マスター名:からた狐
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/11/29 20:40



■オープニング本文

 村の中。秋晴れの穏やかな天気に、陰が差した。
 何か、と見上げた先、その人物は天から落ちた雷に打たれた。
「な、何が! おい、大丈夫‥‥おぐぅっ!」
 心配して駆け寄ろうした相手も、また雷に打たれた。
 上空にぽかりと浮かんだ不自然な黒雲。その上には巨大な人影があった。
 いや、人が雲に乗れるはずも無い。そもそも形こそ人だが、筋骨隆々の体躯に大きな角。その大きさもきっと間近で見れば、人の倍以上はあるに違いない。
 鬼――アヤカシの襲撃。
 大鬼が持っていた槌を振るう。また一つ雷が落ち、人が倒れた。
「に、逃げろー!」
 悲鳴と共に、人々は逃げ出そうとした。
 しかし、散ろうとした四方から別の村人たちが走りこんでくる。
 彼らもまた逃げてきていた。走る彼らの背後には、同じく大型の鬼の姿。上空の鬼とは違い雲には乗っていないが、雷電を身に纏っている。
 合計六体が村の周囲から、村人たちを取り囲む。
 意を決した若者が、鬼の間をすり抜けようと走り出した。
 鬼たちの手が届かぬ道を、若者は走った。抜けられる、と思った瞬間、鬼はせせら笑うと雷を放つ。真横に飛んだ稲光は若者を打った。
「ぎゃあああああああ!」
 もんどり打って倒れた若者に、鬼は容赦なく迫った。あがる血飛沫に絶叫は絶え、屍はさらに肉塊へと変わった。
 無残な光景から逃げるように、村人たちは身を寄せ合い、縮こまる。
 かかっと、上空から笑い声が飛んだ。雲の上で大鬼が笑う。
 雷雲から光が走った。
 目にも眩き一瞬の閃光。
 一塊になっていた村人全てを飲み込むには、十分だった。


「雷雲鬼、ならびに雷鬼が暴れている」
 開拓者ギルドにて。息も絶え絶えに駆け込んできた村人は、アヤカシの出現を語った。
 詳しい事情を聞き、即座に討伐の依頼が出される。
 上空から雷雲鬼が、周囲からは雷鬼が攻め込み、村人を集めて始末するという。すでに幾つかの村が犠牲になった。
「出現範囲は分かっているし、空を注意していたら恐らく雷雲鬼の雷雲は目立つはずだ。次の犠牲が出る前に、何とかしとめて欲しい」
 雷鬼は空を飛ばない。だが、共に行動している以上、雷雲鬼の近くに潜んでいると予想される。
 先に雷雲鬼を見つけるのは簡単かもしれないが、それで雷鬼たちが逃げるようでは意味が無い。
「どちらも結構な強さのアヤカシだ。けして油断はするな」
 ただの一体でも逃がせば、不幸な人たちが増えるだけ。必ず被害を食い止めねばならない。


■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371
25歳・男・砂
焔 龍牙(ia0904
25歳・男・サ
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
沢村楓(ia5437
17歳・女・志
菊池 志郎(ia5584
23歳・男・シ
九条・亮(ib3142
16歳・女・泰
朱鳳院 龍影(ib3148
25歳・女・弓
プレシア・ベルティーニ(ib3541
18歳・女・陰


■リプレイ本文

 秋晴れに落ちる雷。
 それは無辜の民を打ち、無情に命を奪う。
 操るはアヤカシ。取り巻くもアヤカシ。
 これ以上の被害を避ける為に、討伐へと開拓者たちは空を駆る。


 襲撃された箇所付近を、捜索すれば程無く発見された。
「いたぞ!」
 怪雲に乗って移動する雷雲鬼。
 風とは違う動き。その大きさ。隠れる場所の無い天では、逆に目立った。
 そして、隠れる場所が無いのは、開拓者側にも言える。
 風に乗り、軽やかに飛翔する龍やグライダーも小さくない。

 禍々しい黒雲の上にすっくと立つと、雷雲鬼は自分の周囲に集ってくるそれらに睨みを入れた。
「オオオオォォーー!!」
 隆々たる筋肉をさらに膨らませ、雷雲鬼が槌を振るった。
 発見し、近付いてきたのは全てグライダーだった。数は三機。
 打ち放たれた雷が、黒一色の一機に伸びる。
「ルオウ!」
「平気だ! これぐらいでやられるか!!」
 射程に気をつけて接近していたルオウ(ia2445)だが、気力で持ち直すと滑空艇・シュバルツドンナーも立て直す。
「どれだけ射程があるんだよ! これじゃ、こっちが届かないじゃないか!」
 雷雲鬼の名にふさわしく。アヤカシが操るは雷。
 遠距離からショートボウで攻め込むつもりだった九条・亮(ib3142)だが、先の一撃はそれを遥かに超えた。
 かといって術中心の相手でも無さそうで、懐に飛び込んだとて、槌で十分立ち回れそうな巨躯をしている。
「面倒じゃのぉ。ただ、今は逃げもありじゃ!」
 告げるや、朱鳳院 龍影(ib3148)は滑空艇・ブレイズヴァーミリオンを転進させた。
 遠ざかろうとする赤い機体だが、雷雲鬼は勿論見逃す気など無い。
 黒雲が追ってきた。その飛速もまた速い。
 背面に紫電を滑り込ませると、そこから素早く亮は矢を放った。
 幾らかは掠めたが、傷を与えたとは言い難い。
 しかし、亮はそれを悔やみはしない。狙いを定めてないので当然。注意を惹ければそれでいい。
 開拓者三名を追って、雷雲鬼は飛行する。どこへ向かっていたのかは知らないが、元の場所からはすでに大きくずれている。引き込まれている事には気付いている気配は無い。
「地上に引き込む。――絶対叩き落としてやるぜぃ!」
 穏やかに生活していた人たちをいきなり攻撃。話を聞いた時からルオウは腹の虫が収まらない。
 ぎりっと歯を食いしばると、今は雷雲鬼の目をこちらに向ける。
 
 雷雲鬼に気付かれたのは痛かったが、グライダー乗りが上手く足止めしていた。
 その間に、焔 龍牙(ia0904)は一旦雷雲鬼から離れ、地上付近を駿龍・蒼隼で飛び回っていた。
 村々を襲ったのは、雷雲鬼だけではない。他に、六体の雷鬼がいる。
 奴らは飛べないが、共に行動する以上、近くにいるはずだった。
 視力を駆使して周囲を見渡し、心眼で気配を探る。
「! 蒼隼、戻れ」
 駿龍の首を返すと、気になった箇所に取って返す。
 心眼では、気配が分かってもそれが生物なのかアヤカシなのか分からない。
 隊列を組んだ行商人などの可能性だってあるが、それは目で見て確認すべき。
 だが、その手間は省かれた。
 戻りかけた龍に向かい、地上から雷が打たれたのだ。
 龍の体勢が崩れる。地上付近を捜索していただけに、そのまま地表に激突する。
「大丈夫か!?」
 幸い、蒼隼も龍牙も怪我は無い。だが、落ちた彼らに向かい、すでに雷鬼たちが迫ってきている。先程の雷もやはり奴らか。
 舌打して、龍牙は飛び立とうとする。接近を待っていても袋叩きになるだけ。しかし、飛べば恐らく狙い撃ち。それを上手く躱せるかは力量次第と思われた。
「グォオオ!!」
 雷鬼が吼える。身構える仕草が目に入った。その前に、さっと黒のグライダーが横切る。
 邪魔が入り、雷鬼たちの足が止まる。その間に、蒼隼は空へと再び舞い上がる。
「誘い込む。逃すでないぞ」
「ああ!」
 黒と赤の機体がそれぞれアヤカシを取り巻く。
 位置を測ると、ルオウと龍影が咆哮を上げる。
 二人から発せられた雄叫びは広範囲に渡り、雷雲鬼も雷鬼も巻き込んで惹き付ける。


 襲われた地域の地理をざっと掴むと、鬼たちが逃走しにくく、こちらが有利になりそうな場所に残りの開拓者たちは潜んでいた。
「天斗天斗、わらわは暇なのじゃ! 何時まで待っていればいいのじゃ〜」
「奇遇だなァ。俺も暇な上に鬱陶しいのが素敵に喧しくて不機嫌だ」
 にしても、ただ待つだけなのは暇で暇で。
 鷲尾天斗(ia0371)の頭の上で人妖・ねねは全く落ち着かず、不平不満を漏らしっぱなし。
「もうちょっと待ってろ。あと少しで素敵なショータイムが始まるから‥‥」
 ジタバタ暴れる度に乱れる髪を整え、ずれる眼帯を直しながら、天斗はねねを宥める。
 そんな中で、遠くから雷音が轟いた。
 天斗の動きがぴたりと止まった。態度に気付き、ねねも姿勢を正す。
 目を向けた先には逃げるようにグライダーと龍がこちらへと滑り込んでくる。
 そしてそれを追う不自然な動きの黒雲。
 雷は、その雲から、あるいは地上から発せられていた。
「さてようやく来たか。‥‥ねね、離れてろ。逝くまで命削る楽しいショータイムの始まりだァ!」
 笑んだ目には狂喜を浮かばせ、天斗は人妖を離れさせる。
 閃く雷が宙を過ぎる。開幕の合図は派手だった。
「おお〜っ、雷どっか〜んだね〜!」
 目を輝かせるプレシア・ベルティーニ(ib3541)に、人妖・フレイヤは頭を抱えている。
「こらこら! 雷で被害を受けた人もいるんだから、はしゃいじゃだめっ!」
 通常、人妖といえば我侭か変わり者かのどちらかが多い。が、フレイヤの場合、主のおかげか割としっかりしている。
 大きさこそ違え、外見そっくりの両者だけにその違いもはっきりと浮き立つ。
「そうだね。みんなに落ちちゃうと危ないから〜、やっつけないといけないね」
 窘められて、プレシアも気を引き締めてアヤカシに向かう。
 もっとも、その気合もいつまで持つのか。悩まされながらも、フレイヤはその後についた。

「雷鬼はこちらに気付いて無いか? ならば、奇襲で!」
 藪に身を潜めていた甲龍・轟を起こすと、沢村楓(ia5437)は飛び立つ。
「行きます、先生。全てを倒しましょう!」
 菊池 志郎(ia5584)も駿龍・隠逸を羽ばたかせる。
 移動の速さは駿龍が勝る。
 グライダーたちの動きを追っていた雷鬼の群へと、横合いから青みを帯びた灰色の龍が突っ込む。
「グルルルゥ!?」
 地上すれすれを飛んできた駿龍に、慌てて雷鬼が逃げる。
 乱れた列。内一体に楓は照準を合わせる。
 宝珠銃「皇帝」の引き金を引くや、鋭い爆発音が鳴り、雷鬼の一体の肉が弾け飛んだ。
「グゥウウ?」
 銃はまだ新しい武器だ。アヤカシたちには理解できなかっただろう。
 だが、戸惑いは瞬時。構造が理解できずとも、攻撃されたとは分かる。
 抜かれた刀は届かずとも、彼らとて雷を放つ。
「近距離で雷撃を封じる。乱戦になれば奴らも同士討ちを避けるはず」
 甲龍で雷鬼にまで近付くと、刀「澪」を抜いて楓は飛び降りる。
 鬼の只中にあり、そのまま素早く斬り付けていく。
「腕を狙えば、雷撃は打てなくなるのでしょうか?」
 志郎は騎乗したまま、印を組む。
 巧みに敵の攻撃は躱しつつ、雷鬼の一体を炎で包んだ。
「どォした! もっと気合入れてこねェと寝ちまうだろうよ!」
 地を走り、天斗は雷鬼に迫る。穂先から白いオーラが立ち昇る片鎌槍「北狄」を構えて身を沈めると、足を狙って振り回す。
 その天斗に向かい、雷鬼が刀を振り落とす。
 鋭い切っ先は力に溢れている。次々繰り出される刃を片鎌槍で裁くと、天斗は横踏で逃げた。
 さらに雷鬼は追う。が、踏み出した足の傷が痛んだか、動きが一瞬鈍った。
 それだけでも十分。天斗は嗤うと、刃を水平に倒し渾身で急所に向かい突き出す。
「んんん〜、ボク達の邪魔をするなんて許さないぞっ! せぇ〜のぉ〜! ぼええぇぇぇっっ!!」
 後方から、プレシアは呪声を発する。途端、雷鬼の一体が頭を抱えて苦しみ出した。
 幽霊系の式を召喚し、相手の脳内に呪いの声を浴びせる技。果たして自分が叫ぶ必要はどこまであるのか。
 傍のフレイヤが何かもういろいろ突っ込みたそうな顔をしているが、押し殺す。装着した鴉丸を振り上げ、守りについた。
 

 雷鬼六体に対し、開拓者四人が向かう。数では劣るも、対応する力は十分。
 ならば、こちらは雷雲鬼の相手をするのみ!
「蒼隼! 今回は速さが勝負だ、『蒼き稲妻』の名を轟かす時だ!」
 逃げながら誘い込んでいたのが一転。
 龍の首を巡らせると、龍牙は雷雲鬼に迫る。
「ム!?」
 逃げを追う猟犬だった雷雲鬼。その獲物が急に向かってきたのを訝る。
 龍牙の構えた珠刀「阿見」が炎を纏う。振るわれたそれを雷雲鬼は槌で受けた。
 捌かれ軌道が狂い、微量な傷が入る。
 再び飛び離れながら、双方共に不服の表情を見せる。
 龍牙は傷の浅さに。雷雲鬼は獲物が歯向かってきた事に。
「行くぜ、シュバルツ・ドンナー! 黒い分お前のが上だって見せてやろうぜ!!」
 グライダーを加速させると、ルオウは雷雲鬼の頭上へと上昇する。
「オオ!?」
 舞い上がったルオウの機体を、雷雲鬼の目が振り仰ぐ。
「余所見とは余裕だね!」
 開いた空間に、亮が弐式加速で一気に間合いを詰める。泰練気法・壱で身体を赤く染めて命中率を上げると、すれ違い様に空気撃を叩き込む!
「ウウ!」
 雷雲鬼がよろめいた。が、墜落まではしない。
 それでも十分。立て直すまでに、さらに龍影が飛び込んでくる。
「僅かなチャンスを逃す訳にはいかぬからの」
 様子を見ていた龍影も弐式加速で乗り込む。
 相手の死角に素早く回り込む最適置を取ると、猿のような絶叫を上げる。
 視界外からの奇声に、雷雲鬼が怯む。
 強張ったその一瞬、龍影は落ちぬよう、器用にブレイズヴァーミリオンのバランスを取りながら、長巻「焔」と太刀「阿修羅」を繰り出す。
 とっさに雷雲鬼が構えたのはさすがか。
 しかし、その構えを一の刃で弾くと二の刃を確実に雷雲鬼の身へと一気に叩き付ける。
 雷雲鬼が悲鳴を上げた。即座に槌が振るわれたが、その頃にはすでに龍影は機体を急反転させ離脱している。
 ルオウは上空から叩き落とすように殲刀「秋水清光」を振るう。
 隼人も使い先手を取ろうとするが、騎乗中は機体の性能に左右される。
 思う速さは得られず、雷雲鬼に応戦される。それでも、そもそもの力量差が歴然としている。粘り強く、雷雲鬼を追い込む。
「もう一手!」
 振るわれる槌を見定めながら、雷雲鬼に迫るルオウ。
 ぎらり、と目を光らせ、雷雲鬼はルオウを弾くや大きく雲を後退させた。
「グォオオオオオ!」
 雷雲鬼は吼える。力を振るい、周囲一帯に雷が嵐のように吹き荒れる。
「ぐぅうう!」
 機体も志体も関係なく。雷は開拓者たちを襲う。
「負けるか! 焔龍と蒼き稲妻の名にかけて、貴様を滅する! 焔龍蒼雷 炎縛白梅斬!」
 無差別に襲う雷に、龍と共に巻かれながらも龍牙は白梅香を放つ。炎魂縛武を纏う刀に合わせ、蒼隼はソニックブーム。
「落ちやがれええええぇぇ!!」
 あくまで上を取り続けると、自身が落ちるようにルオウは降る。
 勢いのままに雷雲鬼を蹴りつけると、素早く殲刀「秋水清光」を振るう。
「雷よりも速く、迅速な殲滅をせんとのう。これ以上の被害が及ぶ前に!!」
 龍影の両刀がさらに雷雲鬼を追う。
「オオオオォォ!」
 押され、雷雲鬼の体が、宙へと投げ出された。


 地上では。鈍い音と共に、強い振動が足元に響いた。見れば、雷雲鬼が大の字に引っくり返っている。
「ウゥ‥‥」
 それでも雷雲鬼は滅していない。
 頭を不愉快そうに振りながら、ゆっくりと起き上がりだす。
「しぶといですね」
 雷雲鬼に向かって、志郎が構える。意を組み、近付こうとした隠逸を雷が掠めた。
 見れば、雷鬼たちが邪魔をしようとしている。
 すでに地上での開拓者たちの動きで、満身創痍に近い。でありながらも雷雲鬼を助けようとするのは立派というべきか。
「ったく。たるいんだよ! お前らにはもう飽きた! 邪魔だからとっとと逝けや!!」
 吐き捨てると、天斗は片鎌槍を振り回す。炎魂縛武に包まれた刃が、一体の首を狩り飛ばす。
 と、その陰から別の雷鬼が雷を放った。いや、他に二体、四方に向けて次々と雷を打つ。
「とっ!!」
 どうやら牽制らしい。狙いらしい狙いは無いが、近寄り難い。
「天斗! 大丈夫か!」
「誰に言うか! いいから離れてろ」
 無差別に放たれる雷にねねが心配するも、まだ治療必要のなしと天斗は拒む。
「まったく! 面倒なのじゃ!」
 とはいえ、当たると危ないのは人妖とて同じ。主の心配をしながら、自身も安全を確保する。
「こうなったら〜、もえもえわんわんでいっぺんにめらめらぼぉっ、ってしてもらうんだよ〜☆ そこだねっ☆ んんん〜〜〜っ、燃え燃え〜きゅん♪」
「だから、どうして‥‥。まぁ、プレシアらしいけど」
 呪文(?)に謎の振りをつけて、プレシアが火炎獣を召喚。その軽さに、フレイヤが刀の切っ先を思わず落とす。
 呼び出しが可愛かろうと、式の威力は本物。狼のような式は雷鬼たちに向かい、一直線に火炎を吹いた。
 巻かれた雷鬼たちが火達磨のまま転がる。
「‥‥。一応言っとくけど、枯れ草とかに引火して一帯火の海とかやめてね?」
「それぐらいボクも分かってるよ?」
「だから一応」
 鼻に皺を作ったプレシアに、フレイヤは軽く手を合わせる。
 開拓者たちを雷で牽制する一方で、残る二体は雷雲鬼に近付こうとしていた。補佐に回ろうというのか。
「見上げた精神だが、易々成せると思ったか」
 楓はちらりとプレシアを見る。後衛の守りについていたが、それは人妖が頑張ってくれている。
 それで十分かといえば心許ない気もするが、雷鬼たちもどうやら手が回らぬ様子。
 呼び笛を吹いて、轟を呼ぶと、再び騎乗し楓は空へ。
 納刀すると、両手に銃。轟音と共に頭上から雷鬼を攻撃する。
 丁度、雷雲鬼が村人たちを襲ったように‥‥。
 だが、銃は一度撃てば再充填に間が必要になる。
「逃がしはしません!」
 その間に走り出そうとした雷鬼を炎が包んだ。志郎の不知火。続けて散華で刹手裏剣を放てば、複雑な軌道で死角を突かれ、雷鬼らの身に刺さる。
 そして、充填を終えて楓も発砲。
「キサマらの戯れにより、無為に散らされた民の痛みを思い知れ」
 冷たい声は静かな怒りを孕む。
 外道にはふさわしい最後を。その意の元に、楓の攻撃は容赦無い。

 見るからに襤褸のような姿に変わっていく雷鬼たち。それでも開拓者たちの足を止めて雷雲鬼へ近づけさせないという目的は達成できたか。
 ただし、半分だけ。空にまでは手が回らぬようで。
「絶対に! 好きになんてさせないからな!!」
 起き上がった雷雲鬼に向けて、亮は急降下と離脱を繰り返し、機体をぶつける勢いでどつき倒す。
 間違えれば地表に撃墜しかねない。それでも巧みに愛機を操り、雷雲鬼を翻弄する。
「折角の蒼天に無粋な事をやりやがって! ――ボクは飛ぶ! 貴様等は地べたに這い蹲って果てろ!」
 空から襲う死に、幾人の村人が呑まれたか。
 唇を噛むと、容赦なく亮は攻め続ける。
「ウォオオ!」
 一方的に叩かれながらも、グライダーの動きを捉え、雷雲鬼が迎えた。
 しかし交戦する前に、その横合いから巨大な手裏剣が光と共に雷雲鬼を刺す。
 志郎の風魔閃光手裏剣だ。
 ふらついた雷雲鬼に、亮は好機と空気撃で撃つ。
「こいつで‥‥どうだぁああああああああ!!」
 グライダーから飛び降りると、ルオウは落下を重ねて刀を振り下ろす。
 刃は雷雲鬼のど真ん中を捕らえる。折れるかと思う程の衝撃が手に伝わるが、その力を逃がさず地上まで突き刺す勢いで深く貫く。
「ガッ!!」
 もがいて振るわれた槌はあらぬ方に飛んだ。
 空を見上げるように雷雲鬼が地に倒れた。起き上がる事はもう無く、ただ瘴気が空へと立ち昇る。
 その姿を省みる事無く、刀を引き抜きルオウは残った雷鬼たちへと走り出す。
「チッ、なんでェ。客を差し置いて勝手にイってるんじゃねェよ」
 勝敗はほぼ決している。雷鬼たちも時間の問題だ。
 つまらなそうにする天斗に、ねねは黙って神風恩寵。機敏な動きで天斗は次々と雷鬼を屠る。
「蒼隼、ソニックムーブで切り刻め!」
 さすがに劣勢を悟り、逃げ腰になった雷鬼もいる。
 しかし上空から見逃さず、弓「緋凰」に持ち替えた龍牙が矢を放ち、駿龍の衝撃波が吹き荒れる。


 最後の雷鬼が倒れ、戦闘で荒れた地上にアヤカシたちが瘴気となって消えていく。
「怪我した人いない〜〜? 痛いの痛いの飛んでけ〜☆」
 癒し手といえば巫女の役割だが、あいにく今回の中にはいない。
 なので、プレシアがその代わりとはりきって治癒符で治す。
 人妖二体も各々の技で治療を行っていく。
「携帯の医薬品も用意してます。龍たちも大変でしたからね」
 志郎も用意していた薬を出しつつ、龍たちを労う。
「こっちもじゃ。ちゃんと整備してやらねばの」
 物言わぬ機体に微笑むと、龍影は空を見上げる。
 蒼く、高く澄んだ秋の空。
 無粋な雷は砕かれ、ただ風が穏やかに流れていた。