【大祭】鬼ごっこ阻止
マスター名:からた狐
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/11/30 22:48



■オープニング本文

 藤原保家の命により、兵士達は近くの廃村まで出向いた。
 下された指令は、開拓者たちが連れてくる少年を連行監禁する事。
 とはいえ、彼らにも詳しい理由はほとんど知らされてはいない。
 何故こんな小僧を?
 そんな疑問はあれど、実直に任務を果たそうとする忠義はあったのだが。 

 ‥‥どっど、っどっどどどどどどっどど
 
「だ、大もふ様!?」
 連行中に、何故か遭遇。やってくるのは、目にももふもふな大もふ様とそれに従うもふら達。ついでにそれを捕まえようと追っかけてる開拓者たち。
 そういえば、大もふ様が逃げたという話があったなーと誰かが告げる。

 さて、得体の知れない少年と大もふ様。
 一体、どちらが大切でしょう?

 答え:大もふ様

「お、お止まり下さい!!」
 彼らは大もふ様を止めようとした。しかし、何に気を取られているのか、大もふ様はそのまま通過する!
「もふーーーーーー!!」
「うぎゃー」
「げろげろ」
「うぎゃひゃひゃひゃ!」
 大もふさまを筆頭にもふら達や開拓者達や野次馬出歯亀なんでもござれ。
 気付けば数で押し切られ。もふもふの踏みくちゃな幸せそうな顔で兵たちは倒れていた。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。ま、これもいわゆる神の思し召しって奴だろ」
 残った兵士は自力で倒し。
 全てが去った現場を、酒天は呆れて見ていた。
 情勢は分からない。だが、混乱にあるのはどうやら向こうも似たり寄ったりと見た。
 ならば飛び込んで見定めるのもいいかと思ったが、兵を起こして捕まり直すのは癪に障る。
「ま、待て‥‥ぐぇ!」
 起き上がりかけた兵士の脳天に踵を落として沈黙させると、念の為にきっちり頭から踏みつける。
 ついでに武器も分捕る。安全確保と、売れば当座の資金繰り。
「祭りはどこだって休戦だよなー♪」
 身軽になると追う者はしばし無く。
 向かうは都。祭りの賑わい。


「馬鹿者――っ!!」
 ぼろぼろになって帰ってきた兵達の報告に、保家の叱責が飛んだ。
 当然だろう。後一歩のところで取り逃がすなど、何たる失態。
 気がついた時には、大もふ様はおらず、少年も逃げ出した後だった。
 ついでに、刀も盗まれて面目丸つぶれ。ちなみに近くの質屋に早々と売られていたのを回収済み。
「大もふ様も、大もふ様だ! 一体何をお考えか!?」
 きっと何も考えてません。
 皆の心は一致したが、声に出すほど馬鹿でもない。
「王朝の印の入った遺跡。解き放たれた災い。時を同じくして跋扈する鬼に、その王の名を名乗る者! これらが関係ないなどあるものか!」
 大もふ様の逃走先。そこにあったのは壊された封印。
 確かに時期的に怪しいものだが、封印と少年の関係も今一つ分からず。
 必死に対処される保家さまなら何か御存知の気もするが、単純に鬼だから怯えてるだけの気もする。
 どの道、面と向かって問う権利などありはしない。
「聞けば他にも鬼らしき者がうろついているというではないか!」
「はぁ‥‥。しかし、そちらは手がかりが掴めず」
 いらいらとしながら保家は部屋の中をうろつきまわる。
 単純に、鬼、と探しても何を指すのか。
 暴れていると聞き、駆けつければただのアヤカシ(それも十分怖いが)。その他、牛や羊の神威族だったり、単なる面を被った人だったり、酔客の仮装だったりと、祭りに浮かれて騒動も多い。
 だが、それを尋ねるのも憚られる。
「ならば、さっさとその小僧を捕まえるがいい! 災厄の名を名乗るなら、なおさら捨てては置けぬ! お前たちですぐに祭りを捜索。ここに連れてくるのだ! よいか、けして石鏡の連中に先を越されてはならぬぞ!」
「お待ち下さい。災いであるならば、共に協力し合い捕らえるのが筋では?」
 申し付かった言葉に、いささか兵は慌てる。
 しかし、保家はきっぱりと首を横に振った。
「ならぬ! 封印が解け、かような騒乱になったのも、祭りが正しく行われないからだ! 石鏡の連中に任せては、それを有耶無耶に処理してしまうやも知れぬ。鬼という証左を押さえ、突きつけ、必ずや正しき祭りに戻すよう示さねばならぬ!!」
「ははっ!!」
 どの道、怪しい鬼を野放しなどにしておけない。世の為にも真偽を明らかにしなければ。
 きつく言い付かり、兵たちは平伏すると、即座に行動に移る。
 その戸口で、一人の女とぶつかりかける。
「きゃ!」
「む? 女、何をしておる」
「はい。お茶をお持ちするよう申しつかりましたので」
 盆に載った茶道具一式。それを見て保家は納得して笑んだ。
「それはすまなんだ。そこに置いていくがよい」
 示された場所に道具を置くと、女は礼を取って退室。
 しばらくは静々とおしとやかに歩いていたが。

 やがて周囲に人がいないのを確かめるや、着物の裾をたくし上げて同僚の元へと走りこむ!!
「皆! 大変、大変! 大変よぉーーっ!」
 あんな大声で怒鳴り散らしていたのだ。大体の事情は分かる。
 つまり。祭りの危機なのだ!


 そして、ギルドに依頼が回る。
「藤原保家さま配下の兵士に鬼を捕まえさせては駄目! 何だかんだ言いがかりをつけて、祭りを昔の質素でつまらないモノにしてしまうつもりよ!」
「つまり酒天とやらを、さっさと取り押さえよと?」
 駆け込まれたギルドにて、受付は尋ね返す。
 が、相手はきっぱりと首を横に振った。
「取り押さえた所で、すぐ後からやってきたら掻っ攫いかねないわ。だからね、追い払って欲しいの」
「お、追い払う!?」
 あまりの提案に、受付は目を丸くするが、相手はかなり本気だ。
「そう。鬼がうろついているなんて恐ろしい話だけど、国王様たちならきっと対処してくださるわ。開拓者ギルドだって、力を貸してくれるのでしょう?」
 それについては素直に受付も頷く。
「だから、余計な手はいらないのよ。かといって藤原様をどうこうするのはさすがに無理。という訳で‥‥とりあえず、鬼が捕まるまでの間、あの兵士たちをなんとか遠ざけてしまえればいいの」
「しかし、王朝の手の者に喧嘩を売るなど‥‥下手をすればギルドそのものの存続にも関わりかねん」
「あら、喧嘩を売る必要は無いわ。彼らだって、鬼について詳しくないみたいだもの。適当な情報と誘導で辺境とかいっそ他国に捜索の目を向かわせるようにするのよ」
 あっけらかんと、相手は笑う。
 自分達で鬼を捕まえたい彼らなのだ。
 偽の情報であっても、それが偽と分かるまではきっと自分達で処理しようとするはずだと。
「あくまで鬼捜索をそれとなく妨害よ。それも実にさりげなく。わざとやってるなんて気がつかれては駄目。勿論、ギルドなんて関係ないってもんだし、石鏡が関与してるなんて事もまーったくないの。偶然よ、すべて偶然」
 いとも容易く言ってのけるが、それがどれだけ大変な事か。
 しかし。今の祭りの存続を期待しつつ、ギルドや国王たちに迷惑をかけないようにするには、それぐらいしか方法が無いか。


■参加者一覧
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
九法 慧介(ia2194
20歳・男・シ
菊池 志郎(ia5584
23歳・男・シ
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
无(ib1198
18歳・男・陰
常磐(ib3792
12歳・男・陰
紅雅(ib4326
27歳・男・巫
ルー(ib4431
19歳・女・志


■リプレイ本文

「酒天、逃げちゃったんだ?」
 柚乃(ia0638)の表情は実に複雑。伝えたい事はあったが、これが果たしていいのか悪いのか。
 しかも、逃げた原因が大もふ様というのが‥‥らしいというべきか、何とやら。
「鬼にも神さまの加護があるってことですかね」
 現場を想像して、无(ib1198)も苦笑する。
 ともあれ、事態は石鏡の中枢の耳にすら入り、さらに多くの開拓者たちが追う事となった。
 しかし、何故追うのか。理由を知る者は無い。
「酒天は、自分の事を『多分、敵』って言った。だから、王朝が追う何かの理由がある事は分かるけど‥‥」
 自身の折れた角にそれとなく触れ、ルー(ib4431)は考え込む。
 追われる理由を酒天自身はきっと心得ている。
 修羅と告げた彼と獣人たる自分の違い。それは一体何か。
「行動を共にしたのは短い間でしたが、悪い子には見えませんでした」
 菊池 志郎(ia5584)は『敵』という言葉に違和感を覚える。
 勿論、欺かれている可能性も否定しない。
「逃走時にも一人も殺害しなかったようです。このまま朝廷に捕らえさせてしまえば、彼の事が分からないまま終わってしまう」
「例え追われていても、敵である事に『多分』をつけてくれた酒天を追い回すようなことはしたくないから、ね」
 ルーや志郎を始め、概ね連行に関わった者は酒天寄りの意識がある。
 また、関わらずとも事態を良しとせぬ者もいる。
「角が生えているというだけで、問答無用で子供を追い回すなんて、いい大人のする事じゃありませんよねぇ」
 穏やかな紅雅(ib4326)だが、言葉の端が僅かにきつい。
 加えて、これを機に別の思惑も達成しようというなら、それこそたまったものじゃない。
「祭は楽しいのが一番さ」
 九法 慧介(ia2194)は祭りで溢れる都を見つめる。
 年々賑やかになる安須大祭。庶民も楽しめるいい祭りなのに、朝廷の御仁は昔の退屈な行事に戻したいらしい。
「お探しの酒天くんがどんな子かは知らないけど、祭が終わるまでは暫く見当違いの方向へ行ってもらうよー」
 今後の祭りの為には、朝廷側にだけは渡してはいけない。
 慧介は悪戯坊主のように含んだ笑みを見せる。
「で、この格好でいいのか?」
 耳と尻尾を隠し、常磐(ib3792)は自身の姿を確かめる。
 大丈夫、と返事は貰ったが、全身を隠す姿に耳と尻尾が収まらず窮屈そうにしている。
 しかし、全ては祭りの為!
 鈴木 透子(ia5664)とて依頼遂行の意志はある。が‥‥本当にいいのか困惑は隠せない。
「触法スレスレな気がします」
 スレスレと言うか、バレれば反逆罪ぐらい問われかねない。
 が、そこは祭りで浮かれた、悪気の無さなど、幾らでも弁が立つ。
 全ては開拓者たちの力量次第。


 現在、朝廷側から放たれた追っ手は志士十名が二人組みになって行動してるらしい。
 律儀に揃いの衣装でいるものだから、判別しやすい。
 その志士たちが、街中に集っていた集団に突撃する
「こらこらこらー! お前たち、そこで何をしているんだ!!」
「何って、物語りですよ。お面と布で頭と顔を隠した謎の集団が、悪者を退治する涙あり笑いありのお話を子供たちに聞かせていたんです」
 許可だってちゃんととってますよ、と紅雅は詰め寄られたまま告げる。
 元々、本も子供も好きだ。好奇心一杯の目で見つめられれば、話だって弾む。
 引き込まれて、観客も増える。紅雅の語りを楽しんでいた客たちは、大人も子供も関わらず、突然現れた無粋な客に眉を潜めている。気付いて、志士たちが慌てて身を正す。
「お話はいい。だが、このお面は一体!?」
 そう、志士たちが問題にしているのは、子供たちが被っているお面なのだ!
 酒天だって目立つ角は隠す筈。ならば、頭を隠している者を探せばいいのだが、その対象が増え続けていては虱潰しにも程がある。
「だって、安須大祭は大もふ様を祀っての物だった筈だよね? それにちなんだ記念品を配ってみました」
 当然、とルーは告げる。
「で、忙しそうだったし俺も手伝い」
 慧介も並ぶ子供たちに面を配る。
 我も我もと伸ばされる手に、渡す作業も結構大変。
 その中でも、ルーは体格の似た子には面を固定する際角を隠しているような姿に見えるよう細工する。
 かくて、そこら辺中頭をもふら面で隠した子が駆け回っている。
 探している他の開拓者にも紛らわしい話だろうが、人数が多い分、志士たちほど手間と思うまい。
「怪しいな。確かその顔、鬼と一緒にいただろう。まさか情けをかけるつもりで‥‥」
 怪しむ目でルーの顔を睨みつける。
「ああ、鬼をお探しでしたか。それは申し訳ありません。代わりにというのも変ですが、少々気になる話があって報告しようと思ってたんです」
 素直に頭を下げると、紅雅は仲間と示し合わせていた誤情報を伝える。
「何、門の方に?」
「はい。探している子かは分からないのですが‥‥、年恰好の似た少年が門の方に行くのを見ました」
 嘘は言ってないので、遠慮ない。
「あー、確かにそんな格好の子なら‥‥あっちに行くのを見たよ」
 頷いて、慧介も門の方向を示す。
 揃って言われると、気になるもので。
 志士たちは、一応、そこらにいた似た子供らを調べると、軽く礼を告げ、情報を確かめに言われた方へと向かいだす。
「誰か探してるの?」
「そうなの、祭りの中でよく食べる子供の話って聞かないかしら?」
 面配りを再開しながら、ルーはそれとなく酒天の情報を仕入れる。
「ねぇねぇ。話の続きまだー」
 一方紅雅は、中断された話にむくれる子供から手を引かれる。
「分かりました。どこまで話しましたっけ?」
 せがまれて、笑顔で紅雅は話を続ける。
 取り巻く人々は、穏やかに祭りを楽しんでいる。その中に鬼が混じっていたとて、共に楽しんでいるなら最高ではないか。


 志士たちを惑わす一方。間違ってうっかり酒天が逮捕されないよう、少年の居場所も把握する必要はあるが‥‥。
「こっちはなかなか難しいですね」
 无は人魂を隼や狐などに模し、周囲の話を探る。噂はやたら聞く。が、そのどれが本物にあたるのか。
 現時点では居場所を掴めていないと分かっただけマシか。
「‥‥まずいか?」
 人魂越しに気になる情報を得て、无は足早に動き出す。何やらやたら大酒飲みの少年の話を聞き、志士一組が確認に向かいかけていた。
 その話が酒天か分からないが、接触されてからでは遅い。
 人込みも巴でするりと躱しながら、志士たちに无は近付く。顔が割れてる恐れがあるので避けたかったが、仕方ない。
「何かお探しですか?」
 何気に声をかけると、相手は邪険にも出来ず足を止める。
「いや、警備でな」
「そうですか。実は少々妙な話を聞きまして、お耳に入れておこうかと思いまして‥‥」
 確かめに行きたい所だろうが、无の話も聞きたい様子。
 雑談もたっぷり交えながら、无は仲間とすり合わせた誤情報を伝える。
 鬼の少年に絡むとなれば、さらに無視も出来ず。志士たちは、ひとまず足止めされる。

 飲食店中心に回る志士たちを見つけ、志郎は声をかける。
「こんにちは。鬼に逃げられたとお聞きしましたが?」
 途端、嫌そうな顔をされた。失態を知られるのはやはり不名誉。
 それは志郎も心得ていて、同情を装って近付く。
「お役目お疲れ様です。俺でよろしければお手伝いを‥‥」
「いや、結構」
 命令と、自分たちの手で取り戻したいと自負と。
 志士たちは断ると、また捜索に向かおうとするが、
「ですね。それに酒天だって都の追っ手は分かっているでしょう。朝廷を恐れてきっと遠くへ逃げる筈ですよ」
 告げる志郎の言葉に、ぴたりと動きを止めた。
「何?」
「いえ。護送中、彼は泰料理を気に入って、理穴の旅泰街が有名という話を熱心に聞いていました。行き方も把握しているようでしたし、逃げるならきっとそちらに向かうでしょう」
 ふと志士たちが顔を見合わせる。ありえない話ではない。そもそも、逃げてる立場が祭りを楽しんでいる事が不思議なのだ。
「そうか、情報忝い」
 丁重に頭を下げると、志士たちは外周へと向かい出す。
 多少良心が咎めながらも、志郎はなおも動向を監視する。

 気合を入れて歩いても、苦手な人込み。どうしても周囲は気になる。
 気にしないようにしていると、どこか動きもぎこちない。
「おい、お前!」
「ひゃっ!!」
 いきなり肩を掴まれ、柚乃は身を竦ませる。振り返ると、志士たちが不審そうに見ていたのだが、
「‥‥すまん。人違いだ。驚かせてすまない」
 柚乃が男装していたせいで間違えられたらしい。後ろからでは角の有無も確認しづらい。
 角が無いと確認するや、相手は素直に謝ってくる。
「それよりどうしたんだ? 迷子なのか?」
 やけに親切に絡んでくる。
 そんな不安にさせるような歩き方だったのか? 密かに柚乃は反省する。
「いいえ。志士様たちこそ、何かをお探しのようですが‥‥、一体どうされましたか?」
 尋ね返すと、相手は曖昧な返答。
 下手に答えて関心をもたれても、彼らにはやりづらかろう。
 柚乃も適当に話を切り上げると、また歩き出そうとした。
 が、
「いや、待て。もしかして、酒の護送で奇妙な少年に絡まれたというのは御主の事か? ぜひ詳しい話を聞きたい」
 そんな柚乃をまじまじと見ていた志士が、ふと尋ねてくる。
 素性がばれたかと警戒したが、向こうもよく覚えてないのか。そこには触れない。
 代わりに尋ねられたのは、確かに柚乃が触れ回っていた話。
 広めた噂を志士たちが耳にしたなら、その大元から話を聞きたいと思うのも当然。
「実は地方から銘酒の護送で都へ来たんですけど。途中で奇妙な少年に大事なお酒を取られそうになって大変だったんです」
 わざと溜息。
 その言葉に、志士たちははっとする。
「‥‥で、その奇妙な少年とは?」
「身長はこれぐらいで、でも素性は隠していたのでよく分かりません。酒と煩いので、産地へ行けばたくさん呑めるといったらやけに関心を持ってましたよ」
 酒と少年を強調して告げる。彼の飲兵衛ぶりは知る所だ。
「ところで‥‥どこかであったかな?」
「多分、私の双子の姉では無いですか?」
 最後の最後で尋ねてきた志士に、柚乃は笑みで返す。
 志士は疑う様子無く、そうかとだけ告げると、話の裏を取りに走り出していた。
 その姿を見送った後で、柚乃は今度は本心の息を吐く。
「小さいごんべさんは今頃どこにいるのかな‥‥」
 小さい、は本人聞いたら怒りそうな。


「おい。この先に面白いモノや飲み物があるって聞いたが‥‥辺境への道はこっちか?」
 顔を面で隠し、頭を布で隠し。全身どこか窮屈そうに服を着ている少年に尋ねられて、門番は首を傾げた。
「辺境はこっちだよ。だが、祭りの方が飲み食い出来るぞ」
「いや、辺境でいいんだ。ありがとよ」
 礼を述べるや、少年は外に歩き出す。
 不審に見ていると、やがて少年は脱兎の如く離れていった。
 この奇妙な少年はさすがに記憶に残り。後で志士から尋ねられた時、そういえばと門番は素直に話した。

 都の周辺でこの不審な少年の目撃例が相次ぐ。
 となると、志士たちとて放ってはいない。的確に情報を追い、目標を捕らえたのはさすがというべきか。
「そこの少年、止まれ!!」
 素直に少年は止まった。その周囲を志士たち数名が物々しく取り囲む。
 何かあれば刀も抜きかねない勢い。
 少年が軽く舌打ち。その身に志士の一人が造作も無く手を伸ばす。
「うわっ! 何しやがる!!」
 頭の布と顔の面を一度に剥ぎ取る。その下に隠された姿は‥‥。
「み、耳!? 角は!?」
「何で猫に角があるんだよ!? 尻尾ならあるぞ!」
 乱暴な扱いに常磐は顔を真っ赤にし、黒い猫耳も大きく上下する。本当に本当に無礼だ。
 それは、志士たちの自信の表れでもあった。予想外の事態に大いに動揺している。
「な、何故! そんな紛らわしい格好を!」
「人も多かったから好奇心や興味で触られたりするのが嫌だったんだよ」
 触られる方の身にもなれ、と常磐が返す。
 実際、子供の無邪気な尾触り攻撃に神威人全体が嫌気さしているのはよく聞く話だ。
「だったら! 何故、こんな場所に!?」
「こっちに美味い酒や料理があるって聞いたから興味を引かれたんだ」
 これも当然と常磐が答える。否定する要素は無い。
「そうか‥‥。邪魔をした。悪かったな」
 全ての誤情報もこの為に。
 外にも目を向けるよう、噂をばら撒き常磐の変装で釣るのは上手くいった。
 しかし、とぼとぼと肩を下げて歩く志士たちは少々哀れに見えた。


 まだ都にいる可能性もある以上、全員が外に向かった訳では無い。
「あの、頭に角の生えた子を見ませんでしたか?」
 透子は残った志士の動向を重点的に監視。接触を図る。
「いや」
 志士たちの返答はつれない。そうだろう。鬼を探すなら、出し抜く相手だ。
「もしかして、貴方がたも鬼を探していませんか?」
 すばり聞くと、僅かばかり態度が強張る。やはりよく思ってない。
「宜しければ一緒に探しませんか。きっと大きな小隊の方々ですよね。一緒の方が助かります」
「申し訳ない。こちらも忙しいのでな」
 手を差し伸べてみるが、断られる。しかしそれも想定内。
「ご迷惑ですか。やっぱりお役人に協力をお願いしてます」
「ちょっと待て!」
 とぼとぼと去ろうとした透子を慌てて止める。
 彼らにしてみれば、開拓者に加えて石鏡の役人にまで騒がれるのは御免被りたい筈。
 止めたものの、透子と一緒ではやはり鬼探しは難しい。あれこれ考えて、苦し紛れに言葉を吐く。
「よし、では広く情報を集める為、手分けをせぬか。有用な話があれば教えて欲しい。こちらもなるべく努力はしよう」
 実に苦しい言い訳。だが、これが彼らの精一杯なのだろう。
(失敗ですか?)
 遠ざける訳でもなく、かといって懐に入れるでもなく。まぁ、接して情報を掴みやすくなった分マシという事か。
「ところで、あなたは何故鬼を探す?」
「陰陽師ですから」
 にこりと透子は告げる。
「こちらもいいですか? 何やらこの件に絡んで祭りの規模をどうこうしようと言う動きがあるようですが、それはどう思われます?」
 抱いていた素朴な疑問を、率直にぶつける。
「どうもこうも、我らは忠義に生きるだけだ」
 胸を張って、ただそれだけを告げた。


 朝廷側からの探索の目は少なく。その上で、都の外にまで注意するとなるとどうしても手が回らない。
「これで彼も少しの間は楽しめるかなぁ」
 さすがにこれ以上は手を尽くし難く。无は酒を嗜みながら、事の次第を見守る。
「全く人気者は辛いね」
 盃に酒を注ぐと、横合いからひょいとそれを取られる。
 年若い少年の手と聞き覚えのある声。はっとして振り返るも、そこはすでに雑踏ばかり。
 ただ、无の手に空になった盃だけが返されていた。