屍の群れ
マスター名:からた狐
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/12/25 22:07



■オープニング本文

 村に熊が入り込んだ。
 腹が減ってるのか食料を漁っていたのが見つかり、人に驚いて攻撃に転じた所で村の衆がこぞって仕留めた。
 誰も怪我が無い内にしとめられたのはよかった。巨大な熊は冬の食料としては申し分ないし、毛皮も売れる。
 問題は‥‥。
「どうなってるんだ? これでもう二体目か?」
 血抜きに吊るされた熊の隣にもう一頭。別の熊が並んでいる。
 いや、熊だけでなく。猿や猪なども村の近辺で多く見つかっている。
 勿論冬になる時期、食料を狙って村に来る動物は少なくない。
 が、例年に比べてもちょっと数が多い気がする。
「山で何か起きてるのかもしれん」
 だとすると、この先も何かが村に入ってくる可能性がある。
 その都度食料を荒らされるようでは、村の方でもたまったものでは無い。
「今の内に、少し調査しておくべさ」
 誰かが言い出した事に、反対する者はおらず。若い者中心にして、山を調べる事になった。

 そして、開拓者ギルドに村人達が駆け込む。
「山の奥に、動く死体がたくさん‥‥!!!」
「落ち着け。すまないが順をおって説明してくれ」
 青い顔で口々にわめく彼らを、ギルドの受付はどうにか並べる。
 怯えきった表情の村人達は、恐怖を告げていた。
「村にやたら野の動物が来るんで変だと思ったんだ。それで、調べに入ったら、大量の動物に出くわした」
「熊とか兎とか狐とか猪とか狼とか猿とか。ありえねぇんだ、餌がそこにあって争いもしないだなんて」
「それで、よくよく見たら、そいつら全部死んでたんだ!!」
 むき出しの骨に、干からびた肉体。まだ新しいのか中身を引きずって飛び回るのもいた。
 毛皮に包まれ、実際の傷がどんなものか分からない。だが、どれもこれも白濁した目で周囲を見ていた。
 係員が深く渋顔を作る。
「屍人とか屍狼とか。死体に瘴気が入り込んでアヤカシと化す。その動物らもアヤカシ化したか‥‥」
 原理自体は同じ。別に瘴気はえり好みしてアヤカシ化する訳でもない。
「どんだけいたか分からない。見つかって、慌てて逃げて、どうにか村まで」
 その足でギルドまで知らせに来たという。
 山に屍がうろついているので、動物たちも村まで逃げてきていたのだろう。
「頼む。あの屍たちを早いところどうにかしてくれないか?」
 震える村人達に、ギルドは即決する。
 村まで逃げてきた動物、そして人間たち。それらを追って屍たちもまた村の近くまで来ている可能性は十分あった。


■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067
17歳・女・巫
風雅 哲心(ia0135
22歳・男・魔
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
橘 天花(ia1196
15歳・女・巫
空(ia1704
33歳・男・砂
朝比奈 狼樹(ib0238
20歳・男・サ
朽葉・生(ib2229
19歳・女・魔
御調 昴(ib5479
16歳・男・砂


■リプレイ本文

「これより屍アヤカシと化した動物達の殲滅に向かいます。‥‥が、すみません。活性化しそこねたようです」
 落ち込む朽葉・生(ib2229)が素直に頭を下げる。
 活性化させるには時間もかかる。出発してからでは間に合わない。
 ただ、技の有無が成否を動かす事もあるが、幸い今回の相手はそれ程難しい相手ではない。
 問題は、数が多い上に総数が不明である事ぐらいか。
「随分と妙な現象もあったもんだな。まぁ、アヤカシがのさばってるならすべて倒すまでだ」
「アヤカシがそんなに沢山‥‥。大変です! 急いで確実に討伐してしまいしょう」
 ぶっきらぼうに風雅 哲心(ia0135)が告げる。
 橘 天花(ia1196)も当然と頷くが、ふとその顔が曇る。
「でも、これ程のアヤカシが何故?」
 アヤカシの横行は尽きない。が、纏まった数が出没するとなれば気にかかる。
 もし、原因となる何かがあるのなら、それを排除せねば堂々巡りだ。
 その危惧を覚えるのは何も天花だけでは無い。
 考える柚乃(ia0638)に、柊沢 霞澄(ia0067)も不安そうにしている。
「‥‥誰かの仕業なの? 何が起きてるの? 出どころはどこなんだろう‥‥気になるよね」
「自然発生というにはあまりにも数が多い気がします‥‥。たまたまなのか、何か原因があるのか‥‥」
 だが、今ここで悩んでも仕方が無い。
 見極める為にも、目撃された群をどうにかしなければ。
「屍に憑くアヤカシがいるっていうのは、人伝に聞いて知ってましたけど‥‥。アヤカシだから倒さなきゃ、分かってます。‥‥。既に傷を負って死んだ動物達に、また攻撃しなきゃいけないんですね」
 憂いに沈む御調 昴(ib5479)。
 対称的に、空(ia1704)は軽く笑い飛ばす。
「死体の群なァ。ッヒヒ、殺る側が殺られる側になったって訳だ。ま、畜生なんぞ人がどうこう出来ないなら邪魔なだけだな。被害が無駄に広がってヒトの餌ァ、無くなっても困るし蹴散らかしに行きますか」
 対象を如何様に思えど、為すべき事は一つ。
 不自然な命は元へと還す。


 現場に赴く前に。
 一旦依頼者たちの村に立ち寄ると、天花は情報を聞きまわる。
「アヤカシのいる山について、教えていただけませんか? 大まかな地形や、多数を相手に立ち回れそうな拓けた場所の心当たりなど、あればお願いします」
 見知らぬ地であれば、地の利を付ける事も必要に鳴る。
 その情報を元に事が治められそうな地点を見つけると、開拓者たちは三手に分かれた。
「そいじゃまぁ、イクとしようかい」
 まずは一班。
 笑みを浮かべて、空は率先して動き出す。
 共に行くのは生と哲心。そして、霞澄が瘴索結界でアヤカシを探す。
 まずは村人たちが見たと現場まで急ぐ。周囲に気を配りながらも進んでいた彼らだが、辿りつく前に霞澄が生の袖を掴んだ。
「この先に‥‥います」
 端的な一言は、緊張している。
 瘴索結界の範囲を考慮しても、現場にはまだ遠い。やはりアヤカシたちは村に引き寄せられていたようだ。
「どんな様子だ?」
「報告の通り‥‥数が多いです‥‥。いろんなモノが、あちこちで蠢いています‥‥」
 霞澄は青褪めて身を震わせる。
 空は歓喜に身を震わせる。
「ヒヒ。じゃあ、相手してもらいやすいよう、もう少し集まってもらおうか」
 シノビの間合いで、空はアヤカシたちへと迫った。
 示された方角へと抜ければ、様々な動物たちがお出迎え。
 鹿に猪、兎に狐。
 動物好きなら驚喜しそうな光景だが、如何せん、その目に光は全く無い。目の光どころか、首やら腹やら色々無いモノまでいる。
 屍。
 その白く濁った目が、一斉に突然現れた闖入者へと向けられる。
「まずは一体!」
 アヤカシが動き出す前に、空は手近にいた熊に斬り付けた。
 さっと皮や肉が裂けたが、痛みなど最早気にせず、熊は空へ鋭い爪を向ける。
 飛び退いて交わす。他の三人がいる所にまで戻ると、周囲はすっかり屍たちで囲まれていた。
「他の組はまだですか? 逃げられないよう、注意を向けておかないといけませんね」
 生は屍たちに構えは取るものの、あくまで受けに徹する構え。
 下手に手を出せば逃げられる。空っぽになった脳だというのに、その程度の融通は効くらしい。
「回復はします‥‥。でも‥‥、皆さん無茶はしないで下さい‥‥」
 周囲のアヤカシの気配は強くなる。果たして首魁のようなモノが潜んでいるのか。分布状況や数と共に、霞澄は気配を調べる。
 牽制のにらみ合いに痺れを切らし、屍の一端が崩れて押し寄せてくる。
 大小さまざまな動物がいるが、能力自体は生前のそれと変わらない。数で押し切られぬよう注意しながら、それぞれの動きを見極め、躱し、時に蹴散らす。
 逃げると見せかけ移動。自分たちを餌として、屍たちを集める。
 足元にするりと屍蛇がまきつく。足を取られた隙に、機敏に駆け上ってきた屍栗鼠を払いのける。
 小さな屍が地上を転がる。
 と、突然、轟音が響いた。同時に、屍栗鼠の身が爆ぜる。
 追いすがっていた屍の集団。その一角が乱れた。
 引き寄せる囮の開拓者たちと追いすがる屍集団を回りこみ。姿を見せたのは、短銃「ピースメーカー」を構える昴と、木刀を前に術を行使する天花。
「配置つきました‥‥。いつでもどうぞ」
「瘴索結界は十分。この周辺のアヤカシは彼らで全てですね。絶対に逃がしません!」
 昴が銃口を屍たちに向け、天花が屍たちを見渡す。
 そして、屍たちを挟んで反対側では。朝比奈 狼樹(ib0238)がスピアをしっかりと屍たちに向け、柚乃がその後方で身構えている。
「ここからは逃がさねぇ」
「‥‥退路は、ないです」
 挑むように睨む狼樹と、悲しげにしながらも意志を込めて柚乃が立ち塞がっている。
「殲滅開始。狩りの時間だ、精々抵抗してくれや!」
 そして、四人が動き出す。受け・逃げに徹していた消極的な態度から積極的な攻めへと。
 動き出した屍に空は手裏剣「鶴」を投げる。
「一体たりとも逃すか!」
 刀「鬼神丸」に白梅香を乗せて、哲心は振るう。
 芳しき梅の香は、刃に触れた屍を次々と浄化せしめる。
「小さな屍なら、纏めて一掃できそうだったんですけどねぇ‥‥」
 今の自分に出来うる支援を行う生。当初の予定と違い、いささか手間取るもそこは開拓者、すぐに場に対応した動きを見せる。
 纏めては無理でも少しでも負担を減らすよう。フロストクィーンをかざし、周囲の屍たちを散らす。
 そんな彼らを怪我の無いよう見守っていた霞澄。
「ブモウ!」
 目掛けて、鼻息荒く屍猪が突進してくる。その牙は死した後もなお鋭い。
「しゃらくせぇ!」
 空が刀を抜いて間合いを詰めると、止めとばかりに急所に刺す。
 すでに死した屍から血は無い。流れ出るのは瘴気。
「精霊さん、力を貸して‥‥!」
 十分な祈りを捧げると、霞澄は精霊砲を放つ。真っ向から受けた屍猪は、その頭が吹き飛ばされる。
 今まで追い詰めていた相手の突然の反撃に、屍たちも混乱する。
 止まらず次々と仲間を屠られていくと、危ないと感じた屍たちが場を離れ出す。
「‥‥誰が逃げてイイッつたァ?!」
 容赦無い空からの手裏剣。が、その刃を潜り抜けて去ろうとする屍もまた少なくない。
「抜かせない! 数で来たからと押し通せると思うな!!」
 スピアのリーチを生かし、狼樹は広く大きく振るう。刃で仕留められずとも、長い柄で投げ飛ばされ、屍たちは押し返される。
 万一潜り抜けたとしても、そんな敵には柚乃が白霊弾。
「大丈夫‥‥ですか? 回復が必要なら、閃癒します」
「気にするな。それより、小物は頼む」
 心配する柚乃に、振り返らず狼樹は頭上から振り落ちる屍猿を打ち倒す。
 巫女たちは瘴索結界を使用している。木の影に隠れ、葉の裏に潜もうと居場所は知れる。
「この!」
 屍を挟んだ反対側では、天花が木刀で屍の群を蹴散らしている。
 短銃は放てば充填が必要になる。そのわずかな間にも次の屍は押し寄せてくる。天花の手は休まらない。
「チャンバラ遊び程度なら、わたくしもよくしました。小さい相手なら何とか!」
 瘴気を祓うという神威の木刀を振り回す。
 しかし、そちらに必死になっていると、その屍の群を越えて、屍狼が牙を剥いて来る。
 さすがに天花は息を呑んだ。が、目前で轟音と共に屍狼が撃たれる。
「大丈夫ですか!?」
 確認しながらも、昴は手早く充填と発砲を繰り返す。
 頷きながらも、天花はまだ動こうとしていた屍狼に浄炎を仕掛ける。
「手前ぇなんぞに、手間取っていられるかよ。こいつで決めてやる。星竜の牙、その身に刻め!」
 秋水。梅の香のする刃を神速に走らせれば、大熊の胴がざっくりと裂ける。
 どう、と倒れる熊の背後から、身軽に背を蹴り屍兎が飛び出す。
「まだ、いるのか!? 一体どれだけいるんだ!?」
 掃っても掃っても、引っ切り無しに動物たちが蠢く。
 歯を食いしばると、狼樹は動物たちを押し返し、飛び越えようとするものを刺し貫く。


 数が減ってくると、巫女たちの指示の元に隠れてる者を追う。
「こちら、反応なしです」
「こちらも‥‥」
「大丈夫なようです」
 つぶさに周囲を調べ上げ、瘴索結界に触れるモノが無い事を確認し合うと、巫女たちは顔を見合わせる。
「これで全部か。さすがにもう残ってないよな」
 一体どれだけの数がいたのか。途中から作業のように殲滅を繰り返していた哲心は、ほっと息をつく。
 取り付かれていた屍は瘴気から開放されるも、戦場に踏み散らかされ、惨い有様。その肉片を霞澄は丁寧に集める。
「清めておかないと、また迷ってくるかもしれません」
 埋めるにも灰にするにも手がかかりすぎる。それでも時間の許す限り、綺麗に整え、供養する。
 柚乃は、安らかに眠れるよう、祈りを込めて弔いの笛を吹く。
「原因となるような事象やアヤカシの存在は見られませんでした。でも‥‥自然発生でこうなったのなら、嫌なものですね」
 天花がそっと目を伏せる。
 それはいつかどこかでまた起こる可能性があるという事だった。