武天 強奪注意
マスター名:からた狐
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/11/13 19:23



■オープニング本文

 石鏡にて行われてる安須大祭。
 何も石鏡の民だけが楽しむ祭りではなく、各地から活気に惹かれ観光客や商人が集まってくる。
 出て行く民に、入る民。石鏡だけでなく、近接国も国境付近が酷く賑わいを見せる。

「はぁ、すっかり遅くなってしまった」
 街道を商人は小走りに進む。
「今日中につけると思ったんだがなぁ‥‥」
 国境の街に着いて、さて石鏡に‥‥という所で足止めを食ってしまった。
 管理体制が変わるのだ。出入国にはそれなりの手続きが必要になる。
 人手が多いと犯罪者なども集まりやすい。それをみすみす通したとなれば国の恥だ。
 面通しに荷物の確認。人数が多いと時間がかかり、待つ人が列をなしていた。
 着いたのが遅かった商人は当然並ぶのも遅く、順番が回ってくるのもかなり遅くなると聞かされ。
 だったら、急ぐ旅でもなし。明日朝一にでもまた出直そうと考える。
 そこで今夜の宿を探したのだが、国境付近の宿はすでに祭りに向かう人たちで埋まっていた。
 なので、仕方なく手前の街まで戻る事にする。
「戻るんだったら、もう少し早く出ればよかったなぁ」
 家から一日かけて国境の街に着き、待たされた挙句、また逆戻り。
 疲れた足は歩みも遅く、気付けば秋の釣瓶落としでとっぷり日が暮れてしまった。
 街道に人影は途絶え、歩いているのも自分だけ。
 心細かったが、宿町の明かりはもう目に見えている。もう少しだと気合を入れた。
 こうなってしまった事は、自分の目論見が甘かったからだ。
 明日は失敗しないぞと、今からあれこれ予定を考えていると、
「ウキョキョキョ!」
「な、何だ!」
 周囲の闇の中から、奇妙な笑い声が響いた。
 はっとして足を止める。
 提灯の明かりで周囲を見渡すと、茂みに何か動いていた。
「誰だ! 誰かいるのか!?」
 その呼びかけに応えるように、そいつは街道に飛び出してきた。
 子供ぐらいの体躯。顔は歪に歪み、下顎からは牙が長く突き出ていた。
 小鬼だ。
「ウキャキャキャキャ!」
 じろりとやけに大きな目で商人を見ると、不気味に笑う。
「ウキャー」
 小鬼が腕を振り上げた。
 途端、後ろからさらに小鬼が飛び出てくる。その数七。
 手にした棍棒や刀で商人を叩きだす。
「うわっ、うわーーっ!!」
 身をかばってしゃがんだ所で、商人が持っていた荷物を一斉に強奪にかかる。
 小さな体に荷物を抱えると、後は商人放っといて、さっさと逃走していった。
「待て。俺の荷物を返せー!!」
 とはいえ、鬼を追う勇気などとてもじゃないが出てこない。
 からがらに街に着いた商人は、すぐに襲われた事を街の人に伝える。そこで、他にも被害が出ている事を知った。

 そして。
「国境付近で小鬼が暴れている」
 開拓者ギルドにて。鬼退治の依頼が出る。
「街道を行く商人など襲い、その荷物を奪っている。小鬼たちは奪った荷物を近くの洞穴に溜め込み、基本的にそこで陣取っているらしい。どうやら、取り返しに来た相手を襲おうというようなのだが‥‥」
 説明する係員が困惑するのが分かる。
 街道で襲った時に仕留めて食べる方が楽というのに、何故そんな真似をするのか。
 浅知恵しか持たない連中程、突飛な事をしでかして面倒である。
 もっとも、その小賢しさのおかげで、今の所、怪我をした人はいるが死者はいない。
「数は八。内一体は大将格らしく指揮をとる。恐らく、赤小鬼だろう」
 赤小鬼は小鬼に比べると力があり、知恵もある。
 あくまで小鬼と比べてだ。低級なアヤカシである事には変わりない。
「アヤカシを殲滅し、取られた荷物を取り返す。祭に向かう者が多い時期だ。素早く対処し、安全を確保して欲しい」
 出された依頼を受けるかは、開拓者次第だ。


■参加者一覧
橘 天花(ia1196
15歳・女・巫
九法 慧介(ia2194
20歳・男・シ
露羽(ia5413
23歳・男・シ
将門(ib1770
25歳・男・サ
マーリカ・メリ(ib3099
23歳・女・魔
羽喰 琥珀(ib3263
12歳・男・志
清導皇子(ib5348
18歳・男・サ
松吉慶護(ib5349
30歳・男・志


■リプレイ本文

 ギルドで遠眼鏡を頼んだが、貸し出しされてないと断られた。
 無いとならば仕方が無い。
 アヤカシのいる場所は分かっている。そこから慎重に位置を取って見張りに立つ。
 距離は十分に保っている。知能は劣るアヤカシなのでこちらに気付かないだろうし、事実、気付いていない。
 合計八体。内、一体はどこかふんぞり返って指示ばかり出している。
 してみるとあれが首領格――赤小鬼か。
 やってくるだろう奪還者を返り討ちにする為に余念が無い。荒々しく武器を打ち合い、周囲に睨みを効かせている。
 結構厄介そうな相手に見える‥‥のだが。
「あそこで頑張るのなら、襲った時に頑張ればいいものを」
 将門(ib1770)の呟きに、微妙な顔つきで他の三名も頷いた。
 アヤカシである以上、最終的な狙いは人の命。荷物など本来何の意味も持たない。
 荷物を奪う際に、命を奪う機会も十分あったのだ。ならばそこで屠るのが楽だし早い筈。
「うーん。まぁ、考えて行動するのは悪くないけど‥‥。もうちょっと自分の外見とかも考慮した方が良かったかも」
 熟考しているようで、実に間の抜けた行為。九法 慧介(ia2194)は屈託の無い笑みを浮かべる。
 ただ、こうして暢気にしてられるのも、アヤカシの小賢しさのおかげ。荷物を先に狙うので、まだ命を落とした者は無い。それを思うと心境はなお複雑になる。
 小鬼たちは荷物を守る。襲撃者を獲る為に。
 だが。その襲撃者が一向に来ないのでは、彼らにとっては何の意味が無い。
「‥‥苛々しているようだな」
 距離を置いているので、声は聞こえない。監視するその素振りから判断するが、彼らの動きは非常に分かりやすい。
 何事かを赤小鬼が叫ぶ。応じて、小鬼たちが武器を振り上げる。
 そして、アヤカシたちは移動する。新たな獲物を求めて近くの街道へと。‥‥奪った荷物は全部放っといて全員で。 
「とりあえず‥‥今なら、荷物取り返せます?」
「出来そうですね。まぁ、いつ戻るか分からないので、普通の人なら危ないでしょうけど」
 あまり認めたくない口調で問う橘 天花(ia1196)に、露羽(ia5413)も気持ちは分かると頷く。
 強敵は困る。だが、こんな輩に生活を乱されるのも腹立たしい。
 どの道、アヤカシなど迷惑な存在でしかないが。
「お馬鹿な子は割と好きなんだけどなぁ‥‥。まぁ、仕方ないか」
 慧介は軽く肩を竦める。
 アヤカシの所業ではおいたでは済まない。
 きっちり始末をつけなければ。
「下手に知恵が回るのも困ったものですね。ですが、まだ犠牲者までは出ていないのは幸いです」
「奇妙な襲い方をするアヤカシですが、結果として誰も亡くなられていなくて良かったです。被害が大きくなる前に、急ぎ討ち果たしましょう!」
 告げる露羽に天花も気負う。
 やがて、短慮を起こして直接人を襲うのは確実。
 被害が軽微である内に。全てを終わらせる為に、四人はこっそりと小鬼たちの後ろにつく。
「では、追うか。近付きすぎて気付かれてはダメだが、離れすぎても対処が難しくなる。‥‥向こうもそろそろ始める頃だろうしな」
 行き先は大体分かっている。が、気にしながら将門は空を見上げる。
 残る二名もまた、動き出している頃。
 清導皇子(ib5348)と松吉慶護(ib5349)がギルドで足止めされた為、戦力は減じているが、小鬼相手ならば問題あるまい。
 油断さえしなければ、なのは当然だが。


 襲われるのは大体日暮れ頃らしい。
 人通りが少なくなる、周囲が見づらくなる、旅人だと疲れてきている、など襲いやすい条件が揃っている。
「しっかし、変なアヤカシもいたもんだなー。なー、ねーちゃん」
 見上げてくる羽喰 琥珀(ib3263)を、マーリカ・メリ(ib3099)は人差し指を立てて黙らせる。
「しー。そんな事言わないで下さい。聞かれて臍でも曲げられたら困りますからね。もっと、浮かれた気分で出てきてもらわないと‥‥とおおお!」
 浮かれた様子を演出しようと、手にしたエストラロッドを相手に踊り出すマーリカ。回った拍子に石に躓いてこけかける。
 夕暮れに、早く見つけてもらうようさっさと松明をつけてるので、本当に危ない。
「もう何やってんだよ、ねーちゃんは」
「あはは。ごめんなさい。ちょっと待ってって。靴紐結び直しますから」
 呆れる琥珀に、マーリカは照れ笑う。
 小鬼を誘い出す演技であって、本当の姉弟ではない。が、屈託の無さから違和感を覚える者はいないだろう。
 ほどけかけた旅人の靴を直そうとマーリカが屈む。用意していた小さな手荷物は、琥珀が持っていたのだが‥‥。
「ウキョキョキョ!」
 奇妙な笑い声と共に、街道に影が飛び出し来た。
 八体の小鬼たち。楽しげな笑みを浮かべ、取り囲もうとする。
「わー、ねーちゃん! 鬼だよ!」
「大変! 荷物を守って下さい!」
 ややぎこちない言葉で驚きを告げると、呼子笛を吹き鳴らす。
 その音を合図に、まずは小鬼たちが動いた。琥珀の持っていた荷物を奪おうと、殺到する。
「琥珀さん、こっちに!!」
 小鬼から少し逃げると、マーリカは琥珀に声をかけた。
 少し迷った後、琥珀は荷物を天高く放り上げる。
 軽い音を立てて、荷物は小鬼たちの上を飛んでマーリカの腕に落ちた。
「ウキャ!」
 赤小鬼がすぐに命令。今度はマーリカの元に小鬼たちが押し寄せる。
「で、今度はそっちにです」
「ウキャキャ!」
 マーリカが荷物をまた放る。荷物に目が行っている小鬼は釣られてまた琥珀の方へと走り出す。
「でも、俺なら対処できるけど。こいつらがそっちいったら、ねーちゃん大変だろ」
「気遣いありがとうございます。でも、大丈夫ですよ」
「ウキャウキャア!」
 投げ返すと、再びマーリカの方へ。そして琥珀の側へ。
 上を行き交う荷物に振り回され、小鬼たちは右往左往。
「けどなー‥‥という訳で、このまま逃走だ!」
「ウキョ!!」
 またもやマーリカに投げ返し‥‥というふりだけして、琥珀は踵を返して走り出す。流れ的にマーリカに向かいかけていた小鬼たちが、反応できずにずっこけた。
「ギャアギャ! ウギャア!!」
 不甲斐無い部下たちに、傍から見ているだけの赤小鬼が両手を振り上げて怒鳴り散らす。
 その胸を刀が貫いた。
 引き抜かれれば真っ赤な血が吹き出た。大地に広がるそれは、すぐに瘴気に変じ四散する。
「ウキャ!?」
 赤小鬼が身を捻って、自身の刀を抜こうとした。
 その時には、露羽が徒手で押さえ込むとその刀「血雨」でアヤカシを斬り捨てていた。
 いきなり首魁が倒れ、残った小鬼はぽかんと口を開ける。
「へへー、引ーっ掛かったっ!」
 吹き出す琥珀の無邪気な笑い声が、沈黙の街道に響く。
「楽しい大祭に向かおうとする人に、邪魔するんじゃないの! お祭りの為にも、絶対逃がさないからねっ! ‥‥懲らしめてやって下さい!」
 後ろに下がると、マーリカはホーリーコートを詠唱。皆の武器を強化していく。
 琥珀は外套のように羽織っていた布を脱ぎ捨てると、隠していた業物が露わになる。
 鞘から抜くや、素早く切り伏せる。アヤカシを捉えた刀身には、マーリカからの白色の輝きも加わっている。
 うろたえていた小鬼が接近に気付き、慌てて刀を振り回す。
 虚心も使って難なく躱すと、見事に胴を裂いた。
「キャア! ウキャア!!」
 また一体倒れる。
 自分たちの身が危ういと勘付いたのか。残った小鬼たちはしきりに騒ぐと、洞窟へと逃げ始めた。
「ギョヒー!」
 しかし数歩も行かず、先頭の一体が悲鳴を上げる。足元には、琥珀の巻いた撒菱が散らばっていた。
 逃げた所で、その方向には他の開拓者たちがいる。いや、すでに四方を取り囲まれている。
「全体把握、確認。伏兵は無し。‥‥逃走しても無駄ですから!」
 松明を掲げて、天花は瘴索結界を張る。
 陽はどんどんと落ち、道は薄暗くなるばかり。明かりも四方を照らすには不十分だが、例え真っ暗闇になろうとアヤカシの瘴気は見逃さない。
「松明があっても不便は不便。こちらの目が効く内に‥‥行きます!」
 慧介の表情がすっと消える。
 刀「乞食清光」を構えて小鬼へと走る。
 まだ混乱したままの小鬼との間合いに入るや、即座に抜き放つ。
 素早く動く刃からは舞い散る紅蓮紅葉。軽い音を立てて納刀する頃には、斬られた小鬼が瘴気を噴く。
「小物でもアヤカシ。確実に仕留める」
 将門は珠刀「阿見」に練力を纏わせる。新陰流で破壊力を上げると、弱った相手を見定めて切り捨てる。
 力量は歴然であり、小鬼たちは何とか逃げようと足掻き、今度はばらばらになって走る。
「逃がしはしません!」
 シノビの本領は、むしろ闇の中。露羽は暗視で夕闇も気にせず小鬼の動きを把握し、刹手裏剣で足止め。
 さらに、マーリカのホーリーアローも距離を飛ぶ。貫かれた小鬼は、絶叫して倒れた。
「ここで見失うのは嫌だな」
 将門が空を見上げる。遠くで鴉の鳴く声も五月蝿い。
 注意を引く為、咆哮を上げた。びくりと身体を竦めた小鬼たちは足を止め、持っていた武器に力を込める。
 逃げ場は無い。逃がしてくれそうにも無い。ならば破れかぶれで挑むのみ、と思い込んだか、込まされたのか。
 小鬼たちは敵を倒そうと、向かってくる。
「チョロチョロしないの。おとなしく寝てなさい!」
 そこで、マーリカのアムルリープ。かかった小鬼がばたんと寝込む。
「ギャアギャア! ウギャアア!!」
 一体の小鬼が、荷物を手にして騒ぐ。見れば、マーリカたちが用意した荷物だ。
 人質ならぬ物質を取り、それでこちらの動きを牽制しようとする。
「あれ? ちょっと忘れてました?」
「大事な物か?」
「鍋のふたとかねこのてとか。あるといろいろ便利です」
 尋ねられて暢気にマーリカは答える。
 しばし、開拓者の動きが止まる。効果があったと見て、小鬼たちはようやく笑う。
「それでも大事な荷物ですから。精霊様、お願いします」
 天花が祈るや、小鬼の体が浄炎に包まれる。落ちた荷物は何の影響も無く、もがく小鬼の手から落ちる。
 他の小鬼がとっさに拾い上げかけたのを、それより早く、抜足で近付いていた露羽が拾い上げる。
「シノビの刀、そう簡単に躱させはしません」
 目の前にまで寄っていた小鬼に、厳しい露羽の一太刀。受けた小鬼がよろめいた所を、将門が止めに入った。
 振り上げた刀を容易く見切り、無言のままに慧介は小鬼を断つ。
 全ての小鬼を葬るに、さほどの時間はかからなかった。


 すっかり陽が暮れた街道を、松明だけが煌々と照らす。
「大丈夫、小鬼の気配はありません」
 天花が注意深く辺りを探るも、蠢く気配はすでに無い。
 アヤカシを全て倒しても、それで終わりではなく。奪われた荷物を取りに彼らの洞窟へと向かう。
 その道中でも用心して向かったが、幸い逃げ切った個体も無い。
 奪われた荷物も無事回収。近くの宿場まで届けると、奪われた人たちが礼を言って喜ぶ。
「街道が安全に通れないと皆困るしね。もう大丈夫ですよ」
「これで自由に行き来が出来るようになりますね。私たちもお祭り、行きましょうか」
 慧介が気楽に伝え、露羽もほっと胸を撫で下ろす。
 夜が明ければ、人々は街道を通り祭りに向かいだす。今から楽しみにしている様子は、隣国の賑やかさがここまで伝わるような気がした。