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■オープニング本文 ●クリスマス ジルベリア由来のこの祭りは冬至の季節に行われ、元々は神教会が主体の精霊へ祈りを奉げる祭りだった。 とはいえ、そんなお祭りも今では様変わりし、神教会の信者以外も広く関わるもっと大衆的な祭典となっている。 何でも「さんたくろうす」なる老人が良い子のところにお土産を持ってきてくれるであるとか、何故か恋人と過ごすものと相場が決まっているだとか‥‥今となってはその理由も定かではない。 それでも、小さな子供たちにとっては、クリスマスもサンタクロースの存在も既に当たり前のものだ。 薄暗がりの中、暖炉にはちろちろと炎が燃えている。 円卓を囲んだ数名の人影が、深刻な面持ちで顔を見合わせていた。 「‥‥やはり限界だな」 「今年は特に人手不足だ、止むを得まい」 暖炉を背にした白髪の老人が、大きく頷いた。 ● そして、新年間近な天儀の中で。 二人の乙女が少々困る。 「拾ったもふー」 ずるずると、赤と白の物体を引きずってもふらさま登場。 「もふらさまー。道端にあるもの持ってきちゃダメだよぉ〜。元の場所に戻してきなさ〜い」 「NOoooー!! そんな無慈悲な‥‥」 めっ、と珍しく怖い顔するミツコに、赤と白の物体が弱々しく動いて懇願する。 「っていうか‥‥。人、よね? サンタさん、よね? それが何で道端に落ちてるのよ」 赤と白の物体は、人の姿をしている。特徴的な衣装に、白髪白髭のジルベリア風の老人はどう見てもサンタ。 多少汚れているのは、道で倒れてた上にもふらに引きずられたからか。 尋ねるハツコに、サンタが息を吐く。 「実は、子供たちにプレゼントを配るべく移動の途中でしたが。今年は、不調の仲間が多くどうにも手が足りない忙しさ。少しでも多くの子供たちに幸せを届けようとがんばっていたら、うっかりトナカイから落ちてしまいまして」 髭でよく分からないが、確かに疲れている様子。 「お爺ちゃんなんだから、無理しちゃダメだよ。みーちゃんたちに、手伝える事ある?」 心配しているミツコを、ハツコがぎょっとした表情で見る。 「どうしたミツコ。何かすごい乗り気みたいだけど!?」 「だってサンタさんに親切にしたら、プレゼントいっぱいくれそうだよね?」 「あ、そういう事」 そんな事は気付いてないサンタはほっとしたように、お願いを申し出る。 「もし差し支えなければ配達を手伝って欲しいのです。こちらにあるお菓子をこの地域の子供たちに配る途中だったのですよ」 差し出されたのは大きな袋。中には小さなツリーとクッキーや飴が小袋に分けられラッピングされていた。 「あ、美味しい」 「あんたが食べてどうする」 「試食もふー。味が分からない物をあげられないもふ」 幸せそうに袋を開けるミツコともふらさま。二つ目に手を出そうとして、さすがにハツコの拳が落ちたが。 「食べた子供の願いが叶うようにと作られたものです。どうか多くのよい子供たちに届くようお願いします」 サンタが丁寧に頭を下げる。 「お願いかー。みーちゃんはー、新しい牧場ともふらさま百八頭欲しいなー」 「もふはごろごろする時間が欲しいもふ」 喜ぶミツコともふらに、サンタは申し訳なさそうな顔をする。 「すみません。サンタは子供限定なので‥‥」 「とすると、靴下一杯の現金も無理か」 小さく舌打ちするハツコ。どう見ても、その靴下は寝袋サイズ。 人選間違えたかと、サンタが不安そうにしている。 「大丈夫よ。困っている人を助けておくと後で見返りがあるってうちの婆様が言ってたわ」 「頼まれた以上は全力でやるよ! みーちゃんがんばるよー!」 「「だから、このお菓子もちょっと分けてねー♪ 沢山食べたら効果もあるよねー♪」」 「もふ」 そんなサンタの手をがっしり握り、なんか無理やり大袋一つ報酬としてもらいうける。 サンタは弱っていたものの、他に手は無いのか。大事な荷物を二人に託す。 ● 「そして、サンタさんは探しに来たトナカイのるどるふと共に次の営業に回っていきましたとさ。めでたしめでたし」 揃って、サンタ衣装を着込み、開拓者ギルドに現れた二人。 ざっと事情を説明する。 「でまぁ、サンタに代わってこのプレゼントを配る事になったけど、結構量があるのよね。だから、この際開拓者達にも手伝ってもらおうと思って」 ハツコが示したのは、大袋五つ。トナカイに扮したもふら隊が荷車で引っ張ってる辺り結構な重さなのだろう。 開拓者ギルドの受付が中を覗いたところ、軽く百人以上には配れるのではないだろうか。たいした数だ。 だが、受付にしてみれば少々不安がある。 「そのサンタって何者なんだ? サンタのふりした犯罪者とかだったら洒落にならんぞ」 「大丈夫だよ! トナカイが一緒だったんだもん!」 顔を顰める受付に、ミツコが力説。それをハツコが横から引っ込める。 「慈善活動をしてるって言ってわよ。念の為、中身は調べたけど、ちゃんと普通のお菓子にツリーばっかりだし、喋ってても怪しい感じはしなかったわ。それに他の場所での活動が終わったら、様子を見にまた来るって言ってたから、何か問題あるようならその時捕まえればいいじゃない」 本当に慈善家の活動だとしたら疑うのもよくない。 そう納得して受付も了承する。 「それで。子供たちに配るというが、どうやって配るんだ?」 街頭で配るにしても、量が多い。噂を聞いた子供たちが押しかけると、たちまち混雑して混乱状態になりかねない。 が、二人の考えはさらにとんでもないものだった。 「それなんだけど。サンタはよい子たちに幸せを届けようとしてたわ。だから、悪い子に届けるのは言語道断! 絶対駄目! だから、与える子供がよいこか悪い子か見極めないとダメね!」 「でもー、身辺調査する時間なんて無いしー、子供たち自身に白状しか無いよねー? 普通に聞いても悪い子は嘘つくからー、鬼の面を被って『悪い子はいないかー』と尋ねて回るのがいいと、みーちゃんは思いました」 「悪い子も泣いて謝って新年を迎えるなら、きっといい子になるもふ」 力説する二人ともふらたちに、受付は机に突っ伏す。 「それじゃなまはげだろうがああああ!」 「大丈夫! なまはげだって伝統行事だよ!」 鬼サンタが徘徊するクリスマス。大丈夫なのか子供たち。 |
■参加者一覧
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
ペケ(ia5365)
18歳・女・シ
村雨 紫狼(ia9073)
27歳・男・サ
白鵺(ia9212)
19歳・女・巫
リーディア(ia9818)
21歳・女・巫
エルディン・バウアー(ib0066)
28歳・男・魔
紅雅(ib4326)
27歳・男・巫
御調 昴(ib5479)
16歳・男・砂 |
■リプレイ本文 「ジンヴォーベージンヴォーベー! ジンヴォー何とかヴェーーー!! んじゃ、『第一回! チキチキ!! サンタになってお菓子を配ろう大会』なーう!!」 「「「おー!」」」 冬の寒さもどこへやら。村雨 紫狼(ia9073)が熱く叫ぶと、依頼者たちがもふらと一緒に両手を振りかざす。 クリスマス。 村に届けるプレゼントの為に、開拓者たちはサンタ衣装に。 荷物運びのもふらたちには、トナカイの角帽子まで用意され、雰囲気はいい。 さらに依頼者の二人に至っては、目にもいかつい鬼の面を被り、体格が大きく見える蓑を被り、手には大きな包丁(偽物)が一振り! ‥‥ここまでくると何かが違う。 よい子かどうか脅して聞きまわるらしいが、明らかにクリスマスっぽくない。 「うーん、子どもはみんなよい子ですよね? それに誰もが良い部分と悪い部分を併せ持ってますよ。信じましょう、良い部分の方が強いって」 「聖夜の贈り物‥‥。この時だけはよい子も悪い子も皆同じだよ‥‥ね?」 ペケ(ia5365)が和やかに告げると、柚乃(ia0638)も微妙に首を傾げる。 途端、二人が凄い勢いで迫ってきた。 「甘い! 子供の無邪気を甘く見るな! 何かしても『自分は悪くないんです』って顔してやりすごすんだから!」 「大人の顔色覗ってごますったりー、腕力勝負で弱い子を脅したりー、お財布からお金抜いたりー」 鼻先すれすれまでに二人が顔を寄せて力説してくる。 鬼の面はともかく、その気迫が怖い。 しかし、誰もなまはげを止めろとは言い出さない。全員が生暖かい目で見守ると決めていた。 さすが開拓者。心が広い。 「そんな事より、何で女の子たちがミニスカエロサンタコスじゃネー訳!? 分かってねえよ紅白不法侵入じじーー!! ミニスカサンタコスに白ニーソ!! これが世界のJYOUSIKIだろーがああ!!!」 依頼者の気迫にドン引きしていた空気を、紫狼が叩き壊す。 「だって、女の子は足腰冷やしちゃ駄目ってもふらさまも言ってるもーん」 「もふ」 拳振り上げ力説するも、すぱっとミツコが言い切る。 さらに防寒の為、開拓者たちもサンタ衣装から更に着込んでいたりする。可愛いとは少々遠い。 「スカートがいい人は一応用意してるわよ。男性分も!」 「‥‥最後マテ」 自信を持ってハツコが取り出したスカートは、確かに一般女性が着るには腰回りが大きそう。 「あるだけ持ってきたけど、足りるかな?」 荷運びのもふらたちに、ブレスレット・ベルを柚乃は括りつける。 もふらが動くたびに、軽やかな鈴の音が響く。‥‥おかげでプレゼントをつまみ食いしようとしても、動きが察知しやすくなった。 さらに自身の八曜丸には首に赤いスカーフも巻いてあげる。 荷物は大袋でも五つと大量。手分けして配った方が早いと、橇に見立てた荷車に分けて積む。 「もふリルさんは、とりあえず柚乃さんを手伝ってあげてくださいね」 「分かったー。また後でー」 リーディア(ia9818)が告げると、薄黄色のもふらは大きく頷く。こちらも柚乃からベルをつけてもらい、楽しそうに鳴らしている。 「じゃあ他のもふらさま呼ぶ?」 引き手の無くなった荷車を見て、ミツコが尋ねる。プレゼントは結構重く、これを曳くとなると結構な重労働なのだが‥‥。 「大丈夫ですよ。これは私たちがやりますから。よい子たちに贈る為です」 エルディン・バウアー(ib0066)が、にこやかに告げと荷車をひく。 即座、その顔が少々強張る。 「重っ! まるで苦難を背負う救いの御子のような‥‥ああ、なんでもないです」 心配そうに見るリーディアに、エルディンは表情を繕う。 「何歳になっても、贈り物と褒め言葉は嬉しいものですね。では、こちらも参りましょうか」 「「ぉお! 悪い子はいねぇか〜!」」 紅雅(ib4326)が告げると、依頼者二人、包丁振り回し街を行く。‥‥ただの危ない人のようだ。 「おし、後は生暖かく見守るか!」 「それでは大騒ぎになりますよ。適当に補助は必要ですね‥‥」 動き出したナマハゲーズを楽しそうに見る紫狼。 紅雅はそっと頭を押さえて二人の後を追う。 ● 袋一つ分けてもらうと、ペケは適当な場所で配り出す。 貰った子供らから話を聞きつけた子供らが群がり、続々と人が集まり出す。 「可愛い姉ちゃん、俺にもくれや」 「はいどうぞ」 大きいお友達も気に止めず。妙にやに下がった相手にも笑顔で対応するペケではあったが、 「「じゃ、無いでしょー!!」」 鬼の面つけた二人組による素晴らしい飛び蹴りが披露されると、目の前の大きいお友達は真横にすっ飛んでった。 「サンタさんのプレゼントは子供たちの物なんだから、大きい子は駄目だよー」 「そうそう。人の良さに付けこみ割り込もうとは、万死に値する!」 「ひいい、ごめんなさいいいいいー」 いきなり攻撃された大きいお友達は、這うように逃げていく。 突然の事態に、驚いた子供たちが周囲で怯えているのだが、二人とも、そこには触れない。 「ふふふ、あれこそが悪い子の成れの果て! その芽を摘むべく、他の面々の所へも見回りに行くよ!」 「うん。サンタさんからの大切なプレゼントだもんね。もふらさまもごー」 「もふー」 「「という訳で、悪い子はサンタさんからのプレゼントなしだからね! ここにはもういないでしょうね!!!?」」 ぐるりと見渡すと、慌しく去っていく鬼たちともふらさま。 「もう大丈夫ですよ。悪い事も素直に謝ってしまえば、鬼さんはもう来ませんから」 「うう、ごめんなさーい」 泣き喚く子供らを宥めながら、紅雅は一応素直に謝ったり、今の事態から他の子を守っていたような子からプレゼントを渡してまわる。 「とは言え、俺たちだって善人かって聞かれちゃ困るさ。ガキは基本、みんなよい子だって。細かいとこは目ェ瞑ったって、例の紅白不法侵入じじーも何も言わねーさ」 「だよねー」 二人の騒動を面白く見守っていた紫狼。 ペケも軽く肩を竦めると、プレゼント配りを再開する。 ● 「変わった依頼を受けてしまったものです、が‥‥。子供は嫌いではありませんし、悪くはありませんか」 悪いのは依頼者の態度ぐらいか。 白鵺(ia9212)は肩を落としかけたが、気を取り直す。 「家族や大切な人と過ごすお祭と聞いてますけど、子供たちに贈り物とかこういう賑やかなのもいい、ですよね」 そんな白鵺を見つめると、御調 昴(ib5479)はそっと微笑む。 重い荷物を曳いた昴はうっすら汗を滲ませている。息も上がりがちだが、それは悟られぬよう押し殺す。 都市部に行くほど、私塾や寺子屋といった学び舎も増える。 周囲が行くなら一応と通わせる家庭も多い。 勿論家の手伝いとか面倒がっていかない子とて多いが、それはこの際さておいて。 共感したのかプレゼントに釣られたかは分からないが、昴たちと共に多くの子供たちが寺子屋に集まった。 「それでは、普段お世話になっている寺子屋へ、年越し前の大掃除をしましょう」 「「「「はーい」」」」 掃除の許可は得ている。学び舎は綺麗になるし、子供たちの善行も分かるし一石二鳥だ。 真面目にはたきや雑巾がけを行う子も居れば、すぐに飽きて遊び出す子もいる。 「ふざけてると、いつまでたっても終わらないですよー」 時に窘めながら。どの子がどんな行動を取っているか。昴はきちんと把握しておく。 隅に置かれた大袋。 中身がやっぱり気になるようで、目を盗んで近付く子供もいるが。 「それは後で皆に配りますからね。まだ駄目ですよ」 「ごめんなさい」 白鵺に見つかり、子供はしゅんと頭を下げる。 「約束守らないのは悪い子だからねー」 「ひいいいいいい!」 その背後から包丁が突きつけられる。驚いて振り返ると、そこには鬼の面。 悲鳴を上げて子供は白鵺の後ろに隠れる。 「あの‥‥どうされたんですか?」 震える子供を庇いながら、白鵺が突然やって来た依頼者に問いかける。 「悪い子探して、見回り中ー」 「ふふふ。悪い子はいないわよねぇえええ!」 鬼の面が周囲を見渡すと、様子を見に来た子たちが慌てて柱の影に隠れる。 「うわあああん。あっち行けよー!」 掃除道具というのもなかなかの武器。中には泣きながらも柄を振り回したり水を撒いたりする子もいる。 「いやああん。汚れる濡れるー」 「はいはい。皆で一杯叩くと鬼さんも可哀想ですよ。お菓子をくれるそうですから、もう許してあげましょうね」 追い払おうとする子供たちと、逃げ回る鬼との間に宥め役の紅雅が割って入る。 「悪い子にはあげないよ!」 「大丈夫。皆さん、きちんと掃除もしていい子です」 翼を若干震わせながら、昴が答える。子供たちも全力で頷く。 「怪しいけど‥‥まぁいいや。次行こう」 「おー」 腕を振り上げると、依頼者二人が出て行く。 補助役二人も見送ると、昴と白鵺はどちらからともなく顔を見合わせ苦笑する。 「じゃあ、ここの掃除が終わったらお菓子を配りますからね。取り合いとかしなくても、皆の分ありますから安心して下さい」 「「「「はーい」」」」 鬼の出現は堪えたようで。それからは大人しく掃除に勤しんだ子供たち。 そんな一人一人の頑張りを褒めながらプレゼントを配り終えると、次の寺子屋へと足を運ぶ。 ● 「広場で合唱をやります。プレゼントもありますので、よい子の皆様はどうぞ」 サンタ衣装でもふら二頭を従えて、柚乃はまずは街中で宣伝。 「サンタさんだー」 「プレゼントちょうだい」 「まだですよ。待ってる間、温かい飲み物でもどうぞ」 場所を決めると、ついて来てくれた人たちに飲み物も振舞う。 広場には子供だけではない。話を聞きつけた大人たちも見学にと集まってきていた。 そんな中、重そうに荷車を引く二人組も。エルディンとリーディアである。 防寒具で身を包んでいるので、さらに動きが辛そうに見える。 だが、それは見かけだけ。 ばれない動きで、荷物を引っくり返す。途端、積んであったたくさんのぬいぐるみがあちこちに散らばる。 「あらあら、大変です」 わざとらしく見えないよう、慌てて二人が拾い出す。 周囲の者たちはそんな演技には気付かず。大人も子供も構わず、転がった荷物を手伝って集める。 「えらい! 困ってる人を助けようとする態度。まさしくよい子ね!」 「可愛いぬいぐるみを懐に入れずにきちんと返すのって難しいよねー」 「‥‥普通は返すもふ」 現れたのは依頼者二人。しきりに感心し、もふらさまは呆れてるだけなのだが。 「鬼が出たーっ!!」 異様な格好に驚いて、やっぱり子供たちは騒ぎ出す。さすがに大人たちは作り物と分かるので、時期違いを呆れてはいるが黙って見守っている。 「ここに悪い子はいるかしらー。さっさと薄情おしー!」 奇声をあげると鬼たちは広場に突入。子供たちを追い掛け回す。 「賑やかになってきたなぁ。よっしゃ、俺も便乗するかー。よい子はいねーかぁ。よい子はいねぇーかぁあ!?」 紫狼も負けじと声を張る。咆哮での雄叫びは周囲が敵じゃないので微妙だが、逃げ惑う子達は聞きつけ助けを求めて群がってくる。集まった子達にはプレゼント。 そして、柚乃にとっても初なまはげ。唖然呆然と見ていたが、 「なまはげに取り憑かれた二人を救えるのは、ここにいる皆の歌だけなの。だから皆で歌おう?」 はっと我にかえり、子供たちを集める。 用意しておいた歌詞カードを渡し、泣いてる子達は慰める。 「さんはい。♪ジングルベール ♪ジングルベール」 指揮を取ると、子供たちは泣きながら揃って歌い出す。 「‥‥歌ってる所騒いじゃ駄目よね?」 「うん。ここはだいじょぶそーだし、もっとたくさんの子達に配らなきゃねー」 鬼二人。面つき合わせると、もふら引きつれよい子探しに出かける。 「‥‥、‥‥本当に退散したね」 喜ぶ子供たちに囲まれながら、柚乃は鬼たちに小さく手を振った。 「なんか大変な事になりましたけど。先程拾うのを手伝ってくれたよいこの方たちには感謝を込めて」 エルディンとリーディアは防寒具を脱ぐと、サンタ衣装で登場。 先程、荷物拾いを手伝ってくれた子の顔はバッチリ覚えている。そんな子達にプレゼント。 さらに、エルディンは手伝ってくれた大人たちにも(特に女性には)とびきりの笑顔で感謝を告げる。 「もふリル、手伝い御苦労様。このまま大袋を漁らずいい子にしてたらご褒美あげますからね」 「もふー」 待ってたもふリルを労うと、もう一仕事と荷物を託す。 「それではもう一度、サンタさんの為に歌いましょう」 子供たちの済んだ声が冬の空に響いていく。 即興の楽団だが、明るい歌声は聴いてる大人たちも楽しませる。 歌い終わると彼らにもプレゼント配布。大人しく並ばせながらも、エルディンはふと思う。 「かの帝国でも。クリスマスの祝いを歌えるでしょうか」 揉めている祖国。平和な時間は訪れているのか。 そんな憂いを胸に秘め、エルディンは目の前の子に祝福を持って頭を撫でる。 ● 「なんとまぁ。賑やかだったようですね」 鼻の赤いトナカイに曳かれ、サンタ衣装の老人が橇に乗って現れたのは粗方プレゼントを配り終えた頃だった。 「えと、お勤め御苦労様です! はい、プレゼントはきちんと配布しました!」 姿を見るや、リーディアは硬直。落ち着きを無くして敬礼を繰り返す。 「あの、それで。よろしければサイン下さい!!」 思い切って手帳と筆記具を渡すが、サンタは困ったように笑う。 「申し訳ない。そう言った事はあまりしないのです。ああ、そんなに落ち込まないで下さい。サンタのプレゼントは見える物ばかりではありません。誰かの為に贈り物をする夢や勇気を与えるのも、私たちの仕事。貴方のそばの誰かからきっと私たちのプレゼントは届きますよ」 リーディアの落ちた肩を、サンタは優しく叩く。 離れて聞いていた昴は、どきりと隠している物を押さえる。 「そういえば、柚乃も昨年は兄たちから大量のもふらぬいぐるみが贈られて来ました」 考え込む柚乃。もふらたちを見つめ、期待を膨らませる。 「じゃあ、俺にも来るのか! 『おにいちゃん、今年は私がプレゼントだよ‥‥☆』って言ってくれるロリ萌え美幼女なエロゲ的展開が!!」 「それはさすがに違う気がするなー」 吼える紫狼に、ミツコは首を傾げる。 そんな開拓者たちに、サンタは深々と礼をする。 「皆様のおかげで本当に些細な礼しかできないのが心苦しいばかりです。どうか善良なるあなた方に祝福を」 依頼が終わった後。白鵺は昴に呼び出されていた。 「んと、‥‥どうかなされたんです?」 尋ねる白鵺に、昴はそっと銀時雨の簪を取り出す。 「クリスマスは大切な人に贈り物を、というお祝いらしいので‥‥」 目を丸くしている白鵺の長い髪にそっと挿す。 どこからか、サンタの駆る橇の軽やかな鈴の音が響いた気がした。 |