみに他の相棒も誘ってみたが、結局お留守番で落ち着いている。 草むらを歩くと、足元で虫が跳ねる。夜になれば、きっと大合唱が始まるのだろう。 さて、あの虫はどんな声で鳴くのかな? などと考えている内に、たんぽぽ探しが疎かになっているのは仕方が無い。 脱線しながら散策していると、しゃがんで何かしている修を見つける。 「見つかりました? 秋のたんぽぽってどんなでしょう? 花が咲いているとすぐに分かるのですが‥‥」 「たんぽぽは葉っぱが特徴的なので、見つける事自体は簡単ですよ」 覗きこむ和奏に、修は見つけたたんぽぽを示す。 地面に広がるぎざぎざ葉っぱは、その周囲でも幾つか見つかった。 「じゃあ、これもそうですか。‥‥ええと、必要なのは根っこですよね? 根っこを取る方法は本に載ってますか? 引っ張ったらいいのでしょうか?」 少し考えると、雑草を抜く要領でがっしりたんぽぽを引き抜こうとする和奏。 修が慌てて止めに入る。 「タンポポの根っこは土深くに入ってますから、そういうやり方では抜けないか、途中で千切れて傷つけてしまいます。まずは周囲に深めの縦穴を掘り、そこから優しく根の方へ土をほぐしていくんです」 実際にやってみせる。穴が深くなってくると、用意していた長柄のシャベル二本で土を掬い出す。 「ほら、取れました」 綺麗に土を払うと、ゴボウのように長い根が込み合って出てくる。 「大変ですね」 「土が固いからさらに手がかかりますよ」 のほほんと告げる和奏に、修は苦も無く笑ってみせる。 ● 「おっひるだよー」 散った開拓者たちを集めるべく、陽気にミツコが触れ回る。 ハツコは珈琲用にお湯を沸かしている。心配になるような手つきで珈琲を入れ終わった頃、皆が戻ってきた。 「秋は酒の肴になる美味い物が多いからすっきゃで」 のんびりと景色を楽しみながら、斉藤晃(ia3071)は握り飯と梅干を口にする。 「たんぽぽは、結構集まったじゃない」 お弁当を配りつつ、持ち帰ったたんぽぽを見て、ハツコが声を上げる。 集まったといっても数えられる程度。春ならば、この数十倍は楽に集まったに違いない。 ただ、どこにもなさそうに見えたので、見つけてきただけでもたいしたものだ。 「しーちゃん、がんばってたもんね」 ミツコが意地悪く笑う。 見つめられて、シルビアはそっぽを向く。 「別に。フィリップの散歩のついでよ。それに、依頼はやるって言ったじゃない」 「の割には、手とか顔まで泥だらけなんだけど♪」 「転んだの! 掘り返すのに力入れすぎて土を頭から被ったりとかしてないんだからっ!」 楽しそうなミツコに、シルビアが顔を真っ赤にして言い訳をしてる。 炎龍は楽しげで剣呑なその様子をどうしたものかと、一歩引いた位置からそわそわして見ていた。 「でも、お花は少ないですね」 少々がっかりする真夢紀。 根っこは集まっているが、花がついているのはさらに少ない。お弁当の後探し回っても、考えていた量には達しない可能性が高い。 「作り方が分かっているなら、また春を待てばいいんですよ」 「そうですね。機会を待ちます」 修に告げられ、真夢紀は頷く。 「とりあえず、今は普通の珈琲をいただきましょうか」 和奏が、ハツコから受け取った珈琲を口にする。 途端にミツコが顔を顰める。荷物持ちのもふらは興味深げに珈琲を見ている。 「コーヒーねぇ。あたしはどっちかって言うと紅茶派だけれど。ま、それなりには詳しいわよ。最近は都でも広まってるらしいけど、本場からすればまだまだだわ」 シルビアが告げると、大仰に肩を竦める。 淹れ方一つで深みも変わる。ハツコの腕前ではさらに遠い味だろう。 「苦いコーヒーと、もふらはさまはコーヒー風呂に入りたいとな。若い子の舌は苦味に敏感だからの。‥‥と言う訳でこういうものを持ってきた。食後のおやつにいかがか?」 アナスが、小さな御菓子を取り出す。 「可愛いお茶菓子? あ、おいし」 珍しそうに見た後で、ミツコは躊躇無く食いつく。 「マカロンですよ。甘いのと苦いのとで合いませんか?」 「んー。でも、苦いのは苦いー」 言われてコーヒーを口にするも、ミツコの額から皺は消えない。 「そうですか。とすると、もう少しマッチするように味に工夫が必要でしょうか」 自身もマカロンを口にすると、アナスは考え込む。 ● 腹を満たした後もたんぽぽ探し。といっても、先に探した時同様早々新たな発見があるものでもない。 「蒲公英珈琲か。うちのかみさんが凝ってた時期があったな。乾燥も必要やし、そろそろ引き上げるか」 晃の提案で、作業をたんぽぽ探しを止め。珈琲作りの作業に帰る。 持ち帰ったタンポポを、より分ける。 「作り方わかるの? じゃ、任せる」 「おいおい。ま、蒲公英珈琲は焙煎が難しい事やし。期待せんといてや」 ハツコに押し付けられながらも、晃は楽しげに答える。 焙煎前に乾燥も必要。本当は天日乾しをしっかりした方が楽なのだが、すぐに飲みたいとうるさい依頼人たちのせいでちょいと割愛。 用意してきた焙煎具で十分に煎り、刻む。 やがて、ゆっくりと香ばしい匂いが立ち込める。 「蒲公英の根自体に解毒効果があるんや。珈琲と違って目が覚める作用が無いから、寝る前に飲んでも平気やとか言ってたな」 コーヒー同様の手順でカップに入れる。見た目の違いは良く分からないが、匂いはなんとなく薄い気がする。 「解毒って‥‥毒キノコから回復とか?」 「それは違うやろ」 首を傾げるミツコ。 カップを皆に手渡しながら、晃は苦笑する。 「不必要な栄養を出して、体を綺麗に整えてくれるって事です。蒲公英珈琲こと蒲公英茶は利尿剤や健胃薬、強壮作用による冷え症改善、更に母乳の出をよくする漢方薬としても有名で、家庭薬としても使う所もあるんですよ」 修が知識を披露すると、へーとミツコの返事は気が無い。 「これからの時期は、冷え症に困る人も増えますしね。少し余分に作って持ち帰れたらって思っているんですけど」 修の頼みに、ハツコはあっさり了承する。 「とりあえず、飲めたから別に後はいいわよ。お土産に欲しい人は持って帰って。‥‥といっても、そんなに無いけどね」 蒲公英珈琲を一口すする。 所詮は珈琲の代用品。味も香りも格段劣る。微妙な顔をしてからハツコは砂糖と牛乳を足した。 取ってきた根が少ないので、出来た珈琲も当然少ない。お土産にしても数人分という所か。 さらに。 「もふもふ。もふのお風呂にも入れて欲しいもふ」 興味深げにたんぽぽコーヒーを嗅いでいたもふらも主張する。 「もふらさまは何で珈琲色に染まりたいのかな? 泥水じゃダメなの?」 「ですね。泥んこの中に転がっても同じような色になりそうです」 不思議そうにしている琉宇に、和奏も同意を示す。 珈琲を口にすると香ばしい味が広がる。だが、風呂に入るならその味は必要なし。見た目なら‥‥まぁ似てるか? 「色はいいもふ。でも匂いがつかないもふ」 二人の意見に答えるもふらさま。嬉しそうに鼻をひくつかせている辺り、匂いは気にいったようだ。 「だったら、蒲公英珈琲の香りだと薄いだろう。珈琲の出がらしも使ってお風呂を沸かすか。一緒に入ってもいいか? 下駄を履いてはいるお風呂ときたもんだ」 飲む必要は無いのなら、どうとでもなる。晃はさっそく飲んだ片付けついでに珈琲滓を集める。 色も風味もさらに落ちてるだろうが、もふらさまなら気にしないだろう。 「僕も入っていいかな。もふらさまとじゃぶじゃぶ出来ると楽しいと思うんだ。実は、ちゃんと浴衣も持ってきたんだよね」 遠慮がちに琉宇が申し出る。 「了解。じゃ、お風呂の用意もしちゃうわね。折角だから皆も入っていけば? 正直、ここまで熱心に泥だらけになってくれると思わなかったしー」 ちらりと、ハツコはシルビアを見る。 シルビアは一瞬怯んだものの、何も言わずに目を逸らした。 「‥‥混浴?」 「入る時間ずらすわよ。人用のも用意するしね」 ちょっと困った様子でそれだけは確認する真夢紀。 「そうそう、珈琲のお土産もいいけど。栽培できないのかな。いつでも手軽に楽しめるようになったらそれはそれでいいんじゃないかなって思うんだよね」 一息ついて、琉宇が告げる。 少ないながらも花は真夢紀が収穫している。が、種となると更に少ない。 「たんぽぽの栽培は簡単よ。根っこを適当な長さに切って植えとけば生えてくるわよ」 ハツコが切り残されていた根っこを示す。 湿った布の上で数日置いておくと、新しい根っこと葉が出るので、それを見計らって植えなおすといいらしい。 「じゃあ、いっぱーい植えたら来年の春は沢山飲める。楽しみー」 たんぽぽ畑を夢想し、ミツコが満面の笑顔を作っている。 そして、淹れて貰った蒲公英珈琲をくいっと煽り‥‥すぐにその顔が皺だらけになる。 「甘くなーい」 「そりゃそうだ」 口ぶりからして、甘い物を想像していたのだろう。珈琲と言われる以上、味も似通ったものだと想像出来ように。 どっと笑いが起きた。 「やっぱりいらなーい」 「そう、おっしゃらず。慣れるとなかなかいいものですよ」 アナスはにこやかに笑うと、おいしそうに蒲公英珈琲を口にした。 |