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■オープニング本文 とあるもふら牧場にて。 もふらが妙なもふらと会話する。 「もふもふ?」 「らも」 「もふもふもふ」 「ふもふも」 「もふもふもふも」 「ふらふーも」 「もふ!」 「ちょっと! どこ行くのよー!!」 牧場主が叫ぶが、おかまいなし。 何がどう気があったのか。牧場の柵をやぶって、もふらはそいつらについていってしまった。 ● 「うちのもふら取り返してくださーい」 開拓者ギルドを訪れて、牧場主が泣く。 聞けば、近くにある森の中。広がる湖のほとりにて奇妙なもふらと一緒に群れているらしい。 単純に牧場主が呼びに行けば済む話だろうが、そうはいかないからここに来た。 「多分、その妙なもふらは、ふらもだと思うんです」 もふらにしては、眉毛がとがっていたり目つきが悪かったりとどうも見た目が悪い。普通の人なら見分けられないかもしれないが、牧場で毎日もふらと接している依頼主には見当がついた。 ふらもはアヤカシ。しかも五体いた。 ただの人である依頼主が、いくらなんでも近付いていくには危険すぎる。 「ただ、うちのもふらたち。今、そのふらもたちとそっくりの姿をしているんです。近付いて、間近からじっくり見ないとふらもかもふらか、玄人でも見分けが難しいと思います」 なんでも月末に仮装大会があるそうで、そこでお化けの格好をするべく衣装合わせをしていた最中だったという。 外見が同じだから、ふらもともふらは気があったのだろうか。‥‥そこらの事情はちょっと謎。 依頼主なら、さすがに自分のもふらを見分けられるが、かといってアヤカシのいるような場所に連れて行く訳にはいかない。 「ふらもと間違えてうちのもふらを傷つけて欲しくは無いんですけど‥‥。でも、雨が降っても大丈夫なように、特殊な染料を使ったりしてますので簡単には落ちないと思いますし‥‥」 依頼主も困った顔をしている。 しかも、もふらたちはふらもを仲間と思っているのか。ふらもが何かすると一緒になって騒ぎ出すという。勿論、ふらもと違い遊び感覚だが、遊びでもあの巨体で体当たりされると結構痛いし邪魔だ。 「一緒にいるもふらは五体です。面倒かと思いますが、お願いします」 ふらもも放置しているとどう被害を出すか分からない。 なので、ふらもを倒し、もふらたちを無事に牧場まで連れ帰って欲しい。 その願いを受けて、ギルドでは開拓者の募集を始めた。 |
■参加者一覧
犬神・彼方(ia0218)
25歳・女・陰
ルエラ・ファールバルト(ia9645)
20歳・女・志
琥龍 蒼羅(ib0214)
18歳・男・シ
国乃木 めい(ib0352)
80歳・女・巫
燕 一華(ib0718)
16歳・男・志
天霧 那流(ib0755)
20歳・女・志
ノルティア(ib0983)
10歳・女・騎
レティシア(ib4475)
13歳・女・吟 |
■リプレイ本文 もふらそっくり(?)のアヤカシ・ふらもについて行ってしまったもふらさまたち。 「あらあら‥‥もふら様たちったら、ふらも達をお友達と間違えて、ついて行ってしまったんですね」 国乃木 めい(ib0352)はおっとりと嘆息する。 人に危害を加えるふらも達と一緒ではもふら様たちもどうなるやら。 安全の為。そのもふら様たちを取り返し、そしてアヤカシを退治せねば。 その為に、まずは依頼人と会う。 「もふらたちをお願いします」 依頼人が差し出した仮装に使った染料を受け取る開拓者たち。 そっくりといっても、もふらかふらもか、見る者が見れば分かる。 しかし、そのもふらさまがよりによってふらものような格好にされているという。 誤解でもふらさまを殺めては縁起が悪い。依頼人も悲しむ。 なので、見分ける為に目印をつけようというのだ。落ちにくい染料なら申し分ない。 「もふらともふもふ‥‥じゃない、ふらも退治、承りました」 心配している依頼人を励ますように、ルエラ・ファールバルト(ia9645)ははっきりと告げる。 「依頼主にとってもふら様たちは家族のようなもの。もふら様たち、全員必ず連れて帰ってきます」 もふら様の物語に涙は不要。 だから泣かないで、とレティシア(ib4475)も依頼人を励ます。 ● もふらとふらもは近くの森にいるという。もふらはそこで遊んでいるというのだが、ふらも達は人を襲う前の小休止か? 十体の居場所は大体分かっていた。 湖の畔にいる彼らに気付かれぬ位置から、そっと状況を把握する。 「もふら様、似てる‥‥アヤカシか‥‥」 ノルティア(ib0983)の感想を皆頷いて聞く。 「ふらも‥‥もふらによく似たアヤカシなんているのね、知らなかったわ」 「僕も退治はこれで二度目でしょうか。本当に似てますよね」 天霧 那流(ib0755)と燕 一華(ib0718)はそれぞれの個体をじっくりと見比べる。 普通の人が見ればもふらが十体いると思うだろう。目のある者が見れば、ふらもが十体と考えるかもしれない。 だが、もふらとふらもが混在しているとは、聞いていても程に似通った化粧がされていた。 「俺も見るのは初めてだな。しかも、偽者はあの中に半分だけ。それにしても、もふらとふらも‥‥」 琥龍 蒼羅(ib0214)は軽く首を傾げる。 「ややこしい名前だな」 その意見には、犬神・彼方(ia0218)も同意だった。 「ったぁく、たたでさえややこしいのぉに、一緒になると更に倍ぐらい大変ってぇな‥‥。もふらとふらももふらふらもふら‥‥段々何か分からなくなる厄介さ。ここは、ぱぱっとぉふらもを倒して、もふらさまだけぇにしようか」 ややこしいなら、不要分を除いてすっきりさせてしまえばいい。 まずはもふらかふらもか。選り分ける事から始める。 「ついに‥‥この刀を使う時が来ましたか」 レティシアは神妙な面持ちで刀を握り締める。 ● 彼方たちは武器を構えると、もふらふらもの前に姿を現す。ただし、数名足りないがそんなのもふらふらも達には知りようが無い。 「ふもぉ」 「もふ?」 化粧のせいか、もふらもふらもも一斉に睨んだように見えた。 その中に確かに殺気も混じっている。 じりじりと距離を測るもふらふらも。 ふらもは勿論開拓者たちを襲う為。もふらは‥‥多分、その様子からおもいきりじゃれ付こうとしているのだろう。 だが、戦闘に入る直前。別方向から残りの開拓者が姿を見せる。 彼らの目的は戦闘ではない。 「悪戯なもふら様たちに朗報ですっ。素敵な仮装をした皆さんに、お菓子をプレゼントしちゃいますよっ」 「仮装祭りで仮装してるもふら様に、特別なお菓子を用意しました」 一華が声をかけ、めいは優しく微笑む。 そして、レティシアは甘酒と刀を掲げる。――否、それは甘刀「正飴」! 刀そっくりに見えて、実は砂糖をふんだんに使った非常に魅惑的で巨大な飴なのだ!! 「おやつ!」 歓喜をあげたのはもふらだろう。が、誰が叫んだのかまでは分からない。 武器を構える一団と、おやつを掲げる一団に視線が分かれた。 その瞬間、彼方は咆哮を上げた。 大地を震わす雄叫びに惹き付けられた敵が動き出す。 おやつに向かったのは三体。戦闘に向かったのは七体! 「こちらのは全てもふらさまです。気をつけて、そっちにもふらさまが二体混じっています」 お腹一杯なのか。遊びたいのか。それとも、咆哮が気に入らなかったのか。 瘴索結界で瘴気の有無を確認しためいが注意を呼びかける。 「困ったもふらさまだ。遊んでいていいのか? 美味しい菓子が他の奴に食べられてしまうぞ」 「もふっ!」 距離を走りこみ、勢いのままに突進してくるもふら。‥‥いや、ふらもか? とにかく見分けがつかないなら、手を出せない。蒼羅はもふらに呼びかけながら、虚心になって相手の動きを見切り、回避に専念する。 「やっぱり心眼じゃ見分けは無理ね。こうも元気だとゆっくり違いも見てられない」 依頼人から見分け方を聞いたが、やはりそこは長年眺めてきたものとの差だろうか。那流には今一つ分からない。 持って来たもふらのぬいぐるみなどもちらつかせるが、その反応も今一つ。 「‥‥キミ、の。お相手、は‥‥ボク、言うことで」 鼻息荒く睨みつけてくる相手に盾・ベイル「翼竜鱗」を構えるノルティア。 ふらもなのかもふらなのか分からない。刀をすぐ振るえる状態で、注意深く観察する。 鋭い牙。太い眉。息をするのさえ気だるさそうな脱力した瞳が、恐ろしげに爛々と光る。これが化粧なのだとしたら、依頼人の腕は凄い。 (あれ? この気持ち‥‥何?) 見ているだけでノルティアの胸が高まる。 『‥‥良いんだよ。俺のことなんて、斬ってしまえば良いんだ‥』 周りの騒ぎが気にならなくなる。ふらもかもふらが視線で語りかけるのを、ノルティアは(勝手に)脳内変換して解釈する。 『むしろ、斬られるなら‥‥お前が良い』 「や、やめて下さい‥‥ふらもるとさん。あなたのそんな優しさが‥‥っ」 「ぁ危ない!」 勝手に苦悩するノルティアに声が飛んだ。 顔を伏せた別のふらもかもふらかが突進しようとしていた。気付いた彼方が呪縛符で止める。 「待っ‥‥て下さい! ふらもるとさんだって‥‥悔やんでいます! 心の‥‥優しい方なんです」 「‥‥ふぅらもるとぉ?」 ふらもに魅了されたとはすぐに気付いた。 が、心の声など知らない彼方には、その名前がどこから出てきたのか分からなかった。 ● 全力で走るもふらかふらもかを開拓者が颯爽と躱す。あるいは、盾を構えて正面から受け止める。 ‥‥事情を知らず傍から見ているだけなら、それは確かに面白そうな追いかけっこだった。 「もふぅぅうう」 「ダメですよ、お行儀の悪い子にはお菓子上げませんよ」 遊びたそうにしている怖顔のもふらを見上げ、レティシアが叱る。 お菓子で釣って、気晴らしに口笛。 その間にめいと一華がもふらである目印を付ける。 「こうするともっと素敵になりますよ」 「それはお菓子じゃないです。食べちゃだめです」 借りてきた染料を特徴的に塗り、一華は持参のてるてる坊主をかけてあげる。 これで彼らはもふらだと見分けがついたが、だからといって混じられるとまた面倒。 「おとなしくしていて下さいーっ!」 「もふううう!!」 お菓子咥えて走り出そうとしたもふらを、一華は防盾術も用いて体で受け止める。 止めはしたが、意外に力持ちのもふらさま。そのまま一華を押し始める。‥‥案外、それも遊びなのかもしれない。 そこに別方向からもふらが突進してきた。 いや、印が無い。もふらかふらもか‥‥。どちらにせよ、もふらで手一杯になっていた一華はとっさの対応できない。あれがふらもなら、躱してももふらさまが危険だ。 「手出しはさせません!」 ルエラがベイル「翼竜鱗」で突進を弾く。防盾術を使っての動きは的確で、当たった相手はよろめき軌道を変える。 「捕まえて下さい、もふら様です!」 めいが声を上げると、ルエラの表情が変わる。太刀を片付けると、じゃれかかってきた所をしっかり受け止める。 「こら、おとなしくしなさい!」 「もふっ♪」 じっとしないもふらを押さえながら、ルエラとめいが岩清水や染料で印をつける。 「! ふらもが来ます!」 めいの言葉に、ルエラの動きは早かった。はっと顔を上げると、すぐに太刀「阿修羅」を抜き放つ。 先の咆哮の効果も消えたか。 離れて印をつけていたこちらへと個体が出てきた。 覗うように見ていた一体とレティシアの目が合う。 「もふら様は媚びない! そのつぶらな瞳はパチモンです!!」 魅了に抵抗するよう、霊鎧の歌を奏で出す。 その一方で一華は斜陽を仕掛ける。これでかかる可能性はさらに減った筈。 「偽もふもふに惑わされないように、頑張って下さい」 「ええ、任せて下さい」 さらに、ルエラは苦心石灰をかける。 かかってくるふらもを、もふら様に害が及ばぬよう気遣いながら、ルエラは次々と刃を繰り出す。 的確な攻撃に、ふらもが叶う筈も無く。音を立てて倒れた。 「もふ?」 動かぬふらもから流れ出る瘴気に、もふらたちは首を傾げた。‥‥ようやく何か変だと気付いたらしい。 ● 「あそこに、一体いるのですけど‥‥あ、それはふらもです」 小さな式が絡みついた一体を、めいは示す。 別に目印はもふらにだけ付ける必要は無い。手近なふらもに、襲われないよう素早くふらもである目印を付けていく。 「確定したなぁら、積極的に攻撃だぁな」 魅了されぬよう気合を入れると、彼方は十字槍「人間無骨」に式を宿す。 長柄で行動を制し、動きを止めた所で槍を回して刃で斬る。 人間の骨など無いも同然――それほどに鋭い刃とされる槍。ふらもの体など遠慮なく刻み、残る瘴気すら散らす勢い。 「こいつは?」 「ふらもですね」 印の無い一体を蒼羅が抑える。めいが見分け目印がつくと、一旦離す。 「任せていいか?」 「はい。‥‥少し、悪い夢、見てた。気、するけど。もう、大丈夫‥‥問題無い」 ノルティアにふらもを託すと、蒼羅は他の印の無い個体を押さえにかかる。この状況、まずは見分けが優先だ。 「ふも!」 魅了からはすでに冷めている。 鼻息荒くかかってくるふらもに、ノルティアは自ら接する。 懐深く入られて驚くふらも。 「せめて、ボクの手で‥‥いけるかな?」 盾を正面からぶつけ、ふらもを仰け反らせる。打たれた衝撃はそれなりだったろうが、痛手とも言えない。 ただ、その反った体に、間近から下顎にまっすぐ刀「鬼神丸」を突き立てる。 かっと目を見開くふらも。 ふっと息を吐いて、刃を抜いて逃げると、ぐしゃりとふらもが潰れるように倒れた。 そして、那流の元に走ってきたのは、すでに印のついたふらもだった。 青い海冥剣に紅い炎が宿る。 正面からやや倒し気味に構え、ふらもに備える。魅了は警戒するが、苦心石灰で抵抗は上げてある。 「ふも! ふも!」 かかってくるふらもを躱し、間合いを計りながらも攻撃を繰り出す。 倒れたふらもに刃をつきたて、息の根を止める。と、傍の茂みからべつの個体が飛び出てくる。 印は‥‥まだ無い! 迷った分だけ対処が遅れた。 「もふら様ですよ」 「ええ!?」 めいからの知らせに、戸惑う那流は慌てて剣から手を離した。抜き身を持って、弾みで怪我をさせてはたまらない。 「もふぅ!!」 「きゃあ!」 それ以上は時間が無く。 体一杯飛び込んでくるもふらを、那流は全身で受ける事になった。支えきれずに転倒。 その視界の隅で。蒼羅が太刀「獅子王」で切り伏せるのが見えた。 「見た目は似ているとはいえ、アヤカシはアヤカシ‥‥。為すべき事は一つ、ただ断ち斬るだけだ」 そのふらもが瘴気に変えるのを確認すると、それで全てアヤカシは散った筈。 「‥‥もふ? 皆、どこ行ったもふ?」 ようやく状況に気付いたもふらが、きょときょとと辺りを見渡す。 静かになった湖畔では、少し疲れた様子の開拓者たちに、やはり状況を飲めていない他のもふら達四体だけがいる。 「ほら、後で遊んであげるから、牧場主さんの所へ帰るわよ」 だから早くどいてね、と、暢気なもふら様を那流はそっと宥める。 ● 「もふううぅ。ふらもだったもふかぁー」 改めて事情を説明されて、もふら達は低く唸る。気付かないとは、如何にも暢気なもふら様らしいが、命の危険があったのだ。しっかり説教も忘れてはならない。 帰ると聞き、一体がすっとめいの前に座った。どうやら乗れという事らしい。 「あらあら。送ってくれるの?」 それを見たレティシアが手を上げる。 「私もいいですか? 戦闘で腰が抜けちゃいました」 「もふ? 若い子は体力つけなきゃダメもふよ」 言いながらも、レティシアを背負うもふらさま。 「あなたの、屍‥‥は無いけど‥‥を越えて。ボクたちは、前に進まなきゃ、いけない。そ、だよね‥‥ふらもるとさん?」 「誰もふ?」 森を振り返り。もふらを撫でながら黄昏ているノルティアに、もふらは首を傾げていた。 「まだ終わってませんよ。しっかりもふら様を牧場へ連れて帰りましょう。本物のもふら様のもふもふを楽しみたい方は、癒されちゃうといいかもですねっ♪」 そんなノルティアに、一華が笑いかけ手を差し伸べる。 「そうだな、この仮装も洗ってやらないと」 「もふっ? 大丈夫もふよ」 染料のついた毛を撫でるルエラ。見た目が随分派手になったが、それはそれで気にいったようだ。 のんびり歩調のもふらに合わせて。ゆっくりと牧場までの道のりを帰っていった。 |